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 月夜の番人 

−3−

キスの後、彼女はポツリと言った。

彼女 「不思議だわ。何か・・前にも同じ事があった・・みたいな」

Gackt 「僕ね。今、君がそう言うと思ってたよ。」

「え?」

「あのね。僕、よく分かるときあるんだよ。ビデオみたいに目の前に 
光景が浮かぶの。5分先に起こる事のね」


「凄いわ!」

「で・・、その予感を消す方法も最近、分かったんだ」

「例えば?」

・・
また、僕はキスをした。あまりのキス責め・・嫌われるかな?
でも、これが僕だから・・と頭の中で自問自答を繰り返しながら、僕は言った。

「あのね・・。こうして予感で観たことと違う事をするの。
さっき・・、また霊感体験の話をしようとしてたのね?僕。
だから、自分の中の予感ビデオを止めようかな!と思って、またキスしちゃった・・」


彼女は、またククク・・と笑った。

「今日は本当に楽しかった〜!・・そろそろ帰ります」
久しぶりに怖いビデオが観たくなったし」


「例えば、どんな?」


「悪魔ものがいいかな。あ、むか〜しの映画で気になるのがあったの。
”エンゼルハート”って言う映画。そうそう、今晩はこれを観るわ!」


「急がなきゃ、今日が終わっちゃうよ。・・それにその映画・・僕も観たいな」

「え?」


「いっしょに観ようよ。僕の部屋で。うちのシアター、ちょっと凄いんだよ!」

僕は、かなり興奮していた。彼女の返事も待たず、手を引いて、速攻、ビデオ屋へ。
そして速攻、タクシーを飛ばして、僕の部屋へと導いた。

だいたいの訪問者は僕の部屋に入って驚く・・。
多分彼女も、そうだろうと、ドアを開けると・・。

「ここが死神さんのお家?・・・わ〜〜!素敵。落ち着くわ・・」

ミニチュアダックスフンドのベルがいきなり彼女の腕に飛び込んだ事にも驚いたけど、
この部屋を”素敵”と言った彼女にも驚いた。

「この部屋に初めて入って”落ち着く”って言ったの君が初めてだよ」

「そうなの?私なんか、懐かしくて、もう涙が出るくらい・・嬉しくて」

そう言うと彼女は、豹柄のソファーに深く座り、両手を大きく伸ばして深呼吸しながら、
静かに語り始めた・・・。

「私ね。アフリカで生まれたの・・。7歳くらいまで居たかな〜。でね・・、
私、日光に弱かったのね。すぐ肌が赤くなって腫れるの。だから、小さい頃は、
夜しか外に出られなかったの。・・・マサイ族のジーダって男の子がいつも遊びに来てくれてね。
そうこんな風なジャングルの中に私専用のイスを作ってくれて、焚き火をしながら、
ずっとお話をしたわ。アフリカの精霊の話や、動物と会話するお話とかね。
黒豹の赤ちゃんを飼ってたこともあるのよ。エルって言う名前でね。
 ”お母さんが死んだから家で育てることにした”ってパパが連れてきたんだけど。
・・最初は良かったのよ。猫みたいだったし・・。
・・でも、ホント大きくなるのよ。黒豹だものね。
・・あ、やめる〜、エルの話してると涙が止まらなくなるから・・。」


僕は彼女の音色のような声と、語りに聞き惚れていた。

「あ、ごめんなさい。ずうずうしいヤツって思ったでしょ?
いきなりソファにドカって座って、とりとめのない話なんか・・。
でもね。いつもはこんなじゃないのよ。
初めて会う男性の部屋に入るのも初めてだし・・
私、日本に来てから、こんなに気持ちを開いて、おしゃべりした事なかった・・・」


「え?ずっと海外生活?」

「そうなの。17歳の時に初めて日本に来たのね。パパが亡くなったから・・。
ママから日本の話はいつも聞いてたけど、
最初は全然馴染めなくて、毎日泣いてたわ」


「じゃ、アフリカの次はどこに住んだの?」


「アフリカが一番長かったけど、あとは色んな国で暮したわ。
インド、中国、ニュージーランド・・・、オーストラリアとか」


「うわ〜、行ってみたいところばかりだな〜。でも、どうして?」


「父が民俗学の研究をしてたの。今ならインターネットですぐ調べられることも多いけど、
パパね。土着民族の人達の暮らしを肌で感じたかったらしいのね。
今になるとね。そんなパパの気持ち、分かる気するけど・・。
その頃は、引越しの度、ワンワン泣いたわ。だって、友達が出来たかと思えば、
すぐ引越しよ。それも、2度と会えないような場所にばかり行くしね。」


「じゃ、学校とかは?」


「ほとんど行ったことがないの・・。でもね。ママが教員免許持ってる人だから、
ママが先生。教科書は日本から取り寄せてね。スパルタだったのよ〜。
毎日バレエのレッスン2時間あるし・・」


「へ〜、バレエ踊るんだ」


「そう。3歳の頃からレッスン、始めたの。・・でね。発表会もあったのよ!」

「アフリカで?」

「(笑)マサイ族のお祭りのとき、チュチュ着て踊ったわ。笑えるでしょ」

「ビデオに撮ってなかったの?観たかったな〜。
そっか。じゃ、体、柔らかいでしょ?僕もね。体は柔らかいよ」


そう言いなが僕は、”つ”の字のブリッチを披露した。
すると彼女は「凄いわね〜」と言い、”つ”の字を通り越して、”○”の字になった。

「くやしいな〜。これやって負けたの初めてだよ」

・・彼女はまた、クククっと笑った。
そんな彼女を見ていると、また”あの衝動”に駆りたてられる。
(あの細い首をひねってみたい!)と・・。

・・彼女が言った。
「私の首をひねりたい?」

びっくりした。僕は絶句しつつ・・、ワインセラーからワインを一本取り出し、グラスに注いだ・・。
”5分後予知能力”が彼女に移ったのかな〜と思いつつ。
グラスを差し出すと、彼女は静かに言った。

「そろそろ、本当のお名前教えて?」

「僕の名前?・・・ガク・・だよ。君は?」


「私?・・・恥ずかしいな・・。名前を言うのって嫌いなの。」

「何だろう。・・・トメ?・・・太郎?」

「まりあ」

僕は絶句した・・・。今日は本当にびっくり箱だらけの夜だと思った。
窓の外には、大きな月。
窓からこぼれる緑の匂いを含んだ夜の風が二人を包んでいた。


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