同じことをやっているんですけど

今回はのっけから引用である。一行目から引用の話とは流石は怠け者。http://spreadsheets.google.com/pub?key=tfxmZvxUh9tsEoT02VsThGw&output=html
Naranja氏が発表された2009NPB投手関連データ。
各項目どれも非常に大きな情報量をはらんでいる。
特に今回のネタで注目したいのはG%やG−BABIP、L%といった右端の方の部分。
守備のレンジファクター評価にも関連してくる、非常に重要な項目。
例えばG%が異常に高い投手陣のもとでは内野手のレンジは過大評価につながりやすい事になるし、
投手のOF%が異常に低ければ、そもそも外野手は高いレンジファクターを記録しようがない。
RRFの日本版みたいなものを将来考案するとして、ここまでのネタが提供されていれば
使いようによっては補正の精度を飛躍的に高めることができる。

是非このままでお楽しみいただきたいのがG−BABIP、OF−BABIP、L−BABIPの3つである。
それぞれは、RRFによる推計などではなく、実際に飛んできた打球に対する対処の記録であり、
内野全体、外野全体といった分類方法を採用するならば、ゾーンレーティングの役割にまで一歩踏み込んでいる。
これは実際に発表される守備率の数字と異なり、「真の守備率」と呼んで構わないスタッツである。
例えばG−BABIP。内野全体にいくつのゴロが飛んできて、そのうちいくつの打球について守備側が防衛に成功したのか。
これはそういうスタッツである。
前にも書いたと思うが、いったん「エラー」だの「今のはどう見ても安打」などといった区分を頭から外してほしい。
当該の打者が打ち終わったときに、その打者をアウトにできれば防衛は成功、生きていれば防衛は失敗となる。
客観的な分類にこだわるならばこれは唯一の分類方法にも見える。
「たまたまアウトにするのが難しい打球だけが飛んできていたらどうするのか」
「たまたま自軍投手が打ちやすいタマばかり投げていたような場合はどうなるのか」
といった声が聞こえてきそうなものだが
打撃記録だってたまたま運の良い安打も含まれれば
たまたま自分の打席のときに甘いボールが来る割合が多かったことだって考えられる。
その場合でも打撃率は打撃率として計測され、投手の投げたタマが甘かったかなどは斟酌されず
1年間の結果を積み上げたものがスタッツとして発表されることになる。
実際に走者として生きてしまえば、他の経過を辿って走者となった場合と得点ポテンシャルが変わるわけではない。

中味を見ると、ラインドライブは守る側からして打たれた時点でダメであるらしいことが判る。
生まれた時点で守れるかどうかは運頼み。よほど運が良くないとアウトを得ることはできないこと
内野ゴロよりも危険なのは外野フライであり、内野を越せる程度の打撃がなければ相手に致命的なダメージはおそらく与えられないこと、
投手野手の責任分担で一つのポイントになるであろう「投手が許した強い打球の割合」は、
L%で間接的かつ部分的にではあるが判断が可能かもしれないこと。
全体を見てここいらあたりは見てとれる。予想はされたことだがファイターズのBABIPはどの項目も低い。

さて次に眺めて面白いのがこれ。
http://spreadsheets.google.com/pub?key=tooBi5FbHYc-lGCv-fzSXsw&output=html
ここでもBABIP関連の3項目を見ていただきたいのだが、守る側ではなく打つ側からの視点になっている。
阪神は打っているときにOF−BABIPが異様に低くOF%も高いとは言えない。
守っている時にはOF%が異様に低くOF−BABIPも高いとは言えない。
いずれにしても外野へのインプレー飛球により生み出される安打が異様に少ないわけで、かなり変わった環境にあることを窺わせる。
打撃結果でG−BABIPが異様に低いのが横浜で、2番目に低いのが広島。この2チームはL−BABIPも低いものとなっている。

さて、今回の本題としたいこのG−BABIP、関係ないように思われるかもしれないが以下の表をご覧いただきたい。
1死時と2死時の状況別BABIP2007年版である。無死の場合はサンプル数に問題がある状況が多いためこの2つに限った。

1死 走者
一塁 二塁 三塁 一二塁 一三塁 二三塁 満塁 走者有
babip 0.290 0.343 0.324 0.439 0.319 0.435 0.415 0.391 0.351
相違 0.053 0.034 0.149 0.029 0.145 0.125 0.101 0.061
2死 走者無 一塁 二塁 三塁 一二塁 一三塁 二三塁 満塁 走者有
babip 0.300 0.318 0.309 0.283 0.315 0.290 0.312 0.295 0.309
相違 0.018 0.010 -0.017 0.015 -0.010 0.012 -0.005 0.009

上の3行が1死での状況。下の3行が2死での状況。(註1)(野球人の錯覚・153P付録6改変)
BABIPはNPBの全試合において当該の状況で1年間に記録された結果。1万を越えるサンプル数の項目もある。
「相違」の項目は走者なしの状況で記録されたBABIPと比較してどの程度の乖離が見られるのか。
例えば1死三塁の状況で記録されたbabip は0.439 なので、1死走者なしの場合のBABIP0.290 と比較して0.149 高い、と見ていただきたい。
また、2死一塁ならば0.318 なので2死走者なしの場合の0.300 と比較して0.018 高いことになる。

さて、この表でまず目につくのは1死走者有りの異常なBABIPの高さであろう。
有走者すべての状況で無走者の状況を上回っているほか
最も高い1死三塁に至っては何と4割3分9厘。無走者の場合を1割4分9厘も上回っている。
多くの走者を背負う投手というものはそもそも力が落ちるか調子が落ちるかしているものだが、それを考慮しても異常である。
他にも軒並み高い状況というのは存在し、無走者を1割も上回るケースが4つもある。
ところが2死になるとこの状況は一変。
すべての項目でほとんど走者なしと変わらない打撃状況となる。
多少の上下動はあるが、1死の場合と比較すればほとんど誤差の範囲と言っていいかもしれない。
走者なしの場合と比べてBABIP がマイナス、すなわち安打が出にくくなっている状況ですら3つある。

実はこのBABIP 表、犠飛については打数から除外せず、出塁率の例に倣って単なる外野フライとして扱っている。
だから1死の時の打者に記録上有利になる点はない。
それでもこのような異常な変動である。もし犠飛を打率に倣って分母から除いてしまえばその差はさらに異常なものとなる。
上の表で言うと、例えば1死三塁と2死三塁では1割6分6厘の大差。
インプレー打球が安打になっている確率は、1死時が2死時の1.5倍なのである。
これだけの異常について疑問を感じられないだろうか。

何故突然有走者になったとたんにBABIP がハネ上がり、2死になったとたんに落ち着いてしまうのか。
走者からの働きかけにより投手が投げにくくなり、それで打者が助かっているのだろうか?
ないとは言えない。しかし、爆発的にBABIP が上がっているのは三塁の状況なのである。
例えば満塁の状況でそんなに投手が走者に気を取られるものなのだろうか?
もしそうだとして、2死になったら突然気を取られなくなるのは何故なのか?
そもそも2死一塁が走者の最も走ってきやすい状況なのではないか?この状況で一番ハネ上がるならまだわかるが現実はそうなっていない。
「打者が燃える」「勝負強い打者がいる」とした場合もそうである。
2死になるとこの打者は急に燃えなくなるのだろうか?2死になると能力が発揮できないのを「勝負強い」と言えるのか?

これは一部にはスクイズの警戒などもあるだろうが、最大の要因は守備位置、特に内野の前進守備にあるのではないだろうか。
投げる側の都合と、打つ側の都合ではなく、守っている側の都合。表を矛盾無く説明できるのは唯一その考え方。
例えば1死二塁と1死三塁では後者のBABIP が1割1分以上も高いが、2死になったとたんにこの関係は逆転してしまう。
こうなると、スクイズの警戒や、内野の前進守備のオペレーショナルリサーチを見たくなるのは人情でもある。
確かに「この三塁走者を還してしまえば即負け」の場面だってあるだろうから一概には言えない。
しかし、原則として「アウトを渡して走者を生還させようとする攻撃を阻止すること一般」の利益と、
「特殊な守備隊形を採っていなければ阻止できた安打を許してしまうこと一般」の損失を
正確に把握できていなければ、せっかく立てた守備プランも全くの的外れになってしまうのではないか。
オーバーマネジメントの一端が顔をのぞかせている、なんてことはないだろうか。
なお、XRの数式の一部(0.50×単打+0.72×二塁打+1.04×三塁打+1.44×本塁打)も、
このような塁上の走者の状況により変化する打撃状況の影響が一部反映されているようである。
無条件に走者と打者走者が生還する本塁打になれば三塁打との差が0.4になるのは当然だが
単打と二塁打の差異が0.22に過ぎず、これが二塁打と三塁打の差異は0.32となる。
見た目とは異なり、各塁間の距離が野球というゲームの中では異なっていることが、XRの式にもBABIPにも現われていることになる。
たまたま1死で少なくとも三塁に走者をおいて多くの打数を重ねた打者(さらに言うと四球を取らない打者)は得点圏打率がハネ上がり
2死で得点圏に走者をおいた局面で比較的多くの打数を重ねた打者は得点圏打率が上がらず
前者は「勝負強い」という風評が立ち、後者には「勝負弱い」といった風評が与えられる事態も過去にはあったかもしれない。
前者は見た目と異なり意外とチーム得点の増加に寄与せず、何故チームが多くの得点を挙げられないのか不思議がられるケースもありそうだ。
なお、古くから言われた犠打や進塁打で進めて中軸で還すセオリーは、強い打球を放つことが難しかった時代には当然のことだったかもしれない。
外野を越したりする打球は難しい。ならば少しは打てそうな打者の時に、できるだけ内野に前に出てきてもらわなくてはならない。
そのことを考慮し、経験から導き出された戦術だろう。考案された時点では正しくもあっただろう。
しかし現在、この攻撃セオリーが正しいのか不明になっているにも関わらず守備側までもがこのセオリーを前提として動き、
そのことによって逆にこのセオリーを正しいことにしてしまっているようなことはないだろうか。自己実現的予言。

以下は2007年の得点期待値から、走者が少なくとも三塁に居る場合に、アウトを渡して走者を迎え入れた時の損益と、
安打を許してしまった場合の損益である。安打の場合、二塁走者が生還する確率は50%とした。(BT得点期待値表改変)

最初の状況 アウトを渡して得点 最初の状況
から単打の
損益
得点した後に
残った状況
得点期待値
損益
1死三塁 2死無走者 0.13 0.51
1死一三塁 2死二塁 0.13 0.87
1死一三塁 2死一塁 0.02 0.87
1死二三塁 2死三塁 0.03 1.01
1死二三塁 2死二塁 0 1.01
1死満塁 2死二三塁 0.05 1.19
1死満塁 2死一二塁 -0.19 1.19

この損益実現表を見ると、スクイズなど、アウトを渡して走者を生還させる行為は、攻撃側のBABIP が高まるという代償を払ってまで
最大限の警戒をすべきプレーなのかという疑問が残る。
最初の状況から、本来であれば許してはいない安打を(一応全部単打として計算)許してしまった場合の
攻撃側に発生する巨大な利益を考えると尚更である。
確かに終盤の少得点差のゲームでは話は変わってくるだろうし、守備の変化に応じて攻撃側の対応も変わってくるだろうから
全く警戒などしない、などという選択はかえって損失を招くと考えられるが、
現在の守備の常識は本当に正しいのかどうか、現行の戦術をどこかで一回見直してみる必要があるのではないだろうか。

この前進守備、1死三塁の場合はまだわからなくはない。
BABIP が1割5分上がるにしても6回か7回に1回余分な安打が発生しているに過ぎないから。
アウトを与えて生還させた場合の攻撃側利益も比較的大きなものであるため、見合いのものと言えるかもしれない。
問題は複数走者の場合である。
1死二塁三塁の場合、内野ゴロで三塁走者を生還させた場合(一塁アウト二走三進)の守備側の損失は期待値にして0.03である。
これに対して前進守備を採らなければアウトにできた打球を安打にしてしまった場合は約1点の損失を被る。
306打数で相違が0.125なので、おそらくは前進守備により38.25本ほどの余計な安打を許したことになる。
このことによる守備側期待値の毀損はすべてが単打で、二塁走者の生還確率が5割だったとして約38点である。
二塁打だってあり得るので実際はもっと大きいだろう。
前進していれば進まなかったはずの走者を進めてしまう損失よりも、
本来生まれていなかったはずの走者を生かしてしまうほうが致命的な損失に繋がりえるのだ。
複数走者時の極端な前進守備は、よほど特殊な状況下にない限り採用には慎重になるべきであろう。

2008年と2009年にワールドシリーズを戦っているフィラデルフィア・フィリーズの守備は、
どうやらこのような考え方を実演しているらしい場面を何度か垣間見せてくれた。
マニエル(本来はマニュエルなんだろうが日本ではマニエルだよね)監督は相手方の三塁走者の生還よりも
本来なかったはずの出塁を許し、それが次の得点につながる事を恐れる、マクロな視点を重視しているようだ。
そういえば甲子園の高校野球においても無死三塁時の得点期待値が2を越えた大会があった。
サンプル数が少なくデフォルメされた結果という事情はあるが、典型的な例である。最初に居た走者が1人なのに失点は2。
余計な走者を生んだあげくに、多くの場合はその新しい走者に本塁を踏まれていたのだ。(註2)

さて、ずいぶんと回り道をしたが、ここで最初の横浜ベイスターズのBABIP に戻る。
確かに能力が不足なのかリサーチが不足なのか、弱いゴロを量産してしまったのも事実だろうが
低いBABIP を記録した理由のうち、かなりの部分はチーム出塁率が脚を引っ張っているものと考える。
今年の横浜は過去20年間のNPBのどのチームよりも低い出塁率を記録した。この間、2割台の出塁率は2チームしかない。
上記の状況別 BABIP を考えるとき、横浜の各打者はチーム全体の極端な低出塁率から
「出塁率・打率の稼げるオイシイ場面」に遭遇することが他チームの打者に比べると稀であったことは明らかである。
そして1人の出塁はこの表に対して1人分の影響で終わることは少ない。
無死で二塁に出塁した選手が居たとして、次の打者が凡打に終わったとしてもさらにその次の打者は
1死二塁か1死三塁の状況に遭遇することになる。やはりすべての始まりは出塁である。
今シーズンの横浜の各選手がおかれた状態は打線全体で招いたことであり、自分自身も他の打者に対して
その原因の一端を担っていることになるわけだが、中には不調とは言えないにも関わらず満足な結果を残せなかった選手もいるだろう。
打者が相互に連関して、このような変わった結果を導き出してしまったようだ。
結果のすべてが自分のせいだと言うのは自分自身の過大評価なのかもしれない。

(註1)
他に面白いのは無死及び1死における走者一塁・走者二塁・走者一二塁の場面が同じアウト数なら他のシチュエーションよりかなり低いこと。
これはフォースアウトという無視できないファクターの有無もあるが、
打者が併殺を恐れることや、進塁打を意識したことによる負の影響は考えらないだろうか。
無死の表は載せていないが1死と同じ傾向である。

(註2)
ただし、高校野球においては力量や試合形式などの点で異なる事情があることも忘れてはならないだろう。
得点期待値上、あってはならない損失を被ったのも事実だが、サンプル数の問題もある。
この表はあくまで2007年のNPBに関するもので、高校野球についてのORを行うのならまた別の方法論が必要である。

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