浅 田 次 郎
                                            
最初に読んだのは「日輪の遺産」です。時代考証にじっくり時間をかけ、
読み手を戦中の景色の中に引きずり込む。その見事な手腕にただ感嘆する
ばかり・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 同じようなテーマと時代背景を扱ったものに「地下鉄に乗って」がある。こ
ちらも素晴らしい作品である。父親の生き方に絶対に納得できない主人公が
過去の戦時中の世界に誘われ、そこで目にする人間の生き方、その現実。
そして、知り合った一人の男。その男の考え方、生きざまに同調する主人公。
肝胆照らし合う中で行動する二人。その男とは・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・
                  
  詳しい感想は省略するが、戦争中の人間に生き方・考え方を知る上で欠かせ
ない名著である。 これを書ける作家は今では、もしかすると、浅田次郎しかいな
いのかもしれない。・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

 「蒼穹の昂」は知り合いから借りて読んだ。上巻のスケールの大きさに比べて
下巻はちょっと惰性に流れるようなところがある。それにしても、こういう大作に
挑む作者には脱帽する。清時代末期の錯綜した世界と主人公の生きざまに
共感するところが大きい・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    最も印象に残る一冊は?と言われれば、かなり悩むが、昔を懐かしむ世代とし
ては昔の大学や学生運動の時代、学生のくらしが描かれている「活動写真の
女」を揚げたい。(この本の読後感を語り合いたいものです。 ・・・・・・・・・・。

                                  
 活動写真の女・・
 (蒼穹の昂) 
天切り松
闇ものがたり1
 霞町物語
お腹召しませ
 きんぴか
 地下鉄に乗って
勇気凛凛(りんりん)
ルリの色
 日輪の遺産・・
  
 鉄道員
 沙高楼綺譚
沙高楼綺譚
 草原からの使者
見知らぬ妻へ
  
   

  

  五郎治殿御始末 
                                                
さすが浅田次郎。
幕末から明治へ
激動の時代の武士たちに添い、切なく、力強い姿を描いてくれる。


内容紹介から
  勢州桑名藩の岩井五郎治は、新政府の命で、旧藩士の整理という辛い役目についていた。
 だが、それも廃藩置県によって御役御免。すでに戊辰の戦で倅を亡くしている老武士は、
 家財を売り払い、幼い孫を連れて桑名を離れたが……「五郎治殿御始末」。
 江戸から明治へ、侍たちは如何にして己の始末をつけ、時代の垣根を乗り越えたか。
 激動の世を生きる、名も無き武士の姿を描く珠玉の全6編。

 柘榴坂の仇討
  短篇集『五郎治殿御始末』所収の一篇。 映画にもなった。
  井伊直弼の駕籠回り近習として、桜田門外の変で主君が討ち取られるのを防げなかった
  侍。井伊直弼の首級をあげた直後、切腹しようとして果たせなかった暗殺者。
  明治維新の激動を経て、再び二人の人生が交錯する。

      
 
  天切り松 闇がたり>
第5巻 ライムライト
                                                
 大正から昭和への時代。「目細の安吉一家」の活躍と庶民の姿が描かれる。
  ・闇の花道―天切り松 闇がたり  〈第1巻〉
  ・残侠―天切り松 闇がたり     〈第2巻〉 
  ・初湯千両―天切り松 闇がたり  〈第3巻〉
  ・昭和侠盗伝 ―天切り松闇がたり〈第4巻〉
  ・ライムライト― 天切り松闇がたり 〈第5巻〉 
  ・天切り松読本 完全版
 このシリーズは、いまのところ6冊刊行されている。
 以前読んだ第1巻がもの凄く面白かった。最新刊が図書館に入ったので借りてみた。
 まだ一家の駆け出しだった「松」が、兄貴分、姉貴分たちの活躍を巡査や収監された
 女囚などに語るというもの。
 第一巻に比べると、ちょっと惰性に流れる感じがする。
 安吉の親分だった仕立て屋銀蔵が網走で亡くなった。安吉は通夜・葬式を元旦に行
 う・・・。
 日露戦争(二百三高地)で部下を死なせた寅兄いは、盆に遺族を訪ねタイマイの香奠
 を置く。田中一等卒の妻・おうめは悪い男といっしょになっていた・・・。


商品説明から
  大人気シリーズ、9年ぶりの最新刊! 
 ご存知、目細の安吉一家が昭和初期の東京で大活躍。
 チャップリン来日を巡る陰謀とは・・・?
 江戸っ子の粋を体現した伝説の怪盗たちによる、痛快ピカレスクロマン。 

 五・一五事件の前日に来日した大スター、チャップリンの知られざる暗殺
 計画とは―粋と仁義を体現する伝説の夜盗たちが、昭和の帝都を駆け
 抜ける。

      
  
  かわいい自分には旅をさせよ>
                                                
 この作家は実に奥が深い。
 旅、歴史、外国、自衛隊・・・。日本の幕末や中国清朝末期などをはじめ
 日本史、世界史をまたにかけた本を書いているが、その背景にある自分の
 想いをつづった書である。
 静かに庭を見ながら読む本として最適である。 
 「かっぱぎ(おいはぎのこと)権左」のように短編小説や、ちっょと長めの
 エッセイも織り込んでいる。


商品説明から
   涙と笑いの未刊行エッセイ集、第二弾
   三島自決に茫然とした雌伏の時代から、直木賞作家として世界を飛び回る
   雄飛の時代まで、「生きる作法」が満載の未刊行エッセイ集。 

 京都へ、北京へ、パリへ、シチリアへ。世界は哀しいほどに深く、美しい。
 浅田流・旅の極意から、人生指南まで、心にグッとくる傑作随筆集。 

      
  天国までの百マイル>
                                                
 主人公の母を想う気持ちに心が揺さぶられる。
 別れた妻・英子の優しさ、同棲しているマリの包容力。
 人の心の温かさが伝わってくる一冊である。
 対照的に兄弟の冷たさが描かれるのは、ちょっと釈然としないところがある。
 商品の説明に詳しいコメントがあるので簡潔に・・。


商品説明から
   主人公の城所安男は、自分の会社をつぶしてしまい、いまや別れた妻子への仕送りも
ままならぬほど落ちぶれた中年男。ある日、心臓病で入院する母を見舞った安男は、主
治医から病状の深刻さを告げられ愕然とする。そのまま治療を続けても母の余命はごくわ
ずか。残された道はただひとつ、謎の天才外科医にバイパス手術を施してもらうこと。
 衰弱した母をワゴン車に乗せた安男は、房総のひなびた漁村にあるカトリック系病院目
指して、100マイルの道のりをひた走る。はたしてその先に奇跡は待っているのか――。 
   年老いた親の介護や終末医療というテーマはきわめて現代的で、自らの身の上と重ね
合わせずに本書を読み進めることはまず不可能にちがいない。そして、それぞれに成功
者となり、老母とのかかわりを避けようとする主人公の兄たちの冷淡ぶりに怒りが込み上
げてくる。だが一方で、その兄たちの姿がそのまま、読む者自身を写し出す鏡であること
にも気づかざるを得ない。そんな恐ろしい一面を隠し持つ作品でもある。 

   また、特筆すべきは安男の同棲相手のマリだろう。「ブスでデブ」を自認するホステスの
マリは、不幸な生い立ちにもかかわらず底抜けに明るく、安男に惜しみない愛情を注ぐ。
この上なくリアルなキャラクターでありながら、同時に、男にとっての理想の女に描かれて
いることは驚きに値する。本書をせつない男女の恋物語たらしめている名脇役に、ぜひ注
目してほしい。(西村 匠) 

      


  赤 猫 異 聞>
                                                
 これは秀作。読み応えのある一冊である。
 新政府軍がやってきて幕府の組織が瓦解した江戸
 命令系統のはっきりしなくなった中で伝馬町牢は役目上継続を余儀なくされた。
 そんな時、大火事が伝馬町をも襲う。
 重罪の三人の処置をどうするか、牢奉行・石出帯刀、鍵役同心の丸山小兵衛・
 杉浦正名達は迷うが、丸山の「解き放ちは神仏の慈悲・・・火事にも喧嘩にもまさる江戸
 の華・・・」という主張を受け入れた。
 解き放たれた三人はどうなったのか・・・。
 若き牢役人、工部省御雇技官・コンノオの夫人となった女、高島交易商会社長、陸軍士
 官学校少佐、そして、曹洞宗の荒れ寺に住む僧。
 司法に役立てるため・・・という名目で典獄等の役人が、これらの人々を訪ね、事件の真
 相とその後の出来事を聞く・・という形で物語は進む。
 最後に僧(杉浦)が語る話が意外であり、深く心に沁みる。


内容説明・紹介から
 火勢が迫る伝馬町牢屋敷から解き放ちとなった曰くつきの重罪人―繁松・お仙・七之丞。
鎮火までいっときの自由を得て、命がけの意趣返しに向かう三人。
 鎮火後、三人共に戻れば無罪、一人でも逃げれば全員死罪。
 「江戸最後の大火」は天佑か、それとも――。
 火事と解き放ちは江戸の華! 江戸から明治へ、混乱の世を襲った大火事。
 命がけの意趣返しに向かった先で目にしたものは――。
 数奇な運命に翻弄されつつも、時代の濁流に抗う人間たち。激変の時をいかに生きるか
 を問う、傑作長編時代小説! 
      
   
  霞 町 物 語>
                                                
八つの短編からなっている。
 ・霞町物語 ・夕暮れ隧道 ・青い火花 ・グッドバイ・DRハリー
 ・雛の花   ・遺影           ・すいばれ ・卒業写真


 登場するのは
  頑なに写真館を守ろうとするボケた祖父。
  梶井坂に消えてゆく明子
  東大を目指すクラスメートの真知子
  留年続きの鴇(とき)田とマドンナの涼子・・・何故か事故死した後の二人と出会う
  ドクターハリーと理沙
  鉄火で姉御肌だが美しい祖母
  ヤクザらしきボート貸しのミサ  水(すい)晴れ 


 帯の解説に感想が集約されているので、そのまま引用

「鉄道員」に続き、また、泣いてしまいました。(神奈川・会社員)
日本中が涙を流した。
初めて書いた著者自身の感動の物語。

全国から届いた感動の声!!
 ・浅田さんの本を全部読んでいますが、この本が一番好き。
 ・あの頃の音楽やお店などを懐かしみながら楽しく読んだ。これこそ、私たちの世
    代の小説だ。
 ・人の心の優しさを教えてくれる「大人のメルヘン」。すさんだ心を繕ってくれる本。
 ・呑み口、酔い心地満点の名酒の味わい。青春の「ホロ苦さ」さえも気持ちいい。
 ・三年前に亡くなった祖父の思い出がよみがえって、何度も泣きました。
 ・恥を知ること、恩に報いること・・・日本人の美徳を思い起こした。現代の子どもた
  ちにも読んでほしい。

     
   見 知 ら ぬ 妻 へ?>
                                                
 浅田次郎の生き方、心情が伝わってくるような短編集である。
  ・踊り子         ・スターダスト・レビュー   ・かくれんぼ          ・うたかた  
  ・迷惑な死体  ・金の鎖                       ・フォイナルラック   ・見知らぬ妻へ
 暇があったら、一つずつ読み直してみたい。


 表題と同じ「見知らぬ妻へ」
   故郷と家族を捨て、夜の町で無頼に生きる男。家族への経ちがたい思いを抱
  きながら、何もできない今の自分。そして、中国から出稼ぎに来てヤクザに働か
  されている女との出会い。

   その女を戸籍に入れ、幾ばくかの金をもらうが、女は夫婦として男に尽くそう
  とする。その純粋さが胸を打つ。
   しかし、戸籍を手に入れた女はヤクザ達によって、どこへともなく連れ去られ
  てしまう。「妻だった女」と引き裂かれる場面は涙無しには語れない。

 うたかた
   子ども達が自立し、夫に先立たれ、立ち退きを迫られる団地に一人住む女。
  戦後の貧しい境遇から、夫とともに過ごして来た日々。地道に働く二人に、生
  活は少しずつ良くなった。一つずつ一ずつまるで夢のように幸せが降ってきた・・・。
   外国に来て一緒に暮らそうと誘う息子、そして、親切なボランティアの少年。
  女はすべてを断ち切って「餓死」を選ぶ。
   
   弱り切った女の前に夫の姿が現れる。
   「やっと来てくれたのね。遅かったじゃないの。」
   ・・・・・・・
   二人は過ぎ去った日々を語り合う。
   ・・・・・・・・
   「こわいくらい幸せだった。・・・・・・・」
   ・・・・・・・
   満開の桜の中を、夫の差し出した掌を握りしめて、女は軽々と立ち上がった。

     この場面、何度読んでも感動する。

   
    鉄    道   員??>
                                                
 本屋で立ち読みしてしまった。
 浅田次郎原作、高倉健が主演して映画化したこの一作。この映画で高倉健が久
々にスクリーンに登場し、映画界の各賞を総なめにしたのも嬉しかったが、なにより
浅田次郎という作家が一般化したのが嬉しい。
 ストーリーは、一見、何処にでもありそうな職人肌の一人の男の生き方を中心に
展開する。乗客が減って廃線が決まったローカル線の駅を守り抜いてきた主人公の
頑なな生き方の中に男のひた向きさと哀感が漂う・・・・・・・。

 浅田次郎の短編集に登場する「ありんこ」。
 そこにはぶきっちょにお天とうさまを見上げてみあげながら生きていく素朴な人間
がいる。
 鉄道員もそんな流れの中の一作ではないだろうか。

  
   沙高楼綺譚??>
                                                
 青山墓地のほとりにそびえる高級マンションの最上階。都会の夜景を一望する広いラ
ウンジと、「森の中の洋館の居間」を思わせる不思議な雰囲気の部屋で語られる秘め
やかな真実。

 オーナーが言う・・・
 「沙高楼へようこそ。・・・・みなさまがけっして口になさることのできなかった貴重なご
  経験を心行くまでお話くださいまし。いつもどおり、前もってお断りしておきます。お話
  になられる方は、誇張や飾りを申されますな。お聞きになった方は、夢にも他言なさ
  いますな。あるべきようを語り、巌のように胸に蔵(しま)うことが、この会合の掟なの
  です・・・・」

  ・小鍛冶  ・糸電話  ・立花新兵衛只今罷越候  ・百年の庭  ・雨の日の刺客

 それぞれ特異な話だが、はじめの「小鍛冶」で語られる刀剣についての薀蓄が興味深
い。
 
       ※「しゃこうろう」の「こう」は「高」ではなく、昔風の字があてられている。

  
   沙高楼綺譚 草原からの使者??>
                                                
沙高楼綺譚の第二弾
「宰相の器」、「終身名誉会員」、「草原からの使者」、「星条旗よ永遠なれ」の四編つの短篇。

 「宰相の器」
 始めに読んだのは「宰相の器」  (黒石市の本屋で立ち読みをしている。)
 次期首相をめぐって起こった奇怪な話を、政治家の秘書が明かす・・・。
 首相の最有力と見られていた大物政治家は、首相選挙に名乗りをあげる前に、二人の占い
師に伺いを立てることにした・・・。その二人とは、かつて大宰相といわれた人達が、決断を迫
られた時に必ず頼りにしたという、知る人ぞ知る大預言師である。

 その二人が、古風な料亭で鉢合わせ・・・。そして同時に発した言葉 「! ! ! ! 」
 
 これはまさに綺譚である。

         
  勇気凛凛(りんりん)ルリの色>
                                                
 この言葉、怪人二十面相の歌の一節だという・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 昔の人であればこの一節を知らない人はいないというのだが、私は知らない・・・

 このエッセイは面白い。解説にもあるが、自衛隊出身、競馬評論家、胡散臭い世
界を生き抜いた男。その華々しい経歴?をバックに語られるエピソードは涙あり、笑
いあり、また、時にはじっくりと考えさせられる・・・・・・・・。

 浅田次郎の人間像を丸ごととらえるにのには必読の書かもしれない。????


 
霧笛荘夜話>
                                                
 沙高楼綺譚と少しだけ似ている。運河のほとり、忘れられたような行き詰まりの
場所に古色然と佇んでいるアパート。
 ここに住んでいた6人の話が、管理人の老婆によって語られる。
 着の身着のままで転がり込んできた女。
 裕福な家庭を捨てホステスをしている女に。
 ヤクザに成りきれない男。
 ミュージシャンをめざす日雇いの若い男
 レズバーで働く女
 戦場から復員して、「船員」を続けていたと詐称している男。
場末のような場所に住む人の夢と希望、それなりの行く末が温かい目で捉えら
れている。
  
      
    
  シェエラザード>
                    
 久しぶりに浅田次郎の本を読んだ。さすがだ・・・のひと言に尽きる。
 筋の展開、文体、どれをとっても読者を魅了する。
 終戦間際、アメリカの潜水艦のために撃沈された弥勒丸。連合国軍の俘虜へ
 食料を提供するという人道的な任務を負って航海に出たこの船は、安導券を
 得て、無事に航海を終えるはずだった。シンガポールからの帰還人2000人
 を乗せて。
 しかし、軍部の密命を帯びて上海に金塊を運ぶために針路を変更・・・。
 この沈められた弥勒丸の引き上げに関わるのは、かつて弥勒丸と何らかの
 接点を持った者たちであった。
 シンガポールの特務機関員となった、小笠原大佐は戦後海運王、少尉候補
 生は国会議員・・・。
 海軍中尉として乗船した正木は実に意外な人物。
  この本への不満はただ一つ。
 弥勒丸の素晴らしさ、乗務員たちの誇り、当時の日本の状況などを語るのは
 よいのだが、もともとの出発点である、「弥勒丸の引き上げ」が尻切れのまま
 終わることである・・・。少佐であった土屋のその後の人生についてももう少し
 詳細にふれて欲しかった。これ以上はネタばれになるので書かないが・・・。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 昭和20年、嵐の台湾沖で、2300人の命と膨大な量の金塊を積んだまま沈んだ
弥勒丸(みろくまる)。
 その引き揚げ話を持ち込まれた者たちが、次々と不審な死を遂げていく――。
 いったいこの船の本当の正体は何なのか。それを追求するために喪われた恋
人たちの、過去を辿る冒険が始まった。日本人の尊厳を問う感動巨編。
    

    

  終わらざる夏 上・下>
                    
 大作である。
 大本営作戦本部、出版社で翻訳を手掛ける片岡と妻、小学生の息子・譲、
 盛岡の元軍曹、医専の学生、そしてソ連の兵士・・・・。
 立場を変えながら、終結したはずの戦争が千島列島・占守島にソ連が侵攻した
 ことの不合理さにつしいて書き進められていく・・。
 内容紹介に詳細があったので以下に引用。
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 内容紹介から
1945年8月15日――戦争が、始まる。

稀代のストーリーテラーが挑んだ物語の舞台は、玉音放送後に北の孤島・占守島で
起きた「知られざる戦い」。日本を揺るがす新たな戦争巨編、ここに誕生!!

「占守=美しい島」で起こった悲惨な戦いを通じ、戦争の真の恐ろしさ、生きることの
素晴らしさをうったえる感動巨編。終戦65周年の夏、誰も読んだことのない、新たな
戦争文学が誕生します。

西洋文化あふれる華やかな東京の翻訳出版社に勤める片岡は、いずれ妻とひとり
息子とともにアメリカへ移住するのが夢だった。しかし、第2次大戦開戦により息子・
譲を疎開し、片岡は妻・久子と東京に残ることに。理不尽な言論統制下で、いつかは
人間本来の生の美しさを描いたヘンリー・ミラーの『セクサス』を翻訳出版するのだと
強い信念を抱いていた。

そんな彼に、赤紙が届く。陸海軍の精鋭部隊が残留している北海道北部の占守島
に米軍上陸の危機が噂されるなか、大本営の作戦本部は、敗戦を予見していた。
そこで、米軍との和平交渉の通訳要員として、秘密裏に片岡を占守に運ぶ作戦が立
てられたのだ。粉飾のため、2人の「特業」要員も召集された。地元・盛岡の貧しい人
々のため働いてきた志高き医学生の菊池、熱河作戦と北支戦線の軍神と崇められ
た車両運転要員の鬼熊である。

上巻では、3人の占守島への旅を軸に、焼け野原の東京、譲の疎開先、鬼熊らの地
元・盛岡の農村など、様々な場所でのそれぞれの「戦争」を、多視点で重層的に描い
ていく。 

    

    

  降霊会の夜>
                    
 この本は凄い!
 さすがに浅田次郎。
 二つの過去の関係者が降霊する。
 一つ目は小学校の頃、一緒に通学した転校生の山野井清、キヨ。
 ろくでなしの父とニコヨンの母。
 父はキヨを使って当たり屋に・・・・。
 この話は切ない。涙が出てしまった。
 二つ目は学生時代の恋人、真澄と百合子のこと。
 主人公は真澄に一方的に慕われていたが、まったく気づかなかった。
 むしろ、非の打ちどころのない百合子を振ったことへの罪悪感で一杯だったの
 だ・・・。
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 内容紹介から
謎めいた女の手引きで降霊の儀式に導かれた初老の男。
罪がない、とおっしゃるのですか―死者と生者が語り合う禁忌に魅入られた男が
魂の遍歴の末に見たものは……。
   
    
  夕映え天使>
                    
 6つの短編が載せられているが、今回は心に染みいるような作品は無かった。
   ・夕映え天使
      父と二人きりで営むラーメン屋に、住み込みで働きたいと
      40を過ぎた女がやってきた・・・。
      突然、居なくなった女は半年後、自殺体で見つかる・・・。
   ・切符
      爺ちゃんと二人で暮らすヒロシ。二階に間借りしている八千代夫婦
      わけありの二人だったが、旦那は去り、八千代も引っ越してゆく・・・。
  ・特別な一日
      退職の日を特別な日にしない・・・。そんなテーマのつもりが
      全世界を巻き込んだことだった?
   ・琥珀
      定年間近の刑事が、北の街のコーヒー店のマスターの顔を見て驚く。
   ・丘の上の白い家
      貧乏で奨学金をもらっている僕と清田。
      丘の上の家に住むお嬢様と知り合った僕は清田を紹介する。
   ・樹海の人
     自衛隊に入った主人公は樹海での訓練中に、未来の自分の姿ではな
            いかと思われる男と会う。
    

    

  月島慕情>
                    
西田敏行と柳葉敏郎が出ていたテレビドラマの原作「シューシャインボーイ」が
入っているので図書館から借りて読んだ。
「現代の泣かせ屋」という異名が、この作家につけられているようだ。
ここに収蔵されている6編。人によっては涙すると思う。(私は今回は・・)
シューシャインボーイはテレビの方が原作を超えて感動が大きいという気がした。
短編では描き切れなかった戦後のようすなどを映像で示せたのも良かった。

・供物
 DVを受けどうしようもなく夫と別れ、今は順風な節勝を送っている女の
 ものに元夫の死の知らせ。ワインを持って出かけたが・・。

・雪鰻
 師団長が鰻を食べないわけは・・。
 大雪の夜、一隊員の自分に師団長が語る戦地での飢餓・・。

・インセクト
 ゴキブリを昆虫として飼っていた大学生。隣は子連れの女の下には
 愛人の男が週一でやってくる。

・冬の星座
 両親が離婚し、引き取ってくれた伯母がいた。
 その伯母の死・・医師の雅子は学生の太田を連れて
 通夜に行く・・意外な人たちが悔やみに現れる・・。

・めぐりあい 
 失明してゆくことを知り、身を引いた女。
 男は医師の家系を捨て女と添い遂げようとするが・・。
 湯治場で按摩をして暮らす女・・

・シューシャインボーイ
 靴磨きの菊治が社長になった一郎に言う言葉が重い。
 「世間のせいにするな。他人のせいにするな。親のせいにするな。
  男ならば、ぜんぶ自分のせいだ」 
--------------------------------------------------------
 内容紹介から
恋する男に身請けされることが決まった吉原の女が、真実を知って選んだ
道とは…。
表題作ほか、ワンマン社長とガード下の靴磨きの老人の生き様を描いた
傑作「シューシャインボーイ」など、市井に生きる人々の優しさ、矜持を描い
た珠玉の短篇集。

    


 内 田 康 夫
   
1934年 東京生まれ
   
 一番はじめに読んだのは「萩原朔太郎の亡霊」。・・・・・
 若い頃この詩人の詩をたくさん読んだので、書店でこ
の本を手にした時ためらわず買った。
だめでもともとという気持ちだったが、これが予想外。
この作家と出会えた幸運を喜んだ。その後内田康夫は
次第に認められて押しも押されもせぬベストセラー作
家になった。
 以来この作家の本を全部読むことにしたのだが、予算
が・・・・・・  

 その頃読んだ本の感想は今となっては到底書けない
が、こうして書名を並べてみると、改めて凄い量だと思
ってしまう。    
    
 探偵役としては、浅見光彦も好きだが、「信濃のコロ
ンボ」竹村刑事や岡部刑事など、また、「車椅子の少女
 千晶」も好きだ。  

      

   
 
青字の作品は未読です。 ※ミステリー紀行や解説書などはあまり読みません。 
  
黒字の本はほとんど書棚にありますが、後半は図書館から借りて読んだ本が
かなり入っています。
          の本には書評(コメント) があります。・・・ページ下     
       
 1.死者の木霊 21.杜の都殺人事件 41.鞆の浦殺人事件 61.歌枕殺人事件?????????
 2.本因坊殺人事件 22.小樽殺人事件 42.志摩半島殺人事件 62.伊香保殺人事件
 3.後鳥羽伝説殺人事件 23.高千穂伝説殺人事件 43.津軽殺人事件 63.平城山を越えた女
 4.萩原朔太郎の亡霊 24.王将たちの謝肉祭 44.江田島殺人事件 64.「紅藍の女」殺人事件
 5.平家伝説殺人事件 25.「首の人」殺人事件 45.追分殺人事件 65.耳なし芳一からの手紙
 6.遠野殺人事件 26.盲目のピアニスト 46.隠岐伝説殺人事件 66.三州吉良殺人事件
 7.戸隠伝説殺人事件 27.漂白の楽人 47.少女像は泣かなかった 67.上野谷中殺人事件
 8.シーラカンス殺人事件 28.鏡の女 48.城崎殺人事件 68.鳥取雛送り殺人事件
 9.赤い雲伝説殺人事件 29.軽井沢の霧の中で 49.湯布院殺人事件 69.浅見光彦殺人事件
10.夏泊殺人事件 30.美濃路殺人事件 50.隅田川殺人事件 70.博多殺人事件
11.倉敷殺人事件 31.長崎殺人事件 51.横浜殺人事件 71.喪われた道
12.多摩湖殺人事件 32.十三の墓標 52.金沢殺人事件 72.鐘
13.津和野殺人事件 33.終幕のない殺人 53.讃岐路殺人事件 73.「紫の人」殺人事件
14.パソコン探偵の名推理 34.北国街道殺人事件 54.日蓮伝説殺人事件 74.薔薇の人殺人事件
15.明日香の皇子 35.竹人形殺人事件 55.琥珀の道殺人事件 75.熊野古道殺人事件
16.佐渡伝説殺人事件 36.軽井沢殺人事件 56.菊池伝説殺人事件 76.若狭殺人事件
17.「横山大観」殺人事件 37.佐用姫伝説殺人事件 57.釧路湿原殺人事件 77.風葬の城
18.白鳥殺人事件 38.恐山殺人事件 58.神戸殺人事件 78.朝日殺人事件
19.「信濃の国」殺人事件 39.日光殺人事件 59.琵琶湖周航殺人事件 79.浅見光彦のミステリー紀行1
20.天城峠殺人事件 40.天河伝説殺人事件 60.御堂筋殺人事件 80.透明な遺書
           
81.坊ちゃん殺人事件 101.蜃気楼 121.  貴賓室の怪人 ★ 141.悪魔の種子
82.「須磨明石」殺人事件 102.姫島殺人事件 122.  不知火海    ★ 142.ミステリー紀行9 
83.死線上のアリア 103.(ミステリー紀行番外編2) 123.  ニッポン不思議紀行 143. 不思議航海
84.斎王の葬列 104.祟徳伝説殺人事件 124. 鯨の哭く海    ★ 144. 棄霊島上下    
85.(ミステリー紀行2) 105.(内田康夫自作解説第集) 125. 箸墓幻想     ★ 145. 還らざる道   
86.鬼首殺人事件 106.皇女の霊柩     126. ミステリー紀行8 146.長野殺人事件 
87.(ミステリー紀行3) 107.遺骨 127. 歌枕かるいざわ 
    軽井沢百首百景
147. 幻 香     
88.箱庭 108.(存在証明 エッセイ) 128. 中央構造帯   148. 妖しい詩韻
89.怪談の道 109.鄙の記憶 129. しまなみ幻想 149. 靖国への帰還 
90.歌わない笛 110.全面自供
        浅見光彦と内田康夫
130. 贄門島 上・下  150.初めての小説 
91.幸福の手紙 111.ミステリー紀行6 131. Escape〜消えた美食家 151.地の日 天の海 
 上下(図書館)       
92. (ミステリー紀行4) 112.藍色回廊殺人事件 132. 龍神の女    152.壺霊(これい)上下    
93. (沃野の伝説) 上下 113.ふりむけば飛鳥 
    世界一周船の旅
133. 化生の海       153.砂冥宮            
94.札幌殺人事件 114.はちまん 上・下  134. 十三の冥府   154.ぼくが探偵だった夏  
95.(ミステリー紀行番外編) 115.黄金の石橋    135. イタリア幻想曲
        貴賓室の怪人II 
155.教室の亡霊       
96. (軽井沢通信 ) 116.氷雪の殺人    136. 他殺の効用   156.神苦楽島         
97.イーハトーブの幽霊 117. ミステリー紀行7 137. 上海迷宮       157.不等辺三角形   
98. (ミステリー紀行5) 118. ユタが愛した探偵 138. 浅見光彦新たな事件 
 天河・琵琶湖・善光寺紀行
158.風のなかの櫻香
99.記憶の中の殺人   119. 浅見光彦の食いしん坊紀行 139. 風の盆幻想    159.黄泉の国から来た女
100.華の下にて   ★ 120.秋田殺人事件 ★ 140. 逃げろ光彦     160.汚れちまった道  
161.萩殺人事件    ★ 162.北の街物語      163. 遺譜 上・下    
       
       
の本には書評(コメント) があります。・・・ページ下
   
青字の作品は本棚にありません。 (未読です。) 
※ミステリー紀行や解説書などはあまり読みません。


他殺の効用
「名探偵の挑戦状」(角川文庫)の中に掲載されている。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 その他の掲載短編
   ・魔光 ------ 牛尾刑事
   ・三毛猫ホームズの英雄伝説
   ・殺怪獣事件--伊集院大介
サラ金地獄に愛を見た
(パソコン探偵の名推理)
「恐怖の変奏曲」(カッパノベルス)に収録されている。 日本推理作家協会編 
 その他の掲載短編
 ・傷だらけの女(生島治郎)  ・葬むられた遺書(井沢元彦)
 ・ダックのルール(大沢在昌) ・暗殺の部屋(大谷羊太郎)
 ・多面体のあなた(海渡英祐)・妖精の誘拐(梶龍雄)
 ・覗き見て(かんべむさし)   ・箱(日下圭介)
 ・国境の祈り(胡桃沢耕史)  ・失われた雛祭(小林久三)
 ・軌跡は消えず(陳舜臣)    ・陰のアングル(仁木悦子)
 ・花刃(皆川博子)        ・花刑(森村誠一)
もだんミスリーワールド1
 内田康夫集
 リブリオ出版
中島河太郎監修・大きな活字で見やすい本
 ・願望の連環
 ・陰画の構図
 ・サラ金地獄に愛を見た・・・この短編はあちこちに掲載されている。
日本ベストミステリー
 「珠玉集・上」
 カッパノベルス・・阿刀田高以下14の作家の短編が載せられている。
 ・願望の連環(内田康夫著)
    
                   
 戸隠伝説殺人事件は戦時中の恋人同士の悲惨な運命から始まって、現在の不
可解な事件へと発展するわけですが、純粋な愛と時の流れが物悲しくバックを彩っ
 ています。内田康夫が初期に書きたかった世界がここに記されています。
   
 竹村警部は内田康夫の出世作である、「死霊の木霊」から登場する探偵です。私は、
浅見光彦よりはこちらの方が好きです。この作品での竹村の人間臭さが浅見光彦には
ないのです。                                            
 
 浅見光彦については「記憶の中の殺人」が秀作です。作家自身(内田康夫)がごく
自然に登場してきます。なにより面白いのは二人の掛け合いです。これまでの経緯を
知っている読者からすると吹き出してしまう場面が出てきて、すごく楽しめます。

 菊池伝説殺人事件を再読しました。(平成11年6月)。職場に菊池という方がいて
「菊池」の先祖のことを見直してみようと思ったのがきっかけでした。           
親王塚で人が殺されたというところから始まります。なぞ解きとしては死体が何者であっ
たのかというあたりから2転3転して面白くなります。ただ、ミステリーとしては、いつもの
浅見光彦シリーズの中ではそれほど傑出したものでもない。                
 菊池一族についてはかなり詳しく調べて書いています。  

 黄金の石橋・皇女の霊棺・崇徳伝説殺人事件の3冊の文庫本を古本屋で見つけた。
嬉しくて、すぐに買ってしまった。「華の下にて」も単行本で出たので、合わせて4冊を一度
に買ってしまった。秋の夜長をじっくり読もうと思っている・・・・・・・。   

   

++++++++++   読後感 (HP作成を始めてから読んだもの) +++++++ 
    
     

   遺  譜 上・下 >
          
   
 図書館に申し込んだのが7月。ようやく手に入り、心躍らせながらページを捲ってい
 った。上下合わせると700ページを超える作品だが、最後まで読み手を惹きつけて離
 さない。
 浅見光彦シリーズ最後?ということで、これまでに登場した女性たちも登場する。特に
 (平家伝説殺人事件の稲田佐和に心惹かれる光彦。)
 
 舞台を神戸、神奈川、そして、ドイツ・オーストリアへ。
 太平洋戦争、ヒトラー・・・。

 戦後の時代を生き抜き、隠し財産?にかかわり70年の元特務機関員・忌部(いんべ)。
 忌部は財宝を隠匿したのか、忌部の周りに居る謎の集団は?
 戦時中ドイツ・ヒトラーユンゲントの日本訪問に同行してきた少女・ニーナが秩父宮に
 渡した楽譜・・・70年後に来日したニーナの孫・アリシアは祖母に頼まれてそれを探し
 に来たという・・・。
 忌部が宮司を務める神社での殺人、オーストリアの湖で過去に起こっていた殺人・・・。
 光彦の兄・洋一郎、亡くなった父、祖父までがこれらの出来事と関わったいた・・・。
 壮大なスケールと空間を超えたミステリーに浅見が挑む。
 読み終わった時・・・心地よい脱力感に覆われた。
 光彦は事件解決後、「結婚し探偵を止める」そんな生き方も考え始める。
 これまでの浅見光彦シリーズの集大成であり終焉である。
 内田康夫があとがきで、「復活」もあるようなことを匂わせている。
 シャーロック・ホームズのような帰還を待ちたい・・・。
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内容紹介・内容(「BOOK」データベースより)
 浅見光彦は本人が知らない間に企画された34歳の誕生日パーティに際し、ドイツ出
 身の美人バイオリニストに頼まれともに丹波篠山へ赴く。祖母が託した「遺譜」はどこ
 にあるのか――!? 史上最大スケールの難事件! 

 浅見家に届いた一通の手紙。それは、本人が知らない間に企画された、浅見光彦
 34歳の誕生日パーティの案内状だった。発起人の一人、本沢千恵子は美貌のドイツ
 人ヴァイオリニスト、アリシア・ライヘンバッハを伴い浅見家を訪れる。
 丹波篠山で町をあげて行われる音楽イベント「シューベルティアーデ」に二人が出演
 する際に、ボディガードを頼みたいというのだ。
 アリシアは祖母に、彼の地で「インヴェ」という男に託された楽譜を預かってくるように
 と言われていた。
 一度は断る浅見だが、刑事局長の兄、陽一郎からの特命もあり、現地に赴くことに
 なる―。
 賢兄愚弟の典型、浅見家に育った次男の光彦を過去の盟約が追い詰める!軽井沢、
 丹波篠山、ヨーロッパを舞台に史上最大級の謎の連鎖の幕が開く。
 国民的名探偵が迎える衝撃のラスト。
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  ドイツと日本、二つの国で次々に見つかる新事実、「遺譜」に記されていた内容とは? 
 第二次世界大戦当時から現代へと綿々と続く「盟約」を護り続ける者と、それを狙う者。
 浅見光彦が迎える史上最大の危機! 

 第二次世界大戦前、ドイツより日本を訪問し、全国を歓迎と熱狂の渦に巻き込んだヒ
 トラーユーゲント。その盛大な歓迎会の最中に、ある秘密工作は粛々と仕組まれてい
 た―。
 「インヴェ」という名前に導かれ、丹波篠山である男の家を訪れた浅見は、殺人事件の
 嫌疑をかけられることに。
 ナチスドイツが遺した爪痕は、意外な形で日本へと繋がっていた。気鋭のヴァイオリニ
 スト、アリシア・ライヘンバッハの祖母からのたっての頼みを受け、ドイツへと赴いた浅
 見光彦が目の当たりにした悲しみの真実とは?
 緻密に組み立てられた陰謀は、70年の時を経て現代へ甦る!官僚一家の名門・浅見
 家を脅かす「亡霊」の正体とは?
 現代ミステリー界の雄が不退転の決意で描きだした名探偵“最後の”事件! 

          
     
   北の街物語 >
          
   
 これは良い。
 浅見光彦の住むあたり「飛鳥山」は好きな場所で、何回か訪ねたことがある
 団子屋の平塚亭や、神社も見ている。
 この当たりのことは時々小説に登場するのだが、詳しく描かれることは少なかった。
 今回作者があとがきでも言っているように、自分の出身地である北区の一帯をきち
 んと調べ直して書いている。
 事件にかかわる彫刻家も、ヤクザらしき者の死体を発見した凧屋?も浅見光彦の家
 の近隣の人である。
 ご近所?のことであるので、殺人も最小限に止めている。
 事件解決もそうだが、北区界隈を描くことが狙いのように思える。
 山手線に唯一ある踏切、昔ながらの風呂屋など。
 内田作品・・読み終えるのがもったいないような気分で読み進めた・・。

内容(「BOOK」データベースより)
 北区在住の彫刻家の自宅から「妖精像」が消えた。同じ頃、荒川河川敷で絞殺死
 体が見つかる。
 一見、何の繋がりもない二つの事件に、四桁の数字という共通点を見つける浅見
 光彦。
 不可解な一致に加え、ミステリアスな人間模様が絡み合い、事態はさらに錯綜す
 るのだが―地元・北区で起こった事件に、名探偵が挑む! 

          


   汚れちまった道 >
    
  
 うーん。
 インパクトに欠けるか・・・。
 事件は複雑に絡み合っていて、その一つ一つが見事に解決(説明)されるのに異論
 はないのだが。最後まで読み手に事件のヒント、犯人の手口を提示したり、ドキドキ
 するような展開があったり・・・それがあまり期待できない。
 事件の背景を知っていた人物は最初から口を閉ざしており、犯人もありきたりの者た
 ちというのは新鮮さに欠ける。
 独身貴族連盟?を組んでいた親友の松田が山口に見合いででかけ、婚約に至ると
 いう伏線があって、それはそれでネタになっている・・・。
 浅見の推理で山口県警を動かすというのも面白くはある。
 ともかくも、萩、宇部、美弥、防府と山口県内をあちこち走らせ、地図を見ながら読ま
 せられ、ちょっとした山口びいきになった。
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  内容(「BOOK」データベースより)
 地方紙記者・奥田伸二が萩で失踪、浅見光彦は行方捜しを依頼され山口を訪ねた。
奥田が姿を消す直前に遺した不可解な言葉。四年前に起こった市役所職員カップル
の相次ぐ不審死。中原中也の詩の一節を綴った遺書。
 いくつもの謎に翻弄される浅見。奥田の身には何が起こったのか?
 一方、見合いで山口を訪れていた浅見の親友・松田将明は、元美祢市議刺殺事件
に巻き込まれた。松田を救うべく動き始めた浅見の前で、奥田の失踪事件が奇妙に
関わりを持ち始める。二つの事件が絡まり合う中、やがて謀略の構図が浮上、そして
強大な敵が浅見の前に立ちはだかる……。

 【著者のことば】
 『汚れちまった道』『萩殺人事件』同時刊行によせて これはひょっとすると「世界初」
で「世界唯一」のミステリーになるのかもしれない。 同時に発生した事件・物語が同
時進行形で展開し、互いに干渉しあい、登場人物が錯綜しながら大団円に向かう。
そしてそれぞれの事件それぞれの物語が独自に収斂する。
 僕自身、そんなことが可能なのかと疑いながら創作に没頭し、丸一年がかりで二つ
のミステリーが完成した。二つであって一つでもあるような不思議な小説世界を旅して
みませんか。――著者・内田康夫 

     
   
   萩殺人事件 >
    
  
 上の項にある「汚れちまった道」と同じ事件を、浅見光彦と、友人の松田という、二人
の視点から書いたものである。
 ・浅見中心が「汚れちまった道
 ・松田中心が「萩殺人事件」である。
内田康夫の本を全部読むことにしているので(エッセイ等を除く)、新刊が発売されると
同時に図書館で予約し、まだピカピカの?本を二冊とも読んだ。
 この作家はだんだん「切れ」が少なくなってきたように思う。
 内容も文も平易で、舞台となる当地の「食事」などにかなりこだわったりしている。
 女の人の描き方にも、奥ゆかしさが若干消えたような気もする。
 今回の事件。
 関連が無いような二つの事件に、浅見と松田が遭遇する。事件が錯綜していて、ちょ
っとやおやこしく、くどい感じもする。途中に事件解決のヒントも少なく、終盤にならないと
全容が見えてこない、という展開はいつもと同じ。
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  内容(「BOOK」データベースより)
 出版社に勤める松田将明は、山口・宇部に住む女性と見合いするために旅立つ。萩ま
で列車で向かう途中、車窓から見た女性に目を奪われ、彼女がいた萩反射炉を訪れる。
だが、そこには女性の姿はなく、ネックレスが落ちていただけだった。松田がネックレス
を“持ち主”に送り届けたことで、不可解な殺人事件とかかわることに…。
その持ち主は元美祢市議で、何者かによって殺されていたのだった。松田は、大学時代
の親友・浅見とともに犯人捜しに乗り出す。そこで明らかになる哀しき真実とは―。 
  
 

  

  黄泉から来た女>
          
   
 図書館に予約してからかなり待たされたが、ようやく手元に届く。・・
 (このところ内田康彦の本が入ると欠かさず予約している。)
 発売日:2011/07/29とあるから、4ヶ月ちよっと前に出た本である。
 いつものように間をおかず読み続けたが、なかなか進まなかった。
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  天橋立がある京都府・宮津市の観光課に勤める神代静香を訪ねた女が
 殺害される。鶴岡からやってきたという女の目的は何だったのか。今は亡
 き母も鶴岡の出だったが、逃げるように宮津にやってきて故郷とは行きを
 絶ったという。
  静香は偶然宮津に取材にやってきていた浅見光彦の助けを借りて事件
 と背後にある秘密に迫る。
  この世とあの世を結ぶと言われている、出羽三山、月山、羽黒山、湯殿
 山の由来、修験に来山する人々や宿坊等について書かれている。
  また、静香の父が天橋立で観光船の船長をしているという設定で、天橋
 立の見どころやコースも語られる。この地に立っている元伊勢神社(籠神
 社)についても宮司の言葉を借りて由来が語られ、興味深い。
      
 
       
   風のなかの櫻香 >
      
 異色の一作。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 尼寺を舞台にしているが、それがメインというわけでもない。
 京都の旧家や名家なども絡んでいる。
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  内容(「BOOK」データベースより)
5歳まで施設で育ち、奈良の由緒ある尼寺・尊宮寺に養女に
迎えられた美少女・櫻香。中学生になった彼女の周りで、
次々に不審な出来事が起こる―。身を案じた尼僧・妙蓮に
相談を受けた浅見光彦は、謎を追って鳥羽へ向かうが―!?
遷都1300年の奈良・尼寺を舞台に、人間の愛と業を描いた
感動のミステリー。 
      


  不等辺三角形 
     
 久しぶりに読み応えのある本に出会ったという感じである。神苦楽島は、長い
 わりに大雑把でちょっとがっかりしたのて゜・・・。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 名古屋、奥松島で起きた殺人事件を繋ぐもの。それは名古屋の名家に伝わる
 古い仙台箪笥だった。事件解明を依頼された浅見光彦は、箪笥から見つかっ
 た謎の漢詩に注目し、その意味するところを解こうとする。そんな中、ある閃き
 が光彦を襲う。 
                

       

   ぼくが探偵だった夏 >
      
 浅見光彦の少年時代の冒険を描いている。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 軽井沢の別荘で夏休みを過ごす光彦。ある日、友だちの峰男くんと、得体のしれない
 別荘で男が死体らしきものを埋めるのを目撃してしまう。軽井沢のおじいさんのところ
 に遊びに来ていた同級生の本島衣理も加わり、不審な事件の解決に取り組む・・。
 若き日の竹村刑事が登場するのみ面白い。
 少年少女向けに書かれた本で、ちょっと難しい漢字はすべてふり仮名つきである。
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  内容(「BOOK」データベースより)
光彦・小学校五年生の夏。クラスに軽井沢からの転校生・本島衣理がやって来た。初対
面の印象は最悪!それなのに隣の席だなんて、女という生き物が苦手な光彦には辛い毎
日だ。でも、待ちに待った夏休み、光彦は今年も恒例の軽井沢の別荘へ…。そこで、夏
の友だち・峰男くんから偶然、衣理を紹介され再会する。話をするうちに光彦は、最近、
軽井沢で行方不明になった女の人がいるという話を聞き、三人で現場に行くことに。する
と、怪しげな「緑の館」の庭で大きな穴を掘り、何かを埋めようとしている男の姿が!その
直後から不穏な空気が光彦の周囲に漂いはじめる。埋められた物は何だったのか?平和
な軽井沢でいったい何が起こっているのだろうか!?「浅見光彦シリーズ」でお馴染みの
“あの人”たちも登場。 
  
     
     
   神苦楽島(かぐらじま) 上下 >
          
   
 県立図書館で検索して見つけた。まだ新しく何人にも読まれていない感じがした。
1ページの行数が少ない。圧縮すれば上下でなく、一冊で収まったかもしれないとい
う感じがする。淡路島が主舞台だが、「太陽の道」という北緯34度32分近くに位置す
る伊勢神宮、斎宮なども登場する。宗教法人・陽修会会長・新宮日出夫の生き方、
彼と別に狂信者達が動き出すという、組織の矛盾等にも焦点を当てている。

内容(「BOOK」データベースより)
秋葉原で若い女性の不審死に遭遇した浅見光彦。事件の鍵は淡路島に?拝み
屋、民間信仰、牛頭天王、新たな死体…やがて呪いは浅見にもふりかかる!?
この殺人は、儀式なのか。妖しい陰謀うずまく淡路島を舞台に、信仰の意味を
問う傑作ミステリー。 

         
  
  教室の亡霊 
     
 図書館で予約していたが、なかなか順番がまわってこなかった。ようやく読めるというので
 一気に読み進めた。やはり内田康夫の本は読みやすい。文章に違和感がないのでどん
 どん読める。
 内容は、大分で起こった「教員採用試験に絡む賄賂」に題材をとったものである。
 新任の英語教師・梅原彩は、自分が講師をしていた時に病気休暇をとった澤という教師が
 自殺したことを知りショックを受ける。しかも、澤は梅原と並んで写った写真を持っていた。
 梅原を心配した生徒が、浅見に連絡をしたことから名探偵の登場となる。(以前の「伊香
 保殺人事件」での浅見の活躍をしっている松浦を通じて。)
 澤の娘で教員試験を4回も落ちている日奈子、県会議員の名越、梅原の通う学校の近く
 に住む謎の男「結」、梅原が顧問をつとめる陸上部に息子が所属しているが、県大会に
 出られずクレームを付けてきた山本・・。モンスターペアレントの問題も絡めながら、物語
 は進行していく・・・。
                

       

   砂冥宮 >
      
 県立図書館で内田康夫を検索したら追加の本が入っていたのでさっそく借りた。
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  これは戦後の「内灘闘争」に参加した人たちのその後の人生と絡んだないようである。
  内灘闘争というのは、当時砂丘だった石川・内灘に国が砲弾の試射場を造ろうとした
 ことに始まる。
  当時大学生だった中嶋由利子と恋人の水城は正義感に燃えて地元の人たちを応援
 した。水城は熱があったにもかかわらず、リーダーの「米帝の手先の言うことで動揺す
 るのか」というアジ(扇動)に、スクラムを組む。そして、倒れた。水城を気遣った友人の
 二人が小屋に運んだが医者に診せることができず、水城は亡くなる。
  やがて、地元の人々はよそ者である学生たちと袂を分かって国と和解し始めた。
  挫折して内灘を去っていく、中嶋や学生たち・・・。

  この内灘闘争を書くために仕上げられたミステリーという感じがしないでもない。
  横須賀市にすむ須賀(すか)智文の死、ゴルフ場問題なのか、泉鏡花がらみか・・。
  続いて起こる須賀と同年代の男の死。
  浅見光彦は内灘を訪れ、かつて鉄板道路といわれた場所に消えていった須賀の謎
  を追う。
  今回のマドンナは須賀の孫・絢香。

  
   
   壺霊(これい) 上下 >
       
県立図書館で時々「内田康夫」を検索してみると、新刊が入っていることがある。・・
今回もそうだった。申し込んだらあまり間をおかずに手に入ったのは幸運だった。

以下、ストーリー(Wee 角川のページより引用させていただきました。) 
 京都の老舗骨董店・正雲堂の嫁である伊丹佳奈が失踪した。嫁ぐ際に持参し
た高価な高麗青磁の壺【紫式部】も消えている。残された唯一の手がかり、縁
切り神社・ 安井 金比羅宮の形代には、佳奈と夫の離縁を祈願する内容に、見
知らぬ女性の名前と住所が添えられていた。その紫野の住所で浅見光彦が発
見したのは、何と紫式部の墓。しかも、壺を 【紫式部】と名付けた男は、7年前
に変死しているという……。
 京都町家暮らしという条件に惹かれ、佳奈の娘千寿の依頼を引き受けた浅見
も、いつしか怨霊や生霊の息づく古都の底知れぬ深みにはまっていたのだった。

 上下二巻だったが、スムーズに読めた。
 町家に十日間宿泊して京都のあちこちを訪ね歩くという設定で、事件は上田京
子の殺害ばかり。大骨董市で京都新聞の記者・栗原が偶然佳奈の写真を撮って
いたが、その写真の分析から失踪の謎に迫っていく。
 京都の有名な観光地でなく、作者の描きたかった場所が紹介されていくのも読
ませどころである。
 寂光院の放火の場面から始まるが、この放火が全体及ぼす影響を少ないよう
な気がするがどうだろう。
       
   
   棄霊島 
     
 内田康夫の著作としては143番目だが、探偵として浅見光彦が登場するのは100番目。
記念すべき本である。
 光彦は取材で五島列島に行き、途中のフェリーで元刑事の後口と知り合う。やがて、こ
の後口が静岡・御前崎で死体となって発見された。後口に何があったのか。30年前に長
崎・軍艦島で行った事件の捜査に当たっていた後口が見たものは何か? 信州・松代に
住む娘を訪ねたこととの関わりは? 

 光彦は軍艦島の生まれである教師・篠原雅子の協力を得て事件の解明に挑む。
 長崎の海上に浮かぶ巨大な要塞・軍艦島を舞台に30年前に何が起こったのか。誰もが
過去を語らず調査は難航するが、次第に当時の出来事が明らかになる。
 石炭採掘のために軍艦島に集められた朝鮮人、軍人。島で不審死した神主。
 作中で、北朝鮮、首相の靖国神社参拝などについての作者の考えも語られる。

 松代は昨年訪ねた所である。着いたのが夕暮れの閉館間際だったために、人がほとん
 どいない・・。そんな、巨大な地下要塞跡を一人で歩いて・・。

               
               
   長野殺人事件 >
      
 県立図書館から借りて読んだ。
 長野県知事になった某作家をモデルにしたような本だった。
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  品川区役所年金課に勤める宇都宮直子は、取り立て先の岡根寛憲宅を訪ねて分厚い
 封筒を託された。
  やがて岡根寛憲が長野県飯田市で殺害され、直子は「封筒」の重大さに驚愕する。
  岡根寛憲の事件を担当して久しぶりに登場した信濃のコロンボ竹村。
  直子の夫・正享の旧友として「封筒」と事件解明に登場した見光彦。
  県警本部長の小沢。県会議員の金子、保坂。
 役者が出そろって事件は進展していく。
  総会屋のような仕事をする渡部が第二の犠牲者となり、やがて別れた妻の昌美と娘の
 静香が光彦の前に現れる。今回のマドンナは昼神温泉「しほの家」という旅館で、「しほ
 の家の狐舞い」を踊る前川静香。
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  長野県知事選挙と長野オリンピック招致にからむ不透明な金の動きをテーマとして
 内田康夫が取り組んで政治の裏舞台の事件である。
    
    
   地の日 天の海 上下 >
     
   
 内田康夫の新刊が出版されていることを知ったので、県立図書館で検索したら・・あった・・・
 さっそく申し込んだが、希望者が多かったようで、ほとんど忘れたころに電話があった・・・。
 読み始めて、すぐに思ったことは「これは本当に内田康夫??」
 浅見光彦が登場しないのは、本当に久しぶりで新鮮だったが、まさか純粋に歴史物を書く
 とは。驚きを通り越している。
 それにしても、さすがは内田康夫である。最初は淡々と史実を追いかけているような感じを
 受けたが、次第にこの作家独自の史観が出て、下巻に入った時には魅せられていた。
 織田信長の狂気の世界(殺戮)や光秀の反逆の必然性、秀吉の日輪。それらが随風(天海)
 の眼を通して鮮やかに描き出されている。以下に角川文庫のページから「あらすじ」を引用
 させていただいた。


 時は戦国。会津・芦名家の重臣・船木一族の嫡男として生まれた兵太郎は頭脳明晰で将
来を嘱望されていたが、自らの出生の秘密と争い事に嫌気がさして元服前に出家を宣言し、
随風(ずいふう)と名を改めた。
 随風はたちまち頭角を現し、17歳で天台の総本山・比叡山延暦寺へと向かう。彼こそが後
に徳川三代に重用され、100歳を超える天寿を全うした若き日の天海そのひとである。 
 その頃、針売りの吉(後の秀吉)は、武士になるべく諸国を放浪していた。畿内、美濃、駿
河。非定住商人でしかない自分がどの国で身をたてるか。若きの日の秀吉は、商人の観点
で世の動きと天下の情勢を観察していた。伝説では秀吉と同年同日に生まれたという黒衣の
宰相天海。信長や光秀の盛衰、秀吉の天下取りなど、戦国の動乱をすべて見聞した若き日
の天海(随風)を中心に、ベストセラー作家・内田康夫が描く野心的歴史超大作。
 秀吉と光秀の異常な出世から、織田家臣団の抱える構造的問題、そして本能寺の変と中
国大返しにいたるまで、ミステリ界の第一人者が、最新の研究成果を駆使して、戦国史最大
の謎を解き明かす。
 日本経済新聞連載中より話題の平成版「太閤記」ついに刊行。
    
         
   靖国への帰還 >
      
 県立図書館から借りて読んだ。
 久しぶりに浅見光彦の登場しない本だった。
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  海軍航空士官として、厚木航空隊に所属する「武者滋」は、茅ヶ崎の海岸で知り合った
 女学生・沖有美子に自分の絵を描いてもらう。
  やがて、米軍の本土空襲が激しくなり、武者は伊豆半島方面から侵入したB29を迎撃
 するために、厚木基地を飛び立ち、敵機を撃墜するが、操縦していた柳飛長とともに銃弾
 を浴びる。そして、厚木基地への帰路、稲妻が光る長い雲中を通り・・タイムスリップした。
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  平成19年の現代に唯一人たどり着いた武者がするべきことは・・・。
  靖国神社が精神の柱であったこと、A級戦犯も国民もみな一つになって戦っていたこと、
 その処刑を喜び万歳を叫んだ者はいないこと・・・総理との対談、ルポライター館山との対
 談。
  テレビに出演した武者は自分の信ずることを語る。しかし、列席した一人の女性の言葉
 「私の父は食べ物もなく餓死したと聞く・・現代の豊かな世界に戻ってきたあなたが、賢
  しらに靖国神社がどうのこうのと・・英霊に申し訳がたたないのではないか・・・。」
  その言葉にショックを受けた武者は、再び「月光」に乗ることを決意する。
  絵を描いてくれた沖有美子との再開、結婚を約束した有美子の親戚の娘深田瞳との出
 会い、すべてを捨てて・・・。
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  内田康夫が靖国問題に真正面から取り組んだ異色作である。タイムスリップという現実
 では理解できない現象を持ち込んでいるところも興味深い。
  
   
   逃げろ光彦
     
 5つの短編が載せられているが、4つは以前書かれた本の中から抜粋して載せたもの。・・
  
  ・埋もれ火 ------------  軽井沢の霧の中で(中央文庫・角川文庫)
  ・飼う女  --------------  死線上のアリア(徳間文庫・角川文庫)
  ・濡れていたひも  -------  盲目のピアニスト(中央文庫・角川文庫)
  ・交歓殺人 ------------  死線上のアリア(徳間文庫・角川文庫)
  ・逃げろ光彦 ----------- 書き下ろし
        
 4編は女の情愛などをテーマにしたちょっと怖いストーリー。

 逃げろ光彦 
 【裏表紙から】
  美女が置き忘れた携帯電話。それを手にした浅見光彦は?
    レストランで隣り合わせた女性が忘れていった携帯電話を、ふとしたきっかけで手にした
  浅見光彦はメッセージのなかに奇妙な暗合のようなものが書かれているに気がついた。
  さっそく軽井沢のセンセとともに、解読を試みるものの、なかなか判読できない。
  光彦はもう一度レストランを訪ねたのだが、なぜか店を出ると、何者かに追いかけられて
  しまう。あわてて軽井沢のセンセがカンヅメになっているホテルに逃げ込んだ光彦を待っ
  ていたのは、そのレストランの従業員が殺害されたというニュースだった。
    

                            
     
   他殺の効用
     
 これまで読んだ本の中から抜粋して載せているものだった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
  
  ・他殺の効用 ------------ 名探偵の挑戦状(角川文庫)
  ・乗せなかった乗客 -------- 軽井沢の霧の中で(中央文庫・角川文庫)
  ・透明な鏡 --------------- 鏡の女(角川文庫)
  ・ナイスショットは永遠に ----- パソコン探偵の名推理(講談社文庫)
  ・愛するあまり ------------ 盲目のピアニスト(中央文庫)
        
                      
 
 還らざる道
                 
プロローグ                                                                                                ・
 島崎藤村の「夜明け前」の一節が紹介される。
 『木曽路はすべて山の中にある。あるところはそばづたいに行く崖の道であり・・・』
 木曽路が舞台である。(国道19号線)
 木曽路の名勝地「木曽の桟(かけはし)」で起きた乗用車の転落。運転手は泥酔し
 ていたというが・・。


 続いて起きた殺人事件。
 恵那市矢作ダム。奥矢作湖で白陽インテリアの会長・瀬戸一弘が死体で発見された。
 瀬戸から半生の記を託された孫の雨宮正恵は祖父の死の謎を解明すべく、愛知豊田
市・足助の馬越将仁を訪ねる。そして、明智光秀を取材に来ていた浅見光彦と知り合い
ともに、事件解決に取り組む。


登場する主な人物
  ・瀬戸一弘
  ・瀬戸一弘の父・由蔵・・50年前、大木の下敷きで死に、盗伐を疑われた。
  ・馬越将仁・・足助の村おこしに心血を注ぐ
  ・馬越将仁の父・憲秀・・加子母営林署長を勤めた。
 ※由蔵が亡くなった後、下呂で天皇陛下出席のもとに全国植樹祭が開かれたが、そ
   の時に出席していた 
  ・大須賀農林大臣 
  ・信越営林局長の中山
  ・今野上松営林署長


 50年前に加子母村で何があったのか、浅見光彦は関係者を訪ね歩き、度合温泉に
宿泊し、木曽ヒノキに関わる真実に辿り着く。
 浅見光彦が最後に事件の黒幕の人物を訪ねて言う場面
 「それで、君の望みは何かね。」
 「望みは正義が行われることです。」
 そして、数日後、長野・王滝村から岐阜へ抜ける白巣峠近くの断崖から3人の乗った
車が転落した。

 内田康夫が渾身を込めて書き上げた名作である。 
 「幻香」の後に読んだ。

                                            
             
 幻 香
                 
 本書の末尾に、次のように書かれている。
           「例幣使(れいへいし)街道殺人事件」
           (「浅見ジャーナル」1996年4月号〜2007年1月号)
           「フローラの凾(はこ)」
           (「野生時代」2006月号〜2007年5月号) を
          大幅に改稿したものです。
 作者の後書きによれば、浅見ジャーナル紙上で始まったリレーミステリーだとのこ
と。内田康夫と会員が交互に執筆したものだったが、野生時代に転載したり、単行
本として発行するに当たって大幅に修正したものである。


登場する主な人物
  ・調香師の国井和男 娘の由香
  ・調香師の西原哲也 娘のマヤ
  ・沼田皇奈子(みなこ)
  ・戸村浩二・・真由子の恋人で調香師
  ・田所・・国井和男の小学校時代の同級生で元駐在勤務
  ・小野瀬秀夫・・国井和男の小学校時代の同級生
            「風葬の城」にも登場した・会津若松の漆器職人


  国井和夫の妻・真由子は西原哲也の妻・ジョセフィーヌと沼田皇奈子を乗せ、カンヌ
の国際香水デザイン会へ向かうが、その途中で事故を起こす・・・というところから始ま
る。
 時が流れて、浅見光彦は、国井由香という名前で書かれた手紙で呼び出され、栃
木市に行き、巴波(うずま)川にかかる幸来橋で張り込んでいた山北刑事に連行され
る。殺された戸村浩二の上着のポケットに入っていた「おもちゃのまち 今市 湯西川
綿着山 4/10/幸来橋」。事件の渦中に引きずり込まれた浅見光彦が、山北刑事
の協力を得て事件解決に挑む。
  ---------------------------------------------------------------
 国井和男が開発した香水はインフルエンザの特効薬である「タミフル」のような副作
用を持っていた。国井は、この開発した「究極の香水」を破棄するのも忍びなく、「三位
一体」の考えをもとに、ギリシャ神話の『三美神』になぞらえた3人の娘たちに託すこと
にした。その3人とは、国井由香、西原マヤ、事故でピアニストを諦め調香師になった
沼田皇奈子である。
 「調香師」聞き慣れない名前であるが、内田康夫は、この世界のことを詳しく調べて、
主題に据えている。
    ---------------------------------------------------------------
 国井和夫が娘の由香に渡そうとして日本に持参した瓶は、国井が殺害されたことに
より、行方がわからなくなっていた。
 不穏な動きを見せる沼田皇奈子の父親が経営する沼田皇製薬の蒲生、矢崎組の二
人・・・。栃木を舞台に事件を追う浅見光彦推理が深まる。
                                         
    
   イタリア幻想曲 >
     
   
帯の解説(角川書店)から 
  キリストの神秘をめぐりルネッサンスの天才が残した謎
  浅見光彦がトスカーナに奇蹟を起こす
  30年前、欧州で追いつめられた日本人過激派の爪痕がミモザと糸杉に彩られた
  美しいヴィラに新たな悲劇を招く


 プロローグで兄・陽一郎が若い時にヨーロッパを旅してイタリアに行った時のことが
 書かれる。海外に舞台を写した作品は新鮮味があってよい。
 帯の解説が詳しいので、続いて引用する。
   
  学生時代に欧州を旅した浅見光彦の兄・陽一郎は、大理石の街カッラーラ近郊で
 一人の日本人青年と出会った。だが、数日後、この青年は事故で死亡してしまう。
 それから30年。
 同じ街で光彦が出会った初老の日本人画家も、やはり数日後に死体となっていた。
 異郷の地でともに過激派組織に関わっていた二人の接点には、ヴァチカンの聖な
 る秘密が見え隠れする。二人の死は禁忌を犯したゆえの「神罰」なのか。それとも
 ・・・。
 2000年前にゴルゴタの丘で行われたキリストの磔刑と、30年前に日本の若者た
 ちを熱狂させた「革命」の凄惨な末路・・浅見兄弟は、思想と信仰という、人間の生
 み出した崇高にして酷薄な怪物に完全と立ち向かうが・・・。

 キリストの「聖骸布」が事件の鍵を握るという着想が凄い。

      
    
   風の盆幻想 >
     
   
帯の解説(幻冬社)から                                     ・・・ 
  哀切な胡弓の調べと幽玄な踊りで全国的に有名な富山・八尾町の「風の盆」祭り。
 その直前、老舗旅館の若旦那が謎の死を遂げた。自殺で片づけようとする警察に疑問
 を感じた浅見光彦と内田康夫は独自の調査に乗り出す。そして、飛騨高山、神岡と越
 中八尾を結ぶ、秘められた愛にたどり着く・・・。・・・・・


 富山・八尾町の「風の盆祭り」について書き上げることが、ひとつのねらいではないか
 と思われるほど、この祭りについて歴史や経過を丹念に調べ上げている。作者の思
 い入れが深い。これを読み終わった後に、「風の盆祭り」を見に行かなくてはという気
 持ちにさせられる。1985年に作家の高橋治が「風の盆恋歌」を発表し、ドラマ化され
 て、一躍有名になった祭りである。そのことも含め第一章「越中おわら節異聞」に、詳
 細に渡って書かれている。
 ミステリーとしては、他の作品に比べていまひとつという感じがするが・・・。 
   
      
      
  上海迷宮 >
     
帯の解説(徳間書店)から                                     ・・
 「正義を行うことこそ、国益にかなうものなのです」
 上海と新宿、二つの殺人事件を結ぶものは何か?
 外交問題、汚職、黒社会・・・急激に発展を遂げた国際都市の混沌を掻き分けた浅見
 は、驚くべき真実にたどり着く・・・!      


 「視野の片隅でチラッと動くものを感じた。赤い小さなトカゲだった。・・・曾亦依(ソウイイ)
 が  見た夢の話を父にすると、父はひどく恐い顔で『私以外の誰かに話したか』と訊い
 た。」 この、プロローグに出てくる赤いトカゲがミステリーの幕開けであり終末でもある。

 舞台を外国に移したものにイタリア幻想曲・貴賓室の怪人II があるが、これまでの、マ
 ンネリになりがちな浅見光彦シリーズの殻を破っていて面白い。本書も同様である。
 主要登場人物が目次の次に全部紹介されている。

         
        
   化生の海 >
     
      
(新潮文庫の解説から)
 加賀の海から水死体で発見された男。
 北海道・余市の自宅には、底に「卯」の字のある一体の古い素焼き人形が残されて
いた。事件から五年、かすかに残った男の足跡を辿る浅見光彦は、北九州・北陸・北
海道を結ぶ長大なラインに行き当たる。それき江戸時代から明治期に栄華を極めた、
北前船の航路と重なっていた。列島を縦断し歴史を遡る光彦の推理。ついに驚愕の
真実が、日本海から姿を現す。       


 「北前船」が出てきたので最近に珍しく新刊を買ってしまった。
 北海道を走り回った時に、余市のニッカウィスキーの工場も入ったことがある。今回
のヒロインは、工場の案内役をしている小林園子。竹鶴政孝が昭和9年操業された
ニッカウィスキーの工場。余市が選ばれたのは、竹鶴が学んだスコットランドに、気候
風土が似通っているからだという。
 「化粧」の意味は、中盤から登場する 往年の映画スター・深草千尋と関連している。
       
     
 
       
   氷雪の殺人 >
     
   
 防衛庁物資調達で「水増し請求」事件があったが、それを題材にしたもの ・・・・・・


 プロローグ
  北海道・利尻島で、富沢は思いがけない人物に出会い、一緒に登山し語り合
  う。そして、冷たい缶コーヒーで乾杯・・・。
  富沢は意識を失い、奈落の底に落ちていくが、この時の描写が内田康夫は実
     に旨い。

 富沢が利尻のカルチャーセンターの「運だめしタンス」に残した「プロメテウスの
 火 矢は氷雪を溶かさない」というメッセージ。
 浅見光彦は元防衛庁長官・秋元康博の要請を受けて、事件の解決に動き出す。
 富沢の愛人・中田絵奈が富沢から聞いた、「ばれるかもしれない」というつぶや
 き。そして、受け取った「氷雪の門」の歌のCD。
 利尻・北海道から東京へ舞台は代わり、新たな展開を見せていく・・・。

 浅見光彦が刑事局長の兄とともに行動する場面もある。「警察と自衛隊は兄弟」
 という光彦に憤然とする刑事局長。

 富沢の実の父かもしれないというサハリン帰りの秋元康博、学生運動の闘士か
 ら転向して役人となり、防衛庁幹部に登りつめた蜂須賀薫、母子家庭で育った
 中田絵奈。
 今回も主テーマと別に多彩な人間の生き方が語られる。
       

        
       
   龍神の女>
     
 「帯の解説から」                                        ・・・・・・・・
 和歌山県の山奥にある龍神温泉に、熟年夫妻がタクシーで向かっていた。その途中の
山道で、若い女性が運転する乗用車が、猛烈な勢いでタクシーを追い抜いて行った。
 その後宿に着いた夫妻を刑事が訪ねてきて、山道で車の転落事故があったという。
 てっきりあの女性が運転していた車が転落したものと思ったが、事故を起こしたのは、
夫妻が乗っていたタクシーだった。それが事件の発端だった。


 以前に雑誌などに掲載された短篇を集めたものである。
  ・龍神の女
     表題のもの
  ・鏡の女
     浅見光彦の小学校の頃の初恋の浅野夏子から届いた姫鏡台。
     その後、夏子は夫の愛人に子どもができ、変死したことを知る。
     昔、夏子と暗号遊びをしたことを思い出し、浅見は夏子からのメーセージを解こ
     うとする。
     やがて、不倫して身ごもっていた鳥須友紀は府中市多磨町四丁目から、送られ
     た姫鏡台を受け取る・・・・。
     オカルト風の一作。    
    
  ・少女像は泣かなかった
     橋本千晶が探偵役。ブロンズ像が朝に涙のような水滴を垂らすというのが謎解
     きのキーワードになっている。亡くなる隣家の夫人の行動や、一緒に住んでいる
     夫の愛人の話など、不自然な感じもする。
     それにしても、橋本千晶が活躍する数少ないミステリーである。
  ・優しい殺人者
     「フグハラ」こと、福原警部シリーズの一作。ほとんど捜査に加わらず、いつの
     間にか事件を解決してしまう不思議な警部が活躍する。今回は死体の姿勢が
     焦点となる。
  ・ルノアールの男
     パソコン探偵の名推理シリーズの第一作目に載せられている。(単行本と重複
     している)、嶋田英作が万能パソコンの助けを借りて事件を解決する。嶋田の
     憧れの君である藤岡由美の父親が被害に遭う・・・・。
           
         
   十三の冥府>
     
 「帯の解説から」
                                               ・・・・・・・・
 浅見光彦を翻弄するのは”荒ぶる神の祟りか”、冥府に迷う死者の怨念か・・・
 ピラミッド、キリストの墓、アラハバキ・・・
 謎めいた伝説と信仰。
 その背後に潜む憎悪と殺意に敢然と立ち向かう名探偵の活躍を描いた長編旅情ミス 
テリーの傑作。

 なにわより じゅうさんまいり じゅうさんまいり もらいにのぼる ちえもさまざま

 ウミネコで有名な八戸の蕪島でお遍路の女性とすれ違ったとき、女子大生・神尾容子
は、記憶の底に刻み込まれた奇妙な唄を耳にした。ところが数日後、唄を口ずさんでい
たお遍路と思しき女性の絞殺死体が、新郷村の「ピラミッド」へつづく山道で発見される。
 同じ頃、古文書「都賀留三郡史」の真贋論争を取材するため青森を訪れた浅見光彦は
「ピラミッド殺人事件」を皮切りに、行く先々で不可解な死に遭遇する。そして、その死の
原因を「アラハバキ神の祟り」だと噂し、恐れおののく人たちがいた・・・。



 ひさびさに内田ミステリー復活・・という感じである。
 佐渡伝説殺人事件・平家伝説殺人事件・恐山殺人事件・・・・・
 どこかに物悲しさと、得体の知れないものの跳梁を忍ばせて事件が起こり、そして謎が
謎を呼ぶ・・・・。
 浅見光彦はこのような舞台に打ってつけの探偵である。

 事件の舞台が青森というのも良い。
 「東日流外三郡誌」をめぐる偽書論争を背景にして、長すね彦のハラハバキ王国、その
子孫の安藤一族など、「裏の歴史」が語られる。

 事件は愛知からやってきた初老のお遍路さんが殺されるところから幕をあける。
 続いて起こる殺人事件。被害者は「都賀留三郡史」が天井裏から出てくるはずがない
と主張した大工の棟梁。そして、「都賀留三郡史」を偽書として批判した大学教授・・・・。

 浅見光彦は南郷村に虚空蔵山を訪ねたのを皮切りに、八戸・蕪島、五戸、新郷村。
八甲田山を越えて黒石、津軽半島・・・・ソアラを駆って青森県を縦断しながら神秘の謎
に敢然と挑んでいく。
 自分が住んでいる土地のことなので神秘的な感じはしないが、「奥津軽」という響きに
何かが隠されてするような感じがする。

                  
   中央構造帯
     
 銀行の抱える不良債権と銀行の体質が今回のテーマである。
バブルがはじけて予測のつかない不景気が進むなかで、銀行は時代の波に揉まれなが
ら、次第に歩んではならない道に踏み込み始める・・・。
 
 複線として、終戦と同時に、かつての上司たちを死に追い込んだ者たちの固い密約。
 そして、次々と起こる事件の先に待ち構えている平将門の怨念。
 浅見光彦は銀行員阿部奈緒美の大学の同窓生として登場する。

 さまざまな要素を絡めながら物語が進むのであるが、今回はミステリーや謎解きは非
常に少ない。4つの事件について、犯人の計画や手口がほとんど説明なく終盤に一気
に片付けられてしまう・・・・。

 日本長期産業銀行の体質と暗部を語りきることに精力が注がれた作品である。
        

                                 
   贄 門 島  上・下>
     
 不思議な本であった。千葉・房総に浮かぶ「美瀬島」。この小さな島を舞台に繰り広げら
れる事件。
 それは朝鮮との歴史・交流に関連している。今話題になっている北朝鮮拉致問題や北
朝鮮の政治問題にも触れながらストーリーは展開する。

 そもそもの発端は、浅見光彦が、父が遭難して救助された際にお世話になった人々に
お礼を言おうと美瀬島を訪れたことによる。

 上巻・帯の紹介文
  21年前、房総の海、ポートの操舵ミスで生みに投げ出された浅見光彦の父は、
  美瀬島の猟師に助けられ、生死の境をさまよう床の中で奇妙な声を聞いた。
  「そんなに続けて送ることはない。」
  「そうだな、来年に回すか」
  父はその翌年に亡くなった。
  「あれは死神の声だったかもしれない。」
  母から聞いた話に興味を持った浅見は島を訪れ、不気味な光景の記憶におび
  える紗枝子と出会う。紗枝子は留守番に謎のメッセージを残して消えた女教師
  石橋洋子を探していた・・・・・。

 それにしても、上下二冊は長い。上巻にちょっとくどいようなコメントがあったり、これま
での内田作品にあった文の切れがないと感じた。下巻はそんなことがなく、台風から、
「送りの儀式」まで描写に臨場感があり一気に読ませてくれる。

 下巻・帯の紹介文
  もともと、どこの国の人だって、その国独自の哲学の上で生きてきたんです。美
  瀬島には美瀬島の生き方が、朝鮮には挑戦の行き方が、イスラムにはイスラム
  の生き方があったはずなのに、なぜかそうはさせてくれない・・・・・というか、
   (中略)
  逆にその生き方の中に納まっていられなくなって、他に影響を及ぼしたくなったり
  もする。平和で穏やかなはずの島が、国が、世界が、動乱に巻き込まれて行くの
  は、人間のおろかさのせいで、島や国や地球には責任はないんです」
 

                
           
   秋 田 殺 人 事 件?>
     
 これは面白い。久しぶりに内田康夫作品を読んだので特にそう思ったのかもしれない。
 浅見光彦がキャリアの副知事に同行することになったのは、兄洋一郎と、副知事となる
望月が大学の先輩後輩の間柄だったことによる。

 秋田杉を使った第三セクターの秋田美林センターが破綻した後処理のために副知事と
なった望月女史。このキャラクターも面白い。バリバリのキャリアながら、どこか人情味溢
れるところが良い。

 「秋田県の副知事として着任予定の女性官僚のもとに二通の不吉な警告文が・・・・
  おりしも、秋田では二件の不審な自殺事件が起きていた!副知事の秘書として秋田
にとんだ浅見光彦の推理が、秋田杉に絡む第三セクターの闇を抉る!」(帯の解説から)

 だいたいバターンは同じ。自殺で片付けられた県庁の役人の家族と親しくなり、特に大
学生の長女にいたく信頼され、夕食をご馳走になったり・・・・。この女性が「癒し」形である
とか。
 また、第三セクターの責任者鵜殿と会計の二村が実はそんなに悪い人ではなく・・・。
 管轄の刑事課長は正義感が強いために辞職したとか・・・・・。
 なにより巨悪である議員や警察上層部が最後には粛清される・・・・。

        
           
   雛 の 記 憶?>
       
 記者の久保が殺され、その妻が高校の同窓だったことから浅見光彦が登場する。
 (それまでは珍しく、新聞記者の伴島が主役である。)
 静岡県寸又峡と秋田・大曲市で起きた二つの殺人事件を巡って浅見の推理が冴える。
 風変わりな少女光葉、そして、事件の重要人物となにっていく母親のマリ子。
 事件は意外な展開を見せるが、久しぶりに謎解きの醍醐味が味わえる作品である。
        
         
   鯨 の 哭 く 海?>
        
 この本は捕鯨鯨の実態を書くのがねらいだったと思われる。
 鯨を獲ることについての賛否、そして、妥当性について永野稔明という水産庁OBの口を
通して語られる。また、捕鯨発祥の地である和歌山県太地町が舞台となっている。、那智
勝浦から数十キロのこの町には捕鯨船資料館があり、くじらの博物館も隣接している。

 新聞記者の浅見(あざみ)が登場し(といっても既に殺された後)、父親が教授で浅見陽
一郎の恩師というおまけもあった。

  
             
   藍色回廊殺人事件?>
     
 名作である。
 浅見が事件の真相を暴いたために、悲しい現実が浮かび上がるというのは、これまでも
幾たびかあったが、今回は特に悔恨を残す。犯人が最後にお遍路さんの衣装を着て、四
国の山中に溶け込むように姿を消すという場面で涙を誘われない者はないだろう。

 今回の社会テーマは四国・吉野川に可動堰を造るというものである。長良川、有明海、
宍道湖などの開発と自然破壊についても話題を広げている。
 吉野川の第十堰は、二百数十年も前に造られたというが、長さ百メートルほどの「鬼の
洗濯板」のようなものが川幅いっぱいに広がり、壮大な眺めが展開している。白鷺が佇む
自然の宝庫でもある。
 ここに、可動堰を造ることによって第十堰は消滅するが、1000億を超える工事費によっ
て地域経済は計り知れない恩恵を受ける。果たして、賛成・反対、どちらの言い分が正し
いのか。深く考えさせられるところである。

 この工事計画に関与した青年と友人の女性が、12年前、自動車の事故を装って殺され
たというところから物語がスタートする。
 四国遍路の取材に訪れた浅見光彦が、徳島県内を走りまわるうち、祖谷渓(いやだに)
の売店で過去の事件を知り、調査に乗り出す。
   
 かつて藍作りが盛んで、全国出荷量のほとんどを占めたという吉野川流域の藍色回廊、
その他に徳島県が設定した緑色回廊、紺碧回廊が紹介されたり、全国80パーセントのシ
ェアを持つ洋ランメーカーがあることにふれたりする。「うだつ」のあがっている家なども登場
する。
 「四国三郎」吉野川の魅力がふんだに語られるのも良い。

              
   箸 墓 幻 想?>
      
  内田康夫はなんでも書ける作家だということを再認した。
今回は、邪馬台国論争、発掘、大和、そして、折口信夫。
 あとがきに書いているが、連載の途中に、奈良県桜井市で画文帯神獣鏡が発見され
たり、藤村新一氏の「石器捏造」が発覚したりと、センセーショナルな出来事が起こると
いう幸運に恵まれ?真実味を帯びる小説となった。

 過去のいきさつを忘れるため、生涯独身を通し、考古学の研究にすべてを捧げてきた
元研究所長の小池が殺される。真摯に学究生活に明け暮れる小池に何が起こったのか。
小池が下宿していた、お寺の住職から頼まれて浅見光彦が動き出す。この当麻寺には
かつて、折口信夫(釈迢空)が泊まっていたこともあるという。

 小池に続いて、畝傍考古学研究所の平沢が殺される。
 事件を追って、信州・東京と調べ歩く浅見。そして、次第に真相が明らかになっていく。
 戦中の混乱した時代、小池は宮内庁が管理する箸墓に入って盗掘をする。そこでみた
ものは邪馬台国畿内説を決定づける画文帯神獣鏡である。しかし、盗掘ゆえに公表は
できない。前後して、学生だった小池を巡って複雑に絡んだ恋愛騒動が起こる。出陣した
友の死。それらのさまざまな要素を織り込んで時は流れ、問題の画文帯神獣鏡が姿を
表す・・・・・そして、事件が起こった。

                 
   ユタが愛した探偵?>
     
 「ユタ」の意味は、沖縄地方の「いたこ」のようなものである。死者の言葉を聞いたり、未
来を予測したりする能力を持った者である。
 スキャンダル雑誌「裏の真相社」の編集長である風間了が沖縄の聖地斎場御獄で殺さ
れる。毒殺である。
 風間にかけられた保険金がほしい社員達を代表して総務部長が浅見に調査を依頼する。

 以下ストーリーは展開するが、内田康夫が書きたかったのは沖縄の「ユタ」についてだっ
たらしい。赤い雲伝説殺人事件・恐山殺人事件、そして、はちまん・・・・・。
 
 この世界を書く作家は意外と多い。

            
   沃野の伝説  上・下?>
     
 かなり前から購入していたのだが、先に不知火海や貴賓室の怪人にいってしまた。ど
うしても上下2巻となるとある決意を持たないと取り掛かれない。
 知人が内田康夫「遺骨」は途中まで読んで嫌になると言っていたが、この沃野の伝説
も、同じようなものかもしれない。ミステリーとして進展さず、作者が時事問題について延
々と持論を語ったり、批判したりするところがある。
 以前はそうでもなかったのかもしれないが、最近は世相を反映した事件などにテーマを
求めるからであろう。

 食管法とヤミ米の問題がこの本の主テーマである。
 母の雪江が「あの米穀通帳はどこへ行ったのかしら」という言葉を発したところから、浅
見光彦が登場する。調べてみるとこの米穀通帳はなんと昭和59年まで存在したというか
ら不思議だ。

 次に発生した近所の米屋のコクゾウムシ騒ぎ・・・・・驚いたことに
「・・・産コシヒカリ」にはなんら真実味のないことがわかっていく。

  ヤミ米と関っていた男の失踪。次々と起こる追跡劇と殺人事件。はじめに失踪した阿
部の娘が今回の「マドンナ役」で、この娘とともに長野、酒田と移動したりする。そして、
 アメリカ産を国産ブランド米として売り出そうという組織的な犯行が明らかになっていく。

 久しぶりに信濃のコロンボ竹村が登場したのは嬉しかったが、上下2巻にする程の中味
ではなく、食管法とヤミ米についても延々同じことが語られるのには疲れた。思うに、これ
は雑誌に書いたものだからであろう。(一部修正して本にしている。)

      
   不  知  火  海?>
     
  プロローグはいつも通りだが、第一章「代官山」から、いつもの内田康夫らしくない雰
 囲気で進む。築後60以上経つ鉄筋のアパート、かつては表参道のアパートと並んで
 東京で一番オシャレな住空間といわれた・・・・・。そこに住んでいる坂本は隣の米村が
 奇妙な行動をとることに気づく。そして、ドクロの保管を頼まれる。
  これは待望の「脱浅見」か・・・・と十分期待できた。が、しかし、例のごとく・・・・。

  浅見探偵が登場してしまってからも結構楽しめるのは、単純な犯人探しのお話では
 ないからである。「不知火」という八代海に見える灯がメインとして、しばし語られ、その
 後、「モナザイト」という放射線を出す物質の密輸へと展開する。
  米村の父親はかつてモナザイトの密輸に関っていた。それを石炭の廃坑に運ぶのだ
 が、だれがなんのために密輸を考えたのかよくわからない。たぶん機会をみて第三国
 にでも高値で売り付けるつもりだったらしい。しかし、関係者が放射線にやられてしまう。
  仲間の一人だったと思われる安永漂生はモナザイトを使って陶器を造り白血病で死
 ぬがその作品は高く評価されたり・・・・・・このあたりは内田康夫のねらいが、わかるよ
 うでわからない。

  やがて、モナザイトをねらう一味が米村を追い回すことになる。
  父親から多額の金を受け継いでいる米村が、ひっそりと暮らしていたのはそんなわけ
 があったのである。
 
  終盤で一味は廃坑に入り、「青白い火」にあたってしまう。
  米村は彼に惹かれたモデルの西島千恵子と「不知火」の見える街にくらすことになる。

  絶頂期の内田旅情ミステリー復活といったところ。読後感はよい。

      
   貴賓室の怪人?>
    
  古本屋に、内田康夫の「まだ文庫になっていない本」が続々と出回るようになって、
 つい買ってしまうことも多い。

  この本、ルパンもののような傑作を期待したが、内田康夫氏の「豪華客船の旅」の
 経験がベースとなって、船内や航海の様子がわかりやすく紹介される以外には、
 たいしたトリックや奇抜な展開もない。
  浅見と同室になつた村田、これがさまざまな悪行を重ねた来て男だが、遺体を安
 置する場所から発見され、その犯人がかなりの複数らしい・・・。

  クリスティーの「オリエント急行の殺人」を思い出させてくれるのはいいが、
 「貴賓室の怪人がなんなのか・・・この先何が起こるのか、飛鳥(豪華客船の名)だ
  けが真実を知っているのかもしれない。」というエピローグに全く釈然としない。
  昔暴行された娘や無実の罪を帰せられた死んだ知的障害の男の父まで最後に登
 場してくるのにはあいた口がふさがらない。

  警視庁きっての名探偵岡部警部はいったいなんのために登場したの?????
  久しぶりに登場した「追分殺人事件」の主役に、浅見光彦によるこの作家の「惰性」
 が打ち破られる・・・と大きな期待を寄せたのだか。

  西村京太郎「名探偵が多すぎる(講談社) 」のような、無類の面白さはなかった。

      
   はちまん 上・下?>
    
  ここに語られるテーマは現在話題になっているサッカーくじや、文部省の検定を通過
 した「新歴史教科書」である。(新歴史教科書については直接ふれていない。)
  サッカーくじについては、これがなぜ文部省という学問の府から出されるのかという
 疑問に答えるかのように筋を展開させている。つまりは日本国民としての自覚や理念
 を捨てた金儲け優先の現在の姿を批判したものである。

  戦時中特攻隊の隊員であった八人の若者が終戦を迎えて、「半世紀後の世に国の
 将来のために再び立ち上がろう」と誓い合う。場所は宇佐八幡宮。
  道徳も規範も全てが混乱する社会の中で、戦争責任について静かに見直し、日本の
 歩むべき道を模索するためであった。そして許せない仲間へ・・・・・。

  ところで、新歴史教科書が「日本人の誇りを取り戻す」「自虐の歴史だけを教えない」
 という切なる願いから、作成されたとすれば、それは最大限に評価すべきであろう。現
 在の日本には愛国心が欠如している。また、毅然とした社会規範が消滅しつつあるか
 らである。しかし、自国の恥の部分を覆うことが真の目的であるとしたら恐ろしいことで
 ある。
  内田康夫の語る戦後の日本のありかたは参考になった。
  明治以後の日本人の行動がすべて批判されるのもおかしいし、太平洋戦争が是認
 されるのもおかしい。

  この問題については機会があれば場を変えて述べてみたい。
 

  この「はちまん」に登場する小内美由紀、彼女は予知能力を持った少女である。(卑
 弥呼の子孫のようなニュアンスもある。)内田康夫は時折このような人物を登場させる。
 赤い雲伝説殺人事件・恐山殺人事件など・・・・・。これもそれなりに面白い。

  上下二巻であったが、久しぶりに長さを感じないで読み終えてしまった。

      
   皇女の霊柩?>
    
  内田康夫が精魂込めて書き上げた大作を久しぶりに読んだ。
 もともとこの作家が描きこうとした、旅情と歴史を語りながら男女の心の襞に触れて
 いくというテーマが見事に達成されている。皇女和宮が人々に「親しみと敬意」を持っ
 て語り継がれているというのが嬉しい。

   江戸時代も末に、将軍徳川家茂に嫁いだ皇女和宮。その悲運の皇女が京都から
 江戸に向かう際に、旅の舞台となったのは信州。その信州の馬籠・妻籠の伝統的な
 町並みが語られていく。和宮の道中に万一ことがあった場合に備えて造られたという
 柩、また、増上寺の発掘の際に見つかったといわれている、和宮の棺にあった男性の
 写真・・・。それらを中心に物語が展開する。

      
   崇徳伝説殺人事件?>
    
  「遺骨」が臓器移植についての、問題提起だとすれば、この本は福祉施設や福祉
 行政の実態に切り込んだものと言える。福祉施設では、経費を抑え利潤をあげるた
 めにさまざまなことが行われているということが背後に語られている。
  例によって浅見光彦が「怨霊」の取材に崇道天皇(早良親王)をまつった崇道神社
 を訪ねて、事件の発端が始まる。これと保元の乱で敗れて、讃岐に流された崇徳上
 皇の恨みが絡む。崇徳上皇をまつった白峰寺を信仰している、福祉法人の理事長と
 それにかかわる数人が命を落とすのである。

  これらに附随して、安楽死の問題が論じられたり、数々の俳句の秀作が披露され
 たりしている。趣向は多いほうだ。

  「・・・伝説殺人事件」はこの本が12冊目。惰性に流れている感は否めない。
  佐渡伝説・平家伝説・赤い雲伝説の頃には、もっと未知の可能性があった・・・。
   赤い雲・・・のような本を書き続けていたらどうなったのだろう・・・・・・・。

      
   黄金の石橋?>
   
  浅見光彦自身が語るという形で物語が展開するため、テンポが速い。
 九州熊本に残る石橋を巡って物語が展開する。

  浅見光彦が自分の眼からみた事件の展開を書いていくという形はこれからも
 増えるかもしれない。
   内田康夫の作品をはじめから読んでいる人からすれば、何時の間にこういう
  形ができあがったのか不思議な感じがする。作者自身が登場したあたりから
  「遊び」が入り過ぎた。初期作の「死霊の木霊」は刑事の執念に満ち溢れて
  いたし、平家伝説・・・や明日香の皇子・・などには独自の世界があった。
   この先、浅見光彦しか登場しないと考えると本当に淋しい。

      
   華の下にて?>
     
  内田康夫が久々に「参考文献」をひも解きながら精根込めて書き上げたという
 感じがする秀作である。
  華道の家元制度打倒を目指して活動する日生会の牧原。彼の生け花に対する
 理想が作者の華道感と重なって語られる。
  牧原が語る。
 「ダムの底になる運命にあった桜の大木を村人みんなの力で移転させた・・・その
 大木が2年後に見事に花をさかせ、集まった人はみな涙を流しました・・・・・私は
 強いショックを受け、その後の生き方を変えることになったのです。」
 この箇所は物語においては大きな意味を持っていないが、キラリと光る一節である。
  また、華道は代々受け継がれるというものでない。芸術は技術ではないという牧
 原の言葉・・・・。それに対して、どんな人でも生け花ができるように華道や家元があ
 るという光彦の母雪江の言葉も興味深い。

  この華道界の異端児の周囲に起こった殺人事件を巡ってミステリーが展開する。
 やがて、日本最大の華道の家元丹正流の跡継ぎ問題や愛人、一人娘の苦悩など
 幅広い要素を加えながら、次第に核心に迫っていく。

      
   「信濃の国」殺人事件?>
                        
 プロローグは、「あなたは自分の県の歌が歌えますか・・」で始まり、県民全員が知・・ 
っていて、いついかなる場所でも堂々と胸を張って歌うことが出来る県民歌が存在す
る、それは長野県歌「信濃の国」であると言っています。


 長野に終戦後、分県運動の嵐が吹き荒れました。

 明治に筑摩県と長野県が合併して長野県ができたのですが、中信、南信地区の
人たちにしてみれば、北に偏った長野に県庁を置くことに同意できなかったし、
その後の時代の流れからいっても、松本を中心にした方が産業・文化の発展も
望めると考えた。不満は明治以来、常に鬱積していた。
 戦後の民主化の波を受けて、長野分県運動は怒涛のように広がっていった。
 そして県議会。

 県会議員数は30対29。分県派の優勢は動かしがたいものがあった。
 賛否両論が入り乱れ、怒号が飛び交う中、分県派代表の最後の演説が始まり、
反対派の人々の間に悲壮感が漂った。明治以来の分県派の悲願が今まさに実現し
ようとしていた。その時・・・・・

 突如、議場の外から響きわたる歌声・・・。
 「信濃の国は十州に  境連ぬる国にして
  越ゆる山はいや高く 流るる川はいや遠し・・・・」

 歌声はたちまち傍聴席に感染し、全員が立ち上がり、合唱に和した。
 そればかりではない。やがて、議員の口も動き出し、中には興奮のあまり
 涙を流して歌うものも少なくなかった。

 長野県の分県問題は、やがてなし崩しのように消滅する・・・。



 この一節を読んで感動したことを覚えています。
          
        

    
                
    
   

 小 杉  健 治
                                         
この作家については、一冊しか読んでいない。評価は普通。(高くはない。)
この作家の法廷物などを読むと考えが変わるのだろうか。        
    
 虚飾の自画像   絵画界の贋作問題を中心に、男女の不倫や愛をからめて物語が進む。 
(絵の収集にあたった)山名の昔の恋人の生き方もサブテーマにある。
山名との生活を捨て、パリに渡って絵を描く女、深山純 。この真っ赤な色
を使うカ画家についてもう少し書いてほしかった。
白頭巾

★★★

これは面白い。
温泉のホテルロビーにあった本棚で見つけた。
この作家がこんな話を書くというのは意外であった。それにしても、このシ
リーズ、是非継続してほしいと思う。楽しみである。
内容(「BOOK」データベースより)
霧の濃い深川三十三間堂で辻斬りがあった。その直後、駆けつけたのは
二人の侍。新心流居合の達人・磯村伝八郎と深川一の売れっ子芸者を
連れた素浪人・隼新三郎。二人はともに並々ならぬ剣の力量を喝破した。
藩主の苦境に尽力する伝八郎と、大名家の賄賂を狙う義賊「白頭巾」とい
う顔を持つ新三郎の、宿命の対決とは?時代活劇のニューヒーロー誕生。
父からの手紙
 家族の繋がり、家族愛の大切さがテーマである。
 阿久津麻美子の父は小学校6年の時離婚し、以来行方がしれない。
 それは父に愛人ができ、子どもも生まれて新しい生活を始めたからだろ
 うと思うようになった。
 そんな麻美子は、父の友人で何かと面倒をみてくれる山部の工場が経
 営不振に陥ったのを助けるため、経営コンサルタントと愛のない結婚を
 しようとする。
 しかし、その相手・高樹は殺され、結婚に反対していた麻美子の弟が逮
 捕される・・。

 並行して秋山圭一のことが語られる。
 悪徳警官・犬塚を殺し服役して出所した圭一。
 同棲していた歌子が、圭一を待っていると約束したのに別な道を歩き出
 そうとしていること、灯油をかぶって自殺した兄のこと。
 穂のかな気持ちを持っていた義姉の行方・・・。
 圭一はなぜ犬塚を殺したのか、その直前犬塚から言われた言葉が思い
 だせない。

 二人の周辺におこる出来事を交互に書いていき・・最後に繋がる。父は
 圭一の義姉と暮らしているらしいと。
 二人が訪ねた富山・魚津市(蜃気楼の街)で、真相が浮かび上がる。

 この意外な真実はまさにミステリー小説だと思わせる。
 謎解き、家族愛、人間の生き方・・多彩な視点があり、読み応えがあった。
 この作家を評価したい。ただ、惜しむらくは長くくどい感じがする。文を精選
 し、スリリングでダイナミックな展開にしてほしい。

決  断

★★★

 この作家の本は4冊目だが、警察や検事の世界を描いたもので、楽しく
 読めた。過去の事件と今の事件を巧妙に組み合わせた一冊品

 ガンで入院している父を見舞った江木秀哉は、家庭を顧みなかった父とは
 一線を隔したままだった。
 しかし、父が迷宮入りの事件をずっと気にしていて、毎年命日に被害者の
 墓に参っていたことを知る。
 検事として正義感に燃える秀哉は、父が事件をうやむやにしたらしいことを
 知り、一層許せない思いを抱くが・・・。マンションの一室で首を絞められて
 死んでいた事件は単純かと思われたが、迷宮入りの様相を呈し始める。
 だが、同じ階の知り合いの女が捜査上に浮かんで、急展開していく。
 おりしも、警察の不正を暴こうとしていたジャーナリストが、喧嘩沙汰で逮捕
 されるという事件が発生し、検察の隠された部分が問題となる。
 父が20年前にかかわった事件はもみ消され、秀哉は苦労するが・・・。
 正義を貫こうとする秀哉と父はやがて・・・。
 読後感が悪くない一冊。 
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 内容紹介から
 父は家庭を顧みず事件解決に邁進し、名刑事といわれつつ退職した。
 唯一の汚点は、二十年前の未解決殺人事件だったが、なぜか、当時の
 捜査関係者の誰もが、この事件については頑なに口を閉ざす。
 父への反発から検事への道を進んだ息子は、現在手掛けている殺人事件
 と、父の迷宮入り事件との奇妙な符合を見つけていた。二つの事件はなん
 らかの関連があるのか、それとも―。
 いままでの捜査ミステリーにはない、感動の結末に包まれる!