安 房 直 子
  
図書館で見つけた全七巻の安房直子コレクションを読むうちどんどんこの作家の世界に
入り込んでしまい・・・・ついに7巻全部を読み飛ばしてしまいました。せっかくなので書
名を記しておくことにしました。
  
1943年、東京都生まれ。 日本女子大学国文科在学中より山室静氏に師事。
第1作目は「目白児童文学」に掲載された「月夜のオルガン」(1962年)

 「さんしょっ子」         第 3回日本児童文学者協会新人賞受賞
 「風と木の歌」         第22回小学館文学賞受賞
 「遠い野ばらの村」          第20回野間児童文芸賞
 「風のローラースケート」       第 3回新美南吉児童文学賞
 「花豆の煮えるまで」           ひろすけ童話賞

1993年 肺炎のため死去。50歳

             
 
第一巻  「なくしてしまった魔法の時間」
   さんしょっ子
     
     太郎とすずなは兄弟のように遊び暮らした。それを陰から見ているさんしょっ子。
     やがて年月が経ち、すずなは他所に嫁に貰われていく。
     太郎はだんご屋もうまくいかず、鬱々とした日を送っていたが、さんしょっ子からもらった
     お手玉のあずきを使って店を復興する。
     太郎に想いを寄せていた、緑いろの小さなさんしょっ子は最後に風になる

   きつねの窓
     小学校の教科書にも登場する名作。
     きつねに染めてもらった手の「あおい窓」に亡くなった懐かしい父母や妹の姿が・・・

   空色のゆりいす
     若いいすつくりの夫婦に授かった娘は盲目だった。
     夫婦の前にあらわれた男の子は、空の青やバラの紅色をいすに塗る・・・。
     やがて月日が流れ、盲目の少女は、本当の空の色を教えてくれた若者のお嫁さんになる。
   
      
     魔女に魔法をかけられ、カモメから人間になった少年。
     その少年を好きになった少女。
     魔女が赤い実を食べさせて、人間にしたのは実は二羽のカモメだった・・・。

   夕日の国
     ビルの15階にあるクレオパトラ美容院で、少女「咲子」となわとびを百階続けて跳んで
     夕日の国を見た少年・・・。

   だれも知らない時間
     カメがくれる不思議な時間。
     その時間に、動いているのは自分だけ。
     さち子は島にいる病気の母に会いに行く・・・。母が亡くなった日。少女はカメと約束した
     1時間にうちに戻ることができず、海の底に閉じこめられる。
     良太はカメからもらった1時間で太鼓の名手になる。
     さち子を助けるよう良太に頼まれたカメは・・・。

   雪窓
     おでんの屋台「雪窓」
     ある日、死んだ美代に似た娘から、野沢村でおでんを売るよう頼まれる。
     知り合ったたぬきと一緒に、雪の中を屋台を引っ張ったおやじは・・・。

   てまり
     菜の花畑でぽっくりを投げた夢を見たお姫様と、ぽっくりをひろったおせん。
     おやしきのお姫様の前にあらわれた「おせん」はいっしょにてまりをして遊ぶ。

   赤いばらの橋
     がけっぷちにすんでいる緑色の鬼の子は、向こう側から飛んできた帽子をとどけに
     一本のつなをかける。渡っていた先には魔女の親子の住みかが・・・。

   小さいやさしい右手
     おっかさんにいじめられている下の娘に、よく切れるかまを貸した「魔物」は、いじわるな
     おっかさんに、右手を切られ棒のようになってしまう。
     何年か経って、魔物は復讐のために下の娘を訪ねる。
     すっかり大人になった下のむすめは、「かたきうちでなく、おっかさんをよくしてあげるよう
            話す。下の娘のやさしさを自分のものにしたいと思う魔物は、透き通るように白い若者になる。

   北風のわすれたハンカチ
     北風にトランペットを教えてもらった熊。
     北風のおくさんからはバイオリンもおしえともらうが、ぜんぜん上達しない。
     北風の娘がおいていったハンカチを耳に入れると不思議な音楽が聞こえてくる。
 

      エッセイ

       ・ 惹かれる色
       ・ 教材手としての「きつねの窓」
       ・ はじめの1行
       ・ 童話と私
       ・ 精いっぱい書きつづけたた同人誌「海賊」
       ・ 山室静先生と私
       ・ 「海賊」創刊の頃
       ・ 同人誌「海賊」マストから  
             

      
第二巻  「見知らぬ町ふしぎな村」
    
この巻にも秀作が散りばめられています。
魔法をかけられた舌・空にうかんだエレベ
ーター ・不思議な文房具屋・遠い野ばら
の村・青い花・・・・

本当に素晴らしい!!
どうしたらこんなお話がかけるんだろう。
切なく・・・心が弾むような・・・そして、生
きる力を与えてくれる・・・

 魔法をかけられた舌
  レストランを経営していた洋吉の父がぼっくり亡くなった。
  後にのこされた洋吉は、料理の腕が全くない。たくさんの料理人やボーイたちが次々とやめていき
  途方に暮れる洋吉の前に小人が一人現れる。

  地下室に三十年住み着いているという小人は、洋吉の舌に魔法をかけ、とびきり上等の舌にする。
  食べた料理に使われている材料がすべてわかるという舌である。
  洋吉は、やがて一流レストランの主人になる。
  ある晩、やってきた黒いオーバーの男が「うちの店はもっとうまい」と言う。
  黒いオーバーの男の後をつけた洋吉は・・・・。
 
  洋吉はやがて本気になって料理を勉強する決心をする・・・。

 空にうかんだエレベーター
  大通りの子供服の店。
  そのショーウインドーに中にうさぎが飾られていました。
  女の子はそのうさぎが好きで毎日見にきていましたが、ある満月の晩・・・
  うさぎと女の子は、高い高いビルのエレベーターに乗り、空に飛び出します。
  星の光のリボンをつけた月のマントを着て、二人は空を飛びます。

  やがて、月がしずみかけます。
  月が沈む前に帰らないとお店のショーウィンドーのガラスがふさがってしまう・・・・。

 ひぐれの客
  裏通りに、糸や裏地を売る中山さんの店がありました。
  冬のはじめのひぐれどき、まっ黒い猫がまっ黒いマントを着てたずねてきます。
  マントにつける赤い裏地がほしいという。
  猫といろいろな裏地をさがしながら、においをかいだり、耳をつけたりしてみます。
  まきストーブの火の色、野ばらやスイートピー畑・・・・
  どの色も今はねむっているが、とりだしてひろげてみれば、みんなそれぞれの歌とかおりを
  もっている・・・・。

 不思議な文房具屋
  かわった品物ばかりおいてある店。
  猫を亡くした女の子がやってきます。
  女の子は画用紙に描かれた水仙の花畑に入っていき、猫のミミと会う・・・。

 ねこの結婚式
  のら猫のギンが結婚式をあげるという・・・その相手とは。
  結婚した二ひきの猫は猫の町へと旅立つ・・・。

 うさぎ屋のひみつ
   なまけ者の若い奥さんのところに、
   「夕食配達サービス・・・うさぎ屋」   こんな名刺をもってうさぎがやってきます。
   そして、毎日おいしいごちそうが配達されますが、奥さんは渡すアクセサリーがなくなり、
   結婚ゆびわもあげてしまいます。

   うさぎの家をつきとめて、うさぎの調味料をかたっぱしから持ち出した奥さんは、高いマンション
   に引っ越し、料理のうでをあげます。三十種類の調味料をなくしたうさぎは・・・。

 青い花
  ちいさなかさ屋。
  ある日、まがり角のかきねの所で水色の服をきた女の子に会い、青い雨がさをつくり始める。
  やがて青いかさは大評判になり、かさ屋はわきめもふらず青いかさをつくり続ける。
  そして、「雨の日には、レモン色のかさをさしましょう」新聞にこんな広告がのり、青いかさの注文
   はみるまにへってしまう。

 遠い野ばらの村
  谷間の小さな村でおばあさんは雑貨屋をひらいていました。
 

 秘密の発電所
 オリオン写真館
 海の館のひらめ
 ふしぎにシャベル
 海の口笛
 南の島の魔法の話
 だれにも見えないベランダ
 


 
3.ものいう動物たちのすみか

きつねの夕食会
ねこじゃらしの野原・・・とうふ屋さんの話
  ・すずめのおくりもの
・ねずみの福引き
・きつね山の赤い花
・星のこおる夜
  ・ひぐれのラッパ
  ・ねこじゃらしの野原
山の童話 風のローラースケート
  ・風のローラースケート
  ・月夜のテーブルかけ
  ・小さなつづら
  ・ふろふき大根のゆうべ
  ・谷間の宿
  ・花びらづくし
  ・よもぎが原の風
  ・天狗のくれためんこ

4.まよいこんだ魔界の話

ハンカチの上の花畑
ライラック通りの帽子屋
丘の上の小さな家
三日月村の黒猫
エッセイ
 昔おぼえた詩
 私のアンデルセン童話集
 小人との出会い・・針箱の中の小人
 小人と私
 「ライラック通りの帽子屋」のこと
 童話と家事と
 家の中の仕事
 
 
 

 

5.恋人たちの冒険

天の鹿
熊の火
あるジャム屋の話
鳥にさらわれた娘
べにばらホテルの客
エッセイ
 私の書いた魔法
山への思慕
心を豊かにしたてくれる私の
森の家
 
 
 
 
 

 

6.世界の果ての国へ

鶴の家
日暮れの海の物語
長い灰色のスカート
木の葉の魚
奥さまの耳飾り
野の音
青い糸
火影の夢
野の果ての国
銀のくじゃく
エッセイ
 
 
 
 
 
 
 
 

 

7.めぐる季節の話

みどりのスキップ
もぐらのほった深い井戸
初雪のふる日
エプロンをかけためんどり
花豆の煮えるまで・・・小夜の物語
・ 花豆の煮えるまで
・ 風になって
・ 湯の花
・ 紅葉の頃
・ 小夜と鬼の子
・ 大きな朴の木
うさぎ座の夜
 
 
 
 
 
 
 

 

エッセイ

[子供の頃の思い出]
焼きりんごのこと
母のいる場所は金色に輝く
運動ぎらい
セーラ・クルーに出会った夏
八木重吉の詩に出会った頃
誕生日のおすし

[子供のこと・絵本のこと]
はじめのほほえみ
子供と読んだたくさんの本
好きな絵本とふたつ

[趣味のこと]
編物の楽しみ
私の人形たちへ
私の市松人形
自分で自分に

[創作のこと]
自作についてのおぼえがき

  
 安 房 直 子の出版物

  再販されたものを含みます。
  

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まほうをかけられた舌
北風のわすれたハンカチ
風と木の歌
ハンカチの上の花畑
白いおうむの森
しろいしろいえりまきのはなし
きつねの窓
銀のくじゃく
ライラック通りのぼうし屋
夢の果て
しろいあしあと
白樺のテーブル
きつねのゆうしょくかい
ころころだにのちびねずみ
きつねの窓
ハンカチの上の花畑
日暮れの海の物語
すずをならすのはだれ
きいろいマント
木の葉の魚
のねずみのあかちゃん
天の鹿
まほうをかけられた舌
だんまりうさぎ
あめのひのトランペット
南の島の魔法の話
きつねの窓
しいちゃんと赤い毛糸
はるかぜのたいこ
遠い野ばらの村
だれにも見えないベランダ
ねずみのつくったあさごはん
ゆきひらのはなし
なのはなのポケット
日暮れの海の物語
青い花
コンタロウのひみつのでんわ
花のにおう町

はるはもうすぐ
冬吉と熊の物語
風のローラースケート
鶴の家
だんまりうさぎと大きなかぼちゃ
ねこじゃらしの野原
ふしぎな青いボタン
グラタンおばあさんとまほうのアヒル
風と木の歌
やさしいたんぽぽ
銀のくじゃく
空にうかんだエレベーター
三日月村の黒猫
白いおうむの森/td>
鳥にさらわれた娘
べにばらホテルのお客
おしゃべりなカーテン
ハンカチの上の花畑
うさぎ屋のひみつ
トランプの中の家
夢の果て
さんしょっ子
うさぎのくれたバレエシューズ
サンタクロースの星
わるくちの好きな女の子
遠い野ばらの村
月へ行くはしご
ゆめみるトランク
うさぎの学校
花豆の煮えるまで
すずめのおくりもの
たんぽぽ色のリボン
ひめりんごの木の下で
まほうをかけられた舌
<つきよに
まほうのあめだま
うぐいす
ねこじゃらしの野原
きつねのゆうしょくかい

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1971年
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 有 島 武 郎
             
1878年  東京都小石川水道町に生まれる
1896年  札幌農学校(現 北海道大学)に入学する。
1903年  アメリカに留学
1908年  母校の大学の英語教師として北海道に渡る。
1911年  「或る女のグリンプス」(のちの「或る女」)を白樺に連載。
1916年  妻・安子死去。本格的に文学に取り組む。
1917年  「カインの末裔」を「新小説」に発表。文壇での地位を確立。
1923年  軽井沢の別荘で「婦人公論」の記者、波多野秋子と情死する。
                     
 はるか昔(高校の頃)、文芸部にいたことがある。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ある月の「批評会」の課題が有島武郎の「カインの末裔」だった。この作品に対する顧問の
先生の思い入れがかなりあって選ばれたのだろうが、私はと言えば、この題名の意味すら
よくわからず、漠然と話し合いに参加していたような気がする。

 いつしか時が流れて・・・・
 北海道を縦断してドライブしていた頃、小樽から長万部に向かう山中のニセコで、偶然有
島武郎記念館を見つけ感動したことを覚えている。その広大な北海道を舞台に「カインの末
裔」は書かれたのである。記念館の前庭に「カインの末裔」の一節を書いた碑があった。違
った時間と違った場所で、かって読んだこの物語に思いを馳せることができた。
 先を急ぐ旅だったので、記念館の中をじっくり見学できなかったが、今考えると大変残念
なことであった。

  
カインの末裔  「カイン」は、旧約聖書のアダムとイブの子どもで、人間としては初めて農業に取り組ん
だが 殺人を犯す。この題名は、「神の怒りを受けた流浪者の子孫」という意味で付けら
れている という。                    (解説を参考)
-------------------------------------------------------------------
 主人公の広岡仁右衛門は、章魚(たこ)のように頭ばかり大きい赤ん坊をおぶった妻と
 広大な草原の中から現れる。
 そして、極寒の北海道の大地で小作人として暮らす。
 自我のおもむくままに行動する仁右衛門は、周囲と数々のトラブルを引き起こす。
 そして、最後には馬をも失って農場を出ていくはめになる・・・。
 その他の主な登場人物は、
   ・妻
   ・帳場
   ・仁右衛門の縁者の川森
   ・松川農場の小作人で、隣の佐藤夫婦、子ども
   ・松川農場の小作人で、天理教を信じている笠井
   ・函館に住む地主の松川
-------------------------------------------------------------------
 あらためて今読み直してみて、有島武郎の「描写力」が素晴らしいことに気づかされた。
                                       (2007/4/22)
           
      

     



佐藤 多佳子
1962年 東京都生まれ
1989年 「サマータイム」で月刊MOE童謡大賞を受賞しデビュー
1998年 「イグアナくんのおじゃまな毎日」で産経児童出版文化賞、
                          日本児童文学協会賞受賞
1999年 路傍の石文学賞受賞
     他の著書に「しゃべれども しゃべれども」「神様がくれた指」
            「黄色い目の魚」などがある。
            
一瞬の風になれ

★★★

 第一巻
   イチニツイテ

 第2巻
    ヨウイ

 第3巻
    ドン


 サッカーを諦め、友だちの「連」とともに春野台高校の陸上部に入部した神谷新二は、
次第にスプリンターとしての道を歩み始める。三輪先生の指導の下、サッカーでは大成
しなかった才能が次第に頭をもたげてくる。キャプテン守屋、そして根岸、谷口・・・・
仲間との出会いを通して、新二は陸上競技の素晴らしさを実感していく。400メートル
リレー。100走・・・
 鷲谷の仙波、高梨、佐倉開成の北見、昭和学舘の赤津・・・。インターハイの南関東
大会で顔を合わせたライバル達の中で、一番勝ちたい相手は「連」。
 
 決勝のスタート場面

「位置について」
声がかかった。
フライングでざわついたスタンドがすっと静まり、競技場は100m決勝のレース直前の
独特の心身が切れるような鋭い重い沈黙に飲みこまれた。風までぴたりと止まったよう
で、何もかもが静止して凍りつく。
 ブロックに足をかけ、スタートラインに手をついて前を見た。
 俺のレーン。5レーン。俺の行く道。俺の走る道。まっすぐな道。100m。スプリントの
夢の道。赤いタータンの走路が、午後の日差しに光って見えた。俺の走る一本のレー
ンだけが、そこだけ俺には光って見えた。まっすぐに、まぶしく、胸に刺さるほど美しく。
 すべてを忘れた。
 あの光る一本の赤い走路しか見えない。
「用意」
 号砲で飛び出して、光る走路を走った。俺の行く道を走った。ただ、ひたすらまっすぐ
走る100m、この道が何より好きだ。身体が飛ぶようなこのスピードが好きだ。俺の身
体が感じる風が、俺の身体が巻き起こす風が、俺の身体が切り裂く風が好きだ。俺は
スプリントのランナーだ。他のものは何もいらない。この身体とこの走路があればいい。
 走路の先にゴールがある。左に連の背中が見えた。右に仙波の肩が見えた。・・・

 佐藤多佳子の文章は読み手を、緊迫した100mのスタートラインに誘い出してくれる。
 そして、新二と一緒に赤いトラックを走らせてくれる・・・。 
 

サマータイム

 ・サマータイム
 ・五月の道しるべ
 ・九月の雨
 ・ホワイトピアノ

月刊MOE童謡大賞を受賞した名作
 解説で、森絵都さんが、『初めて佐藤さんの文章に触れたあの新鮮な衝撃、手に余
 るような手ごたえを、人にも押し付けずにはいられなかった。』と言っているが、全く
 同じ感想を持った。
 台風15号が接近している日のプールで、ぼくは、じたばたもがきながら、溺れるような
 泳ぎ方をしている少年と出会う。それが二つ年上の広一だった。十一歳のぼく(進)
 と、ひとつ上の姉(佳奈)、そして、広一の三人が織りなすドラマの始まりである。
 進は、広一が右手一本で引くサマータイムに魅せられる。
 再婚しようとして失敗する広一の母、友子。
 広一に自転車を乗せようとして失敗した佳奈・・・。
 広一親子は自転車の一件後、引っ越してしまう。
 やがて時が流れて、十七歳になった進の前に広一が現れる。そして・・・。
 佳奈を荷台に乗せて、広一は鮮やかにスタートする・・・・最後の場面は何度読み直
 しても感動する。
 他の三篇は、サマータイムと関わる形で作られた短編。
  ・母親友子の恋人、種田
  ・ピアノの調律師、センダくん

 この本を再読する時は、まず巻末の『解説』を読めばよい。
 この四つの物語の良さを巧みに凝縮している。


 



三浦 しをん
1976年 東京都生まれ
2000年 書下ろし長編小説「格闘する者に○」でデビュー
      以後、「月魚」「白いへび眠る島」「秘密の花園」「ロマンス小説の七日間」
      「私が語りはじめた彼は」「昔の話」を発表。
2006年 「まほろ駅前多田便利軒」で直木賞受賞。
      エッセイ集にウェブマガジン Boiled Eggs  Online 
                   http://www.boiledeggs.com
            連載をまとめた「しをんのしおり」「夢のような幸福」「桃色トワイライト」
     「人生劇場」「三四郎はそれから門を出た」などがある。
 風が強く

 吹いている
 
 

★★★









 新潮社

 2006/11/25
  6刷
 

 読者を箱根駅伝の舞台に立たせてくれる・・・そして、感動を共有させてくれる名編!!
 全くの無名の大学の、しかも10名ぎりぎりの部員で、箱根駅伝にチャレンジする物語。・・・
 寛政大4年になった清瀬灰二(ハイジ)は、風呂帰りに、万引きして走り去る蔵原走(か
ける)に会い、自分の中の深い深い場所からの呼び声に突き動かされる。
 そして、青竹荘の住人を前に、ハイジは古くなった表札の下の部分『寛政大学陸上競技
部練成所』となつている看板を示して、箱根駅伝出場を呼びかける。
当惑するぼろアパート「青竹荘」の学生たち。
 ・サッカーをやっている双子のジョータ・ジョージ
 ・ニコチャン先輩
 ・司法試験に合格しているユキ
 ・二階の部屋に漫画本を山積みにしている王子
 ・クイズ王のキング
 ・山奥の村で「神童」と呼ばれていた杉山
 ・黒人留学生だが、走りは全然だめというムサ・カマラ
 ・高校時代に監督を殴って部をやめた走
 ・父親が監督を勤める陸上部で故障したハイジ

  ハイジにうまく説得され(それまで面倒を見たことを言って脅す?)、青竹荘の10人は箱
 根を目指して練習に取り組む。そして、ついに箱根駅伝エントリー資格を獲得!!

 圧巻はたった10名で臨んだ箱根駅伝。(この場面を描くために作者は大東文化大学・法
 政大学の陸上部関係者や日産の陸上関係者など幅広い方々の協力を得ている。)
 ・一区をまかされた王子は、監督(大家)から、「君に伝えたいことがある。だから這ってで
  も鶴見まで来い」という清瀬の伝言を聞き、最下位ながら一位とのタイム差一分という大
  健闘をする。
 ・ムサは花の二区でなんと7チームを抜く。
 ・ジョータ、ジョージの双子は不本意な走りながらも10位につけた。
 ・神童は熱をおして走り、脱水症を起こすが奇跡の完走。ただ、首位と十分以上の差がつ
  いたため、チームは翌日ハンディを背負うことになった。
 ・ユキは箱根の下りを快走。1キロ2分40秒の世界を体感したユキは、再婚した母と家族
  の応援を受け、それまでのわだかまりを解消した。
 ・ニコチャン、キングとつなぎ
 ・走は藤岡の新記録を一秒更新する。
 ・清瀬は二東体大に2秒の差をつけ、シード権を獲得。
------------------------------------------------------------------
清瀬が走に言う・・・
「長距離選手に対する、一番の褒め言葉はなにかわかるか。」
「速いですか。」
「いいや。『強い』だよ。」
  この言葉がこの本の主題を凝縮している。

まほろば駅前
多田便利軒
 便利屋の多田はある日、仕事先の家の前にあるバス停で高校の同級生「行天」に会う。
以来、居候となった行天との奇妙な同居生活が始まった。
舟を編む

★★★

 これは素晴らしい一冊。
 筆者が渾身を込めて書き上げた辞書への思い。その面白さと深さが読者の心を打つ。
 すぐに国語辞典を開いてみたくなる・・・この本の謳い文句であるが、まさにその通りだと
 思う。
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内容(「BOOK」データベースより)
 玄武書房に勤める馬締光也。営業部では変人として持て余されていたが、人とは違う視
点で言葉を捉える馬締は、辞書編集部に迎えられる。新しい辞書『大渡海』を編む仲間とし
て。
 定年間近のベテラン編集者、日本語研究に人生を捧げる老学者、徐々に辞書に愛情を
持ち始めるチャラ男、そして出会った運命の女性。個性的な面々の中で、馬締は辞書の世
界に没頭する。言葉という絆を得て、彼らの人生が優しく編み上げられていく―。
 しかし、問題が山積みの辞書編集部。果たして『大渡海』は完成するのか―。 
木暮荘物語

★★★

浅田次郎・霧笛荘夜話と似ているところがある。
 (登場する人物は全員が木暮荘に住んでいるわけではない。)
木暮荘を舞台にした話。恋人と二人で蒲団の中で今日の予定を考えていた繭の前に
突然元彼・瀬戸並木が現れるところから始まる・・・。そして、しめくくりも並木である。
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 商品の説明・内容紹介から
 小田急線・世田谷代田駅から徒歩五分、築ウン十年、安普請極まりない全六室のぼろ
アパート・木暮荘。現在の住人は四人。一階には、死ぬ前のセックスを果たすために恋を
求める老大家・木暮と、ある事情から刹那的な恋にのめり込む女子大生・光子。
 二階には、光子の日常を覗くことに生き甲斐を見いだすサラリーマン・神崎と、3年前に
突然姿を消した恋人を想いながらも半年前に別の男性からの愛を受け入れた繭。その周
りには、夫の浮気に悩む花屋の女主人・佐伯や、かつて犯した罪にとらわれつづけるトリ
マー・美禰、繭を見守る謎の美女・ニジコたちが。
 一見平穏に見える木暮荘の日常。しかし、一旦「愛」を求めたとき、それぞれが抱える
懊悩が痛烈な哀しみとしてにじみ出す。それを和らげ、癒すのは、安普請であるがゆえに
感じられる人のぬくもりと、ぼろアパートだからこそ生まれる他人との繋がりだった……。  
きみはポラリス  11の短編集だが、今一つ、印象に残るものがない。
 「わたしたちがしたこと」
 これは俊介とわたしだけの秘密があり、それは世間に知られないがずっと引きずって
 生きていくという話。
 この一編が印象に残るが・・・。 
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内容(「BOOK」データベースより)
 どうして恋に落ちたとき、人はそれを恋だと分かるのだろう。三角関係、同性愛、片想
 い、禁断の愛…言葉でいくら定義しても、この地球上にどれひとつとして同じ関係性は
 ない。けれど、人は生まれながらにして、恋を恋だと知っている―。
 誰かをとても大切に思うとき放たれる、ただひとつの特別な光。カタチに囚われずその
 光を見出し、感情の宇宙を限りなく広げる、最強の恋愛小説集。 
神去

なあなあ夜話

 林業と山深い村のくらしがテーマ。
 神去村に伝わる言い伝えや、現代の世には通用しない所業などが面白おかしく語ら
  れる。
 読んで退屈しないが、ややインパクトに欠ける。
 勇気が足をケガしてヨキと二人、山に取り残されると場面もあるが、緊迫感はない。
 勇気の恋、ヨキ夫婦のドタバタ、「おやかた」清一さんの両親の事故死(過去)などを
 描いた六夜と最終夜から成っている。
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内容(「BOOK」データベースより)
 100年先を見据えて作業をしている、神去村の林業の現場。そこへ放り込まれた平野
 勇気も、村で暮らして1年が過ぎ、20歳になった。山仕事にも慣れ、憧れの直紀さんと
 ドライブに出かけたりもするようになったけれど……。
 お仕事小説の名手が描く林業エンタメ第二弾! 秘密がいっぱいの神去村へ、ようこそ! 
    
  




  
  
湯本香樹実
    
1959年 東京都生まれ 東京音楽大学作曲科卒。
オペラの台本を書いたことから、テレビ・ラジオの脚本家となる。
「夏の庭 The Frieyds」は、日本で各新人賞を受賞し、映画化・舞台化されたほか、
十数カ国で翻訳出版され、あれ理科でも三つの賞を受賞した。
「春のオルガン」(徳間書店) 「ポプラの秋」(新潮文庫) 
幼年童話「きつねのスケート」(徳間書店)「くまっていいにおい」(徳間書店)
   
夏の庭

★★★

(徳間書店)
 

【表紙うらの言葉】
 おばあさんのお葬式から帰った山下が言った。
 「死んだ人って、重たそうだった。」
 すると、河辺が身を乗り出した。
 「オレたちも、死んだ人が見たい!」
 ぼくたち三人は、
 「もうじき死ぬんじゃないか。」と噂されている、一人暮らしのおじいさんを見張
 り始めた。
 だけど、見られていることに気づいたおじいさんは、だんだん元気になって、家
 や庭の手入れを始めた。やがておじいさんと口をきくようになったぼくたちは、
 その夏、さまざまなことを知った。
  子どもの頃のこと、戦争に行って人を殺したこと、愛する人と別れて一人暮らし
 をするようになったことなど。おじいさんの生きてきた道には、辛いこと、悲しい
 こともたくさんあったのだ。
 おじいさんの話を聞いて人が生きていくためにはたく、さんの出来事を経験し
 なければならないことをる。 
 おじいさんと親しくなった三人に、やがて永遠の別れがやってくる。

 「死ぬことが怖くなくなった。だってぼくたちは天国に知り合いがいるんだか
 ら・・・」
 この言葉がこの本の主題を凝縮している。

西日の町

(文芸春秋)

 第127回芥川賞候補作。
 夏の庭の印象が良かったので、二冊目を借りて読んでみた。
 母の父親である「てこじい」が家にやってきて、僕を含めて三人の生活が始まる。
 部屋の隅っこに置いてあるたんすの横に、ただじっとうずくまっている「てこじい」
 てこじいの若き日にどんなことがあったのか、娘である僕の母は、てこじいを恨ん
 でいるようでもあり、同情しているようでもある・・・。
 北海道で馬喰をし、朝鮮戦争の頃、死んだ米兵の遺体を繕う仕事をしていたとも
 いう、てこじい。
 人の生きざま、少年を通してみた老人の姿、家族の情愛・・・。
 夏の庭と同様に、戦争や死を背景にしながらも、今を生きる力を与えてくれる本
 である。
夜の木の下で  名作「夏の庭」を書いた、この作家の本が図書の新刊コーナーにあったので、
 期待して予約した。
 6編の短編集。連作ではない。週刊誌などあちこちに寄稿したものを集めている。
 自分の幼かった頃がモチーフになっているような話である。
 双子、姉妹、兄弟、友達・・・。
 切なさや懐かしさなどはない。虚無、出口の見えない路・・。
 読んでいて、爽やかさを感じないのが残念。

 ・緑の洞窟
 ・焼却炉
 ・私のサドル
 ・リターン・マッチ
 ・マジック・フルート
 ・夜の木の下で
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 内容の説明・内容紹介から
  少女の揺らぐ性。少年の淡い恋心。生と死のあわい。繊細な情感を描いた
  「夏の庭」の著者による珠玉の作品集。 
  
  話したかったことと、話せなかったこと。はじめての秘密。ゆれ惑う仄かな
  エロス。
  つないだ手の先の安堵と信頼。生と死のあわい。読み進めるにつれ、あざ
  やかに呼び覚まされる記憶。静かに語られる物語に深く心を揺さぶられる、
  極上の傑作小説集。 

  


 


夏川草介
    
1979年 大阪生まれ 信州大学医学部卒。
長野県の病院にて地域医療に従事。
「神様のカルテ」で第十回小学館文庫小説賞を受賞。
   
神様のカルテ

★★★

 

 ユーモアを交えながら、軽いタッチで展開される本かと思ったが、
テーマは核心をつくもので、読者に深い感動を与えてくれる。
 内科医の栗原一止(いちと)は本庄病院に勤めて5年目。地域の
基幹病院には、消化器内科の医師が栗原を含めて三人だけ。毎
日けが人、病人が列をなし、徹夜で診察に追われている。
 可愛い奥さんの榛名(はるな)と古ぼけた御嶽荘に住み、何年も
大学の博士課程にいるという学士殿や画家の男爵と酒を酌み交
わす。
 夏目漱石の草枕を熟読し、口調もおかしくて変人と見られている
栗原はガンの末期を迎えた安曇さんを担当する。身寄りのない安
曇さんはみんなに優しい。かつて貧しい村にいた時に助けた男の
子が立派に成人し、時々安曇さんを見舞いに来ている。安曇さん
は大学病院からまわされてきて、栗原に温かい治療を受けたと感
謝しながら夫のもとに旅立つ。
神様のカルテ 2

★★★

  1もよかったが、2も深い感動を与えてくれる本だった。

 美ヶ原にハルと2人で栗原が登る場面から始まる。
 そして、場違いなほどの迫力で屹立する御嶽山を見る。
 
 医者の仕事とは何だろう。1でも問いかけられた疑問を
 2ではさらに深く追い求めている。
 東京から故郷に戻ってきた同期の進藤は退勤時間がくれば
 居なくなり、電話が通じなくなる医者に変っていた。
 それは彼の妻の生き方と深く関わっていたのだが・・・。
 医者の家族と過す時間は必要ないのか、栗原は考える。
 そんな時、突然古狐とあだ名をつけた内科副部長の内藤先生が
 倒れた。不治の病に倒れた内藤先生のためにハルは、星空を
 見せることを考えた。そして・・・。
 今回の御嶽荘の新しい入居者は屋久杉。
 将来の目標が見つけられない屋久杉にハルは、ビクトール・フラ
 ンクルの「夜と霧」 の本を貸す。それを読みふけった屋久杉は
 ただゼミの先生からいわれて研究していた屋久島に出かけよう
 という気になる。

神様のカルテ 3

★★★














 

 出版元の「内容紹介」がとても詳しいので、簡単に。
 「3」も深く考えさせられ、感動させらにれる本であった。
 5話からなっている。
 肝臓が悪いのに酒を止められず、(テキヤの)金魚屋をやるため
 に病院を抜け出す男。
 不動?の看護主任・東西の、かつての高校担任がアルコール依
 存症で搬送されてきた・・・。
 「背中に龍があるかないかで、膵癌の治療は変わりません」
 この言葉に元ヤクザの元締め・島村老人は手術を決意する。
 手術をしてみると、ガンではなかった・・・。
 栗原一止は苦悩し、そして・・・決断する。

 御嶽荘
  屋久杉は屋久島から無事帰還。
  新たな目標を見つけ、御嶽荘をでる。
  学士が帰ってくる。大学生として・・・。

 ハルさんの優しさが前作同様、心に沁みてくる。
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商品の説明・内容紹介から
 栗原一止は、信州にある「24時間365日対応」の本庄病院で働く
 内科医である。医師不足による激務で忙殺される日々は、妻・ハ
 ルの支えなくしては成り立たない。
 昨年度末、信濃大学医局からの誘いを断り、本庄病院残留を決
 めた一止だったが、初夏には恩師である古狐先生をガンで失って
 しまう。
 落ち込んでいても患者の数が減るわけではない。夏、新しい内科
 医として本庄病院にやってきた小幡先生は、内科部長である板
 垣(大狸)先生の元教え子であり、経験も腕も確かで研究熱心。
 一止も学ぶべき点の多い医師だ。
 しかし彼女は治ろうとする意思を持たない患者については、急患
 であっても受診しないのだった。抗議する一止に、小幡先生は「あ
 の板垣先生が一目置いているっていうから、どんな人かって楽し
 みにしてたけど、ちょっとフットワークが軽くて、ちょっと内視鏡がう
 まいだけの、どこにでもいる偽善者タイプの医者じゃない」と言い
 放つ。彼女の覚悟を知った一止は、自分の医師としてのスキルに
 疑問を持ち始める。そして、より良い医者となるために、本庄病院
 を離れる決意をするのだった

 「医者をなめてるんじゃない?自己満足で患者のそばにいるなんて、
 信じられない偽善者よ」。美しい信州の情景。命を預かる仕事の重
 み。切磋琢磨する仲間。温かい夫婦の絆。青年医師・栗原一止に
 訪れた、最大の転機。 

神様のカルテ 0

★★★

 待望の書がついに刊行された。
 「4」ではなく、「0」として。
 これは医師・栗原一止までと研修医時代、そしてハルさん登場など
 を遡って辿ったものである。
 この本は、これまでの流れに新鮮さを加味してくれるという意味で
 重要な意味を持っている。

 うーん!! それにしても、夏川草介というこの作家。
 月並みだが凄い作家である。
 人としての生き方、抱えている悩見、その奥深さを静かに描きだし
 てくれる。
 自然な語り口のような文の中に、情熱と人の温かさ、優しさを散り
 ばめてくれる・・・。また、信州の自然や風景を読者の目の前に、
 キャンパスに描かれた絵のように見せてくれる。

 何故本を読むのか。これだと思った。
 「人は一生のうちで一個の人生しか生きられない。しかし、本は、
  また別の人生があることを我々に教えてくれる。たくさんの本を
  読めばたくさんの人生を体験できる。そうするとたくさんの人の
  気持もわかるようになる。」
 「たくさんの人の気持ちがわかると、優しい人間になれる。」
 「優しい人は、苦労しますが・・・」

 神さまのカルテ
 「人間には神さまのカルテがある・・・生きるときは生きる。死ぬ時
  は死ぬ」
 内科部長の大狸先生が言う。
 医者を軽視しているわけではない・・・重みのある言葉だ。

 冬山で滑落し、死を覚悟した男をハルさんが救う場面も良い。
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商品の説明・内容紹介から
 新たな『神様のカルテ』はここから始まる。 

 シリーズ300万部突破のベストセラー『神様のカルテ』にまつわる
 人々の前日譚であり、かつ珠玉の短編集です。
 栗原一止は、信州にある24時間365日営業の本庄病院で働く内科
 医です。
 本作では、医師国家試験直前の一止とその仲間たちの友情、本庄
 病院の内科部長・板垣(大狸)先生と敵対する事務長・金山弁二の
 不思議な交流、研修医となり本庄病院で働くことになった一止の医
 師としての葛藤と、山岳写真家である一止の妻・榛名の信念が描
 かれます。
 ますます深度を増す「神カル」ワールドをお楽しみください。 

 病院とは24時間365日、困った人がいれば手を差し伸べてくれる場
 所。この病院では、奇蹟が起きる。
 二度の映画化、二度の本屋大賞ノミネートを経て、一止とハルさん
 の物語は原点へ。 

  



   


  

片山 恭一
                 
1959年 愛媛県生まれ
福岡県在住。九州大卒業
1986年 「気配」で文学界新人賞を受賞しデビュー。
主な作品
 「きみの知らないところで世界は動く」新潮社
 「ジョン・レノンを信じるな」角川書店
 「満月の夜、モビィディックが」小学館
 「空のレンズ」ポプラ社
世界の中心で
愛を叫ぶ
 
 

小学館

 
 中学2年の松本朔太郎は学級委員となり、広瀬アキと知り合う。
 中学3年のクリスマス。亡くなった担任の告別式で弔辞を読むアキの姿に恋
している自分を発見する。
 高校でも同じクラスになり、二人はいろいろな話をする。
 昔の恋人の骨を盗み出す祖父の手助けをしたり、大木龍之介の舟で、無人
の小島に渡り荒廃したホテルに入り込んだり・・・。

 アキは「再生不良性貧血」という不治の病にかかる。
 修学旅行で行けなかったオーストラリアに行こうとした病院を抜け出すが、空
港でアキは倒れ、帰らぬ人となる。
 人を恋する心の細やかな移り変わりと、愛の素晴らしさを丹念に書き込んだ
名作である。 


 
 


湊 かなえ
                 
1973年 広島県生まれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 武庫川女子大学家政部卒業
2005年 第2回BS-i新人脚本賞で佳作入選。
2007年 第35回創作ラジオドラマ大賞を受賞。
同年、「聖職者」で第29回小説推理新人賞を
 受賞。(デビュー作)
 2009年本屋大賞受賞
 告  白 
 
 
 
 

双葉社

 
 我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指
し示す。ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、
それぞれ語らせ真相に迫る。選考委員全員を唸らせた新人離れした圧倒的
な筆力と、伏線が鏤められた緻密な構成力は、デビュー作とは思えぬ完成
度である。 (双葉社のページより)
 最初は女教師・森口の学校や教育についての「評論」を書いたものかと思
ったが、娘・愛美は水死でなく、殺された・・というところで、一転。犯人A、犯
人Bも森口にはわかっている。わかっていながら、警察や法にはゆだねない
と言う・・・。短編とは思えない緊迫した展開である。
 芥川龍之介の「藪の中」を連想させる、真相は自分にしかわからない・・そ
んな印象も受けたが・・・。

・聖職者 森口は娘の死の真相を語り、犯人二人に「あること」をして去る。
・殉教者 生徒の一人・美月が語る。
      若い男の教師・ウェルテルの登場。
      犯人Bの引きこもり。場面は一気に急展開する。
・慈愛者 犯人Bの姉が見つけた母親の日記から・・母親が語る。
・求道者 犯人Bが語る。
・信奉者 犯人Aが語る。
・伝教者 女教師・森口が犯人Aに電話で語る。
      携帯を使った爆破現場はここではない・・・。
 ブログで書かれている方がおられた。
  ・http://ameblo.jp/4rusmasako/entry-10150925058.html
                     2008年10月16日(木)
  本屋大賞を取るのにふさわしい本で、中盤からこれほど目を離せなくな
 る本は少ないだろう。ただ、この本のに描く世界はあってほしくない世界で
 ある。また、作者自身が書いているが、まじめに勉強している子こそ評価
 されなければならないのである・・・全くそのとおりである。
 この本に書かれているような、犯人Aを標的にし始める生徒がいる学級、
 また、その後の展開の種を蒔き、少年二人を直接裁いた女教師・森口。
  テーマがはっきりしているようで、まだまだ不明確。
  もしかすると、いや、たぶん、続編が出るのではないか。中道者、示道者
  ・・・。  


 
 


浅倉卓弥
                 
1966年 札幌生まれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 東京大学文学部卒業後、レコード会社へ就職。
2002年 「四日間の奇蹟」で第1回「このミステリ
      ーがすごい!」大賞を受賞。
主な作品 
 平家物語を慟哭のロマンスへと蘇らせた
 「君の名残を」「友紀の夜話」
四日間の奇蹟
 
 

宝島社

 
 脳に障害を負った少女とピアニストの道を閉ざされた青年が・・
山奥の診療所で遭遇する不思議な出来事を、最高の筆致で
描く癒しと再生のファンタジー。(カバーの言葉)

「四日間の奇蹟」映画の公式サイトに、的確に書かれていた
ので以下に参照させていただきました。
 不測の事故で夢を断たれたピアニスト・如月(きさらぎ)敬輔。 
心に固い殻を持ちながら音楽に天賦の才を持つ少女・千織。 
2つの孤独な魂は、ある日、家族を失いながらも島の療養セン
ターで 明るく働く1人の女性・岩村真理子に出会い、響き合う。 
突然の落雷が真理子と少女を見舞った、その時。 
咄嗟に少女をかばった真理子に、何が起きたのか? 
コーラル・グリーンの海辺に立つ小さな礼拝堂が、 
彼ら3人に舞い降りたひそやかな〈奇蹟〉を見つめていた。 
この映画も楽しみ。DVDが出たら是非見たい。


 
 


毛利 恒之
                 
1933年 福岡県大牟田市生まれ・・熊本大学法文学部卒業
      NHK契約ライターを経てフリー。
      日本放送作家協会理事などを歴任。
1964年 テレビドラマ脚本「十八年目の召集」で第1回「久保
      田万太郎賞を寺山修司と同時受賞。
     社会派ドラマ、報道ドキュメンタリーの作家として知ら
     れている。
月光の夏

★★★

 
 作中に登場する特攻隊員が実在化ということが問題になり、それまで黙して語ら
なかった風間森介が重い口を開き始める・・・。それは涙なくしては聞けない話だっ
た・・・。出撃したもののエンジントラブルで引き返した特攻隊員のその後の道。
終盤で感涙を誘う。
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内容(「BOOK」データベースより)
 若き二人の特攻隊員は、ベートーヴェンの名曲「月光」を、小学生たちの前で弾き、
南溟の空に出撃していった。ある夏の日のピアノの響きは、痛切な思い出として刻
みこまれた。そして今、過酷な運命に翻弄された青春の行方をさぐる一人の女性が
いた。愛と哀しみの感動にあふれるドキュメンタリー・ノベル。 

 

  
 

 新堂 冬樹
                 
1966年生まれ 「血塗られた神話」で第7回メフィスト賞を受賞
2006年に刊行された「黒い太陽」はドラマ化されベストセラーになった。
2007年 芸能プロダクション「新堂プロ」を設立。
引き出しの中の

ラブレター

★★★

 
 伝えたいことを手紙に託してみたい・・。そんな気にさせてくれる秀作。
 パーソナリティーの真生は父との確執を解消し、「心の引き出しの中にある
 想いを大切な人に伝える」仕事を進める。
 映画化が計画されているらしいが、内容と映像が目に浮かぶ・・・そんな一
 冊である。 
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内容紹介・内容(「BOOK」データベースより)
 ラジオパーソナリティの真生のもとへ届いた、一通の手紙。それは絶縁し、仲
直りをする前に他界した父が彼女に宛てて書いた手紙だった。大ベストセラー
『忘れ雪』の著者が贈る、最高の感動作! 10月映画公開。 

 あなたの言葉を、待ってる人がいます―結婚と仕事の間で苦悩するラジオ・パ
ーソナリティ。シングルマザーの道を選んだ女性。今の自分に納得がいかず、し
かし一歩が踏み出せないショップ店員。高校卒業を控え、進路に悩む少年。あ
る出来事がきっかけで、笑う事を忘れてしまった男性。親友に裏切られ、未来で
はなく、「今」を楽しく生きることに決めた女…。
小説内で苦悩する登場人物たち、それはもしかしたら「未来」のあなたの姿かも
しれない。 


 


 柴崎 友香
                 
1973年 大阪生まれ 
2000年 「きょうのできごと」でデビュー 
2007年 「その街の今は」で第57回芸術選奨文部科学大臣新人賞
      第23回織田作之助賞、第24回咲くやこの花賞を受賞、
2010年 「寝ても覚めても」で第32回野間文芸新人賞受賞。
      主な著書に「また会う日まで」「ビリジアン」「主題歌」
            「虹色と幸運」「わたしがいなかった街で」など。
週末カミング
 
 うーん!!
 ありふれた日常生活。登場する若者たち?
 事故や事件もなく、したがって強い感動や緊迫感もない。
 例えば大自然に抱かれた自分に気づくとか・・・そういうものでもない。
 吉田修一のパレードのように、予想だにしないどんでん返しにがっかりすると
 いうこともなくて良かったが・・・。
 川上健一「あのフェアウェイへ」のような感動を期待したい。
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内容(「BOOK」データベースより)
 いつもより、少しだけ特別な日。週末に出逢った人たち。思いがけずたどりつ
 いた場所。あなたの世界が愛おしく輝く、8つの物語。
 第143回芥川賞候補作「ハルツームにわたしはいない」収録。 

 


 七川 迦南(ななかわ かなん)
                 
 
東京都出身 早稲田大学第一文学部卒。
2008年 「七つの海を照らす星」で第18回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。
 ロジックとトリックを組み合わせの妙と、児童養護施設という舞台を丹念に
 描いた筆力が高く評価される。
 続く受賞第一作「アルバトロスは羽ばたかない」が大きな話題となり、
 日本推理作家協会賞の候補となったほか、
2010年の「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」の国内ベ
 ストテンにランクインするなど、期待の新鋭として評価を確固たるものにした。
空耳の森

★★★

 
 9編の短編からなっているが、最後の「空耳の森」で繋がりやその後が分かるよう
 になっている。前半の短編は新事実に驚かされ、後半は「リコ」や「カイエ」がどう
 なるのだろうとはらはらさせられる。

 ・冷たいホットライン・・冬山で恋人の助けを待っていた話
 ・アイランド・・離れ島に住む姉と弟
 ・Its only love・・もてる男・キラを訪ねて知り合いの女の子の
  気持ちを伝えてあげようとアパートに行った私。キラと一緒に住んでいる女を
  見て・・・。そして、私は?
 ・悲しみの子・・両親の不仲と二人の娘・光クリスティン
  光を連れて実家に帰った父親。クリスティンとクラス母親。
  二人の住む家は・・。
 この4編はまさに「どんでん返し」の結末が待っている。

 後半の5編は主役となる「カイエ」と「リコ」。関わる人たちが中心。 
 児童養護施設「七海学園」に収束されていく・・・。
 -----------------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
 まだ早い春の日、思い出の山を登るひと組の男女。だが女は途中で足を挫き、
つかの間別行動をとった男を突然の吹雪が襲う。そして、山小屋でひとり動けな
い女に忍び寄る黒い影―山岳を舞台にした緊迫のサスペンス「冷たいホットライ
ン」。
 孤島に置き去りにされた幼い姉弟の運命を描く「アイランド」。
 ある不良少女にかけられた強盗の冤罪をはらすため、幼なじみの少年探偵が
奔走する「さよならシンデレラ」。
 居酒屋で男が安楽椅子探偵に遭遇する「晴れたらいいな、あるいは九時だと遅
すぎる(かもしれない)」…『アルバトロスは羽ばたかない』で一躍注目を浴びた鮎
川哲也賞受賞作家の本領発揮。
 一編一編に凝らされた職人的技巧に感嘆すること間違いなしの、バラエティに
富んだ九編を収める。 


 
 

   
 
 
 乙武 洋匡(おとたけ ひろただ)
                
1976年 東京都生まれ 早稲田大学在学中に出版した「五体不満足」が
      多くの人々の共感を呼ぶ。
     卒業後はスポーツライターとして活躍。

2005年より東京都新宿区教育委員会非常勤職員。
2007年4月〜2010年3月 
     杉並区立杉並第四小学校教諭として教壇に立った。

    主な著書
     「W杯戦士×乙武洋匡フィールドインタビュー」
     「だから、僕は学校へ行く!」「プレゼント」
     「かっくん、どうしてボクだけしかくいの?」
     「ちいさなさかな ピピ」
     「とってもだいすきドラえもん」Flowers」  (講談社の紹介から)

だいじょうぶ

3組
 

★★★

 
 感動の一冊。
 「みんなが笑顔むくらす」を目指して、介助員(小学校からの友達)の
 白石先生とともに、日々奮闘する赤尾先生。
  ・上履きが隠された事件
  ・運動会でクラス全員が一位をめざす
  ・水泳の苦手な子をどうするか(自身も泳ぎができない)
  ・高尾山への登山遠足
  ・転校して幸二を送り出すメリークリスマス
 一話一話に感動と深く考えさせられるところがある。
 現場の先生方にも是非読んでほしい一冊である。
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内容(「BOOK」データベースより)
 5年3組の担任としてやってきたのは、手と足がない先生、赤尾慎之介。
 個性豊かな28人の子どもたちといっしょに、泣いたり、笑ったりの1年間
 が始まる―。
 大ベストセラー『五体不満足』の著者が、自らの小学校教員の体験をも
 とに描いた初の小説作品。
 悩んだり、迷ったりしながら、教師として体当たりでクラスの子どもたちに
 ぶつかっていく日々を描きます。

 

  
 

 阿久 悠
                
1937年 兵庫県淡路島出身。明治大学文学部を卒業。
      広告代理店に勤務し、CM制作・番組企画などを手がける。
      その後フリーとなり、作詞を中心に小説・エッセイなどの執筆活動に
      入る。数々のヒット曲を送り出し、日本レコード大賞、
      日本歌謡大賞、日本作詩大賞、古賀政男記念音楽大賞などを受賞。
1979年刊行の『瀬戸内少年野球団』は直木賞の候補となり、映画化もされた。
1997年、菊池寛賞受賞
1999年、紫綬褒章受章
瀬戸内

少年野球団
 
 

★★★

 
 「良かった」のひと言に尽きる。
 竜太、波多野武女(ムメ)、バラケツ・・・
 
 この頃(戦前)の子供たちの姿が実に生き生きと描かれていた。
 野球だけでなく、この頃の遊びや生活。
 島に新しい風を吹き込む?バラケツの兄と姉。突然現れるこの二人の
 存在も面白い。
 若い女教師のもとに、死んだと思っていた夫が戦地から帰還しておこる
 イザコザ。
 床屋をやめて呑み屋を始めた「猫屋のママ」
 夫から教えられ、野球のコーチをする女教師。
 初めての隣町の強豪校との試合は、町から大人数を繰り出すイベント?
  になってしまう・・・。
 送迎のトラックに乗った時点ですでに緊張でがちがち・・・。
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内容(「BOOK」データベースより)
 戦後の淡路島―、新しい時代に向けて急激に生活が変化する中、
足柄竜太とその仲間たちは、はじめて手にした野球ボールに魅せられ、
野球に夢中になっていく。
早熟な竜太、熱血漢のバラケツ、きりりとした美少女のムメ。
個性豊かな面々によって結成された瀬戸内少年野球団の仲間たちが、
夢と友情、初恋に奔走する!貧しいけれど活気に満ちていた昭和の時代を、
少年少女の視点で瑞々しく描いた傑作青春小説。 

 












  

 越谷 オサム
                
1971年 東京都生まれ。学習院大学経済学部4年中退。
2004年 第16回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作「ボーナス・トラック」でデビュー。
2011年 「陽だまりの彼女」で啓文堂主催「おすすめ文庫大賞」を受賞。
陽だまりの彼女
 
 

★★★

 
 小説の楽しみを十分に堪能させてくれる珠玉の一冊。
 小説は何と言ってもファンタジー・・・そんな作者のつぶやきが聞こえて
 きそう・・・。
 広告代理店勤めの主人公・浩介は下着メーカー会社との打ち合わせの
 場で、昔、いじめられっ子だった真緒と偶然の再会をする。
 そして、素敵な大人になった真緒と付き合い始める。
 真緒のことを考えるととても幸せな気分になる浩介。
 やがて。両親(養父母)の心配も振り切って結婚。
 幸せの日々は果てしなく続くと思われたが・・・。
 驚愕の終末がやってくる。
 しかし悲壮感はない。何故か清々しい結び。
 浩介と真緒のカップルの幸福感がひしひしと伝わってくるような一冊。
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内容(「BOOK」データベースより)
 幼馴染みと十年ぶりに再会した俺。かつて「学年有数のバカ」と呼ばれ
 冴えないイジメられっ子だった彼女は、モテ系の出来る女へと驚異の大
 変身を遂げていた。でも彼女、俺には計り知れない過去を抱えているよ
 うで―その秘密を知ったとき、恋は前代未聞のハッピーエンドへと走り
 はじめる!誰かを好きになる素敵な瞬間と、同じくらいの切なさもすべて
 つまった完全無欠の恋愛小説。 
ボーナス・トラック

★★★

 陽だまりの彼女が良かったので、ファンタジー大賞優秀賞をとったという
 この本を読んでみた。
 ハンバーガーショップの就職して、働きづめの生活を送っている主人公
 が、帰路、交通事故を目撃する。
 このあたりまではありそうな?出来事だが、死んだ大学生が幽霊となって
 主人公の草野に見えるようになってから、非日常的な話になる。

 幽霊が出てくるのにちっとも怖くない、むしろ明るいキャラクターを出してい
 るのが凄い。
 幽霊が見える、草野の職場のバイト・南が幽霊の亮太に気づき、成仏で
 きない幽霊を見せる。
 窓を閉め切った夏の車中で死んだ子ども。失恋して自殺した娘。

 それにしても、人間臭く、草野にまとわりつく幽霊の亮太の存在が面白い。
 自分を轢き殺した犯人を捜し求める亮太たちはどうなるのか・・。


 

 

  
 

 村山 由佳
                
1964年 東京都出身。立教大学文学部日本文学科卒。
      不動産会社勤務、塾講師などを経験したあと、作家デビュー
1991年 「いのちのうた」で環境童話コンクール大賞
1991年 「もう一度デジャ・ヴ」で第1回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞佳作 
1993年 「春妃〜デッサン」(「天使の卵-エンジェルス・エッグ」)で第6回小説すばる新人賞
2003年 「星々の舟」で第129回直木三十五賞受賞。 
2009年 「ダブル・ファンタジー」で第4回中央公論文芸賞、第16回島清恋愛文学賞、
      第22回柴田錬三郎賞を受賞。本作は文学賞トリプル受賞。
天翔る

(あまかける)
 
 

★★★

 
 こういう本を読むのもなかなか良い。
 内容は清々しい部分ばかりではないが、若々しい気分になれる。
 内容紹介に詳しい記述がある。
 その通りである。
 馬と人間との関わりが感動的に描かれた秀作である。
 まりもが登校拒否になる訳や場面も描かれ、興味深い。

 また、エンデュランス(乗馬耐久競技)の世界が描かれるのも興味深い。
 日本では競馬、馬術、馬力・・・。それ以外の競技はあまり知られていな
 い。馬のために長距離をとれる地が少ないからだろう。
 この競技に参加しようと思った場合、一般人にも手が届くような経費で
 あれぱ、素晴らしいと思うが・・。
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内容(「BOOK」データベースより)内容紹介
 
 天に向かって走る。ただ一途に、光を求め―― その牧場には、かけがえ
 のない何かを喪った人たちが集まっていた。
 傷つき居場所を失った一人の少女が、馬と出会い、その才能を開花させ
 てゆく。 ひたむきに生きる人々の間に紡がれるたしかな絆と、命の輝き
 を描き出す感動の長編小説。 

 看護師の貴子が出会った少女、まりもは、ある事件から学校に行けなく
 なってしまった。貴子は少女を牧場へと誘う。
 そこで待ち受けていたのは風変わりな牧場主と、乗馬耐久競技(エンデュ
 ランス)という未知の世界だった―。
 北海道の牧場を舞台に描かれる命の輝き。底知れぬ感動をよぶ、祈りと
 希望の物語。 

星々の舟
 「天翔る」が良かったので読んでみた。
 「こころ震える感動・・」と内容紹介にあるが、深く考えさせられたのは
 確かだが感動しなかった。

 登場人物が、皆それぞれにどうしようもない悩みを抱えている。
 最初に登場した暁。暁は高校生の時に、血のつながらないと思っていた
 妹と男女の仲になってしまい、真実を知ってバイクで北に疾走。北海道
 に落ち着き、以来東京には帰らなかったが、義母が危篤になり末の妹の
 懇願を聞き入れ帰郷。
 関係を持った妹の沙恵のことは忘れられず、満ち足りた生活を捨て妻や
 家族と別れる。沙恵も彰のことを忘れられず、良縁の幼なじみとの結婚
 に踏み切れない。
 末の妹も、不倫しか出来ない。暁の長兄・貢も日々の生活に疲れ、畑作
 りに安らぎを見出す・・。貢の子・聡美も酷い苛めの中で友を裏切ること
 に・・・。
 もともとの原因をつくったように書かれる父の重之は、戦争の影をずっと
 引きずってきた・・・。重之から温かい言葉ひとつかけて貰えなかった後
 妻の志津子だったが、いつもゆとりの心を持っていた。かついその志津
 子を暁は突き飛ばし、腰と足を不自由にしてしまった・・・。
 この話に感動があるとすれば、それなりに生きる道を探る姿だろう。 
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内容(「BOOK」データベースより)内容紹介
 禁断の恋に悩む兄妹、他人の男ばかり好きになる末っ子、居場所を探す
 団塊世代の長兄、そして父は戦争の傷痕を抱いて―
 愛とは、家族とはなにか。こころふるえる感動の物語。


 


 森沢 明夫
                
1937年 千葉県生まれ。早稲田大学人間科学部卒業。出版社勤務を経て、
2006年 「ラストサムライ 片目のチャンピオン武田幸三」で第17回ミズノス
      ポーツライター賞優秀賞を受賞。

    映画化された「津軽百年食堂」、「あなたへ」(高倉健主演)など
    小説、エッセイ、絵本、ノンフィクションなど、広い分野の著書がある。

虹の岬の喫茶店

★★★

 
 爽やかさが残る秀作。
 内容紹介が詳しいので簡単に・・。
 こんな喫茶店があったら良い、ふらりと立ち止まって、海を見たり、音
 楽を聴いたり・・そんな喫茶店が本当にあった・・・。
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内容(「BOOK」データベースより)
 トンネルを抜けたら、ガードレールの切れ目をすぐ左折。雑草の生える
 荒地を進むと、小さな岬の先端に、ふいに喫茶店が現れる。
 小さな岬の先端にある喫茶店。そこには美味しいコーヒーと、お客さん
 の人生に寄り添う音楽を選曲してくれるおばあさんがいた。
 彼女は一人で店を切り盛りしながら、時折海を眺め何かを待ち続けて
 いた。
 その店に引き寄せられるように集まる、心に傷を抱えた人々――
 彼らの人生は、その店との出逢いで、変化し始める。
 妻をなくしたばかりの夫と幼い娘、卒業後の進路に悩む男子大学生、
 やむにやまれぬ事情で喫茶店へ盗みに入った泥棒など―
 心に傷を抱えた彼らの人生は、その喫茶店とおばあさんとの出逢いで、
 変化し始める。心がやわらかさを取り戻す、感涙の長編小説。 
 疲れた心に寄り添う、癒し小説。 
津軽百年食堂

★★★

 前作、「虹の岬の喫茶店」が良かったので、映画にもなったこの本を読
 んでみた。評判にたがわず秀作だった。
 桜祭りや、弘前のあちこちが舞台になっている場面では、情景を思い描
 きながら読むことができた。
 「津軽蕎麦」を本当においしそうに描写してくれるのも嬉しい。
 映画は、「中華そば」では県内一ではないかと思っていた「三忠食堂」を
 舞台にして作られている。桜祭りや出店も雰囲気が出ているらしい。
 映画は既に終わっているので、DVDを借りて見たいと思っている。
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内容(「BOOK」データベースより)・内容紹介より
 百年の刻を受け継がれた「こころ」の物語。 
 ふるさと「弘前」を離れ、孤独な都会の底に沈むように暮らしていた陽一
 と七海。
 ふたりは運命に導かれるように出逢い、惹かれ合うが、やがて故郷の
 空へとそれぞれの切なる憶いをつのらせていく。
 一方、明治時代の津軽でひっそりと育まれた、賢治とトヨの清らかな恋
 は、いつしか遠い未来に向けた無垢なる「憶い」へと昇華されていき・・。

 明治時代の津軽・弘前でようやく地元の蕎麦を出す食堂を開店した賢
 治。
 それから時は流れ、四代目にあたる陽一は、父との確執から弘前を離れ
 て、東京で暮らしていた。故郷への反発を抱えながら孤独な都会で毎日
 を送っていた陽一は、運命に導かれるように、同郷の七海と出逢う。
 ある日、父が交通事故で入院し、陽一はひさしぶりに帰省する。恋人の
 七海が語っていた幼い頃の思い出や、賢治の娘でもある祖母の純粋な
 心に触れて、陽一の故郷への思いは、少しずつ変化していく
 桜の花びら舞う津軽の地で、百年の刻を超え、永々と受け継がれていく
 《心》が咲かせた、美しい奇跡と感動の人間物語。
 美しい映画のようなこの小説を読み終えたとき、あなたはきっと、恋人、
 家族、友達、夢、故郷……、
 すべてを抱きしめたくなっているでしょう。 

癒し屋 

キリコの約束

★★★

 プロローグ 男が寝ている女をナイフで刺そうとする
 この意味が分からなかったが終盤、再現されて繋がる。

 喫茶店のオーナー霧子はロッキングチェアーに腰かけ何もしない。昼から
 ビールを飲んでいる事も珍しくない。
 気合が入るのは、癒しをもとめて客(カモ)がやってきたとき。
 癒しにかこつけて、カウンターの一隅にある神棚に賽銭を入れさせるのだ。
 こんな設定なのかと分かったときに読むのを止めようかと想った。

 しかし、止めないでよかった。
 癒しの手だてがなかなかが良いのである。
 いろいろな歌の歌詞の一部をあげ、それにあった展開がある。

 後半に近づ き、やとわれ店長のカッキーこと柿崎照美が喫茶店にきた訳、
 人には事情があることが明らかになる。
 そして、次に霧子への脅迫状と霧子の秘密が・・・。
 終末は前半と打って変わってハラハラする展開である。

 読むのを続けてよかった。最後まで読むと深い感動がやってくる本である。

 カッキーが「美味しいコーヒー」の入れ方を、ある海辺の喫茶店で教えても
 らった・・・というくだりがあった・・・これは「虹の岬の喫茶店」に繋がってい
 る。
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 内容紹介より
 悩みがあるということは、それを解決した喜びと幸せが、これからのあなた
 を待っているということ。
 読みながら心のデトックスができる、読んだ後、回りの人に優しい気持ちに
 なれる感涙小説。

 歌謡曲を流す純喫茶・昭和堂を営んでいるオーナーの有村霧子。
 40歳を過ぎているにもかかわらず美しい容姿を保っているのだが、性格は
 非常にだらしなく、金にがめつい。でも、なんだかにくめない魅力的な彼女
 に惹かれて、昭和堂は、町の男子高生からおじちゃんまで、皆が集う憩の
 場となっている。
 霧子は、そこそこ繁盛しているお店のことを雇われ店長として働く20代の
 女性カッキー(柿崎照美)に任せっぱなし。
 日々、お気に入りのロッキンチェアで漫画片手に昼間からビールを飲みな
 がらくつろいでいる。
 そんなお店では喫茶店以外の裏稼業を行っている。それは、町々の人々
 の相談を聞いて解決するという『癒し屋』。
 カッキーやお店の常連客が霧子のアシスタントとしてお悩み解決に奔走す
 るのだが、毎回霧子の奇想天外な方法で事件は解決する。そんなある日、
 お店に霧子の殺人予告が届き……。 
 明日への希望が、心をやさしくほぐす、爽快エンタメ小説。 

  

  
 
 
 乾 ルカ
                
1970年 北海道札幌市生まれ。藤女子短期大学国文科卒業。
      銀行員や官庁の臨時職員を経て、
2006年 「夏光」オール讀物新人賞を受賞してデビュー。
2007年 受賞作を含む短編集「夏光」を刊行。
     他の著書に「メグル」「あの日にかえりたい」(第143回直木賞候補)
向かい風で
飛べ!
 
 

★★★

 
 ソチでオリンピックが開催されている。
 スキージャンプの高梨沙羅が、金メダルを取れず4位に終わった日に
 読了。これも何かの縁だろう。
 ジャンプに挑む「さつき」の姿、その描写は佐藤多佳子「一瞬の風になれ」
 に似たところがある。
 理子に誘われジャンプをすることになったさつきが、スタート地点に立った
 時・・・。
  『身がすくんだ。下からや横からながめていたよりもずっと、斜面は急に
   感じられる。心臓は激しく鼓動し、胸が押しつぶされたように浅い息し
   かすえない。
   (こわい)
   動き出せない。
   (こわい、こわい)
   そのとき、カンテから緩い向かい風が吹きあげてきて、ヘルメットから
   出ているさつきの前髪をさらりと撫でた』

  「−−来い」
   えっ?
   何かの声を聴いた気がした。細かな氷の粒が額に当たる。
  「−−飛んで来い」
   ふいに、背中を押された。

  ジャンプをしてみたい・・・そんな気にさせる秀作である。

  中学生になった理子は体形の変化でスランプに陥ってしまう。
  負けたことがない・・。
  そんな理子にさつきが言う。
  「理子自身が最初に言っていた」
  「向かい風は、大きく飛ぶためのチャンスなんだよ」
  この言葉、素晴らしい格言ともなるのではないか。

  この本は中・高校生向けのものだろうが、大人が読んでも感動する。
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内容(「BOOK」データベースより)
 完全アウェーの転校生、さつき。
 スキージャンプの天才美少女、理子との出会いが、孤独で憂鬱な日々を
 塗り変えていく―わくわく、ハラハラ、うるうる。全部が詰まった青春小説。 

蜜姫村
 うーん!
 奇譚、ホラー・・。
 実に面白いとは思うが、目を背けるような場面もあったりする。
 読後感は悪いわけではない。
 一人の女医が(平成の今)瀧埜上村に向かうという場面で始まり、最終場
 面は村に辿り着くというとい構成である。
 中世の頃の場面で蜜姫の存在を予想させておき、戦後の昭和中・後期に
 入る。「内容」に紹介されているので詳細をカット。
 妊娠した和子の決意、村に代々伝わってきた蜜姫を中心とする一族の役
 割とは・・・。
 逃亡するお優と大峰は・・・。
 この本の「カスタマーレビュー」によれば評価が大きく分かれているが、
 力作であるとは思う。
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内容(「BOOK」データベースより)
 珍種のアリを求めて瀧埜上村仮巣地区を訪れた昆虫学者の山上一郎と
 妻・和子。医師免許を持つ和子は、医者のいない仮巣地区の人々を健康
 診断したいと申し出るのだが、必要ないと冷たくあしらわれてしまい、その
 異様な雰囲気に戸惑っていた。
 そんなある晩、一郎は住民から絶対に踏み入れてはいけないと言われて
 いた社に向かった。そして、そのまま行方不明に。
 村に秘められたしきたりが露見するとき、新たな禁断の恋が始まる…。
 和製ホラー×禁断のラブストーリー。 
イニシエーション・

ラブ

 最後の二行目が話題だというが・・
 そんな感じが全くしない私は鈍感なんだろう。
 恋愛小説? と思って読めば失望する。
 治まるところに納まらないので。
 もしかしたら、最初の恋人・マユと、たっくんが東京で同じ職場になった美
 弥子が知り合いだったとか、二人が示し合わせたとか・・・そんな展開を期
 待したが、事態は深刻になるばかりだった。

 世の中にはたくさんの女がいて、男は目移りがする・・・主題はそんなとこ
 ろかと思った。
 読んだ人のカスタマーレビューもバラバラで5〜1まで評価が割れている。
 二回読めば評価が変わるかもしれないが・・・そんな気にはならない。
-----------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
 僕がマユに出会ったのは、代打で呼ばれた合コンの席。やがて僕らは恋
 に落ちて…。
 甘美で、ときにほろ苦い青春のひとときを瑞々しい筆致で描いた青春小
 説―と思いきや、最後から二行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全
 く違った物語に変貌する。
 「必ず二回読みたくなる」と絶賛された傑作ミステリー。 

 

   

 佐川 光晴
                
1965年 東京都生まれ 茅ヶ崎育ち 北海道大学法学部卒業
2002年 「縮んだ愛」で第24回野間文芸新人賞
2011年 「おれのおばさん」で第26回坪田譲治文学賞を受賞。
鉄童の旅

(てつどう)
 
 

★★★

 
 名作である。
 鉄道の素晴らしさが、鉄道にかかわる幅広い知識とともに語られる。
 しかし、鉄道を語るのが主でありながら、筋立てはしっかりしている。
 作者の深い才能を感じる。
 列車の検査技師をしている主人公は、自分の子ども時代を覚えていない。
 育ったのは児童養護施設である。
 
 鉄道雑誌の編集に力を貸すことになるが、そこに寄せられた
 有るテープは主人公の過去と深くかかわるものだった。
 そこに登場する人を訪ねる主人公。主人公と出会い結婚する友紀子の
 優しさ・・・。
  ・青函連絡船羊蹄丸
   (女性新聞記者は挫折し函館に行き、連絡船で見知らぬ子どもを・・)
  ・中央快速電車
    (カリスマミュージシャンは行き詰まっていたが、列車の中で子どもを
     前に素晴らしい歌声を響かせた・・・。)
  ・東海道211系
  ・相模線
  ・雑誌「鉄道の友」
  ・ワム60000・キハ81・20系
  ・DD51形ディーゼル機関車
  ・東室蘭駅
  ・鉄童の旅は続く
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 内容紹介から
 少年は、鉄道に揺られて大人になる。
 たとえ人生にレールはなくとも――

 『おれのおばさん』(第26回坪田譲治文学賞受賞作)の著者が贈る、謎と希
 望に満ちた成長小説。
 国鉄がまだ健在だった1981年、北海道から東京までひとりで旅をする男の
 子がいた。
 室蘭本線、青函連絡船、中央線、東海道線、相模線……
 男の子の存在は、出会った人々の記憶に深く刻まれる。
 彼はなぜ、ひとりぼっちで列車に乗っているのだろう――?
 切なくて、あたたかい、人と鉄道の「絆」の物語。

 「鉄道は、色々なものを運び続けます
 ――過去、運命、希望、未来、人生――
 鉄道の持つ奥深さを改めて感じました」
 ――南田裕介氏(ホリプロマネージャー)

 「鉄道に乗る子どもが主役の小説は、ありそうでなかった。
 佐川さんのやさしさが作品ににじみ出ていて、
 色々な世代の人が楽しめる作品だと思います」
 ――豊田巧氏(作家) 

おれのおばさん

★★★

 父親が愛人を作って、マンションを与えるために職場の金を横領。
 父親の逮捕によって、母はきつい介護の仕事に就き、陽介は母の姉が
 経営する札幌の児童養護施設に入ることになった。(受験の名門・開聖学
 園から。)
 母の姉・「おばさん」は医学部に入学、退学して演劇の道へ、結婚、離婚
 そして今は養護施設の経営・・重い過去を持つおばさんだが実に逞しい。
 おばさんと陽介のまわりに起こる施設の子たちの問題。深く考えさせるも
 のなのだが、平易な文で書かれるので共感できる。
 施設に入る子は4つのパターンだという。
  ・親がわからない  ・親と死別   ・親に事情があってあずけられる
  ・親の暴力などから逃れる
 陽介と親しくなった卓也にも複雑な理由があった。
 予期せぬ事態で卓也を生んだ女は早々に卓也を放棄。引き取られた養父
 はかわいがってくれたが養父が死ぬと、養母からひどい仕打ちを受ける・・

 養護施設を出たOBの野月は社会の不条理に遭い、施設を逆恨みする行
 動に出ておばさんを心配させる。胃潰瘍で血を吐き入院するおばさん。

 そして・・・野月が戻って、OB達が集まる。それぞれの進路を胸に秘めた
 陽介や卓也、現役生。陽介の母、おばさんを助けてきた石井。みんなが
 集まった席がでおばさんは言う「私はこれから・・・・」

 社会の業を背負いながらも希望を持って生きる者たち・・・。
 すべての人への応援歌・・・そう思える本である。
 「感動する本」に入れた。
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 内容紹介から
 第26回(2010年) 坪田譲治文学賞受賞 
 挫折なんて突き抜けろ! 痛快!青春物語

 ある日突然、父親が逮捕! 東京の進学校から一転、変わり者の実のおばさ
 ん率いる札幌の児童養護施設の居候となった14歳の陽介。
 さまざまな出会いに彼は・・・。
 時代の閉塞感を突き破る、痛快青春ストーリー! 


 

 

 瀬尾 まいこ
                
1974年 大阪府出身。大谷女子大学文学部卒業。
      中学校で国語教諭(2011年退職)
2001年 「卵の緒」で第7回坊っちゃん文学賞大賞受賞
2005年 「幸福な食卓」で第26回吉川英治文学新人賞受賞
2008年 「戸村飯店 青春100連発」で坪田譲治文学賞受賞

 本名:瀬尾 麻衣子。中学校勤務を元にしたエッセイも執筆している。

春、戻る
 
 

★★★

 
 これは気軽に読めて面白い。
 坪田譲治賞をとった作者の、軽妙にしてハラハラさせる一冊。
 突然現れた年下の「お兄さん」が、周囲に自然に溶け込んでいく姿が
 微笑ましい。
 主人公30代後半のさくらは和菓子屋の息子・山田と婚約・・・何故
 ・・一緒にいて違和感がないから・・そんな理由でよいのだろうか。
 お兄ちゃんのお節介で、さくらは山田が自分にとってかけがえのない
 人であることに気づいていく・・。
 お兄ちゃんは何者?という謎を最後まで引っ張れたところも良い。
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 内容紹介から
 結婚を控えたある日、私の前に兄と名乗る青年が現れた。
 正体不明、明らかに年下。なのに「お兄ちゃん」!?
 結婚を控えた私の前に現れた謎の青年。その正体と目的は?
 明らかに年下の「お兄さん」は、私の結婚にあれこれ口出しを始め
 て・・・。
 人生で一番大切なことを教えてくれる、ハートフルウェディングコメディ。 

 

 

 瀧羽 麻子(たきわ)
                
1981年 兵庫県芦屋市生まれ。2004年京都大学経済学部卒業。
2007年 「うさぎパン」でデビュー。 現在は、東京都在住で、
      会社勤めの傍ら執筆活動をしている。
ぱりぱり











 

 若い人向けの小説。
 自分が興味を持ったものに夢中になり、一切のものを受け付けなくなる、
 人の注意や言葉もほとんど耳に入らない、奔走に生きる「菫(すみれ)」。
 そんなすみれに周囲の人は翻弄されてしまう。妹も父母も、とっくに諦め
 ている。
 しかし、すみれに接した人たちは、すみれの行動に驚きながらも、自分を
 見つめ直すきっかけを得る・・・。それがこの小説の良いところである。
 読後感は悪くない。
   ・ぱりぱり
   ・うたう迷子
   ・雨が降ったら
   ・うぐいす
   ・ふたりのルール
   ・クローバー

 かなり多くの本を書いている。若者の恋愛物が多い。
 図書館にも4冊あった。機会があれば読んでみたい。
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 内容紹介から
 大切なひとは、誰ですか――

 才気あふれ、17歳という若さでデビューした詩人・すみれ。
 彼女の成長は少しだけゆっくりで、その後もまわりが少しハラハラするような、
 でもそのときどきに宝物を残してくれるようなものでした……

 幼い娘の成長に不安を覚える母、生徒に詩人としての才能を見出した中年
 教師、
 姉の自由さに苛立ちながらその才能に憧れる妹、伸び悩む詩人に苦悩する
 編集者、
 クラスメートの名前が書かれた詩集に出会う販売員、
 アパートの隣人にときめく大学一年生男子。
 すみれと係わったひとびとが、その季節のあとに見つけたものは……

 本作は、アンソロジー『あのころの、』(実業之日本社文庫)に収録された短編
  「ぱりぱり」を第1話に、詩人すみれと出会った人々それぞれの視点で描かれ
 る全6話の連作短編集。


 

 

 さだ まさし
                
1952年 長崎市生まれ。國學院大学中退。
1972年 グレープ結成。
      グレープを解散後、シングル「線香花火」でソロデビュー。
2001年 初小説「精霊流し」がベストセラーになる。
      他の著書に「解夏」「本気で言いたいことがある」
             「まう愛の唄なんて詠えない」などがある。
眉 山

(びざん)
 

★★★

 
 素晴らしいの一言に尽きる。
 こんな本を書けるんだとただ感嘆!
 「神田のお龍」
 咲子の母・瀧子は啖呵を切るときに、必ず見得を切って自らそう名乗った。
 その母が病に倒れ入院。
 パーキンソン病。しかし、そのうち全身に転移したガンが見つかる。
 しかし、気丈な母は病院でも患者のことを考えない医師や看護師に啖呵
 を切る。その場面が爽快である。
 居酒屋をやりながら、母はまっすぐな気性をそのまま出して、多くの人を
 励まし面倒を見てきたのだ。揉める相手も多いが母を慕う人は実に多い。
 
 龍子に罵倒された医師・寺澤は本来の姿に目覚め龍子に深く謝罪すると
 ともに、咲子とも親しくなっていく・・・。
 龍子が献体を望んでいることを知り、寺澤に献体のことを執拗に訪ねる咲
 子に寺澤が語る・・・献体の意味と石を目指す学生達。この下り中に、医
 学生の感謝の心と石を目指す決意が語られる・・・読みとの心に深く染み
 いる・・・。
 素晴らしいの一言に尽きる一冊。
 「感動する本」に加えた。
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 内容紹介から
 東京で働く咲子は、故郷の徳島で一人暮らす母が末期癌で数ヶ月の命と
 告知される。
 徳島に滞在し、母を看取ろうと決心した矢先、咲子は母が自分に黙って
 「献体」を申し込んでいたことを知る。それはなぜなのか?やがて咲子は、
 まだ会ったことのない父の存在と、母の想いに辿り着く―。毅然と生きて
 きた女性の切なく苦しい愛が胸をうつ長篇小説。 

 

 

 赤瀬川 隼
                
1931年 三重県生まれ。大分第一高等学校卒業。
      住友銀行、外国語教育機関書店などに勤務
1983年 「球は転々宇宙間」で吉川英治文学新人賞を受賞しデビュー
1995年 「白球残映」で第113回直木賞受賞。(63歳)
      野球をテーマに人生の哀歓を描いた小説で人気を得た。
      「甚五郎異聞」などの歴史小説やミステリーを手がけた。
      映画好きで、エッセーにも定評があった。
白球残映
 

★★★

 
 野球好きの人には必読の一冊か。
 直木賞を取った珠玉の作品である。

 「消えたエース」が最後に載っているが、その前に4編の短編がある。
 5つの話に繋がりはない。以前に描いたものの中から、年代的に若いもの
 を並べて一冊の本にしたと作者が、あとがきで書いている。
 最初の二作は野球が題材ではない。
  ・少年が主人公の「ほとほと・・・」
    年のあまり離れていない叔母に恋する切ない話
  ・青年が主人公の「夜行列車」
    高卒で働きながら東大を目指す銀行員。同窓生が住む東大の寮に
    潜り込んで勉強をしたのだが・・。   
  ・壮年「陽炎球場』プロ野球で活躍する村沢は同じ職場だった。
    村井に夢を託し、いつしか球場に降り立ちプレーを見守る僕は中学生。
  ・壮年「春の挽歌」
    国鉄をやむなく退職。貧困に悩まされた父だったが・・・。
    葬式にあっ待った思いがけない人々。
    父は国鉄時代からの野球部員たちをずっと応援してきたのだった。
  ・初老「消えたエース」
    野球を楽しみたい、そんな思いからスポーツ記者を止めて職替えした
    清家は、かつての大エースで、忽然とプロ野球から身を引いた春名を
    見かけた。30年も経った・・・オープン戦の観客席で・・。
    本当の「生」は野球を続けることなのか、それとも・・・。
    春名は自分の取った道に間違いないと思っていた。
    春名が野球を観戦していた本当の目的とは・・・意外な決持つ。
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 内容紹介から
 四国の球場で目撃したのは突如、球界を去った名投手。元記者は謎を追っ
 て……。野球と女性への限りない憧景を描く会心の短篇集!