For jUne BridE

右手にきらりと光が反射して、ガタゴトと電車は夜の海辺を走る。私は薄い文庫本の栞をとり、お気に入りの世界の行間にそっと身を滑り込ませた。日々の忙しさの中で、大好きな本を手に取るとき、浮かんだ絵を綺麗な色彩でスケッチブックに描き上げたとき、市松模様のクッキーが香ばしい匂いを漂わせるとき(と、軽やかな歯ざわりを味わうとき)が私の至福の一瞬だ。コートのポケットから銀紙にくるまれた珈琲味のチョコレートを取り出して、一粒口へ放り込む。電車に乗っていることも、仕事であったちょっと嫌なことも未来への不安も全て忘れて没頭する、自分でも時折心配になるほどに。

For jUne BridEより抜粋