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仕事ですっかり帰りが遅くなった。
頼まれている布をどんな色に染めるかを考えていたのだが、思いつかずに、とうとう今日は諦めて帰宅することにしたのだ。途中で近所のスープ屋に寄って夕食を調達し、帰宅してラジオをつけると遅い晩餐をすませる。
「今夜ハ快晴ナリ。ゲツウガ激シク降ル恐レガアリマスノデ、御注意クダサイ。尚、外出サレル御婦人ニハ冬光商会ノ月傘ガオ勧メデス。ソレデハ好イ夜ヲ!」
妙なニュースが流れている。
洗濯機を回し、洗い物をして、古い友人に手紙を書く。そしてシャワーを浴びると、洗濯終了のブザーが鳴った。ハンガーに干しながら、窓の外を見ると雲ひとつない星空の下、乾いた秋の風が吹いている。
並んだ洗濯物をしばらく眺め、ふと外に干すことを思いついた。この風ならば朝には乾くだろう。バルコニーの上には、満月がカスタードクリームの色をして艶々と光っていた。
ベッドに横になってぼんやりその景色を眺めているうちに、いつの間にかに眠ってしまったらしい。夢の中で、たくさんのはためく洗濯物の中を歩いていた。空気は淡い黄色に染まり、何か甘くて密やかな香りが満ちている。目を凝らすと、細かい粒子が空から降り注いでいた。手のひらで受け止めると、色がふわっと広がる。気が付けば、着ていた白いワンピースも揺れるたくさんの布たちも、みんな同じ色に染まっている。
――だからね、傘が必要なんですよ
どこからか、そうつぶやく声が聞こえて振り向くのと同時に目が覚めた。
甘い匂いはまだ漂っていて、どうも閉め忘れた窓の外から流れてくるようだ。
薄布のカーテンを開けると庭の金木犀が満開になっているのが見えた。空は早朝の澄んだ水色で月はもうどこにもない。洗濯物は軽やかに揺らいでいる。
外に出て取り込もうとしたところで気が付いた。
真っ白いシーツが淡い黄色になっている。
隣に干した白いポットカバーもミトンも。そっと腕に抱く。
ふと昨夜のラジオが思い出された
「月雨、」
そうか、こういうことか、
私はつぶやいて残りの洗濯物をすべて部屋に取り込んだ。

新商品のご紹介

毎度有り難う御座います
この秋より取扱いを始めました商品を御紹介致します。
柔らかなフランネルの生地を満月で染めました、「月の眠り」シリーズで御座います
淡いカスタードクリーム色が、貴方を深い眠りに誘ってくれることでしょう
各種カバー、シーツ、パジャマを御用意して御座います
是非、冬光商会店頭にて御覧下さいませ
尚、各商品は商品の性質上、満月の後にしか入荷致しません
数量限定、お取り置き不可、通販不可
色合いは月の光量によって、多少の違いがあります
今ですと、御買上げの御客様に、当社特製「金木犀の蒸留水(リネンウォーター)」を一緒に差し上げます

それでは、御来店をお待ちして居ります。
                      2012年 秋
                          冬光商会広報担当 M