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日本沈没の震源地は「低負担中福祉の我が国の福祉制度」にあり!

21世紀に入って、我が国に以下の二つの顕著な傾向が見られるようになった。

1.     それまで日本企業が圧倒的優位を誇ってきた液晶パネル・ノートPCDVDプレーヤー・太陽光発電パネル・DRAMメモリーの世界市場のシェアーが急落してきている

2.     海外留学をする若者の数が急落してきた

内向き度合いを高める日本の若者

この現象は日本社会の近年の内向き傾向が原因である。若者の内向き傾向は民放テレビ番組に端的に現われている。ゴールデンアワーを占める若者のバラエティー番組は、ビートたけしが企画する番組を除いて、全く海外情報を伝えない。団塊の世代が小中学生であったとき、民放テレビのゴールデンアワーを占めていた番組はアメリカのドラマと映画であったことを思うと隔世の感がある。

 内容が極めて内向きなバラエティー番組のスポンサーは日本の企業である。日本企業は新製品を開発するとき、先ず日本の若者をターゲットとする。ところが日本の若者は極めて内向きで世界標準とは大きくずれている。従って日本企業が国内市場で成果をおさめて海外市場に出ようとしたとき、彼らの製品が世界のニーズと大きく乖離していて外国製品に太刀打ちできないことに気付く。これは日本製品の「ガラパゴス現象」と言われており、高機能を自負した日本の携帯電話で顕著であった。

若者の就活戦争の背後にある日本の福祉制度

 リーマンショック以降の前代未聞の就職難で最近になって海外に職を求める若者が出始めたと報じられているが、日本の若者は未だに役所と上場企業を目指す(柏市役所では上級職員来年度採用予定枠41名に、2,500名の受験者が殺到し試験会場を大学の施設に移した)。

これらの職場に身を置く利点は、在職中に限らず定年後に遺憾なく発揮される。日本の福祉は低負担中福祉である。給付水準は北欧より低いとはいえ負担が極めて低いところから、日本の福祉はコスト便益対比で見ると北欧よりおいしい制度となっている。この負担と給付のギャップが1千兆円の財政赤字の半分の原因となっている(嘗ては公共工事が赤字を生んだが、それが極小化した今日では福祉が赤字を広げている)。加えて、日本の福祉は年金に偏っていると言われながら、国民年金と厚生年金・共済年金の間には支給額において4倍5倍に達する不平等がある。日本社会で新卒から定年まで正規雇用されていた人々の老後は世界で最も恵まれている老後の一つだ。日本経済の国際競争力が世界27位に転落した今日でも、高齢者の間で海外旅行熱が高いのは、いびつな日本の福祉制度のお蔭である。

若者たちも就活の際に人生設計を描く。当然、長い老後の生活設計も入っている。彼らが役所や上場企業に殺到するのは、経済原理にかなったことなのである。しかし、日本製品の優位性が世界で失われつつある今日の新卒者で、生涯に亘って正規雇用の恩恵を受ける者は半数に達しないだろうと言われている。官民を問わず、日本の職場は人件費の調整を新規採用で行うので、不況のしわ寄せが新卒予定者だけに押し付けられている。いつの日か日本の若者も海外を目指すようになるだろうが、少子化で大切に育てられた彼らが日本を脱出するまでには、まだ10年以上の歳月が流れるだろう。その間、若者はますます内向き傾向を深め、彼らにターゲットを絞って開発される日本製品は益々国際競争力を失ってゆく。

いかにすれば日本社会はこの負のスパイラルから脱出できるのか?

1.     日本企業の競争力回復のためには、韓国企業のように最初から世界市場で勝負をかけて国内市場を捨てることだ。生産拠点の海外移転もさらに進むだろう。その結果、日本の社会保険制度を支える国内の正規社員の数は減ってゆく。

2.     日本市場と世界市場の心理上の障壁を取り除くには、日本の若者の内向き傾向を正す必要がある。その一つの方法は、彼らに日本の優良事業所で生涯働いてもメリットがないということを実感させることだ。具体的には、再び所得税率の累進度を高め、消費税率も上げ、医療と年金を保険料ではなく税で運営し、全国民を同じ制度にのせることだ(今は国民皆保険とは言いながら、正規雇用と非正規雇用で給付と負担に雲泥の差がある)。その結果、有能な若者が自分にふさわしい人生設計を求めて世界に飛び出すかもしれない(脚注参照)。

3.     以上の二つのベクトルは日本から優秀な企業と人材が出ていってもかまわない途を示すものだが、両者を日本に残しながら日本の国際競争力を維持する方法はないだろうか?中川秀直元自民党政調会長は1千万人の外国人移民受入により可能であると言う。これにより日本国内の人件費を大きく引き下げることができると言う。問題は、外国人労働者を低賃金無保険で働かせて日本人だけを厚遇することができるかである。中国は内陸部から来る農民工に生存ラインぎりぎりの生活をさせて中国経済の競争力を高めてきた。彼らが暴動を起せば力で弾圧することもできる。日本政府はそんなことはできない。外国人労働者にもやがてセーフティネットを与えなければならなくなるだろう。日本人の正社員だけがいつまでも低負担中福祉の恩恵を受け続けることは出来ない。

 

以上の通り、正規雇用者とそのOBである高齢者に有利で、しかも低負担の社会保険制度をいつまでも維持することはできない。なぜ高齢者は後期高齢者医療制度を罵倒し、国民は消費税率アップを拒否したのか。

こうしている中にも、若者は就活に身も心もボロボロになっている。彼らはまだ正社員になることに一縷の望みをかけているが、彼らの夢が砕けたときが私は怖い。戦前、昭和2年の金融恐慌から昭和4年の世界恐慌を経て大正時代の豊かさと自由は吹っ飛んでしまった。暴力を厭わない風潮が若者の間に広がって世は殺伐となり、最終的に日本は戦争に突入して行った。今日、秋葉原殺傷事件の加藤被告、池田小学校殺傷事件の宅間死刑囚を賛美する声が若者の間で広がっていることに、私はその不安を感ずる。

私は、上記3つの選択肢のうち「2」が最適であると考える。若者から「我々は上の世代から著しく不当な扱いを受けている」と言う被害者意識を早急に取り除いてやる必要がある。

平成22年秋

                    柏市議会議員 かみはし泉

(柏市根戸467119kamihasi.izumi@silver.plala.or.jp

 

脚注今年のノーベル化学賞を受賞したパデユー大学の根岸英一教授は、「日本はすごく居心地のよい社会なんでしょうけれど、若者よ、海外に出よ、と言いたい」と、受賞決定後の記者会見で語った。人生のスタートラインで老後までの保証を確保しようとする日本の若者に対する警告と私は受け止めた。

 


 

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