大白蓮華/2006-9(P.94)から引用 精神科医 香西洋氏
うつ病は誰でもなりうる病気
うつ病の経験のある人は、100人のうち、4人から10人はいる。
女性は男性の約2倍
症状
精神的には、まず気分の沈み。それから物事への興味や関心がなくなる。何をするのも億劫になる。集中力がなくなる。自分はだめな人間なんだという罪業念慮や死にたいという希死念慮が出てくる。
身体的には、全身が気だるく、疲れやすくなる。睡眠障害、食欲不振なども起きる。
認識されにくい
うつ病自体は、ほとんどの人が知っている。しかし、いざ自分がなったり、周りの人がなったりしたときに、それがうつ病であると気づかないことが多い。単に怠けているだけ、疲れているだけそう思いこんでしまう。それで無理が重なって、どんどん悪くなってしまう。
ただし、うつ病は、必ず治る病気です。
女性
女性は男性に比べて、社会的な制約が多く、ストレスを抱えやすい。自己主張ができない。自己実現ができない。要するに、自分らしく生きられない。
例えば、「亭主在宅ストレス症候群」というのがある。会社人間だった亭主が退職してから、じっと何もせず家にいる。それが妻にとって、ものすごいストレスになる。それまでは、昼間やりたいことをやれたのに、夫が居ると面倒をみなくてはならない。それで、いらいらが募ってうつになる。
女性はうつ病になった後も大変だ。うつ病に一番必要なのは休息だ。男性は、仕事を休んで家にいれば休息になる。しかし女性は、仕事を休んでも、家事や育児をしなければならない。だから周囲が支えていくことが大事だ。
高齢者のうつ病の特徴
長年、社会的に活躍してきた人が、引退してから急にうつ病になることがある。幼い頃親を亡くしている人が多い。なぜか?親を亡くすと、早くから一人立ちを強いられる。人に頼らずに、頑張って生きていこうとする。そうした生き方が、幼い頃から身に着いているために、社会的には成功することが多い。しかし、年をとって、頑張れなくなると、急に不安に陥る。人に頼らずに生きてきたのに、今度は、人に迷惑をかけるかもしれないと心配になる。またそういう自分が許せない。
「迷惑欠けてもいいじゃないですか。十分に頑張ってきたんだから」と言ってあげると、安心してすぐに治ってしまう。
頑張り中毒
周囲の期待に応えて頑張ろうと努力してきた人は、うつ病になりやすい。期待に応えたいという気持ちの根には他者に気に入られて安心を得たいという欲求がある。要するに、いつも生きる軸が、自分ではなくて、他人にある。生きる軸が、自分にあれば、苦しくなると自分でやめられる。しかし、他人にあれば、他人がやめていいと言わない限り、やめられない。際限なく無理してしまう。要するにうつ病は「頑張り中毒」なのだ。
・・・自己評価が低く、自己受容ができていないということだ。
治療法
何より休養をとることだ。頑張りすぎてなった病気だから。学校や会社を休む、主婦であれば家事や育児を休むということだ。基本的には、家でゆっくりする。特別な気晴らしなどはかえって逆効果だ。
次に環境調整だ。残業をやめるとか、職場をかえてもらうとか、家事を家族やヘルパーにしてもらうとか、休養のための環境作りをする。
その上で、薬物療法や心理療法を行う。
<薬物療法>
薬物はかなり効果があるが、薬物だけでは治らない。また薬物で注意すべきは、飲み始めて効果が出始めるまでに2週間はかかることだ。また、よくなったからといって、すぐ服用をやめない。すぐやめると再発の可能性が非常に高まる。すぐやめると約80%再発する。半年薬を飲んでやめると約20%。最低半年間は、薬を飲み続けることだ。
<心理療法>
患者さんが、それまでできなかった捉え方、考え方に、自分の力でたどり着けるよう、導いてあげる。また、ストレスを抱え込まない行動ができるよう、患者さん本人が学習していくことが大切だ。
具体的に、何をするかは、その人その人で異なる。まず自己主張していいんだと気づかせる。せれでも自己主張できないなら、できるよう訓練する。どこまでも現実の人間の課題に則した治療法だ。
仏法に近い発想の療法ほど効果がある。仏法の方がはるかに深い。仏法のどこがすごいか?それは、自分の中に仏界の生命があると説いていることだ。仏界があるのだから治らないわけがない。仏界とは無作三身、すなわち「はたらかさず・つくろわず・もとの儘」ということだ。たとえ、今、自分がだめな状態でも、そのままの自分を認めてあげる。そのうえで、自分には素晴らしい仏界があるのだから、その仏界を出せるよう努力していこうと考えていく。病気の状態は、刻々変化する生命の一局面だ。変化している以上、良くなっていけるのだ。悩み、苦しみ、泣き、笑う、その生身の人間の現実を認めたうえで、苦を抜き楽を与えていく。それが仏法の慈悲だ。
家族の接し方
とても大切な役割を担っている。家族が、ありのままの自分を認めてくれていると思えば、良くなるのだ。だから、決して無理をさせず、安心して休めるようにしてあげることだ。
本人が勤め先と話しにくいのなら、代わりに話をしてあげる。家事が大変なら、代わりにやってあげる。生活全般の面倒をよくみてあげることだ。いつまで薬を飲むべきなのかといった医療の知識も欠かせない。
ただ一番大事なのは、自殺に注意することだ。「自殺したい」という人ほど自殺率が高い。また、自殺未遂を起こした人は既遂率が高い。よくよく注意しなければならない。
無理な激励は、何十キロも走って疲れて倒れ込んだマラソン選手に「もっと走れ」と叱りつけるようなものだ。
もう自分は頑張れない。どんなに激励されてもだめだ。皆に迷惑をかけて申し訳ない。そうやって自分を責めていけば、ますます病状が悪くなり、自殺に追い込まれかねない。