かみはし 泉の世界観  

2001年9月11日の同時多発テロ以降、文明の衝突ということがうるさく議論されるようになりました。私は30歳をはさんで連続して6年半海外で生活した体験(アメリカに4年、イランに2年半在住)から独自の世界観をもつようになりました。  2002年1月23日付の「防衛協会報」(発行所:全国防衛協会連合会)において、私の世界観を「口頭にのぼらない世界秩序」と題して発表しましたのでこれをご紹介します (原文そのまま)。

 

口頭にのぼらない世界秩序
―文明の衝突の背景にあるものー
         柏市監査委員  上橋泉

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 3 白人は特別と言う意識
 
以上のような事例が明らかにしているところは、口には出されないものの人類の意識の中で西欧文明ないしは白人の知的優越性が承認されており、社会の西洋化の度合いがその民族の知的レベルを差し示すバロメーターとしてとらえられていることである。
 従って反西欧主義は必ず反知性主義という形を取る。イスラム原理主義者が髭を剃らないのもそもためである。旧帝国陸軍でも大東亜戦争中、陸軍の内部で野蛮な制裁が横行したのは、アメリカ人は知的な国民であるというイメージを日本人がもっておりアメリカと戦うには帝国陸軍は粗暴な人間集団にならなければならないという心理作用が無意識のうちに陸軍内部で進んでいたことを示している。
 アルカイダに属するイスラム・インテリ青年の素顔を昨年朝日新聞が長期連載の記事で明らかにしてくれた。彼らは生まれつきガリガリのイスラム信者であったわけでなく、欧米との出会い(留学等)に触発されて急速にイスラム原理主義に傾斜して行っている例ばかりが示されている。
 西欧社会に住んでみて白人社会の優越性をそのまま認めるか、それともそれを虚偽と見て否定するかの選択に迫られたイスラム・インテリ青年のうち、後者を選んだのがアルカイダである。ものを考えない青年であれば前者を選ぶことができても、純真な青年であれば神が不平等を創っているはずはないと苦悩し後者を選ばざるを得なかったのだろう。
 明治期に欧米に留学したわが国の先人も、夏目漱石の例が示すようにこのようなショックを強く受けている。しかし、明治の先輩は、欧米との知的・文化的ギャップは西洋を罵倒することによっては一歩も埋まることはない、自ら刻苦することによってしか埋まらないと考えて臥薪嘗胆努力した。
 非西欧世界の中で日本のような努力をした国はその後出てない。しかし日本人のこの努力は世界から正当に評価されていない。
 「何故、俺たちと同じ顔形をした日本人だけが白人並の扱いを受けるのだろう」というやっかみは、途上国に住んだことのある日本人なら常に肌で感じてきたし、時折耳にもしてきている。
  日本と中韓の問題も基本的にはこれに帰する。白人が植民地支配をしたことは許せても、黄色人種の日本人が白人と同じことをしたことが許されないのだ。
 私は昨年、大連からハルピンを列車旅行をした。一週間案内をしてくれた中国人通訳に最後の朝「東北区のインフラが未だに日本統治時代のものをそのまま使っているにもかかわらず、何故、中国人は日本をあんなに激しく非難するのか」と尋ねたところ、彼は「日本の支配者は中国人を低く見た」など人口に膾炙された非難を並べた。
 「しかし、それらは全ての植民地支配に共通するもので日本だけを非難する理由にはならない」と反論したところ、「満州帝国が日本の単独支配であったからだ。満州が欧米と日本の共同管理であれば中国人はこんなに日本人を憎みはしなかっただろう」と言った。
 通訳のこの発言の中にも中国人が白人優位の世界秩序を認め、この秩序を日本人が中国を舞台として破ろうとしたことが対日憎悪の原因であることが認められる。口頭にはのぼらないが、これが全人類が承認している世界秩序なのである。

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