初回先制点はそんなに有利?

昔から先取点を取ることの有利さは、くどいほど言われている。先取点を奪ったチームの勝率を示し「先取点を取ったチームは、途中で逆転されながらも結果的には勝利を握る確率がこれほど高いのだ。」という記述をしている本もある。
 本の内容を読み進むと、「その後追いつかれることなく勝つケースがあるため先取点を取ったチームが有利」などとは一言も書いていない。「逆転されても先取点を取ったチームは再逆転しやすい」といったオカルト的なちょっと困った文章にも取れる内容であった。

しかし、これ、本当のことだろうか。私など、先取点をどちらが取ろうが同点になったら振り出し。イニング終了時に得点が同じなら先取点を取っていようがいまいが勝つ確率は同じと思ってしまう。

ここで唐突に確率のカリキュラム(今は中学の数学?)を思い出していただきたい。

コイントスで10回続けて表が出たとする。今までの授業では表が出る確率も裏が出る確率も50%ということになっている。この後のコイントスでは裏の方が多く出て確率が50%に近づくような力が働くと言えるのだろうか。

答え 
  現在の結果 表10回 裏0回 表率100
  10回の試行で表裏5回ずつ出たとする→ 合計 表15回・裏5回 表率75
  100回の試行で表裏50回ずつ出たとする→ 合計 表60回・裏50回 表率54.5
  1000回の試行で表裏500回ずつ出たとする→ 合計 表510回・裏500回 表率50.5

別にオカルト的な力が働くわけではない。このようにして最初の10連続で表という偏った結果の割合が相対的に落ちていくために50%に近づくというだけのこと。
 (そうならない時は両方表ではないか、とかの方を普通は疑う)

  コインにしろサイコロにしろ同じことである。それまでどんな目が出たか、あるいは表が出たか裏が出たか、サイコロやコインが覚えているはずはない。
  さて、このことを踏まえたうえで(改めて踏まえる必要など無いほど当たり前の事だが)次に試合結果の方を見てみよう。
 2005年のセリーグ公式戦(含交流試合)をデータ元とした。先制点を挙げたイニングの得点別に勝率の形で試合結果をまとめた。

 総試合数   結局勝った 
試合数
追いつかれる
ことなく勝ち
同点になったが
結局勝ち
逆転されるも 
再逆転勝ち
 逆転負け   引き分け 
全体 417 275(65.95%) 188(45.08%) 50(11.99%) 37( 8.87%) 133(31.89%) 9(2.16%)
1点先制 218 127(58.26%) 70(32.11%) 33(15.14%) 24(11.01%) 86(39.45%) 5(2.29%)
2点先制 115 79(68.70%) 59(51.30%) 12(10.43%) 8( 6.96%) 35(30.43%) 1(0.87%)
3点先制 50 37(74.00%) 31(62.00%) 2( 4.00%) 4( 8.00%) 11(22.00%) 2(4.00%)

 当然のことだが確かに先取点を取った側がよく勝っている。しかし、内容を見ればメディアで流通しているのと異なる点が見受けられる。
 例えば全試合数のうち、「結局勝った試合数」「追いつかれることなく勝った試合数」の割合は先制点が1点の場合〜3点の場合それぞれで、はっきりとした差を示している。
 当然のことだが得点が増える毎に追いつかれる可能性は有意に減少する。
 これにつれ、全体の勝率も先取点が何点なのかではっきり異なってくる。
 この減少パターンはイニング終了時の状況別勝利期待値(○回終って×点差でAチームがリードの場合、過去にAチームの立場にあったチームの通算勝率)と全く同じ傾向を示しており、先制点は単なる「同点からの勝ち越し」と何ら変わるところがない様子が伺える。
 回が浅くなればなるほど逃げ切れる可能性が落ちるのも常識通り。逃げ切りの可能性を上げるのに、5回過ぎての先制点や、0行進からの10回裏先制点(逆転されるはず無し)、完封勝ちなどが一役買っている。(註1)
 さて、次に「先制した側が1度でもリードを失った場合の結果表である。勝ち・負けは先制した側から見た勝敗。

相手が追い
ついた試合数
そのうち勝数
(勝率)
そのうち負数
(敗北率)
引き分け 途中逆転
された試合数
そのうち再逆転
勝ち数(勝率)
そのうち負け数
(敗北率)
引き分け
全体 229 87 (.396) 133 (.604) 9 全体 170 37 (.218) 133 (.782) 0
1点先制 148 57 (.399) 86 (.601) 5 1点先制 110 24 (.218) 86 (.782) 0
2点先制 56 20 (.364) 35 (.625) 1 2点先制 43 8 (.186) 35 (.814) 0
3点先制 19 6 (.353) 11 (.647) 2 3点先制 15 4 (.267) 11 (.733) 0

 リードを最後まで守り切れず、最低でも1度追いつかれた場合の勝率は4割と言っていいだろう。
 偏差は避けられないが、少なくとも同点の局面を迎えた以後は先制の側に有利とはいえない。先制した側が相手よりも高い勝率を有するのは1度も追いつかれなかった試合の分のマージンだけである。つまり、最初のコイントスの話のように逃げ切りの確率の後ろに5分程度の勝利期待値がくっついているというだけのこと。
 また、予想通り、まずいのは逆転されたケース。勝率2割程度の状態になってしまう。
 これは、逆転された時点で残された攻撃できるイニングが先制時よりも少なくなっているためだ。
 つまり(余りにも当たり前のことだが)結局リードしている側が有利というだけのことであり、先取点が特別な点である痕跡は見当たらない。
 「先取点を取れば有利である」と言うのは、正確には「リードしている側が有利である」と述べているに過ぎず、これは明治時代に野球が日本に紹介された時点で分かっていたこと。リードした得点が多ければ多いほど逃げ切れる可能性が高いのも当然のことだ。
 先取点を取ったとしても、回が若ければ若いほど1度も追いつかれない確率は落ちる。その結果、全体の勝率も落ちる。
 しかし、その昔は初回など、早い時点での先取点が推奨されているケースも目立っていた。特殊な戦術を使ってでも、得点期待値を犠牲にして最少得点を取りにくる戦術が目立ったものだ。下表は初回又は2回に1点を先制した場合。

試合数 結局勝った
試合数
追いつかれる
ことなく勝ち
同点になったが
結局勝ち
逆転されるも 
再逆転勝ち
 逆転負け  引き分け
全体(再掲) 417 275(65.95%) 188(45.08%) 50(11.99%) 37( 8.87%) 133(31.89%) 9(2.16%)
1点先制(再掲) 218 127(58.26%) 70(32.11%) 33(15.14%) 24(11.01%) 86(39.45%) 5(2.29%)
初回か2回に
1点先制
159 89(55.97%) 44(27.67%) 24(15.09%) 21(13.21%) 67(42.14%) 3(1.89%)

 ここで初回1点先制の場合を見ると、昨年のセリーグの場合は追いつかれることなく逃げ切れる確率が約28%とMLBの過去の例と似た数字になっている。
 初回か2回先制の場合に再逆転勝ちの確率が多少なりとも上がっているのは、逆転された時に残された攻撃イニング数が長いケースが、やや多い事が影響している。
 それにしても初回又は2回に1点を先取したチームが勝利を収められない可能性は44%。
 先取点を奪った側が勝ちを取り損ねた引き分けの数字も含むとはいえ、これはおいしいマージンとは言えないはずだ。
 例えば3回裏に1対1など、両者得点を挙げての同点の状況は年間ずいぶんと存在するはずだが、この状況で勝ち越しの1点が重要だからと(得点期待値を犠牲にしてまで)日常的に特殊な戦術を取る監督は居ないはずだ。
 このことを考えても、先制点のために特殊な戦術は採用するべきではないし、先に失点することを防ぐために特殊な投手起用はするべきでない。
 くどいようだが先取点は単なる同点からの勝ち越し点に過ぎない。確かに同点からの勝ち越し点は重要な得点だが特別な得点ではない。
 先制点を得るためと称して、得点期待値を犠牲にするような戦術を日常的に取り続ける監督が減ってきたことは良い傾向かもしれない。
 現在のような得点状況で先取点の効用を強調し過ぎることは戦術の考え方として退歩の可能性がある。
 サイコロはこれまでに出た目を覚えているわけではない。野球の神様もどっちが先取点を取ったのか覚えていてはくれない。


註1)
 このようなゲームはいずれにしてもロースコアゲームである。
 特にプロ入り前に誰もが経験するであろう高校野球においては、金属バット導入前の時代にイヤというほどロースコアゲームは頻発した。
 現在の長老格の指導者、又は指導者の指導者に当る人達が実際にプレーしていた時期にはプロアマ共にロースコアゲームが多かったため、先取点は現実に重要であったと思われる。
 得点総数が少ないのだから、1点のリードでも現在より重かったはずだからである。
 このような幼児体験が形を変えずに伝えられ、現在の常識が形作られているのかもしれない。

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