BACK  Gackt妄想街道TOP


月夜の番人 

−4−

まりあ 「夜の風って、どうしてこんな懐かしい匂いがするんだろ。
でも、何かが足りない・・かな。何だろ」


ガク 「何?」

「あ。でも、充分だよね。うん。私って、わがまま・・」

「言ってよ。・・何?」


「あのね。あのアフリカの夜と・・違うところを見つけちゃったの。
音がないな・・って。怖かったんだけどね。
猿かな・・。鳥かな・・。そんな動物の声がしてたの」


僕は速攻動き出した。ゼロの豹柄ケースからMacを取り出し、スイッチON。
さっそく検索開始だ。野生 動物 泣き声 ・・・・・・
数パターンの連想・検索の結果、すぐ音をキャッチ。自慢の音響設備に繋げ、ほんの10分で、
僕の部屋には、野生の動物の声が・・サラウンドで、こだました。

「信じられない。凄いわ!ガク・・」

「あ、今日が終わっちゃう。DVD観るんだったよね?」


「そうだったわ!」
 
暗闇の中、DVDコレクションの中心にDVDプレイヤーとモニターが浮かび上がる。
さっき借りてきた「エンゼルハート」をセット。

「ひとつだけ、お願いしてもいい?」

「いいわよ」

「まりあの膝を貸してほしいんだ」

そう言って、僕は静かに、まりあの膝に頭を乗せた・・。

「この場所が、一番落ち着く・・」

小さな頃から、僕の想像と夢の中には、女神が存在し、
僕は、その女神に”まりあ”という名前を付けていた。。。
もしかしたら、僕はいま夢を観ているのだろうか?頬をひねる。
「痛っ」・・僕は、うっとりと、まりあの膝に埋もれた。



翌朝、僕が目覚めると、まりあの姿はもうなかった・・。
不覚にも、僕は映画を観ながら、まりあの膝まくらで寝てしまったらしい。
とにかく自分に腹が立った。まりあは、もういないのだ・・。
映画が終わったら、眠れない夜が待っていたかもしれないのに。
全てがオジャン。
無性に腹が立った。スタスタとサンドバックに向かい、思い切りこぶしをぶつけた。

と・・ワイングラスの下に置手紙が一枚。

【素晴らしい夜をありがとう。
よかったら、いつでも電話してね!090−●■◎□-9582 まりあ】


暗闇の中に一筋の光りがさした。
・・・時計を見るとちょうど昼。僕は、悩まず、すぐ電話した。

「アロアロ・・。まりあ?何で黙っていなくなったの?」

「あ、ガク?・・・・・」

「どうしたの?」

・・・まりあの様子がおかしい・・。

「私・・・全然知らなくて・・・」

「何を?」

「ガクって、有名な方だったのね?」

「何それ?」

「私・・・全然知らなくて・・・」

「有名だったら、何なの?」


「何って・・。怖いの・・」

「何が?」

「私・・・」

僕はイライラしていた。

「有名じゃダメなの?僕は僕でしょ?」

「・・・・ごめんなさい・・・」

「何で謝るの?」

「・・・・もう電話しないで?ごめんね」

電話を切られた・・。僕は放心状態でコブシを強く握った。
 「何なんだよ・・」・・と低く呟き携帯を投げた。

今まで両手に余るほどの女性と付き合ってきたが、”有名人だから”と言う理由で
電話を切られたのは初めてだった。いつもの自分なら
(何事も経験さ・・)・・このひと言で割り切るが、今回ばかりはそういかなかった。
TV出演、雑誌の取材、撮影、CM出演と超多忙。
まりあの事を忘れるだけの材料は山のようにあるのだが・・・まぎれない。
暇さえあれば・・いや、暇を無理矢理作ってでも、まりあの携帯に電話した。
何度電話しても、100%留守電。
3日目には、さすがに理性を取り戻し・・・毎日、夜中の12時に・・・、
まとめて、留守電メッセージを入れる習慣を定着させた。
理性を取り戻した・・・と言えど、すっかりストーカー行為。
でも、どうしようもなかった。これほど、一人の女性に片思いしたのは初めてかもしれない。
僕は、愛されるより、
”自分が愛する気持ち”を大切にしたかったから・・。



1ヶ月が過ぎた。
今では、夜の留守電メッセージは心のダイヤルのようだった。
今日一日の出来事。面白かったこと。愛の言葉。
それらを簡潔にまとめて話ことに、職人芸のような快感さえ覚えていた。
だが、最近また体調がくずれ始めていた。
あさってから、写真集の撮影でアフリカに行くというのに・・。

しばらく留守電も出来ない・・・と思うと
赤い糸が切断されたような、物凄い淋しさがこみ上げてきた。
・・・誰かに電話すれば誰でも来てくれると思った。
パーティーをやれば、ドンチャン騒ぎが出来る。
・・・でも、とてもじゃないが、まりあ以外の人と会う気持ちにはなれなかった。

むかし誰かが言っていたドラマのセリフを思い出した。

「みんなが居るから淋しくない・・じゃなくて、あなたがいないから淋しいの」

昨日までの微熱は本格的な熱に変ってきたらしい。咳も出始めた。
あさってから、アフリカだと言うのに・・メチャクチャだ。
僕はボロボロの気持ちで、まりあの留守電に最後のメッセージを残した。

「まりあ・・・。もう寝たかな?・・こうしてメッセージ残すのも
今日が最後かもしれない。・・どうして電話に出てくれないの?
(ゴホッゴホ/咳き込む音)あさってから、アフリカに行くんだよ。今ね。
体調が悪いんだ・・。
(ゴホッ)あ、ごめん。・・・まりあ、もし僕にまだ気持ちが残ってるなら
来てほしい。僕にはさ。時間がないんだ。
限られた時間だから・・・会いたいよ・・じゃあね」

暗闇の中で、レネ・マーリンが流れている。
今日のレネ・マーリンは、哀しい。僕の心を見透かすように・・。

体も心もボロボロなのに眠れない。僕はエンゼル・ハートのDVDをラックから取り出した。
今では、ミッキー・ロークのセリフは全部入った。
・・・と、携帯が鳴った。僕の留守電が流れる。・・メッセージの声が流れた。

「・・・・まりあです。・・・」

僕は正気を取り戻し、携帯を取った。
「まりあ?」

「・・・・」

「今、どこ?」

「・・・ガクの部屋のドアの外・・」

僕はいつもなら15歩の距離を、3歩で飛び抜けたかもしれない。足がもつれた。
ドアを開けると、抜けるように白い肌の・・泣きはらした目をした、まりあがいた。

「ガク?大丈夫?」

僕は何も言えなかった。
会ったら言おうと思っていた数々の愛の言葉も、真っ白な頭の中に消え去り・・・、
両手で静かに、まりあを包んだ。


back next