ふと空を見上げると、一匹の鳩が飛んでいた。
よく見ると、首に筒を提げているのが見える。
「あれラリーさんの鳩じゃないですか?」
「え、どれどれ?」
「えーっとあそこです」
そう言っているうちに鳩はユウト達を捕らえたのか、じょじょに高度を落としてユウト達のもとに近づいてくる。
「……とてつもなく嫌な予感がするんだよねぇ」
ラリーが唐突に呟いた。ソウルも後に続く。
「だね。先生ラインハルトとかのことで怒っているだろうし、戦争の処理とかで忙しいだろうし、不満がたまりにたまっていると思うんだよね。
どうする?手にした瞬間爆発したりして」
「ソウル、真面目な顔してそんな怖いこと言わないで。でも否定出来ないよねぇ……。とりあえず魔法壁でもかけとこっか」
冗談抜きでラリーは一人一人に魔法壁をかけていく。
さすがのユウトもことの重大さを実感し、たじろいだ。
「え、あの、手にした瞬間爆発する魔法なんてあるんですか?」
「ううん、僕の知る限りはないよ。でも」
「先生なら出来そうな気がする」
ラリーとソウルが声をそろえて断言した。
今の今までソリが合わなかった二人が初めて意見を共にしたことに、ユウトは少し驚きつつも喜んだ。
ただ、原因が原因なので、心の底から素直に喜べない。
「ゆっちー、悪いんだけど僕らの代わりに受け取ってくれない?」
おそらくユウトの表情が緩んだ瞬間を見たのだろう、ラリーが無邪気な笑顔で語りかけてきた。ユウトもこれはたまらない、全否定する。
「嫌ですよ!俺だって手にした瞬間に爆発するかもしれないものなんて受けとれません!」
「いや、大丈夫だよユウト。先生って関係のない第三者に危害を与えることは嫌うからさ、
きっと僕かラリーが受け取ったときにだけ爆発するようになっていると思うよ。多分」
「そういう問題か?それに多分って……」
「ゆっちーお願い!僕らを助けて!」
そう懇願されるとユウトは弱い。
納得はいかないが、ユウトは手を空に向かって掲げた。
その様子を見ていたのか、鳩は迷うことなくユウトの腕に降り立った。
とりあえず何も起きない。
鳩はユウト達の不安をよそに、優雅にクチバシで羽の毛づくろいをしている。
その様子を見てユウトは胸をなでおろした。
しかし、危険が無くなったというわけではない。
ユウトは鳩の胸元前にぶら下がっている筒に手を伸ばし、おそるおそるフタを開けてみる。
そこには羊皮紙が折りたたまれていた。
別段変わったところはない。
少し躊躇したが、ユウトはそれを取り出して広げてみた。
何も起きない。
ここまできてユウトは緊張を解きほぐした。
改めて羊皮紙に目をやる。
それには文字がビッシリと書かれてあった。だが、セネトの文字である。
ユウトには理解出来ないのでこれ以上何も出来ない。
まだ少し強ばっているラリーに目をやり、ユウトは手紙を差し出した。
「ゆっちー、ありがとう。本当にごめんね」
触れる前に一瞬手が止まったが、ラリーがマティーナからの手紙を受け取った。
何も起きない。
そこでやっとラリーとソウルの緊張が解けたのだろう、空気が和んだ。
一回深呼吸をしてから、ラリーが手紙の文字を追い始めた。
外から情報を得るときラリーは表情が一切変わらない。
表情の変化によって周りに情報が伝わることがないようにしているのだろう。
ユウトはもちろん、おそらくソウルにも、どういう内容が書かれているのか判断は出来ない。
「やっぱり動き出しちゃったみたいだねぇ」
読み終わったのだろう、顔をあげて、苦笑いをしながら誰とも無しに言う。
「なにがさ?ミラクティスが?サイトゥリィが?まさかもう正面衝突したの?どっちもそんなに愚かなわけ?」
「違うよ、さすがにどちらもそこまで愚かではないんじゃない?」
「じゃあ何がさ?」
「セネトが」
その言葉にソウルの表情も固まった。
ラリーから手紙を受取り無言で読み始める。
しばらくしてソウルも顔をあげた。
と同時に大きな溜息をつく。
「そりゃさ、悔しい気持ちはあるけど、セネトの長老たちが動き出すのはしかたないだろうね。誰が来ることやら、わかる?」
「なんとなく。事態は深刻だからね、あの人しかいないんじゃない?」