愛 妻 弁 当


冷戦に突入して3日目の朝を迎えました。

実は昨日の夜、寝るために2階に上がる妻と娘に「おやすみ」の挨拶をしたのですが、いつものように妻は私の挨拶を無視。これに私がキレてしまいました。

私は家族として生活を形成する上で、挨拶というものは非常に重要だと考えています。これを無視すると言う事は、夫婦生活そのものの継続にも支障が出てくるくらい耐えられない事なのです。

何かが私の中で弾け、気がついた時はそばにあった机をひっくり返して怒鳴っていました。

「挨拶ぐらいきちんとしろや!!」

・・・一瞬の空白。その後、私の剣幕に驚いた娘の泣き声に混じりながらも、小さな声でしたが私の耳はしっかりと妻の声を聞きました。

「・・・おやすみ。」

・・・この一歩は非常に小さな一歩かも知れませんが、私にとっては明日につながる大きな一歩です。


もしかしたら明日中の夫婦平和条約締結までいけるかも知れない・・・。

・・・というわけで、今朝は昨日までとは違う何かを感じさせる朝となっています。


「おはよう」


なるべくいつもと変わらないように、気をつけながらの私の挨拶に、

「・・・おはよぅ。」

まだ硬さは残っていましたが、確実に昨日までとは違う返事が返って来ました。

さらに
「・・・お弁当作っておいたから・・・。」

全然予想していなかった、妻の一言にビックリする私。
しかしこれで、全ての謎が解けました。

なにも妻だっていつまでも怒っていたいわけではなかったのです。ただ仲直りのきっかけが欲しかっただけなのです。その点に気づかなかった私はなんて未熟なんでしょう。

完全に平和条約締結の見込みとなりました。後はお互い素直に謝れるように、仕事帰りに2人分のケーキと新作のビデオでも借りて、子供が寝た後で一緒に手をつないで見る事とします。


「ピンチが2人の絆をより強固なものにする。(by俺)」

この数日の出来事もいつか2人で笑い合える。そんな楽しい思い出話の1ページを彩る事になりそうです。


・・・しかし、そんな幸せな妄想に浸れたのはお昼まででした。

妻からの愛妻弁当を開けた瞬間、私は平和条約締結どころか、まだ戦争は継続していた事を知り、愕然とするのです。


・・・何これ・・・


・・・お弁当の中にギッチリと詰められた
「元・ぺヤング」の残骸たち。青のりと紅生姜まできちんとかかっています。

そもそも
インスタント焼きそばを弁当箱に詰めるなど誰が思いつくでしょうか。

平和条約締結の調印式は一瞬の間に阿鼻叫喚の地獄絵図に変わってしまいました。

・・・当然その日のぺヤング弁当は誰にも見せる事など出来るはずもありません。

弁当のふたで隠しながら食べるという行為に、
「まさに戦時中かい!」
というツッコミが私の胸にむなしく響いたのでした。




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