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月夜の番人 

−6−

まりあ 「何か作る?」


ガク 「え?何か作ってくれるの?」

「ガクの口に合えばいいけど・・。」
そう言いながら、まりあは冷蔵庫を覗き、調味料棚を覗いた。


「うわ〜。ガク、凄いね。調味料がたっくさん!ガクって料理上手なんだね」


「それほどでも・・」

「お豆腐があるし・・。麻婆豆腐作ろうかな」

「レトルトなくても大丈夫?」

「だって、ほら、豆板ジャンもあるし、お味噌もあるし、大丈夫!・・待っててね」

僕はうっとりしながら、まりあの背を見つめた。
大好きなまりあが、僕のために料理をしてくれている。至福の空間だ。
大きめのTシャツが動くたび、まりあの腰が見え隠れしそうで、ついつい、腰に目がいく。
ポニーテールに結い上げた、うなじが妙に色っぽい。素足の足首が折れそうなほど細い。


「ガクは、辛いの好き?」


「辛いのは、どこまで辛くて平気」

唐辛子を持った、まりあは悪戯な微笑を浮かべ、「じゃ、辛く作るね!」と言い、
慣れた手つきで、使う調味料をボールにまとめ、フライパンをかけ、
豆腐を刻み、長ねぎを刻み・・・あっと言う間に作り上げてしまった。


「どうぞ。召しあがって?」


「凄いね。あっと言う間だっ」
僕はドキドキして、まりあが初めて作ってくれた手料理を口にほおばった。

「凄く、美味しい。この間、香港で食べたヤツと同じ味だ。・・いや、それより美味しいかも」

「誉めすぎだよ〜。でも、ありがとう」

僕は本当に驚いていた。まりあは何者なんだろう?


「中国にいた時ね。いっしょに住んでた中国人の陳さんに教えてもらったの。
凄く料理が上手な人でね。いつも厨房で作るところ見てたから・・」


「あれ?まりあは食べないの?」

「私、辛いの苦手なの忘れてた・・・」

まりあは、そう言いながら、ピンクの舌をペロリと出した。

「私は、バナナヨーグルト、いただくわ!」


「・・・あ、バナナとヨーグルトしかなくて、ごめんね」

僕が困った顔で言うと・・、まりあは、クククッとお腹を抱えて笑った。

  

まりあは時計を見た。時間はAM6:00。

「どうしようかな」


「あ。仕事?」

「ガクは?」

「明日の朝、出発だから、それまではOFFなんだ。久しぶりにね。」

「・・・そっか」

「思い切って、休めば?・・・
休もう

まりあは、意を決した顔をして、
「そうね!今日は私、休むわ!初めてのズル休み。
ガクに会ってから初めて尽くしだわ!」


そう言うと、妖精のようにクルクル回り、踊り出した。
クルクルと回るたびに、Tシャツが舞い上がり、美しい腰が見え隠れした。
(何て美しい景色なんだ・・)僕はうっとり魅入った。

まりあに刺激を受け、僕も軽くストレッチを始めた。
まりあはストレッチをする僕に悪戯をしかけてくる。意外な一面に僕は驚いた。

「じゃ、今日はまりあと、ずっといっしょにいれるんだね。どこに行く?」

「どこって・・。ここがいいわ!

「え?どこかに行きたくないの?」

「ガクがどこかに行きたいなら、どこでも行くよ?でも私はここ好き」

まりあは、そう言うと、今度は部屋をあちこち子猫のように探検しだした。
そして、DVDコレクションの棚を覗いた。


「ガクって映画好きなんだね〜。もしかしてメグ・ライアン好き?メグのDVDがいっぱい!」


「ああ、大好きだよ。まりあ、メグに少し似てるよ。小鹿みたいなところとか」

「じゃ、大変だわ。オオカミみたいなガクに食べられちゃう。」

悪戯な微笑を浮かべながら、まりあは底抜けに明るい。
・・と、まりあは僕の思いを見透かしたように言った。

「ガク。私の事、変なヤツって思ってるでしょ?ちょっと前まで大泣きしてたのに、
今・・こんなバカになっちゃって・・。・・・あのね。私もビックリしてるの。
自分にこんなところあったなんて・・。ガク・・。こんな私、イヤ?」


「イヤじゃないよ。可愛いよ」

「そう?良かった〜」

そう言いながらも、まりあは、DVDコレクションを一枚一枚チェックしている。

「ガクの部屋は宝の山ね!わぁ〜”フィオナの海”まであるわ。私、この映画、大好きなの」


「北欧の映画だったかな?あざらし伝説だよね?これならサントラもあるよ」

「友達に言うと笑われるんだけど、私・・、妖精とか精霊とか、絶対いると思うのね。
だから、この映画、泣けて泣けて仕方なかったわ。何度観ても同じところで泣けちゃうの」


僕が手際良く「フィオナの海」のサントラをかける手を、まりあはうっとりした表情で見惚れている。
そして、幻想的な民族音楽が流れた。
僕とまりあは、無言の幻想空間で会話しているようだった。


     


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