月夜の番人 8
−8− 僕とまりあは、昨日もそうしてたかのように、静かな午後を過ごしていた。 ガク 「ねぇ。まりあ、夜はリッチなディナーでも食べようか?何が食べたい?」 まりあ 「え〜とね。テイクアウト出来る食事がいいわ。」 「洋服の事、気にしてるの?あ、そうだ。「プリティ・ウーマン」のリチャード・ギアみたいに ショッピングしようか?ドレスをプレゼントするよ」 M 「ショッピングは今度でいいよ〜。あ!ドトールのベーコンサンドが食べたい!」 G 「え?それって、ファーストフードみたいなものじゃない?それでいいの?」 M 「ガク。食べた事ある?」 G 「ないけど・・」 M 「ホント、美味しいのよ!・・あのね、ガク。お願いがあるの」 G 「何?」 M 「ガクがいつも観てる夜景を観に行きたいの・・」 僕は笑いながら、うなずいた。 M 「あ、そうだ!」 そう言うと、まりあはバックの中から、ごぞごそと何かを取り出した。 M 「ガクはジャスミンティー好き?」 G 「好きだけど」 M 「レジャー用のポットはある?」 G 「あるけど?」 まりあは鼻歌まじりで、ジャスミンティーを沸かし、せっせとポットに移し始めた。 しばらく会えない最後の夜は、ゴージャスな夜をプレゼントしたかったのに・・。 でも、まりあの提案の方が冷静である事は確かだった。 ショッピングも、公の場でのディナーも、かっこうのマスコミネタだったから・・。 まりあの発想や言葉使いは、さりげない気配りに満ちているな〜、 そう思いながら、まりあを見つめた。 外が薄暗くなった頃、僕とまりあは高速を飛ばして、横浜に向かった。 まりあ車中をキョロキョロ眺めている。 M 「凄いよね〜。まるで小さなお家みたい」 G 「よく言われる」 M 「でも・・この大きなテレビ?危険じゃない?」 G 「危険、大好き。」 オープンでドライブしたかったけど、さすがに今日は寒かった。 僕は、まりあの指示に従い、ドトールで車を止めると、てきぱきと、まりあは動いた。 戻ってくると恥ずかしそうに、 「ガク。わかめサラダも買っていい?」 と言い、となりのローソンにダッシュ。 あれこれ買ったらしく、ニコニコと勝者のような顔をして戻ってきた。 僕はにこりと笑い返し、無言のまま目的地を急いだ。 いつもの場所に着いた。 ・・・僕は息をのんだ。・・今日の夜景は僕達を祝福するかのよに、もの凄い美しさだった。 雲ひとつない夜空に星が散りばめられ、月がポッカリと浮かんでいた。 そして、隣にたたずむ、まりあの美しさにも息をのんだ。 まりあの目から、大粒の涙がぽろりと落ち、まりあはポツリと呟いた。 M 「言葉にならないよね。・・・月夜の番人さん?!」 G 「その名前、懐かしいな〜、月夜の魔女さん」 どのくらいの時間が過ぎただろう。僕とまりあは時を忘れて夜景と同化した。 そして「ぐぅ〜」と、またまた別の生物が音をたてた。 M 「やだっ」 まりあは真っ赤なな顔をしてお腹を抑えた。 G 「まりあのお腹の虫は、かなり気が強そうだよね」(爆笑) 僕は車にいつも積んであるピクニックセットを取り出して、 強引に車の中でのディナーの準備に取りかかった。 小さなテーブルにクロスまでかけ、小さなロウソクに火を灯した。 まりあは自慢のジャスミンティーをボコボコとコップに注いだ。 M G 「乾杯!」 M 「こんな素敵なディナー、初めて!ガク、ありがとう!」 G 「まりあってさ。外国とか行きたいところってある?」 M 「私は〜ん〜、育った環境のトラウマもあるのかな。あそこに行きたい!とか、ここに行きたい! とかって言う気持ち、あまりないの。居心地いいところを見つけたら、ずっとそこに居たいタイプ・・かな。 ガクが居るなら、この車の中に一生住むのも素敵!」 G 「(笑)・・まりあもさ〜。真顔でそういう事、言うよね。素敵すぎるよ」 M 「そう?こんな素敵なディナー初めてだもの!ガク、ありがとう! あ。ごめん、ガク、私いつも話がコロコロ変るけど・・ガクがいない間、ベルとメイはどうするの?」 G 「あ〜。ちょっと前までは姉がいたから、姉にお願いしてたんだけどね。最近また結婚してさ。 だから、ペットホテルに預ける予定なんだよ」 M 「へ〜、ガクにはお姉さんがいたのね。・・”また”って・・何度も結婚したの?」 G 「結婚しては別れ、結婚しては別れて・・を繰り返してる。奔放主義でいいと思うけどね」 M 「ふーん。奔放主義・・・ガクって。結婚願望とかあるの?」 G 「ない。・・・紙キレ一枚で束縛し合うのって、どうかな?とか思うし・・」 M 「じゃ、子供とかも欲しくないの?」 G 「子供は・・欲しくない。僕の子じゃなかったら、養子だったほしい。って思うことはあるけど」 M 「名前を付けるとしたら?」 G 「女の子だったらクリス、男の子だったら、ノア」 M 「(笑)ガンダムじゃない?」 G 「嬉しいな〜。ノアとクリスを知ってるなんて・・(笑) M 「(笑)・・あ、そうそう。ベルちゃん達の話だけど・・、よかったら私に、預からせてくれない?」 とりとめのない夜はあっという間に過ぎて、 僕はまりあに、ベルとメイとペットフードを預け、 G 「よかったら、いつでも僕の部屋を使って?管理人の人には言っておくから」 そう言い、まりあにカギを渡して別れた。 そして、次の日の朝、僕はアフリカに旅立った。 |