実はそんなに効率良くありません

 2004年、巨人はローズ・小久保・ペタジーニ・高橋由らを擁し、「史上最強打線」と呼ばれたが、このシーズンの優勝は中日だった。
 この打線、見かけ倒れの実は大して怖くない打線として今に至るも評判が芳しくない。
 本塁打中心の攻撃は非効率的であり、大量点をリードした局面でさらに本塁打で得点を加えるような、いわばムダ打ちが多く、真に必要な局面で効果的な打撃が行われなかったと言われている。
 これに対してお題目のように今年はスモールベースボールという言葉が使われ、まるで効果的な攻撃や勝利に直結する野球の代名詞となった観がある。
 例えば1990
年〜1992年頃の全盛期の西武。
 打線の全員に役割が徹底され、たとえ凡打に終ったとしても無駄なアウトにはならず、つなぐ野球の見本のような打線とされた。上手い進塁打や勝利に結びつく有効な攻撃を試合における重要な局面で行うことができたとされている。

 非効率なムダ打ちなどはほとんど無く、1点が欲しい局面などは心憎いほどの完成度で得点を奪っていった。なるほど、これならば1点差の試合には無類の強さを発揮したのも頷ける。130試合制引き分け有りのルールで3年連続80勝クリアは驚異の成績であり、効果的に勝利を重ねていったチームかもしれない。
  他に2005年の千葉ロッテなども(とある本によると)つなぐ野球又はスモールベースボールを体現したチームとして顕彰されている。

しかし、これらは何となく又はイメージでそのように伝えられているだけで、この事についての数的な検証又は正しく成立する証明にはお目にかかったことがない。
  これらの事が果たして本当に成立しているのかどうか。
  欲しい場面で確実に1点を奪うこと又は有効な攻撃をすること、あるいはスモールベースボールとはどういうことなのかという点について肝心の定義付けが無いという点を考慮しても、得点分布等により検証することはできる。
 例として全盛期3年間の西武、2005年のソフトバンクと千葉ロッテ、効率の悪そうな例として2004年の巨人、以上6チームをあげてみる。


1  最初は勝敗表と得点表

チーム 年度 試合 勝利 敗北 引分 勝率 H予想 R予想 得点 失点
西武 1990 130 81 45 4 0.643 0.629 0.619 634 487
西武 1991 130 81 43 6 0.653 0.669 0.656 624 439
西武 1992 130 80 47 3 0.630 0.639 0.628 658 495
巨人 2004 138 71 64 3 0.526 0.543 0.542 738 677
Sバンク 2005 136 89 45 2 0.664 0.630 0.618 658 504
ロッテ 2005 136 84 49 3 0.632 0.705 0.697 740 479

  すべて実際の勝敗及び得失点である。
  表中の「H予想」はヘンリー理論による勝率予想であり、「R予想」はRuns Per Win式による勝率予想。
  いずれも年間総得点及び総失点から導き出された理論上の標準的勝敗となっている。
  この表を見ただけで最初の話は怪しくなってくる。セイバー系なら頭に黄信号が灯るところである。
  まず全盛期の西武。1990年がやや高いというだけで勝敗予想式と実際の勝敗がほぼ一致している。勝敗に直結する局面で特別に得点を奪う能力などというものがあればこのような結果にはならないはずである。
  この時代の西武は戦術的・効率的に勝利をものにしていたというより、単純に戦力がケタ外れだったというだけのことと考えられる。
  2004年の巨人は勝率予想に比べて2勝ほど勝ちが少ないが、特に際立って非効率な数字とはいえない。
  比べて気になるのは2005年のパリーグ。
  ソフトバンクよりもロッテの方が得失点マージンが大きいにも関わらず勝率はソフトバンクが上。他の4チームが予想式から見ると標準的な勝敗になっているのに比べてこの2チームはかなり偏っている。
  得失点マージンから見てめったに無い偏り方であり、両チームの勝敗を取り替えて丁度良いくらい。
  ソフトバンクの異常な効率の良さと千葉ロッテの効率の悪さが目立つ。千葉ロッテの勝ちは9つは少ないと評価できるし、ソフトバンクの勝ちは5〜6多いと評価できる。
  勝つという点から無駄な得点を多く挙げていたのは2004年の巨人ではなく2005年の千葉ロッテの方のようである。

  ここまで得失点から見た勝利の効率を見てきたが、これに対して得点そのものの生産効率もある。得点をどのように勝ちに結びつけたかではなく、どのように効率的に得点を生産できたか。
  安打・四球などの攻撃ツールが同程度だった場合に、より多くの得点を挙げたチームを得点効率の良いチームとできるかもしれない。得点の分散と合わせて次表に掲げてみる。

2 得点分布・得点効率

チーム 年度 試合 得     点 失     点
得点 1試合
当り
中心値 5点以上
試合数
標準偏差 実得点
÷XR
失点 1試合
当り
中心値 5点以上
試合数
標準偏差
西武 1990 130 634 4.88 4 59 3.277 0.953 487 3.75 3 36 3.042
西武 1991 130 624 4.80 4 55 3.670 0.957 439 3.38 3 42 2.749
西武 1992 130 658 5.06 4.5 65 3.510 0.957 495 3.81 3 43 3.301
巨人 2004 138 738 5.35 5 70 3.372 0.963 677 4.91 4 66 2.973
Sバンク 2005 136 658 4.84 5 72 2.996 0.957 504 3.71 3 42 3.008
ロッテ 2005 136 740 5.44 4 65 4.352 1.029 479 3.52 3 42 2.567

  上表の「得点」は年間総得点。「1試合当り」は1試合当りの得点。「中心値」は全試合の得点を昇順又は降順に並べた時に丁度真ん中にくる数字。
  「標準偏差」は試合ごとの得点の標準偏差。数字が大きいほど試合ごとの得点のバラツキが大きいことを表す。
  「実得点÷XR」は、XRにより予想された得点に比べて実得点をどの程度の割合で挙げられたかを示す。大きいほど得点効率が良い。
  面白いのは千葉ロッテを除けば最も得点効率の良いチームが2004年の巨人だということ。しかしこの比率、「パークファクター・RC他からの小ネタ」の「回帰式についての問題・例えば広島の得点効率」を参照していただきたいが、相手方のエラーなど、ノイズが多く入るため、誤差を免れない。とはいえ、NPBではMLBよりもエラーとして記録されるプレーが少ないこともあって、千葉ロッテ以外の5チームの95〜96%というのは昨今、標準的な数字であるのも事実。
  ところで大量得点イニングは、エラーを含め大量の出塁を許された場合に出現する。言い方を変えると相手がアウトを取れない状態になっているとき。このように攻撃ツールがたまたま集中したイニングはイニング内のXRよりもイニング得点の方がはるかに大きくなる。
  要するに「馬鹿試合」と呼ばれるような大量得点ゲームは大量得点イニングを含みやすく、実得点÷XRの得点効率を高めやすい。
  1年くらいのデータでは偏りを避けられないが、ある程度の年数を計上した場合は同じXRでも大量得点ゲームを多く経験したチームの方が数字上の得点効率が高いという傾向が見られると思われる。
  一応1試合10点以上を基準にすると千葉ロッテの場合は25試合、ソフトバンクの場合は9試合であった。
  2005年の千葉ロッテは対楽天26対0の勝利や対横浜18対0の大量得点勝利などが実得点÷XRの得点効率を高めていたと考えられる。
  この結果であるが、もう一度上の表を見てソフトバンクと千葉ロッテを比較していただきたい。
  両チームの得点についての標準偏差(散らばり具合)の大差はもちろんのことだが、注目すべきは中心値である。
  千葉ロッテの方が総得点が多いにも関わらず得点中心値はソフトバンクが5に対し千葉ロッテが4である。つまり、ある程度多くの得点を挙げた試合数はソフトバンクの方が多いのである。
  例えば5点以上の得点を挙げた試合数はソフトバンク72試合に対して千葉ロッテ65試合。これは極めて重要なことである。
  年間の勝数は相手よりも多くの得点を挙げた試合数のことなのだから、多くの得点を挙げた試合数の多いソフトバンクの方が年間勝数が多いのは、投手力が同等なら当然のこととなる。
  勝敗、という観点で真に得点が多かったのはソフトバンクの方であるといえるかもしれない。
  とにかく千葉ロッテはかなり珍しい偏ったシーズンを過ごしており、勝敗の観点からは相当に効率の悪い戦い方をしていたという事になる。しかしこのロッテ、2006年シーズンは7月26日現在で得失点マージンがマイナスで勝敗は勝ち越しになっているところが面白い。
  なお、実得点÷XRの得点効率の表を紹介しながら、理由についての数的な詰めを全く行っていない本を最近拝見したが、ああいうのは実に精神衛生によろしくない。

3 点差について

チーム 年度 勝ち試合 負け試合
1点差 2点差 3点差 4点差 5点差 6以上 1点差 2点差 3点差 4点差 5点差 6以上
西武 1990 25 10 16 7 2 21 17 7 8 2 1 10
西武 1991 23 9 14 8 5 22 13 6 10 4 5 5
西武 1992 14 18 11 9 9 19 12 12 5 5 3 10
巨人 2004 18 16 6 7 6 18 19 13 10 5 7 8
Sバンク 2005 22 18 16 11 5 17 15 7 5 8 1 9
ロッテ 2005 19 6 9 13 7 30 12 9 11 6 1 10

上の表は勝ち試合と負け試合の点差をまとめたもの。さらにその傾向をまとめたのが下表である。

チーム 年度 試合 勝ち試合 負け試合
点差平均 中心値 標準偏差 点差平均 中心値 標準偏差
西武 1990 130 3.716 3 3.064 -3.422 -2 3.109
西武 1991 130 3.975 3 3.115 -3.186 -3 2.275
西武 1992 130 4.225 3 3.521 -3.723 -2 3.078
巨人 2004 138 3.831 3 2.969 -3.297 -2.5 2.559
Sバンク 2005 136 3.472 3 2.579 -3.444 -3 2.793
ロッテ 2005 136 4.976 4 4.129 -3.204 -3 1.979

  やはりこれもかなり印象とは異なる結果となった。1点差試合で自分達の年間勝率より良い勝率をマークしたチームは1チームもなし。The Hardball Times などで「1点差試合を勝ち抜く能力は存在しない」というコラムが発表されるゆえんとも言えようか。
  最も相手に点差をつけて勝っているチームはやはり2005年の千葉ロッテで、点差の平均4.976、中心値は4をマークした唯一のチームとなっている。1992年の西武も平均して4.225点と大きな点差で勝つチームであった。
  やはりここでも単純に戦力が他に比べて大きかっただけで、特に魔法のような勝ち星の取り方はしていないと言える。
  6点差以上の勝ち試合数2005年千葉ロッテ30、1992年西武22、1991年西武21 真に必要な得点を上手に挙げられる能力などが存在するのならこのような結果になるものなのかどうか。
  都合よく得点を別の試合に割り振ることはできないし、現実の試合でもTVの解説コメントどおりの効率良い勝ち星の積み上げ方などは無いようである。
  それどころか最も効率が良いと喧伝された1991年・1992年の西武は2004年の巨人よりも無駄に点差を広げた勝ち方をしている。
  その昔、社会主義全盛の頃、「米国の核は汚い核。中国とソ連の核はきれいな核」といった新聞の論調があったが、野球解説のコメントに引っ張られてこれと同様の「本塁打以外により得られた得点が正しい得点」的な考えが蔓延していないだろうか。
  本塁打により調達されたものであれ単打の連続で調達されたものであれ1点は1点。それ以上でもそれ以下でもない。
  また、本塁打を打ったからといって突然得点や勝敗の効率が悪くなるわけではない。
 これらの表から浮かび上がるのは秀でた攻撃能力を持つチームが、打っただけ順当に得点を重ねる、言わば当たり前の姿である。そこには魔法のような戦術上の利得は無い。 2004年の巨人についても攻撃方法がまずかったのではなく、単に相手に多くの得点を与え過ぎていたため、思ったほどには勝てなかったというだけのことであったようである。

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