月夜の番人 9
― 9 ― 予備知識全くない状態で行ったアフリカは想像を絶する世界だった。 いつもの感覚では向き合うことが困難な世界。 写真集の撮影の他に、テレビ番組のドキュメントも入っていた。 僕はまず気合を入れるために、髪をバッサリ切り、まりあとの連絡も断った。 そして、ICレコーダーに、これからの生き方、今思うこと、そして、まりあへの想いを・・、 ひたすら、淡々と綴っていった。 ![]() 1ヶ月の撮影旅行を終え、日本に着いた時、体重は5キロも減り、疲れ果てていたが、 気持ちは華やいでいた。真っ先に、まりあに会いたくて、部屋に向かった。 ベルを鳴らさず、まりあを驚かそうと思って、こっそり部屋に入ると・・、 すでにベルが入り口でシッポを振っていた。(さすがベル。鼻がきくな) まりあ 「おかえりなさい」 久しぶりに見るまりあは、相変らずの美しさだ。 ガク 「ただいま」 話したい事は、山ほどあったけど、言葉にはならなかった。 まりあを抱きしめ、熱いキスを交わし、抱きかかえ、 真っ先にベットへ。僕はありったけの愛をまりあに注いだ。 でも、何かが違った。まりあは何かを隠している。そんな気がした。 ![]() 次の日は、早速、僕の部屋に友達を集めて、パーティーを行った。 気心しれた者同士だけ集めての内輪のパーティーのつもりが、すごい人数に膨れ上がった。 僕は、嫌がるまりあを説得して、パーティーに出席させた。 結婚とか恋人とかの枠には、はめたくなかったけど、「僕の大切な人」を皆に紹介したかった。 そして、パーティーも一段落した頃、僕は皆にまりあを紹介した。 「今日は皆さん、集まってくれてありがとう。皆も気になってたと思うけど、彼女はね。 僕が今一番、大切に思ってる人、まりあです」 まりあは、にこりと笑って、お辞儀をした・・・が、部屋の空気は妙に重い。 ・・・YOUが妙にテンション高い声を出して、違う話題を持ち出した。 皆、YOUの話題で盛り上がりだした。(何なんだ?この空気は・・) 僕は、置いてけぼりにされたような気分に陥りながら、ウォッカを一気飲みしていると、 馴染みのクラブで働いている恵美が近づいてきて、耳元でささやいた。 恵美 「皆、ガクちゃんがキレるのが怖くて黙ってるけど、どうせすぐ分かる事だから言うね。 この間ね、まりあって子とYOUがフォーカスされたんだよ。 載せられる寸前に事務所がお金、積んでさ。 掲載されずに済んだけど、ネット上ではさ、その話題で持ちきりなんだよ。 どこから情報漏れたのか知らないけど。 まりあとガクちゃんとの関係も誰かが書いてしまったから大変。 二股かけてる魔性の腹黒い女・・とかさ。まりあって子、たたかれまくりなんだよ。」 ・・・僕のコブシは震えていた。恵美の話も上の空状態で、目はYOUを捜していた。 そして、すぐYOUを見つけると、違う部屋に案内し、胸ぐらをつかんで唸った。 「まりあに何をした?」 YOUは、慌てた顔をして弁解を始めた。 YOU 「ガク。違うんだ。本当に俺は何もしていないんだ。 ちゃんと聞けよ。・・まず、タバコ吸えよ」 YOUは、タバコを差し出して、僕が口にくわえると静かに火を付けた。 「俺でさえ、お前がキレるのが怖くて、どう話を切り出そうか迷ってたんだ。 俺とまりあちゃんは、本当になんでもないんだ。 3週間くらい前なんだけどさ。偶然、渋谷でまりあちゃんと会って、 その時さ、まりあちゃん、ベルとメイを連れていて、 重そうだったから、メイの方を持ってあげてさ。 いっしょに昼ご飯を食べた。それだけ。・・・そこをフォーカスされた・・」 「・・・・」 「今、ガクの周りが静かだろう?マスコミはさ。ガクの動きを見張ってるんだと思うよ。 まりあと会ってる瞬間をフォーカスしたくて、ウズウズしてるのさ。 でも、その前に、まりあちゃんが危険だと思う。ファンの怒り・・・凄いんだよ。 まりあちゃんを責めるなよ?彼女は全然悪くない」 (まりあ・・)僕は、まりあが心配になり捜した。 「恵美。まりあは?」 「あ〜、さっき、帰ったみたいだよ」 ![]() 僕は、慌てて車を飛ばした。 ・・まりあはすぐに見つかった。・・とぼとぼと暗い道を歩いていた。 「まりあ!・・送っていくよ」 「ガク!ダメだよ。パーティー放り投げて・・。それにお酒も飲んでるでしょう?」 「いいから、早く乗って?」 とりあえず、ここは危険だと思い、車を高速につけた。 「ガク。YOUさんから聞いたんでしょ?ごめんね。すぐ言わなくて・・。 どう言えばいいか解からなくって」 「いいんだ。何も言うな」 まりあは、以外に明るい顔をしていて、僕はほっとした。 「あのね。ガクにお話があるの」 「え?・・何?聞こえない・・」 窓を少し開けていたせいか、まりあの声がよく聞こえない。 ・・・窓をしっかり閉めた。 「ごめん。まりあ、何だった?」 「ううん。何でもない。・・あ。ガクのアフリカの土産話、沢山、聞かせて?」 僕とまりあは、いつもの場所に行き、アフリカの話に華を咲かせた。 そして、まりあを家に送り、キスをして・・静かに別れた。 別れた後、まりあの言葉が頭の中で何度もリフレイン。 「嗚呼、このまま時間が止まればいいのに・・」 ・・その声には、何か計り知れない淋しさが感じられた。 (こんなハプニング、たいした事ないさ。全てが愛を育てるプロセスさ!) 僕は深呼吸して・・変な噂に溢れているらしいネットへ挑んだ。 覚悟を決めて読んだものの、凄いことばかり書かれてる。 これをまりあも見てるのだろうか?・・どうやって彼女を守る事が出来るのだろう? 翌日からは、雑誌、ラジオ、テレビ撮影のラッシュ。 でも、時間を見つけては、まりあの携帯に電話を入れた。・・だが、繋がらない。 5日目の夜、、時間を無理矢理作って、まりあの自宅に行ってみた。 家は真っ暗。懐中電灯を持って、玄関先でまりあへのメッセージを書いた。 ・・・と、玄関のドアには空家の紙が貼られていた。 まりあが消えた? ・・まりあを捜したいけれど、時間が作れないまま翌日を迎え、 そして・・、家に帰ると・・まりあからの手紙がポストに入っていた。 僕は、震える手で封を開けた。 ------------------------------------------------------------------------ ごめんね。ガク。 こんな形で、ちゃんとお別れの挨拶もしないで、ガクの前から消えちゃって・・。 今のままでは、どんどんダメになっていくようで、 私なりに決めた前向きな決断なの。 少しでもガクの理想に近づけるよう、私の理想に近づけるよう 素敵な女性になれるよう頑張ります。 ガクは今、一番大切な時期だから、私の事は忘れて、前に進んでください。 これから、アジアツアー、そして映画、叶えられるだけの夢を叶えてください。 私は遠くから、誰にも負けない声援を送り続けます。 待っててね!・・とは言いません。 ガクにはガクの人生、私には私の人生・・。 もしも・・自然に交わる日がきた時は、運命の神様にお礼を言います。 ガクと同じ時代に生まれた事、感謝しています。 限られた時間を、精一杯、突き進んでくださいね。 私も頑張ります。では、お元気で。 まりあ PS: お願いです。決して探さないでください。 ------------------------------------------------------------------------- もう、二度とまりあには会えない・・・そんな気がした。 |