打率傑出度(Relative Batting Average)  2009年度に更新

1 打率・確変はこうして起こる

 昔から最もよくデータとして引用されてきたのがこの打率である。かつてのTV野球中継では選手名の横に打率の表示があったが、個人データとして紹介されるのはただそれだけであった。近年の研究では出塁率・長打率などと比較して得点との関連が薄いという結論が出ている打率であるが、今でも新聞紙面などの打撃成績は打率順になっており、一般的に最も多く語られているスタッツのようである。それゆえ、古典的な指標として最初に打率を取りあげることとする。投手を除く過去の全シーズンの平均打率は.258ほどであるので、リーグ平均打率.260 ちょうどの年を基準年としてみた。投手を除くリーグ平均打率が.250のシーズンに.275の打率を残した打者と、投手を除くリーグ平均打率.270のシーズンに.297の打率を残した打者は等しい成績として扱われる。
すべてのシーズンが投手の打席を除きリーグ平均打率.260であった場合の打率に換算した場合の通算打率である。現代とはチーム数の違う時代に活躍したプレイヤーは別カテゴリーにまとめてある。

名 前 RBA 信頼区間
上限
信頼区間
下限
1 イチロー 0.3510 0.3665 0.3354
2 長嶋 茂雄 0.3242 0.3344 0.3140
3 張本 勲 0.3211 0.3304 0.3117
4 R ローズ 0.3146 0.3291 0.3001
5 L リー 0.3116 0.3246 0.2987
6 若松 勉 0.3112 0.3222 0.3002
7 王 貞治 0.3102 0.3196 0.3008
8 小笠原 道大 0.3085 0.3199 0.2971
9 和田 一浩 0.3075 0.3205 0.2944
10 松井 稼頭央 0.3055 0.3187 0.2922
11 ブーマー W 0.3048 0.3184 0.2913
12 近藤 和彦 0.3036 0.3152 0.2921
13 落合 博満 0.3026 0.3129 0.2923
14 江藤 慎一 0.3018 0.3124 0.2911
15 谷沢 健一 0.2974 0.3083 0.2866

 まず最初に目につくのはイチローの圧倒的な数字であろうが、次に気がつくのは「信頼区間上限・下限」の欄であると思われる。これは統計学で定番の95%信頼区間を適用して運不運を排除した選手の実力の範囲を設定したものである。実際に打率3割の成績の選手がいたとしても、打撃に運不運はつきものである。ボロス・マクラッケン理論を参照いただきたい。すばらしいライナー性の打球を放ったとして、その打球の行く先に人が立っているかいないかは運の要素を排除することはできない。実際の打撃成績が選手の実力と完全に一致する保障はないのである。
 算定方法は通算打率傑出度の上下に1.96個の標準偏差を付け加えた形。ほぼ確実にこの間に選手の実力はある。打率においては下の算式で求めることができる。
(打撃率×(1−打撃率)/打数)の平方根 × 1.96
トリビアの泉において「統計に詳しい○○大学の××教授に調査方法について伺ってみた。」というナレーターの声の後に××教授が答える調査方法は信頼区間の考え方が基になっているものが多い。視聴率の調査世帯数設定(注1)や選挙の当確情報にも利用されている。この算式を試していただいて驚かれるかもしれないが、500打数程度では順当なら打率.300を打つ実力の打者が.340の結果に終わっても.260の結果に終わっても全く不思議はないのである。信頼できる結果を求めるのならばサンプル数は重要である。本塁打だろうが長打率だろうが防御率だろうが同じことである。テレビ中継で「野球は数字じゃあありません」などと解説が述べる台詞は(本人は別の意味で言っているのであろうが)ある意味正しいといえる。年間の打数程度のサンプル数では統計上の偏りを避けることができないのである。

現代とチーム数の違う時代に   2000〜3999打席         1000〜1999打席
プレイ経験有 4000打席以上   ※印は現代とチーム数の違う時代にプレイ経験有

名 前 RBA 名 前 RBA 名 前 RBA
1 川上 哲治 0.3354 1 ブルーム 0.3228 1 デービス 0.3221
2 与那嶺 要 0.3293 2 青木 宣親 0.3201 2 景浦 将※ 0.3141
3 中西 太 0.3206 3 バース 0.3200 3 レインズ※ 0.3127
4 大下 弘 0.3136 4 中嶋 治康※ 0.3166 4 松木 謙治郎※ 0.3070
5 田宮 謙次郎 0.3107 5 アルトマン 0.3132
6 藤村 富美男 0.3094 6 オマリー 0.3086
7 榎本 喜八 0.3090 7 クロマティ 0.3077
8 山内 一弘 0.3078 8 パチョレック 0.3072
9 呉 昌征 0.3003 9 山本 一人※ 0.3068
10 千葉 茂 0.2987 10 パウエル 0.3059
11 小玉 明利 0.2974 11 別当 薫※ 0.3052
12 西沢 道夫 0.2974 12 ペタジーニ 0.3008
13 飯田 徳治 0.2966 13 ブリューワ 0.2999
14 土井垣 武 0.2958
15 中 暁生 0.2956

 標準的な成績のシーズンを続けた選手が突如として1年だけ好成績を残し、翌年からまた標準的な成績に戻るような例を若い人は「確変」と呼んでいるようである。この「確変」は、実はほとんどがこの信頼区間の範囲内に収まっており、単なる偏りで説明できる例がほとんどである。健康面や精神面に著しい問題を抱えていないかぎり、向上した実力を1年で失ってしまう例は稀であろう。「確変」とは、ある年突然ブレイクし、その後長年にわたりリーグの代表的な打者として居座るような例を想定しているのではないのである。「確変を起こした」本人にさしたる変化はないと思われる。
 ここで、イチローの信頼区間に注目していただきたい。2位の長島、3位の張本以下、誰とも信頼区間が重なっていない。これは、イチローの日本時代が幸運の連続で、長島・張本は不運続きであったとイチローファンに怒られるような仮定を採ってみても、なおイチローの打率がbPであることを意味する。計算してみるまではこのような打者はいないと想像していたが、NPB時代の打率部門でのイチローの傑出度は別格のようである。

(注1) 視聴率のサンプル数は少し前に600世帯と聞いたことがある。1分おきに調査する方式で、30分番組ならば30回測定されることになるらしいが、番組の平均視聴率を測定するなら(たとえ2分に1回の測定でも)まずまずのサンプル数である。1時間番組なら誤差はせいぜいコンマ3%以内といったところに落ち着く。ただし、「瞬間最大視聴率」については誤差が大きいのであまり信用してはいけない。平均的な視聴率の番組でも3%ほどの誤差が常にあってもおかしくはないからである。
 すこし前に「視聴率は常に3%程度の誤差を含んでいると聞く。テレビ局はわずかな上下動に一喜一憂しているようだが、何と愚かなことだろう。そんな不正確なものなど気にせず、内容のある番組を作ることに努力するべきで云々…」といったコラムを新聞で読んだことがあるが、これは見事に平均視聴率と瞬間最大視聴率を混同した例である。

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