G I H 会 報 
  No.91    2013年5月15日発行

第98回研究会の報告    第98回研究会は、見学会とし4月13日(土)に「豊田市近代の産業とくらし発見館」など3ヵ所を 見学しました。その報告文を小西利雄会員につくって頂いたので掲載します。  豊田市近代の産業とくらし発見館・百々貯木場・明治用水頭首工の見学について   小西利雄               参加者:高橋伊佐夫・広瀬泰正・増田修・船橋嘉春・小西利雄 5人 T.豊田市近代の産業とくらし発見館(以下発見館) 1.発見館の建物(登録有形文化財)  発見館の建物は1935年(大正10年)に愛知県養蚕業取締所第九支所として建てられた。蚕業取締所 の役割はカイコの病気の予防、蚕の品種改良などであった。当時、愛知県は国内でも屈指の養蚕県で ありこの地域は三河の養蚕の中心地であった時代を物語る。  建物は鉄筋コンクリート造りの壁に木造小屋組みの入母屋風の瓦屋根を乗せた平屋建で、和風建築 を意識した造りになっている。市内に残る鉄筋コンクリートの建物としては最も初期に属する。  規模:平屋建て敷地:2225.0u・本館:562.5.・収蔵庫:11.4.  建物の用途は役所名の変遷はあったが養蚕関係の役所で使われた。  1956年(昭和31年)に挙母市立図書館。  1970年(昭和45年)看護学校。  1975年(昭和50年)豊田市青少年相談所、など変遷を重ねた。永年使われたのは、建物が市内でも 最古級に属する堅牢な鉄筋コンクリート造りであったこと、三河線トヨタ市駅より至近の場所にある こと、何よりも歴史のある建物を大事にしようとの人々の思いであったろう。  2000年(平成12年)に門と建物の二件が国の登録文化財の認定を受けた。  2003年(平成15)年に耐震工事として、鉄骨補強と、厚さ4aの耐震壁で三箇所補強された。 2.発見館の役割  トヨタ市は2005年(平成17年)4月1日に東・西加茂郡六町村と合併した。合併により豊田市の面積 は918.47平方km、人口は40.7682人となり名古屋市に次ぐ第二の都市になった。発見館の位置付けは、 豊田市郷土史資料館の分館として、市域の近代化産業遺産、近代化遺産、市街地の変遷や近代の暮ら しにかかる資料を紹介する役割を担っている。以下企画展のいくつかを追った。 3.企画展「2013カイコのひみつ」 「2009カイコの一生と養蚕」を始まりとする連続企画展である。かって地域を支え今は姿が消えた養 蚕の果たした役割を語り継ぐ意図と推察した。説明のちらしはレベルが高い。セリシンとプロインなど は、はじめての知見であった。長さ50aもあろうか、大きな繭と蛹の展示には驚いた。(職員の手製と 知った) 第一展示室の旭郷土館の重量差10mgを計測する雌雄鑑別器(織田式)はあまり稼動しなかっ た。鑑別器よりも人が見分ける方が早く正確であったという。 4.「ガラ紡・はじまりとしくみ」展(平成19年企画展)  第一展示室のガラ紡水車(大正〜昭和頃)は「市内に現存する最古の鉄製水車。直径3.6m、幅0.68m、 落差3mの上掛け式水車で平均2馬力」とされる。  ガラ紡の動力として郡界川や青木川など三河の山間地は河川が多く多数の水車が使われた。 1878(明治11年)にガラ紡機を船に積み川の流れで水車を回す船紡績がはじまった。最盛期の明治31年 (1898)ころにはガラ紡船は矢作川全体で100隻余におよんだ。館内に、ガラ紡機が2台展示してあ る。一台は六錘の手回しで、自由に操れる。第一展示室の16錘(一間)も動態展示でモーターで動く。 優れた展示ともわれる。 5.「待望の水、水路を走る」(平成 25年3月まで開催)  豊田市の南西部に位置する駒新町金山に高台の雑木林の中に、レンガ造りの金山揚水の遺構がある。 明治45年(1912)逢妻男川と逢妻女川の合流点から蒸気機関を動力とする渦巻きポンプで15.5mの高台に 揚水する機能を有していた。金山揚水により大正11年(1922)と大正13年(1924)の大干ばつも組合地区の 被害は僅かだった。当初良質で豊富な水があつたが、戦後の急速な高度成長期に逢妻男川の水質が目立っ て悪くなり、昭和48年(1973)に愛知用水に水源を転換し通水した。これにより金山揚水はその役目を終 えた。金山揚水は、豊田市域各地で大正から昭和にかけて揚水機を利用した開墾が多数行われる先がけに なった。(以上企画展「待望の水、水路を走る」より)  担当の学芸員の方は「今回思い出深かった出来事は、企画展開催中に地元の方が中心になり、金山揚水 の遺構の整備が整っていったことです。また、金山揚水の旧ポンプ小屋を資料館にしようという動きもあ り、今後が楽しみです」とおっしゃった。企画展の展示品は資料館開設のためか、地元に運んで行かれた、 とのこと。 6.展示品の中に「人造石のサンプル 4点と解説」を見つけた 『2005(平成17年)、豊田市は百々貯木場の5箇所と水制(「オオダシ」「ナカダシ」)の2箇所から人 造石と推察されるサンプルを採取して分析しました。粉末X線回析法の結果、全てのサンプルから炭酸カ ルシウムと粘土鉱物が検出され、これらが人造石であると判定されました』と記してあつた。  発見館に滞在1時間半で辞し、次の明治用水旧頭首工・船通し閘門に向かった。 U.明治用水旧頭首工  矢作川左岸の道路わきの説明版のたつところから明治用水旧頭首工を見下ろした。岸よりの船通樋門に 堰堤の排砂門5門がつづく。「頑固で壊れなかった」姿を見せている。対岸はサクラ咲く水源公園で人々も 遠望できる。好天でもあり明るい雰囲気と思えた。明治用水頭首工の概要の説明は、考古学会会報の飯塚一 雄氏の文章を拝借した。『矢作川中流に取水し、右岸7700ヘクタールを灌漑する明治用水は、明治13年 に通水を開始した。明治34年に取水量の安定をはかるため大改築を行い、横断堰堤を設けた。工事を請け負 った服部長七は激しい造水に妨げられながら、ゆるく弧を描いて川を横切る64間(116m)の堰堤を築 いた。中央に筏通しと魚道、その左右に放水門と排砂門を備えた。東端には後に船通閘門も設けられた。こ れだけの規模と設備をもつ近代的堰堤としては全国で最も早いものといわれる。昭和33年、下流部に新頭 首工が完成してその役割を終えた。』   服部長七の人造石工法について @小規模構造物ではたたきだけで.体を形成している。(「神野新田紀徳之碑」の囲い) A堤防などの大規模構造物では、土砂を充てんした堤体の外側を天然石とたたきではり護岸層を形成してい る(神野新田堤防など) B波が激しく当る構造物では、護岸層内側の土砂にも小量の石灰をまぜて、堤体全体をたたき構造にしてい る。(佐渡大間港、明治用水旧頭首工など) 註 飯塚一雄「たたき技術による明治期土木構造物」産業考古学会会報27号(1983年3月20日)より V.百々貯木場  ひろびろとした、グランドや遊園地のような趣の貯木場駐車場についた。岩木川をわたり岩木川右岸堰堤 上を反時計回りに歩く。この堤防が百々貯木場の囲いの堤でもある。直下に広がる貯木場内部は材木の陸揚 げ用突堤や、材木置き場を区切る六本の突堤が配され、遊歩道までしつらえてある。手入れの行き届いたこ とは他に類を見ない。  樋門脇から矢作川側に降り立ち樋門を見上げる。アーチが堅固に組まれている。メンバーの増田さんがア ーチの工法を説明してくださる。「今でもアーチを組む技術は残っている」と言う。岩木川堰堤に「市指定 文化財(建造物)百々貯木場」の標識が建つ。この場所から貯木場内の現況が一目で見て取れる。貯木場の 池はショウブが植栽されている。豊田市が力を入れている市民の憩いの場所でもある。百々貯木場について 愛知県の近代化遺産には次のように記されている。『矢作川上流域で伐採された材木は、上流部では川幅が 狭いため材木は一本流し(管流しとも川狩という)で中流域の土場で筏に組んで運んだ。地元の材木商今井 善六は管流しの混乱や無駄を避けるために、大正7年(1918)にこの地に堤防で囲んだ材木貯蔵場所を築いた。』 『貯木場は、矢作川の最大渇水水位より2尺(0.61m)下がったところを敷きとして樋門を造り、これより5 寸(0.25m)下がったところを池床とし人造石で作る。池床面積は1087.75坪(3950u)、樋門はコンクリー ト敷きの上に造り、敷き幅15尺(4.6m)、中央部の高さ14尺3寸(4.3m)、長さ15尺(4.6m)としアー チ部に才石(1尺角の石材)を用い、才石の袖と側壁を人造石で造る。』『貯水池内の周囲の堤の長さ、高 さ、斜面角度さなど人造石の壁。歩道をはじめ貯木場内の構造の詳細、などの説明は精緻を極める。矢作川 に発電所の堰堤が築かれたこと、陸上輸送が活発になったこと、などで約10年間で役割を終え、1930(昭和 5年)に貯木場は使われなくなった。』 註1.貯木場の歴史、役割、規模、構造などの説明をはじめとして本稿は、愛知県の近代化遺産に記された 天野武弘氏の記述に依存した。ここに謝意を表します。(小西) 註2.「百々貯木場の重要文化財指定」を求めている。と大橋 公雄氏が言う「全国で唯一つある、最古であ る、ことの証明を求められている。調査のリストはあるがなかなか進まない」とおっしゃった。これだけ原 形をとどめている例は無いと思つた。 註3.(旧)明治用水取水口が「堅固で壊せない」ので残っている、とのこと。レンガ造りの(元)南郷洗 堰も一部分(6+1)が残って、土木学会の評価は高く推奨土木遺産。  終りに、発見館見学のとき、小西恭子同館学芸員に大変お世話になりました。有難う。 <公園づくり提言書に排水機展示掲載のお知らせ>  木曽三川公園の一部として国土交通省が羽島市桑原町小藪に建設を計画している「桜提サブセンター」につ いて、桜提サブセンターワークショップが羽島市民らの要望をまとめ3月14日、国交省と羽島市に「公園づく り提言書」が提出された。その記事が3月15日の中日新聞に掲載されたのでコピーし下に掲載した。なお提出 された「公園づくり提言書」には、「排水機展示」が明記されている。  <次回(第99回)研究会のお知らせ>  次回の研究会は、第18回総会と兼ねて、2013年6月15日(土)午後、岐阜県図書館で行うことになりました。 詳細は、第99回案内をご覧下さい。
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