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新国立劇場バレエ団
「パゴダの王子」




 幕が開いてすぐ、「パゴダの王子」をこんなに模様替えしていいのか?と面食らった。何せ、 プロローグの王子の埋葬シーンに出てくる皇帝一家が、雛人形セットのようだったから。
 皇帝は白い束帯。皇后は裳・唐衣(もどき。たぶん長袴は穿いてないないだろう)、幼い 皇女(さくら姫)も同様の衣装。(王子の棺は甕棺)
 第2幕にはガムランっぽい音楽が使われているし、パゴダも出てくるので、確かに アジア的な素材が含まれている作品ではある。しかし、ここまで和風とは・・・。
 ブリテンの不思議な音楽は、これほどの大胆な変換を許している。


 甕棺がぐるっと回転して、中にサラマンダーに変えられた少年の王子がもがいているのを 観客に見せた後、第1幕に。数年後の宮廷。漆塗りのような鏡面仕上げのセットに、背景には 富士山の絵、足袋履きの宮廷の男女の格好は、日本の江戸時代の御所か。(ま、京都の街から富士山は 見えないんだけどね)

 息子を失って傷心の皇帝(堀登)に代わり、宮廷で幅を利かせている皇后エピーヌ(湯川麻美子)は、 プロローグではつけていた元結から下の髪をはずし、コブラの頭のような髪型で登場。(長い髪だと踊れ ないからか) 長い衣装の裾さばきが大変そうだった。
 湯川は堂々とした悪女っぷりで、まさに適役だと思った。

 ただ、あまりにも作品全体を和風にしてしまった為、このエピーヌという名前がぽっかり浮いている。 英国ロイヤルバレエのマクミラン版を見た時のブロシュアーを引っ張り出して確認してみたら、 「Epine」の「E」にはアクサンがついていて、フランス語の「棘」だと思われる。つまり、マクミラン版の ヒロイン、ローズ姫の「薔薇」に対して、敵役は「棘」という名前が与えられていたわけだ。今回、 ヒロインの名前を「薔薇」から「桜」に変えたのだから、エピーヌもそれなりの名前に変えた方が 良かったのにと思う。固有名詞が使われているのは、ヒロインとエピーヌの二人だけなので、尚更 目立つ。
 けれど、ビントレーには、エピーヌという名前に拘りがあったのかもしれない。というのも、 白いペーパークラフトを思わせる、額縁のような装飾が、終始舞台を縁取っているのだが、 この中に松葉のような棘々したものが沢山描かれていて、「エピーヌ」が作品世界を覆っている かのようだったから。

 毒気の強い湯川の皇后が悪のオーラを放つ中で、小野のさくら姫は清らかで凛としたたたずまい。 踊りもシャープで、清新な印象だった。

 継子のさくら姫を条件の良い相手に嫁がせ、富を得ようと画策する皇后は、4人の王を招いている。
 マクミラン版でもこの東西南北の王は、何となく特定の国・地域を彷彿とさせる衣装で登場するのだけど、 あくまで何となく、である。
 このビントレー版は、国旗を使ったり、それぞれの王が持ち込む椅子のデザインや小物で、より具体的に 国・地域が示される。

 北の王(八幡顕光)はロシア? コサックダンス風な踊りを披露し、会場を盛り上げる。
 東の王(古川和則)は清朝中国。だろう、・・・多分。ほとんど全身裸でふんどしのような布をまとい、ねっとり 踊るので、暑い東南アジアかと最初思ったが、辮髪風のヘアスタイルに、キュッと釣り上った眉メイク、裸体 には龍の入れ墨、椅子にも龍の彫り物、持っているのは長いキセル(アヘンだね)、からすると清朝かな。
 ビントレーのイメージする中国ってこういう感じ? ちょっとずれてるだろう。せめてガウンなり着せて、 踊る時だけ脱がせるとか、そういうことは考えられなかったのかしら・・・。
 西の王(マイレン・トレウバエフ)はアメリカ合衆国。星条旗に銃、アンクル・サムのいでたちだけど、 そもそもなんでアメリカに王?
 南の王(菅野英男)はアフリカ。たくさんの象牙を持参して、力強く踊る。
 この東西南北の王の出身を見てみれば、どうやら菊の国はイギリスにあるようだ。

 会場で配られたあらすじによれば、この後、さくら姫は、継母と4人の王の企みにのるまいと、サラマンダーを連れた 5人目の求婚者の一団と共に出奔する・・・とあるが、この5人目の求婚者の記憶が、私には無い。四つ足で 這うサラマンダーと妖怪のような可愛い従者は覚えているのだけど。この妖怪のデザインは、百鬼夜行図から だろうか。ぽよんぽよんした姿が愛らしく、会場の人気をさらった。


 第2幕は、サラマンダーの国を目指すさくら姫の旅。様々な試練に打ち勝ち、彼女はサラマンダーの 国に到達する。そして、サラマンダーの正体が、継母の魔法によって姿を変えられた兄であることを知る。

 この幕は、雲、星、泡、炎など群舞が入れ替わり立ち替わり登場し、ダンス・シーンが多い。
 中でも泡チームは、すごくよく揃っていて、一人ひとりの踊りの質も高く、際立って素晴らしかった。 (衣装も、泡をイメージしたモコモコのチュチュがかわいい)
 海の冒険の時は、タツノオトシゴや深海魚(貝川鐵夫、厚地康雄)もユニークな衣装と踊りで楽しめた。

 これらの試練と戦っているさくら姫の邪魔をするように、エピーヌも姿を変えて現れる。コブラの頭は そのままに、衣装と釵子を場面によって変えている。例えば、深海ではタコの衣装だったり、(釵子は サンゴだったっけかな?)というように。

 サラマンダーの国に辿り着いたさくら姫は、黒い目隠しをされる。マクミラン版でも、ローズ姫は ここで白い目隠しをされたまま、サラマンダー(婚約者の王子)と踊るので、目隠しというアイテムが 残っていてうれしい。
 マクミラン版ではヒロインと王子は婚約していて、愛しい人にサラマンダーの醜い姿を見られたくないと いう気持ちから、ローズ姫に目隠しをするのではなかったかしら?(多分) ビントレー版の 場合、兄が身の上話を語る折に、さくら姫が幼い頃の記憶をたどり易いように、という配慮から使われているようだ。

 サラマンダーの国は、パゴダがそびえ、ガムラン風音楽にのってバリ舞踊風の踊りが踊られる。きらびやかな衣装が 美しい。(ここでもバリ舞踊のダンサー出現で、サラマンダーの国は東南アジアだとダメ押ししてる)


 第3幕。兄の身に起こった出来事と継母の秘密を知ったさくら姫は菊の国に戻るが、宮廷は継母エピーヌに牛耳られ、 皇帝は廃人同様になっていた。エピーヌはコブラ・ヘアを止めボブスタイルで、ドレス姿。(外国かぶれしている?)  規律の乱れた宮廷で、皇帝につき従うのは道化(吉本泰久)のみ。
 マクミラン版では、ローズ姫をサラマンダーの国に導くのはこの道化だったと思うが、ビントレー版では、ヒロインの 老いた父を一人で守っている。

 この哀れな皇帝と道化のシルエット・・・どこかで見たと思ったら、黒沢明監督の「乱」だった。「リア王」の 物語を日本の戦国時代に置き換えた1985年の映画。権力と正気を失い、白髪を振り乱した老人の姿や、道化の着物の 雰囲気など、本当によく似ていた。
 (道化役の吉本は、幕が開く前、オーケストラがチューニングしている頃から舞台に現れ、舞台の先端にちょこんと腰を 下ろして、色々とお道化たことをして、観客を楽しませた)

 さくら姫の帰還で真実が明らかとなり、皇后エピーヌは追放され、王子は人間の姿に戻る。元気になった皇帝も 交え、3人の皇室メンバーが、4人の王をやっつける。兄にリフトされ、高みから蹴りをいれるさくら姫! 強い強い。
 菊の国や4つの国が具体的な国をイメージしているため、この場面にはちょっと決まり悪さがあった。この演目は、海外 公演する時、場所選ぶよな〜と苦笑いしてしまった。

 悪い奴らを退けて、宮廷も秩序を回復し、物語は大団円を迎える。
 威光を取り戻した皇帝の衣装は、今までの白から太陽のようなオレンジ色の束帯に変わり、生気みなぎる様子。(日本では東宮の色だと思うけどね)
 最後に、お決まりの主役によるグラン・パ・ド・ドゥ。〈ソリストの踊りもはさまっていたかな?)
 恋人たちの愛の踊りではなく、兄妹による踊りが一番のクライマックスにくるというのは、珍しいかも。救国の英雄たちの 勝利を寿ぐ舞ということでいいのだろうか。小野も福岡も素晴らしく、晴れやかに喜びに満ちて幕が降りた。


 「アラジン」、「ペンギン・カフェ」、「カルミナ・ブラーナ」など、ビントレー作品はいつも展開が面白く、「さあ、次は 何を見せてくれる?」とワクワクしながら終幕まで見てしまう。
 今回も美術や衣装が凝っていて、そちらの面でも楽しかった。カーテン・コールの時、緞帳が何度も上下するうちに、舞台を 縁取っている装飾をひっかけてしまうというハプニングがあった。私が行った日は最終日だったけど、それまで何ともなかった のだろうか? 破損してなければいいけどと思いつつ、会場を出た。

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