ESSAY

 《思い出の監督達》 (6) 細越さんが縁結びの伊丹十三監督

 1986年夏、ニューセンチュリーのプロデューサーの細越省吾さんから、電話があった。細越さんは私にとって大事な相談役で、困ったり判断に迷う時は何でも相談してた。とても頼りになる人。細越さんは伊丹プロにとって無くてはならない存在だったけど、昔は日活の照明マン上がり。学歴が高卒ということをハンディに思ってたかもしれない。
 「季里子、伊丹さんに会ってみないか?」
 「え! どうして?」
 「知ってる女優はみんな会わせてるんだよ」
 伊丹十三監督は「お葬式」等を撮ってた監督だったけど、当時私の中では市川崑監督の「細雪」とか森田監督の「家族ゲーム」の役者としての伊丹さんに興味があった。育ちからくるのか、老舗のぼんぼん役などがはまって好きな俳優さんの一人だった。
 「私、役者としての伊丹さんが好きだから、会ってみる」
 私の中にはキャスティングされたいという願望は無かった。ただ、会ってみたかっただけ。
 中野坂上の自宅から麻布台の伊丹プロの事務所まで50ccのホンダのラッタッタで行く。オーディション感覚など無いので素っぴんでピンクのヘルメット被って。
 伊丹さんに会うとすぐに「私は下半身は豊満ですが、上半身は粗満(貧弱)ですので」と笑って言った。
 監督は「いや、六人女性が出てきますからね」
 それから、監督はなぜタレント名鑑に載ってないのか訊ねた。
 「え! 載せたほうがいいんですか?」
 「だって、キャスティングはタレント名鑑見て、探すからねえ」
 帰る時、斉藤慶子さんとすれ違う。この人も面接かあ。
 その後ラッタッタで四谷三丁目荒木町にある三木のり平さんの甥がやってるお店に。
 この店は寺田農さんが連れて行ってくれた店でサッカー選手や俳優、監督達などが飲みに来る。私はマスターに可愛がられててこの店の常連だった。
 その日の夜、細越さんから電話。
 「伊丹さんが季里子とキャンティで食事したいというからすぐ降りて行って探したけど、もういなかったよ」
 芸能人がよく行くという「キャンティ」で食事したかった。残念!
 「不思議なんだよなあ、伊丹さんが季里子に興味持ってるんだよ」
 「え! そうなの? でもキャスティングが決まったわけじゃないんでしょ? だったらそんな事言わないで!」
 その夜はなぜか細越さんの言葉が気になって寝つけなかった。
 監督が私の映像が観たいということで「ラブホテル」のビデオを観てもらった。私の役は引き絵が多く、顔がはっきり判らないと言ってたそうだ。キャスティングされた和江の役は伊丹十三著「マルサの女日記」読むといろんな有名女優さんが候補に挙がっていたようだ。私に決めたのはリアルな素材だったからか?
 二週間ほど経って、キャスティングの笹岡さんから電話。
 「本読んでもらえますか?」と。
 「え! 役いただけるんですか?」
 さっそく赤坂の制作会社ニューセンチュリーに台本取りにいった。読んだら、いい役じゃん!
 後日、カメラテストで目の表情を撮る。
 その頃からメイキングビデオを周防正行監督が撮っていたが、私は緊張してたのか撮られてる事に気づいたのは、マンションのラブシーンで山崎努さんとの情事の後ティッシュをお尻に挟んで居間に行く時だった。居間にメイキングの周防監督達がいて気づいた。
 当然、パンツ履いてないので前から見るとスッポンポン。
 周防さんに「ヘヤーは撮らないでね」と言うと…。
 「判りました」と。
 大物俳優の山崎努さんが相手なので緊張して言葉も交わさなかったが、山崎さんもラブシーンなのか緊張してるように見えた。あの大物でも緊張するのか?(後日、本人からラブシーンは大嫌いだと聞かされた)
 最後の台詞、山崎さん演じる権藤に向かって「畜生! 人を七年も玩具にしやがって」が上手く言えなくて、監督から何度も駄目だしが。結局その台詞は使われなかった。自分の中で捨てられた女の傷みが表現出来なかったのだろう。でも、明け方に終わった後、監督は「季里子、良かったよ」と言ってくれる。優しい人。監督は私が権藤に殴られて流す血のメイクから、顔半分のケロイドメイク、お尻に挟むティッシュの出具合まで全部自分で納得いくまで確認していた。
 私は今までいろんな仕事をしてきましたが、これほどまでに自らキャスティング始め、美術、小道具、衣装、ロケハンetc・・・に念入りに関わってる監督さんを見たのは初めてだった。本当に尊敬できる監督だった。
 先日、宮本信子さんがテレビに出ていて、松山に伊丹十三の全てがわかる伊丹記念館が2007年に完成すると話していた。機会があれば是非行ってみたいと思う。葬式も無く、密葬で終わってしまい、監督への別れも出来なかったことが悔やまれる。細越さんと監督、映画界にとって本当に惜しい人達を失くしました。細越さんと伊丹監督に感謝。

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 (1) 浦山桐郎監督との酒談義

 (2) 小沼勝監督の執拗な演出

 (3) 西村昭五郎監督は飲み友達

 (4) 神代辰巳監督の濡れた欲情

 (5) 下駄男!? 相米慎二監督

 〜あとがき〜
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