ある町民の願い
2003/2/24
その町は風光明媚な田園風景が広がり、とても豊かな町だ。
又、その昔は民謡日本一の女性ボーカリストを排し、優秀村として
全国表彰、公民館全国表彰も受けたほど優秀な人材が豊富な町だ。
そんな恵み多き町でもどうしても手に入れられなかったものがある。
「駅」だ。
そう、旧国鉄時代から、その町には駅が無かった。
隣接する地方都市の駅には車で10分と、その地方では決して利便
性が悪い方では無い。
しかし、その町の地名を冠した駅は存在せず、いつかはこの町にも
駅を..というのが町民の切実なる願いだった。
ある時、その隣接する地方都市から空港がその町に移転する事に
決まった。当時、一県一港が当然だった時代、空港ができる事による
恩恵やその知名度の上昇は誰しもが容易に想像できた。
町民は狂喜乱舞した。
「これで駅ができる。」
誰しもがそう思い、疑う余地など無かった。
「天皇賜杯全日本軟式野球大会」、「NHKのど自慢」等が開催され
その地方の大手電気メーカーもその町に進出を決め、その町は大いに
盛り上がり、駅ができるのを待ち望んだ。
しかし、現実は厳しかった。
新空港へのアクセス道路はできたものの、駅は夢と散った。
しかも、その空港名は隣接する地方都市の名前が冠せられてしまい、
全国でその空港の所在地を知っている者は、ほんの一握りだった。
途方に暮れる中、今度はアメリカの大学誘致が決定した。
全国広しと言えども、全世界共通語が横行する大学はそれ程無い。
全国レベルの話では無い、もう世界的レベルへの進出である。
その町民皆が、英和辞典を片手に「駅」ができる事を確信した。
「これで駅ができる。」
しかし、現実はそう甘くは無かった。
その全世界共通語が横行する大学の学生は、その町の西に隣接する
隣町のスーパーへ買い物に出かけ、全世界共通語で案内を掲げる隣町
の駅を利用していた。
またもや駅は夢と散った。
だが、「七転八起」とはこの町のための四字熟語であるかの様に、
またもやその町は動き出した。
その町が有する県内随一とも称されるスポーツ施設を会場とした、
日本初の「ワールドゲームズ」が開催されたのである。
国際化に拍車がかかり、これじゃJRも黙ってはいないだろうと
その町民達は慢心していた。
「これで駅ができる。」
しかし、現実は小説よりも奇なりだった。
「ワールドゲームズ」が嵐の様に過ぎ去ったあとは、いつもと変わらぬ
風景がそこにあった。
そんな小手先行政を尻目に、若者達は活路を見出していた。
そして...
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