遠藤 周作
                                
 この作家の本を読み始めたのはいつ頃のことだろう。衝撃作と言われた「海と
毒薬」を読んだのは、遥か昔である。芥川賞をとった「白い人」も何時の間にか
読んでいた。
 勤めてから読んだのは「ヘチマくん」などの一見とぼけた題名のものである。
 その後、狐狸庵の話、歴史物と広げて、キリスト関連、怪奇物も読んだ。

 印象に残るものは数多い。「私が棄てた女「私のイエス」「深い川」「反逆」な
ど、どれを読んでも、読書の醍醐味が味わえる。

    
 海と毒薬  青い小さな葡萄  哀  歌  ぐうたら人間学
白い人・黄色い人 彼の生き方  協奏曲  勇気ある言葉
わたしが・棄てた・女   大変だァ  ヘチマくん  ピエロの歌
 眠れぬ夜に読む本  古今百馬鹿  天  使 おバカさん
 ボクは好奇心のかたまり  ユーモア小説集 反逆 上 反逆 下
 わが青春に悔いあり 私のイエス 深い河 イエスの生涯
 ピアノ協奏曲二十一番
            
※ 遠藤周作の書く怪奇物は恐い。晩年作であろうか。結構書いている。
人間の怨念のような世界を描かせたら右に出る者はいないのかもし
れない。文体に説得力があるだけに恐い。・・・・・・・・・・・・・・・・・・
   
決戦の時

上・下

★★★

 さすが遠藤周作。
 「反逆」も素晴らしいと思ったが、織田信長をここまで書いてくれるとは・・・・・。

 織田信長 若き日の苦悩と 知られざる愛

 神を信ぜず、仏も信じぬ彼はおのれ自身のほか、何も信じない。その上・・・彼は人
間の心の醜悪さを戦国の世で嫌というほど見てきた。領地のためならば骨肉の情け
などかなぐり捨てて父を追い、子を殺し、兄弟を裏切る世の中である。

 これらの人間を制圧するには力以外の何ものもない。だから、もし、二つの戦い・・
義元や義竜に勝つことができるならば、力を持ってすべてを制圧せねばならぬ。
 信長は眼をつむっている。すべての執着をたち切れと神は教えている。死を恐れる
すべての執着を捨てることである。
 死を賭けて義元や義竜の大軍に切り込む、死中に活を求める・・・・そのほかに道
は残されていないのだ。 是非もなし。               (解説から)

さらば、

夏の光よ

 切ない話である。
 3人の運命というよりは、野呂のような容姿の悪く生れついた男の悲哀を描いたと
 言ってよいのではないか。
 南条のごく普通の、しかし先のない人生への不安と希望は誰にでもあそうな世界
 である。恋人の京子もそうだ。恋愛をうまく意識できないが、南条の押しに負けて
 次第に2人の世界に夢を馳せる・・・。
 野呂はどうか。
 京子に対して(南条より前に)恋心を抱く。しかし、京子は見向きもしない。
 それどころか、低い背、小さな牛のような目を毛嫌いし、虫唾が走る・・・。
 そんな野呂が京子に結婚を申し出る。
 結婚を前にして南条が突然事故で亡くなるのである。京子に妊娠させたまま。
 野呂はお腹の子どもも一緒に面倒を見るという。まさに救いの神のような申し出に
 京子の両親は感謝の気持ちでいっぱいになる。

 でも、京子は駄目なのである。善意に溢れる野呂のことを好きにはなれない。
 野呂の温かさがわかっても、絶対に受け入れれないのである。しかし、両親の
 切望と父の恫喝に屈して結婚・・・・絶望の生活を送る・・・そして・・・。

 野呂のような人間に救いはなのだろうか。
 その答えがどこにも書いていない。
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内容(「BOOK」データベースより)  
 背が低くて鈍いと女を愛する資格もないのか。
 心は優しいが女性にモテない野呂は悩む。明るく行動的な親友の南条は、野呂が
 密かに恋する同級生の戸田京子の心を掴んだ。
 微妙に翳る友情。そして8年が過ぎる。
 歳月は彼らの人生をどう変えたか。愛と哀しみの十字架を背負った3人の運命を描
 いた青春ロマン。

 
 

       

 帚木 蓬生(ははきぎ・ほうせい)
                                  
  
1947年、福岡県生れ。東京大学仏文科卒業後、TBSに勤務。
      退職後、九州大学医学部に学び、現在は精神科医。
1979年に「白い夏の墓標」を発表し直木賞候補となった。
      「三たびの海峡」で吉川英治文学新人賞、
      「閉鎖病棟」で山本周五郎賞、
      「逃亡」で柴田錬三郎賞など多くの文学賞を受賞
   他に「臓器農場」「安楽病棟」「国銅」「千日紅の恋人」
      「聖灰の暗号」など著作多数。
      
閉鎖病棟

★★★

 この作家が素晴らしいという話をよく聞く。
 なかなか取り付きにくかったけれで、ともかくも読み始めた。
 文が隙間なく並べてあって難しそうな印象を与えるが、その割でない。
 それよりどんどん読み進めさせられるこの魅力は何だろうと考えてしまう。
 巧みによく練られた文と構成である。
 登場人物は精神病棟の患者で次々と登場するので名前を覚えるのが
 ちょっとやっかい。しかし、患者たちの個性がそれぞれ描き出されていて
 興味深く没頭させられる。
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内容(「BOOK」データベースより)  
 とある精神科病棟。重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけら
れながらも、明るく生きようとする患者たち。その日常を破ったのは、ある殺
人事件だった…。
 彼を犯行へと駆り立てたものは何か?その理由を知る者たちは―。
 現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。淡々としつ
つ優しさに溢れる語り口、感涙を誘う結末が絶賛を浴びた。
 山本周五郎賞受賞作。  
風花病棟

★★★

 この本は素晴らしい。
 10の短編が載せられているが、いずれも読み手の琴線に触れるもので
 ある。
 戦争に関わる二つの話。チチジマ・・・軍医として決戦地・父島で、アメリカ
 兵が落下傘で着水するのを見た主人公は、医学学会で偶然にそのアメリ
 カ人・マイケルと出会う。以後「戦友」として親しくなり、戦争について考え
 る。震える月・・・父親がベトナム独立運動に関わった少年を助けたという
 ことで、少年の息子というベトナム医師から手紙をもらった主人公・・。
 主役をいろいろに医師にして、医師を通して人間の根源にあるものについ
 て考えさせていく・・・。一冊の本に深く大きなテーマがぎっしりと詰まって
 いる。「感動した本」に追加した。
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内容(「BOOK」データベースより)  
 乳ガンにかかり“病と生きる不安”を知った、泣き虫女医の覚悟
 顔を失った妻を愛する男の、限りない献身
 三十年間守り続けた診療所を引退せんとする、町医者の寂寞
 現役医師にしか書き得ない悩める人間を照らす、たおやかな希望の光。
 あなたの魂を揺さぶる、人生の物語。
 帚木蓬生、十年間の集大成。感動と衝撃の傑作小説集。 
国銅

★★★

 上巻の前半は長門周防で璞石(はく)を掘り出し、棹銅を造る仕事に駆り
 出されている人々の様子が中心。
 やがて、主人公の国人は兄・広国や相方の黒虫の死にもめげず大仏建
 立のため都に向かわせられる。往路での初めての海、舟子達との出会い、
 やがて辿り着いた奈良の都で、国人は新しい目標を見い出す・・・。
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内容(「BOOK」データベースより)  
 内容(「BOOK」データベースより)
 長門産の極上の銅を命がけで掘りだし、精錬し、舟で運び、鋳込む。若き
国人も初恋の人、絹女に見送られ、十四人の仲間とともに都へ向かった。
一たび故郷を後にすれば、再会かなわぬことも覚悟して…。
 着想から十年。「名もなき使い捨ての人足がいたはずだ。どうしても描いて
おかねば…」。
 著者のたぎる想いが胸をうつ、堂々の天平ロマン、ついに結実。
 

  


辻井 喬

 
 不思議な本を書く作家の一人である。
 解説で山田詠美が「小説を書かなくてはならない人と小説を書かなくてすむ人
の二種類がある。言っている。
 この作家、本名は堤清二 氏・・・である。 わざわざ本を書きたい・・・・そんな
一人であろうか。
    
けもの道は暗い  愛する夫と子どもに別れを告げて、再び化身する女狐の至福と苦脳を
描いた「狐の嫁入り」。極楽を追えば追うほど遠のいてしまう。貪欲な男
の矛盾をユーモラスに描いた「こ高麗雉になった男」。
 古典の名作や現実の事件に触発された、怪しげで可愛いげな9つの
物語のコアは「変身願望」である。
 変身願望とは、人間の悲しさ切なさの到達点であると同時に、煩悩を
超越したピュアな魂がほの明るく照らされる場である。
 「ヒト」という「魔物」が行きつく原風景を、静謐にくっきりと映し出した、
豊潤な小説集。                     (解説から)
 ・・・・・  ・
  
 
  ・
・・・・・・・
・・  
高橋 義夫
 
   
広沢参議暗殺犯人

捜査始末
 
 
 

 闇の葬列

 

 まむしと異名をとった元神奈川奉行所の同心・朝倉新次郎は広沢暗
殺事件の密偵を命じられ、久久に心の昂ぶりを覚える。犯人を追って久
留米に乗り込んだ新次郎は、あと一歩で取り逃がしてしまうが、そこに
維新混乱期の地獄を見てしまう。
 悲しき密偵はその後六年にわたって犯人を追いつづけ、西南戦争の
さなかに、ついに中村六蔵を捕縛するが、その背後の巨大な意志を知
る。意外な真相とは・・・・・・。
 明治維新史を袂ることに情熱を燃やす新鋭の歴史推理デビュー作。
                         (帯の解説より)
 広沢真臣は長州出身。幕末に登場し討伐に活躍。
 維新政府では、次第に出世して参議となった。
 木戸孝允と並んで長州の2大巨頭であったが、暗殺された。
 この暗殺をきっかけとして、九州への出兵(西南戦争)も決まり、外
務省の役人や、諸藩の不平派を一掃することができた。
森の奥の怪しい家
 全く違うテーマで書かれた2冊の本、その作者が同じだった。(上記と)
 嫁をもらえと口うるさい母親との生活に、ストレスがたまり気味の慎
太郎。代々、オーナーが夜逃げする、森の奥のペンションの新しい経
営者と知り合っところから、なにやら周辺が騒がしく、色っぽい話もチ
ラホラと・・・・・。
 ひなびた山村で繰り広げられる、ユーモアとペーソスに溢れる豊か
な人間模様、珍騒動の数々。    (解説より)

 ペンションの新しいオーナーは52才の元コンピューター会社の広報
課長。妻は元フリー・アナウンサー。
 この純粋な二人と主人公との触れ合いの中に、自然愛好家の考え
る「自然」と、田舎の人が考える「自然」の違いが出てきて面白い。

 オーナーは病気で入院。妻も去ることになるが、居候で子連れの緑
と慎太郎は、このペンションをやって行こうと決める・・・・・という終末。

御隠居忍法

しのぶ恋

 この作家の三冊目。
 この書き方は「闇の葬列」と似ている。
 ただ、内容が娯楽大衆もの?なのでやや読みやすい。
 はじめはちょっととっつきにくいが、次第にその面白さに惹かれてい
 いく。
 隠居した狸斎だが、まだまだ元気。
 親友だった耕民の息子のもとに娘が嫁いでいる。その義理の息子が
 父の仇討争議に巻き込まれる。
 狸斎は謎の解明と、義子・市右衛門の事件からの回避のために立ち
 回る。
 シリーズ10作目ということなので他の本も是非読んでみたい。
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内容説明・内容(「BOOK」データベースより)から
 火事跡から発見された絞殺体。この事件は狸斎の親友・新野耕民が
暗殺された件と絡み合っているようだ。狸斎の身にも危険が迫る! 
 跋扈する暗殺集団「黒手組」。狸斎、最後の対決へ。火事場から発
見された死体は、藩政改革に絡む陰謀の端緒だった。
 狸斎は、盟友の無念を晴らすべく立ち上がる。シリーズ第十弾。 
  
 


 梁石日(ヤン・ソギル)
                                
  1936年 大阪生まれ。済州島で育つ。在日韓国・朝鮮人。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
   靴屋や洋服屋勤めの後、印刷会社を経営。・・・・・・・・・・・・
   在日朝鮮人の解放運動に参加し、金時鐘らと同人誌を刊行する。
   その後印刷の事業に失敗し、各地を転々と放浪、寮のあるタクシードライバーの職に。
   新宿のスナックで、タクシー客とのやりとりを面白おかしく語っているのを出版編集者が
   聞き、執筆を勧めた。「タクシー狂操曲」を原作として映画化された「月はどっちに出てい
   る」は各映 画賞を総なめにした。   
  主な著書に「タクシードライバー」
  「夜の河を渡れ」「子宮の中の子守歌」 「断層海流」「雷鳴」「Z」など多数。
  「夜を賭けて」は直木賞候補作。      (ウィキペディアを参考にしました。)
血と骨  山本周五郎賞受賞作。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 1930年代の大阪が舞台。作者の実父をモデルにしている。
その体躯と凶暴性で極道からも畏れられた男・金俊平の、蒲鉾製造業や高利貸
しによる事業の成功やその裏での実の家族に対する暴力、そしてその後の愛人との
結婚による転落、遂には「故郷」である北朝鮮での孤独な死までを描いた小説。
 映画・・・2004年に公開された。ビートたけし主演で話題を呼ぶ。昭和の初期から
1980年代にかけて、自己中心的に生き、人とかけ離れたその強靭な肉体と性欲を持
つ在日朝鮮人男性・金俊平とその男に翻弄されていく周囲の人々の生活を描いた作
品。異常とも言える程の暴力描写が特徴。   (ウィキペディアを参考にしました。)

 大作である。読むのにかなり時間がかかった。
 金俊平が主人公となっているが、途中に登場する李英姫(金俊平の妻となる)の姿も
主となる。金俊平のために生活は破綻し、暴力に怯え逃げ惑う日々・・。
 金俊平の親友である高信義の生き方にも大きく焦点が当てられる。蒲鉾製造業を
首になり、抗議に出かけたため警察に捕まって取調べを受ける場面も迫力がある。
 家族や周囲の人間を全くかえりみない金俊平がやがて変容していくという姿を期待
したが最後は下半身が不随になって北朝鮮に渡るという展開に・・・。
 タクシードライバーとなった長男の成漢が東京で自立していく姿が救いである。

  

  

      

  

君島 良一

コメントをやめようと思ったが、貴重な時間を潰して読んだので・・・・。
         

ずっと君がすきだった
 
 

  ワニブックス 

 能代郊外の古本屋で暇つぶしに立ち読みしていて、続きが読みたくなって
つい買ってしまった。筋の展開が読み手を引き付けるので久しぶりに爽やかな
読後感を味わえると思ったのだか・・・・・・。

 これはもしかするとテレビに入っていた冬彦さんのお話か?と思い始め・・・・
まさにその通りだった。

 それにしてもこの作家、いったい何を書きたかったのだろう。
主人公の美和と洋介は昔の失敗が心の傷として残っているのだから、東京で
出会っても、絶対一緒にならないのかと思ったらそうでもない。それでは目出度く
ハッピーエンドかと思ったら、これが全然進展しない。夫である冬彦との間に子
どもができたことがわかり、いよいよ新展開と思ったら、このあたりから、物語が
ダラダラと続く。ここまでだらだら書く理由がわからない。

 冬彦は過保護の母から独立。銀行をやめる。これは良い展開・・・・。
 もともと主人公は冬彦の良さを認めて結婚まで進んだわけだから、ここから
終末に向かえば良かったのだ。
 冬彦が言う「ずっと昔から好きだった。」実は、全編を通じて変な男として描か
れている冬彦こそ、この本の題名に合う主役だったのである。

 このセリフを活かせる本を書けなかったこの作家に失望するばかり。

 
 
 

       

 花村萬月
                                  
  
1955年 東京生まれ
1989年 「ゴット・プレイス物語」で第2回小説すばる新人賞を
1998年 「皆月」で第19回吉川英治文学新人賞、同年「王国
       記」シリーズの序にあたる「ゲルマニウムの夜」で
      第119回芥川賞を受賞。 
    
         
 信長私記 
  
 芥川賞をとった作家なのでいつか読むことがあるだろうと思っていた。
 今回、信長という興味深い本を書いていたので読んでみた。
 これまで読んだ信長物よりより深くその心情に迫っている。
 内容紹介以下に記されているのが的確な解説になっている。
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内容説明から
 ここに私の真実がある――織田信長氏絶賛!あの『信長公記』も真っ青!?
 膨大な資料を丹念に読み解き、史上最凶の日本人、織田信長の実像に迫る。
 全ての点が線になる花村文学だから成しえた奇跡の一品。 
内容(「BOOK」データベースより)
 なぜ織田信長は母を―史上最凶の日本人、その実像。なぜ瓢箪をぶらさげ
 たのか。なぜ合戦に強かったのか。なぜ道三の娘を愛したのか。なぜ父親の
 葬儀に遅れたのか。なぜ鉄砲を集められたのか。なぜ秀吉を重用したのか。
 なぜ弟を殺したのか。なぜ地獄をも怖れなかったのか。全ての点が線になる、
 花村文学だから成しえた衝撃作。 
 
 
 

       

 三木 卓 卓・
                                  
  
1935年 静岡生まれ 幼少期を満州で過ごす。
     早稲田大学文学部ロシア文学科卒。
1967年 詩集「東京午前三時」でH氏賞。
1973年 「鶸」で芥川賞。
1989年 「小噺集」で芸術選奨文部大臣賞。
      詩、小説、児童文学など幅広い分野で活躍している。
    
         
    
  
 図書館の新刊紹介を読んで借りた。
 円満とはいえなかった夫婦生活を、優しさとユーモアに溢れた眼差しで振
 り返るとき・・・という言葉に惹かれたのだが・・・・切なさとやり切れなさがあ
 った。
 こういうパターンの女性もいるのかと、深く考えさせられた。
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内容説明から
 1959年、〈ぼく〉は詩の同人誌で〈K〉と出会った。ふたりは結婚し、一児を
なしたが、詩人としてのプライドが強すぎた〈K〉の言動は常軌を逸しはじめ、
〈ぼく〉は困惑する。ふたりの生活は、すれ違い、やがて別居へと至る……。
ただ、この奇妙な生活にも、「夫婦愛」は紛れもなく存在していた! 
 
 

  

 常盤 新平
                                  
  
1931年岩手県生まれ 早稲田大学卒。
      早川書房を経て、翻訳・文筆活動に
1986年 自伝的小説「遠いアメリカ」で直木賞受賞。
    
         
時代小説の江戸

東京を歩く 

  
「海鳴り(藤沢周平)と日本橋」の項を読んだ。
本の貸し出し期限が迫り、途中で断念。
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内容紹介・説明から
名コラムニスト常盤新平が藤沢周平、池波正太郎などの時代小説を
紹介しながら、ポイントとなる橋、店、所縁の地に立ち寄っていくエッ
セイ集。時代小説を追体験しながら江戸・東京を散策するガイドブック
にもなる。 

ぶらり、ぶらり。鬼平が、半七が、青江又八郎が駆けた、笑った、食
べた、泣いた、大江戸八百八町―東京を遊ぶ。小説とともに歩く下町
散策ガイド。

 
 
 

  
 

 佐江 衆一
                                  
  
1934年 東京生まれ。
      コピーライターを経て
1960年 短編「背」で新潮社同人雑誌賞を受賞し作家デビュー、
      佐藤春夫に評価される。
1990年 「北の海明け」で新田次郎文学賞受賞。
1995年 ドゥ・マゴ文学賞を受賞したベストセラー「黄落」はその
     後TVドラマ化、舞台上演される。
1996年 「江戸職人奇譚」で中山義秀文学賞受賞。
     他の著書に、「士魂商才ー五代友厚」「昭和質店の客」
             「兄よ、蒼き海に眠れ」など。
    古武道師範・剣道5段
    
         
あの頃の空
  
少年の頃の思い出、母に反抗したこと、勤めた頃、そして定年を迎えようとして
いる今・・・。
懐かしさと郷愁が漂う作品である。
「勝敗に非ず」 今井雄吉は76歳で剣道6段に挑戦して9回不合格。
「竹刀を交える相手は、勝負を決する敵ではなく、おのれである。いや仏でかも
 しれない・・」そんな境地になる。
「花の下にて」は浅田次郎「見知らぬ妻へ」に収録されている「うたかた」
に似ている。
息子が住む外国に行くと周囲に伝え、すべてを絶ち、家にカギをかけ・・・。
律子は一人老いてゆく身をベットに横たえ、食をとらない。
過ぎし日の懐かしい日々を思い出す・・・。「ありがとう。さようなら。」
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内容紹介から
定年を迎えたあの頃、忙しかった30代のあの頃、楽しかった少年時代のあの頃、
そして、いつか訪れる終(つい)の瞬間……。昭和のノスタルジー溢れる追憶の日
々。読めば励みになる人生の短篇集(全8篇)

・『駅男』 定年後も会社に足が向いてしまうのではと不安に駆られる瀬木(59歳)。
 毎朝駅のベンチで新聞を読みふけり電車に乗らないスーツ男を見かけるが。

・『リボン仲間』 会社が倒産して就活に苦労する川端(53歳)は、救いを求めて飛び
 込んだストリップ劇場である光景を目撃、家族に言えない秘密をもつ。

・『カントリータイム』 実社会でキャリアのある60男がカナダ語学留学に挑む。英語
 で思い通りに表現できないもどかしさから、若い女子学生を叱ってしまう。

・『花の下にて』 夫に先立たれた律子(79歳)は、周囲にばれないように一世一代
 の大嘘をつく。老いた自分の姿を監視する福祉社会に律子は動揺する。

・(他4篇) 

 

     

 尾 河童(せのお かっぱ)
                                  
  
1930年 神戸生まれ グラフィックデザイナーを経て
1954年 独学で舞台美術家としてデビュー。
      以来、演劇、オペラ、ミュージカルなどで幅広く活躍。
   「紀伊國屋演劇賞」「サントリー音楽賞」「芸術祭優秀賞」
   「兵庫県文化賞」ほか多数を受賞。

  また、エッセイストとしても知られ、ユニークな細密イラスト入りの
  「河童が覗いた〜」シリーズの「ヨーロッパ」「インド」などの話題
  ベストセラーも多い。
  「少年H」は著者初の小説。

    
         
 少年H 上巻
  
 戦前から戦中へと移り変わる世の中を、少年の視点から書き綴った秀作。
 話題のベストセラーだったが、これまでなかなか読む機会がなかった。
 上下2巻だが、思い切ってチャレンジ。
 なかなか面白い。
 少年時代なのに、記憶が良く、克明によく描いていると感心してしまう。
 絵がうまく、それを活かして小遣い稼ぎをしたり、隠れて映画を見に行った
 り・・。あまり勉強はしないように見えるが神戸二中に入ったりするのは凄
 い。
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内容紹介・説明から
 胸に「H.SENO」の文字を編み込んだセーター。外国人の多い神戸の街でも、
 昭和十二年頃にそんなセーターを着ている人はいなかった…。洋服屋の父
 親とクリスチャンの母親に育てられた、好奇心と正義感が人一倍旺盛な
 「少年H」こと妹尾肇が巻き起こす、愛と笑いと勇気の物語。
 毎日出版文化賞特別賞受賞作。
 少年H 下巻
 戦中から終戦まで、その後の少年Hの就職?を描いている。
 新聞報道のいい加減さ、政府の誤魔化し・・・。
 少年Hの不安と怒りとは裏腹に、戦争一色になっていく日本。
 神戸二中は勉強どころでなくなり、軍事訓練や勤労奉仕の場となる。
 洋服仕立て屋をやめ、消防に勤める父、広島に疎開した母・敏子と妹の
 好子。
 やがて終戦。
 これまでの指導を謝りもしない先生たち、これまでの戦争への高騰を忘
 れたかのように民主主義へと傾く世相にHは困惑する。
 無力になりがちな父、キリスト教の傾倒する母と折り合わず、Hは学校に
 隠れ住む。
 狂気になりそうな自分をようやく立て直し、Hは絵の道を進む・・・。

 この本、歴史上の間違いをいろいろ指摘されている。
 そもそも中学生の回顧録にしては、内容が細かすぎる。戦時中には知ら
 れていなかったことを作者が後で付け足したりしたのではないか・・・と。
 それらの批判にある程度目を瞑って読めば、非常に面白い。
 太平洋戦争を経験した方々には必読の一冊ではないかと思う。
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内容紹介・説明から
 この戦争はなんなんや?―忘れられかけている太平洋戦争とその時代を、
 純粋な「少年H」の眼を通して現代に記した、著者初の自伝的長編小説。
 戦争のまっただ中を逞しく生きる悪童とその家族が感動を巻き起こす大
 ベストセラー作品。
 戦争を知らない少年少女はもちろん大人たちもぜひ読み継いでほしい名
 作。

 
 
 


 池永 陽
                                  
  
1950年 愛知県豊橋市生まれ。
      グラフィックデザイナー、コピーライターなどを経て、
1998年 「走るジイサン」で、小説すばる新人賞受賞。
2006年 「雲を斬る」で、中山義秀文学賞を受賞。

 現代小説を多数書いているが、時代小説もある。
  雲を斬る
  緋色の空
  剣客瓦版つれづれ日誌
  風を断つ
  用心棒日暮し剣―波燃える

  占い屋重四郎シリーズ
   占い屋重四郎江戸手控え
   奇妙な絵柄

    
         
 ちっぽけな恋

★★★

  
 ありふれたお話のようでいて、中身は濃い。
 この作家の持つ独特の雰囲気が出ていて、自然に心に入ってくる。

 ・特等席・・リストラで妻と別れ、おでん屋の木綿子と無理心中をしようと
    するが行介に止められ、憑き物が落ちる・・。そして、別れた妻と息
    子に会いに行く決意をする
 ・左手の夢 金庫破りで出所を繰り返す茂造、茂造を悪巧みに引きずり
    込もうとする悪仲間。茂造は行介から、「からくりの箱」をわたされ、
    開けれたら金庫破りに向かう・・と決めたが・・。
    妻の言葉が身に沁みる短編。
 ・大人の言い分
 ・ちっぽけな恋・・中2の女の子が好きになった男の子を父親に紹介しよう
    とする。男の子の母もやってきた。双方の親同士が・・・。
 ・崩れた豆腐・・長年愛想のない夫と豆腐屋をやってきた妻が、豆腐を買いに
    来る独身男の誘いに揺れる・・・。
 ・はみだし純情・・ボクシングでケンカ沙汰になり、学校に行かなくなった高校
    生がヤクザに悪戯されそうになった娘を助ける。
 ・指定席・・ おでん屋の木綿子の夫が現れる。
    木綿子は夫と別れるためにとんでもないことをしていた・・・。
    夫の刃が、店にいた行介の幼馴染・冬子ら向かう・・・。

 続編があると思わせる終末だった。
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内容紹介から
 東京は下町の商店街にある『珈琲屋』。主人の行介はかつて、ある理由から
 人を殺していた……。
 当時、行介の恋人だった冬子は別の男性と結婚したが、行介が出所すると冬
 子は離婚していた。冬子に何があったのか…。
 心に傷を負った人間たちが、『珈琲屋』で語る様々なドラマを七編収録。
 商店街に暮らす人々が『珈琲屋』で語った人間ドラマを七編収録。
 情感溢れる連作短編集。
 読み終えると、あなたはきっと熱いコーヒーが飲みたくなる。 

雲を斬る

★★★

 この作家。
 時代小説にも秀作が多い。
 この本は中山義秀文学賞を受賞した珠玉の作。
 
 父を果し合いで失った由比三四郎は仇を探して江戸の長屋住まい。
 貧乏な子に読み書きを教えている。
 しかし、借金に苦しむ長屋の人があれば、剣を取って「道場破り」にでかけ
 得た金で借金を支払ってやる・・・そんな優しさを持っている。
 あかぎれの手を恥じるおさとも借金のために女郎にされるところを救われた
 一人である。
 おさとは自分を女にした遊び人・宇之助の博打による借金の肩代わりをす
 るという変わった女。「女は初めての男を忘れられない」「忘れるためには
 先生(三四郎)に抱かれないといけない」そう言う。
 おさとをすくってやったために、三四郎の首に(女衒の喜蔵が)賞金を懸ける。
 次々とやってくる賞金目当ての者を、得意の「氷柱折り」の秘技で退ける。
 盟友の僧・快延もそんな三四郎に何かとアドバイスをする。

 仇は意外な人物であった。
 覚悟を決めた相手と立ち合う。斬るか・・腕は自分の方が上・・・しかし・・
 それは「相抜け」。どちら相手を斬りたくないのである。

 仇討と帰参をやめ、おさとを嫁にして、江戸で静かに過ごす・・その決心を
 つける・・・。

 亡くなった妹のために鳥を研究し、空を飛ぼうとする竹細工師の巳乃吉の
 存在も面白い。終章で三四郎は巳之吉と武州小仏峠に立つ・・・。

 江戸の人情、人間の弱さ、生きざまを温かく包み込むような一冊である。 

コンビニ・
ララバイ

★★★

 心温まる話が詰まっている。
 妻子に先立たれ、目標を失ったコンビニの店主・幹郎はしっかり者の治子に
 助けられ仕事を続けている。
 幹郎に心をよせる治子の前に現れたヤクザの八坂。八坂は治子のために
 ヤクザを抜ける。過大な賠償を払って。しかし、背中の入れ墨をみた治子は
 どうしても踏み切れない。八坂はヤクザに戻り鉄砲玉になる・・・。
 そんな二人は暗いところがあるが、人には優しい。
 うだつの上がらないシナリオライターと、それなりに幸せな日々を送っていた
 照代。そんな彼女の前からシナリオライターは去っていく。
 ただ、最後の老いらくの恋を扱い、心筋梗塞で亡くなった女を追いかけるよう
 に死ぬ男の話、これはちっょと共感できないところがあったが・・。
 「感動する本」に加えた。
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内容紹介から
 小さな町の小さなコンビニ、ミユキマート。オーナーの幹郎は妻子を事故で
 亡くし、幸せにできなかったことを悔やんでいた。
 店には、同じように悩みや悲しみを抱えた人が集まってくる。
 堅気の女性に惚れてしまったヤクザ、声を失った女優の卵、恋人に命じら
 れ売春をする女子高生…。
 彼らは、そこで泣き、迷い、やがて、それぞれの答えを見つけていく―。
 温かさが心にしみる連作短編集。 

 


 野瀬 のり子
                                  
  
1942年 中国・天津生まれ
      戦後、青森県八戸市に引き上げる
      聖ウルスラ学院高等学校卒業
      東京都在住
    
         
 荒野の

アベ・マリア
 

★★★ 

あとがきに作者が書いている。
 私のようなつまらない者の人生にも、「神」は一人ずつ固有の能力(タレント)
 を与えて下さっていると気付いたからです。
 「神の栄光」ただこのために私は書いたのです。
子どもの頃にやけどを負い、見栄えのしない容姿に引け目を感じて生きてき
た主人公である。
キリスト教にも熱心ではなかったが、神を意識するようになって、次第に自分
を大切にするようになる。その過程が切々と語られているようで、一気に読み
進めさせられてしまった。キリスト教を考えるには良書。
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内容紹介から
 幼少期からいじめを受けてきた泰枝(はるえ)は、ミッション系の高校に進む
 が「神などいない」と思っていた。
 卒業後、姉を頼って上京し、紆余曲折を経て教会に通うようになった彼女は、
 祈りの言葉に救われ、キリスト教に深く傾倒するようになる。
 荒涼たる世に産み落とされた一人の少女が、大人へと成長する過程で遭遇
 した「永遠」を描く、自伝的小説。

 

 
 
 
 望月 諒子
                                  
  
1959年 愛媛県生まれ。銀行勤務を経て、学習塾を経営。
2001年 「神の手」を電子出版で刊行し話題を呼んだ。
2010年 ゴッホの「医師ガシェの肖像」を題材にした美術
      ミステリー「大絵画展」で第14回日本ミステリー
      文学大賞新人賞を受賞
 他に「殺人者」「呪い人形」
    
         
 神の手
 

 

 かなり厚い本であったが、最後まで読ませられてしまった。
 うーーん!! 小説に求めるものが私とは違うのだろう。

 小説を書くことの魔に憑かれた一人の女性をめぐるミステリアスな物語・・。
 読み終えた後は、この小説とめぐり合えた偶然に、きっと心から感謝するは
 ずだ・・・解説にこう述べられているが・・・無駄な時間を過ごしたという気持
 ちが強い。
 謎の作家・来生恭子、彼女と関係があった編集者・三村。そして、精神科医
 の広瀬。この二人がなぜ恭子に惹かれたのか、この辺りは不可解。
 ともかくも恭子に振り回され広瀬の立ち回りも不可解。(一応説明はなされ
 るのだが、普通の感覚では理解できない。)
 そしてどこからか登場したフリーライターの木部美智子。彼女は幼児誘拐
 から、いつの間にか、恭子との関連を意識し調査し始める。この木立美智
 子が、この本の「探偵役?」らしい。
 美智子の友人・高岡真紀(広瀬の患者)が、三村の前に現れ、恭子とそっ
 くりの立ち居振る舞いをするところから始まるのだが・・・。
 
 だからどうなのだ・・・最後まで読んでそう言いたくなった。
 人間は生きている。社会の荒波の中を。そして、人間が間違いを侵したり、
 精神的におかしくなる・・それはあるだろう。

 そこで終わったら、世の中は犯罪者と精神に問題を持った人間ばかりにな
 ってしまう。
 小説を書く目的は、「だからこのように生きればいいのだ」という、人生の
 指針を与えなければならないと思っている。(私見である。)
 それがないとすれば、時間の無駄だと思う・・・。
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内容紹介から
 森村誠一氏絶賛!! 大型新人デビュー作!
 「破壊的な才能の登場に瞠目するばかりである」(森村誠一氏)。
 電子出版で圧倒的支持を受けた大型新人のデビュー作を文庫化。
 失踪した作家志望の女性をめぐる不可解な事件の数々とは(解説・大森望)

 文芸誌編集長・三村は、高岡真紀と名乗る女性から投稿原稿を受け取る。
 その原稿は、突然姿を消したある作家志望の女性が、かつて彼に見せた作
 品と全く同じであった。「盗作か?」謎を探るため、高岡真紀に面会した三村
 の前に、驚くべき事実が…。

大絵画展
 うーーん なんとコメントしてよいか。
 後半の大胆な展開。奇想天外のスケールで計画された絵画の盗みだしは爽快
 であった。
 株の失敗で借金を背負った男と、銀座での借金返済に苦しむ女、そして、銀行
 に恨みを抱く城田。
 この3人が仕組んだ、倉庫に眠る不良債権で差し押さえた名画の数々を盗む。
 倉庫のセキュリティーを突破。爆薬での扉の破壊。時間との戦い、手に汗を握る
 場面である。

 しかし、男と女は警察に捕まり、犯人にされておしまい、城田はほくそ笑む・・と
 思ったら、奪ったガシェの絵を売買する場に二人は立ち会うことになる。
 そこで またもや意外な展開・・・。画商の日野、若手の踏み台にされた画家、こ
 れまで数々の人々を踏み台にして、生き延びてきた池谷・・・総登場しての事件
 のカラクリの解明がなされる。
 ミステリーとサスペンスの醍醐味があった。

 でも・・・
 作者のねらいもテーマも分かったらよいというものではない。
 この作家に不足しているのは「文章力」である。
 同じような作品を書いている赤井 三尋「月と詐欺師」は無類の面白さで、息もつ
 かせず読み進めさせられる。
 これに対して、この作品はだらだらと説明が入り、会話なのに説明の文のように
 なっていたりする。
 途中で投げ出したくなるのを堪えて、何とか読み終えた・・・。

 絵画の世界についてのシビアな記載が実に多く、参考になった
 画家は生きている間はほとんど評価されていない。ゴッホも同様である。ほんの
 わずかの報酬の
 ためにたくさんの絵を描き、死亡直後は作品を引き取るものもなかったとか・・・。
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内容紹介から
 日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。 ゴッホ作「医師ガシェの肖像」はロンド
 ンのオークションで日本人が競り買った。バブルが弾け、倉庫に眠るその絵を盗
 み出した男と女は、コンテナの中に135点もの世界の名画があることを知る。史上
 最大の強奪、二千億円を超える大事件。
 絵画を愛するものたちが騙し騙され、仕掛けた大絵画展! 
 痛快でスリリングなコンゲーム小説。


 

 
 
 
 山本 甲士
                                  
  
1963年生まれ。
1996年 「へーペイン、ノーゲイン」で第16回横溝正史賞優秀作を受賞し
         デビュー。
   「どろ」「かび」「とげ」の三部作で「まきこまれ型小説の境地を開く。
   ほかに連作短編集「あかん」「ばちもん」「わらの人」ほか。
    
         
 あたり
 
 

★★★











 

 この作家に出会えたのは嬉しい。
 釣りには関心がなかったのだが、この本を読み進めて、釣りも良いなという
 気持ちにさせられてしまった。
 仕事を失って途方にくれた若者が釣り人と出会い、勇気を与えられる・・そん
 な話が多い。短編だが、ある地域に流れる川、ため池を舞台に展開するので
 連作のような感じである。
 小話ごとに、違った川魚が紹介され、登場人物もそれぞれの魚釣りをする。
 (最終章で4千万円を奪ったが、事件にならず持ち主に返した男の前に、それ
  までの関係者が現れる。)
 両親が離婚し、母親と暮らす小学生の男の子。同じアパートに住む男が釣り
 に誘い、水商売で荒れる母親と別れることを勧めるが・・・男の子は世話にな
 った母親の面倒は自分が見る・・・その健気な心意気を見せる。泣かせられ
 る場面だった。
 釣りに魅せられ生きる力を呼び覚まさせられる主人公たち・・それが読み手
 にも伝わり、懐かしさと勇気を与えてくれる・・秀作である。
----------------------------------------------------------
内容紹介から
 舞台はある地方都市。
 この地方には「奇跡を信じたければ、釣りをするがいい」という言い伝えが残
 っていたが、それを知る人もいまは少なくなっていた…。
 思いがけず釣りをすることになった主人公たちが熱中するうちに、小さな奇跡
 が起き始める。
 言い伝えは本当だったのか!?次の休日には思わず釣りに行きたくなる物語。

 
 


 


 村上 龍
                                  
  
1952年 長崎県佐世保市出身。武蔵野美術大学。
1976年 大学在学中、麻薬とセックスに溺れる自堕落な若者たちを描いた
      『限りなく透明に近いブルー』で群像新人文学賞、芥川賞を受賞。
     映画製作、経済、社会問題への活動も多彩である。
    
         
 55歳からの

ハローライフ
 
 

★★★

 

 この作家は読み応えのある本を書く。
 定年や定年間近に達した男の姿、以後の生活の展望、また、伴侶である
 妻の考えていること・・・。それらが身につまされるように描かれている。
 大した慰謝料も貰えず、生活の不安を抱えて生きる女。夫への愛はとっくに
 なくなり、ペットにしか生きがいを見いだせず、ペットの病気と死に遭遇して
 引きこもりになっていく女・・・しかし、意外な夫の態度に・・・。
 理想の女に出逢ったが、その女には語れない秘密を抱えていた。女から
 別れを言われ、絶望的な気持ちになるが、訪れた丘陵地で車いすを押し上げ
 る人々を見て、自分の行く道に光を見出す・・・。
 さまざまな人間が登場するが、みんな生活はかつかつで豊かではない。
 明日の生活が重くのしかかっているが、それなりに行く手に光明を見出して
 いく・・・。読後感が悪くない。
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内容紹介から
 希望は、国ではなく、あなた自身の中で、芽吹きを待っている。

 多くの人々が、将来への不安を抱えている。だが、不安から目をそむけず新
 たな道を探る人々がいる。婚活、再就職、家族の信頼の回復、友情と出会い、
 ペットへの愛、老いらくの恋…。さまざまな彩りに充ちた「再出発」の物語。

出版社からのコメント
 「結婚相談所」
  人生でもっとも恐ろしいのは、後悔とともに生きることだ。 
 「空を飛ぶ夢をもう一度」
  生きてさえいれば、またいつか、空を飛ぶ夢を見られるかも知れない。
 「キャンピングカー」
  お前には、会社時代の力関係が染みついてるんだよ。
 「ペットロス」
  夫婦だからだ。何十年いっしょに暮らしてると思ってるんだ。
 「トラベルヘルパー」
  人を、運ぶ。人を、助けながら、運ぶ。何度も、何度も、そう繰り返した。
 
 ごく普通の人々に起こるごく普通な出来ことを、リアルな筆致で描き出した
 村上龍の新境地 


 
 


 


 朱川 湊人
                                  
  
1963年 大阪生まれ。慶應義塾大学文学部卒。
      出版社勤務を経て
2002年 「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞を受賞しデビュー。
2003年 「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説短編賞。
2005年 「花まんま」で直木賞。
 著書に「かたみ歌」「わくらば日記」「あした咲く蕾」など。
    
         
 なごり歌

★★★

 

昭和40年代の団地に住む人々を描いている。
ちょっとホラーものもあるが、ゆったりした時代に身を置ける一冊・・。
読後感が良い。

抽選であたり、家族と団地にやってきた少年は、団地の主?から、他の少年
との交流の橋渡しをしてもらう・・・(遠くの友だち)
妻を亡くし自身も亡くなっている?男から「妻を返してくれ」と言われた話(秋に
来た男)
定年を前に退職し、ゆっくりと飛ぶ飛行機を楽しむ(ゆうらり飛行機)
美貌でいろいろな才能も有るマリアの死。(バタークリームと三億円)

 仕立て屋の川辺さん(小暮)がいろいろな場面で登場する。
 小暮はマリアに想いを寄せていて、マリアの死の謎を解こうと
 していたのだ。

 小学6年生の祐樹、中学生の亮輔の周囲におこる出来事・・
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内容紹介から
 きっと、また会える。あの頃、団地は、未来と過去を繋ぐ道だったから。
 三億円事件の時効が迫り、「8時だョ!全員集合」に笑い転げていたあ
 の頃。
 ひとつの町のような巨大な団地は、未来への希望と帰らない過去の繋
 ぎ目だった。失われた誰かを強く思う時、そこでは見えないものがよみ
 がえる。
 ノスタルジックで少し怖い、悲しくて不思議な七つの物語。
 ベストセラー『かたみ歌』に続く感涙ホラー。 

かたみ歌

★★★

 なごり歌が良かったので、続けて読んでみた。
 やはり廃れ行く商店街とそこに出入りする人たちの物語。
 今回は古本屋の店主が、キーマンになっている。
 ホラー的ではあるのだが、怖さというより、そんなこともあるのだろう・・と
 いうような感じがする。
 古本屋店主は、事件?に関わった人たちを優しく見つめている。
 しかし、その店主には取り返しのつかない過去があり、死者と出逢える
 という寺に出入りしていた・・。「金子みすず」とちょっと似ているような・・。
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内容紹介から
 不思議なことが起きる、東京の下町アカシア商店街。殺人事件が起きた
 ラーメン屋の様子を窺っていた若い男の正体が、古本屋の店主と話すう
 ちに次第に明らかになる「紫陽花のころ」。
 古本に挟んだ栞にメッセージを託した邦子の恋が、時空を超えた結末を
 迎える「栞の恋」など、昭和という時代が残した“かたみ”の歌が、慎まし
 やかな人生を優しく包む。
 7つの奇蹟を描いた連作短編集。 
花まんま

★★★

 なごり歌、かたみ歌が良かったので、直木賞をとったこの本を読んでみた。
 表紙の絵が違っていると思ったら、初版から3カ月で4刷になっていた。
 読み応えのある一冊。
  ・トカビの夜・・虚弱体質のチョンホが亡くなって・・
  ・妖精生物
  ・摩訶不思議・・亡くなったおじさんには奥さんのほかに女が・・・
  ・花まんま
  ・送りん婆
  ・凍蝶
 死者が他の人間になって甦る話、斎場への道で動かなくなった霊柩車、
 死にそうな者を安楽死させる送り言葉、その言葉を受け継ぐ・・。
 有りそうな話も並んでいる。ホラーものなのだろうが、人の心の奥底を
 見せてくれる・・。 
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内容紹介から
 母と二人で大切にしてきた幼い妹が、ある日突然、大人びた言動を取り
 始める。それには、信じられないような理由があった…(表題作)。
 昭和30〜40年代の大阪の下町を舞台に、当時子どもだった主人公が
 体験した不思議な出来事を、ノスタルジックな空気感で情感豊かに描い
 た全6篇。直木賞受賞の傑作短篇集。 
月蝕楽園
 図書館の新刊紹介をみて借りたのだか、ハズレだった。
 切なくて激しい純愛小説集・・・ここに目がいったのである。
 熱く、切なく・・・勘違いしてしまった。ただ、偏った性癖を描いているだけ
 で、その中を逞しく生き抜く・・というものでもなかった。
 女でありながら部下の女の指を愛した話。(みつばち心中)
 20年もセックスがない夫婦の話は浮気?をしようとした現場に○○が現れ
 て・・・この結末は何だろう。首をかしげてしまった。(噛む金魚)
 表紙を外して読んでいるのだが、どぎついピンクの装丁で持っているのが
 恥ずかしく変だとは思った・・・。
 性同一障害を扱った「孔雀墜落」を読んだところでクリア。
------------------------------------------------------
内容紹介から
 直木賞作家が描く、切なくて激しい純愛小説集。
 みつばち・金魚・トカゲ・猿・孔雀をモチーフにした恋愛を描きますが、
 甘い蕩けるようなものではない。
 重く・強い、読み手の心を鷲掴みにして離さない、たたきのめされるような
 短編集。 

 事務用品の製造販売会社に勤める私は、入院している部下の見舞いに
 行く。
 心に、ある不安を抱えながら…「みつばち心中」
 夫の一言が、私のなかの思ってもみなかった欲求を呼び起こした…
 「噛む金魚」など、深く激しい、熱く切ない愛のかたちを濃密に描いた5編
 を収録。
 直木賞作家が描く究極の愛。至上の恋愛小説集。 


 



 

 松尾 由美
                                  
  
1960年 石川県生まれ。お茶の水女子大学卒。
      出版社勤務を経て
1989年 「異次元カフェテラス」を刊行。
1991年 「バルーン・タウンの殺人」がハヤカワSFコンテストに入選。
    
         
わたしのリミット
 
 

★★★

 

 図書館で借りたのだか、どう見ても少女趣味?風のカバーの絵。ちょっと
 恥ずかしくなってしまう・・・しかし、内容はそれほど単純ではない。
 この作家、そんなに若くない。(若い頃の作品だろうか)
 登場するのは高校生と謎の中学生?の女の子。
 突如、家の「あかずの間」に現れた女の子を病院に入院させ、その
 見舞いに行きながら、中学生?(リミットと名付けた)に見聞きした「謎」を語
 って聞かせるが、リミットは謎の解明に的確なヒントを与える。
  ・同じデザインのセーター、S・M・Lの三種類を買うおばさん
  ・ビニールの白い傘がなくなった
  ・影をなくしたおとこ
 しかし、この本のテーマはこのような種の謎解きではない。
 もっと大きな謎がある。
 少女はどこから来たのか、何者なのか。
 プロローグで明かされる真実。それは切ない、どうしようもないことである。
 悲話ではない。
 読み手に愛を与えてくれる秀作である。
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内容紹介から
 坂崎莉実は父親と二人暮らしの高校二年生。ある朝目覚めると父親の
 姿はなく、代わりに「うちの保険証を使って、彼女を莉実として病院へ入
 院させてほしい」という不可解な書き置きとともに、見知らぬ少女がい
 た―。
 やむなくリミットと呼ぶことにした少女はどう見ても年下なのに、莉実の
 身のまわりで起こった奇妙な出来事の話を聞くだけで、見事に謎を解い
 てしまう。不思議に大人びた彼女は、いったいどこから来た、何者なの?
 莉実とリミット、二人の少女がすごすひと月を、愛情溢れる筆致で描く、
 “謎と奇跡”の物語。 

 
 


 深山 亮
                                  
  
1973年 群馬県富岡市生まれ。慶應義塾大学文学部卒
2003年 司法書士登録現在に至る
2010年 「遠田の蛙」にて、第32回小説推理新人賞受賞。
2012年 孤独死した父の遺言書の謎を追う長編推理小説
      「読めない遺言書」でデビュー
    
         
ゼロワン

 

 内容紹介に詳しいので簡単に・・
 司法書士の世界がよくわかった。
 内容はさまざまな要素を折り込んで、面白いが、文の切れがいまひとつ
 で、ぼんやり読んでいると前後の関係や人の関係がわからなくなったり
 する。(特に遠田の蛙)
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内容紹介から
 街を逃げ出した久我原がやってきたのは、司法過疎地域の南鹿村。
 鹿料理屋の跡地で開業した久我原の事務所に、初日から一筋縄ではいか
 ない依頼が舞い込む。
 戸籍をたぐりながら、美しき依頼人の家に隠されていた過去の事件をあぶ
 りだしていく「遠田の蛙」、
 村が気合いを入れた開発事業が思わぬ事件を呼ぶ「孤島の港」、
 紙切れ一枚の消失が人生を狂わせる「紙一重」、他久我原が所属する「群
 馬司法書士青年会」に降りかかった事件を描く二編を収録。
 第三十二回小説推理新人賞受賞作を含む、現役の司法書士でもある著者
 がユーモア溢れる語り口で人間の心情と謎を巧みに描いた連作短編ミステ
 リー。 

 
 


 垣谷 美雨 (かきや みう)
                                  
  
1959年 兵庫県生まれ。明治大学文学部卒
2005年 「竜巻ガール」で小説推理新人賞を受賞しでデビュ―。
      喫煙の害、高齢化と介護、結婚難など、シリアスな題
      材を描いた社会は小説で知られる。
   著書に「リセット」「禁煙小説」「結婚愛とは抽選で」
       「夫の彼女」「七十歳死亡法案、可決」などがある。
    
         
ニュータウンは

黄昏れて
 

★★★






 

 興味深い本を書く作家である。
 生活苦を背負った切ない感じて進む。
 ・夫は会社の新方向についていけず、管理職から一般職へ。
  慣れない仕事でストレス一杯。給与も減る。
 ・妻はローンに追われ、パートを重ねる。
 ・娘は大学卒で内定した会社が倒産。20代後半なのにパート生活。
 妻は団地の理事(輪番)になり、高齢化した団地住民に振り回される。
 そんな時、娘は親しい友達から、資産持ちの男を紹介される。洗練され
 たセンス、イケメン、男の母親も優美・・。娘は惹かれてしまうが。
 娘に男を紹介した友だちは借金を背負い、南アフリカに行ったという・・。
 とんでもない男なのでは・・・。
 目が離せず、先を心配?しながら読み続けた。
 かつて栄えたニュータウンの行方、娘に降りかかる危難・・・。
 清々しい結末が待っていたわけではなかったが、読後感は悪くない。
 「行き詰まり」の中に、それなりに生きていく現実感があって良い。
------------------------------------------------------
内容紹介から
 出口なし、人生も台なし! ローン地獄、建替え問題、娘の将来……
 「住」に翻弄される家族の真っ暗な現実を描く長篇小説。
 バブル崩壊前夜、都心から1時間の分譲団地を購入した織部家。
 広大な敷地には緑があふれ、「ニュータウン」と持て囃されたが、築30年
 を越え、妻の頼子は理事会で建替え問題にかかわる。が、住民エゴで
 理事会は紛糾、娘の琴里は資産家の男とつきあい、一家は泥沼から脱
 出を試みるが……。
 社会問題を炙り出す気鋭の長篇エンターテインメント。
あなたの人生、

片づけます

★★★

片づけ屋・大庭十萬里が依頼先を訪ねて、「片づけ」に取り組む4つの短編
が収録されている。それぞれの登場人物の思い込み、意外な理由などが
明かされて、興味深い。
一つ一つ、読み応えである秀作である。
最後の「きれいすぎる部屋」では、交通事故で子どもを亡くした女たちが登
場する。子どもを亡くした母親には、「のり越える」ことはできないこと、周囲
のなぐさめは時として、当事者の心を逆なでしていることが多いことなど・・
作者の鋭い指摘に溢れている。
 ・清算
 ・木魚堂
 ・豪商の館
 ・きれいすぎる部屋
------------------------------------------------------
内容紹介から
 社内不倫に疲れた30代OL、
 妻に先立たれた老人、
 子供に見捨てられた資産家老女、
 ある一部屋だけを掃除する汚部屋主婦……。
 片づけ屋・大庭十萬里は、物を捨てられない、片づけられない住人たち
 の前に現れる。
 『部屋を片づけられない人間は、心に問題がある』と考えている大庭十
 萬里は、原因を探りながら手助けをしていく。
 この本を読んだら、きっとあなたも部屋を片づけたくなる! 
 i f

サヨナラが
言えない理由

★★★

 この作家は素晴らしい。
 実に素晴らしい。
 がんの末期で死期が近づく患者のさまざまな「後悔」。あの時にこうして
 おけば良かった。あの人は許せない・・・。
 しかし、過去に戻って「やり直し」をしてみたらどうなるのか。果たして満
 足のいく結末が待っていたのか・・・もっと悲惨なことになったのではない
 か。作者が見せてくれる「if」の未来に深く考えさせられた。
 人を怨む・・・これも果たしてそうなのだろうか。思い込みなのではないの
 だろうか。人はもっと優しく温かいもの・・・そんな真実の愛にね気付かせ
 てくれる・・・これは感動と共感を与えくれる名作である。
 「感動した本」に入れた。
 内容紹介がとても詳しいので短いコメント。
-----------------------------------------------------
 内容紹介より
 人生の「後悔」を生き直してみたら… 

 33歳の医師・早坂ルミ子は末期のがん患者を診ているが、
 「患者の気持ちがわからない女医」というレッテルに悩んでいる。
 ある日、ルミ子は不思議な聴診器を拾う。その聴診器を胸に当てると、
 患者の”心の声”が聞こえてくるのだ。死を目前にした患者達は、
 さまざまな後悔を抱えていた。ルミ子は患者とともに彼らの”
 もうひとつの人生”を生き直すことになり――!?

 この世の中の誰もが、「長生き」することを前提に生きている。
 もしも、この歳で死ぬことを知っていたら…

●dream――千木良小都子(33歳) 
  母は大女優の南條千鳥。母に反対された「芸能界デビュー」の夢を
  諦めきれなくて…
●family――日向慶一(37歳)
 IT企業のサラリーマン。残業ばかりせずに、もっと家族と過ごせばよか
 った。
●marriage――雪村千登勢(76歳)
 娘の幸せを奪ったのは私だ。若い頃、結婚に大反対したから46歳に
 なった今も独り身で…
●friend――八重樫光司(45歳)
 中3の時の、爽子をめぐるあの”事件”。僕が純生に代わって罪をかぶ
 るべきだった。

 女性から圧倒的支持を受ける著者が描くヒューマン・ドラマ!!

避難所
 

★★★

 災害から4年。
 被害に遭った人々のことは次第に過去の出来事になりつつある。
 しかし、失ったものは計り知れないし、容易に再出発できるわけでもな
 い。
 作中に登場する3人の女性の苦労と苦悩を通して、被害者たちの生の
 姿を考えることが出来た。
 東日本大災害の明確に名前を出していないが、舞台設定はまさにそこ。
 巻末に参考文献が18冊ほど載せられているが、この災害のようすを幅
 広く調べ検証している。

 それにしても、ここに登場する男たちは酷い。
 ろくに働かないくせにプライドの高い福子の夫は義捐金で外車を買う。
 そして、その外車もスロットマシン遊興代のために売ってしまう。
 「被害者は家族」のようなことを行って、段ボールの仕切りを使わせな
 いばかりか、プライバシーを無視するりリーダー役の男。
 乳飲み子を抱え夫に死なれた遠乃は、夫の義捐金を舅に取り上げら
 れるばかりか夫の弟と一緒にさせられそうになる。
 この作家は男性に良い印象を持っていないのではないかと思われる。
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 内容紹介より
 なして助がった? 流されちまえば良がったのに。3・11のあと、妻たちに
 突きつけられた現実に迫る長篇小説。乳飲み子を抱える遠乃は舅と義
 兄と、夫と離婚できずにいた福子は命を助けた少年と、そして出戻りで
 息子と母の三人暮らしだった渚はひとり避難所へむかった。
 段ボールの仕切りすらない体育館で、絆を押しつけられ、残された者と
 環境に押しつぶされる三人の妻。東日本大震災後で露わになった家族
 の問題と真の再生を描く問題作。 

子育てはもう
卒業します

★★★

これは一気に読ませられてしまった。
「避難所」もそうだが、この作家の文は読み手をひきつけて話さない。

修英大学を卒業した3人は卒業後も親しく付き合っている。
福岡の裕福な家で育って紫。
親の大反対を押し切ってフランス人と結婚するが、相手が実に自由で経
済観念が無いことに気がつき、ガッカリする。
娘・杏里は子役から女優になり、家計を豊にするが・・・。

北海道の牧場で育った淳子は、大学の同級生と結婚し子どもの将来の
ために、舅のコネを利用して付属中学に入れたり、一流会社に入れたり
するが・・・。

高知の金物屋の娘・明美は、サラリーマンと結婚し、それなりのマンショ
ンに住み娘に何か資格を持たせようとする。一番は看護師。

3人は大学を卒業したのに「自宅通学」でない という理不尽な理由で就
職に苦労したのだ。
3人はそれぞれの反省から、子どもの将来のために奔走するのだが・・・。

紫はフランスの夫の自由な生き方を理解しはじめ、他の二人も、子どもは
なるようにしかならないと思い始める。

一方子ども達は、集まって会を作るが、親たちのことを評価したりしている。
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 内容紹介より
 「母親として主婦として頑張ってきたけど、私の人生このまま終わりに
 向かうの……?」 

 教育費を捻出するため夫の両親と同居するお受験ママの淳子。 
 娘には一生続けられる仕事に就いて欲しいと願う専業主婦の明美。 
 親の猛反対を押し切り結婚したことを後悔するお嬢様育ちの紫。 

 就職、結婚、出産、子育て、嫁姑、実家との確執、職場復帰…… 
 故郷を離れた18歳から40年、3人は悩みを語り合ってきた。 時には口に
 出せない痛みを抱えながら―― 
 注目作家が、「親離れ・子離れ」を等身大で描く書下ろし長編小説。


 


 山田 詠美
                                  
  
1959年 東京生まれ。明治大学文学部日本文学科。

1985年 「ベッドタイムアイズ」で文藝賞を受賞しデビュー。
      この本は芥川賞の候補にもなった。
      「ジェシーの背骨」「蝶々の纏」も芥川賞候補なった。
1987年 「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリ」で直木賞受賞。
1987年 在日アメリカ軍横田基地勤務の黒人男性、クレイグ・
      ダグラスと結婚。
2006年 ダグラスと離婚。 劇作家の可能涼介と再婚。
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 1989年 「風葬の教室」第17回平林たい子文学賞
 1991年 「トラッシュ」第30回女流文学賞
 1996年 「アニマル・ロジック」第24回泉鏡花文学賞
 2001年 「A2Z」第52回読売文学賞
 2005年 「風味絶佳」第41回谷崎潤一郎賞
 2012年 「ジェントルマン」第65回野間文芸賞 

    
         
ソウル・ミュージック・

ラバーズ・オンリー

★★★

 

 センセーションといえば正にそうだと思う。
 日本人離れした男女の付き合い。簡単にセックスをするが心は別のところ
 にあったり・・。男女の心の機微を描いた秀作だろう。
 「体はお菓子のようなもの、心はパンのようなもの」
 この言葉は深い。
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内容紹介から
 "悲しくて楽しくて、そして甘い…。“WHAT'S GOING ON”“ME AND MRS・
 JLEFT(RC[-1],1)S”“PRECIOUS PRECIONS”“MAMA USED TO SAY”
 “FEEL THE FIRE”八つのソウル・ナンバーが奏でる、粋で素敵な愛の物語。

 日本語を綺麗に扱える黒人女は世の中で私だけなんだ。(あとがきより)
 そう決心し、で謬ー間もなく著者が描き始めた粋で素敵な愛の物語。
 初恋も、喧嘩別れも、死に別れも、旅立ちの日も、温かく心に甦らせる黒人
 音楽が響く傑作連作小説。
 センセーションを巻き起こした第97回直木賞受賞作品。


 
 


 辻村 深月(つじむら みづき)
                                  
  
1980年 山梨県笛吹市出身。千葉大学教育学部卒業。
      京極夏彦のサイン会行き握手したというエピソードがある。
2004年 「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。
2012年  「鍵のない夢を見る」で第147回直木三十五賞受賞。
    
         
ツナグ

★★★

 

 小説として一級品。
 ノンフィクションでありながら、何となくありそうな話。
 実際には存在しない「ツナグ」という、死者を呼び戻してくれる存在。
 その「ツナグ」を通して、人の伝え残した想い、後悔・・それを叶えて
 くれる。
 「ツナグ」を摩訶不思議な人物として描くのではなく、どこにもいそうな
 高校生に設定したのも作者の腕・・・。
 「小説をかいてみたい」
 時にそう思うことがあるが、この本はまさに、そんなテーマをもった秀
 作である。「直木賞 受賞エッセイ集成」という本を読んで関心を持った
 作家であるが、読んでみて本当によかった。深く心にに残る。
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内容紹介から
 一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者(ツナグ)」。
  ・突然死したアイドルが心の支えだったOL、
  ・年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子、
  ・親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生、
  ・失踪した婚約者を待ち続ける会社員
 ツナグの仲介のもと再会した生者と死者。
 それぞれの想いをかかえた一夜の邂逅は、何をもたらすのだろうか。
 心の隅々に染み入る感動の連作長編小説。
家族シアター

★★★

 「真面目な子」「タイムカプセルの八年」
  この二つはなかなか良かった。
 また、宇宙を愛するちょっとズレてる妹「学習」でなく「科学」を買う妹。
 アメリカから帰ってきた息子家族と一緒に暮らすことになった、おじいち
 ゃん・・・。
 さまざまな家庭と内情が描かれていて深い感動がある物語集。
 実は2作目のアイドル支援の話をよんでリタイアしようと思ったのだが、
 全部読み終えて本当に良かった。
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内容紹介から
 同じ中学校に通う姉は、「真面目な子」。
褒め言葉のようだけど、実際は「イケてない」ことの裏返し。
こんな風には絶対になりたくない――だけど、
気にせずにはいられなかった。 (「妹」という祝福)

息子が小学校六年生になった年、
父親中心の保護者会「親父会」に入った、大学准教授の私。
熱心な担任教師に恵まれて、順調に思われた日々の裏には、
とんでもない秘密が隠されていて……? (タイムカプセルの八年)

すべての「わが家」に事件あり。
ややこしくも愛おしい家族の物語、全七編! 

お父さんも、お母さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、娘も、
息子も、お姉ちゃんも、弟も、妹も、孫だって―。ぶつかり合うのは、
近いから。ややこしくも愛おしい、すべての「わが家」の物語。 


 

 


 角田 光代
                                  
  
1967年 横浜市出身。早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。
1990年 「幸福な遊戯」で第9回海燕新人文学賞を受賞し、デビュー。
1997年 「ぼくはきみのおにいさん」で第13回坪田譲治文学賞
2005年 「対岸の彼女」で 第132回直木三十五賞
     その他、多数の本を書き数々の文学賞を受賞している。
          
対岸の彼女
 

★★★

 

 ドラマで「八日目の蝉」を見たとき、目の離せない緊迫感がありましたが
 どこか釈然としないものがありました。
 それで、この作家の本は避けていたのですが、「直木賞受賞エッセイ集
 成」を読んで、この作家に興味を持ちました。
 多数の著作があって、数多くの文学賞を受賞していることにも驚かされ
 ました。
 この本では、主婦の小夜子が公園デビュー?の失敗、自分と同様に他の
 子の輪に入っていけない娘・・。心機一転するため、働きに出て女社長と
 出会う中で、人との繋がり、友達について考えていくというもの。
 女社長・葵も辛い過去を抱えていた。物語は今の小夜子と高校生の葵
 が交互に描かれる。中学でいじめと無視のなかにいた葵は転校した高
 校でナナコに会い、意気投合するが・・・。
 小夜子は自分を理解しない夫と、不満の多い姑とのかかわりの中で自
 分の立ち位置に自信をなくしている・・・。
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作品紹介・編集担当者から引用
 女社長の葵と専業主婦の小夜子。二人の出会いと友情は、些細なこと
 から亀裂を生じていくが……。
 孤独から希望へ、感動の傑作長篇

 専業主婦の小夜子は、ベンチャー企業の女社長、葵にスカウトされ、
 ハウスクリーニングの仕事を始めるが……。結婚する女、しない女、子
 供を持つ女、持たない女、それだけのことで、なぜ女どうし、わかりあえ
 なくなるんだろう。
 多様化した現代を生きる女性の、友情と亀裂を描く傑作長編。
 第132回直木賞受賞作。

笹の舟で海をわたる
 内容の紹介に「激動の戦後を生き抜いた女たちの〈人生の真実〉に迫る」
 とあったので、図書館ですぐ予約したが・・・。この紹介は当てはまらない。
 この文を書いた人は全文をしっかり読み切ったのだろうかと、疑問に思っ
 た。
 もちろん、「あの時代を生きたすべての日本人に贈る感動大作! 」でもない。
 戦前に疎開先で、「いじめ」が行なわれ、いじめた者たちは、そのことを「大
 変な時代だった・・」と片づける。そして忘れる。しかしいじめられた者は、そ
 のことをずっと忘れない。その陰を引きずりながら。
 主人公・左織はいじめの首謀者ではないが、リーダーに逆らうことができず
 いじめに加担した。
 左織の前に突然現れた風美子は、みんなからいじめられたが、その時左
 織が優しい言葉をかけてくれたという・・・。
 やがて、風美子は左織の夫の弟と一緒になり「義妹」になってしまう。
 そして、左織は風美子に頼り、風美子が決めて通りに生活するようになる。

 これは、左織が風美子に負い目を感じるところから出発しているが、それが
 テーマというよりは、主体性を持てず流されゆく左織の生き方が問題なの
 ではないだろうか。自分の過去を振り返り、反省することの多い人にとって
 は、左織の揺れ動く心情は理解できるし考えさせられることも数多い。
 しかし、よく考えてみれば両親の死、兄弟との離反・・・これはいかにも人
 情薄い話である。さらに平凡な生活の中で夫の心の通い合いがなく、2人
 の子どもからも受け入れられないという、この生き方は疑問符が付いてし
 まう。地を分けた肉親、自分の血を受け継ぐもの・・・それは、幾多の行き
 違いを経てとしても、やがて認め合うものがあるのではないだろうか。
 作者はそういう人間としての真の姿、心情、愛について語っていない。
 細やかなタッチで描かれた作品だけに人間の素晴らしさという大きなテ
 ーマに挑んでほしかった。
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内容紹介から
 終戦から10年、主人公・左織(さおり)は22歳の時、銀座で女に声をかけ
 られる。
 風美子(ふみこ)と名乗る女は、左織と疎開先が一緒だったという。
 風美子は、あの時皆でいじめた女の子?「仕返し」のために現れたのか。

 欲しいものは何でも手に入れるという風美子はやがて左織の「家族」と
 なり、その存在が左織の日常をおびやかし始める。
 うしろめたい記憶に縛られたまま手に入れた「幸福な人生」の結末はー。

 角田文学の最新
 長編。
 あの時代を生きたすべての日本人に贈る感動大作! 


 


 大島 真寿美
                                  
  
1962年 名古屋市生まれ。
1992年 「春の手品師」で第74回文学界新人賞を受賞。
     透明感あふれる文体、かつてなくみずみずしい
     物語で注目を集める気鋭の作家。
    
         19
戦友の恋

★★★

 

 解説に
 「これはヒロイン友情小説である。このジャンルには傑作が少なくない
  が、唯川恵美『肩越しの恋人』角田光代『対岸の彼女』そして本書が
  ベストスリーだ。」とある。また、「戦友の恋」が直木賞を受賞しなか
  ったのは、画竜点睛を欠くとまで書いている。
 この2編に比べると本書は、友を失った喪失感を抱きながらも、周囲と
 の交流の中で、少しずつ立ち上がってゆくという希望がある。
  玖美子の次の担当者・君津、近所の大和湯の孫娘・美和、中学時
 代の同級生・木山、リズのママ律子・・。それぞれの逸話も興味深い。
 木山は小学校の講師になり、受け持った子で、かつての佐紀にそっく
 りな子がいることを知らせる。
 「松の瘤?」を描いて「本当にそう見えたんだから」と言い張るところ
 が。
 その子を見るためにわざわざ出掛けて行った佐紀に、木山は絶景を
 見せる。がらんとした空間にはるかな空とはるかな海。びっくりする
 ほと゜赤い大きな太陽・・。
 佐紀と木山はこれからの人生を共に過ごすのかも知れない・・そんな
 含みを残して物語は終わる。

 群を抜く人物造形、鮮やかで巧みな挿話、とても柔らかくて気持ちの
 いい文章まで、すべてが素晴らしい。大島真寿美の傑作だ・・・解説
 の北上次郎が絶賛している。この人は褒め方が旨い。まさにその通
 りなのだが。
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内容紹介・内容(「BOOK」データベースより)から
 「友達」なんて言葉じゃ表現できない、戦友としか呼べない玖美子。
 彼女は突然の病に倒れ、帰らぬ人となった。
 彼女がいない世界はからっぽで、心細くて……
 2011年度大注目の作家が描いた喪失と再生の最高傑作! 
 
 漫画原作者の佐紀は、人生最悪のスランプに陥っていた。
 デビュー前から二人三脚、誰よりもなにもかもを分かちあってきた編集
 者の玖美子が急逝したのだ。二十歳のころから酒を飲んではクダをま
 いたり、互いの恋にダメ出ししたり。友達なんて言葉では表現できない
 ほどかけがえのない相手をうしなってしまった佐紀の後悔は果てしな
 く…。
 喪失と再生、女子の友情を描いた、大島真寿美の最高傑作。 

ほどける とける  上記「戦友の恋」の姉妹編のような作品。
 ゆったりとした中に、心の温かさが漂う。

 漫画原作者の佐紀がよくいく銭湯の娘・美和。この美和の生き方を
 描きながら、その中に佐紀を登場させている。
 佐紀と担当者・君津、何と美和はこの君津と付き合うのである・・。
 佐紀の幼馴染・木山の追っかけもする。
 昔の大和湯のことや自分がみた夢の話をするフジリネンのおじさん
 大和湯を切り盛りしているタエさん、話し相手の弟。
 自分の立ち位置が分からず、級友ともうまくいかず、ただ漫然と過ご
 す美和。
 しかし、大和湯をめぐる人たちとの交流の中で、一人でない自分に気
 付き、自分にできることを考えていくようになる・・・。
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内容紹介・内容(「BOOK」データベースより)から
 平和な気持ちになりたくて、女の子特有の仲良しごっこの世界を抜け
 出した18歳の美和。
 夢も希望も自信も失って、祖父が経営する銭湯でバイトをしながら、ど
 うにも先が見えない日々を過ごしていたのだが…。
 あなたの疲れた心を、そうっとあたためる、やわらかな成長の物語。

 泡のような日々は、ふわふわと。
 どうにも先が見えなくて、めんどくさくて、将来の夢もわからない……。
 高校を突発的に中退し、祖父が経営する銭湯を手伝う少女が、常連客
 との交流や淡い恋を経て、夢を見いだしていく。
 ほわほわとあたたかな物語。


 
 


 柴田よしき
                                  
  
1959年 東京都生まれ。青山学院大学文学部フランス文学科卒業。
     女流作家。
     子育ての傍ら執筆活動を始める。
1995年 「RIKO - 女神の永遠」で第15回横溝正史賞を受賞してデビュー。
     ミステリーをはじめ、幅広いエンターテインメント小説の話題作を次
    々と発表し続けている。
    著書にRIKOシリーズ、花咲慎一郎シリーズ、
      「激流」「ワーキングガール・ウォーズ」「桃色東京塔」
      「夢より短い旅の果て」がある。
    
         
風の

ベーコンサンド

★★★

 

 内容紹介がとても詳しいので、あまり書かない。
 奈穂が料理をいろいろ考え、そのレシピがいろいろ描かれるのが、料
 理好きな人には応えられないような気がする。
------------------------------------------------------
内容紹介から
 “空腹警報絶対注意”の高原カフェを舞台に奇跡が起こる――。
 百合が原高原に一軒家カフェ「Son de vent(ソン・デュ・ヴァン)」を開業し
 た奈穂。
 かつてペンションブームに沸いたこの高原も、今はやや寂びれ気味。
 東京の女性誌編集部で働いていた奈穂が、冬には雪深く寒さの待ち受
 けるこの地へ移ってきたのには、深刻な理由が――
 エリート銀行員の夫・滋のモラスハラスメント(精神的虐待)に堪えかねて
 極度の自律神経失調症に陥り、これまでの生活すべてを変えるためだ
 った。
 夏は美しい自生の百合の花が咲き、秋は紅葉が見事なこの高原には、
 「ひよこ牧場」のバターやミルク、ソーセージやベーコン、「あおぞらベー
 カリー」の自家製天然酵母のパン、村役場に勤める村岡涼介の口利き
 で手に入るようになった有機野菜など、自然豊かな恵みがいっぱい。
 「高原のチーズクリームシチュー」「ひよこ牧場のベーコンサンド」「百合
 が原ポークソテー」「野生きのこのオムレツ」など、当日の仕入れでメニ
 ューを組む奈穂の料理は地元客からも好評で、観光シーズンにはお客
 を集めるようにもなる。
 そんな奈穂のカフェを訪れるのは、ひとりの作業員風の男(『風音』)、
 離婚に決して応じてくれない夫(『夕立』)、ご近所の農家のお嫁さん
 (『豊穣』)、海外帰りの美しい経済アドバイザー(『融雪』)ら、それぞれが
 事情を抱えていた。
 奈穂の料理は彼らの人生を何か変えることができるのか? 実は奈穂自
 身が抱える現実も厳しい。スキー場が閉鎖され、新規ホテルに客が集
 中する状況で、奈穂は初めての冬を凍れる高原に留まって奮闘する。
 そして二度目の夏の訪れを前に、カフェ「Son de vent」に奇跡が訪れる!
 女性を主人公に多くのベストセラーを輩出してきた著者が、自らレシピを
 試して「絶対においしいものだけ」がぎっしり詰まった連作集は、読者に
 栄養をたっぷり届けます。