●● 近世大名の通称官名 ●●

武家は中世以来、朝廷の官職に似せた官名を通称として使っていました。
江戸時代に入り、大名家や旗本でもその慣例を継承、朝廷より宣旨を賜り、官職を通称としました。
たとえば松平隠岐守隠岐守がそれです。

 通称から通称官名へ ●
 大名・旗本がいわゆる通称から、「通称官名」を名乗ることができるのは、無官から従五位下もしくは従四位下に叙位(位記)が下され、同時に宣旨を賜った時です。
                   
 ここでは松平三郎四郎が従五位下に叙位、隠岐守に任じられた例をあげました。三郎四郎は隠岐守の官名を賜ることにより、これ以降「松平隠岐守」とよばれるようになります。


● 通称官名の大原則 
 この通称官名は誰でも好きな官名を名乗れるものではありません。一氏一官名が大原則でした。つまり、その時期に松平隠岐守はただ一人、同じく松平伊予守もただ一人で、同一氏の官名の重複は許されません。ただし、異氏同官名は許されます。たとえば、松平越前守と水野越前守がそれです。
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大名・旗本の通称官名へのこだわり
 武家では土地支配への根拠として、中務大輔や刑部大輔などの「官途名」よりも加賀守や三河守などの「国守名」を好みました。
 しがたって、国守名は不足する事があり、通称官名の使用には制約があったので、望む官名を頂けるとは限りませんでした。


● 主な通称官名の使用制約 

1.使用が禁止または独占されている通称官名

官 名 理 由
武蔵守  将軍家の在国により使用禁止
三河守
越後守
 松平越前守家嫡流(津山松平家)の独占。他家の使用は許されない。
薩摩守  松平薩摩守家(鹿児島島津家)の独占。他家の使用は許されない。
陸奥守  松平陸奥守家(仙台伊達家)の独占。他家の使用は許されない。
加賀守  松平加賀守家(金沢前田家)の独占。ただし他氏の使用は許される。
土佐守  松平土佐守家(高知山内家)の独占。ただし他氏の使用は許される。
越前守  松平越前守家(福井松平家)の独占。ただし他氏の使用は許される。
肥後守  家督後、松平肥後守家(会津松平家)の独占。ただし他氏の使用は許される。
讃岐守  家督後、松平讃岐守家(高松松平家)の独占。ただし他氏の使用は許される。
隠岐守  松平隠岐守家(松山松平家)の独占。家康より拝領(拝領官名)。
 老中と同官名でも改称せず。ただし他氏の使用は許される。
越中守  松平越中守家(桑名松平家)の独占。秀忠より拝領(拝領官名)。
 老中と同官名でも改称せず。ただし他氏の使用は許される。
出羽守  家督後、松平出羽守家(松江松平家)の独占。ただし、出羽守家が無官の場合、他氏の使用は許される。
大和守  家督後、松平大和守家(前橋松平家)の独占。ただし、大和守家が無官の場合、他氏の使用は許される。
下総守  家督後、松平下総家(忍松平家)の独占。ただし、下総守家が無官の場合、他氏の使用は許される。
左京大夫  家督後、松平左京大夫家(西条松平家)の独占。ただし、左京大夫家が無官の場合、他氏の使用は許される。
大学頭  家督後、松平大学頭家(守山松平家)の独占。ただし、大学頭家が無官の場合、他氏の使用は許される。
播磨守  家督後、松平播磨守家(府中松平家)の独占。ただし、播磨守家が無官の場合、他氏の使用は許される。


2.その他の使用制限

 @ 原則として在所・在国の使用は許されません。
     例外として国持大名は許されました(藤堂家、上杉家、佐竹家、南部家を除く)
     また、松平讃岐守、織田大和守なども許されています。
 A 老中との官名重複禁止。
     老中の同官名の大名・旗本は改称しました。
 B 若年寄との重複禁止。
     若年寄の同官名の旗本は改称し、大名の新規使用は停止しました。

【参考文献】
 小川恭一 「近世武家の通称官名の制約 『風俗』 第三〇巻第四号(一〇九) 日本風俗史学会 (一九九二)