LosT wiNTer

room 5

雪が音もなく積もる夜半。漆黒の世界に純白の化粧を施して、雪は静かに朝を待つ。路についた足跡は過去の記憶と同じ、遠く向こうからゆっくりと新たに舞い落ちる一片に消されてゆく。足音は雪肌の上を踏みしめる籠もった響きから、エントランスのコンクリートを歩く硬い音へ。金属の軋みと共に扉が閉じて通路奥へ。大理石の床がコートの裾を鏡のように映し出した。エレベーターのボタンを押す。ガタン、と揺れて年代物の硝子箱が降りてきた。


LosT wiNTer room5より抜粋