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+++「戦闘シーン(お蔵入り)」+++
 男性だ。背丈はラリーほどで、体型に合うようしっかりと形作られたシワ一つない白いコートを身に纏っている。 髪は金色、前髪が左目を隠している。袖先から見える手の肌は氷のように白く透き通っていて、服の白さに負けないほどだ。
 今は初秋、木々は果実や紅葉の色を帯び、少し傾いた日の光を浴びていて鮮やかだ。 その中を、嫌でも目立つ純白のコートを優雅にたなびかせながら、その人物はゆっくりと近づいてきた。
「こんにちは、ラリー君。こうして正式に顔を対峙させるのは初めてですね」
 口調も物腰も丁寧だが、その笑顔を形作っている口元の歪みと、 左肩に背負っている華奢な身体には不釣り合いな大鎌を見逃すほどユウトたちは馬鹿ではない。
「初めまして、トートさんですよね。今日はどういったご用件ですか」
 ユウト達から一歩前に出て笑顔で返すラリー。しかし声は冷たく、そこからは微塵の油断も感じられない。
「ええ。僕の目的の為には、あなた方が邪魔なのですよ。こういった障害は早めに除去しようかと思いまして、ね」
 その言葉が耳に入った瞬間、ユウトとソウルは反射的に攻撃を仕掛けそうになったが、ラリーがそれを両手で制す。 ラリーは笑みを崩さずトートにあくまで丁寧に話しかける。
「そうですか。でも、あなたの目的なんかに僕らが振り回されるのはごめんですよ。邪魔なのでさっさとどいてください」
 ラリーの挑発ともいえる態度に眉を吊り上げるトート。少し凄みが効いた声で言葉を返す。
「嫌ですよ。どうぞ、通りたければ力付くでお越しください」
「じゃあ、お望みどおり力付くでいかせてもらいます」
 笑顔のまま、しかしラリーは誰も異を唱えられないほどの凛とした声を響かせた。
「ソウル」
 視線でトートを牽制しながら、早口でラリーはソウルに指示をだす。
「いつもの鬱憤をはらすつもりで魔法をガンガン使っちゃって。多少の被害は考えなくていいよ、僕が許す」
 その指示にソウルは一瞬怪訝な顔を見せたが、すぐに口を綻ばせた。瞳もまるで子供が新しい玩具をもらったかのように輝きだす。
「本当だね。その言葉、忘れないでよ」
 言うが早いがソウルは魔法を使う体制に入った。周囲の空気が静まり、木の葉が触れ合う音でさえ耳を刺激する。 目には見えない圧迫感と張り詰めた緊張感が拡大し、ソウルの身体は徐々に青い薄命を纏い始める。
「ゆっちー」
「はい」
 視線をトートから外すことなく、ラリーはユウトに向かって低い、しかし耳によく通る声を飛ばす。
「トートはひとまず僕が引き受けるね。だからゆっちーは・・・・・・」
「その周りですね」
 少し間。
「うん、さすがゆっちー。7、8人位いるけど、ゆっちーなら平気だよね、任せるよ」
 無言で頷いてトートの周囲に目をやるユウト。姿を隠してはいるが、確実にいる。 右に4人、左に3人。今までの経験と自分の直感を信じて敵の戦力を推し量る。 熟練者が放つ殺気とも覇気とも言えない得体の知れない恐さを感じはしない。 それに加え、気配を完全に消せていない。以前のクエントン卿暗殺時に倒した輩と同程度、あまり腕が立つとは言えない実力だろう。 その時の記憶と感触を思い返し、鞘からダンテを抜く。大丈夫、いける。まずは右の伏兵からだ。
「ジナジナ」
 ユウトが思考を巡らせている間、ラリーはジーナに言葉を投げかける。
「悪いけど相手が相手だから、僕はジナジナの防御にまで手が廻らなくなっちゃうかもしれない。だから・・・・・・」
「大丈夫、自分の身くらい自分で守るわ」
 そう言ってジーナは腰に付けていたナイフを取り、いつでも投げられるように柄を右手の人差し指と中指の間に挟みこむ。
 ユウト、ソウル、ジーナたちそれぞれが目にトートを捉え戦闘体制に入った。お互いがお互いの死角を補いあって隙をなくす。
 ラリーはそれを肌で感じたのだろう、声色に少し暖かみが戻る。
「よかった、これで安心。僕はトートに専念する」
 ラリーが立つ地面周辺に翠色の風が収束し、旋転しながら空へと舞い上がる。 ラリー自身も同じ翠色の光明を纏い、その瞳にはトートがハッキリと映る。
「みんな、絶対、何がなんでも死なないこと!」
 そう声を張り上げると同時に信じられないスピードで一気に間合いを詰めてトートを捉えるラリー。 トートもさすがに驚いたようで、鎌に手を出すのが一瞬遅れる。 その隙を狙ってラリーは右手を一振りし、風の刃をトートに目掛けて発動させる。
 身体を左にずらしてそれを避けようとしたトートだが、刃は彼をかすめて右袖を破いた。 しかし当の本人は全く気にする様子を見せず、素早く大鎌を右肩に乗せた。 いつでも振りかぶれるようだ、隙はない。その状態でトートはラリーと向き合い、目を細め感慨深そうに語りかける。
「素直に驚きましたよラリー君。一瞬でこの距離を移動することが出来るとは思いませんでした。魔法とは奥が深いのですね」
 言い終わると同時にトートは大鎌を一振りして土煙を起こし、上から落ちてきていた炎を纏った無数の石つぶてを相殺する。 火と土の複合魔法、ソウルが放った高レベルなそれを易々と消してから再び右肩に武器をのせた。 ただ持っているだけのように見えるが、どうやらそれが構えらしい。隙がありそうで全くない。
「こんな芸当が出来るとは、さすがセネトですね。私でなかったら一発でやられていますよ」
 そう言いつつ半歩下がって身体をのけ反らす。トートがいた地面が針山のように盛り上がり、そこにあった落ち葉を突き刺した。
「厄介ですね。やはり最初に彼を仕留めておきますか」
 大鎌を右から左へと大きく振りかぶり、そのまま刃を上にして左肩にのせた。 ラリーの右側面を冷たい風が通り抜けたと同時に辺りの緊迫感が薄れた。それはソウルの魔力消失を意味する。
「ソウル君のことはしっかりと調べさせてもらいました。彼は攻撃魔法の名手ですね。しかも相当な遠距離からの。 ただ、そこに穴がありました、後ろがガラ空きです」
 ソウルの魔力消失、すなわちソウルの自身の戦闘不能。 トートからの攻撃がソウルを後ろから直撃したのだろうラリーは起こったことをトートから目を逸らさないで判断する。
「ソウルはあれくらいの魔法じゃ死なないよ。僕もソウルも先生に酷くしごかれたからね」
 淡々と、表情一つ変えずにラリーはトートに告げる。動揺した様子は全くない。
「そうですか。ただ、今この場においての彼の戦力は0。それで充分です」
 お互いに動かない。

 先にトートが動いた。
「ではあらためてまいりましょうか」
 次の瞬間には、背丈以上もある武器を自らの腕のように自由自在に操るトート。常識で考えたらこんなことは不可能だ。
 大鎌自体が長いため間合いが広い。自分に向かってくる刃をギリギリのところでラリーはかわす。
「反射神経も良いのですね。魔法使いは運動が苦手なものと思っていましたが、私の勝手な思い込みでした」
 さらに速く、複雑な軌跡を描くようになった。右上から左下へ、左下から左上へ、と見せかけて前方へ。 今のフェイントはマティーナの思い出したくもない特訓のかいがあって見切れたが、ラリーは回避の専門ではない。
 空気と自分の魔力を高密度で収束、発散させて魔法の膜をつくる。魔力の強さと収束時、発動時のコントロールの上手さが膜の強度に影響を与えるものだが、ラリーは手慣れた様子で膜を紡ぎだす。 それと並行してもう一つの防御魔法をラリーは発動させた。地面の土は盛り上げて自然素材の盾を作る。 ラリーほどの使い手になれば形や大きさは自由に変化させられる。
 何回かトートの大鎌はラリーを捉えたが、二重の守りに防がれ致命傷をあびせられない。
「あなたの防御魔法はセネトでの随一なことは知っています。しかし、攻撃魔法が苦手で守ってばかりでは、私を倒すことは出来ませんよ!」
 その次の瞬間、トートが立っていた地面から火柱が勢いよくあがる。その上方には、風が鷹の造形をとって静かにたたずんでいた。 ラリーだ。火柱を後ろに回避した瞬間のトートを狙い、左右前後の四方向からその身を切り裂かんと疾走させる。
 
「残念でした。僕は攻撃魔法が苦手だなんてこと誰が言ってた?」
「たしかに防御のほうが得意だけど、攻撃魔法が使えないわけではないしね。 ソウルの不意打ち魔法を喰らい続けていくうちに防御が得意になっちゃっただけのこと」

「俺を甘くみたね。後悔するよ」
 触れるものを切り裂くような翠色の魔力の層を身体に纏いながら、普段の微笑を浮かべてばかりいるラリーからは想像できない、 暗い瞳を宿した冷たい表情をラリーはトートに向けて放った。
 一方のトートは顔が下を向き、前髪で表情が読み取れない。そのうち肩が小刻みに動き出した。
笑っている。
ゆっくりと、トートは地面につけていた鎌の先端をラリーの喉に合わせて持ち上げた。 それを支える腕には相当の力がかかっているはずだが、微塵の乱れもなく動作そのものに隙がない。
「甘く見ているのはあなたですよ」
 間合いを考えてトートとの距離を大きくとっていたが、それでも不十分だった。
「甘いです」
 鎌が視界の右へと消え、代わりに柄のほうが目に飛び込んできた。 どうすればそのように操れるのかは分からないが、回転させている。角度が若干下を向いているのでラリーの脚を狙っているのだろう。 素早くそれを判断し、ラリーは足元に防御膜と土の盾を発動させた。今までの結果からしてこの守りが突破されることはないはずだ。 トートの攻撃が届くその数秒の間に反撃の隙を探す。トートの視線はラリーの足元に集中している。 上方に死角があるはずだ。そこを狙って、素早く攻撃魔法の体制を整える。
 だが、その時、ラリーは自身の足元に違和感を覚えた。確かに敷いたはずの防御魔法が消えている。 その一瞬の戸惑いがまずかった。トートの鎌が落ちてくるのを感じ、ラリーは咄嗟に後退したが遅かった。 直撃こそしなかったが、風圧で足が捕われバランスを崩し、そのまま後ろに倒れこんだ。
 トートの口が大きく釣りあがる。瞳は漆黒、トートは大鎌をラリーの首目掛けて振り下ろした。

 ラリーがトートに向かっていたすぐ後に、ユウトも右前方へと駆け出した。 二人の攻防を横目で気にしながらも、目の前への注意は怠らない。 伏兵の気配は近くに行くにつれて大きくなる。しかし、肝心の場所がわからない。

ユウトvs伏兵

   ジーナの叫び声がユウトの身体を貫いた。ハッとして振り返る。 トートがラリーの息の根を止めようと、大鎌を振り下ろしているのが目に飛び込んできた。
「ラリーさん!」
 必死で駆け出すがそれでは間に合わない。走りながらダンテの鞘に手をやり、 トートに向かって投げようと腕を振りかぶろうとしたその時、ユウトの背後から声がした。
「ゆっちー、ダンテを手放しちゃダメだよ」
 あまりに予想外の警告に立ち止まり、思わずユウトは後ろを向いた。ほんのつい先ほどまで、前方にいた人物が自分の後ろにいる。 慌てて前を確認したが、そこにはこちらを睨んでいるトートしかいない。
「え、え、ラ、ラリーさん……?ど、どうして……いや、ど、どうやってここに?」
「ゆっちー、トートに隙を見せたら終わりだよ」
鋭く言われ、ユウトはダンテを構え集中力を立て直す。トートはこちらを見つめたままで動く気配はない。
「僕がどうやって逃げたか、トートをどうにかしたら嫌になるまで説明するよ。それよりも」
ラリーもトートを見つめる。その顔にいつもの余裕はない。
「ゆっちー」
「……はい」
「僕じゃトートを倒せない。だからゆっちー、頼むね」
 その言葉がユウトにどれだけの痛手を与えるかを分かっているのかいないのか、軽い頼み事をするようにラリーは言った。 ユウトはなんとか隙をつくらずに構え続け、ラリーに訴える。
「ちょ、ちょっと待ってください!なんでラリーさんが敵わないんですか!」
「詳しくは後で説明するけど、トートの持っているあの大鎌、あれはダンテの仲間なんだよ」
「えっ?」
「魔法を吸収しちゃうんだ。それを打ち破れるのはダンテ」
「大丈夫、僕も援護するし、ゆっちーならいけるよ」
 戦いの場には似合わない優しい笑みをほころばして、ラリーは口を開いた。
「大丈夫、僕も援護するし、自分とダンテを信じてあげて」

「君があのユウト君ですね。ダンテの所有者……どうぞ、その力を見せていただけますかっ」
 言い終わると同時に大鎌がうねりをあげてユウトに襲いかかる。速い。大型の武器なので振りかぶりが遅いかと思ったがとんでもない。 片手剣、いやそれ以上の速さで草を刈るかのようにユウトの目の前、左から右へと刃が翔けた。
 風圧で少し首に切り傷を受けたが、無意識のうちに身体が反応して後ろへ下がっていたので、幸い大きな痛手はない。 しかし、ほんの数秒遅れていたらと思うとゾッとする。自分は確実に死んでいた。

  ユウトvsトート

 トートの左肩に落雷が走り火花が散った。
 ユウトは反射的にトートから離れ、ダンテを構えなおす。
 目の前にいるトートも大鎌を構え直すが、今の落雷で左肩を痛めたのだろう。 それまでとは違い、怖いくらいまでに完璧であったトートと鎌との曲線美が崩れている。 だが、それでも隙は生まれない。ユウトはトートから目を離さず機会を窺う。
 しかしトートはユウトではなく、ユウトの後ろを冷たい瞳で射抜いていた。 その視線の先には、淡青の光を放ちながらトートを睥睨(へいげい)するソウルの姿があった。
「わかりました。甘く見ていたのは私のようです。どうぞ、お通り下さい、私はこれで失礼します」
 左手のみで鎌を水平に支え、ユウトを牽制したまま右手をコートのポケットにやり、トートは何かを取り出した。それを高く放り投げる。
 ユウトはそれを無意識のうちに目で追った。丸い太陽を背にした瞬間、不気味に光り輝いた。 それらが地面に当たった途端に閃光と爆発音が鳴り響く。
「それでは」
「ま、待て!」
 トートを追おうとするが、彼が引き起こした土煙に司会が阻まれる。
 ほどなくして視界が晴れたが、そこに残っていたのはユウトが倒した輩のみ。しかし気絶させただけのそれは、屍に変わっていた。
「くそっ!」
 どこを追いかければいいか分からないが、いてもたってもいられなくなり、ユウトは走り出す」
「ゆっちー!深追いしちゃダメだよ!」



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