かみはし 泉の世界観  

 2001年9月11日の同時多発テロ以降、文明の衝突ということがうるさく議論されるようになりました。
  私は30歳をはさんで連続して6年半海外で生活した体験(アメリカに4年、イランに2年半在住)から独自の世界観をもつようになりました。
  2002年1月23日付の「防衛協会報」(発行所:全国防衛協会連合会)において、私の世界観を「口頭にのぼらない世界秩序」と題して発表しましたのでこれをご紹介します (原文そのまま)。

口頭にのぼらない世界秩序
―文明の衝突の背景にあるものー
         柏市監査委員  上橋泉

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 1 新対立軸となった文明・歴史観  
昨2001年の国際政治では文明観・歴史観めぐる諸問題が世界の摩擦・紛争の中心を占めるようになったと言ってよい。
 9月11日の同時多発テロとそれに引き続くアフガニスタンにおける戦争や日本の歴史教科書をめぐる中韓両国の日本に対する激しい攻撃がその代表例であるが、8月下旬から9月上旬にかけて南アのダーバンにおいて開催された国連の反人種差別特別会議でも、既に歴史上の問題として現実の政治課題からは忘却されているはずの黒人奴隷制と奴隷貿易が真剣に討議された。
 この国際会議では今日地上には存在しない黒人奴隷売買が非難決議され、その昔それに従事したアメリカを除く西欧諸国が過去の行為を謝罪するということが行われた。
  これら一連の出来事は、国際政治が今日においても経済利害の調整だけでは済まないものであり、プライドないしは被害者意識が国際関係の裏側で渦巻いていることを如実に示してくれた。
 どうも平素は口に出されないものの民族や文明の間に優劣関係を内包した偏見があるようで、差別・疎外・虐待をされたと主張する側が彼らの嫌悪する文明ないし民族に対し折にふれ異常なまでの敵意をむき出してきているようである。
 昨年起こった事件を例にとって、他の文明・民族に対して激しい敵意をむき出しにした国民の心情を推し量ってみよう。
  アルカイダと称するイスラム信者のインテリグループは母国や欧米において高等教育を受けながらも、また欧米で長期にわたって生活しながらも西洋文明に対する敵意を益々増幅させていった人々の集団である。
 彼らは口の上ではイスラムの優越性を主張しているが、もしそれが心の底からの自信であればあのような破壊行動に走る必要はなかったはずだ。
 彼らの心理を忖度して見るに、彼らは実のところ欧米の文化に根強い劣等感を抱いているのだろう。彼らは欧米の地で西洋文明の堕落を激しくののしっている。
 欧米がそんなに嫌いなら母国に帰って欧米と縁のない静かな暮らしをすればよさそうなものだが、実際はそうしないで欧米に留まって彼らを正しく認めてくれなかった欧米社会に対する復讐に走っている(ヘーゲルは認められたいという願望が人間の一番強い感情だと言っている)。
 そのような姿に彼らの欧米に対するアンビバレントな心理が強く写し出されている。
  奴隷制度は不足する労働力を埋め合わせるものとして人類史上広く行われていた。
 決してアメリカの黒人だけが奴隷とされた史上唯一の人々であったわけではない。
 旧約聖書のバビロン捕囚以来、戦勝国が敗戦国民を奴隷とすることは世界各地で行われていた。黒人奴隷は史上比較的最近まで残った奴隷制ではあるが、スターリンが行った少数民族の強制移動と労働キャンプ(日本人のシベリア抑留もその一つ)などは黒人奴隷よりももっと新しい奴隷制であった。その後も中国やカンボジアで黒人奴隷よりも苛酷な事実上の奴隷制が行われたし、北朝鮮では現在でも行われている。
 ところが黒人奴隷制だけがダーバンでの国連会議で奴隷制糾弾の俎上に上げらあれた理由を推測してみると、その心情は過去の奴隷制を非難すると言うよりも、今なおアフリカの人々が世界の中で社会経済的に低い地位から脱し得ないことへのいらだちから来ているのだろう。
 アフリカの人々のこの心情を支持した他の発展途上国の人々も、地理上の発見時代以来500年も西欧の優位が続いており、第二次大戦後アジア・アフリカ諸国が独立を果たしたものの西欧の優位が微動だにしない現実に対し彼らが内心激しい憤りを感じていることを窺わせてくれる。
  私が在ロサンゼルス総領事館の広報官をしていたとき、プレス担当の外交団は現地のマスコミ人と毎月意見交換を行っていた。
 そのような場で途上国の広報官たちは常に「アメリカのメディアが途上国のニュースを流さない」と言って非難していた。彼らもアメリカのメディアが商業主義であり、アメリカ国民が関心をもたないニュースはマスコミに乗らないというくらいのことは承知していたとは思うが、彼らの被害者意識がそのような非難を言わせているのかなと思って聞いていた。

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