あたりは色も形も様々な花であふれていた。
地面だけではなく、瓦礫の隙間からも暁の光をあびて艶やかに輝やく花が顔をだし、墓標のまわりは白い献花で覆われている。
町全体が一つの花畑へと生まれ変わった。
こんな魔法は見たことも聞いたこともない。
驚いているユウトとジーナを尻目にし、ソウルが一人ラリーを尋問しだした。
「ねえ、あんたが知ってることを全部言って」
「と言ってもねぇ、少ししか知らないよ」
「いいから!」
「でもジナジナを放っておいてもいいの?」
はっとしてソウルはジーナに目を向ける。気がついてみれば漆黒の風や管轄地域など、極秘であることを次々口にだしていた。
ばつの悪い表情をするソウル。その矛先を向けられたジーナは、しかし、臆することなくソウルに声を投げかける。
「私も一緒に行く。私、アイリスって人に会いたい。あなた達と行けば会えるんでしょ?」
ジーナの予想外で突拍子もない言葉にユウトとソウルはお互い顔を見合わせた。ジーナは二人を気にせずに続ける。
「あの人は私と同じなんだもん。私と同じ血を持っている人なんて初めて見たの。だから会いたい」
「ちょっと悪い。ジーナ、何でアイリスが君と同じ血を持っているってわかるんだ?」
ジーナは少し考えるそぶりを見せたが、すぐにこう言った。
「なんとなく」
そこで言葉は途切れ静寂が流れる。しかしすぐにソウルがそれを打破する。
「とにかくダメだよ。僕たちかなり危ない旅をしているからさ、正直邪魔なんだ。命の保証はないし本当危険だよ。
それに君はおじいさんがいる。勝手に長旅に出られるわけがない、そうでしょ?」
そうソウルが窘めている間、ラリーは何処からともなく現れていた白い鳩を腕に抱き、ソウルに見せた。
「おじいさんへはこれで連絡できるし、なんなら僕がジナジナのボディーガードを引き受けるけど?」
「あんたは黙ってろ!」
「でもさぁソウル、ジナジナのおじいさんには申し訳ないけど、ジナジナは僕たちと一緒に来て欲しくない?」
「……」
「ミラクティアンとサイトゥリーズ、両方の血を受け継いでるジナジナの存在ってすっごく貴重だと思わない?」
「……」
「それに漆黒の風はね、十年前のミラクティアン狩りから怪しい動きをするようになったっぽいんだよ。なんでだろうねぇ?」
ソウルもこの言葉には反論できず、渋い顔をしながらも了解した。
「わかったよ! でも僕は危険だと思って反対したんだからね。あんたがきちんと責任もって面倒みてよ」
「それはもっちろん。それじゃあジナジナ、早速手紙を書いちゃおう。こっちきてー」
ジーナがラリーのもとへ行き、共に手紙を書いている間、ソウルが小さな声で苦々しくユウトに告げた。
「あいつ、見た目はあんな感じでチャラチャラ飄々としてるけど、油断したら取って食われるよ。
魔法、特に防御系は悔しいけど随一だし、何考えてるかわけわからないから本当、余計厄介」
そう言い捨てた後、腕を組んでラリーとジーナの動作を鋭く凝視するソウル。ユウトがなだめる余裕はない。
しばらくして、ラリーは鳩の脚に小さな筒を付け、そして空へと羽ばたかせた。
それら伝達用に飼い馴らされた鳥たちは、迷うことなく目的地へ到着し、
迷うことなく飼い主のもとへ戻ってくるのだとソウルがユウトに向けて簡単に説明する。
鳩が空に消えていったのを見届けた後、ラリーとジーナはユウトとソウルのもとへ戻りだす。
ソウルが待ち兼ねたように一歩前へ歩み寄り、ラリーに視線を合わした。
しかしソウルが口を開くよりも先に、ジーナがラリーを気にしながらユウトに問いかけた。
「ねえ、どうしてこの人は私がミラクティスとサイトゥリーズの両親から生まれたってことを知っていたの?」
もっともな疑問だ。ユウトはラリーの魔力や飄々さ、何よりセネトだからということもあって気にとめていなかったが、確かにそのとうりである。
ユウトは返答に困ったが、ソウルがいち早くラリーに問い詰める。
「そうだよなんで?」
「えーと、なんとなく?」
「怒るよ」
ソウルの身体がうっすらと青白く光り始める。高等魔法を使う構えだ。
「ソウル、もしかして短気になった? さっきっから怖いよ?」
「……誰のせいだと思ってんの?」
「えーと、漆黒の風?」
「あんただよ!」
「え、僕? なんでなんでなんで?」
「怒る、よ」
青光がハッキリとしだした。目でも確認できるほどにソウルの魔力が高まる。
だが、ラリーは魔力など問題にしないのか、動じることなく自分の道を行く。
「まあいいや。それはともかく、そう、なんで僕はジナジナの両親ことを知っていたかってことでしょ?
さっきも言ったけど半分以上は勘と直感。うーん、あえて言えば、僕が持ってる漆黒の風の知識と、
その他もろもろの情報、現状、結果を論理だてて推理したからってとこになるかなあ」
ソウルもバカバカしくなったのだろう。魔力の高まりをとき、今とは逆で冷淡に話し出した。
「あっそう。で、そのあんたが持ってる漆黒の風に対する知識ってのは何さ?」
たいしたことないよ、と前置きしてからラリーは語り始めた。
「えーとね、漆黒の風っていうのは、裏社会におけるなんでも屋ってとこかな。
けど、漆黒の風は依頼者を選ぶんだって。だから裏社会の中でもなかなか表に顔をださなくて
、実体はほとんど謎。そのかわり、どんな仕事も完遂するらしいから一部の人の間では幻の存在って言われて崇められてるとか。
まあ、こんなところだけど、どう?」
「依頼者を選ぶって具体的には?」
間髪をいれずにソウルが聞きただす。
「それがねぇ、見事にバラバラ。お金持ちってわけじゃないし、権力者ってわけでもないし、国とか年齢とか性別もまちまちだし。
でもね、昔はそんなことしていなくて、十年前のミラクティアン狩りのころに変わったって話。
何したんだろうねぇ、突然すごく強い組織になって、それと同時に依頼者を選ぶようになったんだって」
なるほどね、とソウルが頷く。しかし、この二人の会話にユウトとジーナは全く入り込めない。
完全に蚊帳の外だ。どうすることもできず、ただ傍観傍聴しながらユウトはジーナに語りかけた。
「なあジーナ、俺はジーナが一緒に来てくれることになって本当に嬉しいよ」
いきなり言われて驚いたようだ。少し怪訝な顔をしてジーナは問い返す。
「どうして?」
「俺一人じゃソウルとラリーさんは止められないし、それに価値観が違い過ぎて、普通の感覚の人と話していないと俺までどうかしちゃいそうなんだ」
軽く笑いながら、あくまで冗談を言うように口にしたユウト。しかし、ジーナは真面目な顔をして頷いた。
「そうね。なんか変だもんあの人達。あなたのほうがまだマシ。一緒に頑張ろう、よろしくね」
「あ、ああよろしく。……頑張ろう、な」
仲間に対して何を頑張らなくてはならないのだろうと思うが仕方がない。
「ゆっちー、その剣ってもしかしてダンテ?」
唐突に呼び掛けられたユウト。気がついてみると目の前にラリーが目を輝かせて立っていた。
「ええまあ一応……」
「すごいねゆっちー、それって世界に選ばれたってことだよ」
「ど、どうも」
「でもね」
一瞬で真面目な顔になり、ユウトの目を見ながら、小さい、しかし心に重く響くような声でラリーは囁いた。
「ダンテも完璧じゃないよ。この世界に弱点がないものなんてないからね。それを覚えておいて」
どういう意味かと質問する前に、ラリーはユウトから離れて再びソウルと話し始めた。
ジーナは不思議そうにユウトの腰にあるダンテに目をやっている。
ソウルの怒鳴り声を後ろに聞きながら、ダンテは魔法を無効化する剣だということをユウトは説明した。
しかし、ジーナはそういう剣もあるのねと特に興味は示さずセネトの二人に目をやった。ユウトもつられるようにして視線を向ける。
どうやら話し合いは終わったらしい。ラリーがユウトとジーナを呼んだ。