守備指標について:2008=BT記事に関する能書き

これまで様々な守備指標について書いてきたところではある。
今年の守備指標を算定した結果や、その後に得られた情報などにより考えたことを少し。
特にデータスタジアム社のご協力により、過去には得られなかった守備記録を閲覧することができ、過去の守備評価とは少し異なる、より進歩したものができたと考えている。特に一塁手守備などは過去にはその守備力の多くがブラックボックスの中にあった。今回は過去に手がつけられなかった部分、すなわち3→3アウトの項目を確認することにより、かなり実像に近い評価ができたと考えている。
この結果、以前にエントリーした「私的表彰」の内容とは一部に評価が変わっている選手がいることはご承知願いたい。 まず、プラスプレイについては特に目新しい話題は無い。
 特に問題としたいのは加重である。1プレイの増減を得点化する際の価値。
 小ネタの2「守備力評価について(たぶんその1)」でも、問題は1つのアウトがどの程度の価値を持っているかであり、その決定版はまだ発表されたわけではないことを書いた。拙サイトでは一応、過去の選手の守備スタッツを得点化する際に0.47を採用したがやっぱり決定版とは思っていない。現にMLB関連で発表される数字には幾通りものバリエーションがある。
 今回特に感じたのは刺殺と補殺の加重の間に差が必要であること。
 特にグラウンドボールの場合、一塁手については別として、他の内野手には補殺を重く、刺殺を軽く評価するような加重が必要である。
 確かに、ベースカバーの巧拙が全体のプレーに影響を及ぼすであろうことは否定できない。しかし、例外的なプレーを除きプレー成立の比重はその多くが補殺の側にかかっている。
 打者のバットを離れ、フェアグラウンドに飛んだ瞬間に「打球」は生まれる。そしてこの打球、アウトとして生まれてくることはないし、安打として生まれてくるわけでもない。すべての打球はアウトでも本塁打でも、もちろん四球でも三振でもない「その他の打球」として生まれてくる。
 例えばMLBにおけるイチローのクリーンヒット。強烈なライナーが遊撃の二塁寄りを抜けていった、とでもしようか。「どう見ても」遊撃手には取れない、まあ普通は完全なベースヒットである。でも、この「どう見ても」はその時に守っていた遊撃手と打球の位置関係を何となく見て主観的な判断を下しているだけである。その遊撃手が追いつけないというだけで他の遊撃手が追いつけるかどうか、再現して確認する方法はない。遊撃手がどこを守っていたのかにも結果は大きく影響されるが、この守り位置は一様ではない。この「明らかなヒット」がたまたま正面近くで捕られ、「明らかな内野ゴロ」に化けたとしてもファンの間では何事もなかったように単なるアウトとして記憶されるだろう。同じ遊撃手が同じ打者と相対しているときすら、遊撃の守備位置が予め定まっているわけではない。生まれた瞬間に安打に分類されるべき打球のコース・強度は予め定まっているわけではない。
 この中で、ある守備者はより多くの打球をアウトのカゴに入れることができるかもしれない。
 このとき、「未来の定まっていない打球」をアウトのカゴの方に入れることのできた利得とはどの程度のものなのだろうか?暫定的に採用した0.47の加重とは矛盾するようだがTHTなどの誌面によれば以下のような算定が考えられる。
 最初に、「打球一般」は守備可能な打球に限れば約0.11の得点期待値を持って生まれてくる。この時点ではまだアウトかセーフか定まってはいない。ここでは誰でも取れる内野フライだから、だとか誰にも取れないクリーンヒットだから、といったような分類すら「先走り」である。すべてはいったん「打球一般」のカテゴリーに入れる。 これを「アウト」のカテゴリーに分類することに成功した場合、その打球はマイナス0.09の得点期待値と評価されることになる。
 0.11をマイナス0.09に変更したため、相手方に0.20の損失を被らせたことになる。
 また、この打球を「出塁」のカテゴリーに入れてしまうと0.11の得点期待値だったものを0.5に変更してしまうため、今度は守備側が0.39の損失を被ることになる。さらに、相手方の打席は自動的に1つ加算されることになるため、この打席の得点期待値0.12を勘案すれば0.51の損失となる。
 この結果、能力の高い守備者がアウトを奪うところ、能力の劣る守備者が出塁を許してしまえば0.20プラス0.51で0.71の差となって現われる。
 ただし、この0.71の数字は補殺を奪った者及び刺殺を記録した者にシェアされるべき数字であり、両者(アライバのようなプレーでは3者)合計での利得がこの数字になる。
 ところが、外野が飛球を他の選手より多く獲得したとなると、この数字は外野手一人の責に帰することになる。
 今後、内野刺殺(送球捕球)・内野刺殺(飛球捕球)・内野補殺・3人関与の内野補殺・外野刺殺・外野補殺といった具合に細かくカテゴリーわけした上でそれぞれ異なったRuns Valueを構築する必要があるかもしれない。しかしこれも遠い話である上に個人の能力を逸脱した作業になりかねない。飛球・ライナー・ゴロなどプレーを細かく分けすぎてしまうと単年度ではサンプル数の問題が発生してしまうこともある。慎重に運ぶ必要はあるだろうが、いずれは完成させてみたいものだ。
 いずれにしても、この1プレー当り0.71の加重はチームとして獲得したアウトに対する評価である。個人に対する評価についてもまず最初にチームとして1年間に計上したプラスマイナスを定め、その中で守備に対する貢献をシェアする形にならざるを得ない。でないと、ヘタクソが7人の中に標準的な選手が1人混じっていた場合、この1人がとんでもない名手と評価されることになってしまう。

 さて、前振りはここまで、ポジション別に気がついたことで誌上で発表されていないなどを少し。

内野手 

一塁手 二塁手 三塁手 遊撃手
氏名 守備得点 氏名 守備得点 氏名 守備得点 氏名 守備得点
内川 聖一 16.60 田中 浩康 21.11 中村 紀洋 14.79 金子 誠 26.09
フェルナンデス 5.38 田中 賢介 12.55 村田 修一 10.68 鳥谷 敬 17.37
小笠原 道大 5.23 本多 雄一 10.59 草野 大輔 4.26 梵 英心 10.63
小久保 裕紀 3.86 仁志 敏久 10.36 今江 敏晃 1.62 坂本 勇人 6.02
畠山 和洋 1.89 東出 輝裕 10.34 松田 宣浩 -0.89 中島 裕之 5.52
ブラゼル -0.93 平野 恵一 5.85 中村 剛也 -2.05 大引 啓次 4.89
二塁手
 他サイトでも早くから数値が高いとの呼び声が高かった田中(ヤクルト)の評価はおしなべて高かったようだ。私の指標でも堂々の1位である。少々残念だったのはここしばらくの間、高いままだった東出の能力がビジュアル的に驚くようなものにならなかったこと。順位でつけた場合の欠点でもあるが、結局5位と評するしかない。すぐ上の3人とはほとんど変わりがなく、このあたりの順位変動はちょっとした方法の違いで顕著なものになってしまう。これが初めての試みであり、昨年又はそれ以前の数字を今現在でも見ていないファンが多いことになるが、東出が今年打撃でブレイクしたインパクト以上に守備能力が高いままでいることを表現できなかったことが重ね重ね残念である。
 ソフトバンク・本多を初めとして新しいメンバーの台頭がある上、年齢的に近いうちメンバーの入れ替わりが予想される球団も多い。印象で語るような場合にも勢力図が入れ替わる時期に来ているのかもしれない。その中で、二塁手としてはかなり高齢の部類に入りながら、浦島太郎的なカムバックを遂げる井口の守備成績が、シーズン終了時どうなっているのかは最大の関心事のひとつである。
 NPBでは守備の影響は過大評価され続けてきた。守備の良いチームが勝たなくてはならないというドグマが強すぎるためか、時には優勝したチームの守備を遡って「強力な守備」と評するようなことが行われてきた。
 今シーズンは二塁手に限らず、下位チームは上位チームと同等、またばそれ以上に上手く守っているケースが多いことも強調しておきたい。

遊撃手
 金子や梵が歴年の名手であるが、単年度の数値であってもそれをコピーするような結果になったことは何よりである。井端の数字のように、過去数年の結果とは逆の数値が検出されてしまった場合ばかりでは誤解を招きやすいと心配していたところである。記事では中島の数値が並みのものであったことが言われていたが、レギュラーの座を奪ってからはマイナスのまま推移してきた選手であり、今年は守備面で改善があったことも評価しておきたい。
 さて、問題の井端。たまたま初めての企画として数値化された結果が全員一致の最下位ということで、記事の話題性ということでは大功労者であるが、本人から見ればこれはかなりツカんことになる。何せ、数値の上でも印象でも、過去何年も「最悪のシーズンでもプラスを計上」「良いシーズンにはリーグトップ」を繰り返してきた人である。今年はある意味アクシデントのシーズン。何があったのだろうか。
 一つには守備に関する「流通している誤解」がある。守備は鍛えれば鍛えるほど上達し、好不調の波が存在しないような錯覚が蔓延している。実際は守備の衰えは一般に考えられているより早くやってくる。鍛えるための時間などそう長くはなく、自分は鍛えて上達しているつもりでも客観的には維持が精一杯か逆に劣化していたりする。また、打撃同様に好不調の波は存在する。同じように人間がやっていること、打撃と同じように好不調の影響が無いと考えるほうが不自然であろう。
 また、「負傷のシーズン」には肉眼では判別できなくとも、爆発的に数字を下げる例が過去のNPBにもMLBにも散見される。一見上手く負傷をフォローできたように見えても、数値はごまかせない、ということなのだろうか。昨シーズンの井端の場合、「加齢」と「負傷」のどちらか、あるいはその両方が考えられるところである。
 このうち、理由が「加齢」の場合、影響は深刻である。回復の見込みが薄いことを意味する。
 私としてはかなり主観的な話になるが、負傷が理由、又は両方が理由だが負傷の方が比重が重いと考えたい。
 負傷が理由だった場合、「この選手は手傷を負っています」「負傷をおして出場していますが持ち前の能力だけではカバーしきれていません」と数値が語っていることになる。この方が余りにも突然の失速に対して説得力があると考えるし、また現実に今年は2度の大きな負傷があった。
 例えば前半戦、ジャイアンツの小笠原が負傷にも関わらずチーム事情により強行出場を続けていたことがあった。打撃成績は本人としては悲惨なもので、特に始動を早めなくてはならない事情(ヒザ負傷)から、左投手に対しては致命的な弱みを抱えていた。
 これと同じような事情が井端にあったのではないか。チーム事情からショートの位置を長く他人に任せることはできない。結果、小笠原と同じような経緯を辿り、守備の客観的指標が存在しないことから印象では「名手」のままであった。客観的指標が存在しなければ「今のは○○が処理できなかったのだからしょうがない」は堅い呪縛力をもって流通することになる。
 さて、ここからが問題なのだが、数字はどうあれ、実際に井端は大きな負傷を抱えてシーズンを過ごしたのは事実だ。数字の方でも過去にはあり得なかった数字が検出されてしまった。数字を見なくとも守備は全身運動の度合いが高い事は明らかであり、これで能力をフルに発揮できていたとは常識的に考えにくい。しかしゴールデングラブ投票は井端に集中してしまった。何故なんだろう?
 思い出すのは北京五輪。新井の骨折である。星野監督に非難が集中する一因となった件だ。
 この件では「星野監督の見る目を非難すること」とは違う側面が気になっている。
 あの時は多くの資金をかけて選手を分析した上、日常的に複数のコーチが取り巻き、その上無数のマスコミ諸士が多数、一日も欠かさず鵜の目鷹の目で記事ネタを探していた。何かあれば即座に記事にすべく、番記者も送り込んでいた。代表として集結する前には所属する球団の首脳陣が毎日当該選手を見ていたのは当然のことだ。
 プレーするプロが二十数人いた。コーチングのプロも居た。記事を書くプロも有り余るほど居た。みんなその慧眼では私など及びもつかないであろう人たちである。なのに、誰か「新井は現時点で既に深刻な負傷をしているおそれがあり、とても能力のすべてを発揮できる状態ではないので外すべき」と語った者が一人でも居たんだろうか?
「だから星野監督に非は無い」と言いたいのではなく、これは肉眼による判断の限界を示してはいないだろうか?これは遊撃に関するゴールデングラブ投票と同じタチの話なのではないか?
 結局一塁で新井はゴールデングラブを獲得したようだが、BTの順位づけでは下位に沈んでいる。私の評価でも、前半戦ヒザに負傷を抱えた小笠原よりも7ポイント低い。下位ウッズが自分以外の選手の数値を底上げしてしまったような状態の中で、三塁可能な選手としては正直かなり低い数値であり、指標から負傷を表す兆候はあったとも言えるのだ。

一塁手
 過去にはあんまり書いてこなかった一塁手。それもそのはず、捕球能力といったブラックボックスや、3→3アウトの数といった関門があったのだ。今回、3→3アウトの数をデータスタジアム社から調達できたことにより、せめて補殺能力や打球を処理する能力については把握できたと思われる。で、あのような記事・レーティングになった。
 今回、パシフィックリーグについては目新しいものはない。各球団の守り方や環境に差がなかったせいか、数値にも目立った相違は見られない。DHを除けば比較的守備の苦手な者が守るポジションとしてはこのようなものかな、といった程度で、成績は0ポイント近くに集中している。そもそも一塁守備でそんなに大きな利益を計上できるとも思えない。もしそうであるならば、各球団はもっと守備に特性を持った選手を起用してくることだろう。
 実は面白かったのはセリーグの方なのだ。
 当然のことながらセリーグにDHはない。負傷していたり守備が苦手であるという事情を抱えながら、代打としてではなく試合に出続けるとしたら、セリーグでは一塁か左翼を守るしか方法がない。たとえ守備の負担が小さい一塁手とはいえ、負傷を抱えていれば能力をフルに発揮することはできない。この結果、このような負傷者が出場し続けたシーズンはこの2ポジションではかなり「外れ値」を検出しやすいことになる。
 セリーグの一塁手で代表格はウッズ。私の見慣れたパリーグならまずDHに回っているだろう。レギュラー一塁手はリーグ全体で6人しか居ないのだ。彼が大きなマイナスを計上することにより、相対的に他の一塁手のハードル・平均値を下げてしまった。次に骨折していた新井。ヒザを負傷していた小笠原。広島の栗原は確認できていないがチーム事情からかなり変わった状況下にあったと考えている。これはシーボル(三塁)の数値も振るわなかったことと関係付けられ得る。(ただし、単なる不調・偶然の場合もないとは言えないのでお含みおきを。)ともあれ、まともに守れ、普通の数値を記録することが出来うる環境にいたのは内川一人だったのかもしれないのだ。このために内川のプラス数値は非常に大きなものとなってしまった。負傷の小笠原でさえプラス5ポイントを記録しうる環境である。普通のシーズンは一塁というポジション、こんなに大きな差異を記録しうるポジションなのか疑問が残るところだ。
 左翼で和田が10得点を超える利得を計上したのもこのような事情が少しは影響している。(ラミレスなどの存在)
 打撃におけるXR+やRC+はライバルがリーグ全体で約50人、出場している全員がライバルと言っていいためカタい数字になる。
 これに対して守備の成績は、同リーグに限るとしたらライバルは多くて5人に過ぎない。例えば5人のうちの3人が負傷を抱えるなどの事情もちであったのなら、リーグ全体の相対的な守備力地図はかなり奇妙な状況になってくるであろう。このへんの事情が、守備についてはやや移ろいやすい数値を検出しやすい理由にもなっている。

三塁手
 今年のパシフィックリーグ三塁手に飛びぬけて好成績を記録した選手はいない。実は外野と同様に控え選手の数値の方が良好なものになっているチームの方が多いのだ(楽天除く)。このことは当然のことながら、守備固めに出てくる選手の守備能力が高いことと、守備能力だけではレギュラーを取ることが難しいことを意味している。三塁手が、守備力を優先するより打撃を優先できる攻撃的ポジションへと変化して30年程度の年月は経過している。
 さらに全体の数値は+−ゼロに向けて集中する傾向を見せている。西武中村オリックス北川のように攻撃優先で起用される選手も全体の守備イニングのうち多くの割合を占めていることから、もう少し成績がバラけても不思議はないところだが、守備機会の減少は大差をつけることの難しさへと繋がっているのかもしれない。
 守備能力の高さを言われる北海道日本ハムだが、小谷野の数値はリーグで最も低くなっている。他ポジションとの兼業では無理も無いところではあるが、改善することができるのか、2009年度は誰が守るのかも含めて興味はつきない。
 レギュラー定着年に極めて高い数値を検出したロッテ・今江。しかしその後は平均的レベルで推移しており、2008年も楽天・草野に続くリーグ2位となった。控え選手の数値の方が高止まりしている現状、+−ゼロ近辺、又はプラスを長い期間に渉って維持することは難しいことなのかもしれない。
 セリーグは中日・中村が最高の守備力を見せた。過去数年間とても良好とは言えない成績であったものが、久々の首位となっている。プラスの数字も常識的にはかなり大きい。本人の体調が良好であったことや、もしかすると多少の幸運はあったかもしれないが、それでもGGにふさわしい内容である。数字が大きくなった理由は他チームでは他ポジションからの転入組が中心だったり、1年間三塁手を固定できなかったりしたため、パリーグの小谷野に相当する事情が多くの球団にあったのかもしれない。元から専業の横浜・村田も同様に、守備機会の少ないポジションとしては異例の大きなプラスを計上している。
 表むき守備が理由で放出となった中村だが、今回のリバウンドが2009年以降も続くのか、非常に興味深いところだ。

捕手
 さて問題の捕手。
 BTの原稿で最初に受け持ちを決めたときに「どのポジションでもいいですよ」とか言ってたら先方に「それでは道作さんには捕手と一塁手をお願いします」なんて言われた。
 「うわっエグいのばっかしじゃん!」と思ったが勝手に期待されていることに決めて作業にとりかかる。ご存知の方もおられるだろうが、内野についてはある程度先人の研究でメドは立っている。外野についてもアームレーティングがあればある程度の方法論ならすぐにも出る。ところが、この2ポジションは+−システムかZRなしでは確たる数値を導き出すのは難しい。特に捕手は一から独自に評価方法を構築するようなものである。ともあれ、以前に守備力のページで捕手の守備について少し考えていたことを幸いに、内容を少し改めて作成していくこととした。
 問題はすぐに現われた。以前のものは守備イニングが得られない前提で、チーム全体の捕手の守備力を求め、レギュラー捕手の能力を推計するものであった。この場合、大半の試合で一人の捕手が守っている場合は問題ないが、半々もしくはそれに近いような出場シェアリングになっていた場合に個々の守備力を定めるのは難しいことになる。チーム全体の能力が平均程度と出た場合でも、Aの捕手は非常に優れ、Bの捕手はかなり劣る場合だって考えられなくは無い。守備イニングが得られれば、それに応じて正確な結果を求められるのは当然のことだ。
 また、今年は能力が接近していたシーズンだった。今回は差のつきやすい方法を採用した(注1)にも関わらず、各チームの捕手がめったに見られないほど接近した結果を残した。このために過去の方法に関する問題も一部浮き彫りになっている(注2)。
 一応首位は阿部慎之介であるが、とても有意な差とは言えない。加重によっては簡単に順位変更の起きる程度の差であるため、今シーズンについては記事通り、ほぼ横一線の結果と考えている。
 このポジション、2009年シーズンについては地味ながら興味深い話題が多い。
 2008年、本人としてはやや低い数字を記録してしまった里崎の巻き返しはあるのか。危険ゾーンといっていい年齢に差し掛かった矢野・谷繁は無事に一年を過ごせるのか。細川はプラスを維持して名捕手と呼べる存在に近づいていくのか。鶴岡(F)はレギュラー捕手として今年も起用されるのか、また、リーグ内でも大きなプラスを計上することに成功するのか。レギュラー定着後、世評に反してチームに利得を与えてきた阿部の能力は負傷の後も継続させられるのか。
 最後に、記事でも少しだけ触れた「日本球界におけるリードの過大評価」については、拙サイトで過去に触れてきたところである。いずれ機会があれば発表してみたいものだが、そのチャンスはいつか訪れるのだろうか。

捕   手
氏名 守備得点 氏名 守備得点 氏名 守備得点
阿部 慎之介 5.81 細川 亨 3.92 藤井 彰人 1.87
相川 亮二 5.37 矢野 輝弘 2.74 里崎 智也 1.12
嶋 基宏 4.45 高谷 裕亮 2.48 石原 慶幸 0.86

(注1)
 これは「ホールド」の評価方法についてである。攻めている側が捕手の阻止能力を恐れて盗塁の企画を自重すれば守備側に利益があると認められ、これに従来は0.03の加重を与えていた。
 今回は記事のルールで500イニングをレギュラーのボーダーラインとした。このルールに従い入力していくと、少なくとも今シーズンに関しては、これに達していない捕手やホールドを多く記録したと評価できない捕手に関してはやはり相当に阻止の確率が落ちることが判明した。阻止能力が落ちると見られた場合にはベロベロにナメられる様子や、能力が落ちる捕手はやはり重用されていない様子は客観的に見て取れる。取替え可能なレベル(リプレースメントレベル)の捕手の能力を勘案して、今シーズン用に0.1を超える加重を採用することとした。かなり差のつきやすい評価方法であり、意欲的な試みのつもりだったがそれでもこの少差。この件については長いスパンで追跡調査を行い、さらに数字を固めていく必要を痛感した。
ちなみに1992年の古田は24.28をマークしている。

(注2)
 これは失策及び捕逸、特に失策に関する事柄である。
 拙サイトでは捕手に関しては失策のスタッツが恣意とばかりは言い切れないとして、重回帰により得られた0.53の加重を採用した。
 ところが、今シーズンのような成績の拮抗する年はかえってこれがノイズとなることを思い知らされる格好となった。
 失策は母数の小さなスタッツである。それゆえ年ごとの数字のブレも大きくなる。野球の神様から見て年間3個の失策をおかす実力の捕手だったとして、それが理由なく1個になったり6個になったりすることは全く自然なことである。このような母数の小さなスタッツは区切りとして1年間というのはあまりにも短かすぎるのだ。
 今シーズン、捕手のスタッツを得失点化した際に、私の計算では+3点台から−3点台の短いスパンに10人が集中している。このようなところに上記のような大きな加重を持ち、非常に揺らぎの大きい失策というファクターを持ち込んだらどうなるか?甚だしきは失策の数だけで順位が決まってしまうのである。はっきり言うがこれは守備の解析から言えば後退である。他の重要なスタッツが意義を半減させるか失ってしまうのだ。料理におけるカレー粉と同じことなのかもしれない。材料は何を使っても結局はカレー味。一生懸命揃えた材料の意味はどこへ行った?捕逸についても同様の傾向の困難は避けられない。
 ということで、今シーズンの数字については失策は採用を見送った。
 ただし、通算の数字については採用に問題があるとは考えていない。長いスパンであれば当然あるべき数字に収斂していくであろうし、前に書いたとおり捕手に関しては重要なスタッツとも考えている。
 単年度のスタッツとしては採用せずに、通算成績で加重をかけて採用するなどの工夫が必要かもしれない。

外野手
 2008年は外野手の守備について面白い事情があるようだ。どの年度に関してもこのような関係があるのか興味は尽きない(私はこれがすべての選手に共通する事項と考えているが)。
 進塁阻止や補殺評価の項目と、守備範囲を表現する刺殺評価の項目について、両方を高いプラスの数字で両立させている選手は少ない。両方をリーグトップの内容で守るというのは至難の技にも見える。

 実際に守る際に、この2つは矛盾する関係にあるのかもしれない。
 確かに、高い能力でリーグトップの守備範囲を誇る外野手が、進塁阻止及び補殺評価でも能力の差でプラスの数字を計上することは珍しいことではないのかもしれない。しかし、補殺評価及び進塁阻止能力の評価は守備範囲の数値と並べてみた場合にかなりランダムな結果となっている。
 これは、広い範囲の打球を処理しようとすれば、飛球・落ちた後のボールに関わらず返球に関しては相当に無理な体勢・位置で抑えるケースが多くなるためと考えられる。自分の守備位置に近いボールだけに関与していれば返球もしやすく、次の塁を奪われる危険もかなり低くなるだろう。担当する範囲が広くなればなるほど返球が苦しくなってくるのは自明のことだ。
 マリナーズのイチローが右翼時代には高い進塁阻止能力のレーティングを記録し、これが衰えた後は中堅に回ることがあったのは必然かもしれない。送球能力よりも守備範囲を優先させた役割を期待するとすれば、一見普通とは逆の向きと見えるこのコンバートにも首肯できるものがある。
 なお、NPBの外野手の中で、強力なライバルが集中する中堅において、レンジファクターで大きな利益を計上しながら送球能力でも遅れを取らなかった青木(ヤクルト)は相当に高く評価できる。歴史的にも高いレベルにある攻撃指標と併せて考えるならば、あと数年この活躍を続けた場合、歴史的な名外野手と認められなくてはならないだろう。

 なお、今回の算定は当初のコンセプトでは例えば中堅手に関して中堅の守備に就いた時のみの守備成績を対象としている。
 これに対し、試しに
(左翼手の中での+−評価×100+右翼手の中での+−評価×300+中堅手の中での+−評価×500)/900=イニング当り守備力評価
 といった評価も行ってみた場合も結果はほとんど変わらないものになった。上手い外野手は3つのうちどこを守っても上手いという、ある意味つまらない結果となったのである。

 なお、左翼手では500イニング未満のため対象選手として扱われなかったが、おそらく最高の守備者は北海道日本ハムの工藤になるであろう。また、同様に500イニング未満のため対象とならなかったが、阪神の平野は右翼手としてイニングあたりの数字では両リーグ最高のレーティングを記録している。
 これらは意外なことかもしれないが、過去においても、史上最高の外野守備者がレギュラーとなっていなかったり、あるいは内野手として活躍していた可能性があることは「守備力のページ」や「ボツネタ倉庫:守備のベストナイン・オールタイム」などで過去に書いてきたとおりである。外野手というポジションが昔から攻撃型の選手を配備しやすいポジションであるため、控え選手の守備力がレギュラー選手のそれを上回るケースが実に多い。もしかしたら史上最高の外野守備者は控え選手の中にいたのかもしれない。
 現代の左翼は特に守備の比較的苦手な選手が配置されることが多いため、比較的守備力の優れた選手が配備された場合に意外と大きなスコアをマークしやすい様子も窺われる。ほとんどのチームにおいて、そのチームのコアなファンであるならば、レギュラー3人のうち最も守備力の劣る選手よりも守備力の優れた控え外野手の名前が、すぐに数人頭に浮かぶであろう。
 誌上で「左翼を守るには十分過ぎる守備力の選手が出場する機会が増え平均値が上昇、(レギュラー級の中で)プラス評価選手が不在という状況の一因となった。」とあるのも、上記の事情を表現したものであると思う。
 拙サイトの計算で、10得点分に相当するレーティングをマークした選手は中堅で青木、右翼で稲葉、左翼で飯原・和田・工藤。
 基本的に外野守備において年間10得点に相当する利益をチームに与えることは大変難しいことなのだ。
 このうち激戦区でマークした青木に最も高い評価を与えたい。
 他に早川・赤松・サブローの3人が10得点相当に近いスコアをマークしている。左翼ならば和田や飯原を超えていた可能性が高い。
 なお、誌上での記事については私の担当ではなかったが、外野手担当になった場合でもおそらく同じような方向の記事を書いたと思う。他の方も控え選手の数値の方が優れていることには言及されている。
 特に中堅手については、Morithy氏と極めて近い感想を持っている。守備の衰えが打撃の衰えより早く来る選手が圧倒的多数派のため、赤星・金城の数値は非常に気になる。来年数字が回復するかどうかは非常に重要なポイントになるだろう。普通の球団では守備評価は依然として目分量の状況にあると思われるため、このへんの見極めを誤ると、「何故負けているのかわからないが何故か負けている」ような現象を見ることになるのかもしれない。

左翼手 中堅手 右翼手
氏名 守備得点 氏名 守備得点 氏名 守備得点
和田 一浩 12.74 青木 宣親 11.62 稲葉 篤紀 10.84
飯原 誉士 12.53 赤松 真人 9.47 サブロー 9.27
栗山 巧 1.23 早川 大輔 9.24 高橋 由伸 4.00
嶋 重宣 0.04 鈴木 尚広 3.96 吉村 裕基 1.26
大松 尚逸 -4.82 森本 稀哲 0.13 柴原 洋 -0.22
(工藤 隆人) 12.01 森野 将彦 -0.47 (平野 恵一) 4.12

名前がカッコに入った選手は500イニング未満

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