グラフの端っこ

私は先だってチーム総得点増減との関連性が極めて高い(打率や出塁率よりも高い)攻撃指標を発見した。私が開発した指標などではなく、XRなどの有名な指標でもない。仮にこれを指標Aとしてみよう。
 さらにこの指標の優れている点は、日本プロ野球ばかりかMLBでも攻撃力を高めるために必要な指標とは間違いなく意識されていないと断言できる点である。
 西暦2000年から2004年の5シーズンのパリーグを例にとって見てみよう。打撃率と総得点の相関係数(CORREL数値)は0.894である。ちなみにこの数値は2種類の数値の相関性の高さを表す数値で、1に近いほど関係が深く、0で全く関係なしとなる。この打撃率と得点との関係の0.894という結果は、リーグ打撃率が上昇すればリーグ総得点も増加する、この関係がかなり深いことを意味している。XRならばさすがに0.955という高い数値になってくる。同様に相関を表す数値のRSQも出してみた。
2000年〜2004総得点との関連値(左はCORREL(PEARSONでも同じ) 右はRSQ
打撃率   0.894    0.799
XR    0.955    0.911
指標A   0.939    0.881

私の発見した攻撃指標Aと得点の相関はこの間、「打撃率と得点の関係」の数値をかなり上回り、「XRと得点の関係」に際どく迫る0.939の数値をマークしている。そもそもXRといえば得点との一致を第一義に考案された指標であり、得点との関連性が深くなるのは当たり前。それにかなり複雑な計算を要する式である。新たに式を入力するともなればけっこう面倒くさい。これに対して攻撃指標Aは面倒な計算など一切不要。これでXRに迫る効果が期待できるのであるから、なぜ今まで注目されてこなかったのか不思議なくらいである。
 さて、この攻撃指標Aとは何なのか、皆さんお分かりですか?

こんなもので引っ張るのも何なので答えを書いてしまうと、正解はリーグ総併殺打数である。併殺打が少なければ得点が増えるのではない。併殺打が増えれば得点も増えるのである。よって、各チームは打撃率を高めるより併殺打を増やすような攻撃を心がけるべきであり、総合指標の式などもこのあたりに改善の余地がある。

もちろん、以上はすべて冗談である(数値は全部本当だが)が、すべて冗談ということで片付けるのはもったいない。ついこのような考え方に陥ってしまうこともある。
 @ そもそもここまで高い連関を示したのは単なる偶然である。
 A ただし、弱いながらも併殺打の増と得点の増には関連が見られる。
 B 得点の多いシーズンは出塁も多くなる。走者有の打席が多いのだから併殺打が多くなるのも当然である。(時代時代の攻撃方法にも影響されるが)
 C 最初の冗談で最も重要なのは原因と結果を取り違えている点にある。

@からCを見て笑えないような考え方を知らないうちにしてしまうことがあるかも知れない。上のように関連性の数値だけを見て結論に飛びついたような場合は、そこに現れた数字数式の意味をよく理解していなければ、誤った結論を導き出してしまうことが多い。たとえば能力を現す数値(打撃率・長打率・出塁率・総合指標 状況によらず再現性有)と能力ではなく単に結果を表す数値(打点・併殺打・得点圏打率・Close & Late 状況による数値で再現性無いか薄い)を同列に考えることなども危険である。一緒に考えて何か結論を導き出すとすればこれは取扱注意である。Total Baseball Run Winの指標においてはあくまで能力値を追及する結果、打点・併殺打・犠打・犠飛といった数値は考慮してはならない、平たく言えば無視することになっている。併殺打は前の打者の出塁などほとんど偶然の要素が左右し、犠打に至っては成功しても期待値を下げる。成功しても成績を下げる立場に立たされた打席を個人成績に反映させてはならない、という考え方である。
 ただし、XRについては打点は無視しているが、併殺打・犠打・犠飛については式に入っている。得点との連関を極大にするためと考えられるが、犠飛は回帰式にとってノイズとなりやすい点が指摘されており、回帰式そのままではあのような数式にはならないはずである。熟慮した結果の考案と思われるが、このあたり両者の考え方の違いが見えて面白い。道作としては、リンゼイ・パーマーモデルの得点期待値の求め方から、状況に多くを由来するスタッツは除外する方が良いと考えているが決定的とも思っていない。
 現在発表されている総合指標はその多くが安打・四球・凡打などの各事象に加重をつけて加算するシステムを採用している。加算システムを採用する以上、最も平均的な攻撃方法について得点との連関が極大になるのは当然のことである。たとえば四球は計算上、3つでチームに得点1を増やすことになっている。しかし実際には3連続四球では得点はまだ得られていない。このようなケースは非常に偏ったものであり、年間を通して見れば平均的な攻撃の範囲に収まるのが通常であるが、チームによる攻撃方法の偏りといったものも存在するのも事実である。出塁に偏っても長打率に偏っても影響はさけられず、これが原因で総合指標により求めた得られるべき得点と実際の得点の間には無視できない乖離が時折発生する。残念なことにこの乖離は偶然によるものであり、「改良」を加えようとすれば式自体が原型を止められなくなるため修正はできない。Jアルバート及びJベネットの研究でも盗塁王コールマンや鈍足重戦車ゲーリッグの数値から、RCとLWTSの間に大きな偏りが指摘されている。個々の事象に加重をつける加算システムでは、あらゆるタイプの攻撃方法をすべて完璧に得点値に投射することはできない。グラフの端っこは信頼区間の割合が中央とは異なるものだ。
 この辺はRC27にも影響を与えている。さすがにビル・ジェイムスは上に書いたようなことはとうに把握していたらしく、RC27式考案時に乗算システムのRC2をベースとしている。そもそも個人がチーム全打席をうけもつとした場合、どのようなチームと比較してもその攻撃方法は著しく偏るはずである。長打なしの出塁ばかりでも、長打に偏った場合でも得点は頭打ちになるはずである。乗算システムならばまだ少しはフォローが効く。個人がチームの一員となった場合は偏りのかなりの部分はチーム成績の中に埋没すると思われるため、XRで算出された得点上の利得はチームの得点増にほぼそのまま繋がる可能性が高い。しかし個人が全打席をうけもつとなると、話は別である。
 また、あるチームにA選手が入団したとして、8人おきに打席に入り27回アウトになる間にチームの総得点を何点増やすことができるか、という数値をXとし、A選手の通常のRC27値をYとすると、XとYの間には1点以上の大差がつく場合もある。Xの方が実際に即したもののようであるが、これは見方の問題であり、どちらが正しいとはいえない。ここにも壁がある。
 仮に回帰式から導き出された最も得点との連関が強いシステムであるといっても、現行の総合指標システムはこれで完成されたものと断言するわけにはいかない。一朝一夕に最終システムが考案されるわけでもないだろうし(最終システムというものは結局ないかもしれない)、その最終システムがどのような形になるのか想像もつかないが、今後も様々なシステムの誕生を見ることになりそうである。

追加
 最後に、XR27式について。考案者によりその有効性を保障されているものなのか寡聞にして(不勉強にして?)道作は知りません。RCではわざわざ乗算式を持ち出して、この防御率と同じ構造の式を作成しているようですが、加算式のままのXRでチーム成績はもちろん、ひずみの大きい個人成績に対してまでその効果が及ぶのかどうか?先達のご教示をいただければ感謝に耐えません。

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