翌朝、例に
よってイビキのユニゾンの中で目覚める。
とりあえず床を抜けだし、むすめが座る椅子の向かいに腰掛ける。午前五時半、日の出にはまだ間がある。カーテンを開け、
ややうつむき加減のむすめの顔を眺めながら、今日一日の写真のヴィジョンを組み直してみる。
多分にレンズの効果に負う部分が大きいが、肉眼で見るむすめの顔と、写真になったときのそれとは、同じものと思えないほどの隔たりがある。
一番判りやすいのが視線である。もともとアリスタイプのドールアイは、約200mm前方の一点で視線が交差する「内斜視」であって、普通に差し向かいに
なった状態の距離から見ると「あてどなく宙を泳ぐ」目に見えてしまう。レンズの向きが正面に近づくほどそうした傾向が強くなる。従って、全体の「絵」とす
る場合、単に背景との空気感のみを意識して焦点距離を選んでしまうと、肝心のむすめの表情が生きてこないジレンマに陥ることになる。その辺の機微が何とな
く判ってきてからは、普段からむすめの視線のベクトルを捉える意識を持つようにしているのだが、まだまだ十分でないように思える。
時折、どんなにショットを重ねても心を開いてくれていないような「絵」しか撮れないことがあるのだ。「ひとがた」を「ひと」たらしむために吹き込む
「魂」を、レンズを通してまだ十分に操り切れていないのかも知れない。
鶴沼の向こうから少しずつ光が射してくる。昨日空を覆っていた雨雲が所々で切れていく。高度の低い層雲が朝日を遮っているが、上空のあたりはすでに黒っ
ぽい雲が消えてきている。今日の天気は期待できそうだ。
日の出と共に起きてきたKarasuさん、Zさんを皮切りに、7時頃までには全員目を覚ましたようだ。
朝風呂、朝食と、起動後のルーチンをそつなくこなし、今日のロケを開始する。Karasuさん、Mさん、まさくんさんは紅葉の鶴沼公園ロケに出、私とZ
さんはその間立ち話で時を過ごした。
来年にはこの宿も改修される。料金・設備共に、再び我々にとっての良宿になってくれればいいのだが……。
鶴沼ロケが終わったようなので、車を連ね今年最後のカナディアンワールドロケに向かう。出発時、公園の公式ホームページ掲示板の指示に従い、管理事務所
に電話を入れる。いつもの管理人さんではなく、女性の方が出たが、予め掲示板に書いたように「アンの家」でロケを行いたい旨を伝える。
開園時間に合わせ、管理事務所に挨拶に行く。管理人さんは園内を巡回中とのことで、現地で許可を得ることとする。とりあえず昼食を先に摂ろう、というこ
とで、いつもも喫茶店「カフェ・ド・デュフラン」に行く。公園の公式ホームページの管理者(フクシさん)と公園自体の管理人(フクイさん)がいらしたの
で、今回のロケのスケジュールを伝える。「アンの家」ロケを勧めてくれたフクシさんが案内して下さるということで、食事を済ませたあと、車を教会下の作業
用通路手前に回すよう指示を受けた。
ところが、現地に着いてみると何となく雰囲気がおかしい。フクイさんから「フクシさんではなく、まず私に話を通してもらわなければ」と言われた。
私としては、管理事務所の連絡先が載っている「公式」ホームページを通じて話を通したつもりであったが、実際にはそのホームページが「テナント会公式
ホームページ」ということであって、必ずしも管理事務所と関わりあるものではない、ということであった。その辺の事情がよく判らなかったため、我々が伝え
たつもりの「アンの家」ロケの予定を、管理事務所では把握していなかった、ということらしい。
そこで改めてフクイさんに事情を説明し、「アンの家」ロケの許可を得た。今回は少し時間をかけて、我々の立場を充分に理解してもらうために、かなり突っ
込んだ話をした。お互いの視点から、今後のために重要な事柄についての話し合いをもてたと、私は信じている。
さて、「アンの家」は一般家屋の造りで、我々が普段行っているような撮影をするにはやや不向きな建物であった。ただ、カナディアンワールドのコアとなる
施設だけに、ホームページ管理者であるフクシさんとしてはここでのロケを一押ししたかったようだ。撮影を抜きにして考えれば、確かにとてもいい雰囲気を持
つ建物である。我々から見ても、一般客なら是非足を運ぶことをお勧めしたい。
撮影に一区切り付いたところで、、再びメンバーを参集し、件の喫茶店で会合を持つ。来年度に向けた我々の活動方針を、新たな形で始める提案をする。
何とか今年中には目鼻を付けた形にまとめたいものである。
今年のカナディアンワールドロケはこうして終わった。来年もまた、内地からの仲間を交え、幾度となくお世話になることだろう。
公園関係者と我々とが、新たな実りある関係を築けるよう切に願う。
(了) |