(17)老計の時代

宋の時代に生きた朱新仲の教訓に「人生の五計」がある。

 @生計:いかに生くべきかという、本質的生き方
 A身計:いかに社会人として対処していくかという、社会的価値観
 B家計:いかに家庭を営んでいくか
 C老計:いかに年をとるべきか
 D死計:いかに死すべきかという、死生観

人生100歳時代を迎えつつある現代日本。働く人々の約85%程度がサラリーマンであるという現状において、彼らは定年退職後、どう人生を送るのか。定年退職後の20〜40年あまりを「余生」というのはあまりにも寂しすぎる。長い年月を「余りの生」とすることは、これはちょっと考えものである。
年間約3万4千人の方々が自ら命を絶つ時代(交通事故死者約8千人に対して4倍以上である)。「自殺大国ニッポン」といわれる所以である。そのうち、60歳以上の方々は1万数千人である。1日平均約30人である。その理由の第1位が、「生き甲斐」の喪失である。

「老計」が大切な時代になっているのである。

安岡正篤先生は次のように述べられている。
「“淮南子”という本を見ますと“行年五十にして四十九年の非を知り、六十にして六十化す”とあります。これは、六十になっても、六十になっただけ変化するという意味です。すなわち、人間は生きてる限り、年をとればとるほど良く変わっていかなければならないということです。悪固まりに固まってしまっては駄目です。動脈硬化だけでない。大脳硬化、精神硬化、何でも硬化する。硬化したのでは、本当の老ではないのです。“老”という文字は老いるという文字であると同時に、なれる、練れるという意味があります。お酒でも、中国では紹興酒の良い酒を“老酒”といいます。」 安岡正篤“運命を創る 人間学講話”(プレジデント社)より

「生き甲斐」を持つ老人パワーは恐るべしである。彼らは次のように謂う。

    五十、六十、ハナタレ小僧。
    七十、八十、働き盛り。
    九十になって迎えがきたら、百になるまで追い返せ!

明るいのである。全く硬化していないのである。私など、彼らからすれば赤子同然である。「こころ元気」故に、充実した日々を送り、イキイキと長生きするのである。すばらしいことである。

三国志の英雄、曹操は詩人でもあった。

    老驥、櫪ニ伏ス
    志、千里ニアリ
    烈士、暮年、壮心ヤマズ

この気魄・気概・誇りが大切な時代となってきたのである。