東野 圭吾
       
  
 1958年 大阪生まれ 大阪府立大学電気工学科卒
  1985年 エンジニアとして勤務しながら 「放課後」で
       第31回江戸川乱歩賞
 1999年 「秘密」で第52回日本推理作家協会賞受賞
 2006年 「容疑者Xの献身」で第134回直木賞受賞
       同書は第6回本格ミステリー大賞
      2005年度の「週刊文春ミステリーベスト10」
              「このミステリーがすごい」
                              「本格ミステリーベスト10」
       各賞第1位にも輝いた。  
    
 一番はじめに読んだのは、「宿命」でした。これは秀作です。読後感が
非常に爽やかで、一気にこの作家に魅せられてしまいました。        
 また、「仮面山荘殺人事件」はミステリーよりはサスペンス仕立てになって
いますが、作者のねらいは人間の愛を追い求めるところにあります。    
 「学生街の殺人」には、東野圭吾独特の世界があります。自分の学生の頃
の生活が思い出されます。懐かしい世界をミステリー仕立てにしてくれました。

十字屋敷のピエロ・回廊亭の殺人ある閉ざされた山荘・・・などは本格的ミス
テリーに入るのでしょうか?
 不思議な人形・・・・・マザーグースなど・・・・・             

                                        
 ある閉ざされた雪の山荘で  11文字の殺人  眠りの森
 ウィンクで乾杯  宿命  白馬山荘殺人事件
 美しき凶器  卒業  犯人のいない殺人の夜
 回廊亭の殺人  探偵倶楽部  ブルータスの心臓
 学生街の殺人  鳥人計画  ・・・・・・・・・・・・・
 仮面山荘殺人事件  天使の耳    放課後
 殺人現場は雲の上   ・・・・・・  魔球
 十字屋敷のピエロ  浪花少年探偵団        むかし僕が死んだ家
           
ナミヤ
雑貨店の奇蹟
 

★★★  

 ミステリーものの傑作である。
 東野圭吾がここまで読ませてくれる作家だということを再認させられた。
 過去と未来の交差、丸光園を中心にした緻密な構成、人間の心の温かさ、
 未来への夢とステップを与えてくれる秀作である。

 雑貨店の郵便口には面白半分の悩み相談だけでなく、真面目なもりのも
 入れられるようになった。それらをおじさんは真剣に考え回答を牛乳箱に入れる。
 ・テストで百点をとるには

 なぜか、数十年後に逃げ込んだ3人は悩み相談の場に立ち会うことに・・。
 ・モスクワオリンピックを目指すべきか、癌に侵された恋人の
  そばにいるべきか。
 ・生きがいのない職場を捨て、水商売に行くべきか。
  (3人は未来を教える・・)
 ・夜逃げをする両親についていくべきか。
 
 最終章・・
 3人が盗みに入って、縛り上げた女は意外な人物だったのだ・・・。
 すべての登場人物の繋がりが明かされる。

 盗みを働いた3人が、自分たちも相談しようとしたが白紙のままに出してしまった。
 ナミヤ雑貨店のおじさんは回答に悩んだ末、「白紙に地図を書く無限の可能性」と書く。
 この言葉が3人に勇気と希望を与えた。
 
 感動する本に入れた。 

容疑者Xの

献身

★★★ 

 東野圭吾が直木賞をとった話題の本なのだが、なかなか読む機会がなかった。
 ブックオフの100円コーナーで見つけたのを幸いに購入。
 さすがに後半の逆転には驚いた。
 やはり鮮やかなトリックとその解明を描かせれば一流である。

 天才物理学者・湯川と、大学同期で湯川が一目置いていた・数学の石神による頭脳
 勝負。同じく同期だが石上とは面識のない刑事の草薙。

 弁当屋で働き、娘と平穏に暮らす靖子の前に元夫が現れる。金の無心をされた靖子
 再び悪夢のような生活に引き戻されそうになり・・・娘を殴る元夫を殺してしまう。
 隣に住む高校教師の石神は、呆然とする親子の前に現れ、親子に力を貸すことを申し
 出る・・・。
 数学の天才・石神がどんな手立てをとるのか・・・これが主題。
 刑事・草薙との縁で20年ぶりに石神のことを知った湯川が事件に関与して・・・。
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 内容の紹介から
 天才数学者でありながら不遇な日日を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす
 隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。
 彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、二人を救うため完全犯罪を企てる。
 だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことに
 なる。ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作。 

 予知夢

★★★

 これが読みごたえがあった。
 ガリレオシリーズは、なんとなく、まやかしのような気がして手をださなったのだが、
 「容疑者Xの献身」とこの本を読んでなかなかのものだと分かった。

   「夢想る(ゆめみる)」・・・下記に書いている。
   「霊視る(みえる)」・・殺害されたのとほぼ同時刻、別の場所で被害者の姿が目撃さ
                れていた
   「騒霊ぐ(さわぐ)」・・・亡くなった老婆の家に住む着くおい夫婦と知り合い。
         8時になると、家が揺れる現象が起こる。
   「絞殺る(しめる)」「予知る(しる)」・・・ホテルの一室で男性の死体が発見された。
         男の娘は、父親の作業場から火の玉が上がるのをみたことがった。
   「予知る(しる)」・・・マンションの一室で女が首を吊って死亡した。向かいの建物に
         住む女の不倫相手に電話をかけた後。しかし、男の隣に住む少女は2日前
         にも女が首を吊るのを見ていた。これは予知夢か。

   オカルト風の話の謎を、湯川が科学的に解き明かしてくれる。ちょっと奇想天外のと
   ころもあるが、工学部出身、エンジニアでもあるこの作者の持ち味が遺憾なく発揮さ
   れる。
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 商品の説明・内容の紹介から
 東野圭吾ほど、多彩な作品をおくりだす作家は珍しいだろう。デビュー作は、学園を舞台
 にした本格推理小説『放課後』(第31回江戸川乱歩賞)。第52回日本推理作家協会賞
 受賞の『秘密』では、ミステリーの形式を踏みながら家族の美しい情愛をせつなくつづっ
 た。クローン技術を題材にした『分身』や大型原子炉が危機に陥る『天空の蜂』などの
 社会派小説も生みだしている。作品ごとに、まったく違った味わいを読者に与えてくれる
 のだ。 
   本書は「探偵ガリレオ」シリーズ2作目。帝都大学理工学部物理学科助教授、探偵ガリ
 レオこと湯川学が、摩訶不思議な事件を論理的に解決していく、本格推理短編集である。 

   深夜、16歳の少女の部屋に男が侵入し、気がついた母親が猟銃を発砲した。
 とりおさえられた男は、17年前に少女と結ばれる夢を見たと主張。その証拠は、男が
 小学四年生の時に書いた作文。果たして偶然か、妄想か…。
 常識ではありえない事件を、天才物理学者・湯川が解明する、

   ロマンチックにも感じられる第1章「夢想る(ゆめみる)」をはじめ、
   「霊視る(みえる)」
   「騒霊ぐ(さわぐ)」
   「絞殺る(しめる)」「予知る(しる)」の、全5作が収録されている。
  軽快な文章の中に凝縮された、オカルチックな題材と巧妙なトリック、明晰な推理と確
  固たる論理。本書はたぐい稀なるストーリーテラーである著者の技を堪能できる作品と
  いえよう。(冷水修子) 

夢幻花

★★★

 プロローグ1で突然の通り魔事件、プロローグ2で蒲生一家の朝顔市見学。
 これが以後の展開とどう結びつくのか、なかなかわからない。
 一方の主人公である秋山梨乃の従兄弟のミュージシャン・尚人の自殺、祖父の殺害と
 事件が起こり、物語は進む。
 もう一人の(こちらが)主人公・蒲生蒼太は、警察庁に勤める兄・要介が、梨乃の祖父の
 事件を秘かに捜査していることに気づく。
 梨乃の祖父のもとから消えたと思われる「黄色のアサガオ」。この世には存在しないと
 思われている「黄色」を帯びた幻の花である。かつて江戸時代にはあったらしいのだが。
 アサガオやいろいろな花の色について、また花そのものの実態、植物の遺伝子組み換
 えなど興味深い話題も提供される。
 ミステリーという点では意外な謎解きはない、インパクトは弱いが、「黄色のアサガオ」を
 めぐる蒼太や梨乃の動きと、刑事や要介の行動に目が離せない。
 読ませてくれる一冊である。
 黄色のアサガオが江戸時代に何故抹殺された?のか・・・これも興味深い。
手 紙

★★★

 東野圭吾を一般化?した小説の一つである。
 映画化された。
 強盗殺人を犯すと家族はどうなるのか・・・弟の境遇・心情が読者に切実に迫ってくる。
 幾たびかの挫折を経て、直貴に心を寄せ、支え続けようとした女と結婚する。
 なんとか結婚し、子どもも生まれた直貴。しかし、周囲からの無視は、妻や娘にも及ぶ。
 その時、直貴の勤め先の社長が次のように言う。
 「差別はね、当然なんだよ。犯罪者やそれに近い人間を排除するというのは、しごくまっ
 とうな行為なんだ。我々は君のことを差別しなきゃならないんだ。自分が罪を犯せば家
 族をも苦しめることになる―すべての犯罪者にそう思い知らせるためにもね。」
 直貴は兄と決別し、兄にそのことを知らせるべきだったのだ・・・。
 殺人は社会からの「死」を意味することを教えてくれる必読本である。
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 内容の紹介から
 強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が
 届く…。しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯
 の弟」という運命が立ちはだかる苛酷な現実。
 人の絆とは何か。いつか罪は償えるのだろうか。犯罪加害者の家族を真正面から描き
 切り、感動を呼んだ不朽の名作。 
ト キ オ
 

 ★★★

 読後に感動の波が打ち寄せる名作。
 宿命、仮面山荘殺人事件・・・この作家は感動を与えてくれる作品が多いことを再認した。

 宮本拓実と麗子夫妻の息子が、グレゴリウス症候群で死を迎えようとしている場面から
物語が始まる。グレゴリウス症候群は1970年代初期にドイツの学者によって発見された遺
伝病である。脳神経が次々に死滅していくという恐ろしい病気で、欠陥遺伝子がX染色体
に乗っているため、発症するのはまず男性である。(女性はX染色体を二つ持っといて故障
を埋め合わせする。)麗子がこの病気のキャリアであることを承知していて、拓実は結婚し
たのだ。
 グレゴリウス症候群について語ることもテーマの一つであるが、作者が語りたかったのは
親子の絆である。半身不随で漫画を描く父は火事で逃げ遅れて死ぬ。拓実を宿した須美子
は、貧乏な生活を送ることによって拓実の身体に障害を出ることを言われ、やむなく養子に
出す決断をする。
 しかし、養父母は拓実が実子でないという負い目から次第に不和となり、拓実は荒れた心
を抱いて家を出る。仕事を何回も変え、恋人の千鶴と添いたいと思いながら何をやってもうま
くいかない拓実。そんな主人公の前に青年が現れる。
 イシハラ、高倉、そして、千鶴の友達、竹見、ジェシー・・・。拓実はトキオとともに、行方を
くらました千鶴を探す旅を続け、実母須美子の死を見取り、そして成長していく。

 帯のコピーから
 1979年、浅草。時を超えた奇跡の物語。
 男は父親になっていく。
 彼との出会いによって。

 拓実の父が炎の中で須美子に言う・・・「今この瞬間でも僕は未来を感じることができるか
ら」・・・この言葉も胸を打つ。
 ラストは、死んでゆくトキオに声を限りに叫ぶ。
 「トキオ、花やしきで待ってるぞ」  

  秘  密

  ★★★ 

 立ち読みで読了。
 筋の展開としては、ミステリー仕立てでないが、「これからどうなっていくのだろう」という
期待と不安をいだかせながらどんどん読ませられました。
 妻をなくした主人公に自分を投影させて本当に同情してしまいました。
 どちらかが

彼女を殺した

 久しぶりに東野圭吾の本を読んだ。
 しかし、この本にはちょっとがっかりした。妹を殺された警察官の兄が真相を求めて、単独
で行動を開始するというものだが、登場人物が少なく、「狭い空間」の中で、話が二転三転
するという展開。睡眠薬を飲ませ、電気のコードを巻いて感電させたのが妹の恋人かなの
か、恋人を奪った妹の親友なのか、アリバイや供述が覆されるたびに考え直し・・・・・・。
 しかも、犯人を読者に明かさないという終末にフラストレーションが蓄積されるばかり。
 東野圭吾の「新分野への取組み」は認めるが、あまり付き合いたくない気分・・・・・。
レイクサイド
 

★★★

 久しぶりに東野圭吾のミステリーを読む。
 2010年で10刷というから、かなりヒットした作品だろう。
 かなり前に読んだ「仮面山荘殺人事件」(これは名作である)を思い出した。類似点は
 少ないのだが。
 このレイクサイド。
 息子たちを私立中学の受験勉強に掻き立てる4家族が、姫神湖の別荘に集まる。
 グラフィックデザイナーの俊介は、その中では異色の存在である。俊介の息子は妻・美
 菜子の連れ子である。
 みんなより遅れて別荘に駆けつけた俊介の前に、同じ会社の高階英理子が現れ、忘れ
 物の書類を届ける・・・そして事件が発生する。
 英理子は俊介から頼まれて美菜子の浮気を調べていたはずだった。
 しかし、英理子は塾の講師・津久見をはじめ、その他いろいろ探っていたのではないか
 疑惑は次々と沸きおこる・・・。
 主役は俊介なのだが、俊介の内面描写はほとんどない。事実と疑惑が示され、読者は
 一緒に考えさせられる。まさにミステリーの中のミステリー。わくわくするような筋か展開
 されていく。
 真実がある程度明かされ、俊介は結論を得るが、最後に選んだ選択は・・・。
 ラストで東野圭吾が示したものに、読者は否定的な考えを持つこともある・・・と解説に
 書かれていがその通りだと思った。ミスターXもそのようだとか・・・。
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 内容の紹介から
 妻は言った。「あたしが殺したのよ」―湖畔の別荘には、夫の愛人の死体が横たわ
っていた。四組の親子が参加する中学受験の勉強合宿で起きた事件。親たちは子
供を守るため自らの手で犯行を隠蔽しようとする。が、事件の周囲には不自然な影が。
真相はどこに?そして事件は思わぬ方向に動き出す。傑作ミステリー。 
虚像の道化師

ガリレオ 7
 

★★★

 これは面白い。
 物理学者・湯川が同期の刑事に協力して難事件を解決するというもの。
 東野圭吾は本当に多方面の知識を得て、斬新な話を書く。
 ここに収められた4つの話のうち、最初の2つは科学的な知識を駆使している。
 (まだ実用化していない装置らしいが・・・。)
 内容に説明に詳しく載せられているので、概要を省略・・・。刑事はさらに不可解な謎を
 抱え、あの研究室のドアを叩く。
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 内容の説明から
 東野圭吾の代表作、「ガリレオシリーズ」の最新短編集。
 ビル5階にある新興宗教の道場から、信者の男が転落死した。その場にいた者たちは、
 男が何かから逃れるように勝手に窓から飛び降りたと証言し、教祖は相手に指一本触れ
 ないものの、自分が強い念を送って男を落としてしまったと自首してきた。教祖の“念”は
 本物なのか? 
 湯川は教団に赴きからくりを見破る(「幻惑(まどわ)す」)。

 突然暴れだした男を取り押さえようとして草薙が刺された。逮捕された男は幻聴のせい
 だと供述した。そして男が勤める会社では、ノイローゼ気味だった部長が少し前に自殺し、
 また幻聴に悩む女子社員もいた。幻聴の正体は――(「心聴(きこえ)る」)。

 大学時代の友人の結婚式のために、山中のリゾートホテルにやって来た湯川と草薙。
 その日は天候が荒れて道が崩れ、麓の町との行き来が出来なくなる。ところがホテルか
 らさらに奥に行った別荘で、夫婦が殺されていると通報が入る。草薙は現場に入るが、
 草薙が撮影した現場写真を見た湯川は、事件のおかしな点に気づく(「偽装(よそお)う」)。

 劇団の演出家が殺された。凶器は芝居で使う予定だったナイフ。だが劇団の関係者に
 はみなアリバイがあった。湯川は、残された凶器の不可解さに着目する(「演技(えんじ)
 る」)。
 読み応え充分の4作を収録。湯川のクールでスマートな推理が光る、ガリレオ短編集
 第4弾。 

禁断の魔術

ガリレオ 8

 

 ちょっと惰性に流れたかな?と思ったが、4編目が凄い。
 今回の謎は
  ・名刺を入れた黒封筒の内容を見取るホステスは何故殺されたか。
  ・契約外を言い渡されたプロ野球投手の妻が殺された。
   浮気? 湯川が投手・柳沢の往年のフォームを思い出させる。妻の想いも・・。
  ・双子の姉妹。姉が殺されるというインスピレーションを妹は感じる・・・。
  ・湯川の後輩が事件に関与した? 湯川がアドバイスしたレールガンを使って・・・。
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 内容紹介・内容の説明から
  『虚像の道化師 ガリレオ7』を書き終えた時点で、今後ガリレオの短編を書くことは
 もうない、ラストを飾るにふさわしい出来映えだ、と思っていた著者が、「小説の神様
 というやつは、私が想像していた以上に気まぐれのようです。そのことをたっぷりと思
 い知らされた結果が、『禁断の魔術』ということになります」と語る最新刊。
  「透視す」「曲球る」「念波る」「猛射つ」の4編収録。ガリレオ短編の最高峰登場。

 湯川が殺人を?「自業自得だ。教え子に正しく科学を教えてやれなかったことに対する
 罰だ」。ガリレオシリーズ初の完全書き下ろし。 

悪 意

★★★

 加賀恭一郎シリーズ4作目になるらしい。(1996年)
  1 卒業  2 眠りの森 3どちらが彼女を殺した・・この3冊は既読である。

 加賀はかつて中学校の教員をしていた頃の同僚であった野々宮修が関わった事件
 を担当する。
 野々宮の手記、加賀刑事の追及などが交互に書かれて進行する。
 野々宮が、日高の前妻と不倫関係にあったこと、野々宮は脅されて日高のゴースト
 ライターだった・・
 加賀の調べで意外な事実が次々と判明し、野々宮の動機も明確になる。
 そして、証拠の短刀とビデオテープ(以前の野々宮が外から日高の部屋に忍び込も
 うとしているもの)が日高の持ち物から発見され、事件は終盤を迎える。
 野々宮は加賀の追及にあっさりと殺人を認め、事件は早期解決かと思われたのだ
 が・・。
 
 しかし、何か釈然としない加賀は、やがて、野々宮と日高の小中学校、高校時代の
 ことも聞き取り調査をする・・。
 そしてわかった真実・・早々に先が見えた事件をここまで引っ張って、最後に驚愕
 の事実を見せる・・この手法に心底参った!!

 「いじめ」についての記載もある。
 いじめは教師の介入などによって簡単に解決するものではないこと。これは深い・・。

白夜行

★★★

 緻密で壮大な構想のもとに書かれた秀作。
 20000万部近い売り上げあったといわれる。
 分厚いうえに2段組みで書かれているので、どんどん読んだ割にはずいぶん時間がか
 かった。
 読後感が爽やかというわけではないが満足感が残る。

 雪穂の母が付き合っていたと思われる質屋の主人が殺された。母はガス自殺?
 雪穂は遠縁の人に育てられ唐沢となり、茶道、華道などを習って優雅さを身に付けてい
 く。
 一方質屋の息子亮司は、年配の女に同級生(高校生)を紹介したり、陰の商売をしなが
 ら、やがてコンピューターやソフトも手がけていく・・。
 雪穂の周囲に起こるレイプ事件。雪穂は被害者を慰め励ます。これは偶然なのか。
 大学のダンスクラブで雪穂と一緒になった篠塚一成は、雪穂に疑いの眼を向ける。
 雪穂の調査をしようとした知探偵の失踪、かつて質屋で働いていた男の行方不明。
 雪穂は一成の従兄弟で会社重役に乞われて結婚する。そして、その娘は・・・。

 映画化され、雪穂役を堀北真希が演じているという。 DVDを見たい。 
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 内容紹介・内容の説明から
 1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、
 事件は迷宮入りする。 
 この事件に関係した少年と少女が歩んだ道は…。

 被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂―暗い眼をした少年と、並外れて
 美しい少女は、その後、全く別々の道を歩んで行く。二人の周囲に見え隠れする、幾つも
 の恐るべき犯罪。だが、何も「証拠」はない。
 そして19年…。息詰まる精緻な構成と、叙事詩的スケール。
 絶望の白い光の中、魂の荒野を行く男と女を、叙事詩的スケールで描く傑作ミステリー
 長篇。 
 心を失った人間の悲劇を描く、傑作ミステリー長篇。

祈りの幕が

下りる時
 

★★★

 3人の苦悩する人が描かれる。
 母が多額の借金を作って出奔。残された父と娘は取り立てに苦しめられ
 夜逃げをする。持ち金も底をつき、どうしようもなく辿り着いた北陸の地で
 原発で働く男と会う。その男を・・・。
 父・忠雄は影薄く生き、娘・博美は養護施設で育つ。そして、女優・演出家となる。

 加賀恭一郎の母についても描かれている。
 夫は警察官で家庭を顧みないため、親戚との対応などで鬱病になる。
 息子を育てられないと知って家を出て、生涯苦しみながら、生を終える。
 そんな母が関わったワタベという男がいた・・・。

 加賀恭一郎について
 遥か昔に読んだ「卒業」これが加賀恭一郎シリーズの第1作目というのに驚いた。
 まだ、加賀がまだ大学生の時の話である。「眠りの森」が2作目だった。
 「祈りの幕が下りる時」は10作目である。
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 内容紹介から
 悲劇なんかじゃない これがわたしの人生 
 極限まで追いつめられた時、人は何を思うのか。夢見た舞台を実現させた女性
 演出家。彼女を訪ねた幼なじみが、数日後、遺体となって発見された。
 数々の人生が絡み合う謎に、捜査は混迷を極めるが―― 

  
 
疾風 ロンド  東野圭吾にしては深いテーマのない本である。
 スキー場を舞台にスピード感とスリルのある作品。
 週末にどんでん返しが続き、読後感が良い。
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 内容紹介から
 強力な生物兵器を雪山に埋めた。雪が解け、気温が上昇すれば散乱する仕組
 みだ。場所を知りたければ3億円を支払え―そう脅迫してきた犯人が事故死して
 しまった。上司から生物兵器の回収を命じられた研究員は、息子と共に、とある
 スキー場に向かった。
 頼みの綱は目印のテディベア。
 だが予想外の出来事が、次々と彼等を襲う。ラスト1頁まで気が抜けない娯楽
 快作。 
探偵倶楽部
 金持ち専用の「探偵倶楽部」。
 ここの探偵は名前を名乗らない。男の探偵と超美人の助手。
 2人が依頼される5つの事件を描いた連作短編集である。
 初期の作品なのか、事件の謎は深いが全体の構成に山場をうまく設定できて
 いない。
  ・自殺した社長の死体を隠そうとしたが、その死体が消えてしまう
  ・風呂で感電死した主人
  ・殺された母、父や兄弟の不審な態度
  ・不倫がらみか? 親しい2組の夫婦の夫2人が、ビールに入れられた毒で死ぬ
  ・妊娠した大学教授の次女を殺そうとして、誤って長女が殺された・・。
 最後のどんでん返しは、なるほどと思わせるが、全体に臨場感に欠けるのが難
 点。
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 内容紹介から
 「お母さん、殺されたのよ」―学校から帰ってきた美幸は、家で母が殺害された
 ことを知らされる。警察は第一発見者である父を疑うが、彼には確かなアリバイ
 があった。
 しかしその言動に不審を抱いた美幸は、VIP専用の調査機関“探偵倶楽部”に
 調査を依頼する。探偵の捜査の結果、明らかになった意外な真相とは?
 冷静かつ迅速。会員制調査機関“探偵倶楽部”が難事件を鮮やかに解決。
パラドックス
 

★★★

 

 P-13現象が起こるという、3月13日の午後1時13分13秒。
 久我誠哉、冬樹の兄弟は中国人犯罪グループの検挙に向かっていたが、冬樹
 の暴走で撃たれてしまった。
 やがて起こった不思議な現象。
 生存者は久我兄弟を含めて13人だけ。無人となった東京街で安全な場所を求め
 て移動する13人を大雨、大地震が襲い、道路は陥没し大水に浸される。
 やがて、ヤクザが罹ったインフルエンザが全員を侵し、生存は10人となってしまっ
 た。
 ようやく辿り着いた総理公邸。しかし、そこも絶対的に安全な゛は所ではなかった。
 すべてを破壊尽くそうとするかのように雷まで襲う。
 やがて見つけて英文書を解読して、P-13現象がもう一度だけ起こることが判明し
 た。36日後に起こる揺り戻し現象の時にもう一度死ねば、元の世界で生き残れ
 るのかーーー。息詰まる天変との戦いを描いていて、一日で読み終えさせられて
 しまった。
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 内容紹介から
 13時13分からの13秒間、地球は“P‐13現象”に襲われるという。何が起こるか、
 論理数学的に予測不可能。その瞬間―目前に想像を絶する過酷な世界が出現し
 た。
 なぜ我々だけがここにいるのか。生き延びるにはどうしたらいいのか。
 いまこの世界の数学的矛盾を読み解かなければならない。 
使命と魂のリミット
 
 

★★★

 研修医の氷室夕紀は心臓血管外科医を目指している。
 所属する帝京大学の附属病院の教授はかつて夕紀の父の手術を担当した西園。
 夕紀は西園のもとで研修を続けながらも、秘めた思いを持っている。
 やがて、西園は自動車会社の社長島原の手術を担当することになるが、その島
 原を恋人の敵と狙う穣治が病院を停電に追い込む。
 自家発電も止められた手術室で苦闘する西園、元宮、夕紀・・・。

 夕紀の父・健介の言葉「人にはひれびれ使命がある」が、小説のテーマとして、
 読者に訴えかけるものが大きい。看護士の真瀬望が穣治に呼び掛ける場面も
 印象に残った。
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 内容紹介から
 「医療ミスを公表しなければ病院を破壊する」突然の脅迫状に揺れる帝都大学病
 院。「隠された医療ミスなどない」と断言する心臓血管外科の権威・西園教授。
 しかし、研修医・氷室夕紀は、その言葉を鵜呑みにできなかった。西園が執刀した
 手術で帰らぬ人となった彼女の父は、意図的に死に至らしめられたのではという
 疑 念を抱いていたからだ…。
 あの日、手術室で何があったのか?今日、何が起こるのか?大病院を前代未聞の
 危機が襲う。 

カッコウの卵は

誰のもの

 かつてオリンピックにも出場したスキーヤーの緋田宏昌は、娘の風美を将来有望な
 スキーヤーに育て上げた。
 しかし、緋田は大きな秘密を持っていた。
 風美は緋田夫妻の実の子ではない。それを苦にしていた妻は風美が小さいころに
 自殺していた。
 やがて、緋田の前に風美の実の父親と思われる上条伸行が現れる。
 上条の狙いは何か。白血症に苦しむ息子のためなのか。
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 内容紹介から
 スキーの元日本代表・緋田には、同じくスキーヤーの娘・風美がいる。母親の智代
 は、風美が2歳になる前に自殺していた。緋田は、智代の遺品から流産の事実を
 知る。
 では、風美の出生は? 
 そんななか、緋田父子の遺伝子についてスポーツ医学的研究の要請が……。
 さらに、風美の競技出場を妨害する脅迫状が届く。複雑にもつれた殺意……。
 超人気作家の意欲作!

 親子の愛情に、揺さぶりがかけられる。覚悟を決めた父親は、試練にどう立ち向
 かうのか。父と娘、親子二代続けてのトップスキーヤー。娘の所属チームの研究
 者は、 二人の遺伝子パターンを調べさせてほしいと考える。しかし、了承するわ
 けにはいか ない。父には、どうしても知られたくない秘密があった。
 娘が生まれた19年前からの忌まわしい秘密が。 

流星の絆
 流星を見に出かけた深夜。父母が殺され、孤児となった兄弟3人は詐欺師となっ
 て、 見事な手口で稼いでいる。
 ある日、洋食チェーン店の会長の息子を狙ったが、その父(会長)が、父母を殺し
 た現場で立ち去った男であることに気づく。また、絶品だったハヤシライスの味が、
 のチェ ーン店のメインであるハヤシライスと同じだった。
 長兄の緻密な計算のもと、証拠をでっちあげながら、3人の復讐が始まる。
 父母の殺害現場から立ち去った男はチェーン店の会長なのか。現場に残された、
 ただ 一つの遺留品である白い傘からわかることは何か。
 14年前の刑事2人もこの事件の再捜査に取り組む。
 やがて、意外な真相の判明が・・・・。
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 内容紹介から
 「兄貴、妹(あいつ)は本気だよ。俺たちの仇の息子に惚れてるよ」

 東野作品史上、売り上げNo.1
 「大人になったら、三人で、犯人探して復讐しような」
 幼い頃、両親を殺された洋食店「アリアケ」の三兄妹。14年後、大人になった彼
 らは結婚詐欺をして暮らしていた。最大のターゲットとして選んだのは、レストラ
 ン「とがみ亭」 の御曹司。と ころが、その名物料理は、懐かしい「アリアケ」と同
 じ味だった。
 「これはお父さんのハヤシライスだ――」

 何者かに両親を惨殺された三兄妹は、流れ星に仇討ちを誓う。14年後、互いの
 ことだけを信じ、世間を敵視しながら生きる彼らの前に、犯人を突き止める最初で
 最後の機会が訪れる。三人で完璧に仕掛けたはずの復讐計画。その最大の誤
 算は、妹の恋心 だった。
 涙があふれる衝撃の真相。著者会心の新たな代表作。 

歪笑小説

★★★

 これは傑作。
 面白い。
 こんな世界を書ける東野圭吾は凄いと思う。
 出版に関わる者たちの赤裸々な姿、「○○賞」を受賞したとしても、決して恵まれた
 生活が待っているわけではない小説家。それらの裏事情を、様々な人物を登場さ
 せて描き切っている。 

 何より凄いのは・・・・
 本の最後に灸英社文庫が紹介されている。
 小説に登場する「熱海圭介」「唐傘ザンゲ」の本が3冊ずつ載っている。
 本の大体のあらすじ等も紹介されている。第135回直本賞受賞作・・・。直本賞?
 これが何と!!
 びっくり仰天!! 面白そうなので、「魔境隠密力士土俵入り」等を検索してみて
 わかった・・・。
 さすがに東野圭吾。徹底しているのである。 
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 内容紹介から
 新人編集者が目の当たりにした、常識破りのあの手この手を連発する伝説の編
 集者。
 自作のドラマ化話に舞い上がり、美人担当者に恋心を抱く、全く売れない若手作
 家。
 出版社のゴルフコンペに初参加して大物作家に翻弄されるヒット作症候群の新鋭
 …俳優、読者、書店、家族を巻き込んで作家の身近は事件がいっぱい。
 ブラックな笑い満載!
 小説業界の内幕を描く連続ドラマ。とっておきの文庫オリジナル。 

殺人の門
 評価が分かれる本である。
 祖母が母に毒殺されたのではないかという噂が立ち、夫婦の仲は最悪になり、
 父の歯科医院も立ちいかなくなる。
 父母は離婚し、父は酒に溺れる。主人公・田島和幸の暮らしはどんどん悲惨に
 なる。その蔭にちらつくのは小学生の時からの親友?倉持修。
 実際にあった豊田商事事件、株取引で詐欺を働いた集団・・・。それらと同じこと
 をやって儲けていく倉持。
 田島は倉持のやっていることを否定しながらも、いつの間にか取り込まれていく。
 そして、最悪なのは、倉持のもとの女で、浪費癖がの女・美晴との結婚・・離婚。
 全く田島は一体何をやっているのだろう。
 この話の行きつく先を知りたくてずっと読んでしまった。2段書きで442ページ。
 大作?であるが、読後感は良くない。 
 こんなことも有りか・・・と思って読めば参考にはなる。
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 内容紹介から
 どうしても殺したい男がいる。その男のせいで、私の人生はいつも狂わされてき
 た-。
 人間の心の闇に潜む殺人願望を克明に描く、衝撃の問題作。『KADOKAWAミス
 テリ』連載に加筆・修正し、単行本化。

 

 
               
 宮部 みゆき
                                          
 1960年 東京生まれ
   87年 「我らが隣人の犯罪」    オール読物推理小説新人賞    
   89年 「魔術はささやく」     日本推理サスペンス大賞
   92年 「龍は眠る」         日本推理作家協会賞
        「本所深川ふしぎ草紙」   吉川英治文学新人賞
   93年 「火車」           山本周五郎賞
   97年 「蒲生邸事件」       日本SF大賞
   99年  「理由」           直木賞
    
 岡嶋二人「クラインの壷」と宮部みゆきの「魔術ささやく」が賞を争ったらどうなるで
しょう。・・・・・・・・わたしが審査員であったら、相当に迷いますが、好みから言うと
魔術はささやくです。
 この小説の最後で解き明かされる真実、誠実に生きる人間と「愛」、底知れぬ感
動を与えてくれました。火車・スナーク狩り・一連の江戸ワールド・・・・・・。宮部みゆ
きの才能は幅広く発揮されています。
 「スナーク狩り」は凄い。サスペンスというのはまさにこの作品のためにある言葉
のような気がします。           
 岡嶋二人を読むようになっのは、宮部みゆきが岡嶋二人を絶賛してからです。
        
 火車  スナーク狩り  魔術はささやく
 かまいたち  返事はいらない  龍は眠る
 淋しい狩人  本所深川ふしぎ草紙  われらが隣人の犯罪
           
蒲生邸宅事件 カバーの書評から(作家 もりたなるお)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
   予備校受験に上京した少年が、時間旅行の能力をもつ男によって、
昭和11年2月26日の東京のど真ん中に運ばれた。歴史的事件のなか
へ、虚構の事件を設定したこの小説は、卓抜な手法で読者を謎の世界
に引き込む。
 少年がタイムトリップした蒲生邸における人間模様は、謎めくものばか
りであった。
 二・二六事件を知る人も知らない人も是非読んでもらいたい。

 これは文句なしに面白い。「龍は眠る」で宮部みゆきは超能力者をより
身近な存在に引き寄せてくれた。これまで、SFの世界で登場することの
多かった超能力者を、一人の苦悩する人間として、見事に
描いてくれた。
 蒲生邸宅事件に登場するのは「時間旅行者」である。この人並みはず
れた能力を持った一人の男がその能力故に実体感のない、影の薄い存
在で登場する。
 この能力者に関った主人公が信じられない体験をしながら、人間的に
成長する。その姿が読み手に爽やかな読後感を持たせてくれる。 

 火  車
 必読の一冊。
 山本周五郎賞をとったのも充分納得できる。
 キャッシングなど安易に金を借りることの恐ろしさが、少しずつ・・・・・そ
して、次第に強烈に迫ってくる。
この重く、暗いテーマを見事にサスペンスに仕立て上げ、息も付かせず
読ませる・・・・・・。
長々とコメントを書くのを止めたい、直ちに読むことを薦めたい一冊である。
理  由
 直木賞をとった話題作。現代の社会、家族、そして人間を描ききった衝
撃作」とカバーに書いてある。
確かに、登場人物それぞれついて丁寧に書き込まれている。中心になる
一家四人殺しの事件に直接関らない不登校対象の塾の女性講師の生き
方、簡易旅館の家族のくらし、マンション管理人の心理など、多数の人の
行動や気持ちが延々と語られる。
 そのため、500ページを遥かに越える長作となっている。
 (直木賞受賞ということで「文芸春秋」を買って読んだら、途中で終わっ
ていて結局1800円の本を買うはめになってしまった。)

 「火車」では、サラ金やキャッシングなどがテーマで、作品に切実感と問
題提起があった。「理由」のテーマは民事執行妨害である。あまり馴染み
のない言葉だがこれからの社会現象の一つに欠かせないものであろう。
 裁判所の競売で手に入れた物件が、スムーズには持ち主のものになら
ないという裏舞台を描いている。いつもながら、この作家の勉強熱心には
頭が下がる。
 それにしても長い。一つの文章も宮部みゆきのこれまでの作品に比べて
長くくどいところがある。
 直木賞を意識して、「描き切る」ことにこだわり過ぎたのかもしれない。

 読後感は悪くない。家族とは何だろうと深く考えさせる秀作である。父親
・母親・祖父母それぞれの立場での「理由」が臨場感を持って語られてい
る。家族を否定する八代祐司の生き方が現代社会に潜む家族意識の希
薄化、危機感を訴えてくる。

地下街の雨

(短編集の一作)

 こういう恋愛小説を書けるところが宮部みゆきの魅力である。
 地下街の、ある喫茶店。そこで働く主人公の女性は恋に破れ(結婚直前
に男からの裏切りに合う)抜け殻のように目標のない人生を送っている。
ある日喫茶店に同じように疲れた女が現れ親しく会話を持つようになった。
 そこに、偶然もとの会社の同僚だった男性が現れる。その男性に強引に
近づこうとする女。主人公はその女の意地のわるい本性に気づき、必死に
彼を守ろうと・・・・・・・・。
 主人公の周りに登場する心優しき人々。人生は捨てたもんじゃない・・・
・・・・そんな、宮部みゆきのつぶやきが聞こえてきそうな秀作である。
鳩 笛 草
 三つの短編に三人の女性超能力者をが登場。それぞれの人生が語られ
る。
 解説から紹介すると、
 ・朽ちていくまで
   祖母の詩で一人ぼっちになった麻生智子。八歳のとき交通事故で両
   親を亡くし、同乗していた智子は助かったものの記憶喪失に・・・。祖
   母が隠していたビデオを見て、記憶をなくす以前の自分には「ある秘
   密の能力だあった」ことを確信した!そして・・・。
 ・燔祭(はんさい)
   女子高生の妹が乱暴され、溺死した。復讐を誓う兄の前に現れた女
   は「私がお役に立ちます」と言って、眼でキャンドルの火をつけた・・・
   胸を打つ結末!
 ・鳩笛草
   城南署捜査課の本田貴子には、人の心を読める透視能力がある。
   そのことが彼女にある衝撃を・・・・。
 幻色江戸ごよみ
 下町の人情と怪異を綴った短編集である。
   ・鬼子母神  ・紅の玉   ・春花秋燈    ・器量のぞみ 
   ・庄助の夜着  ・まひごのしるべ   ・だるま猫  ・小袖の手 
   ・首吊り御本尊  ・神無月     ・侘助の花   ・紙吹雪

  紅の玉に登場する佐吉とお美代夫婦の話はあまりにも悲しい。

長い長い殺人
 ある轢き逃げ事件の捜査に駆けつける刑事の「財布」が語るところからミ
ステリーが始まる。
 やがて次々と起こる殺人事件も、それぞれの登場人物の所有する財布
によって語られていく。
  ・刑事の財布    ・強請屋の財布  ・少年の財布  ・探偵の財布
  ・目撃者の財布   ・死者の財布    ・旧友の財布   ・証人の財布
  ・部下の財布  ・犯人の財布
 犯人と思われる塚田和彦と森元法子、それに絡んで登場する人物の人
柄や生き方が描かれて行く。読み応えのある一冊である。
  ・殺された森元の行きつけのナックの葛西路子は法子を強請る
  ・大好きなおばさん・早苗を塚本に殺されたと思っている小宮雅樹
  ・早苗の探偵・・・河野
  ・バスガイドのマコは、信じていた友達のサキにおそわれ・・・・死体に
   出くわす・・・優しい刑事をしっかりバックに配しておくところが嬉しい。
  ・自分の婚約者が塚田に殺されたと思いこもうとする女、雨宮杏子
  ・教え子を信じて裏切られる高校教師の宮崎優作は、24年前、ずぶ
   濡れになって愛犬「テツ」を探してくれた塚本思い出す。だが、塚本
   といっしょにテツの亡骸を葬った場所は・・・。
  ・塚田のアリバイを証明することになる木田恵梨子は結婚式当日スト
   ーカーに連れ去られそうになるが・・・
  ・デカ長の部下、寺島裕之は、信じていた恋人の舞子がとんでもない
   女だったことに気づく。(コントロールされる例として語られる)
  ・そして登場する犯人・・・・。宮部ミステリーの総仕上げには、また別
   のドラマが待っている・・・。   
R.. P. G
最近、中古本を買うことか多くなった。宮部みゆきの本を見かけるとつい
 ・・・。
【カバーの解説から】
 ネット上の疑似家族の「お父さん」が刺殺された。その三日前に刺殺さ
れていた女性と遺留品が共通している。
 合同捜査の過程で、「模倣犯」の武上刑事と「クロスファイア」の石津刑
事が再会し、二つの事件の謎に迫る。家族の絆とは、癒しなのか?呪縛
なのか?舞台劇のように時間と空間を限定した長編 現代ミステリー。
 宮部みゆきが初めて挑んだ文庫書き下ろし。 
人質カノン
 久しぶりに宮部みゆきの本を読んだ。(県立図書館かに借出)
 短編集である。それぞれが秀作である。
  ・人質カノン
    遠山逸子は忘年会の帰りに立ち寄ったコンビで拳銃を持った強盗
    にあい、眼鏡の中学生、中年の酔っぱらいとともに人質になった。
    犯人は子どもをあやす「ガラガラ」を持っていた佐々木修一なのか?
    コンビにという特異な場所での出会とはなんだろう・・・逸子は考え
    る・・。
  ・十年計画
    失恋した男を殺すために運転免許を取ったんですよ・・・深夜のタ
    クシードライバーから話しかけられた・・。
  ・過去のない手帳
    大学に通う気にならずアルバイトを続けている和也は、ある日電車
    の網棚から女性雑誌を取り出したが、一緒に青手帳が落ちた・・。
    手帳のアドレス欄に書かれた 「吉崎静子」を探し出そうとする和
    也。
  ・八月の雪
    いじめグループを非難したために追いかけられ、飛び出してトラッ
    クに轢かれて片足を失った充。生きる意味を見出せないまま、悶
    々と過ごす充だったが、祖父が残した遺書「・・・僕はいさぎよく死
    んでいきます・・・」の意味を調べ出す。平凡なただの年寄りと思っ
    ていた祖父にこんな一面があったとは。
    祖父の古い友人・柴田が語る、二・二六事件に惹き付けられる充。
  ・過ぎたこと
    いじめを相談しにきた中学生に、医者をしているという両親に相談
    するようにアドパイスをして帰してしまった探偵の私。
    その後中学生の住所は出鱈目だったことがわかり、消息が掴めな
    くなってしまった。
    やがて、成長した姿を中央線の電車の中で見かけた・・・。
  ・生者の特権
    恋人に裏切られ、心で思い知らさせようと飛び降りるビルを物色し
    ていた明子は、夜の学校に忍び込もうとしていた中学生と出会う。
  ・漏れる心
    夫の転勤のために、住んでいるマンションを売り出そうとした前日
    に上の階からの漏水で水浸しに・・。和子は誤りにきた、学生の
    母親だと言う浅井夫人に嫌悪感を持つが・・。
 孤宿の人

上・下

 二巻にわたる長編である。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 少しくどい感じもしたが、下巻に入った頃からどんどん読み進んだ。
 「ほう」が加賀殿から手習いの手ほどきを受けるあたりに山場があるよ
 うな気がした。
 漁師町を出て「引手」をしていた宇佐も一方の主人公である。
 作者があとがきにかいているが、丸海藩のモデルが讃岐の丸亀藩で
 あり、加賀殿は「妖怪」と異名をとった鳥居耀蔵であるというのも興味
 深い。以下に新潮社の本の紹介より引用させていただきました。

 北は瀬戸内海に面し、南は山々に囲まれた讃岐国・丸海藩。江戸から
 金比羅代参に連れ出された九歳のほうは、この地に捨て子同然置き去
 りにされた。幸いにも、藩医を勤める井上家に引き取られるが、今度は
 ほうの面倒を見てくれた井上家の琴江が毒殺されてしまう。折しも、流
 罪となった幕府要人・加賀殿が丸海藩へ入領しようとしていた。やがて
 領内では、不審な毒死や謎めいた凶事が相次いだ。

名もなき毒
 吉川英治文学賞を受賞した作品を読み始めようとして図書館で予約して
 手に入れた。読み始めて数ページで以前読んだことのある本だとわかっ
 た。(はじめに青酸カリ入りのウーロン茶を飲んだ老人が亡くなるが、ここ
 で気がついた。)トラブルメーカーの原田いずみのような人間はいそうな
 気がする。

 青酸カリを使った毒殺事件が4件起こる。
 主人公の今多は今多グループの会長の婿である。
 グループが発行する広報誌の編集部に勤めているが、グループの経営に
 は一切関わらない。そういう誓約のもとに結婚したのである。気楽な一会
 社員であるが、彼の父母や兄弟達は、そういう入り婿生活に大反対し交流
 を絶っていた。
 今多の職場に原田という、自分の世界でしかものを考えられない若い女が
 いた。首になったことにクレームをつけていた。今多は会長からその後始末
 をするように言われたが逆に恨みを買ってしまう。
 青酸カリの連続殺人とは別物と思われる4番目の事件にかかわった今多
 は、父母がいなくなり祖母と二人で暮らしている外立青年と会う。犯人と疑
 われている美智香親子、警察をやめ病み衰えながらも、悩みを抱える人々
 を救うために頑張っている謎の男にも合う。
 クライマックスは一人娘・桃子をたてに原田が立てこもる場面。

内容(「BOOK」データベースより)
今多コンツェルンの広報室では、ひとりのアルバイトを雇った。編集経験
があると自称して採用された原田いずみは、しかし、質の悪いトラブルメ
ーカーだった。解雇された彼女の連絡窓口となった杉村三郎は、極端な
までの経歴詐称とクレーマーぶりに振り回される。折しも、街では連続し
て起こった、無差別と思しき毒殺事件が多くの注目を集めていた…。人
間の心の陥穽を、圧倒的な筆致で描ききった、現代ミステリーの最高峰。
第41回吉川英治文学賞受賞。 

小暮写真館
 長かった・・・。これが第一印象というのはちょっと手抜き?
 「理由」あたりからか、この作家の本が長いと感じるようになったのは。
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  古い写真館を買い、そこに住み始めた「花菱一家」の周りに起こるさまざ
 まな出来事。
   第一話 小暮写真館
   第二話 世界の縁側
   第三話 カモメの名前
   第四話 鉄路の春
  心霊写真が発端であるが、花ちゃんこと英一の父母のこと、弟の光
  (ピカ)、そして亡くなった妹の風子。不動産屋に勤める恒本順子。
  多彩な登場人物とともに、人と人の関わり、深層の姿に焦点が当て
  られていく。
  菜の花が一面に咲く、千葉・小湊鉄道・飯給駅(いたぶ) が表紙を
  飾っている。
東京下町殺人暮色
 初期の作品だが、なかなか読む機会がなかった。
 プロローグで子どもを連れた若い母親が川に浮かんでいるバラバラ
 死体の一部を発見する。(宮部みゆきは結構残虐な場面も書く。)
 犯人は近くに住む、東京大空襲の絵を描いた画家なのか。それとも・・
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 内容(「BOOK」データベースより)
 13歳の八木沢順が、刑事である父の道雄と生活を始めたのは、ウォー
ターフロントとして注目を集めている、隅田川と荒川にはさまれた東京の
下町だった。
 そのころ町内では、“ある家で人殺しがあった”という噂で持ち切りだっ
た。はたして荒川でバラバラ死体の一部が発見されて…。
 現代社会の奇怪な深淵をさわやかな筆致で抉る、宮部作品の傑作。
桜ほうさら
 久しぶりに読んだ宮部みゆき。
 605ページもある大作?
 長いと思ったが、やはり宮部みゆきの本は読ませてくれる。
 謎が介在するのは、
 ・2章の「暗号のような漢字」を使った文。
  それは三八野藩の武士が持ってきた、隠居した藩主が書いたもので
   ある。
 ・3章の拐し事件。実の娘ではないお吉は、育てた親の厳しいしつけに
  不満をもっていた。実の母のもとに身を寄せ、300両を要求するが・・。

 1章4章は、主人公と長屋や貸本屋など周囲の人々との触れ合い・・。
 顔や体に赤いあざがあり、人前に出なかった和香織が笙之介と出逢い
 生きることに自信を持つと同時に笙之介の頼もしい味方になって、いろ
 いろアドバイスするところも良い。
 ゆったりした気持ちで読める、しっとりとした人情ものである。
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 内容紹介より
 舞台は江戸深川。
 主人公は、22歳の古橋笙之介。上総国搗根藩で小納戸役を仰せつか
 る古橋家の次男坊。
 大好きだった父が賄賂を受け取った疑いをかけられて自刃。兄が蟄居の
 身となったため、江戸へやって来た笙之介は、父の汚名をそそぎたい、
 という思いを胸に秘め、深川の富勘長屋に住み、写本の仕事で生計を
 たてながら事件の真相究明にあたる。父の自刃には搗根藩の御家騒動
 がからんでいた。
 ミステリアスな事件が次々と起きるなか、傷ついた笙之介は思いを遂げ
 ることができるのか。「家族は万能薬ではありません」と語る著者が用意
 した思いがけない結末とは。
 厳しい現実を心の奥底にしまい、貸本屋・治兵衛が持ってきたくれた仕
 事に目を開かれ、「桜の精」との淡い恋にやきもきする笙之介の姿が微
 笑ましく、思わず応援したくなる人も多いはず。
 人生の切なさ、ほろ苦さ、そして長屋の人々の温かさが心に沁みる物語。

 ストーリーテラー・宮部みゆきの新境地! 

震える岩
 南町奉行根岸肥前の守、前に読んだ風野真知雄の本にも登場した人物
 である。実在で「耳袋」という書き物を残した。
 そこに「田村邸の庭石が鳴動する」という記述が残されている。
  (図書館で、この耳袋の原文を見た。)
 田村邸は赤穂の浅野内匠頭が庭で切腹させられたところである。
 このことと、99年を経て蘇った内藤安之介の資料が悪さをする事件と結び
 つけている。討ち入りの真相は、四十七士は偽りの義挙をせざるを得なか
 ったというもの。内匠頭が吉良に切りかかった理由がわからない。

 幕府(綱吉)は、両成敗とせず、内匠頭だけを罰した。そのため、赤穂の浪
 士たちは吉良の首をとらざるを得なかったというものである。忠義に疑問を
 持つものもいた。その者が内藤安之介を切った・・・。

 この本は宮部みゆきの江戸物怪奇ワールドのけっさくではないだろうか。
 与力の息子ながら、その方面は全く頼りがいがなく、算学の得意な右京の
 介の存在が面白い。初の兄(血は繋がっていない)六蔵の渋い存在も良い。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 「捕物帳」にニュ-・ヒロインが誕生した!ふつうの人間にはない不思議な力を
 持つ「姉妹屋」のお初。奇怪な幼児殺しの謎を追うお初の前に百年前の赤
 穂浪士討ち入り事件が……。長編時代ミステリ-の傑作。 

 ふつうの人間にはない不思議な力を持つ「姉妹屋」お初。南町奉行の根岸
 肥前守に命じられた優男の古沢右京之介と、深川で騒ぎとなった「死人憑
 き」を調べ始める。
 「捕物帳」にニュー・ヒロイン誕生! 

三島屋変調
百物語 三之続

泣き童子

 「泣き童子」がちょっと怖いが、あとは不思議な世界・・。
  ・魂取の池  男女で訪れると女神が・・
  ・くりから御殿  山津波で孤児になった娘の夢に亡くなった友達が表れる。
  ・泣き童子
  ・小雪舞う日の会談語りの会に言ったおちかが聞いた話。
    ・新屋を立てる時に逆柱をしたために・・ 
    ・橋で転んだら助けを借りてはいけない・・という言い伝えのある橋で転
     んでしまった妊婦のお関は・・自分の寿命を10年縮めるか、子どもの寿
     命を1年縮めるかと問われる・・・。
  ・まぐる笛   山間地に出現する「まぐる」が人間を襲う。その時、母が・・。
  ・節気顔   あの世とこの世を仲介する男に3両で・・。 
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 内容(「BOOK」データベースより) 
 不思議で切ない「三島屋」シリーズ、待望の第三巻
 江戸は神田。叔父の三島屋へ行儀見習いとして身を寄せるおちかは、叔父
 の提案で百物語を聞き集めるが。
ペテロの葬列
 さすが宮部みゆき。
 700ページに近い分厚い本を眼の前にした時、読了できるかと危ぶまれたが
 最後まで目を離せない展開で、どんどん読ませられた。
 豊田商事の事件を参考にして、ここでは日商というネズミ講の会社を問題に
 している。
 日商に関わった参謀役の男のその後の生き方、 ネズミ講に加わり加害者
 なのに、被害者の会で行動する者たち。
 その問題点を指摘する一方で、主人公・杉村の生き方についても触れていく。
 大財閥の娘を妻にした杉村は、「名もなき毒」で妻と子を危険な目に遭わせ
 ている。本編では、悪徳商法から離れて、杉村の家族の問題に進む。
 妻・菜穂子はただ守られるために居るのか。女としての自立はないのか・・・。
 財閥の広報部員として、経済的には不自由なく過ごす杉村はそれで良いの
 か・・・。
 ちょっと範囲が広がりすぎたきらいがあるが、深く考えされられる。名作であ
 る。最終章・・切なく終わるが読後感は悪くない。
 伏線として、バスジャック犯人が残した「慰謝料」。これを黙って受け取れば、
 今の生活を変えられる、それを望む若者、零細企業の経営者。
 反対する恋人・・・。
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 内容(「BOOK」データベースより) 

 『誰か』『名もなき毒』に続く杉村三郎シリーズ、待望の第3弾! 
 今多コンツェルン会長室直属のグループ広報室に勤める杉村三郎が主人公の
 現代ミステリー! 
 杉村はある日、拳銃を持った老人によるバスジャックに遭遇。警察の突入そし
 て突然の拳銃の暴発で犯人は死亡、人質は全員無事に救出され、3時間ほど
 であっけなく事件は解決したかに見えたのだが―。
 しかし、そこからが本当の謎の始まりだった! そのバスに乗り合わせた乗客・
 運転手のもとに、ある日、死んでしまった犯人から慰謝料が届く。
 なぜすでに死んでしまった、しかも貧しいはずの老人から大金が届いたのか?
 そしてそれを受け取った元人質たちにもさまざまな心の揺れが訪れる。警察に
 届けるべきなのか? それとも・・・?
 息もつけない緊迫感の中、物語は二転三転、そして驚愕のラストへ。
 事件の真の動機の裏側には、日本という国、そして人間の本質に潜む闇が隠
 されていた! 
 果てしない闇、そして救いの物語! 


 

    

 岡嶋 二人
                   
 一番最初に読んだ本によってその作家の印象が決め付けられることがあlます。
岡嶋二人の場合は「眠れぬ夜の殺人」でした。この事件のトリックの面白さと、事
件解決に挑む不思議な人たち?・・・・・・・・以来この作家の作品に引きずり込ま
れてしまいました。                                   
                         
 三度目ならばABC、7年目の脅迫状、コンピューターの熱い罠、殺人!ザ・東京
ドーム、記録された殺人、どんなに上手にかくれても、焦茶色のパステル・・・・ 立
て続けにどんどん読んで飽きることがありませんでした。  
             
 チョコレートゲームは、学校の「いじめ」問題や、意外な子供たちの実態にふれる
ところがあって、深く考えさせられました。                       
                 
 開けっぱなしの密室  コンピューターの熱い罠  ツァラトゥストラの翼
 あした天気にしておくれ  殺人志願者  とってもカルディア
 熱い砂  珊瑚礁ラプソディー  どんなに上手にかくれても
 99%の誘拐  三度目ならばABC  七年目の脅迫状
 記録された殺人  そして扉が閉ざされた  七日間の身代金
 クラインの壷  ダブルダウン  なんでも屋大蔵でございます
 クリスマス・イブ  タイトルマッチ  眠れぬ夜の殺人
 焦茶色のパステル  ちょっと探偵してみませんか  眠れぬ夜の報復
 5W1H殺人事件  チョコレートゲーム  ビックケ゛ーム
  ・・・・・・・・  ・・・・・・・  殺人!ザ・東京ドーム
  
 岡嶋二人は解散しました。発行された本は28冊です。          
 そのうちまだ手に入らないのが「熱い砂」です。
  (もしお譲り下さる方がありましたら、ご連絡をお願いします。)
             ↓
     2008年9月 無事入手し読破。
     これで岡嶋二人の著書は全部読了。
                       
熱   砂

パリーダカール
11000キロ


  岡島二人にしては珍しいノンフィクション。
  1989年「第十一回 パイオニア パリーチュニスーダカール」の随走記である。
  これを読んで久ぶりに生のアフリカについて深く考えさせられた。
 【カバーの解説から】
  花の都パリからアフリカ大陸最先端のダカールまで、11000キロに及ぶ世界一
  過酷といわれるクルマの大レース。その間に展開する参加者たちの闘い、行く先々
  の現地人たちの生活、美しくも厳しい大自然の姿など、プレスマンとして参加した
  作家の目をとおして、つぶさに描いた、清新なパリダカ体験記。
 眠れぬ夜の報復 
 未読だった2冊のうちの一冊をついに読んだ。初版は双葉文庫だったと思うのだが、
 絶版となったためなかなか手に入らなかった。それが講談社文庫として登場したので
 容易に読めるようになった。
  読後感は「まあまあ・・・・・・・」というところ。最初に読んだ「眠れぬ夜の殺人」の印
 象が強すぎたせいか「捜査0課」にかなり期待したのだが、そのわりでもない。ボスの
 菱刈、相馬廉平ことソーレン、向井聡美の3人の神秘性が薄れたのは止むを得ないと
 しても、犯人を追い込む仕掛けが思ったほど奇抜でなかったのが敗因?
  殺人!ザ・東京ドームや誘拐物、また、コンピューターの熱い罠などに比べると息詰
 まるようなサスペンスとテンポの速い展開が劣る。 

  話の筋はおよそ次のようになっている。
  16年前、押込み強盗に両親と妹を殺されたプロボウラーの草柳は、偶然見つけた盗
 品のボールに犯人の手がかりを掴む。ボールを使った密輸入の組織に辿り着くための
 草柳と彼と知り合った女の行動。そして、登場した捜査0課の3人。
  密輸入組織を自滅に追い込むための、斬新な作戦が静かに発進した・・・・・・・・・。


 

 

 赤川 次郎
        
      
 1948年 福岡県生まれ
  1976年 「幽霊列車」で第15回オール読物推理小説賞を
       受賞しデビュー。作品が映画化されるなど、続々
       とベストセラーを刊行。「三毛猫シリーズ」「ふたり」
      「天使と悪魔シリーズ」など著書多数。
                 
 さよならをもう一度  夜  黒い森の記憶
 盗みは人のためならず  ポイズン毒POISON   裁きの終わった日
 待てばカイロの盗みあり   鼠、剣を磨く    
  


 とっておきの幽霊
 軽いタッチでどんどん読める。
 マラソンのゴール寸前になるファンファーレ。それがなると信じられないスピードで
 一気に前走者を抜き去る・・。
 幽霊が出て過去の出来事などが明らかにされる短編集。
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 内容(「BOOK」データベース)などから引用  
  いつも倒産寸前、弱小バス会社〈すずめバス〉のガイド・町田藍が、持ち前の霊感で
  警察や司法の力では解決できない謎の心霊現象に立ち向かい、見事に解決! 
  大人気シリーズ第7弾、ついに刊行。 

  旅行帰りに忽然と消えた妻、妹の霊を売り込みにきた男、シナリオ自身が勝手に
  セリフを直してしまう撮影現場…“幽霊と話せる”名物バスガイド・町田藍が警察や
  司法の力では解決できない謎に立ち向かう!人気シリーズ第7巻。 


滝に打たれる
 このシリーズ、赤川次郎が初めて手掛けた時代小説である。8冊出ている。
 また、滝沢秀明が主役でNHKで放映され話題にもなった。

 剣の達人で妹の小袖の助けを借りながら、入り組んだ男女の関係、旗本、大名たち
 の思惑から発生する難事件などに挑む。
 大泥棒というより、切羽詰まった人々の窮地を救うという話が多かった。
 それにしても、側室、正室、そして藩主・・・最初は善人かと思ったら・・・というどん
 でん返しも頻繁に登場する。
 女医者千草、助手のお国の存在も捨てがたい。

 気軽に読める一冊である。
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 内容(「BOOK」データベース)などから引用  
 義に篤く人に優しい天下の大泥棒、鼠小僧次郎吉。甘酒屋は仮の姿、夜には華麗
 な盗みの技で、追い詰められた人びとを救う。
 次郎吉と微妙な距離を保つ女医の千草に縁談が。そのとき次郎吉は……? 
 お江戸人情時代小説 

 「縁談があったの」「お前に?」「違うわよ!千草さんによ」鼠小僧次郎吉の妹、小袖が
 もたらした報せは、微妙な関係にある女医・千草と、さる大名の子息との縁談で…。
 恋、謎、剣劇―胸躍る物語の千両箱が今開く! 


 

 

 梓崎 優 (しのざき ゆう)
        
      
1983年 東京都生まれ 慶應義塾大学経済学部卒。
2008年 短編「砂漠を走る船の道」で第5回ミステリーズ! 新人賞を
      受賞。
      受賞作を第一話に据え連作化した「叫びと祈り」で単行本
      デビューを果たす。
      ミステリの技巧とロマンティックな文章力を併せ持つ、注目
      の大型新人。
                   
 叫びと祈り
 世界を旅する壮大なロマンがあり、読みごたえは十分である。
 謎が、その国独自の要因を含んでいるのも興味深い。
 難解な部分もある。
 最後に短編をまとめる小編があるのだが、しっくりこない・・。
 次作を読めばこの作家の評価が決まるかもしれない。
 
 ・砂漠を走る船の道
  砂漠をゆくキャラバン。日本の報道記者・斉木も参加した一帯が「毒の風」と
  いわれる強風に遭い、「長」が死ぬ。すべてを知る「長」の死後に起こった殺
  人の意味は・・。「長」の子?メチャボの意外な正体も・・・。
 ・白い巨人
  仲間とスペインを訪ねた斉木。風車に伝わる「兵士が消えた謎」
  そして、斉木が経験した、「風車に入った゜恋人が忽然と消える」謎・・。 
 ・凍れるルーシー
  腐敗しない遺骸・イザヴェータ。生きる聖人の調査団がやってきたが・・
 ・叫び
  アマゾンを行く医師に同行した斉木
  アマゾンの奥地の村落をエボラ出血熱? が襲う。次々と死んでゆく者たちの
  中で殺人が起こる・・何故・・
 ・祈り・・斉木の前に現れる森野とは・・
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 内容(「BOOK」データベース)などから引用  
  砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる
  推理合戦、
  ロシアの修道院で勃発した列聖を巡る悲劇…
  ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。選考委員を驚嘆させた
  第五回ミステリーズ!新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」を巻頭に据え、
  美しいラストまで一瀉千里に突き進む驚異の連作推理誕生。
  大型新人の鮮烈なデビュー作。 

 

 

 北村 想(きたむら そう)
        
      
1952年 滋賀県大津市出身。滋賀県立石山高等学校卒業。
      名古屋で劇団「彗星’86」を結成し、戯曲を書き始める。
1984年 「十一人の少年」で第28回岸田戯曲賞を受賞、
1989年 「雪をわたって…第二稿・月のあかるさ」で
      第24回紀伊國屋演劇賞を受賞。
                   
怪人二十面相・伝

完全版

 
怪人二十面相・伝
 

★★★
 
 
 

  

 この本を読むことになったきっかけは、百瀬しのぶの「K‐20―怪人二十面相・伝」
 を読んだことである。
 これは中・高校生向け?かもしれないが、実に面白い。
 痛快無比というのは、まさにこの本のためにあるようなもの。
 テレビ化されて話題になったようだ。そう言えば見たような気がする。

 この百瀬しのぶの本の原作が、北村想作の「怪人二十面相・伝」だとわかったか
 らである。
 怪人二十面相といえば江戸川乱歩の小説に登場する。北村想は北川乱歩の世
 界を引き継ぐ感じて、怪人二十面相がサーカス出身であるという、短いフレーズ
 から、二十面相の側に立った本を書いて見せたのである。
 これが実に面白い。江戸川乱歩の場合は少年向けということで、かなり荒唐無稽
 な仕掛けや展開があり、そんなに面白くないという指摘がある。
 2部の構成になっている。本も2回にわたって発行されたようだ。
  ・サーカスの怪人
    主役は遠藤丈吉。
  ・青銅の魔人
    丈吉の弟子・平吉が主役。
 戦前・戦後で二十面相は変わったのだという設定も、江戸川乱歩の小説を一歩
 進めたものである。
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 内容(「BOOK」データベース)などから引用  
  怪人二十面相の正体は誰か。
 原作者の江戸川乱歩さえ触れることのなかった永遠の謎を劇作家でもある著者が
 大胆な想像力と緻密な構成で描く。父が自殺し母も行方不明となった平吉は、孤
 児院に行くことを拒否して、自らの意志でサーカス団に入門する。
 そこで平吉の面倒をみることになったのは、あらゆる芸を即座に自分のものにして
 しまうサーカスの天才・武井丈吉だった。
 芸の師匠でもある丈吉を父のように慕う平吉だったが、突然、丈吉はサーカス団
 から姿を消してしまう。「世間をあっといわせる泥棒になる」という言葉を平吉に残
 して。
 話題の映画「K‐20」原作。 (サーカスの怪人)

 鮮やかな変装の舞台裏、明智小五郎や小林少年との対決、二代目二十面相の
 誕生…。
 乱歩オリジナルの荒唐無稽な魅力を一新、演劇界の奇才が演出する「怪盗対名
 探偵」。
 おとなの冒険奇談。

 サーカスの天才・武井丈吉が扮した怪人二十面相が夜空に舞う気球に乗り、
 忽然と姿を消してから十年、丈吉の愛弟子であった遠藤平吉のところにひとりの
 男が訪ねてくる。
 男の名前は明智小五郎、頬はこけ、眼は落ち窪み、死期が近いことがうかがい
 知れた。
 明智は二十面相が残した数冊のノートを平吉に差し出す。行方知れずとなってい
 る師匠の注目を引くために、ひそかに二代目二十面相となることを誓っていた平
 吉は、ノートをもとに厳しい修行を始める。
 二十面相への復讐を胸に明智小五郎を継いだ小林との間に第二幕が切って落と
 される。(青銅の魔人) 


 

 

 芦原 すなお
        
      
1949年 香川県観音寺市生まれ。早稲田大学文学部卒
1986年 「スサノオ自伝」でデビュー
1990年「青春デンデケデケデテケ」で第27回文藝賞
      第105回直木賞を受賞。
                   
恐怖の緑魔帝王
 

★★★
 
 
 

  

 直木賞作家が江戸川乱歩生誕120周年記念文庫に寄稿した傑作。
 少年少女向けに書かれたもので、大人が読んでも、それなりに面白い。
 何よりいいのは、少年少女に対する心遣い。
 言葉遣いも丁寧で品がある。
 何回語句の説明などもしっかりしている。数多くの少年少女に読んで欲しい
 である。

 怪人二十年相の他に緑魔帝王まで出現。
 東京にはまさに暗雲が立ち込める。
 明智の留守を守る小林少年が大活 躍する。
 怪人二十面相が遠藤平吉であることは、復刻版で語られたところであるが・・・
 緑魔帝王は・・・これも意外な人物なのだ。
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 内容(「BOOK」データベース)などから引用  
 ある寒い寒い秋の夕方。探偵術の訓練をしていた少年探偵団の井上君とノロちゃんは、
 奇態な緑の老婆に遭遇し、恐ろしい目に遭う。時を同じくして、港区白金の大富豪・湧
 水健太郎氏のもとに、値打ちものの絵画と娘の登喜子嬢をいただく、という犯罪予告が
 届いた。
 送り主は、怪人二十面相。出張中の明智探偵に代わり対応した小林少年は、湧水邸
 に張り込むのだが――。
 二転三転する事件。
 やがて明らかになる意外な真実。直木賞作家が贈るスリルとユーモアたっぷりの冒険
 譚!
 二十面相への復讐を胸に明智小五郎を継いだ小林との間に第二幕が切って落と
 される。(青銅の魔人) 


 
 

 

 下村 敦史
        
      
1981年 京都府生まれ。
1999年 高校2年生で゛自主退学し、同年、大学入試資格検定合格。
2006年 この年から江戸川乱歩賞に毎年応募し、第53回、第54回、
      第57回、第58回の最終候補に残る。
2014年 9回目の応募となる「闇に香る嘘」で、第60回江戸川乱歩
      賞を受賞。
                   
闇に香る嘘
 
 
 
 

  

 ミステリーというよりは、中国残留孤児の実態に迫る本としての印象が強
 い。
 主人公は残留孤児ではないが、兄を中国に残し(荒れた川を渡る時、兄は
 綱を離して流されてしまった。)母と二人、苦難の末に帰国できた。
 やがて、中国での栄養失調や苦労のせいか(原因はよくわからない)失明
 してしまう。それらの不幸や恨みを母のせいにして、母と決別して生きる。

 やがて、中国残留孤児を帰国させようという機運が盛り上がり、兄は帰国。
 岩手の実家で母と暮らすようになる。
 しかし、主人公・和久は母を兄にあずけたまま、自分中心の生活を続ける。
 和久のわがままな態度、「妻や娘は自分を介護するために尽くすためにい
 る」という考えについていけず、出て行ってしまう。
 妻は間もなく死去。娘は腎不全の娘を抱えたシングルマザーになる。

 和久は罪滅ぼしに、自分の腎臓を孫娘に提供しようとするが、医師に健全
 な腎臓ではないと断られる。
 失望した和久だったが、実の兄の腎臓を当てにする。しかし、兄は検査さ
 えも拒む。
 疑惑を持った和久は、中国残留孤児の協会や、当時を知る人々を訪ね歩
 く。そして辿り着いた驚愕の真実!!
 
 中国の蛇頭なども絡め、内容・展開ともに充実しているが、ミステリーにし
 ては迫力不足、残留孤児問題への切り込みも今ひとつ・・・。
 可もなく不可もないといったところか・・・。
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 内容(「BOOK」データベース)などから引用  
 「週刊文春2014ミステリーベスト10」国内部門 第2位
 「このミステリーがすごい!2015年版」国内編 第3位
 歴代の江戸川乱歩賞受賞作で両ランキングのベスト3に入ったのは史上初
 の快挙! 

 村上和久は孫に腎臓を移植しようとするが、検査の結果、適さないことが分
 かる。和久は兄の竜彦に移植を頼むが、検査さえも頑なに拒絶する兄の態
 度に違和感を覚える。
 中国残留孤児の兄が永住帰国をした際、既に失明していた和久は兄の顔
 を確認していない。

 27年間、兄だと信じていた男は偽者なのではないか――。
 全盲の和久が、兄の正体に迫るべく真相を追う。

 選考委員の有栖川有栖氏が「絶対評価でA」と絶賛し、選考会では満場一
 致で受賞が決定。
 第60回を迎える記念の年にふさわしい、江戸川乱歩賞受賞作!