岐 阜 産 業 遺 産 調 査 研 究 会 会 報 
  No.79    2011年2月20日発行

第85回研究会の報告    第85回研究会は2011年1月29日(土)、岐阜大学地域科学部の「地21講義室」で行ないました。その内容は、始めに『山梨県の土木 遺産を訪ねて』と題して小西利雄さんより報告、次に『博物館明治村“灯台記念日”特別講演の聴講報告と灯台施設の現状について』 と題して大田博行さんより報告していただきました。その後、高橋伊佐夫さんより岐阜県内の産業遺産保存状況を紹介され、その 対応について相談しました。今回の参加者は9名でした。 1.「山梨県の土木遺産を訪ねて」                    報告者 小西 利雄 会員  2010年7月28〜29日に山梨県の土木遺産を訪ねた830キロのドライブで@日川水制 A中央本線笹子隧道 B駒橋発電所と水路橋  C奇橋・猿橋 の見学記を報告した。 1.日川水制 (甲州市一宮町北野呂地先〜甲州市勝沼町下岩崎) ワインの町勝沼町を貫流する急流河川の日川は、明治40年と同43年に土石流により大損害を与えた。その復旧工事に日川の両岸の 2.7キロに74基のT字型石堤(T字定規の形)を築いた。ケレップ水制である。明治44年10月着工、大正4年10月に完成した。 両岸に70mごとにT字型の石堤が連続したさまは見事であったろう。石堤間は川底から浚渫された土砂で埋もれた。腐葉土の桑畑が 水はけのよい葡萄栽培に最適の土地になり、今日の葡萄とワインの勝沼町となった。 2.中央線笹子隧道(下り線) (大月市 (東山梨郡大和村)  国鉄の隧道開削技術は、京都〜大津間の逢坂山隧道(665m・明治12年貫通)および 長浜〜敦賀間の柳ヶ瀬隧道(1,352m・明治17年)の開削によりタガネ、ツルハシから、、ダイナマイト、削岩機・空気圧縮機・換気用 タービンなどの使用により向上した。 隧道掘削技術を画期的に向上はさせたのは、明治35年完成した、4657mの笹子隧道開削工事である。精密測量の実施、削岩機・ 空気圧搾機等の全面的な使用、動力として水力発電所を設け、坑内の照明、坑内外を結ぶ電気軌道の運行による岩くずの搬出、資材の 搬入など作業効率を向上した。予定より2年も早く開通するとともにわが国の隧道開削技術を飛躍的に向上させた。旧深沢隧道(明治32年 開通・1106m)は、隧道内の年間温度6度〜14度、湿度45%〜65%がワインの熟成に最適であることから平成17年5月24日に「勝沼 ワインカーブ」としてオープンした。 3.電業進展に貢献した駒橋発電所・八ッ沢発電所の大容量・長距離送電の成功 明治期のわが国の電気事業進展の鍵は大容量・長距離の送電にあった。明治35年5月に広島水力電気の広発電所から呉市、さらに 広島市まで26kmを11kvの高圧送電の成功、郡山絹糸紡績会社による沼上発電所から郡山まで22km、11kvの送電の成功がある。 東京電灯鰍フ駒橋発電所(明治42年竣工)は出力15,000kwで、55kv・75kmの送電に成功した。八ッ沢発電所(明治45年竣工) 出力35kv で55kv ・75kmの大容量・長距離の送電に成功した。 駒橋発電所は昭和34年に設備更新の二条の水圧鉄管に替え建屋も改装された。 八ッ沢発電所は平成8年設備更新され、辰野金吾設計の建屋も建替えられた。 4.奇橋・猿 橋 (大月市猿橋町) 桂川に架かる、猿橋は「刎木構造」である。昭和59年に架け替えに当って、嘉永4年の姿を復元し、刎木や主桁などには溶融亜鉛メッキを 施されたH鋼に木板を貼り付けた部材が採用されるなど永久化が図られた。 橋の諸元:橋長 30.90m 幅2.72m 水面からの路面高31m 肘木は四段ニ筋 縦桁、横桁、歩道面、高欄などはすべて木造で面影は失われていない。   2.「博物館明治村“灯台記念日”特別講演の      聴講報告と灯台施設の現状について」       報告者 大田 博行 会員   7頁もの資料とパワーポイントを使用し、灯台について詳しく報告していただきました。要旨は後日掲載します。 3.県内の産業遺産の状況紹介とその対応について                 紹介者 高橋 伊佐夫 会員  産業遺産は近年かなり注目されるようになった。岐阜産遺研は15〜20年ほど前から県内の産業遺産を調査し、保存を要望したり新聞 やHP、会報などで紹介してきた。しかし、保存された産業遺産は結構多いが、保存・展示後、解体・撤去・廃棄された遺産や保管 されてはいるが未展示の遺産もある。その状況の一部を紹介し、今後の対応について話し合った。 1)解体・撤去された産業遺産 @賤母電所で使われた当初の横軸双輪単流渦巻形フランシス水車1基、15年前中津川市上野の椛の湖畔に展示→撤去。 A岐阜市折立地域の水田へ給水した揚水ポンプ2組、折立に1986年展示→撤去。  B旧神岡鉄道のディーゼル機関車、保存→奥飛騨温泉口駅に展示→撤去。 C兼山橋(吊り橋)→撤去。 2)保管された遺産の再度展示を要望したい産業遺産  @土岐川発電所で使われた水車と発電機、2001年土岐市の倉庫に分解保管→その後?  A旧吉里排水機場の排水機、1989年解体・保管→展示要望、2011年組立展示の予定? 3)展示改善と説明用看板設置を要望したい産業遺産 @小宮神発電所で使われた旧水車と発電機、岐阜市鏡岩の旧ポンプ室に約23年間保管、鏡岩水源地広場に展示→屋根を付け解りやすい 説明看板を付け加える?。  A旧西横山発電所で使われた国産初の縦軸フランシス水車、東横山の「道の駅」に展示、肝心の縦軸がない→ランナーを裏返し縦軸を はめ込むなど展示改善に協力する。 B国の重要文化財に指定された旧揖斐川橋梁(沢渡橋)→解りやすい説明用看板追加を。 C国の重要文化財に指定された旧美濃橋(吊り橋)→解りやすい説明用看板追加を。 4)分散している展示遺産を岐阜県科学博物館(仮名)を建設し一括館内展示に  @大井発電所で使われた当初の縦軸フランシス水車のランナ−、名古屋市科学館の庭に  長年保存展示→科学館の改築で倉庫に 保管→その後?また2代目のフランシス水車の  ランナ−は縦軸付きで蛭川村の道路脇に展示→2ヶ所に分散展示を大井発電所へ?。  A中部電力馬瀬川PR館に展示された下記旧水車→PR館廃止で各発電所へ移設展示。 ・池ノ俣発電所の旧ペルトン水車ランナー→長野県飯田市の天竜川総合学習館へ。   ・茶屋野発電所の昭和19年製縦軸フランシス水車と天神発電所の大正9年製旧水車ランナーの半分→2基とも高山市の下切発電所 構内へ移設展示。   ・静波発電所の横軸フランシス水車ランナー→長良川発電所建屋内へ移設展示。 ・佐見川発電所の旧水車発電機→加茂電力センター構内へ移設展示。 ・高根発電所の旧水車ランナー→名古屋の中部電力史料館へ移設展示。    移設分散の産業遺産→岐阜県科学博物館(仮名)へ移設、一括展示を要望しては?。 78回研究会では「岐阜県へ水力発電館の建設を要望してはどうか」との意見がだされ、昨年の第81回研究会では「産業博物館の設立を!」 と稲生勝会員より提案され検討した。産業遺産の保存・展示について現地保存がよいのか、博物館に集めて展示した方がよいのか、どち らも一長一短あり、結論には到っていないが、その対応について時々話し合っている。産業遺産の保存方法にはいろいろ多くの課題があ るが、今回の研究会では取りあえず、東横山「道の駅」に展示の国産初の縦軸水車のランナーを反転し、ランナーに縦軸をはめ込む展示の 改善について所有管理者の揖斐川町教育委員会にお願いしよう。そして、同じタイプの縦軸水車が使われているイビデン東横山発電所の 内部も見学しようということになった。なおこの件は、次回の例会として実施することになった。 4.中部産遺研第29回シンポジウム開催の紹介  見出しのシンポが3月5日(土)、JR名古屋駅前の名城大学名駅サテライトビル13  階で開催されます。中部産遺研の会員でない方でも 参加できますので、ご関心ある方はどうぞご参加を申し込まれてはと思い紹介します。 5.研究会への寄贈資料紹介 (1)博物館明治村2010年8月発行の『明治村建造物移築工事報告書 第12集 芝川又右衛門邸』を博物館明治村より大田博行さん経由で 寄贈して頂きました。 (2)船頭平閘門管理所より、『KISSO』Vol.77を寄贈して頂きました。
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