○指標の基本的な考え方

今、打率.330 本塁打15本 打点107 のA選手と打率.257 本塁打14本 打点53 のB選手がいたとします。あなたがGMだったとして、守備力など、打撃面以外で差がない場合は補強対象としてどちらを選ぶかと言われれば間違いなくAを選ぶと思います。ちなみにAは1930年のナショナルリーグ外野手の平均であり、Bは1968年のアメリカンリーグ外野手の平均です。歴史的にはAとBは打撃3部門で等しい成績と扱われるべきです。(Total Baseballより抜粋)このように、シーズンやリーグが違う場合、打撃成績などをそのまま見てもどの程度優れた選手だったのかはわかりません。それでは古い映像などを見て自分なりに判断するのはどうでしょう。これもちょっと難しいようです。我々が普段目にしているのはあくまで現代の野球であり、古いフィルムなどを見ると相当に様相の異なった野球と映るかもしれません。

過去のどのようなスターでも、映像を見て現代の選手と比較すれば見劣りするのはやむを得ないところで、これはどのような競技でも避けられないところです。ただし、電動計時換算1044のジェシー・オウエンスよりも電動計時1025のアラン・ウエルズ(モスクワ五輪優勝)の方が偉大であると考える陸上関係者はまずいないでしょう。オウエンスの残した実績がその時代においてあまりにも偉大であったということと、あくまでも均等な条件で競い合えた対戦相手は同時代の選手しかいないというのが大きな理由です。

インターネットの掲示板などでは該当シーズンのリーグ平均値を1として、これに対する比率により成績を再構築するという方法がよく使用され、このスタッツは「傑出度」の名前で呼ばれているようです。誰が使い出した言葉かは知りませんがよく実態を表した言葉だと思いますので、ここでもこの言葉を使うこととします。

 この「傑出度」なる考え方はTotal Baseball においては初版から採用されており、現在でもRelativity という言葉で長々と説明されております。相関性あるいは相対性原理などと翻訳されるこの言葉は選手の最終評価にあたるBatting Win Pitching Win Total  Player Wins などを算定する際に特に重要な考え方となっています。「傑出度」の考え方と少し違うのはRuns per Win式により傑出度評価に変換されており、リーグ平均を1として単純に割り返してはいないところです。「傑出度」と同様の形で算出されている項にはRelative Batting Average (打率傑出度)があります。
 これによると、そもそも4割打者はリーグ平均打率の極めて高いシーズンに存在するもので、現代に近いT・グウィン、G・ブレット、R・カルーらは実際に4割をマークしていませんが、過去の多くの4割打者よりも高い傑出を示しています。20世紀に入ってからの記録では、リーグ平均打率を1とする計算方法で1910年に1.537がマークされており、これがシーズン最高です。過去50年の平均であるリーグ打率2割6分のシーズンを基準年にすると、これでも4割を切ってしまい、20世紀の4割打者は消滅します。現在の打者にとって4割を記録することがとても難しいのと同様に、平均的なリーグ打率のシーズンの打者は(いつの時代であれ)4割を打つことはできません。傑出することはいつの時代も同様に難しいのです。

このHPではTotal Baseball に倣ってRun Win を算出してみるほか、各種の傑出度を独自に算定してみました。基本的な考え方についてはご存知の向きも多いと思われますので、既知の部分については読み飛ばしてください。


1 Run Win(活躍を得点に変換したRun 最終評価のWinTotal Baseball から)

 選手が攻撃するときには出塁を狙うなり長打を狙うなり様々な方法がありますが、結局のところ野球の攻撃というのは参加する全員が得点をめざしてプレイするしかありません。攻撃時の安打・凡打・四球などすべてのプレイの結果を得点の形に変換し、たとえば1年間の活躍は○点分となる、というように算定するのがRCやXRと呼ばれる総合指標です。一例としてXRの式を揚げますと

0.5×単打+0.72×二塁打+1.04×三塁打+1.44×本塁打+0.34×四死球+0.25×故意四球+0.18×盗塁−0.32×盗塁死−0.098×三振−0.37×併殺打+0.37×犠飛+0.04×犠打−0.09×(凡打−三振)

 このような総合指標により算定された得点換算後の選手の活躍を、リーグ平均を0として、チームに何点分多く得点をもたらした計算したものがBatting Run+です。

 さらに1年間のチーム勝敗を1改善する、つまり勝ちを1つ増やして負けを1つ減らすために必要な得失点差の改善を導く式もすでに発表されておりますので、これを適用してリーグ平均の選手を0勝とし、上回る部分を何勝分としたのがBatting Winという指標です。リーグ全体で打者がよく打ったシーズンは1勝に必要な得点は大きくなりますし、投手がよく抑えたシーズンはその逆となります。逆に、リーグ平均より打てない選手にはマイナスのRun+やWinがつきます。

 投手については防御率を活用し、自分が投げたイニングをリーグ平均の投手が投げたと仮定してそれに比べて何点おおく(又は少なく)得点されたかがPitching Run+となります。少なくしか取られなかった場合にプラスのRun+が記録され、チーム勝敗を1勝分改善するのに必要なRun+をもって1Winとするのは打撃の場合と変わりません。

 なお、DH制を採用するリーグとそうでないリーグがあるため、有利不利をなくするため、打撃面の指標を算定する場合、投手の打撃成績はあらかじめ削除しておく必要があります。

 このWinについては、Total Baseballにおいて攻撃力・投手力・選手としての総合評価にあたるBatting Wins, Fielding Wins, Pitching Wins, Total Player Winsが選手としての最終評価の扱いになっています。これらは式こそ違うものの、傑出度と同様の考え方で算出されており、Winは形を変えた傑出度といえます。
例:年間1250イニングで700得点・650失点の場合、SQRT((700+650)/1250)=1.039(0.1勝分のWIN)


2 このHPにおける傑出度の算出方法

 打率・RCなど打撃面のスタッツを算出する場合のみ投手の打撃成績を削除してリーグ平均値を出します。戦前の記録など特に投手野手掛け持ちのケースがある場合は登録ではなく、実際に投手としての出場より野手としての出場が多いものを野手とみなしました。(Totalでは投手として出場中に打席に入ったものを投手の打撃成績、野手としての打席は野手の打撃成績と分けているがこの方法に疑問がないわけではない上、実際の所、全試合のボックスシートを入手できない個人では無理)

 こうして得られたリーグ平均成績を基礎としてシーズンごとに成績を出し、あらかじめ定めた標準的なシーズンの成績に変換します。また、その合算を通算成績とします。

 投手の投球成績については投手打撃成績の削除をせずにリーグ平均成績を1として打者の成績と同様の算出方法により計算します。(こちらは投手打撃成績の削除は必要ありません)

 なお、打撃成績については、投手の打撃成績を除いた年間リーグ平均の戦後平均値を基準年として、投手成績については投手の打撃成績を除かない年間リーグ平均の戦後平均値を基準年として算定しました。


3 傑出度比較上の注意事項・球団数等

 野球(に限らず球技)は対応のスポーツであり、陸上競技とは違って絶対値の記録が出せるわけではありません。違う時代の成績を比較するにはWinや傑出度の方法によるほかないと考えますが、これは絶対評価にはなりません。

 つまり、1940年頃の選手が傑出度で打率3割程度と出た場合に、当時と同じ栄養状態、育ち方、体格を含む身体能力、同じ練習、同じ用具で現在に現れたとして打率3割は打てないだろう、ということです。

 これはどのようなスポーツでも同じことです。悲しい話ですが、どのような種目であれ10年前に引退した選手はこの意味で既に過去の人です。絶対評価で同じ土俵に乗せるのであれば赤ん坊の時点でタイムスリップしてもらうしかありませんが、これは無理です。

 もうひとつの問題は球団数の問題があります。

昭和24年まで1リーグ8球団であったNPBは、翌昭和25年からは2リーグ15球団に拡張されました。この結果、規定打席・投球回到達者の個人成績やチーム成績の標準偏差などが爆発的に大きくなり、成績の分布も現代と同型とはいえない形になっています。これはどちらのリーグについても6チームになるまで解消されず、現代の傑出度と同列に比較できるのはチーム数が現代と揃っている時代までと言えるかもしれません。

また、完全版を求めるのならば本来は得点のPF値による補正をしなければなりませんが、昭和31年以前など試合挙行方式から信頼できるPF値が求められないシーズンがあり、これは補正できませんでした。ただし、この補正による影響は非常に小さいと考えられます。唯一、球場の規格による影響が非常に大きいと考えられるHRについては、PF値を別の項で算出してあります。


4 傑出しやすい年もある・1950年の大エクスパンション

新卒を採用することはどの年も同じなので、1950年のように一気に7球団も増やすとなればその多くを社会人野球からの人材に頼らなくてはなりません。もし、当時の社会人野球がプロ野球と同等の実力の人材をプロ野球と同数確保していたとしても、単純計算で社会人野球は壊滅状態になっていなければなりませんが、実際はそうなっていません。8球団から15球団に拡張されてはいるものの、それを保障するだけ選手供給母体は拡大しきれていませんでした。12球団以上で運営できるだけの陣容を整えるには当時の日本における野球熱をもってしても数年が必要であったようです。この結果、昭和25〜30年頃あたりに傑出度の断絶ができてしまいました。個人成績・チーム成績ともに標準偏差が爆発的に大きく異常な分布を示しています。このような状況はタイトル獲得者の成績を削除して再計算する、といった荒技を使っても解除されません。また、この拡張された時代は8年だけでしたが特に本塁打はリーグ平均を1として倍数で計算する方法によればシーズン傑出度歴代30傑のうち、この時代の成績が半数を占めるような状態になっています。

メジャーでは球団増の影には営業上の理由のほか、球団増に先立つ形で選手供給の母体の拡大が必ずありました。「有色人種が参加できるようになった」「中南米の選手が大挙参入した」「アジアからも選手が供給されるようになった」といった順の拡大です。拡張は何度も行われていますが、拡張当年にマリスやマグワイアの本塁打新記録が生まれたり、異常な分布を記録したりしていますが、選手供給母体拡大の裏づけがあるためすぐに平常に戻っています。このため20世紀以後は通史的に傑出度やRuns Per Win式を使用できるようです。

NPBのように選手供給の母体にあまり変化がない場合、たとえばリーグ8チームの年は、リーグが6チームであれば試合に出場できない18人(所属チームが偏っているとは限らない)が試合に出ていることになります。傑出度は別個にとらえる必要があると考えています。

 日本でもチーム数が現代と同数になってからは単発的に傑出しやすい年や傑出しづらい年が発生しているようですが、おしなべてほぼ同等の成績分布となっているようです。過去にさかのぼり現代の傑出度と同列に比較できるのは、チーム数が現代と同じ時代までと言えるかもしれません。

 なお、傑出しやすい年の例として各球団の本拠地のパークファクターに差があることや、控え選手の打撃が振るわないシーズンであったなどの理由により

 1962年のパ 1966年のセ 1980年のセ 1988年のパ 2000年のセ 2002年のパ

 傑出しづらい年の例としてパークファクターに差がないことや差があってもリーグを代表する強打者が低いほうの球場を本拠地としている、または控え選手に打撃好調の者が多かったなどの理由により

 1960年のセ 1976年のパ 1977年のセ 1985年のセ 1990年のパ 1995年のパ

などがありますが、やや傑出しやすい・しづらい、といった程度の差に過ぎません。 

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