岐 阜 産 業 遺 産 調 査 研 究 会 会 報 
  No.75    2010年5月25日発行

第81回研究会の報告    第81回研究会は4月24日(土)、岐阜県図書館2階の研修室で下記の4テーマで実施しました。その内容を紹介します。今回の参加者は 7名でした。  記  1.吉里排水機の展示に向けての現状報告 報告者  稲生 勝 会員 貴重な産業遺産である吉里排水機の展示に展望が見えてきたきたことを率直に喜びたいと思います。私たち岐阜産業遺産調査研究会は、 主として岐阜県内の近代化遺産である産業遺産の調査研究を積み重ねつつ、産業遺産が保存され、展示されることを願ってきました。今日 は、吉里排水機の展示に向けての現状を報告します。  2010年2月4日に岐阜産業遺産調査研究会として吉里排水機の展示を羽島市長にお願いした(原文は会報No.73に掲載)あとの2月9日、岐阜 農林事務所農地整備課長の亀山裕一氏より研究会事務局にメールが届きました。「吉里排水機の展示に関する要望を羽島市長にされたとい うことを羽島市からお聞きしました。資料にもありました7ヶ所の排水機の展示は岐阜県が設置しています。要望ありました件についても 平成23年度中には展示する予定で建設事業を進めています。詳細については今後詰めていきたいと考えています」とのメールでした。それ を受けて2月19日、岐阜農林事務所を訪問し、吉里排水機の展示について下記の3案を提示しました。(省略)  岐阜農林事務所を訪問したときに頂いた「桑原地区の県営湛水防除事業」の資料によれば、昭和14年建設の小藪排水機場と昭和32年建設 の桑原排水機場は地盤沈下などで排水能力低下しているので、小藪と桑原の2排水機場を撤去し、新しい排水機場を建設する事業を平成23 年2月までに完成させる予定だそうです。  その事業の一環として、吉里排水機の展示を思案して頂いているようですが、展示方法もわれわれの提案が認められそうですが、現状で は、予算がらみで難しい問題もあるようです。今後も、保存・展示に向けて、努力していく所存です。  2.産業博物館の設立を!    提案者 稲生 勝 会員  前回の研究会で、本研究会として、産業遺産の博物館の設置を要望したらどうでしょうか、という提案をさせていただきました。以下は、 要望書の試案の私案です。会員の皆さんのご意見を求めます。   <産業遺産、近代化遺産を博物館で展示・保存することを要望します>  石見銀山が世界遺産になったことに象徴されるように、近年、産業遺産、近代化遺産を保存・展示する気運が高まってきているように思 われます。そうした中、岐阜県は、飛山濃水といわれる多様な自然環境を反映し、全国的にみても多様な産業遺産が数多く残り、学術的な 重要性の高いものも多いと言われています。わたしたち、岐阜産業遺産調査研究会は、主として岐阜県内の近代化遺産である産業遺産の調 査・研究を積み重ねつつ、産業遺産が保存され展示されることを願ってきました。そして、わたしたちが行政などに保存・展示を要望し、 果たされたものもいくつかありますが、廃棄されてしまうものがあるのも事実です。  また、たとえば、水力発電の歴史をみると、横軸水車から縦軸水車への発展(横軸だと発電機が増水時に水につかることを避けるため、 水面からある程度の高さが必要で、落差を生かしきれない。縦軸は発電機の重さを支えることが困難であった。)などが、岐阜県では現物 で見ることができます。とくに、縦軸水車は国産初のものがあります(現在、ふじはし道の駅に展示。しかし、水車の羽根車が逆向きにな っている、せっかくの縦軸がなく、縦軸水車の意味がわかりにくいなど)。しかし、横軸は、たとえば、八百津、国産初の縦軸水車は藤橋 と、同時に見ることができません。  これが博物館などで同時に見られることになると、水力発電の技術史の理解には大きな効果があるものとなるでしょう。たしかに、文化 財は現地保存が好ましいのですが、同じ県内ですし、一度に見学できるメリットは大きいと思います。  ここに要望したいのは、産業遺産、近代化遺産を保存し、展示する博物館を設立することです。たとえば、サイエンス・ワールドが閉館 との話を聞きましたが、サイエンス・ワールドの施設を使えば、それほど大きな負担なく、博物館を開設することができるのではないでしょ うか。サイエンス・ワールドの趣旨を生かさなくてはということならば、「科学と技術の博物館」のような名称で、産業遺産を保存・展示 しつつ、科学の解説も展示するような施設にできるのではないでしょうか。  それ以外にも思いつく案をいくつか提示させていただきます。   A案 関の百年公園内の岐阜県博物館で保存・展示   B案 八百津発電所の展示館の拡充   C案 サイエンス・ワールドの改編   D案 重要文化財の旧揖斐川橋梁の周辺に  展示内容は水力発電の歴史・治水対策の歴史・橋梁;模型による展示。  3.これまで保存・展示の産業遺産を文化財へ       −文化財指定基準(岐阜県文化財保護条例)の検討− 提案者 高橋 伊佐夫 会員 これまで県内に保存・展示された産業遺産はたくさんあるが、市や町の文化財・岐阜県の文化財・国の文化財となった産業遺産は少ない。 特に機械類は文化財とならないことが多い。それはなぜなのか、今回は岐阜県重要文化財等の指定基準を基に、その条例を検討し、できれ ば文化財指定基準改正の要望も考えてみてはどうかと提案した。 (1)県内の産業遺産の保存展示と文化財への要望経緯  1997年8月、“ぎふの産業遺産”を水力発電所建物・発電用水車と発電機・ポンプ・樋門・ダム・堤防・橋梁・機関車・その他に分けて 95件リストアップした。遺産の保存場所や保存状況は、現役使用(21)、改修再利用(7)、現存(10)、一時保管(3)、文化財指定(3)、登録文 化財(1)、屋内展示(11)、屋外展示(23)、保存展示要望(4)、廃止(3)、廃棄(5)、水没(2)という状況だった。 1996(平成8)年、文化財保護法が一部改正され「文化財登録制度」が導入され、届出制による保護措置ができた。この登録制度は文化庁 建造物課の管轄で、登録有形文化財は建造物に限定され、建築物・土木構造物・その他の工作物に限られている。2004(平成16)年までに岐 阜県の文化財は52件登録されたが、「産業遺産」は羽根谷砂防堰堤(第1と第2堰堤)2件と長良川発電所(本館・正門・外壁・余水路横断 僑・3ヶ所の水路橋・第1第2沈砂池・取水口)10件の2ヶ所12件である。  2006年8月、五六閘門と旧揖斐川橋梁を文化財に認定されるよう、当研究会として瑞穂市長と大垣市長にそれぞれ要望した。  2008年6月、県内の主要な産業遺産7件の保存展示についても再度検討した。  2009年10月、一端保存展示された産業遺産である賤母発電所の旧水車と神岡鉄道で活躍したディーゼル機関車が残念ながら廃棄されたこ ともあり、国道303号線「道の駅」に展示されている旧西横山発電所で使われた立軸水車の展示を改善(立軸を付ける)するよう揖斐川町に 要望を。鏡岩水源地広場に屋外展示されている小宮神発電所で使われた旧水車・発電機を屋根で覆い説明用看板を付け、文化財にするよう 岐阜市に要望しては。三川分流碑のそばに分解状態で21年放置されている吉里排水機を羽島市長に再び展示の要望を。旧土岐川水力発電所 で使われた水車・発電機を土岐市に再度展示の要望を。保存が確定していない五六閘門を再度文化財にされるよう瑞穂市に再度要望を。以 上の5件について検討した。話し合いでは、産業遺産の保存展示は市や町では費用の点で財政上難しい面があるので難しい。一方、過去に 水力発電に貢献した水車と発電機を一ヶ所に集め、県の水力発電館を造り、展示することを岐阜県に要望することはどうだろうという意見 も出され、検討する事になった。その後、  2010年2月4日、羽島市役所を訪問し、市長に再度、吉里排水機展示のお願いをした。  2010年2月19日、岐阜農林事務所を訪問し、吉里排水機の展示について要望した。 (2)県内の近代化に貢献した産業遺産の文化財等認定状況  2009(平成21)年12月、文化庁が登録有形文化財(建造物)に認定した件数は7,865件で、建築物が79%・土木構造物が6%・その他の工作物 (門・塀・煙突)が15%である。そのうち登録有形文化財となった岐阜県内の産業遺産は、羽根谷砂防堰堤2件と長良川発電所10件に次いで、 鏡岩の旧ポンプ室とエンジン室2件・旧名鉄美濃町線の美濃駅1件・北濃駅の手動転車台1件が認定され16件となった。また、国の重要文 化財は、旧八百津発電所(水車・発電機を含む)・旧美濃橋(吊り橋)・旧揖斐川橋梁の3件である。  なお、経済産業省が2007(平成21)年11月に認定した「近代化産業遺産群」は300ヶ所575件で、そのうち岐阜県内は平瀬発電所・長良川発 電所・東横山発電所・広瀬発電所・川上発電所・大井ダム・旧八百津発電所の8件認定された。「近代化産業遺産群」続33の岐阜県内の認 定遺産は、各務原航空宇宙博物館の乙式一型偵察機(レプリカ)・内藤記念くすり博物館の製薬道具・羽根谷砂防堰堤・岐工記念館の5件で ある。  日本機械学会が2007(平成21)年8月に認定した機械遺産は25件あるが、岐阜県内の遺産はゼロである。  また、美並ふるさと館に展示の古川自家発電装置は、「小水力自家発電所」の名称で郡上市の民俗文化財に指定されている。  今後、岐阜県の貴重な産業遺産である長良川発電所の旧水車と発電機・小宮神発電所の旧水車と発電機・西横山発電所の旧水車と発電機 ・大井ダム・ラッセル式雪かき車・土第一発電所・羽島市の吉里排水機・瑞穂市の五六閘門などを文化財に認定されるよう要望したいと提 案した。 (3)岐阜県の文化財指定基準の検討  岐阜県教育委員会監修、平成21年7月31日発行の『岐阜県教育法令要覧』1697〜1702頁の「岐阜県重要文化財等の指定基準、・・・・・・」条 例文(掲載省略)を学習し検討した。  1.岐阜県重要文化財指定基準の(七)構造物の部で「その他の工作物」の解釈を土木構造物と関連させて、「工作物」である機械類をも 含めて欲しいと要望してはどうかと提案したが、「機械類」を建造物の部に入れるのは無理があるので、(七)構造物の部の次ぎに「(八)近 代化産業遺産の部」を追加要望してはという意見があった。今後検討し、県文化財保護審議会委員に相談してみようという事になった。  4.大田博行さんが見学された3基のホフマン式レンガ焼成窯を写真で紹介された。その3窯の概略を下記します。  一つは、栃木県下都賀郡野木町に旧下野煉化製造会社が明治23年に建設した外周100mほどの巨大な輪窯で、現存するわが国で最も古い ホフマン式円形(16角形)のレンガ焼成窯です。窯の内部は円形環状トンネルで、トロッコ線路が敷かれている。昭和46年まで稼働していた 窯で、昭和52年に国の重要文化財に指定された。二つ目は、滋賀県近江八幡市船木町に旧中川煉瓦製造所が明治末期に建設した楕円形のレ ンガ焼成窯です。楕円形の窯は円形より焼成能力が大きいです。三つ目は、京都府舞鶴市西神崎に旧神崎煉瓦製造所が建設したレンガ焼成 窯です。ここは当初、直線形の登り窯が造られ、その窯の大きな煙突も残っていた。とのご報告でした。 ◎ご紹介が遅れましたが、近畿産業考古学会より毎月発行の『ニューズレター』を昨年3月1日発行の第40号から2010年4月1日発行の第53号 まで当研究会にご恵送いただきました。また、2010年2月発行の学会誌『近畿の産業遺産』No.4も ご寄贈いただきました。ありがとうご ざいました。お礼を申し上げます。 ◎九州産業考古学会より2010年2月22日発行の『九州産業考古学会報』第13号を3部ご寄贈していただきました。ありがとうございました。 お礼を申し上げます。 ◎国土交通省中部地方整備局木曽川下流河川事務所調査課編集・発行の『KISSO』Vol.73とVol.74を当研究会に寄贈していただきました。 この『KISSO』は岐阜県図書館でも見られます。
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