「ロメオとジュリエット」と言えば、大体3幕の一夜もの。14世紀
イタリア、ヴェローナの名家の争いとそのはざまで花開く主人公たちの純愛。
豪華な衣装・重厚な舞台セットとともに、長い時間じっくりと身を浸すようにして
ドラマを味わうことが多い。
今回初めて見たクルベリ版は、最初から最後まで1時間足らずという非常に
スピーディな展開、少ない登場人物、ほとんどの大道具小道具を排したシンプルさ
(バルコニーや剣も無し)、にも拘らず、ドラマの本質はしっかりと
伝わってきたように思えた。
ジュリエットの佐々木、ロメオの今井はともに好演だった。ダンサーが役に
全力投球するのは当たり前だが、2人ともその志が空回りせず、有益に身体の動き
や演技に結びついている感じがした。
2人が手を取り合って楽しげに舞台を駆け回るシーンは、マクミラン版の
リフトで表される高揚感ほどではないけれど、ウキウキ・ワクワク感に
あふれて青春そのもの。また、結婚式シーンを省いてのベッド・シーン
(だよね?)ではうって変わってかなり官能的。
他の版では、極秘結婚式→ロメオの決闘→ロメオの追放命令の後、
2人の別れの朝となるので、極めて悲しい初夜になるわけだが(情事もはっきりと
は描かれない)、クルベリ版では恋に落ちていきなり夫婦になった感じで、
一気呵成に愛の高みに駆け上るようだ。
その他の出演者では、キャピュレット夫人(川原亜也)はジュリエットの母
に見えず。ジュリエット役の佐々木よりも小柄(だったかな?)なためか、
権門の奥方という貫禄が出ない。
ジュリエットの父(桝竹眞也)はこんな感じか。パリス(須藤悠)との結婚を
拒否するジュリエットをビンタするところは、家長の威厳がよく出て、
ジュリエットの悲しみや恐怖を一緒に体感したような気になった。
ティボルトは近藤徹志、マキューシオは下島功佐。大公に陳鳳景。
ロレンス神父、ベンヴォリオ、ジュリエットの乳母は、役柄として省かれている。
ロメオとジュリエットの秘密の結婚式を執り行い、引き裂かれそうになる2人
を守る為に奮闘する神父がいないので、仮死の薬はジュリエットが「前から
持ってました」という風に取り出して飲む。
でも思い返せば、ジュリエットの蘇生シーンがなかったようなので、あれは
毒薬だったのかしらん? 駆けつけたロメオももしかしたら同じ薬を飲んで
死んだような・・・。(ちょっと記憶が薄れかけ)
なので、「実はジュリエットは死んでなかったのに〜」という情報伝達が
いかに大事かを教える原作とは異なる展開となる。私的には、手に手を取って
逃げるはずだった2人が、タッチの差で落命してしまう悲劇的な結末が
好きなんだけどな。
音楽に関しては、なじみのあるプロコフィエフのを使っているけど、使う
シーンが違ったり、有名な曲が使われなかったり(わざと?)で、
チャレンジングだな〜と思った。
キャピュレット家の舞踏会でも、有名な「騎士たちの踊り」ではなく、
他の版で舞踏会に忍び込むロメオら3人組の踊りの曲(「仮面」かな?)が
使われていた。故に、キャピュレット家と客人たちの重厚で威風堂々とした
踊りが、クルベリ版では楽しく軽妙で、まるで収穫期の農民の踊りのような
印象になっていた。
舞台装置や小道具はほとんど省略されているものの、衣装(エヴァ・シェーファー)は
あっさり目ながらそれなりに役柄のイメージに合ったものだった。その中でも、
道化は被り物など結構凝っていたように思う。「白鳥の湖」の道化のように、あまり
激しく踊らないからかな。
全体として、私はこういう「ロメオとジュリエット」も嫌ではないな〜と
思った。
なかなか見る機会のない作品なので、見るのがすごく楽しみでした。
音楽も初めて聞く曲だわ〜。
第一場 館の玄関
1880年代のスェーデンの伯爵家。乗馬服(ボトムはチュチュだが)の
伯爵令嬢ジュリーは、夏祭りの準備で忙しそうな召使いの娘たちを叱り、
先祖の絵に飾られた花を取り払わせる。(ジュリーの先祖嫌いはワケあり)
ジュリーは、父(樫野隆幸)が決めた貴族の婚約者(岸田隆輔)をいびり、
怒った婚約者は去っていく。
ジュリー役の伊藤は、落ち着いていて伯爵令嬢というより奥様という感じ。
男性というものがよく分からず、無分別な行動に走ってしまう世間知らずの
お嬢さんに見えないのがイタイな〜と思った。ただ、この役は難しいし、
ベテランでないとこなせないのだろう。
ジュリーは第一場はほとんど不機嫌な状態なので、表情もずっと硬いのだが、
これは物語の展開とともにどんどん変わっていくのだった。
下男のジャン役リーガン・ゾウは、とても素晴らしかった。バネあり、キレ
あり。
第二場 小屋でのダンスパーティ
小屋で使用人たちが集って騒いでいる。背景に大きな夕日。夏の北欧の長い
夕方を人々が満喫している。
そこへジュリーが登場。かっちりした乗馬服からピンクの開放的なドレス
(ちょっとネグリジェみたい)へ着替えていて、使用人たちから浮いてしまって
いる。
ジュリーはジャンを踊りの相手に指名し、2人の踊りは次第に激しくなっていく。
異様な雰囲気に、ジャンは我に返り、小屋を走り去る。
ここはジュリーが調子に乗って、どんどん羽目を外していく場面。表情は
晴れやかに、態度はさらに傲慢になっていくような。
森番の娘クララ(伊藤さよ子)が溌剌とした踊りで良かった。
第三場 台所
波乱と衝撃の場。
ジュリーはジャンを追いかけ、台所へやってくる。ジュリーはジャンを誘うが、
ジャンは応じない。
小屋から人々がやって来る気配がしたので、ジャンはジュリーを自分の部屋へ
慌てて連れ込む。
人々が去り、部屋から出てきた2人は、関係を持ったことにより主従の
立場が逆転していた。
この場で、ジュリーは自ら脚を見せたり、スカートを剥ぎ取ったりと誘惑
するような仕草を繰り返す。その後の展開を見れば、この行為は全くその
危険性に気づかない愚かな行為で、哀れにすら思える。
ゾウは、からんでくるジュリーへの興味と困惑、貴族階級への憎しみなど
様々な感情が生まれては消えるジャンの混乱を良く表現していた。
ジュリーを征服してから、彼女を足蹴にしたりして束の間の優越感に浸った
後、伯爵の呼び鈴が聞こえると、魔法が解けたように、元の使用人らしくなって
しまうところは面白い。慌てて伯爵のブーツを磨いたり、足を5番にして腕は
アン・バーからちょっと開いた(あれもアン・バー?)使用人のポーズを取った
り。
ジャンの婚約者クリスティン(樋口みのり)の髪型が、ムーミンのミイそっくりで
思わず「おお、やっぱり北欧〜」と思ってしまった。(あんまり関係ないかも
・・・)
第四場 館の玄関
ジャンと逃げる為に、家宝の宝石を持ち出そうとするジュリーを、先祖の
亡霊が取り囲む。(ジュリーの妄想?)
父親や先祖に顔向けできない事をしてしまったと自覚したジュリーは、
ジャンの手を借りて短剣で胸を突く。
パンフの解説をちゃんと読んでなかったので、ジュリーが開かない宝箱と
格闘しているのを見て、「何をしているんだろう?」と思った。(逃走資金を
得ようとしたのか・・・)
それにしても、尽くしてくれる男ならまだしも、身持ちが悪そうだし暴力も
振るう男となぜに駆け落ちしようとするのか、私には理解できない。その辺が
世間知らずなのかしらん?(恋に身を焦がしているようでもないし・・・)
ジュリーが先祖の亡霊と踊るシーンだが、どうも私は亡霊ダンスが苦手。
宝塚でも先祖の亡霊と主人公が踊る作品を見たことがあるけど、あの亡霊の
扮装が嘘っぽくって嫌だ。折りしも、マイケル・ジャクソンの追悼番組で
「スリラー」をよく目にしたけど、あれぐらいかな。許せるのは。(あれは
亡霊ではなくゾンビですかね)
また、ジュリーが自殺を試みて逡巡するところがちょっと長くて、私は
ダレてしまった。オルゴールのような音楽になり、ジュリーがナイフを持って
からくり人形のようにくるくる回りながら同じ振りを繰り返すところ。
もはや自分で自分がコントロールできなくなっている状態を表しているの
だろうか?
ジュリーは自分の住む世界を嫌い、そこから踏み出して破滅してしまう人
だが、彼女の危うさ、愚かさ、もろさを伊藤は全身を投げ打って演じていた
ように見えた。
最後に衣装(スヴェン・エリクソン)について。ジュリーが最初に着ている
乗馬服は下がクラシック・チュチュになっているのだが、チュチュの使用は
ここのみ。他の女性出演者もみんな膝下スカートなので、違和感がある。けれど、
かっちりした乗馬ジャケットに大きな帽子+白いチュチュというのが、「令嬢
ジュリー」と言えばあのイメージが思い浮かぶ、というぐらいすごく印象的。
ジャンの婚約者クリスティンの衣装は、夏だというのに首を覆う高い襟、
手首まである長袖、暗い色の長いドレスと禁欲的ともいえるスタイルで、
ピンクの露出度の高いドレスを着たジュリーと、好対照。(召使の娘たちは
もっと華やかな色合いの服を着ている) 扇情的なジュリーの態度をより
際立たせる良いアイデアだと思った。