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ニューヨーク・シティ・バレエ



I.「スクエア・ダンス」( Square Dance )


 女性ソリストのソロはないのに男性ソリストのソロがあるというのが、 私には新鮮だった。
 そのソロをマルコヴィッチは流麗に踊った。

 ボレーは最初キレが悪く、ポーズなどもビシッと決まらないところがあった が、最後の方のテンポが非常に速くなる箇所は身体のさばき方が絶妙。

 教えて頂いた話とステージ・ビル等の解説を総合すると、バランシンが アメリカン・フォーク・ダンスの伝統とクラシック・バレエを結合させた 1957年のオリジナル版には、古きアメリカの伝統に従い、熟練の音頭取り ( dance-caller )がいて、即興の狂詩( doggerel )で、ダンスのフォームを 表面上決めたという。その当時は、音頭取りも演奏者もダンサーとともに 舞台に上ったが、76年の改定版では、演奏者はオーケストラ・ピットに降り、 音頭取りはステイト・シアターのスケールの関係で廃止されたとのこと。 男性ソリストのソロもこの改訂版で追加されたそうだ。
 例えば、他の人が真中で踊っている時に、脇によけて見ている他のダンサー がお喋りする(ふりをしている?)のは、フォーク・ダンス的な色合いを 残しているためなのかもしれない。



II.Polyphonia


 タイトルの「Polyphonia」は、「Polyphony」(多声音楽、対位法)から とった造語だろうか。(私は音楽や英語に精通していないので分からないの だが)

 幕が開き音楽が始まると、横一列に並んだ4組の男女ペアが一斉に踊り出す が、動きは各ペアで完全に独立しており、しばらくは各自の領域をはみ出る ことすらしない。プロムナードしているペアの横で、ピルエットしているペア、 その横はリフトという感じ。確かに、踊りで「Polyphony」を表している。

 全体は10のセクションに分かれており、最初と最後だけ8人全員で踊る ほかは、大体1ペアか2ペアで踊られた。女性3人の踊りや男性2人の踊りも あった。

 踊りでは、ウェーラン/ソトー組の大勝利。この二人はこのバレエ団で最強 ペアではないかと私は常々思っていたのだが、この日は圧倒的だった。
 彼らは第2セクション、第7セクション、第9セクションと踊ったが、 いずれも素晴らしく、殊にソモジ/リアン組と競演する形になる第7 セクションでは、ソモジ達が見劣りしてかわいそうになるくらい。

 ウェーランの身体の使い方は、大胆というべきか潔いというべきか。見事な までに鮮やかな印象を残す。それでいて、音楽を全身でかっちりと掴んでいて、 動きに全く過不足がない。
 彼女を力強くサポートするソトーは、これまた完璧。ウェーランの思い きりのよい踊りを十二分に支え、可能にしている。

 第9セクションを見ながら私の目は涙で潤んでしまったのだが、感動した のは他の観客も同じだったようだ。彼らが踊り終わった後、拍手が鳴り 止まなかったので、ラストの第10セクションの為に8人のダンサーが舞台 上でプリパレーションしているにもかかわらず、しばらく音楽が始まら なかった。鑑賞歴の短い私が書いても重みがないが、ステイト・シアターで こんな体験をしたのは初めて。
 ウェーラン/ソトー組は踊っていくうちにパワー・アップしたのか、その 第10セクションでは、同じく全キャストが出る第1セクションよりもずっと 輝いている。
 群舞と主役という構成ではなく、主役4組の同時競演という様相なので、 弥が上にも際立っていた。

 その他では、第6セクション、アンサネッリ/ホール組の叙情的な踊り、 第8セクション、ティンズリー/ファウラー組の快活な踊りが印象に残った。



III.「十番街の殺人」( Slaughter on Tenth Avenue )


 これを踊るスザンヌ・ファレルの数十秒の映像に魅せられ、いつか見たいと 思っていた作品。こんな笑えるバレエだったとは知らなかった。

 「十番街の殺人」は、ミュージカル「On Your Toes」の中で演じられる 劇中劇。
 「On Your Toes」のあらすじを非常に簡単に説明すると・・・。
 主人公の音楽教師フィルは、街に来ているロシアのバレエ団の興行が ふるわないことを心配した後援者に、「十番街の殺人」というタイトルの とっぴなバレエをたてまつる。後援者はとってもアメリカンなこのバレエが ヒットすると考えて採用する。
 フィルはバレエ団のプリマ・バレリーナ、ヴェラ・バロノワに想いを 寄せているので、バレエ団の監督となる。
 リハーサルが始まるが、ヴェラ・バロノワのパートナーである第一 ダンスール・ノーブルはオフ・ビートのステップやジャズのリズムについて いけず、フィル自身が主役になってしまう。(実は、フィルは売れっ子 ボードビル芸人の家系)
 それを恨んだ第一ダンスール・ノーブルは、ギャングに金を渡して、 フィルを客席から撃ち殺すよう依頼する。(物語の最後に、主役が拳銃で 自殺する場面があり、そのシーンに合わせて撃つという計画)
 偶然、二人の密談を団員が立ち聞きし、本番中にメモが入り、フィルの命は 救われる。

 劇中劇「十番街の殺人」のストーリーはもっとシンプルで、酒場を 牛耳っているボスに、ストリッパーが恋人のタップ・ダンサーをかばって 撃たれ、最後にタップ・ダンサーが恋人の亡骸の横で銃で自殺するというもの。 この安っぽいラブ・ストーリーを、酒場の猥雑な雰囲気の中で、踊りで 彩りながら展開していく。

 最初、幕が閉じられたまま、メーキャップ用のガウンを着た「ダンスール・ ノーブル」(アダム・ヘンドリクソン)と、「いかにも」といった身なりの 「ギャング」(ステュアート・キャップス)が出てくる。
 殺人計画は言葉で説明され、観客にも明確に分かる。そして、立ち聞きして 血相を変える「バレエ団の団員」もちらっと姿を見せる
 「ギャング」が舞台上から去っていった後、ヘンドリクソンがたてつづけに 見せるバレエ技がすごい。観客席から「おお」という声も上がる。

 「ダンスール・ノーブル」が「僕はこんなすごい事ができるんだ。ふん!」 といった風に袖に消えた後、「ギャング」は何と本当に2階サイドの ボックス席に現れ、これ見よがしに大きな拳銃をゴツンと自分の前に置く。 (おもしろい)
 そして、「ギャング」が席に着いてから、指揮者がオケ・ピットに出てくる 凝りよう。

 音楽が始まり、幕が開くと、そこは賑やかな酒場。派手なショーが舞台 下手に設けられたストリップ舞台で行われ、上手にはバーテンダーが忙しく 働くカウンターがある。
 アレクソプロス演じる「ストリッパー」(多分、本筋「On Your Toes」の プリマ・バレリーナ、ヴェラ・バロノワなんだろうな)も、舞台上で踊る。 鮮やかなピンクの衣装を着たアレクソプロスは、とてもあでやかで、美しい。 大輪の花といった感じ。そして、彼女に恋心をときめかす「タップ・ダンサー」 (フィリップ・ニール)もいる。(←「On Your Toes」のフィル)

 警察が踏みこんだりして、色々あった末に、酒場は閉店。人がいなくなる のを待っていたかのように、「タップ・ダンサー」と「ストリッパー」が 落ち合うが、二人の恋を許さないボスが「タップ・ダンサー」を撃ち殺そうと する。彼をかばって「ストリッパー」が撃たれ、彼女はゴロンとストリップの 舞台の上に転がって死ぬ。
 ボスがどうなったか忘れてしまったが、その場には「タップ・ダンサー」 が一人残って、彼女の死を嘆き悲しんでいる。

 そこへストリップ舞台の奥のカーテンから殺人計画のメモが差入れられるが、 そのシーンがおもしろい。
 カーテンからメモがひらひらしているので、死んでいるはずの「ストリッパー」が ゴロンゴロンと転がって、メモを取り、読んでビックリ。そして、また ゴロンゴロンと転がってきて、悲しみの演技最中の「タップ・ダンサー」= フィルにメモを渡す。
 「もうなんでこんな時に・・」という様子でメモを受け取ったフィルが 自分を殺す計画を知った時には、もうまさにその自殺シーンの直前。踊り ながら、どうしようとうろたえるフィルの横で、「ストリッパーの遺体」も 動揺している。

 ついに、そのシーンが来て、フィルは拳銃をこめかみに当て、「ギャング」 も立ちあがり客席から拳銃をかまえる。(「ギャング」にライトが当り、 客席からもよく見える)
 フィルは機転を利かせて、同じところをもう一度繰り返して踊り、時間稼ぎ をする。結局、4〜5回同じところを繰り返しただろうか。拳銃をこめかみに 当てては、また踊り出すので、この辺りはもう客席も笑いの渦。私は今でも ここの音楽が耳についている。

 「もうこれ以上引き伸ばせない〜」という表情をフィルがした時、 ボックス席に「警官たち」が踏みこみ、「ギャング」は逮捕。絶体絶命の ピンチを切り抜けたフィルは、「助かった〜」という安堵の表情で 「ピストル自殺」をする。

 あとは、大喜びする団員たちとともに、みんなで踊りまくって幕がおりる。

 スザンヌ・ファレルのビデオでも見られる、「ストリッパー」が「タップ・ ダンサー」に腰を支えてもらいながら背中を思いっきり反らして足を振り 上げる(カタカナの「ト」のようになる)シーンがとても豪快。 「ストリッパー」役は振り上げる足を交代させながら進んで行くわけだが、 口笛でも吹きたくなるぐらい見ている者を興奮させる。(確かにロシア・ バレエからはひどく離れている)

 フィリップ・ニールは、自殺シーンでは観客の笑いを取ったものの、 ものすごく盛り上げたというほどではない。タップ・ダンスはいまいちかな。

 閉店後、密会のために再登場するアレクソプロスは、黒の衣装に着替えて いて(もしかしたらピンクと黒が反対だったかも)、たっぷりとした黒髪を 下ろし、この場でもなまめかしい。
 フィルが命拾いした後の喜びのラスト・シーンでも、下ろした髪を振り乱し、 腕をぶんぶん振り回して派手に踊っており、ナイトクラブの女王になりきって いる。まさに狂喜乱舞。

 カーテン・コールでは慣わし通り、悪役にブーイングの嵐。

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