月夜の番人 7
−7− まりあ 「ガク?ペンと紙ある?」 ガク 「何、書くの?」 紙を渡すと、まりあは僕の質問も耳に入らなくなったらしい。 真顔で何かを書き始めた。詩かな?手紙かな? でも僕は、それ以上、まりあに問いかけなかった。真顔で何かに向かってる女性を見るのは好きだから。 「コーヒー入れるね」 「・・・ありがとう」 1時間が過ぎた。まりあは何を書いてるんだろう。 僕は不思議なまりあを無性に描きたくなって、まりあを描いた。 まりあのポニーテールがほどけ、はらりと美しい髪が肩をなでた。 まりあが体の向きを変えた時、初めて僕は怒った。 「動かないで!」 まりあは、キョトンとした顔をして僕を見た。そして、訳が分かると、優しく微笑み、 また・・真顔で何かを書き始めた。 貴重なまりあと僕のひとときが・・、静かに静かに過ぎていった。 「出来た!」 G 「見せて?」 「あ、ちょっと待って・・」 僕はまりあの返事など待たずに、ずっとずっと気になっていた「何か」を読み始めた。 ・・・・まりあは・・、物語を書いていた。 僕が読んでる間、まりあはソワソワして落ち着かなかった。 ・・でも、僕はゆっくりと物語を味わって読んだ。 「ガク?感想なんか言わないでね。・・私、ただ、どうしても書きたくなって書いた・・ それだけのお話なんだから・・。感想なんか言わ・・・」 自信のない、まりあを僕は強く抱きしめた。 「凄く、いいお話だったよ。これは、ファンタジーなのかもしれないけど、 もしかしたら、本当に起こり得る話かもしれないね。」 それは・・、黒豹エルと少女のラブストーリーだった。 『エルと少女は誰よりも心を許したかけがえのない存在だったが、 ある日、間違って、エルが少女に爪を立ててしまい、少女は大怪我をする。 少女の両親は危険なエルを射殺。その日から少女は心を閉ざし、ひたすら神に祈り続けた。 「私の命と引き換えにエルを生き返らせて!?」 そして数年後、少女は天に召され、同時に人間の姿に変身したエルがこの世に現れる。 「僕がこうして生きかえっても、あの子がいなければ存在の意味がないじゃないか!」 人間に変身したエルは、この世を恨み、悪さの限りを尽くす。 人間離れした妖しい美しさで、女を惑わせ、狂わせ、タバコのように捨てる。 神は困った。人間ではないから、殺すにも殺せない。 そして神は、エルにひとつだけ、少女を蘇らせる方法を教えた。 「まず、悪事を一切やめて、普通の人間のようにまじめに働くのだ。 そして、少女がこの世に帰ってくるための道を探しなさい。その入り口は一度だけ現れる。 雨上がりの青空に現れた虹の下に・・その入り口は一度だけ現れる・・」』 そんな内容の物語だった。 「まりあ。このお話は、ハッピーエンドなの?それとも悲劇?」 「どうしようかな〜って思ってる。 ハリウッドならハッピーエンドだし、フランス映画なら悲劇だよね? もちろん、ハッピーエンドにしたいけど・・、自分で書いておきながら悲劇にしてしまいそう・・。 何かね。自分に全然自信が持てなくて、押しつぶされそうな気持ちになるの。 去年から、出版社で働くようになって、翻訳の仕事とか少しずつやってるのだけど、 有名作家さんの文章に触れれば触れるほど、自分がちっぽけに思えて・・、 夢なんか絶対叶わないって気がしてくるの・・。」 「・・・僕もそうだったよ。でもね。そんな時、ある人に言われたんだ。 ”プロセスばかり気にしてたら、しんどくて何も進まない。結果に視点を向けようよ”ってね。 見えてる夢は全部、実現できるから見えるんだ!って信じてるだよ、俺はさ。 大丈夫。まりあ、結果を信じて、進もうよ。ね?」 まりあの潤んだ目にキスをした。・・と、まりあが勢いよく声を上げた。 「あ!会社に電話するの忘れてた!」 全く・・まりあの行動は予想がつかない。 |