国際プロジェクト・ファイナンスの実務と法律問題
                                        東京銀行国際プロジェクト部法務室
 一九七二年にブリティッシュ・ペトローリアム(BP)が、北海・フォーティーズ油田の開発に必要な巨額の資金を調達することに成功した。それ以来、とくにここ数年来、プロジェクト・ファイナンスは大型の資源開発や工業プロジェクトにきわめて活発に利用されるようになっている。
 最近では日本の企業が推進するプロジェクトでもプロジェクト・ファイナンスを利用した資金調達が行なわれるようになっており、大型プロジェクトの推進あるいは大型プラントの輸出を図っている多くの企業が、この比較的新しいファイナンス方式に強い関心を寄せるようになってきた。また、少し前までは欧米銀行が主導することが多かったが、いまや日本の銀行も欧米の銀行に互してファイナンスの総幹事を務めるまでになっており、高い実力を備えてきている。
 このような状況を踏まえて、実務担当者の指針とすべく、本特集は、プロジェクト・ファイナンスの概括的な説明と法的側面の考察を試みたものである。

第一章 プロジェクト・ファイナンスの概要

一.プロジェクト・ファイナンスとは
 プロジェクト・ファイナンスとは、端的にいえば、「担保をプロジェクトの資産(プロジェクトに伴う種々の契約上の諸権利を含む)に限定し、プロジェクトから生ずる収益を主たる返済の財源とする、プロジェクト資金の融資形態である」ということができる。従来の企業融資(corporate finance)を利用したプロジェクトの開発においては、開発を行なうスポンサーがプロジェクト・リスクを全面的に負担していたが、プロジェクト・ファイナンスの場合には貸手(銀行)もリスクの一部を負担する点にその特徴があり、このためプロジェクト・ファイナンスの金利は、従来の企業融資に比べて多少高く、銀行にとって採算上有利になっている。
 しかしながら、一定のマージンの収入しか期待できない銀行の立場と、プロジェクトの成功から相当の成果を期待しうるスポンサーの立場は、おのずと異なっており、銀行の負担しうるリスクは限られたものとならざるをえない。このため、銀行とスポンサーのリスク分担の境界を明確化するため貸付契約書、担保契約書等の契約書類は、相当精緻なものとなる。
 プロジェクト・ファイナンスを利用するような大型プロジェクトの開発は、通常巨額の資金を必要とするため、リスクの分散という観点からも、複数の企業による合弁事業とすることが多く、たとえば、プロジェクトの開発を行なおうとする国のなかに、そのプロジェクトの事業主体としての会社を設立する場合には、その設立された合弁会社(これをプロジェクト会社と呼ぶ)が、法律上、プロジェクトの開発主体(プロジェクト資産の所有および借入債務の負担など権利義務の帰属主体)となり、プロジェクト会社の複数の株主(これをスポンサーと呼ぶ)がプロジェクトの実際の開発にあたることになる。
 プロジェクト・ファイナンスについては、プロジェクトの開発のためのプロジェクト会社がプロジェクト・ファイナンスの借入人となるが、原則として、スボンサーはプロジェクト会社の借入につき保証を行なわない。このため、プロジェクト・ファイナンスは、ノン・リコース・ファイナンス(non-recourse finance)と呼ばれることがある。しかし、スポンサーに工事完成保証ないしは不足資金補填保証を差し入れさせることが多く、稀にはプロジェクト製品について、スポンサーが製品の引取り手であるときには、テイク・オア・ペイの義務を負担させることがあるので、正確には、リミテッド・リコース・ファイナンス(limited recourse finance)であることが多い。

二.プロジェクト・ファイナンスのメリット
 プロジェクトの実際の開発にあたるスポンサーにとって、プロジェクト・ファイナンスを利用した場合のメリットは、第一に、プロジェクト・リスクの一部を銀行に転嫁することであり、第二に、巨額の資金を調達しても貸借対照表に計上しない、いわゆるオフ・バラソス・シート・ファイナンスが可能なため、事後の資金調達、とくに証券発行による調達をむずかしくするおそれがないことである。
 スポンサーのプロジェクト会社に対する持株比率が五〇%以内であれば、そのスポンサーは財務諸表上プロジェクト会社を連結対象外とすることが可能であるため、プロジェクト会社の借入は、完全なオフ・バラソス・シート.・ファイナンスとなる。このため、プロジェクト・ファイナンスの利用を前提としてプロジェクト会社を設立する場合、各スポンサーは、それぞれ持株比率が五〇%を超えないように工夫することが多い。大型プロジェクトの開発に必要な巨額の資金を通常の企業融資により調達した場合には、借入金の大幅増加によりスポンサーの財務内容が悪化し、事後の借入がむずかしくなるほか、Moody's社、Standard & Poor's社、Fitch社などの格付け機関による格付け(credit ranking)も低下し、証券発行のコストが上昇する。したがって、スポンザーにとってオフ・バランス・シート・ファイナンスとなるプロジェクト・ファイナンスのメリットは、きわめて大きいといってよい。

三.プロジェクト・ファイナンスの歴史

 プロジェクト・ファイナンスの歴史は、一九三〇年代に米国において発達したプロダクショソ・ペイメント(production payment)と呼ばれ、主として石油と天然ガスの探鉱・開発資金の調達に利用された融資形態に遡ることができる。当時の石油・天然ガスの中小開発会社は、埋蔵資源以外にとりたてて資産を保有していなかったため、銀行は、それらの会社のバランス・シートに基づく支払能力に依存するのではなく、生産中の油田・ガス田を担保とし、その油田・ガス田より生産される石油・天然ガスの販売収入をローン返済の財
源として、それらの会社の新規の油田・ガス田の探鉱・開発資金の貸付を行なっていた。このような形態の融資を行なうためには、石油や天然ガスの埋蔵量の専門家による正確な評価およびその開発から発生する収益の正確な予測が重要であり、現在のプロジェクト・ファイナンスに用いられる評価方法が発達してきた。
 第二次大戦後においては、一九七二年にブリティッシュ・ペトローリアム(BP)が代表的な北海油田の一つであるフォーティーズ油田の開発資金の調達のために利用したプロジェクト・ファイナンスが有名であり、一般的には、このファイナンスをもって大型プロジェクト・ファイナンス時代の幕明けとされている。当時、BPは中東における開発事業のほか、米国アラスカのプルードベイ油田開発という大型案件に着手しており、このフォーティーズ油田の開発資金を通常の企業融資で調達すると、BPの財務内容が悪化し、加えて既存借入に関する財務制限条項に抵触するおそれがあったため、このような資金調達手法を利用したといわれている。
 その後、プロジェクト・ファイナンスは、石油・石炭などのエネルギー資源の開発、鉄・銅などの鉱物資源の開発に広範に利用されるようになっており、さらに、資源開発以外の分野、たとえば石油や天然ガスのパイプラインなどの輸送設備や石油精製、石油化学、金属製錬などの工業プロジェクトにも利用されるようになっている。

四.プロジェクト・ファイナンスの方法

 最近では開発の大規模化、開発地点の奥地化などに伴い、一〇億米ドルを超えるような巨額の資金を必要とする大型プロジェクトが増加しており、このような大型プロジェクトの場合には、通常プロジェクトの必要資金の二〜三割をスポンサーがプロジェクト会社への出資金として投入し、残りの七〜八割をプロジェクト・ファイナンスで調達する。このほかに、プロジェクト設備の建設費のオーバーランに備えて、オーバーラン・ファシリティー(overrun facility)を設け、建設費の二〜三割に相当する資金を余分に調達しておく事例も多い。
 借入金による調達部分の一部について、金利条件などが有利な輸出入銀行などによる制度金融を利用することもある。このような制度金融機関は普通、プロジェクト・ファイナスを認めず、外国の政府または政府機関や一流銀行の保証を要求することが多いので、プロジェクト・ファナンスの一部についてローン・フアシリティ(loan facility)に代えてギャランティ・ファシリティ(guaranty facility)を設け、それに基づき保証状ないしはスタンド・バイ・クレジットを制度金融機関にプロジェクト会社の依頼に基づき発行し、輸出制度金融を利用することができるようにすることもある。複数のスポンサーの共同出資によるプロジェクト会社が借入人となる場合が多いが、各スポンサーが個々に一〇〇%出資子会社を設立し、その子会社を借入人とすることもある。オーストラリアの場合には、税制上の理由から非法人型合弁事業(unincorporated joint venture)の形態により合弁事業を行なうことが多く、それぞれのスポンサーもしくはその子会社が直接借入人となるか、別に資金調達だけを目的とする会社(finance vehicle)を合弁で設立し借入人とする。

第二章 プロジェクトの事業主体の法的形態

 プロジェクト・ファイナンスを利用するようなプロジェクトは、一般に規模が大きく巨額の資金を調達する必要があるため、プロジェクト・リスクを一社だけで負担することが困難である。このため、複数の企業(スポンサー)が共同して事業の実施にあたることが多い。複数の企業が共同して事業を行なう場合によく利用される法的形態としては、次のようなものがある。
@合弁会社(incorporated joint venture)
Aパートナーシップ(partnership)
B非法人型合弁事業(unincorporated joint venture)
 これらのうち、いずれの形態を利用するかを決定するにあたっては、おのおのの場合についての税務上ならびに法律上の取扱いの比較検討結果が重要な決め手となることが多い。

一.合弁会社

 わが国の複数の企業が共同してプロジェクト・ファイナンスで資金調達をすることが必要となるような事業を行なう場合、その事業の遂行のための合弁会社を設立することが一般的であり、とくに外国資本との共同事業の場合には、合弁会社という形態がとられる。この種の合弁会社に最も適した典型的な会社形態は株式会社ないしはこれに類似の会社組織であり、有限会社はほとんど利用されていない。株式会社ないしはこれに類似の会社組織形態が好んで利用されるのは、株主もしくは出資者が、その合弁会社の債務について出資を限度としてしか責任を負わないというところにある。
 合弁会社形態をとる場合にも、合弁事業を行なう当事者、すなわち、合弁会社の出資者は合弁事業契約(joint venture agreement)を合弁会社の出資者間で締結し、合弁会社について事業の目的、事業の範囲、持株比率、取締役や社長、副社長のポストの配分、取締役会や株主総会の定足数、決議方法、会社の解散など共同して事業を行なううえでの重要事項についてのみならず、当事者の変更その他の事項につき、細部にわたって取決めを行なうのが通例である。

二.パートナーシップ

 パートナーシップは、共同して事業を行なうために、複数の企業の間で締結される契約(partnership agreement)によって結成される。会社のように法人格を有するか否かについては、議論の余地が残されているが、パートナーシップは自己の名義で債権債務をもつことができる。したがってパートナーシップの資産は、パートナトシップが所有権を有すると同時に、パートナーシップは自己の名義で借入その他に関する契約書を締結する。
 パートナーシップには、パート一ナーシップの債務につき無限責任を負うゼネラル・パートナー(general partner)のみで構成されるゼネラル・パートナーシップ(general partnership)と、パート一ナーシップの債務につき有限責任を負うリミテッド・パートナー(limited partner)と、少なくとも一人のゼネラル・パートナーとで構成されるリミテッド・パートナーシップ(limited partnership)がある。
 パートナーの持分は、パートナーシップ・アグリーメントのなかで定められる。各パートナーはこの持分比率に応じて出資を行ない、また事業の経営権を取得する。パートナーシップの債務についての内部関係における責任の分担は、持分比率に応じて決められる。また利益の配分や損失の分担も、同じく持分比率に応じて行なわれる。
 税務上は、パ:トナーシップは独立して課税主体とはならず、各パートナーが持分比率に応じて納税義務を負う。パートナーシップが所有する償却資産の償却もパートナーが、特約のない限り持分比率に応じてこれを行なう。会計上は、パートナーの持分比率が五〇%を超える場合には、パートナーの連結財務諸表作成上パートナーシップが連結の対象となるが、パートナーの持分比率が五〇%以下の場合には、パートナーシップに対する出資金を投資勘定に計上するだけでよい。この連結財務諸表作成上の取扱いは、合弁会社の場合と同じである。

三.非法人型合弁事業
 非法人型合弁事業は、スポンサーの間で締結される非法人型合弁事業契約(unincorporated joint venture agreement)と呼ばれる契約に基づいて結成される合弁事業形態であり、株式会社や有限会社のような会社と比べた場合、法人格を有さず、合弁事業に関する契約により当事者間の関係が律せられるところに特色がある。この非法人型合弁事業契約のなかで、合弁事業の目的、期間、出資持分(interest in joint venture)の比率、費用の分担、資産の共有と債務についての責任、意思決定方法、ベンチャラー(venturer)の脱退、加入や持分の譲渡など、合弁事業の骨格をなす事項をはじめ、細部にわたる事項について取決めが行なわれる。主要な事項について、以下説明する。
1.費用の分担
 プロジェクトの設備建設費用、運営費などは、持分比率に応じて各ベンチャラーがこれを分担するとするのが普適である。
2.資産の共有と債務についての責任
 合弁事業の資産はベンチャラーの共有(tenancy in commonとなる。この共有持分の処分は、特約によって、禁止されることが多い。ただし、資金調達のため、資金供給者たる銀行などに担保権を設定することは認められることが多い。合弁事業の債務について、ベンチャラー内部関係において持分による負担方法を取り決めることが多い。
3.合弁事業の経営権
 合弁事業について、ベンチャラーは持分比率に応じた経営権を有する。しかし、通常はベンチャラーのうちの一人または第三者に合弁事業の経営を委任することが多い。経営を委任された者は、マネイジャーとして合弁事業の経営にあたる。意思決定機関としては、各ベンチャラーより選任される代表者によって構成される経営委員会(managing committee)が設けられ、経営上の重要事項について意思決定を行なう。経営委員会を設ける代わりに、マネイジメント会社(managing company)を設立し、これに合弁事乗の経営を委任することもある。
4.ベンチャラーの脱退、加入と持分の譲渡
 ベンチャラーの脱退、加入には、ベンチャラー全員の賛成が必要だと定められることが多い。持分の譲渡についても、ベンチャラー全員の同意が必要であり、全員の同意があっても、他のべンチャラーが優先買取権(right of first refusal)を有するものと定められることが多い。
5.生麿物の配分(コストの分担)
 合弁事業の生産物の配分、またはコストの分担についても、非法人型合弁事業契約のなかで取り決めておかなければならない。通常は、持分比率に応じて生産物が配分され、コストが分担されることになっている。

第三章 プロジェクト・ファイナンスの手法
一.プロジェクト・リスクの分析
 プロジェクトを推進する場合、各種のリスクが考えられるが、その主要なものを列挙すると以下のとおりである。
@政治リスク
Aスポンサーの事業遂行能力リスク
B資源埋蔵リスク・原料供給リスク
C工事完成リスク
D技術リスク
E操業リスク
Fマーケット・リスク
Gプロジェクトの経済性リスク
H資金調達リスク
I通貨リスク
 これらのリスクについて、以下概説する。なお、各リスクの大きさはプロジェクトごとに異なっており、個々のプロジェクトについてリスクを評価する際には、各リスク項目ごとにリスク分析を進めていく必要がある。

1.政治リスク
 政治リスクという場合、広範なリスクが含まれており、リスクの大きさもそれぞれ異なる。最近の傾向として、プロジェクトの経済性には自信があり、あえて高マージンを支払いプロジェクト・ファイナンスの形式で借入を受ける必要はないが、スポンサーとして政治リスクをミニマイズするために、あえてプロジェクト・ファイナンスの利用を希望するケースも増えている。
a. 戦争・内乱等円滑な事業遂行を困難にするような治安上のリスク
 戦争・内乱等により、建設プラントが破壊されあるいは治安の悪い状況が継続するような場合は、事業推進は困難となる。このようなリスクが大きい場合は、プロジェクトの施自体がむずかしい。
b. 事業国有化のリスク
 経営権者の変更はそれ自体好ましいものではなく、プロジェクト・ファイナンスのローン・アグリーメントでは、通常プロジェクト会社の株式の譲渡を禁じている。事業国有化といったリスクが大きい場合、プロジェクト・ファイナンスはむずかしい。
 ただし、過去の事例では、事業遂行の途中で事業の国有化が行なわれた場合にも国家が借入債務を継承したケースも多い。仮に債務の継承が行なわれたとしても、プロジェクトを推進する主体の資質が変わることになるため事業の不慣れなどの障害が懸念され、銀行にとっては決して望ましいものではない。
c. 外貨交換、為替管理等のリスク
 外国為替管理の厳しい国でのプロジェクトについては、プロジェクト・ファイナンスの利用自体が相当むずかしい。このような国におけるファイナンスの場合は、事前に元利金の支払についてホスト・カントリー(host country)の政府の許可がとれることが前提となる。ただし、その許可も国の外貨準備の状況いかんでは取り消され、あるいは効力をもたなくなる懸念もあり、注意を要する。
 なお、ソフト・カレンシー(soft currency)国のプロジェクトで製品の輸出を見込んでいる場合、輸出代金を海外で外貨建エスクロー勘定に積み立てるような方式を採用する事例もある。
d. 政府の政策、税制等の変更リスク
 エネルギー資源の開発プロジェクトの場合には、ホスト・カントリ−の政府の支援的施策、輸入代替産業の場合には、関税政策等政府の施策に依存するところが大きい。また、税制の変更により、プロジェクトの経済性は大きく変わる。政府の施策の内容・意向を可能な限り事前に確認しておく必要がある。また、税制変更については、ホスト・カントリーがグランドファーザリング(grand fathering)の原則(制度の変更は、変更後実施される新プロジェクトのみ適用され、それ以前のプロジェクトには適用されない)を尊重する国かどうか過去の実例を調査しておく必要がある。
e. 経済.社会情勢リスク
 インフレーションの状況、労働情勢(ストライキ多発の有無)等、最近時の情勢を十分に分析し、リスクの大きさを検討しておく必要がある。
f. 開発権に関するリスク
 石油、天然ガスなどのエネルギー資源、その他の地下資源など資源の開発のためのプロジェクト・ファイナンスにおいては、資源を主要担保の一つとすることになるが、これらの資源は国もしくは地方自治体の所有となっているケースが多い。この場合、スポンサーが国などから資源開発権を取得することとなる。銀行としては、万一の際にこの開発権を銀行に譲渡せしめることができるようになっていることが必要である。
開発権の期間が十分か、事業主体の開発権に係わる義務不履行の場合、銀行に対する通知なくして開発権が取り消される可能性がないか、領土上の問題で近隣国が資源の所有権を主張するおそれはないか、また、開発権の非居住者への譲渡に制限が設けられ、あるいは禁止されている場合は、実際の運用で例外はあるかどうか、などについて、政府の意向の確認等、十分な調査・検討を行なう必要がある。

2.スポンサーの事業遂行能力リスク
 事業を推進する企業がどういう企業であるかは、当然のことながらきわめて重要である。とくに合弁事業の場合、オペレーターとなる企業の事業遂行能力が重要となる。
 プロジェクトと同種の事業に十分な経験を有し、技術面、熟練労働力の確保面に不安はないか、十分な経営能力があるか、予定された出資金の払込みに必要な資金を確保できるか、万一コスト・オーバーランが生じた場合、追加資金調達をしうる十分な資力、信用力があるか等がチェック・ポイソトとなる。また、スポンサーのうちのいずれかの企業が合弁事業契約の不履行を起こした場合、他のスポンサーがすぐに不履行を起こしたスポンサーに代わって履行することができるようになっているか否か、さらに、借入人が合弁会社の少数株主である場合、合弁事業の意思決定にあたってどの程度その借入人がこれに関与し、その借入人の意思を反映せしめることが可能となっているか、合弁事業契約の内容を十分に吟味しておくことも必要である。

3.資源埋蔵リスク・原料供給リスク

 資源開発プロジヱクトの場合、借入金の返済期間をカパーするに十分な量の資源が、経済的に採掘可能な形で賦存しており、かつ、品位あるいは品質が開発計画で想定した水準を満たしている必要がある。また、この埋蔵量は確認かつ可採埋蔵量を基礎としたものであることも重要な要件である。
 埋蔵量評価については、借入人の調査に加えて、プロジェクト・ファイナンスでは第三者の一流コンサルタントの評価報告も徴求するのが一般的である。埋蔵量評価は石油、ガス、非鉄金属など比較的むずかしいもの、石炭、鉄鉱石など比較的容易なもの等、資源により難易の程度が異なるほか、探掘井、評価井の掘削が少ない場合には、精度が落ちることがある。したがって、埋蔵量評価報告の内容も十分吟味の必要がある。また、二つ以上の資源(たとえば石油と石炭)が同一地域に賦存している場合、一方の操業が他の資源開発の操業の邪魔をすることがないかなどをチェックする必要がある。
 資源開発以外の事業の場合は、生産原料が長期に安定して確保されていることが重要である。

4.工事完成リスク

 プロジェクトの工事が完成をみず中途で放棄されたような場合には、そのプロジェクトからは何も収入が生み出されない。いいかえれば、プロジェクト・ファイナンスの返済の成否は工事の完成にかかっているといえる。
 工事が途中で放棄されるケースとしては、戦争、内乱のような突発的な事態のほか、予測できないようなインフレーション、あるいは環境問題やストライキなどによる大幅な工事遅延に伴うコスト・アップが生じ、または経済情勢の変化によりプロジェクトが経済性を失い、プロジェクトの放棄に至る等々、種々の事態の発生が原因となることが考えられる。工事完成とは、設計どおりの設備が建設されることは当然であるが、その設備が所定の生産規模で、かつ、一定の生産コスト以下で生産が可能な状態になることである。大規模なプロジェクトの場合には、プロジェクト自体の建設と並行して鉄道、港湾、電力、道路等のいわゆるインフラストラクチャー(infrastructure)も新規に建設を要することとなる。プロジェクト自体の建設工事は完成しながら、インフラストラクチャーが完成していない場合には、プロジェクトの操業や製品の出荷に支障を来すことになるため、インフラストラクチャーの建設が順調に進行していることについても確信がもてることが肝要であり、また、建設遅延の場合の応急対策が可能かどうかも調査しておく必要がある。

5.技術リスク
 プロジェクトに用いられる技術が既存技術(proven technology)のみであればまず問題はないが、新技術を利用する必要のある場合、その商業化の信頼性について十分実証されていることが必要である。これまでの実験規模で成功した程度で新技術を一挙に大規模なプロジェクトに採用することは、大きいリスクを伴う。物理的に建設工事は完了したが、所定の生産能力を発揮しないという場合は、悲劇的な結果となる。

6.操業リスク
 操業期間中、順調に所定の生産計画に沿ってプロジェクトの運営が行なわれるかどうかのリスクである。
まず、スポンサーが同種事業に十分な経験を有し、また、経営・技術指導契約等により有能な経営者と熟練労働者を投入するなど十分支援する用意があるか、原料・資材調達に不安はないか、労働力確保、労使協調対策はどうか、環境問題、原料・製品の輸送、電力・用水の確保等々の諸点が関連する。さらに、不測の災害の発生により不稼動を余儀なくされた場合などに、その不稼動に伴う収入の減少を補う休業補償などのために付保している損害保険契約の内容についても、チェックが必要である。

7.マーケット・リスク

 生産される製品のマーケットが確保されているかどうかは、きわめて重要な問題である。金、銀のように、通常主要な商品市場を通じて取引をされている商品は別として、商品によっても異なるが、通常は生産能力の八〇〜一〇〇%の製品について少なくとも融資期間を上回る期間の長期販売契約が締結されていることがプロジェクト・ファイナンスの前提となる。

8.プロジェクトの経済性リスク
 プロジェクトの経済性を判定するために、資本支出予算、操業費見通し、製品の長期価格見通し、為替レートおよび金利の見通し等をもとに、通常キャッシュ・フロー・プロジエクション(長期収支見通し)を作成する。スポンサーは、これから算出される内部収益率(IRR)から経済性を検討する。これは、プロジェクトの操業期間に出資金と借入金を合わせた全投下資本に対しての収益率であり、基準は一概にいいがたいが、一五%程度以上であることが望ましい。また、出資金を対象とした出資金収益率(return on equity)も重視される。
 プロジェクト・ファイナンスを行なう銀行は、融資期間中の元利金支払金額に対するオペレーション・コスト(金利を除く)および税金控除後のキャッシュ・フローの金額の割合、すなわちデット・サービス・カバレッジ・レイシオ(debt service coverage ratio)を重視する。基準としては、融資期間中各年一・二五以上、累積ベースで一・五以上であることが必要といわれている。資源開発案件では、借入金の完済時点においても当初の確認可採埋蔵量の半分以上が残存している状態が好ましい。また、諸前提条件、たとえば借入金対出資金の比率、コスト・オーバーラン、操業率、製品価格、生産費の増加、為替レート等にいろいろな計数をあてはめて、その結果キャッシュ・フローおよびデット・サービス・カバレッジ・レイシオがどう変化するかを分析するセンシティビティ分析(sensitivity analysis)もよく行なわれている。

9.資金調達リスク

 プロジェクトを推進するためには、プロジェクト・コスト全額の資金調達が確定されていることが必要である。さらに、コスト・オーバーランの事態に備え、プロジェクト・コストの三割程度の資金調達についても確実になっていること、万一これらの条件が備わっていない場合には、スポンサーが責任をもって調達する旨の約定のあることが必要である。

10.通貨リスク
 プロジェクト・ファイナンスは、プロジェクトから生産される製品の販売代金をもってその主たる返済の原資とすることから、製品の販売契約に基づく支払通貨がプロジェクト・ファイナンスの借入通貨と異なるときは、返済原資に不足が生ずるおそれがある。とくに、販売代金の支払通貨がハード・カレンシー(hard currency)でないときは、為替管理からくる通貨交換可能リスクのみならず、当初想定した通貨交換レートと実際の通貨交換時の通貨交換レートの差から生ずる為替差損に伴う返済原資不足の発生リスクについても、留意する必要がある。

二.リスク・ミニマイゼーションの手法
 プロジェクト・リスクの分析が終わったら、次にプロジェクト・リスクをミニマイズする方法を検討して、ファイナンスのストラクチャーを考えることになる。スポンサーの債務保証がないプロジェクト・ファイナンスにおいては、プロジェクト.ファイナンスの関係当事者が負担するリスクをミニマイズする手法を考える必要があるが、その第一は、スポンサーと銀行が負担するリスクを可能な限り軽誠する手法であり、これには政治リスクをミニマイズするためコンセッション・アグリーメント(concession agreement)の内容を満足なものとすることや、埋蔵量の評価に伴うリスクを軽減するため、その評価の判断について外部専門家を利用することなどが含まれる。第二は、このように軽減されたリスクを合理的な方法で関係当事者の間で分担する手法であり、これには工事完成保証や不足資金補墳保証などをスポンサーより徴求することなどがある。第三は、このようにして関係当事者が分担したリスクをヘッジする手法であり、海外投資リスク保険の付保などがこれに含まれる。
理論的には、このように大別できるのであるが、実際には、これらの手法は相互に重なり合っている部分も多い。
1.工事完成保証
 プロジェクト・ファイナンスの最も重要なリスクは、通常のケースでは、プロジェクトに係る工事が計画された期隈内に完成するかどうかということと、建設費用が当初の資金計画の予算眼度を趨えないかどうかということ、すなわち、工事完成リスク(completion risk)である。建設の遅延やコスト・オーバーランが発生したときには、追加資金が必要となり、また、場合によっては、借入金の返済スケジュールの手直しが必要となる。
このリスクを最小限に食いとめる最も効果的な方法は、当初のドキュ.メンテーションの段階で、建設スケジュールを注意深くチェックするとともに、予想外の費用増に備えて、資金計画に適度の余裕をもたせることである。しかし、銀行の眼からみても現実的であると思われる計画ができたとしても、建設期間中に不測の事態が発生する可能性が残されることは避けられない。このリスクをミニマイズするのが、工事完成保証(completion guarantee)である。工事完成保証のなかでスポンサーに引き受けてもらう義務には、通常、
次のものがある。
(1) プロジェクトの工事を計画期限内に完成し、稼動させること。Completion,すなわち、「プロジェクトの工事完成」をいかに定義するかは、銀行とスポンサーが協議して決定する事項であるが、適常は、インフラストラクチャーを含めた設備が開発計画どおりに完成されること、所定の期間にわたって所定の水準を上回る数量および品位の製品が生産され、その際の生産費用が所定の基準を充足することを「工事の完成」と定義することが多い。また、これらの事項についてエンジニア・リポートの提出をスポンサーに義務づけることが多い。
(2) コスト・オーバーランを賄う資金をスポンサーが資本金あるいはサボーディネイテッド・ローン(subordinated loan)の形で拠出すること。
(3) 建設資金は、まず、資本金またはサボーディネイテッド・ローンから使用する、あるいは、資本金またはサボーディネイテッド・ローンによる拠出を、プロジェクト・ファイナンスとの間で一定の比率を保ちつつ、同時に行なうこと。
(4) 銀行がリスクを負担するようになる前、すなわち、completionの直前におけるプロジェクト会社の財務内容につき、一定の財務比率の維持、財務内容の健全さを引き受けること。
(5) スポンサーが必要な資金を供給できなかったり、プロジェクトの工事が所定の期限内に完成しなかったときには、スポンサーがプロジェクト会社に代わって借入金を返済すること。

2.原料の長期供給契約

 銀行は、プロジェクト会社が原料の供給を長期にわたって確保するため、長期契約を締結することを要求する。このような長期契約は、原料の供給を第三者に依存する精油所や精練所または輸入原料に依存する製造工場に関してのプロジェクトの場合の原料供給リスクをミニマイズするために必要なものである。

3.資源賦存に関するコンサルタントの評価報告

 資源開発プロジェクトの場合には、借入金の返済資金を生み出すのに必要にして十分な量があり、経済的に採掘可能で、かつ、開発計画のなかで想定した品位あるいは品質の資源が賦存している必要がある。この埋蔵量評価リスクをミニマイズするために、銀行は借入人による調査に加えて、第三者である一流コンサルタントの評価報告を徴求するのが一般的である。

4.実用化された技術

 プロジェクトに使用される技術は、すでに実用化された技術(proven technology)である必要がある。新技術の場合には、パイロット・プラントで成功したという程度で一挙に大規模なプロジェクトに採用することは、大きいリスクを伴うことが多い。したがって、新技術を採用するときには、技術評価を慎重に行ない、その技術リスクをスポンサーに負担させることが望ましい。

5.マネイジメント契約

 銀行はプロジェクトの運営(operation)のために、プロジェクト会社がスポンサーあるいは外部の第三者と長期のマネイジメント契約(management contract)や技術指導契約(technical assistance agreement)を締結することを要求することがある。このような契約を締結させる意義は、新発足するプロジェクト会社に対し、スポンサーあるいは外部の第三者からの運営面でのサポートを確保することにある。

6.長期販売契約もしくは同契約に基づく販売代金支払請求権の譲渡
 プロジェクト・ファイナンスにおいて最も広く使われている手法が、製品の長期販売契約もしくは同契約に基づく販売代金支払請求権の譲渡(assignment)である。この譲渡は、銀行のために長期販売契約に基づく売掛金債権に担保権を設定する効果を有する。第三者対抗要件を備えれば、この担保権の設定により、銀行はプロジェクト会社の収入に対して、法律上の優先権を有することになる。販売契約もしくは販売代金請求権の譲渡のメヵニズムと担保としての効果は、次のとおりである。
a. 長期販売契約の締結
 プロジェクトの製品の全量または主要な部分について、長期販売契約が締結されていることが望ましい。契約期間は、プロジェクト・ファイナンスを全額返済するに必要な期間をカバーしていなければならない。販売価格は国際市場価格にスライドして変動する方式をとることが多く、価格リスクがある。このため、元利金の支払とプロジェクトの運営に必要な金額が実際の販売代金を上回ったときには、その不足額をスポンサーが補填するよう取り決められることもある。実際の販売価格が所定の最低価格を下回るときには、その差額をスポンサーがプロジェクト会社に支払い、元利金の支払とプロジェクトの運営費に充当するわけである。銀行は初回の貸付の実行にあたっての先行条件(conditions precedent)として、すべての長期販売契約の締結とその効力に関する弁護士意見書(legal option)の提出を要求する。
b. 賑売契約もしくは賑売代金請求権の譲渡
 通常のスキームは、プロジェクト会社と銀行のためのトラスティー(trustee)との間で譲渡契約が締結され、プロジェクト会社が長期販売契約に基づく支払を受領する権利をトラスティーに譲渡するのである。この譲渡は、売掛金債権に対して担保を設定するものであるから、第三者対抗要件を備える必要がある。この譲渡について、買主の承諾を取得させなければならない。買主の承諾書のなかに相殺または反対給付の請求権を放棄させる条項を設けておくことが必要である。銀行は譲渡および承諾に関し、それぞれの準拠法に基づく
効力を、弁護士意見書を取得して確認しなければならない。
 譲渡契約には、代金収入を銀行とプロジェクト会社との間でいかに配分するかの規定を設ける必要がある。この配分に関しては、両者間で利害が異なり、交渉が難航することも多い。プロジェクト会社は、元利金の支払に充当した残りはプロジェクトの運営費やスポンサーに対する配当金の支払に充当したいと主張することが多いのに対し、銀行は、一回または数回の元利金に相当する準備金がエスクロー勘定(escrow account)に溜まるまでは配当金の支払は待ってほしいと主張することが多いためである。
c. 代金支払のメカニズム
 発展途上国におけるプロジェクトの場合には、トラストに関する重要な問題はホスト・カントリーの通貨当局の許可が取得できるか否かである。エスクロー勘定は、通常ニューヨークとかロンドンといった国際金融センターに開設され、長期販売契約に基づくハード・カレンシー建の輸出代金は、譲渡契約に従って直接エスクロー勘定に入金される。この場合、販売代金の支払が、ホスト・カントリーの中央銀行や大蔵省を通さないで、直接エスクロー勘定に入金されることが望ましい。
d. 担保としての効果
 プロジェクト・ファイナンスにおいて、長期販売契約もしくは製品販売代金支払請求権の譲渡が、担保としてどの程度の効果を期待できるかは、買主の支払能力と、直接トラスティーに支払う意思の有無とにかかっている。また、生産が順調にいかなかったり、一時的にせよ、停止したときには、買主は支払を停止し、その結果、元利金の支払資金が不足することになる。さらに、ホスト・カントリーで政変、内乱、戦争あるいは深刻な外貨不足の事態が発生し、事業の継続が困難となるような事態も起こりうる。その場合、銀行にとって頼りになるのは、エスクロー勘定に積み立てられた準備金だけということになる。
 したがって、現実的にいえば、販売代金支払請求権の譲渡は、不可抗力によって機能が中断することがありうる担保手法であると考えておかなければならない。

7.テイク・オア・ペイ契約 (take-or-pay contracts)

 長期の契約である点は普通の長期販売契約と同じであるが、プロジェクト会社(売主)が製品を実際に引き渡すか否かにかかわらず、代金として一定の金額の支払を買主が売主に対して約束する点に特色がある。契約価格が市場価格にスライドして変動する点も、普通の契約と異ならないが、製品の引渡しがない場合に、借入金の元利金の支払とプロジェクトの運営費を賄うのに必要な金額を支払価格とするのである。要するに、普通の長期販売契約と異なる点は一定の金額を無条件に売主に支払うという買主の義務が含まれている点である。この特色のために、テイク・オア・ペイ契約は、買主による間接的な保証に近いものと認められる。このため、特別の事態が発生したときには、この義務を停止もしくは取り消しうるものとする不可抗力条項の挿入を買主が主張することがある。
 しかし、広範囲のリスクをカバーする不可抗力条項は、テイク・オア・ペイ契約の目的そのものを損うことになる。したがって、銀行は、テイク・オア・ペイ契約の担保価値を評価するにあたっては、不可抗力条項を慎重に検討する必要がある。テイク・オア・ペイ契約に基づく代金債権の譲渡契約は、銀行にとって最大の保障を提供するものだからである。ただ、無条件のテイク・オア・ペイ契約は、買主にとってはきわめて厳しい契約であり、買主側の事情で製品が引取りできない場合のみ支払義務を負うという契約もある。
 テイク・オア・ペイ契約が利用されている取引には、次のものがある。
@プロジェクトで生産される製品の販売、たとえば鉄、非鉄、石油、LNG、石炭、その他の工・鉱業製品の販
 売
A役務の提供、たとえば製品の加工、パイプラインによる石油、ガスの輸送
B設備や船舶の賃貸借
  パイプラインによる石油やガスの輸送のような役務の提供を目的とする。プロジェクトの場合のテイク・オア・ペイ契約は、スルー・プット契約(through-put contract)と呼ばれている。
 テイク・オア・ベイ契約の内容は、いろいろな形にすることができる。たとえば、元利金の支払に必要な金額の支払に加えて、実際に引き渡された製品の対価の支払を買主に義務づけることもできるし、一定金額の支払を無条件の義務とし、その金額が実際に引き渡された製品の金額を上回るときには、その上回った部分は将来の製品の対価の前払いとして取り扱うことにする方法もある。プロジェクト会社が製品の引渡しができないような事態が頻発したときに、買主がプロジェクトを引き取る(take over)権利を有すると規定するテイク・オア・ペイ契約もある。買主がプロジェクトを引き取ったときには、買主はプロジェクト会社のすべての借入金債務を引き継ぐことになる。

8.ホスト・カントリーの保障
 発展途上国におけるプロジェクトの場合、ホスト・カントリーの種々の保障が重要である。たとえぽ、外貨送金許可、建設資材の輸入許可、税務上の取扱い、外国人の雇用、長期販売契約締結ならびにその譲渡の許可、借入の許可・登録およびホスト・カントリーがプロジェクトに不利益を与えるような干渉をしないことなどに関して、プロジェクトのホスト・カントリーの保障がなければ、プロジェクトの完遂はおぼつかないのである。
a. コンセッション・アグリーメント(concession agreement)
 最近では、コンセッション方式をとるプロジェクトは少なくなっているが、コンセッション方式をとるところにおいては、コンセッション・アグリーメントはプロジェクト・ファイイナンスの要となる。
 コンセッション・アグリーメントは、ホスト・カントリーが探鉱、開発および生産に関する基本的権利をスポンサーに与えるものであると同時に、スポンサーがホスト・カントリーに支払う補償(compensation)の金額を定め、プロジェクトの運営のガイドラインを規定するものであり、プロジェクトの骨格を作るのがコンセッション・アグリーメントといえるからである。
 コンセッション・アグリーメントの内容は、プロジェクトの計画段階におけるスポンサー(場合によってはスポンサーと銀行)のホスト・カントリーの政府に対する交渉力いかんによって左右されるが、銀行にとって重要なのは次の点である。
(イ)プロジェクト・ファイナンスの最終期限が、コンセッション・アグリーメントの期限内に収まっているかを含め、コンセッション・アグリーメントとプロジェクト・ファイナンスの基本的条件との間の相互関係がうまくいっているかを、弁護士に、慎重に検討させなければならない。
(ロ)コンセッション・アグリーメントのなかで、プロジェクトの稼動し始める期限をどう定めているか、所定の稼働率に達しなかった場合はどうなるかについて、どのように定められているかが重要である。
(ハ)コンセッション・アグリーメントのなかで、製品販売代金の譲渡に伴う外貨の支払について、製品の販売代金であるハード・カレンシーを外国に開設されるエスクロー勘定に入金すること、ホスト・カントリーの外で当該ハード・カレンシーを保有し、エスクロー勘定から直接プロジェクト・ファイナンスの元利金の支払を行なうことを認めていなければならない。
(ニ)ホスト・カントリーが発展途上国であるときには、ロイヤルティーの支払とプロジェクト会社に対するなんらかの税の減免措置(初期段階の所得税の免除、特別償却や加速償却の承認など)とが組合せの形となることが多いが、このようなときに、ロイヤルティーや税金の支払がキャッシュ・フローに与える影響、ならびに、支払金利に対する源泉徴収税が免除されているかどうかを、確かめておかなければならない。
 ホスト・カントリーが資本参加を希望することも多いが、ホスト・カントリーの資本参加は、プロジェクトのキャッシュ・フローに重大な影響を与えるなど、銀行にとって問題である。ホスト・カントリーが出資者として当然引き取るぺき製品を引き取らないこと、探鉱および開発に必要な費用を負担しないこと、経営に参加し政治的な要因によりプロジェクトの正常な運営を阻害することなどがありうるので、ホスト・カントリーの資本参加は、プロジェクトの評価を困難にするとともに、政治リスクを増加させる要因ともなるという不利益をもたらす反面、ホスト・カントリーの政府自身が出資者としてプロジェクトに参加し、プロジェクト会社を現地政府とのジョイント・ベンチャーにすると、ホスト・カントリーの政府がプロジェクトを強力に支援するかもしれないという長所があるからである。政府出資の合弁事業となれば、ホスト・カントリーの政府としても、プロジェクト会社の借入元利金の支払能力を損うような行動をとることを差し控えるという効果が期待できよう。
(ホ)製品の長期販売契約と販売代金支払請求権の譲渡の事前承諾を与える旨の規定、鉱物やエネルギーといった資源開発の場合に、ホスト・カントリーによる生産や輸出の数量や価格を規制する措置をとらない旨の規定、また、現地精錬や現地加工が義務づけられないような規定が、コンセッション・アグリーメントのなかに規定されているかを確認しなければならない。
(ヘ)労働者の資本参加を認めることが義務づけられているかどうか、外国設備の輸入を制限し、外国人の経営者や熟練労働者の雇用を制限してはいないか、また、住宅、道路、鉄道、港湾といったインフラストラクチャーの建設費の負担について、コンセッション・アグリーメントのなかでどう取り決められているかについても、チェックしなければならない重要なポイントである。
b. ホスト・カントリーの不干渉協定
 プロジェクトの運営と借入金の元利金の支払に介入しないこと、プロジェクトの国有化、コンセッション・アグリーメントの取消の場合に、プロジェクト会社の対外債務を引き受けること、特定のインフラストラクチャーを建設してプロジェクトを支援すること、などのホスト.カントリーの約束をとりつけられることが望ましいが、なお、この不干渉協定についてはホスト・カントリーの抵抗が強く、ドキュメンテーションの交渉段階で交渉が難航し、この協定の強行性(enforceability)自体についても疑問の余地が多いとされて
いるので、注意が必要である。

9.政治リスクの保険
 政治リスクをミニマイズするために、保険をかけるスポンサーが多い。保険には政府が引き受ける保険と民間の保険会社が引き受ける保険とがあるが、民間の保険は、一般に、保険斜が法外に高く、また、被保険リスクの範囲や保険期間が眼定されている.

10.スポンサーの投資保証
 元利金の支払に伴うキャッシュ・フローの負担を軽減するとともに、スボンサーをできるだけプロジェクトの成否に関わらせておくために、プロジェクトの建設費のうち適正な金額をスポンサーが出資金(または出資金とサボーディネイテッド・ローン)の形で投入するようにしておくことが、銀行にとって重要である。普通、銀行は、プロジェクトの建設費の三分の一程度が出資金として妥当な水準とみている。また銀行にとっては、プロジェクト・ファイナンスの実行の前にできるだけ多くの出資金が払い込まれていることが好ましい。これは、ローン・アグリーメント(loan agreement)の先行条件条項に規定される。
 出資金の全額払込みという先行条件についてスポンサーの合意が得られないときには、たとえば建設費の二〇%程度の出資金をプロジェクト・ファイナンスの初回貸付の実行に対する先行条件として、残りの出資金の払込みは、二回目以降の貸付の実行と並行して行なうという取決めで妥協しなければならないこともある。このような妥協を行なったときには、銀行は、スポンサーから投資保証(investment guarantee)を取得して、二回目以降の出資金の払込みについて、スポンサーが銀行に対して直接に義務を負うようにしておく必要がある。

11.国際的シンジケートの組成

 発展途上国におけるプロジェクトの場合、政治リスクをミニマイズするためには、できるだけ多くの国の有力銀行が協調融資団に参加するようにすることも一つの方法である。とくに、各国の政府金融機関(とくに輸出入銀行)や国際開発金融機関(世銀、アジア開発銀行など)の参加が実現すれば、ホスト・カントリーが独断的な行動に出るリスクをかなりミニマイズすることができるであろう。

12.プロジェクト資産の担保化
 純粋なプロジェクト・ファイナンスにおいては、プロジェクトが本格的に稼動を開始した時点から、銀行が主たるプロジェクト・リスクの負担者となる。それはプロジェクト・ファイナンスの元利金の支払の原資を、プロジェクトが生み出す収入のみに求めるということを意味する。プロジェクトが稼動を開始した後の製品の販売リスクや政治リスクをミニマイズするために、これまで述べた各種の手法を採用するのはこのためである。プロジェクトが稼動段階に入った後における最も重要な担保は、販売契約もしくは販売代金支払請求権の譲渡であるが、銀行は、通常、これらの担保のほかに、プロジェクト会社のプロジェクト資産をも担保として徴求する。
 本来、銀行は、外国にあるプロジェクト会社の固定資産や生産設備に対して設定された担保権に基づいて融資をすることを好まないことが多い。このような担保が現地法上、実際にどの程度担保としての価値を有するのか不確実なことが多いだけでなく、強制執行が困難であったり、費用が割高であることが多いためである。たとえぽ、外国の金融機関がホスト・カントリーにおいて固定資産を保有することが法律上認められるかどうか、ホスト・カントリーの法律は担保権の設定や公示の手続をどのように定めているか、設備やその他の資材も、担保権の対象となりうるか、さらに、スポンサーがプロジェクトの運営に失敗したときに、銀行は担保権に基づいて担保物件を代物弁済的に充当することができるか、といった多くの法律問題を検討しなければならない。こういった多くの問題があるにもかかわらず、銀行がプロジェクト資産を担保にとることが多い一つの理由は、プロジェクト会社が他の債権者のために担保を設定することを防止するためである。
 プロジェクト資産に担保権を設定する場合には、同時にスポンサーが所有しているプロジェクト会社の株式に質権を設定するとともに、コンセッション・アグリーメントに基づくスポンサーおよびプロジェクト会社の諸権利の譲渡を受けておかなければならない。このようにしておけば、万一の場合に銀行は自らプロジェクトの操業を行なうか、あるいは第三者にプロジェクトを譲渡することができるからである。

13.サボーデイネイテツド・ローン

a. サボーディネーション契約の種類とサボーディネイテッド・ローン
 サボーディネーション契約とは、特定の債権者(senior creditor, 以下「優先債権者」と呼ぶ)が全部弁済を受けるまでの間、他の特定の債権者(subordinated creditor, 以下「劣後債権者」と呼ぶ)が債務者から弁済を受けないことに同意する、劣後債権者と優先債権者との間の契約のことである。
 サボーディネーション契約は、その内容により、次の二つに大別することができる。
(イ)不完全サボーディネーション契約
 債務者の清算、破産などの手続が開始されるまでは、劣後債権者も弁済を受けることができるものと定める契約である。
(ロ)完全サボーディネーション契約
 優先債権者が優先債権について全部弁済を受けるまでの間は、劣後債権者は劣後債権について弁済をまったく受けえないと定める契約である。完全サボーディネーショソ契約は、たとえばプロジェクト・ファイナンスの場合など、銀行の貸付金債権を優先債権とするために借入人の親会社など利害関係者の債権を劣後債権とするようなときに使われる。この場合、劣後債権は、銀行の貸付金債権が全部弁済されないまま残っている限り、自己資本に準じた性格を有しているものといえる。
 サボーディネーションが効力を発生する時点をどう決めるか、また、それまでの間、劣後債権の弁済や金利の支払をどの程度まで認めるかという二つの点において、上記(イ)と(ロ)の中間にいろいろ内容の異なったサボーディネーション契約を作ることができる。
 サボーディネーション契約によって劣後債権とされた貸付がサボーディネイテッド・ローンであり、優先債権とされた貸付がシニア・ローンである。
b. 典型的なサボーディネーション契約の条項
 典型的なサボーディネーション契約の内容としては、
1.すべての優先債権が全部弁済を受けるまでの間は、劣後債権者は、相殺その他の方法によって、債務者
 から劣後債権の弁済を受けないものとする。
2.会社更生、破産、解散、清算などの手続に伴う債務者の金銭の支払もしくは資産の配分に際しては、
@優先債権者が全部弁済を受けるまでの間は、劣後債権者は、劣後債権について、いかなる配分も受けな
 いものとする。
A破産管財人、清算人など配分を行なう者は、本契約の規定がなかったときに劣後債権者が支払を受ける
 ことができた配分は、これを、優先債権者が全部弁済を受けるまで、優先債権者に対し、優先債権額に按
 分比例して、支払うものとする。
3.前二項にかかわらず、劣後債権者が劣後債権について配分を受けたときは、劣後債権者は、優先債権が
 全部弁済されるまで、支払を受けた配分を優先債権額に按分比例して優先債権者に支払うものとする。 がある。
 不完全サボーディネーション契約は、前記の条項のうち、第二項と第三項が規定されるだけであるが、完全サボーディネーション契約には第一項も規定される。

第四章 プロジェクト・ファイナンスと担保

 プロジェクト・ファイナンスの対象となるプロジェクトは、鉱山開発・事業に関するプロジェクトを例にとれば、探鉱・開発から生産物の販売、さらには販売代金の回収、借入金への支払の充当と一連の過程を経て完了することになるが、その間の工程の一つ一つがそれぞれ有機的に機能し、その工程の一つにおいてでも故障・事故等の不都合が起こるとプロジェクト全体に支障を来し、プロジェクト・ファイナンスの回収が困難になるといった事態に陥ることになる。したがって、プロジェクト・ファイナンスは、真にプロジェクト全体がその担保の対象とされていないと、全工程においてうまくいくということ、すなわち、プロジェクトの完遂が約束されていることが期待できないことになる。プロジェクト・ファイナンスを行なう者は、したがって、全工程の一部における故障・事故等の不都合の発生であっても、それがプロジェクトの完遂に少なくない影響を与えると考えられるものであるときは、自己のコントロールのもとにおいて、その故障・事故等の不都合の治癒をすることができるようにしておくことが必要であることに留意すべきである。
 このため、プロジェクト・アセット(project asset)のすべてがプロジェクト・ファイナンスの担保とされることが望ましいのである。
 プロジェクト・ファイナンスの担保の対象とされるべきプロジェクト・アセットの主なものとしては、
@プロジェクトの遂行に必要となる土地に対する利用権もしくは使用権その他の物権(物権的な性質をもつ権
 利を含む)、鉱業に関する権利(mining titles)、自由保有権(freehold titled and other interest in land)など、
Aプロジェクトに関連して締結される各種の契約に基づく権利、生産物の販売契約書に基づく販売代金請求
 権など、
Bインフラストラクチャーに係る諸契約に基づく権利、
Cプロジェクトに係る各種保険契約に基づく保険金の支払請求権、
Dプロジェクトからの生産物、
Eプロジェクトの設備・機械、プラントなど、
Fジョイント・ベンチャーの資産で上記に属さないもの、
かある。
 プロジェクト・ファイナンスの担保として、これらプロジェクト・アセットに担保権を設定する方法としては、質権(pledgeもしくはpawn)、債権譲渡(assignment)、負担(charge)、譲渡抵当(mortgage)、さらに第三者より徴求すべきものとして引受(undertaking)や保証(guarantee)など、通常のファイナンスにおいて担保権を取得するための手段がプロジェクト・ファイナンスについてもプロジェクト・アセットのそれぞれの性格ならびにプロジェクト・アセットに係る担保権の準拠法等に合わせて利用されうることはもちろんであるが、プロジェクト・ファイナンスにおいては、プロジェクト・アセットに種々の性格を有するものがあり、また関係する法律が複数国にわたることがあるので、これらの担保権の設定方法が複雑なものとなっている。
 プロジェクト・ファイナンスにおいても、実際は大なり小なり他の第三者からのサポートを受けることが多いのであるが、プロジェクトに係る工事が完成すると、銀行はプロジェクトのリスクを負担し、プロジェクト・ファイナンスの返済をプロジェクトの生産物の処分に伴う代金からのみ回収することになるとされるのが本来のプロジェクト・ファイナンスの姿であるといえよう。したがって、プロジェクトに係るリスクが工事完成とともに銀行に移ることになり、プロジェクトの生産物を作り出すプロジェクト・アセットおよび生産物の処分代金に対する担保権の確保が、銀行にとって最大の関心事となるわけである。担保権の確保を確認するにあたっては、それぞれの担保物件について、担保権の設定、対抗要件の具備および担保権の実行とその効果などについて、法律的・経済的な検討が加えられなければならないのである。
 プロジェクト・ファイナンスにおいて採用される担保権の取得方法のうち、特色があるものとしては、次のものがある。

一.引受(undertaking)ないし保証(guarantee)

 プロジェクト・ファイナンスの担保として、スポンサーによる借入金についての支払保証を徴求することはないとしても、スポンサーによる一定の事実の真実性についての保証(warranty)を徴求したり、第三者による一定期間についてのプロジェクト・リスクのある一部につき保証を徴求することはよくあることである。すなわち、次のようなものがこのための担保的機能を果たすことから利用されている。
1.スポンサーによる保証(sponsor guarantee)
 スポンサーが、次の全部もしくは一部について担保するものである。
@借入人が行なった表示(representations)や、保証(warranty)が真実であることを保証(warrant)し、これが
 不真実であることから生ずる銀行の損失を補償すること。
A借入人が行なった約束(covenants)などの債務が、借入人により誠実に履行されることにつき、これを指導
 ・監督すること。
B借入人が期日に支払を行なうことを引き受けること。
C借入人の債務不履行に伴う貸主の損失を補填すること。
D一定の金額までの支払の保証を行なうこと。deficiency guaranteeなどがこれにあたる。
E借入人の財務内容の健全性維持に責任をもつこと。keep well letterないしはkeep well agreementなどが
 これにあたる。
F銀行の債権に劣後する形で融資することを約すること。subordinated loanのコミットメント(commitment)な
 どがこれにあたる。

2.完成保証(completion guarantee)

 工事期間中に発生するコスト・オーバーランについて、スポンサーによる引受がなされないときに、一定時期に一定の費用で所定の工事が完成することをスポンサーに引き受けてもらうことがある。完成保証(completion guarantee)がこれである。
3.第三者による引受(third party undertakings)
スポンサーに引き受けてもらうべきもののほか、プロジェクトに関係してくるその他の当事者からの一定の事由についての引受に頼ることがある。たとえば、次のものがある。
(イ)プロジェクトからの生産物の最終的な利用者(end user)から生産物の販売代金の前払い(advance payments)の形で融資をあおぐこと。
(ロ)一時的な資金不足、とくに生産開始段階における運転資金について、スポンサーなどによる融資をあおぐこと。
(ハ)プロジェクトの所在国、すなわちホスト・カントリーの政府等から、
@プロジェクトに対する不当な干渉をしないこと、
Aプロジェクトに必要なインフラストラクチャーの建設等に協力してもらうこと、
B国家による収用といった事態のときは、十分なる補償をしてもらえること、
Cプロジェクトの生産物の販売についても協力してもらえること、
などの確認をとること。

二.譲渡抵当(mortgage)
 プロジェクト・アセットのうち、土地やプラント設備などモーゲージの対象となる借入人の所有物に対して、モーゲージの設定を行なう。モーゲージの設定により物件の権限(title)は、法的にはモーゲージ権者たる銀行に移転(transfer)し、モーゲージ設定者たる借入人が債務の本旨に従って借入の返済を行なうと、この権限移転の効力はなくなって権限は再び借入人に戻ることになる(ただし、近時この考え方に変化があり、モーゲージは、モーゲージ権者に対するモーゲージ設定者による単なる土地などに対する担保権の授与にすぎないとし、権限の移転のもつ意味が薄れてきている傾向がみられる)。プロジジェクト・ファイナンスにおいては、モーゲージは、担保として完全なものとはいえない点があるが、それでも利用されることが多い担保権の取得方法である。物件に対して第三者からの妨害を排することにもなるので、この意味での副次的な価値があることも見逃せないのである。
 担保として完全なものとみられない理由として、
@物件所在地の属する国において、物件の正確な評価を行なうことが困難であること、
A担保権の実行に費用と手間がかかること、
B物件の所有者、その他物件に対する権限取得者として銀行が認められる保障がないことが多いこと、
Cモーゲージの担保する範囲や、モーゲージの設定および対抗要件の具備につき、不明な点の存すること
 が多いこと、
などがある。
 プロジェクト・ファイナンスにおいては、モーゲージは、借入人により直接銀行に対して設定されるよりは、トラスト・ディード(trust deed)に基づき、トラスティー(trustee)に対して借入人が銀行のために信託するという形式をもって行なわれることのほうが多い。
 モーゲージの効力は、借入人等に一定の債務不履行事由(events of default)の発生があるとき、その担保物件について執行することができることを認められていることである。
 執行方法としては、以下のようなものがある。
(イ)モーゲージ設定者たる借入人がもつ担保物件の受戻権(right of redemption)を喪失させて、権限をモー 
  ゲージ権者に完全に移転させてしまう受戻権喪失.(foreclosure)の手続によること。これによると、流抵当
  的に、もしくは代物弁済的に担保物件をモーゲージ権者が取得することになり、strict foreclosureと呼ぼ
  れる。ただし、実際には、この手続はモーゲージ権者が期待するほど簡単にはいかないことが多い。
(ロ)一定の司法手続に從って、担保物件を売却処分すること。
(ハ)特約をもって必ずしも司法手続によらないで売却処分をすること。この場合、モーゲージ権者は.借入人よ
  り売却処分権(power to sellないしはpower of sale)が与えられている必要がある。この場合の売却処分
  については、売却価格が適正であったかどうかについて問題とされること、また売却処分自体が認められ
  ない場合もあり、個別に検討される必要がある。
(ニ)収益管理人(receiver)を選任し、担保物件からあがる収益をコントロールすること。

三.債権譲渡(assignment)

 プロジェクト・ファイナンスにおいては、その返済がプロジェクトからの生産物の処分代金からのみなされるとされる場合が多く、生産物の販売契約に基づく借入人の生産物の買手に対する販売代金請求権が最も重大な担保として、銀行から関心をもたれることは当然のことである。販売代金がハード・カレンシーで支払われることが通常であるので、為替リスクの面からも生産物の販売代金請求権は、担保価値としてはほぼ完全なものといえる。借入人が生産物の販売について支払能力の十分ある買手との間に長期の販売契約を締結し、この販売契約に基づく代金請求権を銀行に担保のために譲渡することにより行なわれ、この債権譲渡に必要な対抗要件を具備させることにより、銀行はプロジェクトの生産物の販売代金収入に対して優先権を取得することになるのである。
  販売契約に基づく販売代金請求権の譲渡(assignment of proceeds under sales contracts)について注意すべき点は、第一には、債権譲渡の対象となっている長期の販売契約そのものの内容であり、第二には、担保目的のための債権譲渡の譲渡契約の内容であり、第三には、債権譲渡を第三者に対して主張することができるかという対抗要件具備の問題である。
(1) 長期販売契約の内容としては、プロジェクトからの生産物の全部もしくは主要な部分がカバーされているか、プロジェクト・ファイナンスの返済に必要な金額を十分カバーしているか、また、返済スケジュールとマッチしたものであるか、さらには、支払通貨はハード・カレンシーで目減りの問題はないか、また、生産物の販売価格が市場価格の低下に伴い返済額に満たなくなることはないか、などが重要な点である。
 この販売契約の内容に不備があると思われるときには、一定の最低販売価格(specified minimum contract price)をスポンサーに引き受けてもらったり、たとえば鉱物のプロジェクトについては、借入人からの生産物の引渡しの有無にかかわらず一定額の支払を買手が約束する、いわゆる”take-or-pay contracts”を、またパイプラインのプロジェクトについては、一定量の石油や天然ガスの移動を約束することに伴う、いわゆる.”through put contracts”もしくは”tolling contracts”を締結させ、これの銀行への譲渡を図るなどの方法がとられることがある。
(2) 長期販売契約の譲渡の内容としては、借入人がプロジェクトの運転に必要な資金は、販売代金のなかからまず使用することができるようにすることを認めるとか、販売代金の受領からこれをプロジェクト・ファイナンスの返済に充当するまでの間に時間差があるときは、その間の資金運用を図るなどが主な問題である。このためには、信託ないしは信託的な機能を利用すること、すなわち、トラスト・メカニズム(trust mechanism)を介入させることが多い。借入人は銀行のためのトラスティー(trustee)との間に債権譲渡契約を締結し、長期販売契約に基づく支払を受領する権利をトラスティーに譲渡し、買手からの支払も直接、信託的な勘定であるトラスト・アカウント(trust account)に入金させ、トラスティーは譲渡契約で認められたプロジェクトに必要な運転資金を借入人に支払い、残部についてはプロジェクト・ファイナンスの返済期日までの間、適当と思われる方法により資金運用を行なうなどの機能を果たすのである。これは時に、エスクロー(escrow)ないしはエスクロー・アレンジメント(escrow arrangement)と呼ばれることがある。この場合に、このトラスティーに対する買手からの直接の支払が、ホスト・カントリーによって認めてもらえるかなど、重要な問題点を明確にしておかなければならない。
(3) 債権譲渡の第三者に対する対抗要件の問題としては、債権譲渡の当事者である銀行のためのトラスティーの所在国において、トラスト・アカウントを利用する場合でなく、借入人のスペシャル・アカウント(special account)に対して買手より支払がなされ、借入人が単にこのスペシャル・アカウントに対して引落しの制約のみを受けているという場合には、このスペシャル・アカウントに対して質権設定ないしはチャージ(charge)の設定などをしておくことが、長期販売契約の債権譲渡の第三債務者に通知をし、もしくは異議のない承諾を取得し、その他第三債務者の属する国において要求される所定の方式を踏むことに加えて必要なことである。

四.浮動担保(floating charge)

1.担保としての浮動担保
 プロジェクト・ファイナンスにおける担保は、土地や施設に対するモーゲージ、テイク・オア・ペイ契約、その他プロジェクトに関して締結される諸契約に基づく権利の譲渡、インベントリー(inventory)や機械設備等に対するチャージ(charge)の設定、プロジェクトに係る保険契約に基づく保険金請求権の譲渡、プロジェクトの運営に係るオペレーティング・アグリーメントの譲渡、プロジェクト会社の株式に対するチャージの設定、プロジェクトに係るmanaging agreementの譲渡、コンセッションの譲渡、プロジェクトの生産物の販売代金請求権の譲渡、およびトラスト・アカウントでの受領などさまざまであるが、プロジェクト・アセットを包括的にカバーする担保としては、英国法系に属する諸国にみられる浮動担保(floating charge)がプロジェクト・ファイナンスにおける担保の取得としては最適なものである。
 けだし、プロジェクト・ファイナンスの場合には、プロジェクト資産をゴーイング・コソサーン(going concern)として運営する権利をもつことが、銀行にとって、プロジェクト資産を換金処分する権利をもつことよりも大切であることが多い。プロジェクトが有料道路や海底パイプラインの建設であるような場合には、プロジェクト資産を売却することは至難のことである。このような場合に、ホスト・カントリーの法制上、担保権者が、自ら、あるいは代理人を通じて、担保物件を占有することが認められているときには、担保権者は、ホスト・カントリーの政府が承認する限り、プロジェクトの占有を取得し、自らの利益のためにプロジェクトの運営を行なうことができるのである。
 この意味において、プロジェクト・ファイナンスの場合に、プロジェクト資産をゴーイング・コンサーンとして運営する権利の取得が可能となる浮動担保の特色が最高に発揮される。浮動担保は、他の担保形態と異なり、債務不履行が発生したときに、銀行は、収益管理人(receiver)を通じて、プロジェクトの占有を取得し、自らのためにプロジェクトを運営する権利を取得することができるからである。

2.浮動担保の特色
 英国において、会社のすべての資産に対し担保権を設定する方法として浮動担保が使われだしたのは、一九世紀のことである。
 浮動担保は、ゴーイング・コンサーンのその時々のすべての資産に対する衡平法上の担保であり、物件が形を変えても浮動担保の対象であることには変わりがなく、担保提供者による所有がなくなれば担保は及ばなくなり、また、担保提供者が結晶(crystallization)が起こるまでの間は、自由にその処分ができるというのが、この担保権の基本である。
 浮動担保の大きな長所は、対象の範囲の広さである。在庫、売掛金、土地、契約、のれん、商標権など、会社のあらゆる資産に及び、未払込資本金までをも担保の対象とすることができる。浮動担保は、社債(debenture)に基づく債務を担保するため、会社の現在および将来のすべての資産を担保の対象とすることができ、債務不履行が発生したときには、銀行のために行動するトラスティーたる担保権者(debenture holder)は、収益管理人(receiver and manager)を通じて、会社のすべての資産の占有を取得し、無担保債権者の抵抗を排して、会社の経営にあたることができるのである。
 浮動担保の効力は、占有の移転のない動産、債権譲渡手続がとられていない債権、管理下にない売掛金債権についても有効であり、また事後取得資産(after-acquired property)も浮動担保の対象とすることができ、これを実行済みの貸付金債権の担保とすることもできる。事後取得資産とは、たとえばモーゲージが設定された土地の上に建てられた建物とか、プレッジ(pledge)が設定された株式の配当金や新株引受権といったもので、浮動担保以外の担保形態をとった場合には、必ずしも、担保の対象とはならないものである。
 浮動担保が結晶する(crystallize)までの間は、担保提供者は、通常の業務の範囲内で、担保権の対象となっている資産を処分することができ、そのつど担保解除の手続をとる必要がない。
 しかし、担保提供者に清算手続の開始とか債務不履行が発生し、担保権者が収益管理人(receiver)を指名するなど、担保権実行の手続をとったときには、浮動担保は結晶し、浮動担保は固定担保(fixed charge)に変化し、担保提供者は爾後資産の処分権を失うことになる。

3.浮動担保の短所

 浮動担保は多くの優れた点をもっているが、反面、次のような短所もあるので、注意する必要がある。
(1) 担保提供者たる会社の清算のときには、清算のための費用、税金、および労働者の賃金や従業員の給与などは浮動担保に優先し、これらの債権者には優先される。
(2) 浮動担保が結晶する前に強制執行や債権の差押えの手続を行なった債権者があるときは、浮動担保はこれら債権者に優先されるので、他の債権者の強制執行や差押えがあるときは、同時に浮動担保が結晶する旨特約することが多い。
(3) 浮動担保が結晶するまでの間は、担保提供者たる会社は担保資産の処分を自由に行なうことができるので、商品、土地、売掛金、有価証券などを担保提供者から買った者は、たとえ浮動担保の存在を知っていたとしても、担保に拘束されずに買った物の所有権を取得することができる。このため、浮動担保の価値は、結晶した時に担保提供者の資産として残っているものの価値に限定され、担保価値の変動に悩まされることになる。実際のプロジェクト・ファイナンスにおける実務では、まず最初に包括的に浮動担保を設定し、担保提供者たる会社の資産として実現化したものについて、順次に固定担保(fixed charge)を設定していくというように浮動担保と固定担保とを並行して設定するという方法がとられている。けだし、浮動担保は、その後に設定される固定担保に劣後することになり、この防護のため、ならびに浮動担保の対象とされている担保物が逃げていくことを防止するためである。
(4) 担保提供者たる会社が設定した浮動担保で、貸付が実行された後に設定されたものは、その後一年以内に会社の清算手続が開始された場合には、担保権者が、担保の設定された時点では会社が支払可能の状態(solvent)にあったことを立証しない限り、無効とされる。
(5) 浮動担保は、会社だけが設定することができるものであり、個人やパートナー・シップ(partnership)は利用することができない。

4.プロジェクト・ファイナンスにおける浮動担保

 浮動担保は、プロジェクト・ファイナンスにおいて、その持ち味を最大限に発揮する。大型プロジェクトの実現のために外貨資金の調達を必要とする国や企業にとって、プロジェクト資産を担保として提供するための手段として、浮動担保が使われることが多い。プロジェクト・ファイナンスは、一つの銀行により行なわれることもあるが、通常は、一つの協調融資団(シンジケート)、もしくは複数の協調融資団により行なわれる。これらの場合に、トラスト契約を使うことにより、すべての銀行が平等に担保権に参加できる。
 他の担保形態と比較した場合の浮動担保の長所は、債務不履行が発生したとき、担保権者が収益管理人を通じて、プロジェクトの占有を取得し、自らのためにプロジェクトを運営する権利を取得することにある。通常の担保権の場合には、担保権者が利用できる主たる救済手段は担保物件を売却処分し、売却代金を債務の弁済に充当することであるが、これはプロジェクトの種類によっては、実際問題として実行不可能なことが多い。また、通常の担保形態では、借入人の全資産を担保の対象とすることができないことが多いのであるが、これが可能となる浮動担保は、プロジェクト・ファイナンスの担保としてはきわめて適当なものである。

第五章 プロジェクト・ファイナンスの組成
一.組成のプロセス
1. 案件の発掘
 一つのプロジェクトが計画されてから着工に至るまで、短いもので数年、長いものでは十数年はかかる。したがって、大型プロジェクトの存在およびその進行状況については、業界誌等に目を通していれば、およそ見当がつく。銀行としては、かかる情報をもとに内外の関係企業、関係国諸官庁よりいっそう正確な情報を入手し、プロジェクトの輪郭を掴んだうえで、ごく大雑把な評価を行ない、今後フォローすべき案件かどうか一応の目途をつける。しかし、この初期段階においてはいまだスポンサーによる資金調達手段の検討も開始されていないことが多く、とくに政治リスクの大きい地域でのプロジェクトは別にして、ひとまずフォローしておこうということになるケースが多い。

2.プロジェクト・ファイナンス利用の可能性の検討
 次に、予備調査の進行に伴い、スポンサー側においても、基礎データをもとに一応の経済性分析がなされる。その結果が良好で事業化調査(feasibility study)に移行することになれば、資金調達手段の検討が開始されることになる。その際、機械・備の輸入決済資金の調達に各国の輸出制度金融の利用が可能か否かの検討をはじめ、長期資金計画、バランス・シート上の配慮、リスク分散などの視点より、プロジェクト・ファイナンス利用の可能性についても検討が開始されることになる。その結果、プロジェクト・ファイナンスの利用が望ましいという結論が出た場合には、スポンサーがすでにプロジェクト・ファイナンスを利用した実績のある企業であれば、従来よりプロジェクトに興味を示してきた銀行のなかから複数行を選択し、プロジェクト・ファイナンスの可能性についての意見を求めることとなる。
 他方、この分野での経験に乏しい企業は、この段階で特定の銀行もしくは投資銀行をフィナンシャル・アドバイザーに指名して、プロジェクトに最も有利な資金調達手段を検討させる。その際、プロジェクト・ファイナンスの利用の可能性も検討させ、可能の場合にはその仕組みを提案させることとなる。
 この段階ではいまだデータが少なく、また、データの精度も必ずしも高くないため、依頼を受けた銀行は(とくにファイナンスを採り上げるという確約ベースでなく)、プロジェクト・ファイナンスの可能性、その場合の資本金と借入金との比率、工事完成保証の必要性等、ファイナンスの基本的仕組み、金利条件等についての基本的アイデアを提供することとなる。
 以上は標準的ケースを述べたが、すでに調査中のプロジェクトに合弁事業の一員として新規に参加を検討している企業より、参加後の開発資金についてプロジェクト・ファイナンス利用の可能性について銀行に検討を依頼してくるケースもある。プロジェクト・ファイナンスが可能であれば、合弁事業への参加をより前向きに検討できるということであり、逆に、プロジェクト・ファイナンスの可能性がなければ参加を断念するというケースもありえよう。

3.フィナンシャル・プロポーザルの提出
 その後、プロジェクトの詳細な計画もできあがり、ホスト・カントリーの政府の支援もより明確化し、ファイナンスについてのスポンサーの方針も固まった段階に至ると、以前アイデアを提供してもらい、その後接触を継続してきた銀行のうちから少数行を選び、今回は具体的な確約ベースによるフィナンシャル・プロポーザルの提出を依頼する。プロポーザルのなかには、ファイナンスの具体的条件とともに、その銀行の引受希望金額(アンダーライト金額)もしくは採上げ希望金額(テイクアップ金額)の明示が要求される。この際、スポンサーは、銀行の本格的審査を受けるため、事業化調査報告書(feasibility study report)もしくはその概要書を銀行に提出する。銀行としては、これらの書類を十分検討のうえ、一般的にはある程度の留保条件を付し、その留保条件が満たされることを前提として、自分が提示した条件での引受・採上げをコミットすることになる。
 留保条件としては、プロジェクト・ファイナンスに特有な条件として、外部専門家による資産埋蔵量の評価、利用される技術の評価、建設費、操業費の評価が満足できるものであること、があげられよう。
 スポンサーがフィナンシャル・アドバイザーを起用した場合には、アドバイザーがプロジェクトの概要書を作成し、そのなかにスポンサーの希望する借入諸条件(ただし、金利・手数料等については明示をせず、融資参加を希望する銀行に条件提示をさせることも多い)を記載する。銀行としては、その概要書をもとに、主に金利・手数料等を中心に条件を検討してプロポーザルを提出することとなる。
 また、ファイナンスのプロポーザルの提出依頼が、スポンサーからではなく、そのプロジェクトに機器納入を希望する業者よりなされることも最近では増加してきている。これは、機器納入の応札条件のなかのファイナンス条件にプロジェクト・ファイナンスのスキームの提案を希望しているケースがあり、この場合、プロジェクトの総合的なリスク評価に馴染みのない業者は、取引銀行にプロジェクト・ファイナンスの検討を依頼することが多いためである。
 この場合は、銀行としては、取引先より提供されたプロジェクトに関する情報をもとにして検討し、プロジェクト・ファイナンス利用の可能性ありと判断できる場合はごく簡単なプロポーザルを提出し、取引先が落札する可能性が濃厚になってきた段階で、さらに詳細な情報を入手し正式なプロポーザルを提出することとなる。正式なプロポーザル提出後は、スポンサーとの間で、銀行は直接交渉をもつことになる。

4.幹事銀行の指名

 フィナンシャル・プロポーザルの提示を受けたスポンサーは、種々の角度より諸条件の比較を行ない、総合的に優れていると判断されるプロポーザルを提出した銀行(もしくは複数行が共同で提案した場合には、その銀行グループ)を幹事銀行に指名する。
 指名された幹事銀行は、必要に応じプロジェクト自体を外部のコンサルタントに再検討させ、これまでの自らの検討結果と相違のないことを確認したうえで、より詳細なファイナンス条件の詰めをスポンサーとの間で行なう。

5.参加銀行の勧誘
 これらの作業が終了し、プロジェクトの概要、経済性およびファイナンス案の概要をまとめたインフォメーション・メモランダム(information memorandum)を準備した段階で、他行に対するシンジケートへの参加の呼びかけを行なう。どの銀行に呼びかけるかは、スポンサーと幹事銀行との間の協議により決定されるが、当初よりこのプロジェクトに関心を示し魅力的なプロポーザルを提出した銀行には、まず優先的に声がかけられることが多い。このような手順でシンジケートへの参加を呼びかける先の銀行が決定されると、これらの銀行にインフォメーション・メモランダムが配布される。その際、一定の期限までにシンジケートの参加意思と採上げ希望金額を表明することが要求される。
 通常の場合、インフォメーション・メモランダムの配布後多少の時間をおいて、借入人の主催により、説明会が催される。また、プロジェクト・サイトの視察を行なうこともある。これらの過程を通じ、参加を呼びかけられた銀行は独自の与信判断を行ない、最終的に参加の可否を決定することになる。

6.各銀行の与信判断
 インフォメーション・メモランダムには、通常「第三章」で述べた諸項目について詳細に説明されている。ただし、プロジェクトのスキーム、調査結果の事実等を述べたものであり、プロジェクトのリスク評価あるいは判断に類する記述は慎重に避けていることが多く、リスク評価は個々の銀行が自己の判断で行なう必要がある。
 プロジェクト・リスクの大きさは、「第三章」で述べたとおり、プロジェクトごとにケース・バイ・ケースで異なっており、キャッシュ・フロー・プロジェクションおよびそれから導かれるアナリシス以外は、数量化することは非常に困難である。
 いずれにしても、すでに述べたリスク諸項目について、それぞれ許容可能な程度のリスクか否かを判断、総合的にみて元利金回収が確実に見込まれると判断された場合に、シンジケートへの参加を決める運びとなる。
 万一、特定のリスク、たとえば埋蔵量や技術に関する問題、製品価格の変動、販売等のリスクが大きく、元利金回収が危ぶまれるといった場合には、幹事銀行を通じ、スポンサーと交渉し、スポンサーのリスク負担とするか、あるいは、シンジケートへの参加を断念することとなる。参加銀行が十分集まらなければ融資は実現しないので、スポンサーが譲歩するケースもみられる。
 プロジェクト・ファイナンスは、以上述べたとおり、多くのチェック項目を検討し総合的に判断する必要があるが、いずれにしても、通常一〇行ないし数十行の参加銀行がその専門的知識をもって与信判断をしており、最終的には銀行として採上げ可能なファイナンス条件となることが多い。とくにプロジェクト・ファイナンスに評価の高い一流銀行が幹事銀行として組成し、あるいはこのような銀行が多く参加しているプロジェクト・ファイナンスは、それだけリスクも妥当な程度までミニマイズされた案件とみてさしつかえないであろう。

7.契約書類の準備と調印

 このシンジケートの組成と並行して、ローン・アグリーメント、担保設定契約書などの契約書類のドラフティングの作業が行なわれる。プロジェクト・ファイナンスとしての性格、すなわち、できるだけリスクを極小化し、かつ多くの当事者にリスクを分散するという性格、および担保を完全にし、プロジェクトからの資金の流れを完全に銀行の管理下におくという性格から、契約書類は複雑多岐にわたることになり、その作成には、膨大な時
間を要することが多い。また、契約書作成の過程で、しばしば当初見過されていた、あるいはそれまでの交渉で決定されていなかった問題点が表面化し、その解決に時間を要することがある。
 ローン・アグリーメントなどの契約書類の交渉が終わると、借入当事者と銀行団が集まり契約書の調印が行なわれる。

8.貸付の実行
 ローン・アグリーメントの調印が終わると、次に貸付の実行の手続に入るが、貸付の実行のためには、ホスト・カントリーの許認可の取得、出資金の払込み、担保権の設定等の先行条件の充足が前提となっており、プロジェクト・ファイナンスの場合には、通常の貸出に比べ、調印から初回貸出実行までの期間が長いのが一般的である。ただし、前述の先行条件のうち、一部手続が相当長期間を要すると見込まれる場合は、確実に手続を完了するという借入人の確約のもとに、条件未充足のまま貸出の実行を認めることも多い。
通常のプロジェクト・ファイナンスの資金使途は、プロジェクトの建設に必要な資金であることから、借入可能期間は建設工事の期間に合わせて数年間という長期にわたる。二.回目以降の貸付の実行は、工事の進捗状況に応じて行なわれる。貸出銀行としては、定期的に工事進行に関する報告を徴求し、計画された工期、予算内で工事が進んでいるか否かを確認し、それに異常が発生した場合は直ちに対処策を検討しうる体制にしておくことが肝要である。
 なお、借入人が主幹事銀行団を指名する際、エイジェント銀行も決定する。エイジェント銀行の主要な業務は、融資契約調印までの段階ではシンジケート団の組成、インフォメーション・メモランダムの作成、契約書類の作成、契約調印式の準備などであり、複数行で分担することもある。融資契約調印後は、全参加銀行の代表として借入人と銀行団との連絡窓口となり、また、借入人の義務遵守状況を監視する。
 プロジェクト・ファイナンスでは、ローン・アグリーメントでスポンサーや借入人の義務を詳細かつ厳しく規定している。このため、細目の事項も含め、借入人からしばしば条件の緩和あるいは条件変更の希望が出されることも多い。このような場合、エイジェント銀行がローン・アグリーメントの規定に従って、過半数の銀行あるいは全銀行の承諾を求め、条件の緩和あるいはローン・アグリーメントの内容変更等を行なう。

二.インフォメーション・メモランダムに関する法律問題

 マンデイト(mandate)を取得した銀行は、プロジェクトの内容、プロジェクト・ファイナンスの条件、借入人やスポンサーなどに関する情報を提供して、他の銀行のシンジケートへの参加を勧誘する。この場合、プロジェクトの内容、プロジェクト・ファイナンスの条件、借入人やスポンサーなどに関する情報を記載した文書(普通、インフォメーション・メモランダムと呼ばれる)を作成して各行に配布することが多い。
 このインフォメーション・メモランダムについては、これが社債の公募発行に際して作ンフォメーション・メモランダムに不実表示があった場合にどうなるかについて問題となることがある。
1.目論見書に関する規制
 社債の公募発行のための目論見書については、特別の規制を設けている国が多い。インフォメーション・メモランダムが目論見書に該当するとされると、所定の必要記載事項の記載と、特定の機関(たとえば米国の場合には証券取引委員会)への登録、さらに、不実表示があったときの責任の問題が生じてくる。
 欧州の大陸諸国では、まず目論見書に関する規制の対象にならないといってさしつかえない。問題は米国と英国の場合である。
 米国の場合には、証券法(Securities Act 1933)および証券取引法(Securities Exchange Act 1934)が問題となる。米国では、一時、シンジケート・ローンのインフォメーション・メモランダムも証券取引委員会への登録を義務づけるか、あるいは幹事銀行の忠実義務を法律で定めるべきであるといわれたが、判例は、一般投資家の保護というこれらの法律の立法趣旨に基づく解釈として、ローン・アグリーメントに約束手形が併用されるシンジケート・ローンの場合も、その約束手形は証券法に規定された「証券」(security)には該当しないと判示し、通常のシンジケート・ローンのインフォメーション・メモランダムをこれらの法律の適用対象外としている。これに反し、プロジェクト・ファイナンスは、返済がプロジェクトの成否に依存しているという性格から、証券法に規定された「投資」(investment)に該当するという理由で、これらの法律の適用対象とされる可能性がある。しかし、これらの法律は、目論見書が少数のソフィスティケートされた投資家(sophisticated investors)にのみ配布される私募発行(private placement)の場合には、目論見書を適用対象から除外することにしているため、プロジェクト・ファイナンスの幹事銀行は、インフォメーション・メモランダムの配布先がソフィスティケートされた投資家に該当するかどうかチェックする必要がある。
 英国の場合には、特定の投資に関し勧誘状の配布を禁止する投資詐欺防止法(Prevention of Fraud (Investments) Act 1958)および社債の公募発行のための目論見書について必要記載事項を定める会社法(Companies Act 1958)の規定が問題となるが、いずれも多くの適用除外が認められており、シンジケート・ローン(プロジェクト・ファイナンスを含む)のインフォメーション・メモランダムは、これら法律の適用対象外となっている。

2.不実表示についての責任
 インフォメーション・メモランダムについての責任は、第一義的には借入人もしくはスポンサーの責任であるが、不実表示によって損害を受けた銀行が損害賠償請求の訴えを提起するのは、借入人もしくはスボンサーが支払不能に陥ったときであり、そのときには結局、幹事銀行の責任が追及されることは過去の事例が示している。インフォメーション・メモランダムによる不実表示の過失責任が問われるかどうかは、幹事銀行がどの程度インフォメーション・メモランダムの作成に関与したか、幹事銀行がそのインフォメーション・メモランダムに基づいてどの程度積極的に勧誘を行なったか、参加銀行がどの程度まで借入人もしくはスポンサーなどに関する情報を直接入手することが可能であったか、などの観点から判断されることになろう。
 幹事銀行は不実表示の責任を軽減もしくは回避するため、インフォメーション・メモランダムは借入人が作成したものであり、幹事銀行は借入人の承認に基づいて借入人に代わって各銀行に配布するものであること、あるいはインフォメーション・メモランダムは借入人の提出した資料に基づいて作成されたもので、内容について幹事銀行は責任を負えないことをインフォメーション・メモランダムに明記し、さらに、各参加銀行は、インフォメーション・メモランダムに記載された情報をそのまま信頼するのではなく、それぞれ独自に借入人もしくはスポンサーの信用調査を行ない、それにより判断したものである旨の記載をローン・アグリーメントに設ける。

三.プロジェクト・ファイナンスのドキュメンテーション

 プロジェクト・ファイナンスの契約書類は種類が多く、かつ、それぞれが膨大である。銀行にとって直接交渉が必要な契約書は、ローン・アグリーメント、銀行間協定、製品販売代金の譲渡契約書(assignment agreement)、プロジェクト資産の担保設定契約書、プロジェクト会社の株式の質権設定契約書などである。これらの契約書類のドラフティングの段階で表面化する問題は、普通のシンジケート・ローンのローン・アグリーメントのドラフティングの段階で出てくる問題と共通したものが多いが、プロジェクト・ファイナンスの場合には、協調融資団が複数になることが多く、それらが相互依存の関係にあるために、それに伴う特殊な問題が発生する。
1.先行条件
 プロジェクト・ファイナンスの初回貸付実行のための手続は、通常のシンジケート・ローンと同様に、ローン.アグリーメントの締結と初回貸付の実行のための先行条件の充足という二つの段階で構成される。プロジェクト・ファイナンスの特徴は、多数の契約書の内容、とりわけそれぞれの先行条件の内容を調和させる必要がある点である。プロジェクト・ファイナンスにおいて、先行条件として借入人から徴求しなければならない契約書類としては、コンセッション・アグリーメント、工事完成保証、製品の長期販売契約などがある。これらの契約書類は、すべてプロジェクト・ファイナンスの初回貸付の実行前に、銀行が満足すべき内容と形式により、締結されていなければならない。また、すべての重要な契約書の効力に関する弁護士意見書の提出と、ホスト・カントリーの政府の許認可書の写しの提出、さらには、スポンサーが所定の出資金の払込みを行なわなければならないことなども先行条件のなかに含めなければならない。

2.銀行間協定
 大型のプロジェクト・ファイナンスの場合には、銀行間において銀行間協定(intercreditors agreement)が締結されることが多い。性格の異なる協調融資団の間では、プロジェクトに関して有する利害や借入人もしくはスポンサーとの関係を異にすることがあり、その場合には、債権管理の観点から、あらかじめ銀行間の利害の調整を図っておくことが望ましく、また複数のローン・アグリーメントや担保設定契約の間の不統一な点についてあらかじめ解決策を用意しておき、ローン・アグリーメントに規定されている債務不履行(events of default)条項に基づいて”ディフォルト(default)”を宣告し、期限の利益を喪失させるような事態にあたって、銀行間で統一行動をと'ることができるようにしておくことが望ましいからである。
 プロジェクト・ファイナンスの債務不履行条項は、普通のシンジケート・ローンのローン・アグリーメントに比べて、対象が広範囲である。その主たる理由は、プロジェクトの運営に関する債務不履行事由を規定する必要があるためである。これには、建設工事が完成されなかったとか、コンセッション・アグリーメントが一方的にホスト・カントリーにより取り消されるとか、ホスト・カントリーの政府の許認可が撤回もしくは取り消されるとか、第三者によるサポート・アグリーメント(製品の長期販売契約、原料の長期供給契約、マネイジメント契約など)に債務不履行があったといった事態である。また、プロジェクトの運営やプロジェクト会社の財務状況に対して課されている各種の財務制限条項について、プロジェクト会社が技術的な債務不履行(technical default)を起こす可能性もあり、プロジェクト・ファイナンスの場合には、通常よりは多くの場合に個々の銀行が借入人との関係その他の事情により、まちまちな対応をすることが考えられる。そこで、銀行間において債権保全や担保権実行などについて無用な競争を惹起することを避けるため銀行間において銀行間協定が締結され、エージェント・バンク(agent bank)が指名される。このエージェント・バンクが、円滑な銀行間の利害の調整にあたることになるのである。