月夜の番人 10
―10― そして、5年の歳月が流れた。 僕は・・466歳になっていた。 「限りある時間」を毎分、毎日、毎月、毎年、緊張感を保ち続け、夢を一つ二つとかなえ続けた5年。 僕が以前作った「夢達成リスト項目」も結構、塗りつぶされた気がする。 アジアツアー、そしてヨーロッパツアー、そして5年の間に映画は3本撮った。 「あとは、全米ツアー」・・と噂されているが、未だにアメリカは手強い相手だと思っている。 レコーディングや撮影、クリエイティブな仕事をする上では、凄くやり易い国なのだけど・・。 僕は・・次のラジオ録音までの1時間をゆったりと過ごしたくて、局から離れようと外に出た。 ・・小雨が降っていた。タバコに火を付け、空を見上げると、遠くの方には青空が見えた。 Gackt 「すぐに止むかな?」 ・・と、道の向こうから、小さな男の子が僕の方に向かって走ってくる。 その男の子は、息をはずませながら、 子 「お兄ちゃんって、ガク?」 と・・、いきなり聞いてきた。 「そうだよ」と僕が応えると、 「ガク。これ直して?」 ・・そう言いながら背中にしょていたリュックから、腕の取れたガンダムを取り出した。 「うわ。懐かしい形だな〜。これ、君の?」 そう言いながら男の子の顔をのぞいて、びっくりした。 (僕の小さな頃にそっくりだっ) 「君さ。名前、何て言うの?」 「ノアだよ」 僕は慌てて、あたりを見渡した。 「ママは?ママは近くにいるの?」 ノア 「ママは死んじゃったよ」 僕は・・ガンダムを落としそうになり、慌てて持ち直した。 「いつ?」 「去年・・かなぁ」 僕は愕然とした。 「・・・ノアはどこに住んでるの?」 「フランスだよ。・・あ!ガク〜、好きな人いる?」 僕はしばらく沈黙を続け、静かに話し始めた。 「好きな人は、沢山いるよ。・・でも、 心から愛してるのは、ノアのママだと思うよ」 すると、ノアはびっくりした顔をして 「え?ガクはおばあちゃんが好きだったの?」 「え?おばあちゃんって?」 「あのね。僕ね。おばあちゃんの事、ママって言ってたの。 僕のおばあちゃんね。”おばあちゃん”って言われるの嫌いだったの。だから、ママ」 「じゃ、ノアを産んだ人は?」 「まりあだよ」 「じゃぁ、僕の心から愛してる人は、まりあだよ」 「ホント?!」 ノアは長いまつ毛をパタパタさせて、またリュックの中に手を突っ込み、 今度はクラッカーを取り出すと、空に向かって、ヒモを引っ張った。 パ〜ン!! クラッカーは気持ちのよい音をたて、紙吹雪と紙テープが空を舞った。 ノアの行動にびっくりしながら、空を見上げると、さっきまで降り続けていた雨は止み、 晴れ渡った青空の中に虹がポッカリと浮かんでいた。 そして、虹の下に続く、真っすぐ通った道の向こうに、女性が立っていた。 ノアは、大きな声を張り上げて、その女性に走り寄っていった。 「まりあ〜!僕の勝ちだよ〜!!」 僕は・・自分の意思と関係なく溢れる涙を頬に感じながらも、 段々、事の次第が読めてきた。 まりあは・・長年かかって、 あの物語のエンディングを僕に賭けていたらしい。 THE END |