古川  薫

歴史小説をさかんに読んでいた頃の好きな作家の一人だった。(この作家が直木賞をとる以前から
かなり読んでいた。)戦国時代や明治維新の頃に中国地方で活躍した人物に題材を求めた物が多い。

                   
志士の風雪
 久しぶりに古川薫の本を読んだ。
 品川弥二郎
 勤皇の志士であり、明治政府でもさまざまな役職を務めたこの人物。有名なわりに
 は、功績などがよくわからなかった。

 この本には生い立ちから、松下村塾での学問。吉田松陰から学んだこと、
 同門の久坂玄瑞との交わり、その後の 討幕運動などが連綿と書かれている。
 品川弥二郎についての知識を得ることができた。
 ただ、欲を言えば、物語としての「やま場」、人物の高揚する心意気、行き詰る
 場面、修羅場、感動し涙が止まない場面・・・、そんな箇所が殆ど無いのである。
 歴史物を書くときは仔細に資料や文献を読み込む。しかし、史実には不明確な
 部分が限りなくある。その部分は作者の想像力を活かして書かける。
 ここで何をどのように書くか、それが作家の持ち味を出せる場である。
 
 品川弥二が吉田松陰から影響を受けた「止むに止まれぬ狂気」。義のためには
 無理な行動をとってしまうことである。それが何にも反対、そして財閥から「糧道」
 もとめる「民党」への「空前絶後の選挙干渉」であった。
 また、信用組合法案成立に心血を注いだこと、このあたりをもっとダイナミックに
 緊迫感をもってかいて欲しかった。  
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 内容の紹介から
 「トンヤレ節」ーーわが国における軍歌の第一号である。この歌とともに、倒幕を掲げる
官軍は行進した。そして、この作詞者こそが、本稿の主人公、品川弥次郎である。
萩藩の足軽の子として生まれ、十五歳で松下村塾に入塾。吉田松陰に将来を嘱望された
少年は、高杉晋作、久坂玄瑞、桂小五郎らとともに、幕末、維新を駆け抜けた。

蛤門の変、戊辰戦争、西南戦争……。古川薫氏の筆は、品川弥二郎という男が、まさに
重大局面に立ち会った歴史の証人であることを浮き彫りにしていきます。

その後、新政府の人間として、ヨーロッパに留学、協同組合運動に刺激を受け、日本に
移植しようと尽力した後半生。あえて苦難の道を、なぜ選択したのか。その衝動はどこ
からきたのかーー。
長年にわたり、幕末、長州を追い続けてきた筆者ならではの、画期的な評伝小説です! 

覇道の鷲

 毛利元就

★★★

 「敵を打ち倒すために大事なことは、武略・計略・凋落。それ以外のなにものも不要じゃ」
元成の卓越した知将としての策略は忍びの者を遣った情報戦、敵の裏をかく合戦陣形、
謀略を駆使した政治にあらわれた。
 下克上の戦国期に小豪族から身を興し、宿敵陶氏、大友氏、尼子氏らとの激闘の彼
方に西国平定の野望を見据えた稀代の猛将毛利元就を描いて、その意外な素顔に迫
った長編小説。(解説から)
失楽園の武者

★★★

 室町期、西日本切っての守護大名大内氏の31代当主義隆は、とりわけ貴族趣味が強く
武力強化よりも京都文化の摂取に熱中する。山口を京都の街並みに摸し、文化人を招い
ては宴を催した。その結果、家臣間に亀裂を生み、やがては救い難い破滅への道を辿る
ことになるが・・・・・・・大内氏の栄光と失墜を活写する長編。(解説から)
だれが広沢参
議を殺したか
 明治4年、参議広沢真臣が惨殺された事件の容疑者は逮捕されただけでも百名を越え
たが迷宮入りとなった。事件当時、木戸孝允犯人説が広まったが、百年後、木戸孝允は
有罪か無罪かの模擬裁判が開かれた。興味ある歴史裁判を描く表題作のほか、「走狗」
「女体蔵志」「塞翁の虹」など直木賞候補三篇を含む歴史小説。   (解説から)
不逞の魂
 日露戦争で満州軍参謀として日本の命運を担い、後に昭和の宰相となった田中義一。幕
末に籠かきの倅として生まれた彼は立身の手段として軍人の道を選び、近代国家の歯車
となって生きることを決意する。義一は軍事大国ロシアの内情を探ることを命ぜられ、ペテ
ルブルグに赴いて情報収集の秘密任務につくが・・・・。明治の男野強烈な上昇志向と自
己実現の軌跡を辿る書き下ろしの長編小説。 (解説から)
狂雲われを過ぐ
 明治政府に反逆し、賊として処刑された者たちが維新前夜の功績を評価されて次々と贈
位されていく中で、奇兵隊第三代目赤根武人の名誉がついに回復されなかったのは何故
か。現代の法廷に、山県有朋、伊藤博文らを次々に冥界から証人として喚問し、著者の分
身たる弁護人が維新史の暗部に横たわる謎を抉り出す表題策をはじめ、明治維新前後に
材をとった力作3編を収録。  (解説から)
花冠の志士
「玄端がこよなく愛し、歌に似もよく詠んだ花は、桜であった。そして、華やかに、うるわしく
いさぎよい青春にちなんでいうなら、その頭上に戴く武弁は、やはり若桜の花冠でなけれ
ばならない」
 久坂玄端は師吉田松陰と同様に短い生涯であった。志士・玄端の武と愛の軌跡を描く長
編小説。   (解説から)
閉じられた海図  石見国浜田藩は6万石の小藩ながら、老中職につく藩主松平康任がワイロをばらまき、
藩の財政は困窮していた。その穴埋めのため、藩は海商会津八右衛門に密貿易を命じた。
八右衛門は国禁を犯して、ルソン、ジャカルタへ渡って交易をする。浜田藩の興亡を賭けた
男の壮絶な生涯を描く。  (解説から)
高杉晋作
 「私はなんにも高杉についてお話する記憶がございません。」高杉の妻雅子は乱世にあっ
て家をかえりみぬ夫をひたすら待ちつづけ、満たされぬままにその死後も半世紀の間、武士
の妻として孤独に耐えた。
 雄藩長州に奇兵隊を組織し、28年に満たない生涯を討幕・維新に捧げて幕末の動乱を駆
け抜けた天性の革命児の生涯を、その陰に生きた女たちの悲哀とともに描く。 (解説から)
幕末長州藩の暗闘
椋梨藤太

★★★

 幕末、長州藩ほど血で血を洗う党争のくりかえされた事例はない。元治元年(1864年)の
禁門の変、四国連合艦隊との下関戦争、そして幕府の長州征伐という長州藩がむかえた最
大の政治的危機のなかで政権の座についたのは椋梨藤太であった。藩内過激派に血の粛
清をもって対した藤太は、極悪人の刻印を押され、歴史から抹殺された。その、俗論党の巨
魁の闘いの生涯を掘り起こした、著者会心の長州暗闘史。  (解説から)
異聞関ヶ原合戦  これまで読んだ関ヶ原を題材としたものと、あまり変わらないという印象で読み進めたが
次第に毛利家のことに及んで「異聞」が始まった。二の丸(女性)に恋いこがれた輝元が側
室にするまでのいきさつ。(生まれた松寿丸は秀就と改名し、萩初代藩主となった。)
 関ヶ原の屈辱をすすごうとする輝元が、重臣の一人内藤元盛を秘かに大阪城に送り込
んだというのも、まさしく異聞である。
 断章「逆転関ヶ原」では、if・・の話を展開して見せている。
異聞岩倉使節団  「行ケヤ海ニ火輪ヲ転ジ 陸ニ汽車ヲ輾(めぐ)ラシ・・」
 三条実美からの激励を受けて岩倉使節団は、明治4年11月から明治6年9月まで、アメリ
カ合衆国、ヨーロッパ諸国をまわった。岩倉具視を正使とし、政府のトップや留学生を含む
総勢107名で構成されていた。(岩倉・木戸・大久保・伊藤 留学生として中江兆民・団琢
磨・鍋島直大・津田梅子などの名もある)

 物語は異聞ということで、木戸を暗殺すると噂のあった長野桂二郎、同室で見張り役と
して「留学生」となれた河添玄吾が中心となる。
 長野の数奇な生い立ち(日光奉行だった父の隠し子)、官軍との戦い、転じて、新政府の
通詞となるいきさつを聞かされた玄吾は長野と心を通わせるようになる。
 そして起こった、長野が吉益亮がいかがわしいことをしたという事件。
 それは、裁判制度の実験という形で進む。
 裁判官は伊藤博文、山田顕義。解部(検事役)の平賀義質、代言人の川路の玄吾。
裁判は玄吾の熱弁で終わる。福地源一郎はじめ12人の評議員は潔白の結論を出した。

  
  
 


  

   
 藤沢 周平

 
  昭和2年 鶴岡市に生まれる。
  山形師範卒。48年「暗殺の年輪」で第69回直木賞を受賞。

 かなりの冊数を読んだような気がしていたが、探してみたら3冊しかなかった。
この作家の本を早くから読んでいたので、そう思い込んでいたのだろうか。また、
一冊の本におさめられている短編をいくつも読んだからだろうか。短編は、時代
小説ではあるが、どこか現代に共通するものをテーマとしているようなところが
ある。
 昔からの「作家」という言葉がぴったり当てはまるような方である。
 2002年 NHK正月ドラマに西田敏行主演で「おらが春(一茶)」が入り、この
作家を思い出した。

一  茶

★★★

 稀代の俳諧師・一茶。親密さと平明。典雅の気取りとは無縁の独自の世界を
示したその句。およそ、俳聖という衣裳はふさわしくない。しかし、全発句、生涯二万句。
尋常ならざる風狂の人か。さらに、一茶は遺産横領費との汚名すら残し、俗事にたけた
世間師の貌をも持つ。陰影にみちたこの俳人の生涯を描く渾身の力作長篇。
                                        (解説から)
竹光始末
 糊口を凌ぐため刀を売り、竹光を腰に仕官の条件である上意討ちへと向かう丹十郎。
 ささくれだった竹光の刀身が見た武士の宿命とは。
 表題作他、時代小説に確かな世界を構築した直木賞作家の作品群。
                                        (解説から)
長門の守の陰謀  藩主忠勝の偏愛を利用し、酒井長門の守忠重は、病弱の世子摂津の守忠当を廃し、
庄内藩十三万石をわが手に握ろうとする。
 恐るべき癇症をひめた忠勝と伯父にあたる長門の守を前に、若干三十四歳のの家老
高力嘉兵衛の苦脳が始まる。頼むは幕閣の知恵者松平伊豆の守信綱。しかし、表立っ
た動きをとることはできない。世子忠当に次々と暗殺団が走る。ぎりぎりまで追い込まれ
た高力嘉兵衛は、死を賭した行動に出る。
 藤沢周平が故国に題材をとり、精緻な構成でつづる歴史小説。  (解説から)
隠し剣秋風抄
 (短編集の一編)

  盲目剣谺返し

★★★

 本屋で目にした帯に書かれていた「武士の一分の原作・・・」
  内容をざっと見たら、短かったので立ち読み開始・・・。
  なかなか良い。読ませる小説である。
  盲目になったが、かつては剣道道場の秀才といわれた男。
  妻を騙した番頭・島田と決闘するため、剣の稽古をする場面は迫力がある。
  庭に降り立ち、自分に寄ってくる虫を一刀で切り落とすのである。
  この短編「盲目剣谺返し」は秘剣を描くというよりは、夫婦の愛を描くことが
  主眼だったのだろう。

 【Gooの映画解説から】引用
  三村新之丞は、近習組に勤める下級武士。毒見役という役目に嫌気がさしながらも、
 美しい妻・加世と中間の徳平と平和な毎日を送っていた。ある日、毒見の後、新之丞
 は激しい腹痛に襲われる。あやうく一命はとりとめたが、高熱にうなされ、意識を取り
 戻した時は、視力を失っていた。人の世話なしで生きられなくなった自分を恥じ、一度
 は命を絶とうとしたが、加世と徳平のために思い留まった。ある日、加世が外で男と
 密会しているという噂を聞く。新之丞は徳平に尾行をさせ、加世が番頭・島田と密会し
 ていることを知る……。

秘太刀馬の骨
 以前テレビでドラマ化された時に見たが、最近藤沢周平がよく話題になるので読ん
でみた。内容はテレビで見たのとほぼ同じだったが、結末を覚えていないので、緊迫
感を持って読むことができた。
 矢野道場の高弟5人のうち秘太刀を受け継いだのは誰か。家老の甥・銀治郎は5
人の弱みを握り立ち会いに持ち込む。体を張って、秘太刀を受け継いだ者を探ろうと
する銀治郎につきあう主人公の浅沼半次郎。
 5人との対決が終わって・・・。
 秘太刀の遣い手は藩主が命じた時に動く・・そして、闇に封じ込める・・。
夜の橋

★★★

藤沢周平は素晴らしい。本当に良い物語を書く。この本を読んでそう思った。
珠玉の短編がここに散りばめられている。

 鬼気
  腕に覚えのある雨宮道場の三人。隠れた名人と言われる細谷を林の中で待ち伏
  せるが、三人の待ち伏せに気付いた細谷に、まさに鬼気迫る形相で追いかけられ
  る。
 夜の橋
  博打にうつつを抜かし、女房のおきくに出て行かれた民次。
  おきくに縁談が持ち上がった。相手の兼吉はいい加減な男だった。
  兼吉におきくと別れさせたのはよかったが、博打の親分の理不尽な頼みを断った
  ために痛みつけられる民次。
  袋だたきになった民次が向かった先は、おきくが働く店に近い二ノ橋・・・。
 裏切り
  幸吉は働き者で気性のまじめな女房をもらったと思っていたが・・・。
 一夢の敗北
  金の無心をする力士崩れの大男を切った一夢は、自分の腕に自信を持っていた。
  そして、江戸からやってきた儒者を襲うが・・・。
 冬の足音
  市は降るようにやってくる縁談を断わり、昔父のもとで働いていた時次郎に想いを
  寄せるのだが・・・。
 梅薫る
  波江は婚約者の江口から離され、他家に嫁がされる。そこには口にできない事情が
  あったのだが、波江にはわからなかった。記鬱になった波江は時折実前触れもなく
  実家に帰ってくる。ある日父は語る・・・。
 孫十の逆襲
  野伏せりが村を襲ってくるらしい。村でただ一人戦いにでたことのある孫十は世話
  役から指図を頼まれる。
 なくな、けい
  藩の大事な短刀が紛失。波十郎の亡くなった妻が研ぎから戻ってきた短刀を流用
  してしまっていたのだ。武具屋から他藩の武士に渡ってしまった刀をどうやって取り
  返すか。波十郎は女中のけいにすべてを託す・・・。
 暗い鏡
  政五郎の姪のおきみが突然殺される。おきみは政五郎のもとを離れてからどんな
  生活を送っていたのか・・・。

風の果て

★★★

 藤沢周平の傑作と言われるこの一冊。
 期待して読んだが、期待に違わない秀作だった。
 先に読んだ葉室麟「秋月記」や「銀漢の賦」に似たところがある。
 家老にまで出世した桑山が、かつての同胞・市之丞との交遊を思い出し人生を振り
 返る。
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内容(「BOOK」データベースより)
 首席家老・桑山又左衛門の許に、ある日、果し状が届く。恥知る気あらば決闘に応じ
よ、と。相手は野瀬市之丞。かつては同じ部屋住み・軽輩の子、同門・片貝道場の友
であるが、市之丞は今なお娶らず禄喰まぬ“厄介叔父”と呼ばれる五十男。…
歳月とは何か、運とは非運とは?運命の非情な饗宴を隅なく描く、武家小説の傑作! 
隠し剣

秋風抄

★★★

 Bookoffで見つけた一冊。
 やはりこの作家は素晴らしい。
 人生の機微を描くのはもちろん、様々な剣技を興味深く描いていて読者を惹きつける。
 短編化9編から成っている。
 「盲目剣谺返し」も収録されている。
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内容(「BOOK」データベースより) 
 『隠し剣孤影抄』に続く大好評、剣士小説九篇
  乱剣、女難剣、好色剣など剣士の技はいよいよ多彩になり、女達との官能的描写と
 共に息もつかせぬ展開に。「孤影抄」の姉妹篇 

 この作家のロングセラー“隠し剣”シリーズ第二弾。気難しい読者をこれほど愉しませ
 た時代小説は稀れである。
 剣の遣い手はさらに多彩に。
 薄禄の呑んだくれ藩士のくぐもった悲哀を描く「酒乱剣石割り」、醜男にもそれなりの
 女難ありと語る「女難剣雷切り」など、粋な筆致の中に深い余韻を残す名品九篇を収
 載。剣客小説の金字塔。 

時雨のあと

★★★

 かなり前に描かれた本。
 下級武士、商家の番頭など市井の人たちに降りかかる事件。
 意外な展開もあり、読み手の関心をひきつけるが、読後感の悪くないのが何より
 良い。
 この作家の真骨頂である、下級武士の思惑や剣技についての記述も冴えている。
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内容(「BOOK」データベースより) 
 身体を悪くして以来、すさんだ日々を過す鳶の安蔵。妹みゆきは、兄の立ち直り
 を心の支えに、苦界に身を沈めた。客のあい間に小銭をつかみ兄に会うみゆき。
 ふたりの背に、冷たい時雨が降りそそぐ…。
 表題作のほか、『雪明かり』『闇の顔』『意気地なし』『鱗雲』等、不遇な町人や下
 級武士を主人公に、江戸の市井に咲く小哀話を、繊麗に、人情味豊かに描く傑
 作短編全7話を収録。 

 


        

 隆 慶一郎

この作家を読まないと歴史小説を語れない
・・・・・誰かがそんなことを言っていたような気がするが全くその通り・・・・・

  
影武者市松

徳川家康

★★★

 上下2巻があるので長編ということになるのだろうが、筋の展開に合わせてどんどん読み
進めていくので、長さを感じない。
 前編で二郎三郎が家康の替え玉になり苦心するわけだが、その時の、周囲の人々の心
理や思惑、それにかかわる出来事やストーリーの展開が面白い。
 史実を踏まえて作者なりに解釈しているので、徳川家康が影武者であったということが自
然に納得させられてしまう。本多正信、本多平八郎などさまざまな人物の人間像が描かれ
ているが、個人的には正純の描き方に惹かれた。関ヶ原以後の徳川幕府の成立過程が切
実に表わされていて興味深い。
 歴史好きの読者には必読の書である。
一夢庵風流記

★★★

 久しぶりにこの作家の本を読んだ。
 実に面白い。痛快物である。
 前田慶一郎が前田利家の甥にあたるというのも初めてわかった。(甥と言っても、利家の
 兄である利久の婿・・利家の姪の夫) 信長の命令で前田家は長男である利久を差し置
 いて三男の利家が家督を継いだのである。そのため利久は慶次郎や家族を連れ浪々の
 旅に出たと言われている。この後の何年か記録にはないとのこと。
 やがて利久が加賀の領主となった利家のもとに身を寄せたため、慶次郎は歴史に登場
 する。そして加賀を離れ京・大坂に出て「かぶき者」として名を残すことになる。
 秀吉からかぶき者としての認可?を受ける。朝鮮出兵前の朝鮮に渡り、奇抜な行動をと
 ったり、直江兼続と交友したり・・・。天衣無縫の活躍ぶり。
 慶次郎に従うのは、前田の忍びだつた捨丸、得体のしれない忍び・骨、倭寇だった金悟
 洞、そして野馬の松風。
 隆慶一郎の歯切れの良い文とともに物語が進行する。短期間で読ませられてしまった。
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内容(「BOOK」データベースより)
 死ぬも生きるも運まかせ。たった一騎で戦場に斬り込み、朱柄の槍を振り回す―。戦国
時代末期、無類のいくさ人として、また、茶の湯を好む風流人として、何よりもまた「天下の
かぶき者」として知られた男、前田慶次郎。乱世を風に舞う花びらのように、美しく自由に
生きたその一生を描く、第2回柴田錬三郎賞受賞の話題作。 
駆込寺蔭始末
 前記2冊と比べると内容が浅い。
 解説に伝奇小説。有形無形のユートピアを守るヒーローと中世自由民の末裔たちの物語
 をつくりあげることへと結実していく・・・とある。さほど深い意義のある本とは思えないの
 だが・・・。
 鎌倉・東慶寺に駆け込む女たち。夫だけでなく義父、義兄からも関係を強要されおぞまし
 さに逃げ出した女。11歳で婿をとらされた幼な妻。悲惨な境遇に置かれた女たちが東慶
 寺にやってくる。
 東慶寺住持の悩みは尽きないが、「麿」は蔭で自在に動き、事を収める。
 普段は東慶寺の前にあるせんべい屋の居候。実は朝廷の隠密方棟梁。木曽谷の忍者
 である。せんべい屋のあるじ・八兵衛は俊足、妻のおかつは遠聴の達者である。
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内容(「BOOK」データベースより)
 名高い駆込寺東慶寺の住持は、高辻中納言家の姫で、まだうら若い尼君であった。
 傷つきやすい無垢な心の彼女を讐護し、醜い争い事の始末をつけるのは、“麿”と名乗る
 若侍。
 実は彼は、御所忍び(朝廷の隠密)を務める公卿の子息。
 婚約者だった尼君のため、公卿の地位も捨て、腕に覚えの御所剣法で凶悪な悪人どもに
 とどめを刺す。 

  

   

 北方 謙三 
             
この作家はハードボイルドの気鋭であるらしい・・・・・・・・この分野はあまりよく知らない。
しかし、歴史小説に挑戦して書いてみたのが幾つかある。そのひとつ「破軍の星」を偶然
書店で手にしたのが幸運であった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この本に登場する「北畠顕家」、この人こそ、私が最も関心を寄せる人物の一人である。
私の住んでいる浪岡町には戦国時代に「浪岡城」があった。やがて台頭してきた「津軽為
信」のために滅ぼされる運命を辿るが、それまでの長期間にわたって津軽の中心地にいて
全域に影響力を持っていたのが北畠家である。北畠は何故それだけの力を持っていたか。
それについては他のページでふれたいと思うが、この本には浪岡北畠氏の始祖といわれる
北畠顕家の活躍が描かれている。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・  
破軍の星

★★★

 建武の新政で後醍醐天皇により16才の若さで陸奥の守に任じられた北畠顕家は
奥州ら下向、政治機構を整え、住民を把握し、見事な成果をあげた。
 また、足利尊氏の反逆に際し、東海道を進撃、尊氏を敗走させる。しかし、勢力を
回復した足利の豪族に叛かれ苦境に立ち、さらに吉野へ逃れた後醍醐帝の命で、
尊氏追討の軍を再び起こすが・・・・・・・一瞬の閃光のように輝いた若き貴公子の短
い、力強い生涯。                  (解説から)
楠木正成  460ページという大作。取りかかるの手間取ったが赤坂城・千早城の戦いになっ
たあたりからどんどん読み進む。「悪党」が何を求め、どんな世の中を望んでいるの
か・・正成の思いは揺れる。共に戦うことを決めた大塔の宮は父である後醍醐天皇
に疎まれ、鎌倉に送られ足利直義のために命を落とす。
内容(「BOOK」データベースより)
ときは鎌倉末期。幕府の命数すでに無く、乱世到来の兆しのなか、大志を胸にじっ
と身を伏せ力を蓄える男がひとり。その名は楠木正成―。街道を抑え流通を掌握し
つつ雌伏を続けた一介の悪党は、倒幕の機熟するにおよんで草莽のなかから立ち
上がり、寡兵を率いて強大な六波羅軍に戦いを挑む。己が自由なる魂を守り抜くた
めに!北方「南北朝」の集大成たる渾身の歴史巨篇。 
風待ちの港で  珍しい北方謙三のエッセイ集。純文学を目指した青年時代。ハードボイルド作家
として成功するまで。風待ち港・・かつて住んでいた深浦町が思い出されて借りた。
出版社/著者からの内容紹介
まだ50歳。本物の人生はここから始まる。人生50年、作家生活20年を迎えた著者
が、歩んできた道程を振り返り、今ある自分、そして明日を綴る。同世代や後輩へ
贈る生きる羅針盤。(解説・秋山忠右) 

  
 

   

 鳥 羽  亮

剣豪小説はこの人が頂点だろうか・・・
柴田練三郎もいるのだか・・・・・・・・・・

   
 1946年 埼玉県生まれ。埼玉大学教育学部卒。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  90年 「剣の道殺人事件」で第36回江戸川乱歩賞を受賞し作家デビュー。
 自らの剣道体験を素材に、剣豪小説や時代推理などの分野で活躍。
 主な著書に、「まぼろし銀次捕物帳」シリーズ、「剣客春秋」シリーズ、
         「さむらい」シリーズ、子連れ侍平十郎」シリーズなどがある。
 「剣豪たちの関ヶ原」は100冊突破記念の刊行。
三鬼の剣

★★★

 不思議な剣を使う幻鬼。こちらから仕掛けたら必ず脳天に凄まじい一撃を食らう・・
と言う無敵の邪剣である。
 これに立ち向かう直心影流毬谷直二郎の苦悩とついに剣の奥道を究める・・・と
いったところが読みどころである。
 これは文句無しにお勧めの一冊である。痛快な筆致と読ませる配慮。作者の高
い才能を感じる。
椿三十郎

用心棒

【表紙カバーの解説から】
 関八州を渡り歩き、流浪の旅を続ける椿三十郎は、あれた宿場町に辿りついた。
目につくのは、破れ果てた農民と目を血走らせた浪人ばかりである。居酒屋の権
爺から話を聞くと、どうやらこの宿場では、二つの勢力が争いをし、絹市すら立た
ないらしい。清兵衛と丑寅の争いに目をつけた三十郎は、町を腐らせている元凶
を絶つ為、用心棒として自分を売り込むが・・・。己の剣術と知略で的に立ち向かう
三十郎の運命はいかに? 黒澤監督作品「用心棒」を完全ノベライズ。書き下ろし
時代長篇。
剣豪たちの

 関ヶ原

★★★

 以前に剣豪列伝などを読んでいるが、そこに登場するエピソードが語られたりし
て、新たな発見は少ないが人物について再認識する意味で良かった。
 主役は三人。小野次郎右衛門、柳生宗矩、宮本武蔵。
剣の道

 殺人事件
 
 
 
 
 

★★★

 第36回江戸川乱歩賞を受賞。鳥羽亮が精魂を込めて書き上げた秀作である。
 全日本学生剣道大会の団体決勝戦。武南大の副将・石川は京体大の副将・岸
本との対戦中に脇腹を鋭利な刃物で刺されて死亡する。審判、観衆の見守る、
「密室状態」の中で何が起きたのか・・・。
 一向に犯人の姿が浮かんでこない状況を打破しようと、両国署の捜査課長・大
林は甥の京介の協力を仰ぐ。京介もかつては剣道の道を志していたが、恋人の
早坂陽子が『風、風、風』と鏡台に口紅で書き残して自殺を図って以来、剣道をや
め、荒んだ生活を送っていたのだった。
 京介は高校の剣道部の先輩で、今は武南大の主将である中原の協力で武南
大の剣道部に入り込み調べを始める。
 次第に判明する意外な事実。亡くなった石川洋の兄・守、対戦相手だった岸本
の関係。石川兄弟の父で・秩父に道場を構える資産家の源一郎。源一郎の兄弟
弟子で今は京都・錬心館の館長・関根。
 飛び込み面を得意とした石川洋、変則剣の石川守、飛び込み胴の岸本。
 この三者に三様の得意技を仕込んだ源一郎のねらいは・・・。
 関根は柳生新陰流、石川は一刀流の流れを汲むという。
 そして、武道を何より大切にするという武南大の主将・中原。

 鳥羽亮が剣道の知識を注ぎ込み、謎の多いミステリーに仕立て上げた作品で
ある。亡くなった石川洋、その後の事件で亡くなる二人も『切腹』のような死にざま
であったというところが作者の真骨頂である。

非情十人斬り
 大川端で二人の武士が何者かに襲われ、斬殺された。
 隠密同心の・長月隼人は、殺された武士の石垣藩の内定を命じられる。
 石垣藩が関わったある事件を巡って暗躍する手だれの者たちを相手に隼人の
 剣が閃く。             【一部、表紙カバーの解説を参考にしました。】
 これは事件の解明というより、剣による対決場面を描きたかったものであろう。
 斬りあいの場面はかなりリアル。【表紙の解説から】  
不知火の剣
 「非情十人斬り」と同様、剣による対決の場面が中心となる。
 大身の旗本の跡目をめぐる争いがもとになってはいるが。
 不知火と名付けた不気味な剣を使う浅間玄十郎に雲井十四郎が挑む。
隠目付江戸日記

剛剣馬庭

★★★

 久しぶりに鳥羽亮の本を読んだ。
 やはりどんどん読ませてくれる。
 江崎藩の目付を引退し、隠目付をしている海野洋之介の活躍を描いたもの。
 大上段から振り下ろす無敵の剛剣に挑む。
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 内容紹介から
 釣り宿の用心棒をしている駿河の国江崎藩隠目付の海野洋之介。
 ある日、釣りに出かけた帰りに人だかりを見かけて近寄ると、武士の骸があり、
 それは自分が目付を務めていた江崎藩士だった。隠目付として探索を始めた洋
 之介の周囲で江崎藩士が次々に殺され、ついには洋之介の前に剛剣の剣客が!
 はたして、その「黒幕」とは・・・。
 江戸情緒と迫力剣戟たっぷりのシリーズ第6弾。

  


 南原 幹雄
                  
 鴻池一族の

野望 

 大名貸しをもとに全国六十余州の経済支配を企む鴻池一族。幕府は秘密
組織・中町奉行の武力でその野望を断とうとするが・・・・・・。

 悲運の名将・山中鹿之助をその祖とする鴻池一族。天下の台所大阪で大
名貸しを行い、融資を受けている大名はすでに五十四家。一方では、武装
集団を設け、さらに、公家への接近を図るなど不敵な動きがみられた。幕府
では、この一族の野望を断つべく極秘裏に中町奉行を地下に潜らせひの檜
十蔵をその秘密与力に任じた。

 期待の大型新人が史実と虚説の織り成す奇想天外なストーリーを展開さ
せ、時代小説に新たな魅力をひらく長篇。

  


 町田 富男
                  
 
徳川三代の修羅

光文社文庫

★★★

 初めて読んだ作家である。
 五所川原の郊外にある小さな書店がなにげなく立ち読みをして、しばし歴
史の世界に引きずり込まれた。しっかりした文体で読ませる作家で深い歴史
の素養と人間を洞察する確かな眼を持っている。
 
 三代将軍の候補となった竹千代・国松は兄が暗愚、弟が驕慢で、どちらも
将軍にはふさわしくない。そこで秀忠が打った手は・・・・・・・。暗愚だった竹
千代が疱瘡を機に突然勇猛果敢に大変身・・・・・。
 一面的な見方をすれば、ありもしない作り事のような展開となるが、あくま
でもそれはこの物語の一部にすぎない。事実はきちんとおさえている。

 物語は自刃した駿河大納言忠長の自刃の場面に始まり、戦国時代に場面
を移してお市や秀吉と視野をぐんと広げて、この錯綜した時代を鮮やかに描
いてみせる。
 12才で登場する秀忠が初代と3代目の狭間にあって苦労する姿が克明に
描かれる。主人公だけでなく、それぞれの人物への思い入れも深い。

 隆慶一郎によって完璧なまでにこき下ろされた「徳川秀忠」が、この本では
息をふきかえしているのが嬉しい。

 
  

  

 獏 不次男
                                 
本名 阿部次男    昭和9年 弘前生まれ
弘前高校など県内の校長を歴任。
弘前ペンクラブ会長。同人誌「むうぞく」主宰。
著書 「謎問う標識」「秘密の子函」「花ものがたり」「風祭り」「長安の夢」「公儀隠密帖」など
    
この方の著書にコメントを書くのは畏れ多いが・・・・・。
  
津軽太平記
 

東奥日報社
 
 

★★★

 ここまで書ける作家に久しぶりに出会った。

 日曜日の朝刊に掲載されていたこの小説が目にとまったのは何時のことだろう。
 深浦に居た頃だから、土曜日に帰ってきて、ぼんやりした頭で朝刊のあちらこち
らを見ていて・・・・・「津軽」の文字に興味をそそられて何気なく読み出した・・・・・
そのうち活字に釘付けになり・・・・全部読ませられてしまった。
 いったいこの作家は誰だろう???。ともかくも始めから全部読まなくてはと思い
直し、これまでの朝刊を必死でかき集めた。しかし、全部は集まらない。ならば、こ
れ程の小説、いつかきっと本になるにちがいない、それまで・・・と一日千秋の思い
で待ち続けていた。

 この作家は教育畑を歩かれた方だけに、資料を丹念に読み込みその博識を随
所に織り込めて書いている。あとがきに「講談調、その手法は月光仮面、怪人二
十面相、鉄仮面等など子どもの頃に胸躍らせながら日々待ち焦がれていた紙芝
居・・・・・」と書かれているが、それはある種の謙遜である。荒っぽいようでいて緻
密な構成と史実の隙間を埋める想像力は素晴らしい。

 不思議なことに、何処からか聞こえてくる幻聴に促されながら・・・・・・不思議な
感覚のうちに書き終えた・・・・

 このあとがきの一節、南総里見八犬伝を書いた滝沢馬琴を思い出してしまう。・・・


 時は戦国時代。南部に支配される津軽に彗星のごとくに誕生した麒麟児大浦為
信。乱世暗黒の世を切り開こうという大望を持った為信は、岩木山を真正面に見る
小高い丘(後の弘前城本丸付近)で、旅の僧と運命的な出会いをする。
 この僧、名前を沼田面松斉と変えて、津軽統一に突き進む為信を陰に日に支え
続ける。(名だたる津軽家中にあっては、ほとんど無名に近いこの軍師に光をあて
てくれたのが何より嬉しい。)

 津軽統一までのさまざまな戦いが史実にのって語られるのも興味深い。
 また、秀吉との対面の場面などは、作者の「講談調」がいかんなく発揮され面目
躍如といったところである。
 弘前築城に際して、沼田面松斉が一代の大仕事、縄張りをする。ここでこの作家
の「易経」の広く深い知識が披露される。
    
 それにしても、この本、どこかを開いて読めばたちまち読み手を引き付ける。
 例えばP149を開くと・・・
  為信は秀吉との対面を成功させた面松斉を家老にし、千石を与えようとする。
  それを断わる面松斉。翌日金信就の自宅に招かれた面松斉が信就に言う。
  「能力以上の任につくことはひとつの咎と存ずる・・・・・・ 
   家老職ともなれば冷静かつ公平な耳目の役は勤まりませぬ・・・・」
 P238
  四神相応の地・・・・・吉を呼ぶ地として弘前が語られる

津軽隠密秘帖
 河出書房新社
★★★
 幕府対弘前藩の忍びの対決。
 弘前藩の家老服部長門の守。その配下の不思議な術を駆使する忍者団。
元禄妖犬伝

 河出書房新社

★★★

 青森図書館より借りて読む。
 時は元禄。将軍綱吉の治世。
 柳沢保明(後に吉保)は水戸光圀亡き後、自らの野望を達成すべく、黒鍬者頭
の小谷権兵衛、裏柳生・烈堂、天文・易学に詳しい渋川春海等を操って動き出
す。その策略とは・・高家筆頭吉良上野介を葬ること、そして、同時に外様大名
を巻き込んで取りつぶし、領地を召し上げること。不幸にも選ばれた大名は浅野
内匠頭守。
 黒鍬組が各所で、吉良上野介のありもしない悪評を捏造してばらまく。浅野内
匠頭守は癪の気があって苦しんでいたが、もともと「そりの合わない」上野介の
振る舞いが疳にさわりはじめ、松の廊下でその極に達する。そこまで追いつめる
ための柳沢保明の用意周到な仕掛け。同僚たちの知らぬふり、「顔色が悪い」と
の声がけ、仕上げは桂昌院つきの用人・梶川与惣兵衛が松の廊下で、浅野内
匠頭守に話しかける・・・。そして吉良上野介の叱責。吉良上野介は梶川の声が
けを叱責したのだが・・・。
 松の廊下で刃傷事件が起こるまでの過程を、作者の独特の推理で描き出して
いる。
「わたしの脳裏には読書から得た知識とか、偶然手に入った資料の断片にわず
 かばかりの経験を混ぜ合わせて、それに夢という名の酵母を添加したした古び
 た樽がいくつか転がっている。・・・長い時を経て樽の中身が発酵したらしく、そ
 こから、摩訶不思議な妄想が流れ出したのである。」
      
           
   
            
 内村 幹子
          
  1985年 「今様ごよみ」で歴史文学賞(第10回)
 主な著書 「武蔵彷徨」「左遷鴎外」「海は哀し」「富子繚乱 」
             
時宗立つ

(新人物往来社)

★★★

 県立図書館で見つけ、一冊全部読ませられてしまった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 NHK大河ドラマにもなった「時宗」は読み応えがあった。
             (大河ドラマの原作は高橋克彦)
 18歳で執権となった北条時宗を丹念に描いている。
 歴史作家としてかなりの力量を持つ作家である。
 その他、3編の作品が収録されている。
  ・頼家無惨  ・波の彼方へ  ・摂家将軍
炎いくだび

(新人物往来社)
★★★

前回読んだ「時宗立つ」が良かったので、県立図書館から借りて読んだ。
 この本の主役は高台院(豊臣秀吉の正妻・寧々)。
 関ヶ原の戦い、徳川家康の征夷大将軍即位・・・そして、大阪の陣。
 豊臣から徳川へと、世の流れが移りゆくさまを高台院はどのように思い
 で眺めたのか。その細部にわたって瑞々しく描いている。 
 
海は哀し

(新人物往来社)

★★★

内村幹子の三冊目を読む。二編収納されている。
 「海は哀し」
  承久の変に敗れ、隠岐に配流させられた後鳥羽上皇の生涯、乱を起こすまで
  の出来事や、乱の経過、その後の行く末が女院となった「重子」の目を通して
  語られる。
  重子は承久の変に連座して佐渡に配流となった順徳天皇(上皇)の母。
  愚管抄を書いた慈円も登場する。慈円は後鳥羽上皇の護持僧として仕えてき
  たことから、晩年に後鳥羽上皇のことを重子と語り合う。
  後鳥羽上皇の寵愛を受け、正妻西の方とともに隠岐に随行した亀菊(葉室麟
  作の「実朝の首」にも登場する「伊賀の局」)も描かれている。
  後鳥羽上皇が配流後に情熱を傾けた「新古今和歌集」に関わって、藤原定家、
  藤原家隆も登場する。定家は好意的には描かれていない。

 「花、残映」
  父観阿弥とともに能を大成した「世阿弥」は、六代将軍足利義教の勘気を受け
  佐渡に流罪となる。81歳の生涯をこの島で終えた世阿弥が懐古する・・。
  (一説には義教の死語、許されて帰洛したとも言われている。)
  自分を引き立ててくれた三代将軍義満のこと、藤若と呼ばれ義満によつて芸
  を磨かせられたこと。
  順徳上皇お手植えの桜を見に行く場面も登場する。

 二編に共通するテーマは「海」。

  
 
  
   
 
 
 葉室 麟 (はむろ りん)
              
  昭和26年 福岡県北九州市小倉生まれ。
西南学院大学卒業後、地方記者、ラジオニュースデスクを経て
平成17年、「乾山晩秋」で第29回歴史文学賞。
平成19年 「銀漢の賦」で第14回松本清張賞。
 主な著書 「乾山晩秋」「風渡る」
                 
風花帖

★★★

 葉室凛。改めて言うまでもなく凄い作家である。
 読み捨てのように次々と読んで・・・気がつけば19冊である。
 しかし、このこの作家には「汲んでも汲んでも枯れない井戸」のようなところが
 ある。

 この本は男の生き方を教えてくれる。
 夢想願流を使い、時にはムササビのように自在に跳躍できる印南新六。
 しかし、どこか、人の目を惹かず、人を寄せ付けないところがあった。
 そんな新六に、何のわだかまりもなく話しかけ優しくしてくれる吉乃。
 新六は吉乃に惹かれ、この人のためならば・・・と、深く心に秘めている。

 史実にある「九州・小笠原藩 白黒騒動」を舞台に、新六が縦横に行動する。
 フィクションであるが、男ならばこんな生き方をしたみたい・・・そんな想いを
 抱かせてくれる秀作。
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 内容紹介(「BOOK」データベースより)
 江戸後期、白黒騒動が激化する小倉藩。
 勘定方の青年・印南新六は、かつて生涯をかけて守ると誓った女性・吉乃の
 ため、 刺客として騒動の中心に巻き込まれてゆくが──。
 互いに思いを通わせながら、同じ道を歩むことができなかった男女の運命を
 描く感動の長編時代小説。

 「お主は清く生きようをしすぎる。
  ひとはどれほど汚れて生きてもよい生き物だとは思わぬか」 

影踏み鬼

新撰組

篠原泰之進日録

★★★

 葉室凛が取り組んだ幕末の世界。
 元久留米藩士・篠原泰之進に焦点をあてたのが興味深い。
 尊王攘夷は草莽の志士によってなされるべきである。藩士であれば、尊王
 の立場に立てば、大名である主君と天皇と二君を戴くことになってしまう。
 そのように、吉田松陰と考えを同じにする伊東甲子太郎に啓蒙され、篠原は
 新撰組に入隊する。伊東は新撰組の初期の狙いが尊王攘夷にあったと信じ
 て疑わなかった。純粋な人であった。
 しかし、新撰組は次第に方向を変えていく。
 近藤勇は「幕臣、さらに大名へのあこがれ」を持って、その実現のために新
 撰組の隊員を利用したのである。新撰組は次第に近藤や土方の私設集団
 のようになっていく。(この見方も興味深い。なるほどと思わせる)
 長州征伐に出陣した新撰組は、なんと、近藤の後に近藤家の旗を掲げるの
 である。
 伊東甲子太郎は新撰組と別れ、篠原や一統を引き連れ、新撰組を「分離」
 篠原の徳張りで朝廷から「御陵衛士」という役目を戴くことが出来た。
 近藤と土方はやがて、目ざわりとなった伊東甲子太郎を暗殺。

 篠原は伊東の敵として、近藤と土方を追い、赤報隊にも身を投ずる・・・。
 そして心を寄せていた萩野親子の行方も分からなくなる。

 明治25年。65歳になっ篠原は久しぶりに東京に出て、意外な人物に出会
 った。それは新撰組きっての使い手と言われた斎藤一。かれは維新後、
 察官となったのだった。
 やがて、斎藤と別れた篠原は、ふと道沿いの小さな洋食屋を見つけた。
 惹かれるものを感じて入った店内で・・・・・
 やはり小説はこうでなくてはいけない。最後は涙が出そうになった。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 伊東甲子太郎を慕い新撰組に入隊、後に赤報隊に身を投じた
 久留米脱藩隊士・篠原泰之進。彼の眼を通じてみた新撰組の
 隆盛と凋落。 

秋月記

★★★

 筑前秋月藩士・間余楽斎が流罪になるという場面から始まる。
43歳の時に隠居してからも藩内に隠然たる勢力をもっていた余楽
斎は59歳となった今、自分の道を感慨深く振り返る。
 小四郎は六歳だった頃、妹が犬に襲われる場面に出会ったが、
足がすくんで動けなかった。以来、「逃げない」ということを心がける
ようになった。
 間の家に養子に入り、次第に藩の中枢を担っていく小四郎。
 秋月藩は財政困窮を極め、本藩である福岡藩に吸収される危機
が数度訪れる。小四郎は「織部崩れ」で家老の宮崎織部を失脚さ
せ秋月を救い、さらに大阪商人との折衝で藩の独立を保とうと奔走
する・・・。
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「それでは、わたしたちに後事を託して、自ら失脚されたというので
 すが。」
政治を行うとは・・・、捨て石になる者がおらねば何も動かぬ。後
 はお前らの仕事だ。
小四郎と織部の会話が強く心に残った。
 柚子の花咲く

★★★

 葉室 麟らしい一冊という感じがする秀作。
 家老である父に疎まれ家を出た永井清助は、やがて青葉堂村
 塾で梶与五郎と名を変え、子ども達に学問を教えて心機一転を
 図る。与五郎は学問を教えるというよりは、いつも子ども達と川
 遊びをするような教授だったが、その薫陶ょ受けた恭介、孫六
 庄屋の跡取り儀平らが育つ。「桃栗3年、柿八年・・」「柚子は
 九年で花が咲く・・」
 逆風の技(居合い)遣い手が梶与五郎や孫六を殺めるのだが、
 これも意外なようでそうでもない・・。恭介とともに塾で学んだ村
 の娘・おようも絡む。

 内容紹介から
少年時代に梶与五郎の薫陶を受けた筒井恭平は、与五郎が隣藩
で殺害された事実を知り、真実を突き止めるため鵜ノ島藩に潜入
するが――。人を愛すること、人が成長するということなど、人間
にとって大事なものを教えてくれる感動の長編時代小説。  

風の王国

黒田官兵衛異聞

 黒田官兵衛がキリシタンの国を打ちたてようと暗躍する。
 はじめ退屈な展開かと思ったが、謀攻関が原のあたりから次第
に本から目が離せなくなった。
最終章のあたりから「織田秀信」(信長の孫・三法師)が登場し、ガ
ラシャ夫人と絡んでくるのも興味深い。 
   ・太閤謀殺  ・秘謀   ・謀攻関が原  
   ・背教者    ・伽羅奢・・いと覚え書き・・
恋しぐれ
 与謝蕪村を中心にその周囲に係わった人々にふれている。
 蕪村が若い頃になした子・与八、嫁ぎ先とうまく折り合わず出戻る
 娘の「くの」、弟子の月渓、円山応挙・・。
 直木賞候補となった。しっとりした文が格調の高さを伝える。
銀漢の賦

★★★

 秋月記と似たところがある。
 異例の出世をとげ月ヶ瀬藩家老になった松浦将監。文武に優れ
 名家老と言われるが、晩年幕閣入りを目指す主君に疎まれ隠居
 させられる。
 しかし、国替えなど領民を苦しめる政策を画策する主君とその取
 り巻きを排除するため、思い切った行動に出る。
 その時、将監の真の味方となったのは、幼なじみの源五だった。
 源五は将監同じ幼なじみの百姓十蔵が一揆を起こしたとき、非
 情な態度をとった将監を許せなかった。以後一切の交わりを絶っ
 ていたのだが・・・。
 峠を越え、隣国に向かう将監が源五に言う。
 「わしは夕斎(将監の前の家老)とおのれがどう違うのかわから
  なかったが、やっとわかった。」
 「夕斎は失脚した時、ただ一人だった。しかし、わしには友がい
  た。」
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 内容(「BOOK」データベースより)
 少年の日を共に同じ道場ですごした家老と郡方役。地方の小藩の
 政争を背景に、老境をむかえた二人の武士の運命がふたたび絡
 みはじめた―。第14回松本清張賞受賞作。 
蜩の記

★★★

 第146回(平成23年度下半期) 直木賞受賞 
 やはり賞を受けるだけの作品だと思った。
 戸田秋谷の清廉にして潔白な生き方に共感を覚える。
 秋谷は疑いをかけられた不義密通事件の真実を語ることもなく、粛々とし
て死地におもむこうとしている。それは主君が一時的にせよ、秋谷と側室
のことを疑ったことによる。忠義を貫こうとする秋谷には耐えがたく許せない
ことだったのである。
 ここに登場する「悪役」の家老・中根兵右衛門の生き方、一方では秋谷に
好意ももっている面が描かれ、興味深い。
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 内容紹介(「BOOK」データベースより)
 鳴く声は、命の燃える音に似て―― 命を区切られたとき、人は何を思い、
いかに生きるのか?
 豊後・羽根藩の奥祐筆・檀野庄三郎は、城内で刃傷沙汰に及んだ末、か
らくも切腹を免れ、家老により向山村に幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷の元
へ遣わされる。秋谷は七年前、前藩主の側室と不義密通を犯した廉で、家
譜編纂と十年後の切腹を命じられていた。
 庄三郎には編纂補助と監視、七年前の事件の真相探求の命が課される。
だが、向山村に入った庄三郎は秋谷の清廉さに触れ、その無実を信じるよ
うになり……。
 命を区切られた男の気高く凄絶な覚悟を穏やかな山間の風景の中に謳い
上げる、感涙の時代小説! 
霖雨(りんう)
 

★★★

 広瀬淡窓の思想や人となりがよくわかる。
 広島からやってきた分けありの兄弟、臼井佳一郎と千世の行動や
 塩谷郡代の「官府の難」を通して、淡窓像が描かれている。
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 内容紹介(「BOOK」データベースより)
 天領である豊後日田(大分県日田市)で、私塾・咸宜園を主宰する広瀬淡
窓(儒学者・詩人)と家業を継いだ弟・久兵衛の物語。入門にあたり年齢・学
歴・身分を問わない淡窓の教育方針は当時としては画期的。全国から入
門希望者が集まったが、お上にとっては危険な存在で、西国郡代からのい
やがらせが続く。
 一方、掛屋を営む弟の久兵衛も、公共工事を請け負わされ、民の反発を
かって苦境に陥っていた。
 そんな折、大塩平八郎の乱に加わった元塾生が淡窓のもとに逃げてくる。
お上に叛旗を翻した乱に加わった弟子に対し、淡窓はどんな決断を下すの
か。また久兵衛は難局を乗り切ることができるのか。
 本書は、直木賞作家である著者がデビュー以来、温めてきた題材。手を
携えて困難に立ち向かいながらも清冽な生き方を貫こうとする広瀬兄弟の
姿を通し、「長い雨が降り続いて心が折れそうになっても決して諦めてはい
けない」というメッセージが切々と胸に迫る歴史小説。 
蛍 草
 

★★★

 これこそ葉室ワールド。
 夜に読んだら、眠れなくなるほど没頭してしまい、何とか踏ん切りをつけて
 就寝。翌朝、食事の後本を手に取り一気に読んでしまった。

 市之進が囚われ他藩にお預けとなった後、質屋・お舟の持家(あばら家)に
 身を寄せ、実家からの野菜を売り歩く奈々
 市之進の妻・佐知との約束を守り、二人の子どもを育て上げようとする奈々。
 それは姉のように慕う佐知への恩返しであった。
 そんな佐知の前に立ちふさがる轟平九郎。平九郎はかつて、奈々の父をも
 切腹に追い込んだ男だった。
 市之進の無罪を明らかにするために、平九郎と立ち合う奈々。
 奈々に剣の手ほどきをする剣道指南役・五兵衛(行き倒れのところに団子を
 食べさせた)、町を仕切る権蔵、幼なじみの宗太郎など、奈々を取り巻く人々
 の温かさも伝わってくる。
---------------------------------------------------
 内容紹介(「BOOK」データベースより)
 早くに両親を亡くし十六歳で奉公に出た菜々。
 菜々は武家の娘から女中に身を落としても、いつも元気よく朗らかで、心に
 一点の曇りもない。前を向いてゆく。切腹した父の無念を晴らすという悲願を、
 その十六歳の小さき胸に抱えながら。

 奉公先の主人の風早市之進が無実の罪を着せられてしまう。驚くことに市之
 進を嵌めたのは、無念 の死を遂げた父の仇敵その男だった。
 風早家の幼き二人の子を守るため菜々は孤軍奮闘し、そして一世一代の
 勝負に出る――
 個性豊かな登場人物たちが、じんわりとした温かみを醸成する。

 軽妙洒脱にして痛快な時代エンターテインメント! 
冬 姫

★★★

 葉室麟の違った面が出た秀作。
 信長の娘からみた、織田信長という人物、戦国の様相などが史実とともに語
 られて行く。人間の一生をダイナミックに描いていて、読後感が実によい。
----------------------------------------------------------
 内容紹介(「BOOK」データベースより)
 戦国の世、信長の娘が選んだ「女いくさ」
 信長の娘として生を受けながらも、母を知らず、信長の血をもっとも色濃く受
 け継いだ娘、孤独のうちに育った冬。
 父の命により蒲生氏郷のもとへ嫁ぎ、想いを交わしあう幸せな日々が訪れ
 るが―お市、茶々、江、ガラシャ…姫たちの戦いに翻弄されながら、ひたむ
 きに歩む。
 今もっとも注目を集める時代小説の旗手が、命を吹き込む新たなヒロイン。 
 生まれながらに背負った運命に翻弄されながら、夫・蒲生氏郷への愛と父へ
 の崇敬を胸に自らが信じる道を歩んでいく。
 その数奇な半生を辿る歴史長編。 
春風伝

★★★

 葉室麟の本を立て続けに読んだ。
 高杉晋作については歴史の知識もあって、新しい発見は少ない。
 (門井慶喜 「シュンスケ!」も伊藤博文を主人公にして同時代を描いている。)
 最初少し流しながら読んでいたが、次第に物語の中に引き込まれた。
 高杉晋作の奔走な生き方、脱藩を繰り返しながら、なぜかその度に重要な
 役目につく・・・。見せ場は、馬関(下関)で騎兵隊を組織。俗論派に染まった
 藩政を覆すところ。
 結核に倒れ、自分の役割を終える場面は涙を誘う。秀作である。
 春風は晋作の別名である。
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 内容紹介(「BOOK」データベースより) 
 この戦は日本国を守る戦である。死しても負けることは許されぬと心得よ。
 長州藩士・高杉晋作。本名・春風。幕府を守るべき彼が、欧米列強に蹂躙さ
 れる上海の姿に日本の未来を見た時、「レボリューション」の天命は下った。
 民衆を率いて四カ国連合艦隊と幕府から藩を守り抜き、徳川治世を散らす
 嵐となった男の奇策に富んだ戦いと、二十八年の濃密な生涯を壮大なスケ
 ールで描く、渾身の本格歴史小説。 

 疾風のごとく生きるとは、ひとより先を歩むこと。高杉晋作―時代を変革した
 男は生き方すべてが新しかった。詩と女を愛し、敵をも魅了した英傑の奇策
 に富んだ嵐の生涯!満を持して世に送る本格歴史長編。 

陽炎の門
 

★★★

 著者史上、最上の哀切と感動が押し寄せる・・
 内容紹介に書いてあるが、全くその通りである。
 この作家の本はその時々にもっとも読みごたえがあると感じてしまうのだが、
 現時点では、この「陽炎の門」が至高たであると思う。
 氷柱(つらら)の主水と呼ばれる桐谷主水は、かつて藩主を誹謗する落書の
 筆跡が親友のものであると証言した過去を持つ、さらにその親友の切腹に際
 して解釈もしている。
 若くして執政となった主水に、親友の子・喬之介から仇討の話が舞い込む。
 喬之介は「百足」と名乗る者から、「父の敵は主水である」とそそのかされて
 いた。
 百足の周到な計画に乗せられていく主水。
 かつて親友とともに、後世河原の争いを止めに行ったことがあった。
 争いは止まず、そこに現れた覆面の武士たちが、傷を負った者たちを面白半
 分に痛めつけた・・・。
 後世河原の争いが関係しているのか。百足は何者・・・。
 息詰まるような展開、主君に仕える武士としての生き方とは・・・。
 百足は驚愕するような人物だった。氷柱の主水はどうする・・・。
 サスペンスを歴史読み物に大胆に持ち込んだような傑作である。
 主水の氷柱のような冷静な判断と行動力を持ちたいものである。
--------------------------------------------------------
 内容紹介(「BOOK」データベースより) 
 友を陥れてまで、己は出世を望んだのか――。若き執政がゆく道は、栄達か、
 修羅か。
 職務において冷徹非情、若くして執政の座に昇った桐谷主水。かつて派閥抗
 争で親友を裏切り、いまの地位を得たと囁かれている。三十半ばにして娶っ
 た 妻・由布は、己の手で介錯した親友の娘だった。
 あるとき、由布の弟・喬之助が仇討ちに現れる。友の死は己が咎か――
 主水の足元はにわかに崩れ、夫婦の安寧も破られていく。
 すべての糸口は、十年前、主水と親友を別った、ある〈事件〉にあった。

 著者史上、最上の哀切と感動が押し寄せる。組織を生き抜く者たちへ--直木
 賞作家・葉室麟の最新作! 峻烈な筆で描き出す、渾身の時代長編!!

おもかげ橋

★★★

 葉室ワールドの典型のような作品。
 内容紹介が詳しいので、簡単に。
 弥市に持ち込まれた縁談に登場する「福餅」の弥生の覚悟が良い。
 二度、先夫に死なれ、弥市にに託する想い・・テーマとは関わりが薄いが・・
 それにしても、二人の男からの想いを懸けられた萩乃が何とも・・。
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 内容紹介(「BOOK」データベースより)
 武士とは命懸けで人を信じるもの――。
 三人の男女の儘ならぬ人生を哀歓豊かに描く、傑作時代小説! ! 

 宿縁で結ばれた三人の男女、一生に一度の純恋の結末とは?

 剣は一流だが道場は閑古鳥の鳴く貧乏侍・草場弥市と、幼馴染みで武士の
 身分を捨てて商家に婿入りした小池喜平次。
 二人は、彼らを裏切り国許から追放の憂き目に合わせた勘定奉行の娘で、
 初恋の女・萩乃の用心棒を引き受ける。16年ぶりに再会した萩乃の変わらな
 い美しさに心乱されるなか、父・民部から夫への密書を携えた萩乃の身に危
 険が迫る。
 一方、国許では、かつて化け物と呼ばれた男が藩政に返り咲き、復讐という
 見えない魔の手が、二人に忍び寄っていた――。

 二度と戻れぬ故郷、忘れたはずの初恋の女、信じる友との絆……。
 儘ならぬ人生と初恋の結末を哀歓を豊かに描く、傑作時代小説! ! 

潮鳴り
 

★★★

 一気に読ませられてしまった。
 櫂蔵が弟の無念を晴らすために酒を断ち、藩に復帰する・・・
 その後の展開に釘付けにさせられた。
 櫂蔵の復帰を支えた者たちも捨てがたい。
  湊の飲み屋で、時には客に身を任せたという、お芳
  継母で櫂蔵とはそりの合わなかった染子の真の姿
  江戸の大店の番頭だったが、今は俳諧師の咲庵
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 内容紹介(「BOOK」データベースより)
 『蜩ノ記』の感動から二年。豊後・羽根藩を舞台に〈再起〉を描く入魂作! 

 どん底を、なお生きてこそ――
 落ちた花を再び咲かすことはできるのか?
 襤褸蔵と呼ばれるまでに堕ちた男の不屈の生き様。

 生きることが、それがしの覚悟でござる―― 
 俊英と謳われた豊後・羽根藩の伊吹櫂蔵は、狷介さゆえに役目をしくじり
 お役御免、
 今や〈襤褸蔵〉と呼ばれる無頼暮らし。ある日、家督を譲った弟が切腹。
 遺書から 借銀を巡る藩の裏切りが原因と知る。前日、何事かを伝えにき
 た弟を無下に追い返していた櫂蔵は、死の際まで己を苛む。
 直後、なぜか藩から弟と同じ新田開発奉行並として出仕を促された櫂蔵
 は、弟の無念を晴らすべく城に上がる決意を固める。
  『蜩ノ記』に続く、羽根藩シリーズ第2弾! 

山桜記

★★★

 九州の武家の妻が主人公となる短編、連作集。
 名作である。読み手に感動を与える。

  「汐の恋文」 竜造寺政家の家臣の妻・菊子
  「氷雨降る」 有馬晴信の妻となった公家の娘。
  「花の陰」 細川ガラシャの息子・細川忠隆と妻の千世。
  「ぎんぎんじょ」 竜造寺家の母から家臣・鍋島直茂の継母となった慶ぎん
           尼と直茂の正室、彦鶴。
  「くのないように」 徳川家康の十男、頼宜に嫁いだ加藤清正の娘。
  「牡丹咲くころ」 立花忠茂の妻となった伊達政宗の孫娘は伊達騒動で・・・。
  「天草の賦」 天草四郎の命を救おうと、万という若い女性が・・。
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 内容紹介(「BOOK」データベースより)
 徳川頼宣に嫁いだ加藤清正の娘八十姫の秘話、鍋島直茂の妻と姑の間の
 ふとした会話、伊達家から立花へ嫁に来た母の実家への想いなど。 
 著者初の珠玉の短編集。 

 担当編集者より 葉室麟「山桜記」
 本作は著者にとって初めてとなる短編集となります。
 戦国時代や江戸時代の女性は、自分の意思を持たず、政略結婚を無理強
 いされ、時代の犠牲者というステレオタイプの解釈に一石を投じるつもりで、
 連載したと著者は話しています。
 加藤清正の娘で、徳川頼宣に嫁いだ八十姫の想い。
 鍋島直茂の妻彦鶴と姑の不思議な会話の意味とは。
 前田利家の娘で細川忠隆との仲を引き裂かれた千世の悲話など全七編の
 珠玉の短編が収録されています。

緋の天空
 

★★★

 これまで武士社会を描くことの多かった、この作家の新境地ではないだろう
 か。
 藤原氏の出で初めて皇后になり(皇族以外からの皇后)、聖武天皇とともに、
 仏教普及に努めた光明子。
 東大寺、国分寺の設立に尽力。
 また、貧しい人に施しをするための施設「悲田院」、医療施設である「施薬
 院」を設置して慈善を行った光明子。
 この方を主役にした小説はあまり読んでいなかったので、興味深く読むこと
 ができた。
 この時代のいろいろな出来事、長屋王の変、藤原広嗣の変、吉備真備、僧・
 玄ムの政治への参加など、整理しながら読み進めることもできた。
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 内容紹介(「BOOK」データベースより)
 奈良時代。皇位継承をめぐる権力争いが長年続くなか、藤原家の一族とし
 てこの世に生を享けた少女がいた。
 時の権力者である父・不比等からは「闇を払う光となれ」と光明子と名づけ
 られ、母からは
 「この世を鎮め、穏やかならしめるのは女人の力」であり、その務めを果た
 すようにと育てられた。
 やがて少女は首皇子の妃となり、その即位により聖武天皇の皇后へ。
 光明皇后の誕生だった。
 だが、聖武天皇の世になってからも権力をめぐる策謀や戦いは止むことなく
 、追い討ちをかけるかのように天変地異や流行病が次々と襲いかかる。
 女人として、母として、皇后として、自らはどのように歩むべきなのか。
 悩み苦しんだ末に光明が辿り着いたのは、この国のすべてのひとびとが安
 らかに暮らせるよう、祈りを捧げるための大仏を建立することだった――。
  幾多の困難を乗り越えながら、国を照らし続けようとした女性の生涯を辿る、
 珠玉の歴史長編。 

 父・藤原不比等の願いが込められたその名を胸に、一人の少女が歩みだす。
 朝廷の権力争い、相次ぐ災害や疫病…。混迷を乗り越え、夫・聖武天皇を
 支えて国と民を照らす大仏の建立を目指す。
 光明皇后、その生涯が鮮やかに蘇る渾身の歴史長編。 
 奈良時代。皇位継承をめぐる権力争いが長年続くなか、藤原家の一族として
 この世に生を享けた少女がいた。

峠しぐれ

★★★

 北原亞以子「木戸番小屋」に似たところがある。
 この作家の描く人情味溢れ、優しさが漂う良作である。
 世継ぎを巡る争いを治めるために、兄の身代わりとして江戸に向かう男装の
 姫の事件では、娘を国元に残している志乃の心遣いと気丈な行動が描かれ
 る。
 また、盗賊の娘として母に従いながらも反発するゆりを助ける半平。
 後半は2人が出奔した国元の騒動。
 志乃の元夫の天野宮内の失脚。命を狙われる宮内。
 宮内・志乃の娘・千春は隣藩の許嫁の家老一族にすがろうとする。
 志乃、半平はそれぞれに千春、宮内を助けようと動き出す。
 一気に読ませられる。読後感も良い。
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 内容紹介(「BOOK」データベースより)
 岡野藩領内で隣国との境にある峠の茶店。
 四十過ぎの寡黙な半平という亭主と、「峠の弁天様」と旅人から親しまれる志
 乃という三十半ばの女房が十年ほど前から老夫婦より引き継ぎ、慎ましく暮
 らしていた。
 ふたりは武家の出らしいが、詳しいことは誰も知らない。
 ある年の夏、半平と志乃を討つために隣国の結城藩から屈強な七人組の侍
 が訪ねてきた。
 ふたりの過去に何があったのか。なぜ斬られなければならないのか。
 話は十五年前の夏に遡る―。『蜩ノ記』『川あかり』の著者による傑作時代
 小説。 
実朝の首

(新人物往来社)

★★★

 県立図書館で三分の一ほど立ち読みし、借り出して全部読む。・・
 実朝の首が最後まで見つからなかったという史実を、何処かで聞いたような気
 もするが改めて知った。
 第1章〜第12章の題を記録しておく。
  ・雪の日の惨劇 ・首の行方 ・廃れ館 ・秘策 ・和田党
  ・弔問使 ・将軍家の姫君 ・首桶 ・伊賀の局 ・新将軍東下
  ・箱根峠 ・人もをし
 読み応えのある一冊。
 内村幹子を読んだ時と同じ充実感がある。 
 
 
   
 
 
 岡田秀文
               
 1963年 東京生まれ。明治大学農学部卒業。製薬会社勤務。・・・・
 1999年に「見知らぬ侍」だ第21回小説推理新人賞を受賞。
  主な著書 「本能寺六夜物語」がある。
  「太閤暗殺」で第5回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した。
                   
太閤暗殺

(新人物往来社)

★★★

 序章は、「お拾い」一歳の誕生日の祝儀の場。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 秀吉は、甥の秀次が関白職をお拾いに譲ることを痛切に願っているが、ど
 うにもならぬ状況に絶望感を抱く・・・。

 関白秀次に仕える木村常陸介のところに、追い詰められた石川五右衛門
 の一味が逃げ込んだことから事件は始まる。
 毛利からの誓約書をネタに、常陸介を脅し庇護を約束させた五右衛門は、
 秀吉の暗殺を請け負う。
 実は、五右衛門は以前に仙石秀久の屋敷を襲った際、所司代の前田玄以
 の手により捕縛され、秀吉の面前に引き出された後、「釜茹で」の刑になっ
 た・・ことになっている。なっているというのは、五右衛門が絶体絶命の牢を
 簡単に破って逃走したからである。「釜茹で」になったのは仕立てられた別
 の罪人である。
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 常陸介との約束で秀吉の暗殺を請け負った五右衛門の暗躍。
 小虎、長丸、石千代とともに伏見城に忍び込む・・。
 五右衛門に協力する大工の甚五郎(本人か、孫が左甚五郎?)
 いずもの阿国。
 伏見城で待ち受ける石田三成、島左近。
 川を泳ぎ、堀をわたり、塀を伝い・・火薬を使いながら秀吉に迫る五右衛門
 だが、ついに捕まり秀吉の前に引き出されて・・・。
 
 鍵を握る小沼兵太夫の存在。五右衛門が難なく牢を破った謎は?
 所司代・前田玄以の推理。
  錠前は当代一流の錠前作り・政平が作った世に二つとない物。しかも鍵は
 玄以だけが持っている。物語の最大のミステリーである。このあたりを読む
 と、本書がただの歴史物でないことがわかる。
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 事件は予想外の締めくくりを見せる。陰で操っていた人物とは・・。

本能寺

十六夜物語

★★★

  今から約380年ほど前、とある山中の寺の客殿に集まった者たちが語る6
 つの逸話。作者はこの寺があったとおぼしき辺りを散策したが、出火後痕
 跡をとどめることもなく忘れ去られていた・・序。
  ・第一夜 「最後の姿」」
    同朋(茶坊主)として信長の側に仕えた勝吉は、本能寺の変から15年
    後、伏見城で盗賊が死んだという。勝吉はお経をあげるように言われ
    死んだ盗賊の面体を改めると、その顔は焼けただれ、左の脛に銃創
    の古傷が・・・。
  ・第二夜 「ふたつの道」
    穴山信君の側に仕えた侍の話。
    本能寺の変の後、堺にいた信君と徳川家康は窮地に陥った。
    宇治田原の先の道は二つあった。険しい山道と野武士が待ち受ける
    道。信君は金子を存分に貰い、野武士が居る道を行く。
    そして、家康は・・・。
  ・第三夜 「酒屋」
    酒屋の身代を持ち崩し、遠州屋の手代となった男が語る。
    信長の馬廻り役・小沢六郎は遠州屋に泊っていたが、本能寺に駆け
    つけるのが遅れ、二条御所にいた信忠のもとに参じ殉じた。男は小沢
    の武士としての潔さを眼前に見た。
  ・第四夜 「黒衣の鬼」
    信長を悪魔と考えているる修道士・ロザリオの奇行。
  ・第五夜 「近くで見ていた女」
    森蘭丸に恋心を抱く下働きの女。
  ・第六夜 「本能寺の夜」
    最後に登場する老武士。
    この話が本能寺十六夜物語の中心を成すものであろう。
    光秀が何のために信長を討ったのか・・・。
    新解釈を取り入れた思い切った仮説を老武士の口を通して語らせて
    いるのである。安土城を築いた時から信長は神になろうとしていた節
    があるが、これはその説も取り込んだものである。
  ・最後に六人を招いた黒衣の宰相が姿を現すが・・・。すべては過去の出
   来事であり、時代はとうに変わっている。
見知らぬ侍

(双葉社)

★★★

 太閤暗殺に続く二冊目。この作家のすごいところは出だしから中盤まで、
 謎を膨らませていくことであろう。読者は次第に深まる疑惑と先の読めな
 い筋に戸惑いながら必死に先を読ませられることになる。
 ・幻女夢幻
   夢に出てくる「おゆう」に心を寄せた源之助であったが、見合いで出
   会った「さち」に惹かれ結婚を決めたが・・・。やがて「さち」に次々と
   変事が起こる。さちの弟・新太郎と立ち会った源之助は・・・。
 ・見知らぬ侍
   これは全くのどんでん返し。
   由亀殿にあてた手紙「今日不思議な体験をした・・・」で始まる。
   坂本信輔は、(以前に大阪で帳簿の監査の時に知り合った)斎藤彦
   右衛門を訪ねたが、これが全くの別人であったという奇想天外な話。
   家老の坂淵大膳、藩主の連枝になっている緒方信君、親友の門井
   数馬、使用人の喜助・・・。関係者を巻き込んで坂本が犯人捜しを
   するという展開で進められる。意外な結末が待っている。
 ・まぶたの父
   伊勢屋が解体され、その作業中に20年ぶりに与市の父・平助の
   死体が発見される・・・。犯人捜しをする与市と、やつれていく母・お
   みよ、2年前に出て行った女房・おまさ。手習いや算盤をむりやりや
   らされている息子の良太・・・。意外な結末。
 ・地獄が原の仇討
   兄・海野平八郎を中村又左衛門に殺され、兄嫁と一緒に仇討の旅
   に出た新之助は、首尾よく仇相手に巡り合う・・・。
 ・絆
   織田信長の弟・勘十郎信行の忘れ形見である七兵衛に仕える「私」が
   語るという形式で進められる。七兵衛はやがて信長に認められ「津田
   信澄」として、織田一門の中で地位を認められていく。
   「私」はある日、津田信澄の領地となった村落で、「楓」とめぐり会った。
   結婚を決意する二人に叔父の平左衛門は頑なに反対する。
   やがて、本能寺の変。大阪にいた三男の信孝は光秀の娘を妻にして
   いた津田信澄を疑い攻めた・・・。 
魔将軍

(双葉社)

★★★

 室町幕府6代将軍・足利義教。
 この将軍についてほとんど知識がなかったので興味深く読んだ。
 足利義満が限りなく愛し、次の天皇に立てようとした鶴若丸が北山第の
 能の舞台華やかな姿を見せる・・という場面から始まる。
 既に四代となっていた義持は、義満が暗殺されると鶴若丸を失脚させ、
 罪をきせて殺してしまう。
 義持の死後、五代目義量は早世。次の将軍を誰にするか。義満の猶子
 で、将軍三代にわたって政治顧問となっていく満済を中心に「籤引き」で
 将軍は決められた。鶴若丸の陰に隠れ、十歳で青蓮院の預けられてい
 た幼名・春寅。これが6代将軍・足利義教である。
 後に魔将軍と呼ばれるようになる義教は幕府の力を強大化するために
 次々と改革を断行。有力大名や比叡山の反感をかうが信じた道を突き
 進む。
風の轍
(わだち)
 

(光文社)

★★★

 これは名作である。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 越前の豪商・鍋屋の娘・志乃の波乱の半生を描き切った大作。大河ドラ
 マを見ているような感じて読んだ。短編集も面白いが、雄大な構想をもと
 に書かれた長編の醍醐味は格別である。

【出版社/著者からの内容紹介を引用】
 この面白さ、まさに戦国版『風と共に去りぬ』
 信長がのし上がらんとする戦国の世。
 越前随一の伝統ある商家のおてんば娘・志乃は、新進の商家の次男と
 政略結婚させられそうになったが、その寸前に家の不正がばれ、一族は
 死罪。なんとか逃げ出した志乃だったが、彼女の激浪の如き人生はそこ
 から始まった・・。 
【作中の一部引用】P454
 ・・・無謀ともいえる冒険を好む鍋谷の血が自分にも確かに流れている。
 間違いなく自分は宗右衛門の子だ。地道に安全な道を進むだけでは
 飽き足らず、ときには破滅の道かと疑いつつも突き進まずにはおれない。
 ・・・・鍋谷の総領娘、志乃の宿命なのだ。

 落ちた花は
 西へ奔れ

★★★

 これは読み応えがあった。
 片桐且元、本多正純の暗躍。
 正純の命を受けて大阪城に入り込み秀頼にうまく近付いた平山長十郎、
 薩摩の間者と思われる茜、真田幸村の一子大助。
 大坂所の落城後、彼らは秀頼とわずかの近習とともに百瀬屋敷に逃れ、
 堺に移って、薩摩を目指す・・・
 内容(「MARC」データベースより) 
 大坂城落城ののちに、真田大助らとともに西へ落ちる豊臣秀頼。家康の
 奸智と薩摩の意地が、関ケ原の遺恨を甦らせる! 陰謀渦巻く慶長の乱世
 を、手に汗握る活劇で描いた時代小説。 
 関ヶ原
 これまで関が原の本はいくつか読んでいる。
 その中では司馬遼太郎のものがやはり傑出している。
 関が原の戦いに臨んだ各武将の思惑、東西どちらにつくか揺れる心、石
 田三成の行動と心理など・・・細やかに大胆に描いている。

 この岡田秀文という作家。
 以前読んだ「見知らぬ侍」「魔将軍」「風の轍」などを読んで凄いと思った。
 読者を誘い込む仕掛けが旨い。文章も読みやすい。
 歴史作家ではかなりのものだと思っている。
 岡田秀文の「関が原」は、私がある程度知識をもっているせいか真新しい
 ものは少ない。丁寧に読みやすく書かれているという印象。

 ただ、内容紹介にあるように、秀吉の正妻だった北の政所、「徳川の世」に
 なるのは仕方のないことという境地に到りながらも、それでよいのかと迷う
 す姿、自分は何をすべきなのかというあせり・・・が描かれていて興味深い。
 甥の小早川秀秋との関係も。

 三成の娘・辰の存在も良い。
 津軽との関係と辰のその後も触れられている。
 -------------------------------------------------------
 内容(「MARC」データベースより) 
 天下の覇者・豊臣秀吉が死去したことにより起きた豊臣家の内紛。
 秀吉の恩に報いようと西軍をまとめる石田三成と、天下への野望を持つ
 東軍の徳川家康が激突。
 世に名高い関ヶ原の合戦を、秀吉の正室・寧々の視点を交えて描く。
 不仲だといわれてきた寧々と三成の関係に新解釈を加える意欲作。 

 秀吉の死後に豊臣家で起きた内部抗争を、三成の娘・辰姫を養女にし、
 天下の平安を願い続けた寧々はどんな思いで見ていたのか?
 三成・家康の視点を交えて描く「寧々の関ヶ原」。 

  
 


 中村 彰彦
                   
 1949年 栃木市生まれ。東北大学文学部卒。・・・・・・・・・・・・
 文藝春秋勤務を経て文筆活動に専念。
『風船ガムの海』で第34回文學界新人賞佳作入選。 
『明治新選組』で第10回エンタテインメント小説大賞を受賞。
『五左衛門坂の敵討』で第1回中山義秀文学賞。
『二つの山河』で第111回(1994年上半期)直木賞。
『落花は枝に還らずとも』で第24回新田次郎文学賞を受賞。
  (一部、フリー百科事典『ウィキペディアを参考にしました。)
         
北風の軍師たち

上下

(公論新社)

 川越藩、庄内藩、長岡藩の三方所替えが幕府から命じられた。
 これに敢然と立ち向かう、玉龍寺文隣と庄内の農民たち。
 川越藩の忍び組・丹波多三郎が一方の主役として登場する。
やがて、農民たちを支えた佐藤藤佐(さとうとうさ)、江戸の町奉行・矢部
定謙(さだのり)らの義侠心がこの騒動に決着を付ける。
 作者・中村は鶴岡市立図書館所蔵の膨大な関係資料を参看したという。
 この騒動には大御所・徳川家斉、その寵姫たち、川越松平家、老中水野
 忠邦のグループと、これに対抗した庄内酒井家、酒田本間家の思惑が
 複雑に絡んでいたという。

 丁寧にしっかりした文体で書かれた(上・下)2冊を読むのは、結構大変
 だった。

  
     

  


 和田 
                       
 1996年 大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒・・・・
 2003年 映画脚本「忍の城」で第20回城戸賞受賞。
 2007年 同作を小説化した「のぼうの城」で作家デビューを
      果たす。忍びの国は小説2作目。
         
忍びの国

(新潮社)

 伊勢の国司・北畠に婿入りし、実質的に北畠を滅ぼし手中に収めていく織田信雄。
 そして、織田信雄の矛先は伊賀へ向けられる。
 伊賀の地侍や下人の実態、その思惑などを描いていく。
 巻末に参考文献が30数冊掲げられている。忍者や伊賀上野についてかなり詳細
 に調査して書いたものと思われるが、フィクションという感じは強い。
 どんな所へも忍び込み変幻自在の活躍をする「無門」。彼が安芸の国から連れて
 きたお国との関係は面白おかしく書かれている。
のぼうの城

★★★

 「のぼう」の意味は「でくのぼう」からきている。なにをやっても駄目。誰かが助けて
 やらないと何もできない・・・そのように周囲の武士や領内の百姓から思われてい
 る成田長親。彼は城代の息子であった。
 秀吉の小田原責めが始まり、石田三成、長束正家等は小田原の支城の一つであ
 る忍城を攻める。そしてなかなか落ちない忍城を水攻めにすることにした・・。
 そもそも、城主の成田氏は小田原城に駆けつけるが、密かに秀吉に内通する密書
 を送り、忍城も無欠開城するはずだったのだが、長束正家の高圧的な態度と城主
 の娘である甲斐姫の引き渡しを求められた「のぼう」(長親)は突然宣戦布告をして
 しまったのである。
 「将の器とは何か」考えさせる一冊である。「のぼう」が戦うならと、一団結した百姓
 達。のぼうが鉄砲で撃たれたのを見て、水攻めのための堤を切り崩す人夫。
 忍城・・大宮→熊谷(新幹線)  → 行田(高崎線)
村上海賊の娘

上巻

 集大作という感じはあるが、この作家の軽妙な筋運びで、史実を超える部分が
 多いと思われる。
 村上水軍と織田軍との熾烈な戦いは下巻に引き継がれるようだ。
 村上武吉の娘・景が男勝りで残虐性も持ち、海賊衆から一目置かれる存在だと
 いうこと、瀬戸内の海が多数の小島からなり、複雑になっていることなどが語られ
 る。
 後半は一向衆の百姓を助けた景が、自分と同じ容貌の者がいると思われる堺を
 目指すあたりから。後半は景が身を寄せた泉州の海賊達(信長に加勢)と大阪
 本願寺の戦い。本願寺の海に面した出城・期木津砦、信長側が守る天王寺砦の
 攻防である。
 この戦いに多数のページを割いている。
 これをもっと圧縮して緊迫感を出せば上巻一冊で悠に済むと思われるのだが・・
 緻密な作戦や駆け引き、戦場の凄まじさなどが今ひとつである。
 劇画をみているような感じもある。
-------------------------------------------------------
 内容(「MARC」データベースより) 
 『のぼうの城』から六年。四年間をこの一作だけに注ぎ込んだ、ケタ違いの著者
 最高傑作! 
 和睦が崩れ、信長に攻められる大坂本願寺。毛利は海路からの支援を乞われ
 るが、成否は「海賊王」と呼ばれた村上武吉の帰趨にかかっていた。
 その娘、景は海賊働きに明け暮れ、地元では嫁の貰い手のない悍婦で醜女だ
 った…。 
 景は上乗りで難波へむかう。
 家の存続を占って寝返りも辞さない緊張の続くなか、度肝を抜く戦いの幕が切っ
 て落とされる! 第一次木津川合戦の史実に基づく一大巨篇

 

      

    

 梶 よう子
                        
 東京都生まれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
 フリーランスライターのかたわら小説執筆を開始し、
 2005年 「い草の花」で九州さが大衆文学賞大賞受賞。
 2008年 「一朝の夢」で松本清張賞を受賞し、
       みちのく忠臣蔵で単行本デビューする。
         
みちのく忠臣蔵

(文芸春秋)

 一千石取りの旗本の息子・神木光一郎の目を通して、いわゆる。・・
「相馬大作事件」を描いている。参考文献が9冊掲げられているので
史実をもとに書かれたらしいことはわかる。ただ、事件そのものにつ
いてはほとんど詳細はない。その背景となった南部利敬公の死去に
伴って津軽藩の殿様の官位が上になるという事態。それを阻止する
ための相馬大作の行動、人柄等が主である。
 光一郎の親友、村越重吾、鳥取藩の元藩主松平冠山などが登場
する。
一朝の夢

(文芸春秋)

★★★

 北町奉行所同心・中根興三郎の眼を通して描く幕末・安政の大獄
桜田門の変。
 以下文藝春秋の「内容紹介」の項より抜粋。
---------------------------------------------------
 第15回松本清張賞受賞作の登場です。 中根興三郎は、同心とい
っても血なまぐさい事件には縁遠い、朝顔栽培が生きがいの男だ。
ある日、興三郎は宗観と呼ばれる壮年の武家と知り合い、朝顔を介
して心和む交流が始まる。だが時代は急展開を迎え、井伊大老と水
戸徳川家の確執など予断を許さない。また興三郎の同僚が息子を
斬殺して出奔するという事件を起こす。興三郎は、思いもよらぬ形で
井伊大老を中心とした歴史の転換点に関わっていく――。 「主人公
らしからぬ男の造形が面白い」(大沢在昌氏)、「小説の骨格がよく
できている」(夢枕獏氏)と、選考委員をうならせた新人作家の誕生
です。
--------------------------------------------------
 非常によくまとめられている。これ以上は書けない・・。
 巻末にアサガオや井伊直弼に関する参考文献が10冊載せられ
 ている。
 昔NHK大河ドラマで「花の生涯」というのがあったようだが、これ
 と同じように、井伊直弼を好意的に描いたものと思われる。
迷子石

(講談社)

 一日で読んでしまった。主人公の性格に合わせてのんびりしてい
るようでいて、周囲には風雲急を告げるような出来事が展開する。
 前記「一朝の夢」と同様読みごたえのある作品である。
 --------------------------------------------------
 羽坂孝之助は、富山藩十万石前田家の藩医だが、家督相続前の
部屋住みの身である。医者の仕事をほとんどさせてもらえず、(患者
と目を合わせられない・・)近くの子ども達を集めて絵を描かせている。
世事に疎い孝之助だが、藩内が江戸派と国許派に分かれて対立す
る中で、争いの渦に巻き込まれていく。
 幼なじみの村岡順也は刺客となり、孝之助の父が暗殺される・・。
 内容(「BOOK」データベースより)
見習い医師・孝之助は、趣味で版画絵を描いている。「富山の薬売
り」が売る薬に付けるおまけ絵だ。絵で小遣いを稼ぐ、宙ぶらりんの
おまけ者のつもりが、偶然、富山藩の存亡に関わるお家騒動に巻き
込まれる。
江戸家老の大陰謀を国許に知らせねば。そこで孝之助が思いつい
たのが版画絵を二枚使った巧妙な細工だった―。
見習い医師は、藩を救えるか。  
ふくろう
 太平の世に、新参者を苛めることに懸命な者たちと不当な扱いに
苦しむ者が描かれ、切なくなる。
 作者は「江戸の旗本事典」「驚きの幕臣社会の真実」などの参考
文献をもとに書き上げている。
 最終章・・・父の過去を知った鍋次郎は松平栄輔として、生き残っ
た者の一人安西伊賀の助のもとを訪れる・・・。
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 内容説明から
 伴鍋次郎は西丸書院番士に引き立てられるが、両親は喜ぶどころか
狼狽し、不安すら覗かせる。町で会った老武士には、初対面にもかか
わらず「許してくれ」と土下座される始末。
 自分はいったい誰なのか? しばらくして、同じ老武士にこんどは橋の
上で遭遇する。酔いつぶれかけていた老人は、鍋次郎の姿を認めるや
否や何事かを叫んで橋から飛び降りてしまう。老人の名が「神尾五郎」
ということまではわかるが、不審は募るばかり。
 そんな矢先、家で書物の整理をしていると、「鍋次郎」と記された自分
の名前の位牌と、父の昔の日記を見つける。日記には、鍋次郎が生ま
れたころの記述だけが欠落していた。自分は養子だったのだ。ほかに
も自分の出生に関して何か秘密があるにちがいない。意を決した鍋次
郎は、
 義父の高萩惣吾のもとを訪ねる。疑念をぶつけた鍋次郎に、惣吾は
鍋次郎の本当の父親「松平外記」の名を告げる。外記は惣吾の親友
だったという。惣吾の口から、松平外記の時を超えた悲しい物語が始ま
った。 
 親子三代道中記

お伊勢ものがたり

 この秋に伊勢神宮を散策したこともあり、興味を持った本である。
 江戸時代の伊勢参りはこんなものだろう・・と、思われる。
 途中の名物、川渡し、関所などま様子が語られる。
 物足りないのは、女3人と御師(外宮に宿を持ち旅人を案内する)の
 旅の危うさ、山中での追いはぎ・盗賊、ケガなどがほとんど描かれな
 いことである。水杯をかわして旅だった当時の難儀をもっとリアルに
 描いてほしかった。
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 内容説明から
 母は人生でやり残したことを叶えるため。
 娘は二条城在番の夫へ密書を届けるため。
 孫は嫁入り前の思い出作りのため。
 それぞれの思いを抱え、頼りない御師・久松の案内で伊勢への旅が
 はじまる。 

 わけありの武家の女三人と頼りない案内人(御師)の珍道中若い女巾
 着切り、いわくありげな浪人者、犬を相棒にした抜け参りの子ども…
 いくつもの出会いが祖母の、母の、孫の人生を変えていく。
 心がほっとあたたまる長編時代小説。 


 
 


 平岩 弓枝
                        
 1932年東京・代々木生まれ。
 1955年(昭和30年)に日本女子大学国文科卒業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
 1959年 -『鏨師』にて第41回直木賞受賞。
 1990年 -『花影の花』にて第25回吉川英治文学賞
 2008年 - 『西遊記』で毎日芸術賞受賞。
 『御宿かわせみ』シリーズは30年にわたるベストセラーとなった。
         
かまくら三国志

鎌倉の章

 代々木八幡宮の宮司の娘として生まれたことが、自分にこの小説を書かせる
 ことになった・・・冒頭で作者が述べている。この作家はこのような本も書いて
 いることをはじめて知った。
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 内容(「BOOK」データベースより)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
京の笛師・智太郎は頼朝の落胤であった。姉弟同然に育った白拍子の珠子は、
日蔭の子である弟を世に出したい一心で、鎌倉武士の恋を容れ、智太郎と二人
京を発つ。鎌倉では、北条義時の命で動く猫(みょう)と呼ばれる宋人が暗躍して
いた。弟・頼家を退けてまで天下に号令する気のない智太郎は、宗像水軍の船
に乗り筑紫へ去る。  
かまくら三国志
 

宗像の章

 梶原、畠山、比企一族。幕府創設に係わった有力武将が次々と北条氏のため
 に滅ぼされていく。
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 内容(「BOOK」データベースより)
北条氏の隠謀はやがて将軍頼家の命をも狙う。筑紫の海の豪族、宗像水軍の
財力と威力を後ろ楯に、智太郎は弟・頼家のため立ち上がる。北条の密偵・猫は
敵か、味方か。幽閉の身にある頼家、正気を失った妻・若狭に時政の討手が迫
り、修禅寺は炎に包まれる。頼家は死んだのか?物語は意外な結末を迎える。  
魚の棲む城
 

★★★

 人間・田沼意次を好意的に書いた秀作。
 貧乏旗本の息子から老中に上り詰めた男の、人間味あふれる姿を幼なじみ達
 との交流を通して描いている。
 近年、田沼意次に対する評価は「賄賂政治家」から、経済の活性化を図った
 展望を持った政治家へと変わってきた。
 平岩弓枝がこの作家の功績と、私的な面を小説として描き切ったのは素晴らし
 い。
 貨幣経済を振興、殖産興業、印旛沼の干拓、蝦夷地開発・・・・。
 果敢に取り組んだ政策は多い。
 (松平定信等、反対派によって没後悪評を意図的に流された。)
------------------------------------------------------------
内容(「BOOK」・「MARC」データベースより)
 類稀な美貌と才能に恵まれ、夢と志に向ってたゆまず努力を続けた男、田沼
意次。出会った者は皆その魅力に取り込まれ、身を捧げる。幼馴染の龍介は喜
んでその富と命を預け、お北はなさぬ仲と知りながら密かに二世の契りを誓っ
た。
 広く世界に目を向け、崩壊必至の幕府財政の建直しを目指して政敵松平定信
との死闘を繰り広げる、田沼意次のりりしい姿を描く。清々しい歴史小説。 

 田沼意次はこんなに魅力的な男だった。いま甦る悲劇の政治家の実像。政敵
松平定信によって被せられた悪徳政治家の汚名を晴らし、名誉回復を果たす力
作。

御宿かわせみ傑作選3

先手観音の謎

★★★

 この作家のベストセラーを読んだ。
 最初はありきたりの時代物かと思ったが、次第に人情味あふれる話の数々に
 心を洗われる感じがした。10編が載せられている。
  ・紅葉散る
  ・神明ノ原の決闘
  ・大力お石
  ・先手観音の謎
  ・長助の女房
  ・水売り文三
  ・初春弁才船
  ・北前船から来た男
  ・代々木野の金魚まつり
  ・十三の仲人
 今回は「かわせみ」にやってきた女中「お石」がかかわる話が多い。
 最期の「十三歳の仲人」・・・お石と大工の棟梁を結びつけたのは・・・

 御宿かわせみについて詳細に書かれている方のページ
 先手観音の謎の作品コメント 

 
 
   
  
      

 土橋 治重
                   
 どばし・じじゅう  1909年〜1993年   山梨県生まれ 
 サンフランシスコ・リテラリィカレッジ中退。朝日新聞社客員。二本文芸家協会会員。
 日本ペンクラブ会員。
 主な著書 詩集「花」「馬」「異聞詩集」「葉」
        歴史関係「武田信玄の系譜」 物語と史跡を訪ねて「平家物語」北条早雲」
        「斎藤道三」「織田信長」「咸臨丸出航」「元禄物語」「原田甲斐」「平将門」
        「武田信玄」「大村益次郎」「呂宋助左衛門」
         
源 義経

(成美文庫)

 2005年NHK大河ドラマの主人公
 源氏の御大将、源氏の子として生まれながら、幼少時を鞍馬山で過ごした義経は
 兄頼朝の平氏追討に参加し、歴史の表舞台に登場した。一ノ谷、屋島、壇ノ浦の
 戦いで数々の戦功をうちたて、「合戦の天才」と称された源平合戦のヒーローの
 実像に迫る。  (解説から)
 作者があとがきで書いているが、「義経記」の抄・意訳であり、私見をところどころ
 加えたものである。(義経記の成立は鎌倉・室町の説があり不明)
 合戦が中心となっていないため、一ノ谷、屋島、壇ノ浦の記述は少ない。
 義経の生い立ちから平泉で泰衡に攻められ亡くなるまでが描かれている。

 
 

  

 冲方 丁(うぶかた とう)
                                       
                     
 1977年、岐阜県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。・・・・・・・・・・・
                福島市に在住。
 1996年 大学在学中に「黒い季節」で、第1回スニーカー大賞受賞。
       以後、小説を刊行しつつ、ゲーム、コミック原作、アニメ製作
       などを手がけた。
 2003年 「マルドゥック・スクランブル」で第24回日本エスエフ大賞受賞。
 2010年 天地明察で吉川英治文学新人賞、本屋大賞を受賞
                   
 天地明察

★★★

 明察・・答えが合ったとき、珠算などで耳にする言葉である。
 碁打ち衆のひとりである保井(安井)算哲は、囲碁の世界に
飽きたらず、山崎闇齋に神道を習い、算術にも多大の関心を
示し。やがて、北極出地の観測隊に加わる。
 老齢に達した観測隊の隊長・建部、副隊長の伊藤重孝の天
測にかける夢を知った算哲(渋川春海も名乗っている)は、二
人の壮大な夢を引継ぎ、新しい暦法作成に取り組む・・。
 保科正之、水戸光圀、酒井雅楽頭など幕閣の大物も登場
させ、人間の生き方に迫る秀作である。
 日本数学史上に有名な関孝和も登場し、渋川春海を叱咤激
励する。やがて、春海は暦道の最高責任者でもあった土御門
泰福を説得して貞享暦の採用にこぎ着けた・
光圀伝

★★★

 これは長い。
 読んでも読んでも進んだ感じがしない・・何しろ751ページである。
 しかし。途中で投げ出すにはもったいない。とにかく「読ませられる本」な
 のである。
 水戸光圀という人物、他の作家の本を読んで、ただの「漫遊記」の人で
 はないと思っていた。
 この冲方丁の力作を読んで、光圀の人物像がはっきりしてきた。
 義の人である。
 父から、無理難題のように押し付けられた「お試し」に命がけで取り組ん
 少年時代。無頼の者、町人、悪人・・・市井の人々や裏の世界の人々と
 交わった青年時代。なにより光圀の心を支配していたのは、兄を差し置
 いてなぜ自分が「世子」なのかという疑問だった。そして光圀は決心す
 る。「義の人」になると。
 妻に迎えた公家の娘の健気さ、明るさ、そして才色兼備が光圀の心を
 癒す。その妻が早死に。そして、侍女だった「左近」との心の通い合い。
 林羅山、その息子との出逢い、詩歌、史書作成の過程で出逢った人々。
 多彩な内容を含んで物語は進行する・・・。
 股肱の臣となった藤井紋太夫の壮大にして愚かな夢・・・。
 大事を成し遂げた人として、静かに眠りにつく光圀・・・ここまで読んで
 涙が出そうになった。冲方丁の渾身の大河小説といってよいだろう。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 なぜ「あの男」を自らの手で殺めることになったのか―。老齢の光圀は、
水戸・西山荘の書斎で、誰にも語ることのなかったその経緯を書き綴るこ
とを決意する。父・頼房に想像を絶する「試練」を与えられた幼少期。
 血気盛んな“傾奇者”として暴れ回る中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。
やがて学問、詩歌の魅力に取り憑かれ、水戸藩主となった若き“虎”は「大
日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出す―。
 生き切る、とはこういうことだ。誰も見たこともない「水戸黄門」伝、開幕。 
            
          
      

  
 富樫倫太郎
                       
                
  1961年、北海道生まれ。
1996年 第4回歴史群像大賞を受賞した「修羅の壺」でデビュー。
 「陰陽寮」シリーズや「妖説源氏物語」シリーズなどの伝奇小説
 「蟻地獄」「堂島物語」などの時代・歴史小説、警察小説など
 幅広いジャンルで活躍している。
             
 早雲の軍配者

★★★

 これは面白い。久しぶりに痛快時代物を読んだ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 軍配者というのは軍師とほぼ同じ意味である。北条氏の軍配者となった
 風魔小太郎の少年期から青年期の物語である。小太郎は関東に軍を
 進めた北条早雲に見込まれて、孫の氏康の軍配者となるため、足利学
 校で勉強に励む。足利学校では、扇谷上杉の家臣・曽我冬之助、駿河
 からやってき た山本勘助など、後にライバルとなる者達に出会う。
謙信の軍配者

★★★

 早雲の軍配者が良かったので、2011.7月に発行されたこの本をさっ
そく図書館で借りた。早雲の軍配者・風魔小太郎のようによくわからない
人物というわけではないが、これまでの知識を整理する意味でも良かっ
た。
 長尾景虎の戦法が義経のように型破りであったこと、武田晴信は、上
田原の戦いや「砥石崩れ」の戦いを通して、慎重な武将になっていたこ
となど、川中島の戦いの背景を改めて再認できた。
 山本勘助と、家族、武田晴信の記載にもかなりページを割いている。
 川中島で討ち死にした勘助の首を前に、冬の介(宇佐美定行)が謙信
に言う。
 「嫌な男でしたが、いつも気になって仕方がない男でした・・・。鴎宿(勘
  助)と戦場で腕比べをするのが楽しみで今まで生きてきたと悟りまし
  た・・・。勘助が死んだのでは、もう戦いをする気にはなれないのです。
  あの男は、私の大切な古い友だったのでございます。」
  冬の介の目に涙が溢れた。このくだりは感動させられる。
 冬の介はやがて謙信のもとを去り、勘助の首を武田晴信に届け、北条
に小太郎を訪ねた(病床にあった)後、かつて自分が学んだ「足利学校」
に向かう・・・。
------------------------------------------------------- 
 内容(「BOOK」データベースより)
 曾我冬之助は新たに宇佐美姓を名乗り、若き長尾景虎(上杉謙信)の軍
配者となる。しかし実際に戦況を支配していたのは「毘沙門天の化身」景
虎その人だった。
 常識外れの発想で勝ち続ける天才・景虎に、足利学校の兵法は通用す
るのか?冬之助の旧友・山本勘助が率いる武田軍との攻防が続く―。 
ファイヤーボール

★★★

 キャリアだが、周囲への気遣いが全くなく、はっきりものを言いすぎるた
 め、科捜研に飛ばされていた冬彦。
 警察内部の会計の不透明さを書いた論文を発表しない代わりに刑事復
 帰を勝ち取る。配属先は杉並中央署「0課」。
 そこは署内で余された者たちがまわされていた。
 「生活相談」という雑事への対応が仕事なのだが、冬彦は持ち前の推力
 を駆使。持ち込まれた雑事の裏側にある真実を探ろうとする。

 認知症らしい徘徊する老女は家族に問題があるのではないか、
 遠出を繰り返す5歳の子は?
 深夜に覗きする男がいる・・実は
 
 それらが終末で一気に謎解きされる。
 メインは木くずと灯油、新聞紙、濡れた麻糸で作った「ファイヤーボール」
 を使った放火魔の捜査。
 これも0課の仕事ではないのに、冬彦が首を突っ込み所在地をプロファイ
 リング。
 しかし、カジノ賭博の手入れなど、警察の情報がヤクザに流れていた。
 放火魔と警察内部の通報者・・・。
 冬彦の推理は冴えるが・・・。

北条早雲

青春飛翔篇

★★★

 痛快にして壮大なスケールで描かれている秀作。
 一介の素浪人から戦国大名にのし上がった下剋上の典型とする説が
 近代になって風聞され、通説とされてきた。
 しかし、近年の研究では室町幕府の政所執事を務めた伊勢氏を出自と
 する考えが主流である(ウィキペディアから)
 この説をもとに伊勢新九郎が、生誕の地・岡山県井原市神代町の高越城
 で、近辺の子どもたちと喧嘩を繰り広げる場面から始まる。
 やがてその仲間や喧嘩相手からも信望を得る。
 姉や村の娘たちをさらった野党との戦い、宗哲から「軍配者」の話を聞く
 場面などがある。
 やがて、都に出るが、そこはこの世の地獄と思えるほど、住み家を失い
 飢餓に苦しむ人々が群れをになしていた・・・。
 幕府に仕える叔父の養子となり一人娘と結婚するが、妻は生まれた息子
 とともに赤斑瘡で死ぬ。
 失意の新九郎は姉が嫁いだ駿河に向かう。
 青春篇なので、物語全体の序章なのだろうが・・・この一冊だけで壮大な
 スケールの話である。
 シリーズ次回作「悪人覚醒篇」は2015年でないと刊行されないよう・・・。
 これは続きを是非読んでみたい。
------------------------------------------------------- 
 内容(「BOOK」データベースより)
 伊勢新九郎(後の北条早雲)は、叔父との養子縁組のため備中荏原郷か
 ら都へ向かう。そこで見た極楽と地獄が同居しているような光景に、
 「都には魔物が棲んでいる」と恐れる新九郎。
 室町幕府の役人となり、ある役目を果たすため向かった駿河では、名将・
 太田道灌と出会う。
 「戦を好まぬ」という生ける伝説の姿を知り、新九郎は己の生き方を悟る―。
 北条早雲の知られざる前半生がここに! 
 この時代の支配者としてはとても風変わりな男、北条早雲。
 彼の人生を描く新シリーズ、第一弾。『早雲の軍配者』の原点がここにある!
 

 

 
  


 あさの あつこ
                       
                
  1954年 岡山県生まれ 青山学院大学文学部卒・・・・・・
      小学校講師を経て1991年作家デビュー
  バッテリーで野間児童文芸賞
  バッテリー?で日本児童文学者協会賞
  バッテリーシリーズで小学館児童出版文化賞
2006年 初の時代小説「弥勒の月」を上梓。
2011年 「たまゆら」で第18回島清恋愛文学賞を受賞。
  児童文学からヤングアダルト、一般小説でもミステリー、
  SF、時代小説などジャンルを超えて活躍している。
             
 火群(ほむら)の
ごとく

★★★

 読み手をどんどん惹きつけて一気に読ませる。剣豪小説で・・・・・
あるが、新里林弥や樫井透馬等の若者達の行動と行き方を
描いたものでもある。
 気配を消しいつの間にか忍び寄って一撃のもとに倒す・・
恐ろしい敵に兄を倒された林弥は剣術の稽古に励みながら
兄の敵を捜すが手がかりは全くない。そこに家老の庶子であ
る透馬が現れる。
 小舞(おまい)藩の権力争い(透馬の父と中老・水杉)を背
景に少年達の結束と友情が深まっていく。
桜舞う
 

★★★

 「おいち不思議がたり」シリーズの二弾か?
 16節に別れている。(16の違った事件が起こるというわけ
 ではない。)
 内容紹介が詳しいので読後感はあまり書かない。
--------------------------------------------- 
 内容(「BOOK」データベースより)
 闇のなかに白い影が浮いた。ゆらり、揺れ続ける。「おいち
ちゃん、怖いよ。助けて……」いまは亡き友の声だ――胸騒
ぎを感じたおいちは、友の必死の訴えに耳を傾ける。
 本書は、この世に思いを残して死んだ人の姿を見ることがで
きる娘・おいちが、その能力を生かし、岡っ引きの仙五朗とと
もに複雑に絡んだ因縁の糸を解きほぐしていく好評「おいち不
思議がたり」シリーズ待望の新作!
 江戸深川の菖蒲長屋で、医者である父・松庵の仕事を手伝
うおいちは17歳になった。自らの手で人生を切り拓き、父のよ
うな医者になりたいと夢を膨らませているのだが、そんなおい
ちの身にふりかかるのは、友の死、身内の病、そして出生の
秘密にかかわる事件等々。
 おいちは、さまざまな困難を乗り越えられるのか……。

 『NO.6』の紫苑とネズミ、『バッテリー』の巧と豪のように、悩
みながらも強く生きたいと願う主人公を書いてきた作家・あさの
あつこの青春「時代」ミステリー第二弾! 

木練柿

(こねりがき) 

★★★

  これはシリーズ第3弾ということになるのだろうか。
 遠野屋が刀を捨て商人になる経緯が少し語られる。
 遠野屋清之介と同心の信次郎の不思議な関係を軸に事件が起き
 そして解決されていく。今回は目明しの伊佐治の息子夫婦の誕生
 もある。事件ものとしても興味深い。(信次郎の推理が冴える)
-------------------------------------------------- 
 内容(「BOOK」データベースより)
あの男には力がある。人を惹き付け、呼び寄せ、使いこなす、それ
ができる男だ。娘は、男から刀を受け取り、抱き込みながら何を思
い定めたのだろう。もう後戻りはできない。月の下でおりんは「お覚
悟を」と囁いた。
刀を捨てた商人遠野屋清之介。執拗に事件を追う同心木暮信次郎
と岡っ引伊佐治。
時代小説に新しい風を吹きこんだ『弥勒の月』『夜叉桜』に続く待望
のシリーズ登場。 
東雲の途

(しののめのみち)
 

★★★

 川から上がった死体には「瑠璃の原石」が隠されていた。
 嵯波藩の家老の次男でありながら、母が卑しい出のため差別を
 受け、時には父から暗殺を命じられたりした清之介は江戸に出て
 商人となる(遠野屋)。
 その清之介のもとに死体の受け取りを頼みに来た伊豆小平太に
 よって清之介は事件に巻き込まれ、故郷を訪れることになる。
 清之介にかかわる目明しの伊佐治、同心の信次郎・・・。
 三人の不思議な交流を描きながら物語は展開する。
 読み物として面白い。
-------------------------------------------------- 
 内容(「BOOK」データベースより)
 「弥勒の月」「夜叉桜」「木練柿」に続くシリーズ第4弾! 小間物
問屋遠野屋清之介、同心木暮信次郎、そして、二人が引き寄せる
事件を「人っていうのはおもしれえ」と眺める岡っ引きの伊佐治。
 突出した個性を持つ三人が織りなす江戸の巷の闇の物語。川か
ら引き揚げられた侍の屍体には謎の瑠璃石が隠されていた。
 江戸で起きた無残な事件が清之介をかつて捨てた故郷へと誘う。
 特異なキャラクターと痺れるキャラクターとが読者を魅了した、ファ
ン待望の「弥勒シリーズ」、興奮の最新作! 
かんかん橋
 
 
 

★★★

 これは良い。実に良い。
 この本を読んでよかった・・そんな一冊である。
 母が出てゆき、食堂を営む父と二人きりで暮らす小学生の真子。
 真子を取り巻く人々とともに物語が展開する。
 真子があいさつすると「あんたは誰だったかいね」という菊ばあさん。
 菊さんにも青春があった。写真屋にお嫁入りすることになって、花嫁
 衣装を来て渡ったかんかん橋。そのたもとで、夫なる人は、めったに
 笑わない人だったが青空を見上げて心を躍らせていた・・・。
 戦争が始まり、足の不自由な夫は戦争に行かないことを最大の恥だ
 と思い込み、鬱々とした生涯を送る。子どもたちも亡くなり今は孫一
 家と暮らす菊・・波乱の人生を懐かしく振り返りながら・・・。

 父親と折り合いが合わず、恋人と暮らし始めた珠美。貧しい暮らしの
 中で子どもを抱え、珠美は必死に生きるが夫は東京に出ていく・・。
 文句と命令以外に口を開かない父。「こんな男のどこがいいのだろう」
 と思う珠美だったが食堂「ののや」で会った野々村から父の意外な面
 を聞かされる。
 久しぶりに会った父は相変わらず、ぶすっとしている・・・。しかし、いつ
 も珠美のことを心配していたことを知る。

 「ののや」にやってくる常連の中に踊り子の奈央がいた。劇場がつぶ
 れ行き場のなくなった奈央を真子の父・大将は迎えに行く・・。
 あたらしく母となった奈央は食堂のおかみとして変身、逞しく生きてい
 く・・・。
 大将が倒れた時奈央は人前では涙ひとつこぼさなかった。
 奈央は奈央と一緒にずっとこの街にいようと決意する・・・。
-------------------------------------------------- 
 内容(「BOOK」データベースより)
嫁入り、出征を見送ったかんかん橋を渡れば、
寂れた温泉町・津雲。町の食堂『ののや』に集まる人々に
襲いかかる不況と別れ―それをふきとばせるのは、母の強さと、温か
い涙。
感動の名手あさのあつこが贈る、最高の応援ストーリーズ。 

さいとう市立

さいとう高校野球部

★★★

 この作家の時代物を中心に読んできたが、何と言ってもバッテリーを
 書いた作家である。
 野球小説は素晴らしい。
 軽快なテンポで、一日で読み終えた。
 中・高校生向けなのだろうが、世代を超えて読者を魅了する一冊。
 独特のミーティング、俳句・短歌など私的な文を考えながらするランニ
 ング・・。そして景品・
 甲子園に出て、有馬温泉に行こうという妙な目標のもと、野球部は団結
 して強豪校に挑む。野球は厳しく鍛え上げるのではなく、なにより自主
 性を重んじるべき・・そんな作者の声が聞こえてきそうである。
 キャプテン・井上の陰になると、立場が逆転しているようにしか見えない
 鈴木先生。病み上がり顔と容姿にしか見えない副キャプテン・木下。
 ユニークな仲間とともに甲子園を目指す勇作。
 「さい高・・最高」というキャッチフレーズ・・・。
-------------------------------------------------- 
 内容(「BOOK」データベースより)
 さいとう市立さいとう高校に入学した勇作は、少年野球からエース投手
 として活躍してきたが、高校では野球と決別し、気持ち新たに学生生
 活をエンジョイしようとしていた。
 小学校の頃からバッテリーを組んできた一良の誘いも断り、温泉三昧の
 日々を夢見ていた勇作の前に現れたのは、美術教師にして野球部監督
 の鈴ちゃん。
 幼馴染にも食い下がられ、お試し入部をした勇作は、独創的な練習方法
 に驚きの連続だったが、いつしかチームに愛着を感じはじめ―。 

 「どうやっても野球のユニフォームが似合わない」監督、鈴ちゃんとの出
 会いから、勇作はふたたび野球へと流されていく――。 

 花は咲く咲く

★★★

 1ページに16行、大きめの文字。どんどん読み進め半日くらいで読んで
 しまった。
 青少年向けかもしれないが、シニアの世代が読んでも心に響くものは大
 きい。
 主人公と3人の女学生の青春、深まりゆく戦争の暗い影の中で心を通わ
 せあい、笑顔を忘れない・・・希望の光がともる話である。
 以下の「内容紹介」(引用)が詳しいので、簡単に書きました。
-------------------------------------------------------- 
 内容(「BOOK」データベースより)
  ラスト3ページに涙が止まらない――

 あさのあつこが、初めて「太平洋戦争」を描いた、心ゆさぶる“戦時下"青
 春小説。
 戦時色濃くなる昭和18年、ある温泉街の一室で、女学生4人は闇物資の
 美しい洋服生地でブラウスを縫いはじめます。

 女学校三年生の三芙美は、思いがけず手に入った布でブラウスを縫い始
 める。女学校のマドンナ・和美、韋駄天の詠子、あくびが似合う則子。
 美しい布に触れ、笑い合う四人にも、戦争の暗い影が忍び寄っていた―。
 美しいものへの渇望を抑えきれない少女たち。しかし、学徒勤労令が発令、
 4人はそれぞれの運命をたどることになります。
 戦争という抗うことのできない時代のなかで、夢と憧れを胸に生きようとする
 少女たちの青春を丁寧に紡ぎだした、まったくあたらしい戦争文学の誕生で
 す。

 【著者メッセージ】を引用しました。
 「戦時下に思春期を過ごした私の母から当時の体験を聞き、非常に心を動
 かされたことが、執筆のきっかけです。
 現代にも通じる少女ならではの喜びや、悩みを描きたいと思いました。
 男たちが戦争にのめり込んでいくなかで、主人公の三芙美(みふみ)は、軍
 国少女ながらも「美しいものを着たい。友だちと笑いあいたい」という少女ら
 しい欲望に忠実に生きようとします。
 空襲、食糧不足といったわかりやすいものではないけれど、現代の少女た
 ちも、戦って、もがいています。
 そんな少女たちにも共感できる物語になるようにと、祈るような気持ちで筆
 をすすめました」 

冬天(ごうてん)の昴
 ミステリー仕立てになっているが、謎解きはたいしたことがない。
 登場する遠野屋はやり手の商人だが、以前は武士で人を殺したこともあ
 るという。
 同心の信次郎はよくこの遠野屋を訪ねる。
 信次郎は遠野屋にとって心地よい客ではないが、心に引っかかる存在で
 ある。
 信次郎のもとで働く岡っ引きの伊佐治も信次郎のことはよくわからない。
 謎を解く力は凄いが人間としての心を持ち合わせていない・・。
 品川で宿屋を営む汚お仙も同じ。信次郎と肌を合わせた仲であるが信次
 郎を理解できない。
 この三人の前に発生した 事件。
 お仙のかつての夫は貧乏旗本だったが、女郎を切って自分も切腹。
 何年か立って、今度は同心が女郎を切ってこれも切腹・・・。
 簡単に片づけられようとする事件の背後に何があるのか・・・。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 親分、心など捨てちまいな、邪魔なだけだぜ。
 たった独りで、人の世を生きる男には、 支えも、温もりも、励ましも無用だ。

 武士と遊女の心中は、恋の縺れか、謀か。
 己に抗う男と情念に生きる女、死と生の狭間で織りなす人模様
 これが、あさのあつこの代表作だ!

 この世に物の怪などいない、神も仏もいない、いるのは人だけだ、殺す者
 と殺される者がいる。


 

   
 
        

 山本 兼一

  

1956年、京都市生まれ。同志社大学卒業後、出版社勤務。
   フリーランスのライターを経て作家になる。
1999年 「弾正の鷹」で小説NON壮観50号記念短編時代
      小説賞佳作。
2002年 「戦国秘録 白鷹伝」でデビュー。
2004年 「火天の城」で第11回松本清張賞。
2005年 同作が第132回直木賞候補に選出される。
2008年 「千両花嫁・・とびきり屋見立て帖」で
      第139回直木賞候補になる。
2009年 「利休にたずねよ」で第140回直木賞を受賞。
   その他の作品に「雷神の筒」「いっしん虎徹」がある。
               
利休に

 たずねよ

★★★

 名作である。利休の美の世界が余すところなく語られているよう
な気がする。茶の湯にかぎらず、美の世界と係わる者であれば
必読の書ではないか。これだけの本をかける作家はなかなかい
ないのではないか。
 利休と係わった人物として、信長、秀吉をはじめ、武将、弟子達
が十数名登場し、利休の凄さを引き立てている。
 高麗からさらわれてきた女との出会いが利休の美学のもとにあ
るという設定も面白い。
ジパング
発見記

★★★

 ・鉄砲をもってきた男  ・ホラ吹きピント  ・ザビエルの耳鳴り
 ・アルメイダの悪魔祓い  ・フロイスのインク壺 
 ・カブラルの赤ワイン
 ・ヴァリニャーノの思惑(・・少年使節団の派遣)

 ルイスフロイスの記録をもとに書かれているという設定。

弾正の鷹

★★★

 信長を暗殺しようとする者達を描く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  1 下針
    紀州雑賀党の鈴木源八郎、通称「下針」
  2ふたつ玉
    甲賀武士の善住坊は六角承禎から信長暗殺を頼まれる
  3 弾正の鷹
    松永弾正の側室・桔梗は、韃靼人のハトロアンスと夫婦になり
    鷹を使って信長を襲う。
  4安土の草
    甲斐の草・庄九郎は安土城の建築に関わるが
    国許から安土城を焼くよう命令される。
  5 倶し良は、足利義昭から信長の毒殺を頼まれ
    信長に接近する。
命もいらず
名もいらず
 
   上下

★★★

山岡鉄舟の名前はよく聞くのだが、どんなことをしたのかよくわから
なかった。山本兼一は山岡鉄舟の生涯を史実と独自の解釈を織り
交ぜて大河ドラマのように仕立ている。読み応えのある一作であっ
た。
 Amazonの内容紹介から
『火天の城』『利休にたずねよ』に続いて、直木賞作家が、満を持
して放つ、渾身の超大作。日本をどうする。お前はどう生きる。最
後のサムライ・山岡鉄舟、堂々の生涯。
幕府の旗本の家に生まれた鉄舟は、幼い頃から剣の修行に励
み、禅を学ぶことで剣聖と呼ばれるにいたる。書の達人でもあっ
たが、官位も金銭も身にまとおうとしなかったため貧しい暮らしで
あった。
 徳川慶喜のために身を賭し、後には朝敵であったにもかかわ
らず、明治天皇の教育係となるなど多くの仕事をなしとげるが、
それは名誉のためではなく国家百年を考えた無私の行いであっ
た。
 山岡鉄舟の生き方を通して、幕末から明治の近代国家へと移
っていった動乱の日本を描き出し、戦後日本社会の歪みが露見
し、惑うことの多い現代の私たちに、日本人としての生き方とは
何かを問いかける。 
役小角絵巻

 神変

★★★

 時は飛鳥時代。葛城のふもとで生まれた小角は山の民として、
仲間と助け合い暮らしていた。
 一方、女帝、〓野(うの)(持統天皇)は藤原不比等に補佐されな
がら、藤原京を造営し、中央集権国家を築こうとしていた。小角は、
この天地を我が物顔にふるまう飛鳥の連中を苦々しく思い、仲間た
ちと贄などの強奪を繰り返していた。両者は対決し、戦うことになる。
鬼神を操る小角だが……。
            中央公論新社(ブックウオッチングから)
おれは清麿
 

★★★

 アマゾンの本の紹介に、かなり詳細に記されているので、簡単に。
 この作家、「利休にたずねよ」で感銘を受けたが、一芸ある者を描
 こうとする時の着想、緻密な下調べが素晴らしい。
 この本では、鍛冶の現場にずっと引きずり出されるということが実
 に多い。細かな刀づくりの作業工程の描写は凄いのひと言に尽き
 る。清麿が辿り着いた刀鍛冶の先にあるものは・・・・刀は己そのも
 のである・・・。
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 内容紹介から
 利休、虎徹、そして…新たな“鬼”幕末の名工を直木賞作家が描
く!刀、女、酒。天才鍛冶の熱くたぎった波乱の日々!

「この刀はおれです。おれのこころです。折れず、撓まず、どこまでも
斬れる。そうありたいと願って鍛えたんだ」

 信州小諸藩赤岩村に生まれた山浦正行、のちの源清麿は、大石
村の名主長岡家に十七歳で婿に入る入るが、その熱情は妻子をお
ろそかにさせるほどたぎるのだった…。 
 武道と武具を究めようとする九つ上の兄真雄の影響で、鍛刀に興
味を持ち、やがて、その熱情は妻子をおろそかにさせるほど高まろう
としていた……。
 藩お抱え刀工推挙の話が頓挫した正行は、鍛えた刀を背に松代に
向かうことにした。――よい刀とはなにか。道々考え続ける正行に、
江戸で刀剣を学ぶ道が与えられた。紹介された窪田清音を番町に訪
ねて、試斬で鍛刀の奥深さに触れた正行は、名刀への思いを強くす
る。
 そこに真田藩武具奉行の高野から声がかかり、松代の鍛冶場に入
る。理想の鍛冶場を求めるうち、佐久間国忠(のちの象山)という男に
出会うが……。
 のちに萩藩にも迎えられ、幕末の名刀工の一人と称せられた清麿
の清冽な生涯!

修羅走る

関ヶ原

★★★

 読み物として面白い。良かった。
 関ヶ原の闘いに参加した諸将の思惑、凋落・・・それらを史実をもとに
 辿れば、作者の資料解釈などが出て良いのかもしれないが、この本
 は、これで十分である。

 義のために利を捨てて行動する男たちの姿が、鮮やかに描かれ読
 後感が悪くない。
 石田光成の命を受けて、松尾山の小早川秀秋、南宮山の毛利秀元
 の裏切りを阻止しようとそれぞれ50騎で出掛けて行く土肥市太郎、
 市次郎の兄弟。裏切りが末代までの後悔に繋がると、秀秋を諌める
 重臣の松野重元。
 光成憎しから徳川に味方した福島正則の豊家第一の切なる想いなど
 心情が切々とつ伝わるのがこの作家の真骨頂である。

 浮田勢が最初押し気味に進むこと、西軍で実際に戦闘に参加しのが
 少なかったこと、期を見て家康が旗本3万を押し出すあたり・・描写が
 実にうまい。
 竹中半兵衛の息子・重門、黒田長政、織田有楽斉など、人物を多彩
 に登場させるのも読みやすい・・・。
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 内容紹介から
 慶長五(1600)年九月十五日。霧の中、石田三成・徳川家康は一大
 決戦に臨もうとしていた。
 未明、松尾山の小早川秀秋の陣から、主の裏切りの気配を伝える密
 使が来た。
 三成は、小早川の陣と毛利の陣へ使者を送る。一方、家康は親・豊
 臣の福島正則らの動向に不安を抱いていた。主家・豊臣家の為、義
 に生きるか。旗色の良い側に鞍替えするか。裏切りを決めた主に忠
 誠を尽くすのか、叛旗を翻すのか。天下を取る。友情に殉じる。生き
 て妻のもとに帰る。十数万の兵たちの欲が激突する、血の一日が幕
 を開けた。戦国時代に情熱を注ぎ続けた著者の遺作長編。 

狂い咲き正宗

刀剣商 
ちょうじ屋
光三郎
 

★★★

 刀剣についての「うんちく」が幅広く深く語られる。
 この世界が好きな人には必読の書かと思う。
 「正宗」は無銘のものが多い。500年くらい前(江戸時代から数えて)
 正宗という鍛冶は確かにいたらしいが、その鍛冶の刀が、も世に出回
 っている正宗ではない。いつの間にか、すぐれた剣につけられるように
 なってしまったという。「正宗」に疑問を持った光三郎は父から勘当され
 るが、むしろ刀剣商に婿入りし自由に剣の目利きなどにかかわるよう
 になった。光三郎の出会った村正、康継、国広、介広、虎徹・・・名鍛
 冶と名剣について、事件と関わらせながら語られていく・・・。
 参考文献の項に、
 取材にあたりまして、小笠原信夫氏(元東京国立博物館刀剣室長)、
 藤城興里氏(研師)、河内國平氏(刀匠)から貴重なお話を伺わせて
 いただきました・・・と書かれている。
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 内容紹介から
 命をやりとりする刀に魅せられた光三郎。
 駆け引きたっぷりの裏世界、町人たちの人情、心意気を直木賞作家が
 描く。
 幼いころから、刀がもつ摩訶不思議な美しさに憑かれてきた光三郎。
 将軍家の刀管理を司る御腰物奉行の長男に生まれながら、名刀・正宗
 を巡って父・勝義と大喧嘩をし、刀剣商に婿入りする。
 ある日、絶縁したはずの父が弱り果てて訪ねてくるが……。
 親子、夫婦、師弟の人情をじっくり描く時代小説。
心中しぐれ

吉原

 札差の文七は商売が順調で、札差の元締めのような大戸屋の大旦那
 の後継者にも指名された。
 そんな折、連れ添ってきた女房が役者と心中事件を起こす。とてもそん
 な事をするような女ではなかった。
 必死に真相を探るが全くわからない。
 文七は惚れていた吉原の花魁を身請けする。
 幕府が旗本などの社資金を帳消しにする徳政令を出し、札差たちは大
 損害を被る。文七はそれを潮に札差を止め、お蝶(身請けした花魁)と
 郊外に居を構える。
 花魁とのゆめのような生活・・・極楽とはこんなことを言うのか・・・。
 しかし、極楽と地獄は紙一重。ある晩・・・。
 心中事件は意外な犯人がわかり解決するが、それ自体は大したこと
 ではない。
 
 この作家の本は軽いようでいて、深いものがある。
 ストーリーは次々と展開し、一気に読ませてくれた。
 ただ、時代物の、男女の恋愛は得意でないような気がする。
 週末がハッピーエンドに終わらないのも、しっくりとこない。

  

  

 秋山 香乃
                       

                

1968年 北九州うまれ。 活水女子短大卒。・・・・・・・・・・・・・・・
      在学中司馬遼太郎を研究。卒業後、歴史サークルを
      主宰し会誌を発行。
2002年 「歳三 往きてまた」でデビュー。
     主な作品に「総司 炎の如く」「茶々と信長」
         「新撰組 捕物帖 源さんの事件簿」等がある。
             
漢方医・有安

忘れ形見

★★★

 秀作である。
 「感動する本」に追加した。
 4つの短編から成っている。
  ・忘れ形見
    参勤交代の供をして江戸に来た高瀬司朗は、行列の前を
    「供割」され、浪人に転落する。その女・お千代に復讐しょう
    とする。しかし、夫を失い、病の子を抱えて懸命に生きる千代
    の姿を目にし、見守ることに・・・。
    やがて、千代は病死。残された娘・美知を育てながら、有安に
    弟子入りし医者の道を目指す。
  ・医者狩り
    医者が次々と殺される事件が起こる。犯人は死んだ「お菊」に
    関わることなのか。医者の良心とは何か、有安は考える。
  ・老いらくの恋
    若い後添えを得た漆器を扱う小田屋の主人・又二郎が突然の
    病に苦しむ。そして、毒を盛られた疑いが浮上する。
  ・波紋
    美智を育て、医学を志す司朗の前に、藩復帰の話が持ち上が
    る・・・。
 娘・お雪の料理下手、女だてらに剣術道場通い、薬種問屋・四つ目
 屋が扱う媚薬品など、小説を盛り上げる小技も散りばめられている。
-------------------------------------------------
 内容紹介から
 誰にも打ち明けられない、後ろ暗い過去をもつ漢方医・有安。ある日、
彼は呉服商の娘・お菊を治療したが、不幸にも彼女は息を引き取って
しまう。
 数日後、ある共通点をもつ三人の医者が立て続けに殺害されるとい
う事件が起こり、やがて、有安の身の周りにも不穏な空気が漂い始め
る……。市井に生きる人々の優しさと切なさの溢れる連作短編集。 
大和燦々

(さんさん)

 江戸に出てきてから、東北をはじめ、あちこちを旅をする松陰。
 何よりも思ったら即実行に移すという、積極果敢な松陰像が描かれ
 ている。
 江戸藩邸や私塾・蒼龍軒での仲間との交流。佐久間象山との出会
 い。それらが松陰を大きく変えていく。

 なかでも、盛岡藩の前途を憂える江ばた五郎との出会いにより、脱
 藩して東北旅行を早める。五郎が盛岡藩の悪政を正すため、家老暗
 殺計画を立て、松陰とともに旅することになったからである。その五郎
 と一旦約束したからには信義を通す…松陰は旅行を一ヶ月延期させ
 ようとする藩の意向に逆らい脱藩まで決意するのである。

 津輕藩にも深くかかわる「相馬大作事件」。この真実解明にもかなり
 力が入っている。
 東北旅行の記載は割と少ない。
 弘前で伊東梅軒を訪ねるくだりがあるがこれなどももう少しページをさ
 いてほしかった。話がすぐ津軽藩からみた相馬大作事件になり、その
 真相に迫ろうとする。
 相馬大作事件は盛岡藩の内紛を隠すため、下斗米秀之進がわざと
 襲撃計画を立てたもので、津軽藩主は参勤交代の経路を変更。秀之
 進も江戸に帰り、しっかり縛についている。

 真実(この作家の自説)に辿り着いたために、松陰と宮部鼎蔵は秀
 之進の親せき筋を訪ねて、あやうく殺されかかる・・・。

 松陰の人物像に深く迫りたいという気持ちで読めば、ちょっと物足りな
 い。若き日の松陰を描くとしても、ちょっと軽い感じになっているのは否
 めない。若いながらも重厚とカリスマ性を持った部分を、精緻に書きあ
 げてほしかった。
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 内容紹介から
 東北を旅する若き日の松陰
 魂の成長の物語

 時は嘉永4年(1851)。迫りくる列強の脅威に揺れる日本、弱冠22歳の
 吉田松陰は江戸に留学、佐久間象山、勝海舟と出会う。海防視察の
 ため東北への旅の途次、同行の江(ばた)五郎の仇討に助力。さらに
 “第二の忠臣蔵”と江戸で話題となった「相馬大作事件」の真相にか
 かわり、騒動に巻き込まれていく。 

 明治維新の立役者となった松下村塾の後進たちに、大きな影響を与
 えた松陰の「大和魂」という思想は、どのように輪郭をなしていったの
 か。若き日の松陰一行の東北旅行を通して描く。 

  
 


  

  

 梓澤 要(あずさわ かなめ)
                       
                
1953年 静岡県うまれ。 明治大学文学部卒。
1993年 「喜むすめ」で第18回歴史文学賞を受賞して
      作家デビュー。
      主な作品に「百枚の定家」「遊部」「橘三千代」
          「枝豆そら豆」「女にこそあれ次郎法師」 
          「ゆすらうめー江戸恋愛慕情」
             
越前宰相秀康

★★★

 秀作である。
 これまでこの武将のことはよくわからなかった。家康の子どもであり
ながら将軍にならなかった・・・くらいの知識である。
-------------------------------------------------
 この本を読んでこの武将に好印象を持つようになった。
 家康の二男(長男は自刃させられた信康)に生まれ、秀吉の養子に
出され「羽柴秀康」を名乗る。やがて秀吉が関東を平定した後、関東
の結城家の養子となる。常に父・家康を冷静な目で見、武にも優れた
武将となるが、徳川家の傍系の立場を続けた。
 やがて、関ヶ原の戦いで、上杉の追撃に備え江戸を守ったということ
で越前にも領地をもらい、大大名の一人となり松平を名乗る。(松平を
名乗ったのはこの系統。幕末の松平春嶽に繋がる)
 戦国の世に翻弄されながらも、鮮やかに生きて若く散った武将の物
語。
捨ててこそ空也

★★★

 大作を読み終えたという感じ。

 内容を書けばかぎりがないので、最終章の一部を抜粋して載せる。

 衆生の心には本来、仏性がそなわっておる。それゆえ、いかなる者
 もかならず仏になれる。天台の法華一条の考えは間違っていないと
 空也は思っている。
 だが、そんな観念的な理論で人を救うことかが出来るかと問われれ
 ば否とこたえる。

 空也自身、人は誰でも阿弥陀浄土に往生して仏のもとで学ぶことで
 悟りがえられる、仏になれると信じ、人々に説いている。しかしそれ
 は、それしか救いの道はないと思うからだ
 その切羽詰った思いがこれからも自分を駆り立てつづけるであろう。
 この命が尽きるまで、ひたむきに戦いつづける。静かな戦いだ。

 時は平安。醍醐帝の時代。道真の怨霊の噂も飛び交い、貧窮の中
 に生きる人々。生きていくことの意味を問う人々を前に苦悩する空也。
 仏教の真髄に触れる一冊だった。
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 内容紹介から
 民のために生き、市の聖として死す! 天皇の血筋を捨て、人々の悲
 嘆に身を捧げた空也。波乱と熱涙の生涯を描く仏教歴史小説の大作。 

 天皇の血筋を捨て、人々の営みに一身を捧げた空也。
 波乱と熱涙の全生涯と仏教の核心を描く歴史小説。 

光の王国

★★★

 この作家、歴史に光をあててくれるところが嬉しい。
 清衡から始まる平泉文化。
 本書ではよくしられていない基衡が館の主として焦点ーが当てられ
 ているのも興味深い。清衡よりさらに領地を広げたやり手として。
 藤原三代が求めたものは、平和な仏教王国だった・・それを長編に
 して語ってくれた秀作である。
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 内容紹介・内容(「BOOK」データベースより)から
 内大臣頼長の密命を受け、遙か奥州平泉に向かった西行はかの地
 で若き藤原秀衡と出会う。
 奥州平泉で織り成す藤原秀衡と西行の交友。
 奥州の地で目にしたものは、戦乱もなく日々穏やかに暮らす人々。
 ここは王道楽土か極楽浄土か。
 末法の世に奇跡の王国を見た西行の胸に去来した想いとは。

     
 
   

  

 犬飼 六岐
                       
                
  1964年、大阪生まれ。大阪教育大学卒。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2000年 「筋違い半介」で第68回小説現代新人賞を受賞しデビュー。
 「蛻(もぬけ)」が第144回直木賞候補に選ばれる。
2011年 「囲碁小町嫁入り七番勝負」がスマットヒットに。
  しっとりとした人情、クスリと笑えるユーモア、迫力ある剣戟を兼ね
  備えた時代小説界のホープ。
  その他の著書に「吉岡清三郎貸腕帳」など。
             
 与太話
浮気横槍

★★★

 長屋に住む人々に降りかかるさまざまな出来事を描いている。・・・・・・
  ・与太話浮気横槍
    井戸端の主「おまさ」に集められた長屋の面。
    女房に駆け落ちされた友吉を励ますために、「芝居」を見せること
    になった・・。
    しかし、そもそも駆け落ちは夫婦喧嘩・・・。
  ・人情万事情世中
    食い詰めた卓蔵が、以前に首になった酒問屋を訪ねると、何故か
    歓迎され小判まで貰う。娘の弱みを握っていると誤解した卓蔵は
    長屋中のガラクタを集めて売りつけに行くが・・・。
   ※幕間其の1
  ・忍寄る恋曲者
    吾助は色白の大柄な男・満兵衛に気に入られ、酒を御馳走になる
  ・宿無駄目吉時雨傘
    為七の弟・玉吉は頭が弱い。
    そこに忍び込んだ小柄な男は為七の友だちだと名乗ったが・・・。
    ※・幕間其の2
  ・源平糸引蜘蛛
    寺子屋の師匠は「牛若丸」をはじめ、たくさんの蜘蛛を飼っていて
    蠅を獲らせるという勝負に凝っている・・・。
  ・時今也長屋旗揚
    借金の方に遊女屋に行かされる、長太の娘・おいとを励ますため
    に、増上寺に紅葉狩りにでかける長屋の面々。
    おまさが言いだしたことだ。借金の七両を集めようとして失敗した
    のだ。
    増上寺からの帰り道。盛り上がった面々は踊りだす・・・。
    やがて産気づいた長太の妻が生んだのは三つ子。
    三つ子には養育料として幕府から十両が・・・。
吉岡清三郎

貸腕帳

★★★

 宮本武蔵に敗れた吉岡一門の末裔(本流)である清三郎は「二」のつ
 くものが嫌いで、不機嫌を絵にかいたような顔で日々を過ごしている。
 生業としている「貸腕屋」は用心棒や、仕事屋とは異なり、腕は「貸す」
 のである。そして貸した利子をとる・・・。
 清三郎のもとに舞いこむ依頼は難儀なものもあるが、いつも凄腕で切り
 抜ける。(この戦いの場面はちょっと生々しい)
 「おさえ」は父親の借金の方に、清三郎のもとで下女として働いている。
 運んでくる茶は凍りつき、主人にむける眼差しは嫌悪一色。
 そのおさえがかどわかされるという終末・・・。 
佐助を討て
 図書館の新書紹介の文に惹かれて読んだのだが、いまひとつ。
 猿飛佐助の姿が見えないまま、恐怖が募る展開。
 戦いの場面で伊賀者は次々と倒されるが、その場面にリアリティーがない。
 「闇の中」で突然燃え上がったり、重症を負ったり・・・。
 7つの短編になっているが、一話完結というより、次の戦いへいくための
 区切りために分けたという感じである。
 主役は猿飛との戦いで三度も生き残った数馬。
 この数馬を中心に、登場人物や忍術を駆使した戦いを丁寧に描いてほしか
 った。
騙し絵
 人の善意を絶対的に信じて、なんでも従ってしまう弁蔵。
 弁蔵が長屋に引っ越してきてから、長屋の人々は嫌悪感を持つ。
 弁蔵の息子・正吉としたしくなった信太郎。母親は弁蔵親子を毛嫌いしてい
 るが、ふたりは一緒になって弁蔵に降りかかる危難に立ち向かう。
 とにかくこんなお人よしの人間がいるのだろうかという設定である。
 正吉には、悪意を持った人の顔が二重に見えたりする。人の表裏を察知す
 る能力も面白い。
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 内容紹介から
 好悪の天秤を貧乏長屋に持ち込んだわけあり父子と住人たちの葛藤を描く
 魂と涙の江戸人情物語。 
逢魔が山
 四国の武将・伊東氏と長宗我部氏の名前がちょっと出てきたので期待したが
 そういう史実に基づく出来事はなし。
 長宗我部に攻められ落城した伊東氏の次男(小太郎)が村にかくまわれ、それ
 を長宗我部の雑兵が探し出し、捕まえて連れて行こうとしたが・・・逢魔が山に
 迷い込むというもの。ストーリー性がないのだが、子どもたちがどうなるのかと
 ハラハラしながら読ませられてしまった。文体は悪くない。
 雑兵は村に来た道をそのまま帰ればいいし、闇の中を進むより明け方を待て
 ば良いのだから、単に臨場感を持たせるための場面設定としか思えない。
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 内容紹介から
 戦国時代。四国山中の小さな村に雑兵が乱入、村長の家に匿われていた謎
 の子供二人と秀太、鶴吉兄弟はじめ村の子供を拉致。
 しかし、闇深き道に一行は方向感覚を失い、もののけが多く棲むという不吉な
 「逢魔が山」へと入り込んでいく―。本当の勇気とたくましさとは? 
 
 
 


       
 

 青山 文平
                       
                
  1948年 神奈川県横浜市生まれ・・・・・・・・・・・・
早稲田大学第一政治経済学部経済学科卒 
経済関係の出版社に18年間勤務したあと、
経済関係のライターとなる。
「白樫の樹の下で」で第18回松本清張賞受賞
             
白樫の樹の下で
 佐和山道場の村上登は、仁志兵輔、青木昇平とともに代稽古をつ
とめている。刀を持って打ち合うのとは異なり重い木刀を使い、真剣
に近い稽古を繰り返す流派である。
 やがて江戸の街に辻斬りが現れる。はたしてその正体は・・・。
 登に「一竿子忠綱」を預けた巳乃介は町人から、小人目付になり、
辻斬り索に当たったが、逆に切られた。
 それにしても文に迫力があまりないのはぜだろうと考えてみたら、
 「、」が多く、説明的な文になりがちなのである。
 緊迫感を漂わせるには、やはり短く、一瞬を切り取るような文を散
りばめてほしい。
  
  
  
  

  

 宮本 昌孝
                       
                
  1955年 静岡県浜松市生まれ・・・・・  ・・・・・・・
     日本大学芸術学部卒
     手塚プロ勤務を経て、執筆活動に入る。
1995年 「剣豪将軍義輝」で歴史時代作家として
  一躍注目を浴びる。
  「風魔」「海王」など大作を発表し人気を博して
  いる。他に「陣借り平助」「天空の陣風」
  「家康、死す」などがある。
             
陣星、駆ける

★★★

 

 これは痛快無比の歴史物である。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 少し前に隆慶一郎の「一夢庵風流記」を読んだが似たような
 感慨を受けた。長編を感じさせない。退屈せずにどんどん読
 める。機会があれば、この作家の本をいろいろ読んでみたい
 と思った。
 時は戦国時代。足利義輝とともに戦い、その後、桶狭間の
 戦いにも参加。
 数々の戦いで、武功を轟かせている陣借り平助こと魔羅賀
 平助。行く先々で、事件に巻き込まれるが、アラブと日本馬
 の混血種・丹楓(たんぷう)とともに目覚ましい活躍をする。 
   ・鵺とじゃ香と鬼丸
   ・死者への陣借り
   ・女弁慶と女大名
   ・勝鬨姫始末
   ・木阿弥の夢
風魔 外伝
 6編の連作短編集。
 風魔小太郎が出てくるのは最初の一遍。
 その後、武田のくの一「笹箒」、小太郎に仕えていた「鳶甚」、
 古河公方の姫に小太郎とともに仕えていた「庄甚」などの
 行動や活躍が描かれる。外伝なので。
 小太郎は笹箒とともに、外国に渡ったらしいという。
 そして、最終章。
 シャムからの使者がやってくる。随行する山田長政の息子。
 山田長政の実態は?
 この作家の良さは自在に創造性を働かせてくれるところであ
 る。登場人物の痛快な立ち回り・・・楽しく読める。
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 内容紹介から
 化け物か、異形の神か―織田信長が銃口を向けた巨躯。
 それは戦国武将から恐れられた忍び・風魔の小太郎だった。
 天下統一に迫る信長が危惧する唯一の存在。信長は決して
 狙いを外さない。
 魔王と風神の子、最初で最後の対決の行方は?秀吉を脅かし
 家康を懼れさせた戦国の英雄とその仲間たちの知られざる物
 語! 

 


 

  

 城野  (じょうの・たかし)
                       
                
1948年 徳島県生まれ・・・・・  ・・・・・・・
        大崎教育大学卒業後、教員生活を経て作家となる。
1999年 「月冴え」で小説NON創刊150号記念短編時代小説賞受賞。
2000年 「妖怪の図」で第24回歴史文学賞受賞。
2005年 「一枚摺屋」で第12回松本清張賞受賞。
             
一枚摺屋

★★★

 

 古本屋でいろいろ見ていたら、歴史物が実に多いことに気が付いた。
 (読書量の少なさを思い知らされた。)幅広くいろいろな本を読んでい
 たつもりだったが・・・。歴史物は多彩である。
 この本はさすがに松本清張賞を取るだけある。
 謎解きが進行するなかで世相の描き方にも力を注いでいる。
 一枚摺がやがて印刷(新聞)ものに取って代わられるだろうという予
 感も込められている。
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 内容紹介から
 第二次長州征伐の準備で騒然とする幕末の大阪で、打ち毀しを一枚
摺(瓦版)に取り上げた親父の与兵衛が町奉行所で殺された。
 一体誰が、なぜ?勘当中の息子、文太郎は親父の敵をとるため、潜り
の一枚摺屋となって、事の真相を探り始める。その大本は、どうやら三
十年ほど前の大塩平八郎の乱に係わりがあるようだった。 

 
 

  

 出久根 達郎 (でくね・たつろう)
                       
                
1944年 茨城県生まれ・・・・・  ・・・・・・・
        中学校卒業後、東京。月島で古書店に勤務。
1973年 杉並区で古書店を営む。
1992年 「本のお口よごしですが」で講談社エッセイ賞
1993年 「佃島ふたり書房」で直木賞
     著書に「面一本」「たとえばの楽しみ」
        「秘画 御書物同心日記」など多数。
             
おんな飛脚人

★★★

 

 「一枚摺屋」と同様に古本屋で見つけた一冊。・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 古書店経営のかたわらで本を書き直木賞をとったというのは凄い。
 しかし考えてみると資料?に囲まれているようなものだから、ある
 意味では有利かもしれない。
 この本は、飛脚二人に江戸の街を自在に走らせ広角的に描いている。
 スーパーマン並みのスピードで飛脚が走る。痛快な大衆読み物。
 有名な人物などが登場しない市井の生活を描いた一冊である。 
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 内容紹介から
 めっぽう足が速いまどかと清太郎は偶然同じ日に飛脚問屋「十六屋」
で働きはじめた。風のように走る江戸の町々で起こる、手紙にまつわる
人情話、不思議な出来事、捕物帳。
 やがて若い二人それぞれの過去と胸に秘めた思いが明かされてゆく。
江戸庶民の生活と人情、そしてほのかな恋を爽やかに描く長編時代小
説。 

 
 

  

 三谷 幸喜
                       
                
1961年 東京都出身。日本大学藝術学部演劇学科卒業。
1993年 『振り返れば奴がいる』で連続テレビドラマの脚本家として
     デビュー。古畑任三郎、NHK大河ドラマ・「新選組」などの
     脚本を担当。演出家、俳優、映画監督などもこなす。
             
清洲会議
 

★★★

 

 これは文句になしに楽しく読める歴史物である。
 史上名高い「清州会議」をここまで分かり易く描いた本も珍しい。

 (現代語訳)と章のはじめにつく。これが何とも言えず可笑しい。
 そして文は現代そのままで非常に読み易い。
 一日目、二日目・・と大きな章は5つあるが、その中が登場人物の気
 持ちや行動ごとに細かく区切ってあるので長文が苦手な読者には読
 みやすい。

 内容は清洲会議で秀吉が勝利を得るまでである。
 「プレ会議」として、少人数で信長の跡目を決めることになった。
 出席者は
  ・柴田勝家 ・丹羽長秀 ・池田恒興 ・羽柴秀吉 
  ・織田信孝 ・織田信雄

  柴田勝家と丹羽長秀は秀吉が「羽」と「柴」をもらったほどの織田家
  の宿老である。丹羽が議長役となり、前田玄以が記録役である。

  宿老の一人である滝川一益は、信長亡き後、北条軍などに囲まれ
  身動きがとれず、会議が決してからようやくたどり着く。
  
  池田恒興は信長の乳兄弟ということで、急遽滝川の代わりに宿老
  として参加。常に日和見で時流に乗るというしたたかな者。
  池田と丹羽を籠絡する秀吉の腕・黒田官兵衛の立ち回り

  名人?・堀秀政の登場も面白い 
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 内容紹介から
 生誕50周年記念「三谷幸喜大感謝祭」のラストを飾る、満を持しての
 書き下ろし小説、遂に刊行! 
 信長亡きあとの日本の歴史を左右する五日間の攻防を「現代語訳」で
 綴る、笑いと驚きとドラマに満ちた、三谷印の傑作時代エンタテインメ
 ント! 

 日本史上初めての会議。「情」をとるか「利」をとるか。
 本能寺の変、一代の英雄織田信長が死んだ。跡目に名乗りを上げた
 のは、柴田勝家と羽柴秀吉。その決着は、清須会議で着けられること
 になる。
 二人が想いを寄せるお市の方は、秀吉憎さで勝家につく。浮かれる勝
 家は、会議での勝利も疑わない。傷心のうえ、会議の前哨戦とも言え
 るイノシシ狩りでも破れた秀吉は、誰もが驚く奇策を持って会議に臨む。
 丹羽長秀、池田恒興はじめ、会議を取り巻く武将たちの逡巡、お市の
 方、寧、松姫たちの愛憎。歴史の裏の思惑が、今、明かされる。


 


 
  

 岩井三四二
                       
                
1958年 岐阜県生まれ。一橋大学卒業後、会社勤務を経て
1996年 「一所懸命」で小説現代新人賞を受賞しデビュー。
1998年 「簒奪者」(兵は脆道なり斎藤道三に改題)で歴史群像大賞。
2003年 「月ノ浦惣庄公事置書」で松本清張賞。
2004年 「村を助くは誰ぞ」で歴史文学賞
2006年 戦国時代の人々の悲喜こもごもを活写した「難儀でござる」が
      ベストセラーとなり、歴史・時代小説を牽引する書き手として
      秀作を数多く発表。
2008年 「清佑、ただいま在庄」で山中義秀文学賞 
  他の著書に 「たいがいにせえ」「はて、面妖」「おくうたま」
          「江戸へ吹く風」「あるじは家康」などがある。
             
光秀曜変
 
 なかなか面白いと思って読んだのだが・・・。
 場面が山崎の戦い、武田が滅びる場面、その他・・
 現在と過去を行きつ戻りつして、読み手の意識が散発させられる。
 老いた光秀には壮年の切れがない、そのことが語られていくらしい
 のだが次の本の予約もあり、完読を断念。
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 内容紹介から
 明智光秀、六十七歳。織田信長、四十九歳。文武、芸術に優れな
がらも主君に恵まれず辛酸の半生を送ってきた明智光秀だが、信長
と出会い、実力を遺憾なく発揮する。信長の横暴、肌の合わぬ秀吉
との出世争いなど気苦労もあるが、常に全力で任務にあたり、家臣
に信頼され、家族を愛する人物でありつづけた。その彼が、信長を討
った。本能寺の変。山崎の合戦。
刻々と変化する戦況にあわせ描かれる慟哭の巨編。
とまどい本能寺の変

★★★

 これは面白い。
 本能寺の変にかかわって、さまざまな人の思惑や動きが語られる。
 秀吉に騙されたとわかった時から、秀吉にしっかり取り入り
 長年の家臣のように振舞う安国寺恵瓊。

 一国より茶道具が欲しい・・・この言葉を発した滝川一益
 関東に取り残された一益のあがき苦悩・・・。

 本能寺の変に黒幕はいたのか。
 作者は、いないと考えている。
 信長より年上の光秀は当時67歳(作者の説)。認知症による被害妄想
 だと。
 黒幕の一人とされた先の関白近衛前久についても触れている。
 本能寺の変前に出奔・・・秀吉が力を持ってから、秀吉に「養子」に入ら
 れ関白をのっとられてしまった男・・これは黒幕でないと作者は考えて
 いる。

 最後に信長の菩提を弔うことを大事にした側室の「おなべ」の姿が良い。
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 内容紹介から
 天正十年(一五八二)六月、本能寺の変勃発! 天下にあと一歩まで
 迫っていた織田信長死す! これはピンチか、はたまたチャンスか!?
 この驚天動地の事態に、息子・織田信孝は誰につこうか右往左往し
 (「最後の忠臣」)、
 家臣・滝川一益はかつて褒美として関東の領地より茶道具を選ん
 でおかなかった決断を後悔し(「関東か小なすびか」)、
 敵将・安国寺恵瓊は秀吉と和睦を結んだ後で真相を知って歯ぎしり
 し (「南の山に雲が起これば」)、
 側室・おなべは誰も安土城を守ろうとする者がいない中、懸命に声を
 張り上げた(「信長を送る」)。
 思わぬ事態に接した時ほど、人間の本性は出てしまうもの。
 あなたに似た人物もどこかに出てくるかも。
 信長の死によって運命を変えられ、大きな岐路を前にとまどう男たち、
 女たちを温かく(?)描いた、共感たっぷりの連作短編集。
 「本能寺の変に黒幕はいたか」では、著者が考える斬新な「本能寺の
 変の真相」も綴られます。 

異国合戦

★★★

 蒙古襲来を、日本側だけでなく、高麗の国王、軍総帥、兵士なども登
 場させて双方向から描いている。名作である。
 日本に攻めよせたのは元軍というよりは高麗軍といった方が良いの
 かもしれない。元の圧力を受け、国運をかけて戦うしかなかった高麗。
 軍船を造るための膨大な出費など、同情できる面もある。
 反面、対馬・壱岐、北九州の人々に残酷な仕打ちをしたのも高麗軍な
 のである。
 『蒙古襲来絵詞』で有名な竹崎季長の行動や、元との戦いなど、それ
 新しい発見なかったが、歴史の知識を整理できてとてもよかった。
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 内容紹介・内容(「BOOK」データベース)から
 鎌倉時代の二度にわたる元寇で歴史に名を残した肥後の御家人・竹
 崎季長の活躍を軸に、攻め寄せる元の皇帝フブライの思惑や、元の
 圧政に苦しみながら先鋒を務めた高麗の指揮官や兵士の戦いぶりを
 も描く、長編歴史小説。

 季長が文永の役の恩賞を求めて、九州から鎌倉まで直訴に赴いた
 顛末など、単なる合戦ものにとどまらない人間ドラマとなっている。 
 文永の役(1274年)と弘安の役(1281年)。のちの元寇は当時「異国合
 戦」と呼ばれていた。
 侵略の矢面に立たされた九州の御家人は北条氏による執権政治の
 中心、鎌倉への直訴を試みる。
 先に蒙古に征服され、厳しい搾取のうえに日本侵攻への先兵とされ
 た高麗。そして旺盛に国土を拡大し続ける蒙古を率いる皇帝フビライ
 には、領土拡大以外の思惑があった―。
 時は鎌倉。日本が十数万人の異国の軍勢と闘った「元寇」。
 二度にわたる侵略と防衛のドラマを、まったく新しい視座から活写す
 る、著者渾身の長編歴史小説。 


 

  

 仁志 耕一郎
                       
                
1955年 富山県生まれ。東京造形大学卒業後。
     広告制作会社や広告代理店勤務を経て、独立。
     その後、会社を解散し執筆に専念。
2012年 「玉兎の望」で第7回小説現代長編新人賞。
      「無名の虎」で第4回朝日時代小説大賞を受賞。
     時代小説の新たな書き手として大きな注目を集めている。
             

 
 
 
 
 

玉兎の望
 

★★★


























 

 最初ちょっと取り付き難かったが、読み進めるうちに関心が深まり
 どんどん読み進められた。
 幼なじみのサヨが祇園へ身売りに出され、貧乏と世の無情を嘆く
 藤兵衛。
 やがて、鍛冶の仕事に懸命に打ち込む姿が認められ、新しい鉄砲
 の開発もあり、幸運が付いてくるようになった・・・。
 国友の新しいリーダーとなった藤兵衛だったが、利権から見放され
 た旧年寄方の4家から恨みをかう。江戸表に訴えられたため、藤兵
 衛は江戸に呼ばれ留められる。
 しかし、藤兵衛にとってそれは一つの転機だった。
 やがて、新しい分野に興味を示す藤兵衛。
 鍛冶の技術を生かしてさまざまな発明や西洋品の製作に取り組
 んだ・・・これは意外な発見だった。
  (日本で最初の実用空気銃や反射望遠鏡)天体観測もしていた。
 サヨとの恋を貫く姿も清々しい。
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 内容紹介から
 鉄砲鍛冶の藤兵衛が暮らす琵琶湖の湖北、国友村。怠惰な年寄
方と貧しさに喘ぐ平鍛冶衆の不和が江戸にまで聞こえるほどになり、
幕府の発注も止められかねなくなっていた。
 危機感を募らせた藤兵衛は、ある秘策を思いつく――のちに一貫
斎の号を賜り、日本で初めて火を使わない鉄砲「気砲」を作った名
鍛冶師、国友藤兵衛の、一途な人生を描く傑作長編。
 小説現代長編新人賞受賞作。朝日時代小説大賞も受賞した大型
新人のデビュー作!
松姫はゆく

★★★

 これは良い。
 この作家の本を続けて読んでみたい。
 家来や親せき筋に裏切られ、次第に追い詰められていく武田方。
 信玄の娘である松姫は、兄で高遠城主の盛信から娘たちを託され
 新府に行くが、そこも躑躅ケ崎も危なくなり、八王子を目指す・・。
 この先どうなるのだろう・・・読者ははらはらしながら、この作家の
 読みやすい文体にのせられ、どんどん読ませられる。
 上野・箕輪城が落城してから、上泉信綱に県の道を学び、武田に
 つかえていた獅子之助は、松姫を守って落のびることになってしま
 った。途中で逃走するつもりの獅子之助だったが、松姫の眼差しと
 温かい手に取りこまれてしまう・・・。
 
 スリリングな展開の中に、人間生きざまが描かれ、目を逸らせない
 この作家の大したものである。
 信長の長男。信忠が甲斐攻めの総大将として活躍していたという
 のもわかってよかった。
 勝頼をもう少し評価してほしかったという思いはある。
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 内容紹介から
 何ゆえ、男は戦をせねばならぬのであろう。
 1582年、織田・徳川連合軍の甲州征伐がはじまり、武田家の滅亡
 の刻が、いよいよ迫っていた。
 織田軍を指揮しているのは、かつて松と婚儀の約定を交わしたこと
 のある織田信長の息子・信忠だった。
 松は悲嘆にくれる間もなく、家臣と幼い子供たちを連れて安全な地
 に逃げるのだが――  

 

 

 津本 陽
                       
                
1921年 和歌山市生まれ。東北大学法学部卒業。
      剣道三段、抜刀道五段。
1978年 「深重の海」で直木賞を受賞。
1995年 「夢のまた夢」で吉川英治文学賞を受賞
1997年 紫綬褒章
2003年 旭日小綬章
2005年 菊池寛賞受賞。
平成7年『。平成15年旭日小綬章、平成17年。
 主な著書「薩南示現流」「宮本武蔵」「柳生兵庫助」
        「下天は夢か.「」乾坤の夢」等
             

 
 

戦国業師列伝















 

 この作家、結構有名なのだが今まで読んでいなかった。
 内容は歴史の概要を知るうえで役立った。
 この作家の斬新な仮想や人物の意外なエピソード等は少ない。
 長谷川等伯と雑賀孫一についてはよくわからなかったので参考になった。
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 内容紹介から
 武将とはひと味違う魅力をもつ。一芸に秀でた「業」で戦国の世を生き抜い
た10人の生涯を描いた短編集!

 戦国時代にこんなに面白い人物がいた!
剣豪、鉄砲名人、築城の天才、金山・銀山発掘の鬼才・・・・・・。
彼らは有名武将にも負けないほどの強いキャラクターをもつ、一芸に秀でた
「業師」たち。あの信長や秀吉・家康をうならせた彼らの業と生涯を、みずか
らも剣道・合気術など日本武道に精通する歴史小説界の大御所・津本氏が
鮮やかに描きます。

 登場人物
  前田慶次(カブキ者)、上泉伊勢守信綱(剣豪)、千利休(茶聖)、
  藤堂高虎(築城名人)、長谷川等伯(絵師)、九鬼嘉隆(鉄甲船を建造)、
  安国寺恵瓊(外交僧)、雑賀孫一(鉄砲名人)、石川五右衛門(大泥棒)、
  大久保長安(鉱山発掘の天才)


 
 

 
    
 坂岡 真
                       
                
1961年 新潟県生まれ。早稲田大学卒業。
    花鳥風月を醸し出す筆致で描く時代小説に定評がある。
 主なシリーズ作品に
   「うぽっぽ同心十手綴」「影聞き浮世雲」がある。
  その他
   「照れ降れ長屋風聞帖」「夜鷹屋人情剣」
   「鬼役矢背蔵人介」「修羅道中悪人狩り」等。
             
冬の蝉
 人を殺め逃走を続ける者たちの生き様、死に様が描かれた短編集。
  ・逆月  ・龍神 ・鬼 ・案山子 ・冬の蝉 ・流灌頂(ながれかんじょう)
 人の過ち、見込み違いから抜き差しならぬ事態へ・・・。
 行き詰まりの人生が描かれ、暗い気持ちになるが、深く考えさせられる
 話が並んでいる。
 こんな人生にならないようにという訓戒になる。
 商家の娘でありながら、夫が藩の家老を討つことがわかり、後顧の憂
 いを絶つため自害する話(案山子)は壮絶である。
  「うぽっぽ同心十手綴」
  機会を見て、このシリーズを読んでみたい。
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 内容紹介から
 心の襞を巧みに織り交ぜる、独特の乾いた筆致の著者が、「死に様」を
 テーマに描いたオリジナル短篇時代小説集。

 
 

   
 
 門井 慶喜
                       
                
 1971年群馬県生まれ 同志社大学文学部卒業

 2003年 「キッドナッパーズ」でオール読物推理小説新人賞
 2008年「人形の部屋」2009年「パラドックス実践」で
      日本推理作家協会賞候補となる。

             
 シュンスケ!
 若き日の伊藤博文、俊輔を描いている。
 師の吉田松の初対面の印象は(狐つきのような顔、狂人の相)だと
 思った。(やがて教育者だと思うようになった。)
 最初に師事した来原良蔵が一子相伝型。吉田松陰は天下普及型。
 多数の門人どうしを引き合わせたり、競わせたり、連携させたりとい
 うような人材操作のたくみさによって影響力を持つ・・という人物評が
 興味深い。

 山形有朋は腰の重い慎重型、高杉晋作は直情型。久坂玄端はまじ
 めで理屈っぽい。
 一緒に洋行した(長州ファイブ)井上聞多の重傷、桂小五郎の雌伏、
 変転する世の中で、数多くの仲間や恩人を失うが、俊輔は次第に
 「倒幕」を意識し始める。

 それにしても文が「軽い」。300ページを超えているが一日で読んでし
 まった。文に深みが無いといえばそうだと思う。江戸末期なのに言葉
 遣いなどまるで度外視。口語調でど深く考えることもなくどんどん読
 んだ。
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 内容紹介から
 持ち前の明るさと好奇心で、武士になる希望を抱いたシュンスケは、
 「宰相」を夢見て長州の田舎から世界へと飛び出す。幕末、攘夷か
 開国かで揺れた青春の日々。遠くハルビンへと向かう元老は懐か
 しく回想する・・・。

 武士に憧れ、宰相を夢見た少年は、いかにして大志を叶えたのか。
 動乱の時代を駆け抜けた日本最初の首相・伊藤博文の青春。
 ミステリー界の気鋭が挑む初の歴史小説。 

かまさん
























 

 榎本武揚の函館戦争を描いた長編である。
 主な参考文献が50冊ほど巻末に載せられている。
 多数の資料を読みこなし、平易な文で描く・・これがこの作家の特徴
 であろう。伊東博文の「シュンスケ」もそうだった。
 現代の口語文で話がどんどん進む。戦いの緊張感、重々しさ・・
 そういったメリハリが、歴史を荘厳に形作るのだろうが、その点は
 この作家に欠ける。
 しかし、わりと簡単に取り付き最後まで読んでしまう・・この作家の
 良さは捨てがたい。
 かまさん(榎本釜次郎)がなぜ北海道をめざし、無謀ともいえるような
 戦いの場に身をおいたのか・・この本を読むとわかる。
 「共和国」を打ち立て、世界に発信する・・この時代の人には理解しが
 たい近代化の夢を持っていたのである。その手本はオランダにあった。
 1500年代にスペインから自立したオランダは、またたく間に世界の一
 等国に成り上がった。そのオランダの姿を日本に蘇らせたかったので
 ある。
 しかし、かまさんに従ったのは旧幕府や藩の武士たちだった。
 運もかまさんに味方しなかった。函館に向かう途中台風に遭い、艦隊
 が縮小、開陽丸も江刺で座礁。不運続きなのである。
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 内容紹介から
 最強の軍艦・開陽で、箱館をオランダにする。
 勝海舟や土方歳三が敬愛し、黒田清隆らを魅了した男が夢見た理
 想の日本とは?
 武士の鑑か、裏切り者か?榎本釜次郎武揚、魂の歴史小説。 

 
 

 
 
 
 火坂 雅志
                       
                
1956年 新潟県新潟市出身。早稲田大学商学部卒業。
   編集者として出版社に勤務し、1988年に『花月秘拳行』で
   デビュー。
  吉川英治文学新人賞候補の『全宗』で注目される。
   『天地人』で中山義秀文学賞を受賞。
   (2009年NHK大河ドラマ原作)
  主な作品に『覇商の門』『黒衣の宰相』『天地人』など。
             
 常在戦場 

家康家臣列伝

★★★
























 

 7人の家康を支えた家臣の物語である。
 家康の周辺のことがよくわかる一冊だった。

 鳥居彦右衛門
  ワタリの一族 情報収集にあたり、最後は関ヶ原の戦い前、
  伏見城にて西軍の情報を集める。 
 井伊直虎
  遠江の国領主だった井伊一族は今川の支配下にあったが、
  領主の一族が謀略や戦いで亡くなり、娘と縁戚のものが国を
  追われる。
  娘は出家したのだか還俗して男として生きる。
  そして、育てた養子が家康の近習となる。井伊家発展の陰の
  存在であった女武者直虎を描く。
 石川数正
  河内源氏の末を自認する数正は田舎臭い三河が嫌いだった・・。
 大久保忠隣
  譜代の臣だった大久保氏。忠隣は家康に忠節をつくすが、本多
  正信・正純との確執ができた。
 阿茶の局
  武田の遺臣の娘だったが武田滅亡の結果、子供たちと一緒に
  人買いに売られるまでになった
  阿茶だったが、家康の目に留まり側室となる。女ながら戦場に供
  をし、家康の秘書官のような存在となっていく。
 角倉了以
  朱印船貿易の開始とともに安南国との貿易を行い、山城(京都)の
  大堰川、高瀬川を私財を投じて開削した。また幕命により富士川、
  天竜川等の開削を
 牧野忠成― 
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 内容紹介から
 持ち前の明るさと好奇心で、武士になる希望を抱いたシュンスケは、
 「宰相」を夢見て長州の田舎から世界へと飛び出す。幕末、攘夷か
 開国かで揺れた青春の日々。遠くハルビンへと向かう元老は懐か
 しく回想する・・・。 

 武士に憧れ、宰相を夢見た少年は、いかにして大志を叶えたのか。
 動乱の時代を駆け抜けた日本最初の首相・伊藤博文の青春。
 ミステリー界の気鋭が挑む初の歴史小説。 

業政駈ける
 

★★★

 剣聖・上泉信綱が仕えた領主が主人公の物語。
 この人物には以前から興味があったが長野業政の本はなかなか見
 つからなかった。
 この作家の軽い語り口で一気に読めた。
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 内容紹介から
 漢(おとこ)には守らねばならぬものがある――。西上野の地侍たち
 から盟主と仰がれた箕輪城主・長野業政。河越夜戦で逝った息子へ
 の誓いと上州侍の誇りを胸に、度重なる武田軍の侵攻に敢然と立ち
 向かった気骨の生涯を描く! 

 西上野の地侍たちから盟主と仰がれ、信義あふれる心で上杉謙信を
 も動かした知将、箕輪城主・長野業政。利欲を捨て、国を豊かにし、
 民の暮らしを守る―。河越夜戦で逝った息子への誓いと上州侍の誇
 りを胸に、度重なる武田軍の侵攻に敢然と立ち向かった気骨の生涯
 を描く。 

黒衣の宰相

★★★

 徳川家康の片腕として幕藩体制づくりに力をつくした陰の実力者、
 金地院崇伝。
 パクス・トクガワーナ(徳川の平和)として、海外の 研究者の間で評
 価されている数々の政策、武家諸法度、禁中並公家諸法度、諸宗
 諸本山法度の起章。
 大坂攻め、朝廷対策での暗躍。方広寺の鐘楼に刻まれた「国家安
 康」「君臣豊楽」の文字への言いがかり・・。
 また、天海と家康の神号で論争し(大明神・大権現)破れたこと、沢庵
 と紫衣事件を争ったことなど、世評では悪逆そのものである。
 この崇伝を平和世界の基礎を気付いた人として評価した作者は凄い。

 

   

 長尾 宇迦
                       
                
1926年 旧満州大連市生まれ。國學院大學卒業。
             
 津軽南朝秘聞
 
 浪岡城の末期を描いたものだが、言い回しについていけずリタイア。
 表記内容はだいたい史実をなぞっている。
 浪岡に属するそれぞれの館と主などを登場する。
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 内容紹介から
 みちのくに勢威を張った南朝の柱石・北畠氏の興亡! 陸奥守顕家の
 子・顕成にはじまる津軽北畠氏。南北朝時代以来9代、150年におよ
 ぶその栄耀と滅亡を描く書き下ろし長編歴史小説。 

 


 西條 奈加
                       
                
1944年 北海道生まれ。東京英語専門学校卒業。
2005年、『金春屋ゴメス』が第17回日本ファンタジーノベル大賞大賞を受賞し
      デビュー。
2012年、『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞を受賞。
    爽やかな人情味がも魅力の、今最も注目される時代小説家。
             
 閻魔の世直し

 善人長屋
 

★★★

 この作家は時代小説の申し子のような感じ。
 善人長屋という設定が興味深い。
 裏街道の頭目を誅していけば、江戸から悪を根絶やしにできる・・
 そんな早計のもとに、盗人、香具師、掏摸の元締めと手下が惨殺
 される。
 しかし、まとめ役の居なくなった闇の世界は逆に無秩序。残虐に
 押し込み強盗が多発する・・。
 善人長屋を仕切るお縫いの父・儀右衛門を中心に、陰で糸を操る
 夜叉坊主に立ち向かう・・。
 お縫いの心を捉えた同心・白坂長門の動向も気にかかる・・・。
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 内容紹介から
 表は堅気のお人好し、裏は差配も店子も凄腕の悪党が揃う「善人
 長屋」。天誅を気取り、裏街道の頭衆を血祭りに上げる「閻魔組」の
 暗躍は、他人事として見過ごせない。
 長屋を探る同心の目を潜り、裏稼業の技を尽くした探索は、奴らの
 正体を暴けるか。 
三途の川で落しもの

★★★

 素晴らしい。
 小説の醍醐味を堪能できた。
 三途の川・・よく小説などに取り上げられるが、この本を読むと
 「腑に落ちる」感じがする。
 輪廻転生についてもさもありなんと納得させられる。
 天国は・・・。
 地獄は苦しませるところではなくき考えさせ、反省させるところ・・。
 以下の内容紹介が実に詳しいのであまり書かない。
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 内容紹介から
 死者の未練はミステリー。三途の川で出会った生意気な小学6年生
 と江戸の侍2人。
 でこぼこトリオは死者の未練解決に奔走する。
 小学6年生の叶人(かなと)は、学校の近くの大きな青い橋から落ちて、
 三途の川へ辿り着いた。そこでは輪廻転生からはずれた江戸時代の
 武士とあらくれ者が、死者を現世から黄泉の国へと送りだす渡し守を
 していた。
 神話では、この三途の川の渡し守を"カローン"と呼ぶ。親殺しという
 呪われた因果から逃れられず、優しいまなざしの中にいつも悲しみを
 たたえる十蔵。殺人鬼と恐れられ、動物的勘にすぐれるあらくれ者・虎
 之助。
 死者を無事黄泉の国へと渡すには、現代世界へ降り立ちその者が強
 烈に残した未練の元を解決しなければならない。「事故か、自殺か、
 他殺か」死因がわからず現実世界へも黄泉の国へも行けない叶人は、
 いがみ合う2人の江戸者を手伝うカローン隊の一員となる。

 「いてーーーー! ! ! 何なんだ、こいつは! 何だって、見えねえ壁なんざ作
 りやがる! 」
 「この前教わっただろう。これはギヤマンでできた壁だ」
 「自動ドア……ちゃんと開く前に体当たりしたんだ……」
 電車にも乗れない大人二人と生意気な現代っ子というでこぼこトリオは、
 かみ合わないやりとりをしながら任務遂行にまい進する。

 角膜手術を控えた娘を置いてきた母親、ひきこもりの息子に刺されて死
 んだ男、渋谷の往来で無差別殺傷事件を起こした男、そして親友との間
 につらいすれ違いを残した叶人自身……。
 どうしてもあの世へ行けないほど強い未練を残す死者たち。
 3人は自分自身の抱える傷に気づかなければならなかった。
 夢中でページを繰るうちに心にあたたかい光が降り積もる、大人のため
 の新・エンターテインメント! 

いつもが消えた日
 軽い感じで、謎を追いながら楽しく読めた。
 内容紹介が詳しいので簡単に。
 大事件が起こったわりには、軽いタッチというノンフィクションそのもので
 ある。
 お蔦さんより、孫の僕(望)が中心である。シリーズなのでお蔦さんにつ
 いては前記されているのかもしれない。
 サッカー部のこと、カードの怖さ、闇の金融なども絡めて視点が広がるの
 は良い。 
 一家の失踪、血まみれの現場の謎・・これはわりと納得できる説明で
 あった。
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 内容紹介から
 もと芸者でいまでも粋なお蔦さんはご近所の人気者だ。
 滝本望はそんな祖母と神楽坂でふたり暮らしをしている。
 三学期がはじまって間もないある日、同じ中学に通うサッカー部の彰彦と
 その後輩・有斗、幼なじみの洋平が滝本家を訪れていた。望手製の夕飯
 をお腹いっぱい食べ、サッカー談義に花を咲かせた、にぎやかな夜。
 しかし望と彰彦が有斗を自宅に送り届けた直後、有斗が血相を変えて飛
 び出してきた「部屋が血だらけで!家ん中に、誰もいないんだ!」
 消えた有斗の家族の行方、そして家族が抱える秘密とは―。 
六花落々

★★★

 名作である。
 多彩な人物も登場する。
  ・近藤重蔵・・・最上徳内と千島列島、択捉島を探検
  ・間宮林蔵・・・伊能忠敬に測量技術を学び享和3年蝦夷・樺太を探検。
           シーボルト事件を幕府に密告したとされている。
  ・海外渡航者の大黒屋光太夫、
  ・渡辺 崋山
  ・シーボルト
  ・大塩平八郎
 主人公・尚七は探究心旺盛。雪の結晶に興味を持つ藩の重臣と若君に
 見出され下士からお目見えとなる。時流に流されず、ただ雪の結晶を
 求めるだけのように見えるが、諸外国にまで目を向ける。
 巻末にこれは尚七の目を通して、鷹見忠常(のちの泉石)を描くことが
 目的だったと作者が書いている。
 古河藩にあって「土井の鷹見か、鷹見の土井か」といわれた程の人物。
 当時の政治、文化、外交の中枢にある人々と広く交流を持って、洋学界
 にも大きく寄与した。渡辺 崋山の描いた人物画が残されている。
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 内容紹介から
 冬の日、雪の結晶の形を調べていた下総古河藩の下士・小松尚七は藩
 の重臣・鷹見忠常(のちの泉石)に出会う。その探究心のせいで「何故な
 に尚七」と揶揄され、屈託を抱える尚七だったが、蘭学に造詣の深い忠
 常はこれを是とし、藩の世継ぎ・土井利位の御学問相手に抜擢した。
 やがて江戸に出た主従は、蘭医・大槻玄沢や大黒屋光太夫、オランダ
 人医 師・シーボルトらと交流するうちに、大きな時代の流れに呑み込ま
 れていく…。 

 


 浮穴 みみ (うきあな)
                       
                
1968年 北海道旭川市生まれ。千葉大学文学部仏文専攻卒業。
2008年 「寿限無 幼童手跡指南・吉井数馬」で第30回日小説推理新人賞受賞
2009年 受賞作を収録した連作短編集『吉井堂謎解き暦 姫の竹 月の草」で
     デビュー。
  他の著作に「こらしめ屋お蝶花暦 寒中の花」「恋仏」
         「夢行脚 俳人 諸九の恋」
             
 御役目は 

影働き 

忍び医者了釼潤参る
 

★★★

 この作家は実に良い。
 
 父・仙庵の死去、兄たちの死去が続いて、予期しなかった上忍の
 笹川家を継ぐことになった了潤は、父が仕えていた宇津木藩・世子
 の若殿にあい、世の転覆を謀ろうとする者たちと戦う。
 新手の鉄砲や大砲づくりを計画し何事かを企んでいる門倉鉄しゅん。
 この男は了潤の父を殺した友思われるのだが、その実態を平賀源内
 にもっていくのは意外だった。
 平賀源内が伊賀の生まれで、了潤の配下となった、お蔦と関わって
 いるなど、展開を広げている。
 団子好きの同心・内藤伊織、了潤の配下となった忍者の特異の技
 など、物語を面白くする要因も含まれている。
 首を吊った小僧、顔の黒くなった女の死体等の謎解きも絡めて、
 次第に敵の本態に近づく了潤と配下たち・・・。
 目を離せなくなる秀作である。
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 内容紹介から
 今様忍者の素顔を隠し、町医者となった笹川了潤。美男、長身、
 医師にして上忍。しかし、
 唯一の問題は「三度の飯より死者が好き」――大江戸検屍エン
 ターテインメント、見参! 
寒中の花
 

★★★























 

 この作家の素晴らしさはどこにあるのだろう。
 江戸の人情ものを書かせたら、男女の作家は数多くいる。
 その中で浮穴みみが一線級であるのはまちがいないところ。
 
 描写が実に良い。次のほんの一部。
 「蝶をあしらった山吹色の縞の着物をゆったりと着付け、華がある。
  それぞれに結い上げた烏(からす)の濡れ羽色。・・・とっくりと塗
  った白粉化粧も衣装に映えて・・・。」
 この文体の巧みさ、描写力は「仏文専攻」と関連があるのかもしれ
 ない。

 幼なじみのお初、戯作者(実態は旗本)の沙鴎、大女のおちま・・
 継母を慕う子の想い、使用人と若旦那の恋・・・。
 人情と女心を絵描いた秀作である。
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 内容紹介から
 江戸日本橋で御茶漬屋「夢見鳥」を営む女主人・お蝶。道理の通ら
 ないことには声を上げ(時には手も上げ)、困っている者がいれば助
 けを惜しまない。
 旨い料理が評判の店を切り盛りしながら、おせっかいもまるで生業
 に。周りの者たちは「こらしめ屋お蝶」と呼んで慕っている。
 そんなお蝶の亭主・伊三郎は「御役目」だと言い残し、一年前に姿を
 消した。時々届けられる花だけが無事の知らせ。いとしい人の帰り
 を待ちわびながら、今日もお蝶は世話焼きに駆けまわる。 
 人情と女心の機微を豊かに描いた連作時代小説。 

月の欠片
 前置きが長い・・なかなか本筋が見えてこないという感じがあった。
 琢磨、新しい下宿先を訪ねあて、落ち着くまでの出来事でかなり紙面
 を割いている。
 しかし、中盤から一気に革新へ。
 武士としての意地、会津藩士の生き方、そして推理・・。
 
 役者の成れの果てか、歌舞音曲の名取かと思われた片桐祐一郎が
 なかなかの人物。しかし、変な特技?がある。人の怨念を感じとるこ
 とができるという・・・。
 西洋塾のジョーンズ先生。協会の娘アリスなど、新しい時代の息吹も
 散りばめられている。
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 内容紹介から
 開化の帝都に連続する死。“四人の敵"は誰なのか?
 新時代への希望を胸に成長する青年が事件を追う、気鋭の長編時
 代書下ろし! 
 戊辰戦争で孤児となった会津の青年琢磨は、十六歳を迎え、築地外
 国人居留地近くの西洋茶店都鳥に寄宿することとなった。
 主人の祐三郎は、書生を無償で西洋塾に通わせる奇特な人物。
 だが、訪ねた矢先、新橋の牛鍋屋主人治五郎が割腹死体で発見され
 る。
 明治の世に切腹? 侍の出ではなく、若い頃の悪事を悔いて洗礼を受け
 る予定だった治五郎が、自死を選ぶのは不自然だった。
 さらに、この事件には、一連の敵討ちの端緒と思われる、ある理由が
 あった。続発を防ぐべく、琢磨たちが治五郎の過去を洗い始めた矢先、
 第二の殺しが……。
 新時代への希望を胸に成長する青年が事件を追う、気鋭の長編時代
 書下ろし!開化の帝都に連続する死。“四人の敵”は誰なのか? 

 

  

 風野真知雄
                       
                
1951年 福島県生まれ。立教大学法学部卒業。
1993年 「黒牛と妖怪」で第17回歴史文学賞を受賞。
2002年 第1回北東文芸賞を受賞。
 著書に「好敵手」「厄介引き受け人人望月竜の之進」
     「妻はくノ一」「爺いとひよこの捕り物帳」
     「女だてら 麻布わけあり酒場」の各シリーズ。
             
耳袋秘帖

赤鬼奉行根岸肥前

 気張らずに読める捕り物帳である。
 主人公は62歳の奉行。これは実在の人物らしい。
 この奉行は市中によく出て、自ら事件の渦中に身を置くこともある。
 若い頃無頼の生活を送っていたため、裏の世界に通じ、意外な知り
 合いも多い。
  ・もの言う猫
  ・古井戸の主
  ・幽霊橋
  ・八十三歳の新妻
  ・見習い巫女
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 内容紹介から
 若い頃、肩に赤鬼の刺青を彫る無頼をしながら、六十二歳で南町奉行
 まで昇り詰めた名奉行・根岸肥前守鎮衛。
 「大耳」の綽名を持つ彼が奇譚を記した随筆『耳袋』には、誰にも見せ
 ないもう一つの秘帖版『耳袋』があった。
 根岸が同心の栗田、家来の坂巻とともに江戸の怪異を解き明かす
 「殺人事件」シリーズ第一弾。 
 耳袋秘帖

佃島渡し船殺人事件

 実在の南奉行・根岸を主役にしているので、関わる人物や場面設定も
 配慮されている。松平定信が登場して根岸と絡む場面もある。
 事件はさほど奇抜でもなく、面白みに欠けるところがある。
 だね佃島ができたいきさつ・・家康が海防のためここに忍びの者を配した。
 そのため、その子孫である漁師たちは家康からお墨付きをもらっている・・
 また、佃島の漁師とと対立するお船手組の対立も語られる。
 根岸配下の同心の恋なども付け足しで興味深い。
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 内容紹介から
 年の瀬の佃島で、渡し船が突如突っ込んできた船に当て逃げされ転覆、
 乗っていた四人が死んだ。だが、死んだ船頭以外の三人の遺体には刺し
 傷が見つかる。
 やがて、出航直前に別の船に乗るよう声をかけられた娘がいたとの証言
 も出て、事故の謎はさらに広がる。
 南町奉行根岸肥前が活躍する「耳袋秘帖」殺人事件シリーズ第十二弾。

 

  

 和久田 正明
                       
                
1945年 静岡県出身。
1970年代から1990年代まで、テレビ時代劇の脚本を数多く手がけた。
     吉宗評判記 暴れん坊将軍など数多くのヒット作がある。
     現在は時代小説の執筆に専念している。
     捕物帖のシリーズが5つほどある。
             
火賊捕盗同心捕者帳

あかね傘
 

★★★ 

 新米同心の清々しさが良い。
 絵に描いたような捕物帖(本の題では「捕者帳」になっている。)
 「次郎吉」が登場するが、続編では「鼠小僧」になるのだろうか?

 ・冬の稲妻
   新免又七郎は大物の盗人・赤目の権兵衛を追ううち、
   賭博ばかりしている次郎吉と関わる。この次郎吉が実は・・。

  ・あかね傘
   不幸な生い立ちから盗賊の一味となった巳代吉は、
   旦那の借金のかたに女郎屋に売られようとしていたお夕を
   助ける。盗っ人の頭から15両を盗み取って・・・。
   お夕が雨の日、巳代吉に傘を貸してくれたから。

  ・黒猫の鈴
   又七郎の父の老いらくの恋・・・。
   その頃、塗籠に乗ったお高祖頭巾の女と、侍姿の盗賊一味が
   商 家を荒らしまわっていた・・・。
 -------------------------------------------------
 内容紹介から
 時は文政年間、火賊捕盗方同心の新免又七郎は、大名家や旗本
 屋敷に盗みに入り、刀剣・骨董ばかりを狙う“赤目の権兵衛”の探
 索に動いていた。
 苦心の末、ようやく尻尾を掴み、罠を張って待ち伏せていた新免の
 前に現れたのは、思いもよらぬ男だった。
 書き下ろし長編時代小説、待望の新シリーズ第一弾。 


 

  

 牧 秀彦
                       
                
1969年 東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。
      東芝に勤務した後、雑誌記者を経て作家活動へ。
      全日本剣道連盟居合道五段(夢想神伝流)
             
江都(こうと)の

暗闘者
 
 

尾張暗殺陣
 

★★★ 

 田沼意行率いる特命集団の一人・白羽兵四郎は弟のように付き合ってい
 将軍家指南役柳生家の若い養子の危難を救うために立ち上がる。
 勧善懲悪が全面に出ているが、気軽に読むには最適。
 剣道に造詣の深い作家なので格闘場面、武器などの描写は読みごたえ
 がある。
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 内容紹介から
 江戸の町で柳生新陰流の剣を学ぶ旗本たちを狙った辻斬りが続発する。
 夜な夜な出没し、闇にまぎれて兇刃を振るっていたのは、江戸柳生へ変
 わらぬ復讐の念を燃やし続ける柳生宗盈だった。
 宗盈の凶行が端緒となり、江戸柳生と尾張柳生の対立が深刻化する。
 尾張柳生がいかに動くかを探るべく、白羽兵四郎は単身尾張に向かうが、
 そのとき思わぬ同行者が現れる。好評シリーズ第五弾。 

 
 


 木内 昇(きうち のぼり)
                       
                
1967年 東京都出身 女流作家。
      中央大学法学部哲学科卒業。
      出版社勤務を経て
2004年 「新撰組 幕末の青嵐」でデビュー
2009年 第2回早稲田大学坪内逍遥対象奨励賞受賞。
2011年「漂砂のうたう」で第144回直木賞受賞。
             
櫛挽道守

(くしひきちもり)
 
 

★★★

 名作である。
 時代背景、登場人物の行動、話し方、自然描写などが素晴らしく長い物語にも
 関わらず、最後まで惹きつけられた。
 さすがに直木賞作家。
 戦国の戦いを描いたものや、○○捕り物帳などとは異なる、深い味わいのある
 一冊である。

 舞台は木曾の奈良井宿に近い宿場。櫛挽の家に生まれた娘の櫛作りにかける
 深い思いと、それを取り巻く人々の戸惑い、交流を情感豊かに書いている。
 寡黙で櫛挽ひと筋の父親、女の幸せは嫁ぐことと考える母に不満を覚えながら
 登瀬は恵まれた嫁の話を断り、櫛挽に心血を注ぐ。女は櫛挽をするものでない
 という陰口に耐えながら。
 妹はそんな登瀬や両親に反発して勝手に他部落の男にに嫁してしまう。
 しかし、妹の選んだ道も苦難の道だった・・・。
 弟は川で突然死するが、弟は故郷の伝説を美化する読み物を秘かに書いてい
 た・・・。
 奈良井宿の裕福な家に育った四男が登瀬の家に入り込む。肌が泡立つほど嫌
 だった男だった。安っぽい櫛を作ってうまく売り歩き、調子だけの良い、一方で
 父親の技に真摯に迫ろうとする姿・・。男も目的は不明だ。
 やがて夫婦となった登瀬に男の子が生まれ・・・。最終章、涙が出そうになった。
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 内容紹介から
 神業と称えられる櫛職人の父。家を守ることに心を砕く母。
 村の外に幸せを求める妹。才を持ちながら早世した弟。
 そして、櫛に魅入られた長女・登瀬。幕末、木曽山中。
 父の背を追い、少女は職人を目指す。家族とはなにか。
 女の幸せはどこにあるのか。一心に歩いた道の先に深く静かな感動が広がる
 長編時代小説。
 黒船来航、桜田門外の変、皇女和宮の降嫁…時代の足音を遠くに聞きながら、
 それぞれの願いを胸に生きた家族の喜びと苦難の歴史。 

 
 

  

 楠木誠一郎
                       
                
1960年 福岡県出身 日本大学法学部を卒業
1996年 「十二階の柩」で小説家としてデビュー。
1999年 「名探偵夏目漱石の事件簿」で第8回日本文芸家クラブ大賞。
     日本推理作家協会会員
     日本文芸家くらぶ会員
             
北町裏同心

謀略切り
 

★★★ 

 鼠小僧が、蔵之介を中心とした4人かになっていたという設定。もちろん
 その中に次郎吉も含まれている。
 この本では、鼠小僧の活躍?を描いているのではなく、偽の鼠小僧が出
 現し、そのねらいと一味を探っていくという流れをとっている。
 気軽に読むにはちょうど良い。
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 内容紹介から
 鼠小僧参上!町奉行所は江戸を騒がすこの盗賊を捕らえようと躍起になっ
 ていた。
 放蕩三昧の生活を送っていた我孫子蔵之介は、父と兄の急死で、北町
 奉行所隠密廻り同心となる。だが、蔵之介には裏の顔があった。
 次々と大名屋敷で大金を盗み出す「鼠小僧」は、実は蔵之介とその仲間
 たちの仕業だったのだ。
 彼らが盗みを働くのには、ある訳があった―。
 同心・蔵之介が次々と江戸の巨悪を暴く痛快時代小説。シリーズ第一弾。 

 
 

  

 千野(ちの) 隆司
                       
                
1951年 東京生まれ。國學院大學文学部卒。出版社勤務を経て
     中学校教諭となる。
1990年 「夜の道行」で第12回小説推理新人賞を受賞。
      捕物帖での新人賞受賞は極めて困難と言われている
      中での快挙だった。
      主な著書に「浜町河岸夕暮れ」「永代橋、陽炎立つ」
             「札差市三郎の女房」などがある。 
             
恵方の風

駆け出し同心

鈴原淳之介B
 

★★★ 

 「千俵の船が良かったので、続けて読んでみた。
 こちらの方はまだ2弾ということで、初々しさがある。
 淳之介が信念に基づき、南町奉行所が有罪とした事件に挑む。
 南町はもとより、所属する北町奉行所からも不興を買うが、筆頭与力・中
 島は淳之介の探索に眼をつむる。淳之介の味方は隣家で同じ北町同心
 の菊川(茜の父)、伯父で北町与力・清水のみ。
 桃井道場主の姪・勢津(近江屋の娘)、隣家の茜にも励まされ、淳之介は
 薬問屋主人殺害の解明に挑む。
 真犯人が捕まった後、容疑をかけられた男に心を寄せるお民が、淳之介
 に礼を言いに現れる・・・この場面が心を打つ。
 -------------------------------------------------
 内容紹介から
 元の主を殺した咎で斬首を待つばかりの男は無実ではないのか?
 北町奉行所見習い同心・鈴原淳之助は疑問を抱き、密かに探索をつづけ
 てきた。
 しかし、事件は南町の差配で、へたに動けば南北奉行所すべてを敵にま
 わしかねない。
 そうなっては、父の仇を捜すこともかなわなくなる。
 自分の信じる正義を貫くべきか、それとも。悩む淳之助の下した決断は。
千俵の船 

駆け出し同心

鈴原淳之介A

 上に描いた「恵方の風」がこのシリーズの第2弾らしいが、3弾のこの本を
 先に読んだ。
 この作家は「第二の藤沢周平」といわれたことがあるという。
 気軽に読める時代物である。
 父の死で若年ながら後を継いだ淳之介は老練な岡っ引き・繁蔵の力を借
 りて探索に精を出す・・・
 立ち合いの場面もうまく描いて残虐感の無いのが良い。
 隣家の娘・茜が淳之介の嫁になると覚悟を?決め、気丈にふるまったり、
 淳之介にアドバイスをするのも微笑ましい。
 桃井道場も登場する。
 -------------------------------------------------
 内容紹介から
 商家の若旦那の刺殺、そして、闇討ちにされた身元不明の浪人。
 二つの事件は、某藩の主権争いをもはらんだ、闇米の企ての一端だった。
 父の仇を捜す淳之助は偶然のことから企ての尻尾をつかみ、探索を始め
 るのだったが…。好評シリーズ第三弾! 

  

 野火 迅 (のび じん)
                       
                
1957年 東京生まれ。早稲田大学卒業。
      出版社勤務を経て文筆活動を開始。

    日本古代史、中世史を中心とした歴史小説を発表。
    また、硬派の映画狂として、映画三昧の日々を送る。
    著書に『陰陽師完全解明ファイル』ほか。

             
襖貼りの縊り鬼
ふすまはりのくびりおに
 

 浮世の同心 

柊夢之介
 

★★★

 これは面白い。読み応えがあった。
 時代物・捕り物帖は数多いが、ひと味違う感じがする。
 平易な文でどんどん読み進められるわりに、登場人物に寄せる作者の深い思
 いが込められているように感じる。
 とび職の父は寝たきりになり、看病と内職に生きがいを見出していた母は、
 ある日、息子の勝蔵がみているのにも気付かず、父の首を紐で・・・。
 以来、勝蔵は夫殺しの子として、奉公先を次々と首になる。

 押し入った先で、履物をきちんと脱ぎ、室内を荒らすこともなく高価なものを持ち
 去る、そんな事件が起こる。同心・柊は3つの事件に関連性があるとにらむ。
 いずれも、家人が紐で絞められ殺されていた。
 そして、柊らが追い詰める前に勝蔵は自首する。それも晴れ晴れとした姿で・・。
 これはいったい何故?
 2件目の事件で寝たきりの父を殺された娘は、なぜか犯人のことを覚えていない
 という。
 一見落着かと思われた事件の浦に何かあるのでは・・柊の探索は続けられる。
 勝蔵は父を縊り殺した母が鬼だと思ったが、母は出頭した時、観音様のような
 表情をしていたという・・・。

 同心・柊が主人公のようでそうでもない・・・。他の人物の心情が自然ににじみ
 出てくるところが良い。
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 内容紹介から
  江戸・本所深川で立て続けに起こった三件の凶悪な殺人事件。それらは無惨
  にもみな縊り殺されていた。若き同心・柊夢之介は、幼馴染の尾形兵庫、父親
  ほども年の離れた岡っ引きの蔵六らとともに、難事件の解決へと乗り出す。
  時代小説に新風を吹き込む書き下ろし第一弾。 


 

  

 宮本 紀子
                       
                
      京都府生まれ。兵庫県在住。
      市史編纂室などに勤務。

2012年 「雨宿り」で第6回小説宝石新人賞を受賞。
      デビュー作となる。

             
雨宿り
 

★★★

 秀作である。
 文が良い。デビュー作なのだが書き慣れた感じである。
 これだけの書き手はなかなかいない。次回作が出たら是非また読んで
 みたい。

 料理茶屋の女主人・おこうが、かつて自分を捨てていなくなった伊之助を、
 包丁を持って追いかける場面から始まる。
 2人がかつて寺の浦のお堂で逢い引きをしていた・・そこにやってきた盗人が
 諍いを起こして傷つく。その盗人を殺して金を手に入れるが・・・伊之助は罪
 の意識に苛まれ、おこうの前から姿を消したのだった。

 やがて川に入って死のうとしている伊之助を見つけ、おこうはこれ幸いと思っ
 たのだが。

 このおこうを中心に連作が続く。
 ・盗人の方割れ、彦一は幼馴染のお路を観音様のように思っていた。
  お路の実家が破産。吉原に売られたやお路を彦一はなんとかしようと・・。
 ・おこうと一緒の店で働いていた女・おいとは、農家の暮らしが嫌で江戸に
  出てきた。おこうが所帯を持ったらしいことを知り焦る。
  店の内儀から紹介された仁助は百姓だった。しかも子連れの。
  「長い長いこれからを一緒に生きていく人はーー」
 ・おこうが伊之助と別れて始めた「安囲い」。それは何人かの男が1両出して
  おこうを妾にするということ。
  おこうに本気で惚れた商家の婿。息子が大店の娘を嫁にもらうことになり、
  かつて安囲いを紹介した男から、大店に安囲いのことょばらすと脅される。
 ・おこうに安囲いをさせていた女・ツネ。かつては武家の出。夫の仕官を成し
  遂げるために上役に賄賂を包みもそれだけでなく・・・。

 登場人物の一人一人に感情移入して読むことができた。
 おこうに本気で惚れた忠兵衛は、恐喝をきっかけに、妻と息子と初めて正面
 から向き合う・・・。
 「お涙ちょうだい」「たんなるハッピーエンド」・・・読書をしてそんな批判に出会
 うことがある。
 私はハッピーエンドで良いと思っている。
 衝撃の真実、人間の欲望、話題作・・・そんな本を読むのは悪くない。
 しかし、読者は現実の世界を生きている。人生に失望して虚無に陥って、そ
 れで終わり・・・というわけにはいかない。生き難い人の世をどう生きていくの
 か、最後にその道標を示して小説を終えるのが、作家の使命であると思う。

 かつて夫と姑を失い、今また娘から永遠の別れを告げられた・ツネ
 「お前もおっ母さんを捨てたことなんか忘れて、強く生きて行っておくれ」
 「よっこらしょ」
 ツネは墓(夫?)の墓から立ち上がると、暗くなった空を見上げた・・・。
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 内容紹介から
  一番会いたくない男だった。忘れたい、けど決して忘れられない――
  女は男を追っていた。胸に一本の包丁を忍ばせて――。
  釣り客で賑わう料理茶屋「魚花」の女主おこう。女手ひとつで守ってきた
  大切な「魚花」の店先に、ある日、物乞い同然の形をした男が現れた。
  それはおこうにとって一番会いたくない、けど決して忘れられない男だった。

  「厚くて深い。物語の中にぐっと入り込めた」朱川湊人氏、「光る心理描写。
  登場人物すべての息吹が感じられる」三浦しをん氏。
  江戸の片隅で、不器用に人を愛した5人の男女。
  静かに熱く胸を打つ、第6回小説宝石新人賞受賞作!


 

  

 平谷 美樹
                       
                
1960年 岩手県生まれ。 大阪芸術大学美術学科卒業後、中学校教員。
2000年 第一回小松左京賞受賞
      「ゴミソの鐡次調伏覚書」シリーズ
      「彩薬使左平治次」シリーズ
      「貸し物屋 お庸」シリーズ
      「修法師百夜まじない帖」など著書多数。
      「風の王国」(全10巻)では、
2014年 歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞受賞。   
             
でんでら国
 

★★★

 フィクションとしては面白い。
 60歳を超えた老人達のパワーと行動力が痛快無比である。
 南部藩の支藩である「外館藩」が舞台。外館藩には西根通など5つの「通」がある。
 (代官の管轄区域のこと)
 この西根通にある大平村。この村は隠田があるのではないかという疑いを持った代
 官の命をうけて、別段廻役の舟越平太郎は探索に出る。
 
 何でも自在に取り組む老人たちの「御山」で平太郎が見たものは・・・
 隠田どころか、放牧、果ては金山??・・・ 御山に出入りする修験者、狼使い・・

 面白いこと、このうえないが、田舎に住む私としては、人里離れた山奥の向こうに
 そんな土地を造ることが夢であることを知っている・・・。
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 内容紹介から
  姥捨山のその奥に老人達の桃源郷があった 

 時は幕末、陸奥国の八戸藩と南部藩に挟まれた二万石の小さな国、外館藩西根通
 大平村が舞台。大平村には、60才になると全ての役割を解かれ、御山参りをする習
 わしがあった。
 御山参りと言えば聞こえはいいが、それは大平村へ戻れない片道の旅。食い扶持
 を減らす為の村の掟であったのだ。
 ある日、代官所は、そんな大平村が、飢饉の年でも年貢をきちんと納めることを怪しく
 思う。
 姥捨山に老人を捨てているからだという噂もあるが、それでも老人を減らすだけで、
 重い年貢を納めることができるものかといぶかしむ。そこで代官所がたどり着いた答
 えは、「大平村は隠田を開墾しているのではないか」という疑惑だった。
 隠田を持っていることは、死罪にあたる時代、果たして真相やいかに・・・?
 代官と農民の知恵比べ。幕末老人痛快エンタテインメント! 

【編集担当からのおすすめ情報】 
 原稿を最初読んだとき、あまりの面白さにページをめくる手が止まりませんでした。
 今、まさに見直したい「老人力」。老人達の知恵と勇気が詰まった、この小説を読むと
 年を重ねる楽しさが伝わってきます。高齢化社会に突入した日本へ、たくさんのヒント
 が詰まった物語です。