「ユーリ、ユーリ、今すぐ病院に行こう!」
「ふ、フレン、落ち着け!揺するな!」


ここはどこだ、と言った瞬間驚愕の表情を浮かべたフレンに
がくがくと肩を揺さぶられ、俺の頭が前後に揺れる。
きっとどこか頭を打って・・・っと悲壮な表情を浮かべたフレンを宥めようと必死に手を伸ばす。
だが、咄嗟に伸ばしたのが傷口がある方向の手だったせいで、脇腹に激痛が走った。


「くっ!・・・ってぇ・・・」
「ゆ、ユーリ!?どうしたんだこの傷・・・っ」
「なんでもねぇよ・・・でも悪ぃ、ファーストエイドかけてくれないか?」
「えっ何をかければいいんだい?」
「・・・だからファーストエイド・・・使えるだろ、お前・・・」
「使える・・・?えっと、消毒液のことかな、かければいいのかい?」
「・・・・・は?」


何もわかっていないような表情のフレンを見つめること十数秒。


「・・・やっぱ、いいわ」
「いいのかい?」
「ああ、何でかわかんねぇけど一回は塞がってたみたいだしな」


(落ちた俺を誰かが救い出して傷まで治した・・・?だがそれはこいつじゃない・・・)


一体誰が、と思いながらもそれだけではない疑問に頭を捻る。


(そもそもここはどこだ?こんな上質な布団・・・帝都のフレンの私室、にしては狭いか。つかなんで俺はフレンと一緒にいるんだ?他の仲間は?ザウデは、星喰みはどうなった)


「ねぇユーリ。・・・さっきから気になってたんだけど」
「・・・ん?ああ、何だ?」
「君、そんな服持ってたっけ?その、ステージ衣装みたいな・・・初めて見るけど・・・」
「・・・・・・・・・・」


訳がわからない。
目の前のフレンはザウデもファーストエイドも知らないといい、俺の一張羅を見たこともないという。


(こいつ、本当にフレンか?)


よくよく考えてみれば、どことなく様子もおかしい。
なんというか・・・フレンが常にどこかに潜ませている緊張感といった類のものがまったく感じられない。
そのせいなのか少しばかり幼くも見える。
だが、見慣れないフルフレームの眼鏡越しに俺を見つめるその瞳はいつものフレンのもので。


(俺があいつを見間違えるわけがない・・・が)


「いっちょやりますか」
「え?」


布団の下に隠れていた獲物を手に、だっと布団から飛び起きると
そのまま本気でフレンに斬りかかった。もちろん、殺気を迸らせながら。


「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」


フレンは大きな目を更に大きく見開いて、俺を見つめていた。
その顔にはただ驚愕だけが浮かんでいる。フレンの手には、剣はない。


「・・・なんで・・・」
「・・・ユー・・・リ?」
「お前・・・!一体どういうつもりだよ!?クッソ、危うく斬るとこだっただろうが!」


本気で斬るつもりだった。でなければフレンは剣を取らないだろうと思ったからだ。
だがフレンは、微動だにしなかった。
・・・いや、どちらかというと動けなかった、というような様子だ。
斬りつける直前で慌てて剣を引いたが間に合わず、
フレンの首筋には一筋、赤い線が出来てしまった。


「ユー、リ・・・?」
「・・・なんで避けるなり止めるなりしなかった?」
「・・・君、何言って・・・。それに、それ・・・剣?本物・・・?」
「は・・・?フレン、お前・・・今更何言って」


模造品の剣なんて持ってどうするんだ、と半ば呆れながら呟くと
妙に低い、抑えたような声で名前を呼ばれた。


「ユーリ」
「・・・なんだよ」
「銃刀法違反だよ?」


なんだそれ、というには少しばかり怖い、怒った表情のフレン。


「・・・なんで怒ってるんだよ。いつもだったらあれぐらい・・・」
「理由がわからない?そんなわけないだろう、銃刀法違反なんて小学生でも理解してる」
「いや、意味わかんねぇけど」


どうやらフレンは、突然斬りかかられたことよりも別なことで怒っているらしい。
どこか噛み合わない会話に、先に忍耐が切れたのはあちらだった。



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生徒会長フレンは騎士フレンよりも天然ボケという予想。